第40話 レオとワトキンソン(1)
「レオ、こんなところにいたのか」
ギルマンに声をかけられたレオは、「どうした?」と言って銃を解体する手を止めた。
「相変わらず真面目な奴め。ワトキンソン少尉が呼んでいる。……お前、特魔隊のくせにあんまりここに来たら怒られるぞ」
「心配してくれてどうも。ただ、こっちの方が居心地がよくてな」
レオは銃を元に戻すと、ゆっくりと立ち上がってワトキンソンのもとへと向かった。
特別魔法部隊――通称『特魔隊』。魔法使いを戦力として組み込み、戦術として使う。特魔隊の隊員は国中の兵士から魔法使いを選別し、訓練を受け、試験に合格した者のみが入隊を認められるエリート集団である。その試験とは、与えられた任務をクリアすること。レオの場合は開戦時、王国の奇襲に応戦したことでその功績が認められ、特魔隊に入ることになった。
レオは特魔隊に入隊後、前線から外され、訓練をしながら兵営での生活をしていた。しかし、特魔隊に馴染むことができず、負傷して同じく前線から離れていた友人のギルマンのところにほとんど通っていた。
「ワトキンソン少尉。ホフマン、ただいま参りました」
レオがワトキンソンのもとを訪れると、ワトキンソンは大きめの溜息を吐いた。
「ホフマン、君がほかのみんなに馴染めないのはわかるけど、自分から距離を置きすぎるなよ。戦においてはチームワークも大切なんだから」
「すみません」とレオは一言謝る。
カーリー・ワトキンソン少尉。特魔隊の中でレオが会話する人物は彼女に限られる。
彼女は顎先まである黒髪を軽く触った。
「君は確か一番最後に入隊したんだったな。それじゃあまだ、ウェルチ博士にもお会いしてないはずか」
「ウェルチ博士?」
「そうだ。我が国の魔法研究の第一人者なんだけど……、まあ、アンスバッハ人は知らなくてあたりまえか。君を呼び出したのは、今からウェルチ博士に用事あるからせっかくだし、会っといた方がいいだろうと思ってな」
レオはワトキンソンの運転する車に乗った。
急発進――急ブレーキ――急発進。
レオは思わず、窓の外とワトキンソンを交互に見た。目の前に何か通ったのだろうか。
車はそのまま順調に走っているように見せかけて、左折するときに縁石に車体を擦り、信号はぎりぎりで守らず、よくわからないところで何故かブレーキを踏み、後ろの車にクラクションを鳴らさせた。
「あの……?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「えっ……?」
二時間弱かけてウェルチのいる研究施設に到着した。止まるときはもちろん急ブレーキ。
(し、死ぬかと思った……)
ドッドッドッと激しく波打つ胸を押さえながら、レオは静かに息を吐いた。
ワトキンソンとレオは受付を素通りすると、奥の研究室の部屋の扉をノックした。