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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第一章
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第5話 帰寮

 リリーが学校に着く頃には既に陽が暮れ始めていた。

 学務課に帰寮の報告に行くが、外出届の時間より大幅に遅れたため、こっぴどく叱られた。かといって理由が理由だけに話すこともできない。

 困っていると、後ろから声を掛けられた。


「まあ、いいじゃないですか。無事に帰って来たんだし。今日初雪だったじゃないですか。それでつい、はしゃいじゃったんですよね?」

 振り向くと、すらりと背が高く、堀の深い整った顔、清潔感のある男性が立っていた。エドガー・スウィングラー――アルシア・カレッジの教員だ。

 リリーと目が合うとウインクをする。

「そ、そうなんです! どこまで降っているのかなあって気になって!」

「ですが、規則を――」

 咎めようとする職員を制して、爽やかに笑ってみせた。

「まあまあ。彼女だってさっきから謝っているじゃないですか。その辺にしときましょうよ、ね?」

「先生がそこまで言うのなら」と観念した様子の職員を尻目に、スウィングラーに背中を押され逃げるように学務課から退出した。


「助かりました。ありがとうございます」

 礼を言うと、スウィングラーはひらひらと手を振って笑った。

「今日はたまたま僕が庇ってあげられたけど、今度からはちゃんと規則を守るんだよ」

 そう生徒を窘めて、その手に持つ箒を見つめた。

「スピアーズ、君の箒、何か変わった?」

 ぎくりと肩を震わせた。何故わかったのだろうか。スウィングラーとリリーは教員と生徒といえども、個人間でそれほど関わりがあるわけではない。


「せ、先生よくわかりましたね! 実は途中で落ちて箒が折れてしまったんです。そうしたら近隣の親切な人に箒を貰って……だからいつもの箒と違うんです!」

 とっさに口をついて出た言い訳だが、嘘は吐いていない。たまたま国が違っただけだ。何よりも本当のことを、不法入出国したなんてとてもじゃないけど言えない。

 スウィングラーは納得した様子で頷いた。

「それはいい話だ。きちんとお礼をしないと」

 そしてばちんとウインクをしてみせるとこう続けた。

「教え子の顔と名前、特徴を知っておくことがいい教師の秘訣さ。僕みたいにね」

 今度はリリーが納得をする番だった。どうりで生徒、特に女子生徒から人気があるわけだ。見た目の良さも彼の魅力でもあるが、感じの良さもまたその魅力を引き出しているのだ。

「それじゃあ、僕は用事があるからまたね」

 そう言って手を振って去って行く。


 バレなくてよかった。リリーはホッと胸を撫で下ろすと、手に持っていた箒をしみじみと眺めてみた。箒には使い手である作り手の個性が表れる。さきほどは帰るのに精いっぱいで気付かなかったが、リリーのよりも随分と太い柄、素材となる木も異なる。几帳面な性格なのかよく磨かれていた。よく見ると名前まで彫ってある。

 レオンハルト・ホフマン――アンスバッハ語で書いてある。話すことはできないけれど、字面でなんとなくわかる。

 くすりと笑って、箒を帽子の中に押し込んだ。新しい友人に貰った箒だ。大切に使わせてもらおう。


 いつのまにか陽は暮れて、窓の外はすっかり暗くなっていた。鼻歌に合わせるように緑の髪を揺らしながら自室へと向かった。


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