第56話 北ペンクスリの街を散策(1)
世間では9月入学が話題になっていますが、アルシア・カレッジは4月入学です。
元々9月入学7月卒業で設定していたんですが、学年と年齢の計算ができなくて4月入学にしました。
翌日、リリーは自室の鏡の前を行ったり来たりしていた。自分が持っている数少ない服から、なるべく可愛く見えるものを選んでいるところだった。
(やっぱりこれよりあっちのワンピースの方がよかったかしら? コートと合わせられる服がいいのよね。初めて街に行くんだから、ちゃんとした格好をしないと)
それからさらに数十分、マネキン人形のごとく試行錯誤した。そして、膝丈より短いくすんだ水色のワンピースにグレーのコートとブーツに決めた。髪はハーフアップにして髪留めで纏めた。
普段軍服とメンテナンス用の服くらいしか着ないリリーにとっては精いっぱいのおしゃれだ。
「変、じゃないよね?」
鏡の前で何度も確認する。
不意に扉がノックされた。驚いて肩が飛び跳ねた。慌てて返事をする。扉の隙間からヨハンがひょっこりと顔を見せた。
「リリー、お待たせ! 準備できた?」
「うん。ヨハンはもういいの?」
「ちょうどメンテ終わったとこ! じゃあ、街に出よっか」
リリーは恥ずかし気味に頷いた。ヨハンに手を引かれて早足気味に廊下を歩く。
「ヨハン、そんなに急がなくたって街は逃げないわよ」
子供っぽく笑うヨハンを見て、リリーも自然と笑顔になる。
ヨハンはリリーが記憶を失ってから五か月、ずっと親身に接してくれた。困ったことがあれば相談に乗ってくれ、屈託のない笑顔が魅力的だった。そして悪魔とコミュニケーションを取り、操るのが上手だ。尊敬するところもあるが、年上とは思えないほど、子供のような一面もある。
施設を出ると、正面に車が停まっていた。オフホワイトのコンパクトな車だ。ヘッドランプが前に突き出している愛嬌のあるフォルム。傍で待機していた運転手が、左右にひとつずつしかないドアを開けて、リリーとヨハンは後ろに乗り込んだ。四人乗りだが、スペースに余裕はなくぎゅうぎゅうに詰めあって座らなければならない。
自然とヨハンと密着する形になって、リリーは身体を緊張させた。
ふと、ルームミラー越しに運転手と目が合った。ヨハンと同じく燃えるような赤い髪に金の瞳の軍人。何度か会ったことはあるが、言葉を交わしたことはあまりない。
(名前はたしか、ホフマンさん……だったかしら)
リリーはこの男が――レオのことが苦手だった。会うたびにじっとリリーのことを睨んでくる。何か言いたげに見えるが、いざ声をかけようとすると逃げられるのだ。自分だけならいいが、ヨハンに対してはうっすらと敵意を滲ませているときすらある。ヨハンがそれに対して気付いているのかはわからないが、レオのことを大して気にしているようでもない。
それが余計にリリーのレオに対する心証を悪くさせていた。自分たちが一体彼に何をしたというのだろう。まともに関わったこともないのにこんな嫌な顔される覚えはない。
(だいたい特魔隊ってエリートなのに、どうして戦線から離れているの?)
レオはシフトレバーを動かし、ギアを入れると、車を発進させた。
郊外にあった施設から見える景色は広大な更地とその周囲を取り囲む森ばかりだった。そこから森を抜け、畑ばかりの道を抜け、民家が並ぶ通りへと入る。そして広い通りに出たところが街だ。
「ヨハンはどこか行きたいところはあるの?」
「僕はご飯食べたいかなあ。おなかすいちゃった」
「そうね。じゃあ、最初にどこか食堂にでも寄りましょう。そのあと雑貨屋さんに行ってもいい?」
「うん、いいよー。あ、そういえば今日のリリーすごく可愛いね!」
「へぇっ? あ、ありがと……」
突然褒められて驚いたリリーは素っ頓狂な声を出してしまったことに後悔し、即座に話題を変えた。
「ホ、ホフマンさんも一緒に食事いかがですか?」
レオはちらりとルームミラー越しにリリーを見てから、すぐに視線を前に戻した。
「いえ、自分は車で待っていますので、お二人でどうぞ。三時間後には戻ってきてください」
リリーとヨハンは車を降りると、中心街に向かって歩き始めた。すれ違うのは女性ばかりで、おまけにリリーたちをジロジロと見ていく。
「ねえ、なんだか視線を感じるんだけど」
「きっとリリーが可愛いからだね」
「そ、そうかな」
そうだといいな、とリリーは思いつつ顔を赤らめた。
たまに読み返すと、普通に設定忘れていることよくあります。魔法なんてあってないような小説ですからね。




