1.女の子に入っちゃった高校生探偵
彼の名は坂上 健。高校生である。
健は、とある資産家の屋敷にお邪魔している。
その屋敷で主人の友人である緒方 陽一が応接室で刺殺された。
現場の応接室の入り口には鍵がかけられており、悲鳴を聞いて駆けつけたときに扉を突き破って中に入ると、胸にナイフを刺された緒方が遺体となって倒れており、唯一の逃げ場とも思われる窓は開け放たれていたが、二階であるために脱出は難しいと当初は考えられていた。
これは密室殺人なのか。
現場をくまなく調査をする健。
「どうだね? 坂上くん」
と、捜査一課の警部である松坂 十四郎が口を開いた。
「なあ、刑事さん?」
屋敷の主人である安永 慎太郎が訊ねる。
「緒方を殺した犯人は判ったのかい?」
「犯人は恐らく、遺体が発見されるまで部屋にいたんですよ」
「どういうことだい? 高校生探偵くん」
「屋敷にいた者が被害者の悲鳴を聞き、現場に駆けつけ、鍵のかかっていた扉を突き破って中に入る。そして、入り口の横に隠れていた犯人があたかも遅れてやってきたかのように振る舞い、遺体を見て驚いたふりをする……。そうですよね、安永 慎太郎さん?」
「な! バカなことは言うんじゃない! 私が犯人だと!?」
「では、ナイフについていた指紋と、あなたの指紋を照合させてもらえますか?」
「ふっ」
笑みを浮かべる安永は懐から拳銃を取り出して健に向ける。
「よく判ったと褒めてやるとこだが、俺はこんなところで終わる訳にはいかなくてな」
銃口をこめかみにあてがう安永。
健は安永に飛びかかり、拳銃を奪おうとするが、暴発したピストルの弾丸が健の体を射抜いた。
「ぐわ!」
健は倒れ気を失った。
「安永! お前を殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
警察官たちが安永を警察署に連行する。
十四郎は119番通報で救急車を呼び、健を病院へ搬送するが、しかし、彼は息を引き取った。
同じ頃、別の病室で首吊り自殺を図って運ばれてきた女子高校生が目を覚ます。
(よかった。生きてた)
目前で女の子の両親が心配そうな表情で顔を覗き込んでいた。
「ああ、よかった!」
ホッとする両親。
女の子は起き上がった。
(あれ?)
髪の長いことに気づく女の子。
(えっと……)
膨らみを帯びた胸に両手を添える女の子。
(どういうことだ?)
「聡美、お前なんで自殺なんて図ったんだ? 虐められてたんなら父さんたちに相談しろよ」
「……?」
聡美と呼ばれる女の子は疑問符を浮かべた。
「あ、あの……」
「なんだ? 言いたいことがあるならなんでも言え」
「何も覚えがないのだけど……」
「覚えがない? 記憶を失ったのか?」
(いや、確かにこの人たちの記憶はないのだけど。それよりもさっきの犯人)
廊下を歩く十四郎の姿が見える。
(あ、松坂警部……)
聡美はベッドを飛び降りると、十四郎に歩み寄った。
「なんだね?」
「安永はどうしたんです?」
「……! なんで公表もしていないのに君が知ってるんだね?」
「知ってて当然じゃないですか。だってあれ、僕が解決した事件じゃないですか」
「大丈夫かい?」
「え、なにが?」
「お嬢さんの頭」
「頭は大丈夫ですよ。お嬢さん? 何言ってるんですか。僕は坂上 健。男子高校生ですよ」
「坂上くんなら今し方亡くなったばかりなんだがな」
「亡くなった? 僕が?」
「いや、君は生きてるじゃないか」
十四郎が病室脇の患者の名前プレートを見る。
「藤田 聡美くん」
「藤田 聡美? いや、俺は坂上 健だ!」
「大人をからかっちゃいかんよ」
聡美の父親が部屋から出てくる。
「すみません。この子、自殺して運ばれたせいか、記憶が混乱してて」
「そうなんですね」
「聡美、病室に戻ろう」
「あ、いや、俺は……」
「待って下さい」
と、十四郎。
「はい?」
「この子の言っていたことは全て事実だ」
「……?」
「君、私の職業がわかるかい?」
「警視庁の警察官。部署は捜査一課で階級は警部だ」
「その通りだよ。君、本当に坂上 健くんなのかい?」
「そうですよ」
「あの、お二人の話が見えないのですが……」
「あ……いや、気にしないで下さい。それじゃ」
十四郎は去っていくと、聡美は病室に戻った。