表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第三章
56/69

第54話 兵士と悪魔憑きと(2)

 ルシフェルからの返事はない。しかし、その代わりだというかのように、クラウディアを貫く寸前の弾丸を跳ね返した。

 ルシフェルはリリーの影からぬるりと現れると、リリーの前に(ひざまず)いた。プラチナブロンドの美しい髪がはらりと肩に流れる。


「我が娘。我が契約者。我が主人(あるじ)。血と魂の(ちぎ)りを以て貴女の剣となり盾となりましょう」

 そしてリリーの手を取り、口づけた。


「堅苦しいわね。いつも通りでお願い」

 ルシフェルは顔を上げるとニヤリと笑った。

「よろしい。ならば、魔女リリー、私の使い方はわかるな?」

「もちろん。何年一緒にいると思っているのよ」

 リリーはちょっと笑って答えた。右手を宙に伸ばした。

「わたしの杖! 出てきなさい!」


 そう叫ぶと同時に、右の手のひらからぼんやりと光が灯り、メキメキと幹が成長するような音とともに、リリーの杖が現れた。杖の先のグリーントルマリンが陽光に反射する。


 リリーとクラウディアを囲む兵士たちが構える小銃が一斉に火を吹いた。銃声が耳をつんざく。これを浴びたらひとたまりもない。しかし、相変わらずリリーの目にはスローモーションのようにはっきりと弾丸を捉えることができた。


「地と海の(あまね)く精霊たちよ。わたしの声、わたしの意思、わたしの杖に従え。悪魔ルシフェルの契約者、リリーがその血と魂を以て命ずる。我らを守る盾となれ! ディフェンミナ!」


 透き通った緑色のグリーントルマリンが内側から煌めいた。大きな魔法陣が展開され、弾丸を次々と弾く。どんなに銃弾を浴びても魔法陣はびくともしない。


(すごい……! こんなに思うように魔法が使えるなんて初めて。力がどんどん溢れてくる。もっと、もっといろんなことが……)


 精霊の力が体を巡り、溜まっていく。その力は元々のリリーの力量には見合わないほど多すぎて、今にも爆発しそうだ。身体から杖へ、杖から魔法陣へ。力の流れる方向がはっきりとわかる。精霊たちが囁く――『私たちを解放して』


「わかった」


 銃弾を弾くように杖を振ると、足元に散らばっていた無数の銃弾が宙に浮いた。銃砲から飛び出すのと同じ速さで、兵士たちの身体を突き抜けた。穴だらけになった身体から血が吹き出し、鈍い音とともに倒れる。悲鳴すら聞こえなかった。


 唯一、二人に向けて発砲しなかったレオだけが無傷だった。腰が抜けて地面に座り込み、大きく目を見開いたレオと目が合った。

 レオは小さく震える声で「化け物」と、そう確かに呟いた。その言葉が聞こえて初めて、茫然自失だったリリーは状況を理解した。


 リリーを囲う無数の死体。リリーに向けられた弾の数だけ穴が空いている。そこから流れる黒いどろりとした血、血、血。


「あ、あ、あああああ!」


 上手く呼吸ができない。全身の力が抜け、立つことも、杖を握ることもできない。それなのに目は血走り、身体が硬直したまま。目の前の惨状から顔を背けることができない。


(これ、わたしが……? わたしがやったの……?)


 隣にいたクラウディアは思わず吐瀉(としゃ)した。


「ち、ちが……。わたし、そんなつもりじゃ……」


 涙交じりに蚊の鳴くような声を漏らすリリーに、レオは何を言っているんだといわんばかりの表情をした。そして杖をリリーに向けた。赤色のスペッサルティンが(きら)めく。


「リリーはどこか違うんじゃないかと思っていたのに」


 悲愴な表情で、ぼそぼそと何かを呟く。魔法陣が展開し、そこから生まれた光が一直線にリリーに向かっていく。


「リリー! リリー! 私の声に集中しろ!」

 どこかでルシフェルの声が聞こえる。しかし、もう何も聞く気にならない。

 レオの魔法がリリーの頭に刺さった。痛みはないが、急激に意識が遠のいていく。頭が地面に打ち付けられる感覚ですら鈍い。


 意識が完全に途切れる間際、ルシフェルの「クソッ」という舌打ちとともに、胸のあたりになにか温かいものが触れたような気がした。

「これだけは無くしてくれるなよ。私もしばらく眠る。おやすみ、緑の魔女」


 悪魔のその言葉とともに、リリーも闇に意識を落とした。





「あーあ。深層心理(こんなところ)まで来ちゃったんだねぇ。まだ先のことだと思っていたんだけど。ようやく触媒、力の源泉、呪文が揃ったのに、眠っちゃうなんて。わたしの復讐劇は一体いつになるのやら。……まあ、いいけど。わたしのことなんて夢とでも思ってくれていいから、自分のことは自分でどうにかしなさいな」


三章終わりです。長かったですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ