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妖かし四方山話 護りし者  作者: けせらせら
10/13

10

 里帆が一条家に連れて行かれた頃には街はすっかり暗くなっていた。

 穂乃果は今、一条家の別宅で暮らしているそうだ。穂乃果は里帆に会ってほしい人がいると言って連れてきたのだ。

 これまで里帆も何度も外からは目にしていたが、中に入るのは初めての経験だ。

 大きな門をくぐると目の前に大きな屋敷が見えた。その屋敷の横を通っていくと少し小さめの建物が見えた。それでも普通の住宅に比べればずっと大きなものだ。その正面扉から入ってそのまま2階にある穂乃果の部屋へと案内される。

 そこで待っていたのは20代後半と思える一人の女性だった。それが美月文乃みづきあやのだった。長い髪を後ろで一つに縛り、革ジャンを着て革のパンツを履いた姿は里帆から見ても格好良いと思えるものだった。

 ベッドに寝転んでいた文乃は二人の姿を見てスックと起き上がった。

「やあ、君が里帆ちゃんだね」

 文乃は里帆に笑顔を見せた。「会えるのを楽しみにしていたよ」

「楽しみ?」

「文乃さん、里帆さんをからかわないでくださいね」

「あらあら、穂乃果ちゃんも厳しいこと言うなぁ。それで何かわかったのかい?」

「さっき電話で話したとおりです。文乃さんのほうは? 警察のほうで何か事情は聞けましたか?」

「こっちも少しだけ」

 文乃はそう冗談めかして答えた。「例の警察官にも会ってきたよ」

「千太郎くんが美奈代さんを襲ったと言っていた人ですね?」

村井遼一むらいりょういちという人でね、朝の9時に交代をして帰る途中だったそうだ。突然、犬が走ってきて女の子に飛びついて、その勢いで石段から転げ落ちたんだそうだ。襲ったというよりも、ひょっとしたら遊ぼうとして飛びついたんじゃないかと千太郎くんのことを少し心配していたようだったよ」

 それを聞き、思わず声をあげそうになるのを里帆はぐっと堪えた。

「じゃあ、ここからは文乃さんに任せて大丈夫ですね」

 穂乃果がホッとしたように言う。

 その膝の上にはいつの間にどこから現れたのか茶色い一匹の猫が抱かれている。穂乃果の手で撫でられおとなしく眠っている。里帆も猫が好きだが、なぜかその猫には手を近づける気にならない。どこか怖さを感じてしまう。

「うん。でも、その前に話を聞かせてもらえるかな?」

 文乃は改めて里帆の顔に視線を向けた。

「あの……話って……何を?」

「里帆ちゃん、君の望みは何かな?」

「本当のことを知りたいんです。千太郎が子供を襲うなんて考えられません」

 里帆は訴えるように言った。

「うんうん、でも、さっきも言ったようにそれを見た人がいるんだよ」

「でも、ありえません」

「どうして?」

「きっとその人は嘘をついているんです」

「嘘? ずいぶんハッキリ言うんだね」

「……すいません。でも、本当に千太郎くんはそんなことしません。あの子が石段を降りているところを突き落とされたんです」

「誰に?」

「それは……」

里帆は言葉に詰まった。「それは……わかりませんけど。千太郎くんはあの子を守ろうとしたんです」

「うん、確かにあの子に噛み傷はなかったようだね。でも、それがどういう意味かはわかっているんだろうね?」

「……意味?」

「里帆ちゃんが言ってることは、村井という警察官の言ってることと真逆のことだよ。それはつまり村井さんが嘘をついていることになる」

「……」

 思わず里帆は黙り込んだ。

「おや? 違うのかい?」

「……いえ、そういうことです」

「その根拠は?」

「それは……私が千太郎くんを知っているからです」

「それだけ?」

「それだけで十分です。美月さんや穂乃果さんだって、千太郎くんを実際に見ればそれがわかってもらえるはずです」

「なるほどねえ」

「信じてもらえないんですか?」

「いや、信じてるよ」

 文乃はアッサリと答えた。「逆に村井という警察官のことを信用していない」

「え?」

「彼の証言には疑わしいところがあるからね」

「疑わしいところ?」

「実は当初、彼は仕事の帰りと説明していた。けれど、彼は今日、非番だった。もちろんすぐにその証言を翻した。間違って出勤して帰る途中だったと言っている。けれど、休みの日を間違えるなんておかしい。しかも、交番の交代時間というのは10時だから、出勤するには早すぎる」

「それじゃ……それじゃ早く警察にそれをーー」

「うん、わかったわかった。警察にはそれなりにコネがあるから、ちゃんと伝えておくよ」

「信じてもらえるでしょうか?」

「大丈夫。あとは任せてもらえるかな? 千太郎くんのことならもう心配はいらないから」

 文乃は頼もしい笑顔でそう言った。

 その時、穂乃果の膝の上に眠っていた猫がムクリと起き上がって畳の上へと降りる。不思議なことにさっきまでと違ってツヤツヤした美しさをまとっているように見えた。


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