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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第三章
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第53話 兵士と悪魔憑きと(1)

各話タイトルで毎回悩みますが、結局自分が見返すためのメモみたいになってます。

「動くな!」と誰かが叫んだ。


 顔は動かさずに視界に入る範囲だけで人数を数える。五、六人ほどの軍服を来た兵士たち。おそらくリリーを追ってきたホーガンの部下だろう。全員が小銃を二人に向けている。


「そこの緑の女、お前を王国からのスパイ行為で逮捕する。そこのアンスバッハ人もスパイ行為に協力及び蔵匿(ぞうとく)の罪で逮捕する。二人とも両手を後ろに組んで、膝を地面に着けろ」


 リリーとクラウディアはお互い顔を見合わせて、言われた通りにした。

「リリー、そしてクラウディア」


 二人の名前を呼ぶ一人の兵士が二人の前へ出てきた。逆光と軍帽で顔がはっきりとしない。しかし、クラウディアは声で気が付いたのか、顔を顰めた。


「レオンハルト」


 はっきりとそう呟いた。リリーはクラウディアを横目で見る。

 リリーと顔見知りのレオンハルトは一人しかいない。レオンハルト・ホフマン。アンスバッハへ不本意に密入国したリリーを助けてくれた恩人。アンスバッハ人特有の赤い髪にはちみつ色の双眸(そうぼう)


 リリーはもう一度、クラウディアがレオンハルトと名前を呼んだ兵士を見た。ばちり、と目と目が合う。間違いない。レオだ。


「どうして、あなたがここに……」


「それはこっちの台詞だ。どうしてリリーが悪魔憑きだなんて……」


 当惑と悲しみの表情でレオはリリーを見る。

(まるで、可哀想とでも言いたげね……)


「わたしはレオが北の兵士としていることの方に驚いたわ。だってあなた、ペンクスリ人のこと嫌いだったみたいだし」


 レオは少しムッとした表情をした。

「アンスバッハは北に合併された。だったら今の敵はペンクスリ王国だ。これは、自分で決めたことだ」


「それで本当にアンスバッハが守れるの?」

「そうだ。この戦争を早く終わらせるにはより大きな力が必要だ。リリーの悪魔の力は戦争を終わらせる鍵になるらしいじゃないか」


「レオンハルト、君は一体どうしたんだ?」


 クラウディアの心配する様子に、リリーも内心頷いた。何か様子がおかしい。

「そうよ。あなたはそんな人じゃないと思っていたわ。それに、わたしは誰にも従わない。わたしはわたしの意思でこの力を行使する」


「……それは許されない。北の安定と繁栄のために君を王国に返すわけにはいかない」


「君はッ!」と怒気を含んだ声でクラウディアが叫んだ。

「君はいつから北ペンクスリに忠誠を誓うようになったんだ! 金のためか!? 出世のためか!? アンスバッハ人としての誇りは何処に捨ててきた!」


「捨ててなんかない! 捨てるものか!」

 銃口が大きく揺れた。


「ホフマン、これ以上説得しても無駄なら我々も容赦しない」

 レオの後ろで小銃を構えていた兵士の一人がトリガーに指をかけた。


「待ってくれ。悪魔憑きは生かして連れて来いとの命令だ」

「だが、そっちのアンスバッハ人の女は生かしておく必要はないだろう」

 そう言うと、照準をリリーからクラウディアに定めた。


 リリーは鼓動が速くなるのを感じた。

(このままじゃクラウディアが危ない)


 レオは制するように手をすっと伸ばした。

「悪魔憑きと結託しようとした重要参考人で蔵匿罪(ぞうとくざい)だ。殺すな」

 レオの額には大粒の汗が浮かんでいた。瞬きの回数も多い。


(二人は知り合いなの……? どっちにしろ殺したくはないみたいね。……だったらレオを味方につけてしまえば、この場を切り抜けられないかしら)


 刺激しないように、諭すようにゆっくりと話しかけた。

「ねえ、レオ、わたしはあなたに人を傷つけてほしくない。だってあなたすごく優しくて思いやりがある人じゃない。それに、今あなたたちに捕まったらきっとまた酷い拷問されるわ。そんなの嫌よ」

 そして、訴えかけるようにまっすぐにレオを見つめる。


 クラウディアも頷いた。

「そうだよ。それに私はリリーの怪我の手当てをしていただけだ。道徳的に善い行いを罪と言われる覚えはないね!」


「拷問? そんなことは一度も……」

 レオは苦悶(くもん)の表情を浮かべた。良心と情と任務遂行の板挟みで躊躇(ためら)いがあるのだろう。


 リリーが畳みかけようと口を開いたその時、一発の弾丸がリリーの地に着けた膝の、すぐ横の地面を(えぐ)った。吃驚(きっきょう)と恐怖で、リリーとクラウディアは小さく声を上げた。


「ホフマン、こいつらは魔女だぞ! 洗脳に気をつけろ! 生きていればいいんだから文句は言うなよ」

「どんな卑怯な手を使うかわからんぞ」

「それに女はすぐ感情的に(わめ)き散らす。信用ならん」


「‶女″は関係ないだろう!」とクラウディアが吼えた。


 その瞬間、クラウディアに向けられた銃のトリガーが引かれた。撃鉄(げきてつ)が落ちて、銃口から弾丸が飛び出す。その弾丸はまっすぐにクラウディアめがけて軌道を描く。


 通常ならばほんの一瞬。しかし、それがリリーには走馬燈(そうまとう)のようにひどく長く感じた。しかし、体は動かない。ただ、眼球はその弾丸の動きを明確に捉えていた。


(わたしにできること……。できることは――!)

 咄嗟に口が動いた。


「ルシフェル!」


コロナ禍で困ることは堂々と飲みに出れないところです。

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