3.調査開始
騒ぎを聞いた別のスタッフがカラオケ店から出てくる。
「音無さん!?」
驚き戸惑う店員。
やがて警察と消防が到着する。
捜査を行う警察の中に、聡美は十四郎を見つける。
「松坂警部」
「おお! さ——」
坂上くん、そう言おうとして。
「藤田くんじゃないか!」
と、柴田の存在に気づいて言い直した。
「藤田さん、この人は?」
「知り合いの刑事さん」
十四郎は警察手帳を提示した。
「刑事さんなんだ?」
「藤田くん、この子は?」
「クラスメイトですよ。そんなことより、被害者について教えて下さいよ」
「被害者? 自殺じゃないのかね?」
「どこから出てきたソースですかそれ?」
「いや、転落現場と思われる屋上に遺書があってな」
「遺書?」
「これだよ」
十四郎が袋に入れられた遺書を取り出した。
遺書には生きることに疲れて死ぬということが書かれていた。
聡美は十四郎と共に屋上へ上がる。
柵を調べる聡美。
(一箇所だけ曲がってる……)
「松坂警部、やっぱり他殺ですよ」
「なんだと?」
「警部!」
捜査員がやってくる、
「うん?」
「被害者の体内から睡眠薬の成分が」
「睡眠薬?」
二人の会話に聡美が口を挟む。
「恐らく、何者かに眠らされた状態で転落したのでは?」
「どう言うことだね?」
「ここを見て下さい」
聡美が柵の曲がった箇所を示す。
「犯人が被害者を眠らせ、この柵の向こうへ押し出して突き落としたんです」
「なるほどなあ」
十四郎が柵を見て納得する。
「そして、犯人はまだこの店内にいます。通報から到着までの間、誰も店を出入りしてませんので」
「それより、この子は?」
と、捜査員が訊ねる。
「ああ、この子は……」
十四郎は答えようとしたが、言葉が見つからず詰まってしまった。
「松坂警部、聞き込みの方を」
「そうだな」
十四郎は捜査員を見遣る。
「何をもたもたしてるんだ? 早く行ってこんか!」
「は、はい!」
捜査員が駆け足で聞き込みに向かう。
「しかし、いまだに信じられんなあ」
「何がです?」
「死んだ人間が別の人物になるということがだよ」
「それは僕も驚いてますよ」
「その体の本当の持ち主はどうしてるのだね?」
「さあ? この子、自殺で運ばれたらしいですし、もしかしたら……」
「抜けている、ということかね?」
「たぶん」
十四郎は階段を降りていく。
「それより、容疑者も絞り込めているころだろうから行くぞ?」
「待って下さい、松坂警部」
聡美も十四郎を追って階段を降りた。
階下では容疑者が特定されていた。
天沢 健介、25歳のフリーター。
天沢は事件の遭ったカラオケ店でアルバイトをしている。
被害者とは仲が良く、喧嘩もほとんどしたことがなかったという。
毒島 恵子、21歳。
客の毒島は大学生で、被害者と男女の交際をしていた。
彼と出会ったのもこのカラオケ店で、初めて会った時にお互いに恋に落ちたそうである。
聡美はこの事件の謎が解けるのか。次話に続く。