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妖かし四方山話 護りし者  作者: けせらせら
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 穂乃果が里帆を連れていったのは市立病院だった。

 何のための穂乃果がやってきたのかは容易に想像することが出来た。想像することは出来たが、それは意外なものでもあった。それを確認する意味も含めて里帆は穂乃果に声をかけた。

「ねえ、ここってーー」

山園美奈代やまぞのみなよさん、つまりケガをした女の子が入院しています」

「会えるの?」

「いえ、それは無理です。今はまだ意識が戻らないそうです」

「じゃあ、どうして?」

「ご両親が付き添っているはずです。何か話が聞けるかもしれません」

「そんな……どう話すつもり?」

「なんとかなりますよ」

 そう言って穂乃果は躊躇することもなくナースステーションのドアを開けて入っていく。その姿を眺めながら、困ったことになったと里帆は心の中で思った。

 穂乃果はナースステーションで婦長らしき女性と何か話をしていたが、戻ってくると里帆を連れて奥へと進んでいった。

「どうするの?」

「今、父親が付き添っているそうです。もちろん病室には入れませんけど」

 それを聞いて、里帆は緊張で身がすくむのを感じた。

 階段を登り、二階の集中治療室へと向かう。

 病室の前に置かれた長椅子に作業着姿の一人の男性が座っている。どうやらそれが美奈代の父親らしかった。

 穂乃果は真っ直ぐにその男に近づいていくと、まるで躊躇することなくその前に立った。俯いていた男は里帆たちの気配に気づいて顔をあげた。

「山園美奈代さんのお父さんですね?」

「君たちは?」

 穂乃果は丁寧に一礼してから静かに話を切り出した。

「はじめまして。私は茉莉穂乃果と言います。こちらは中松里帆さん。私たち、お嬢さんが遭われた事故について調べています」

「事故?」

 父親は眉をひそめた。「どうして君たちが? 何の関係があるんだ? 美奈代の知り合いなのか?」

「いいえ、何か関係があるわけではありません。ただ、本当のことを知りたいだけです。こんな時に申し訳ありませんが、お話を聞かせていただけないでしょうか?」

「それは警察の仕事だ。子供が口を出すことじゃない」

 明らかに父親は不愉快に感じているようだった。それも無理はない。自分の娘が死ぬか生きるかの状態の時に、野次馬のような高校生が現れて話を聞かせてくれと言っても素直に応じられるはずがない。

 その時、父親の携帯がポケットで鳴り出した。すぐに父親は立ち上がって里帆たちに背を向けて何歩か歩いてから電話に出た。そして、なぜか一度振り返って里帆たちへ視線を向けた。その時、彼は少し驚いたような顔をしているようだった。

 それがいったい誰かの電話なのかはわからないが、父親は時々、小さく返事をしているようだった。

 やがて、父親は電話を切ると、再び里帆たちへと近づいてきた。

「君たちは一条の人なのか?」

「はい」と穂乃果が答える。

「わかった。何を聞きたいんだ?」

 一体何が起きたのか、父親の態度が明らかに変わっている。さっき携帯にかかってきた電話が原因だろうか。

「事件について教えてください。私たち、本当のことを知りたいんです」

「本当のことって?」

「私たちはあれがただの事故だとは思っていません」

「犬に襲われたのを事故と言わなければだろ」

「いいえ、それがそもそも違っているんじゃないかと思っています」

 それを聞いて、父親は驚いたような表情になった。

「何か確信でも?」

「確信はしています。でも、まだ説明出来るような根拠はありません」

 穂乃果のしっかりとした口ぶりに父親は困ったような顔になった。

「待ってくれ。警察はそんなことは何も言っていない」

「警察が全て正しいとは限りません」

「本当にあの犬がやったんじゃないのか?」

「私たちはそう思っています」

「まさか……美奈代が勝手に落ちたと言うんじゃないだろうな」

「いいえ。彼女は突き落とされたと思います」

「それは……つまり他に犯人がいるってことか?」

「だからこそ話を聞きたいんです」

 穂乃果のしっかりとした口調に、父親の感情が動かされていくのが伝わってくる。

「わ、わかった。それで?」

「最近、娘さんに何か変わった様子はありませんでしたか?」

「変わった様子? さあ……あ、いや……少しいつもより静かだったかもしれない。何かぼんやりとしていたような……」

「何か理由を聞かれましたか?」

「……それは何も……いや、妻が声をかけたが何もないって言っていた」

「では、今朝、娘さんが家を出たのは何時でしたか?」

「いつもどおり8時前には出たはずだ」

「ご自宅からあの神社までは10分程度でしたよね? でも、娘さんがあの神社で見つかったのは9時過ぎでした」

「……ああ」

 その表情から、やっと父親も穂乃果が何を言おうとしているのかが理解出来たようだった。

「その事情、何かご存知ないですか?」

「いや……確かにあの子は学校へ行く前にどこかに寄っていた……だが、それがあの子があんなことになったことと何か関係があるのっていうのか?」

「それはわかりません。でも、私は気になります。美奈代さんの友達で知っていらっしゃる人はいませんか? 紹介してほしいんです」

 父親は黙って頷いた。


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