第39話 鉤爪
ペンクスリ王国首都ブライトン。
とある喫茶店で『鉤爪』はコーヒーを飲みながら、魔法に関する古書をぱらぱらと捲る。
(クソ、禁書は結局どこにあるんだ)
オルムステッドが所有していると思われる禁書は、彼の部屋にはなかった。それどころか、在り処も聞き出せていない。そもそもマキオンが言っていたことすら確証が持てないでいた。しかし、その禁書を入手すれば、王国の魔法の軍事転用の阻止及び祖国の魔法研究に大きく貢献する。
(国防立志部隊が学校に乗り込む前にと思ったが……)
『鉤爪』は煙草を取り出すと、火を点けた。
「クロムウェルさん、それも商品になるのかい?」
カップを拭いていた店主が不意に話しかけた。『鉤爪』はにこやかに返した。
「いいえ、これは僕の趣味です。ですが、最近マニアの間で禁書が話題になっていて、高値で取引されているんですよ。まあ、大概は偽物なんですけどね。店主さんは何かご存じないですか?」
店主はカップを置いて「うーん」と首を捻った。
古美術商のジョシュア・クロムウェルとしてのカバーを持つ『鉤爪』は店主の顔をじっと見つめる。
「そこのアルシア・カレッジっていう魔法学校の校長先生が持っていたけど、持て余しちゃって誰かに預けたっていう噂なら聞いたことあるなあ」
「その誰かというのは?」
「さあ、そこまでは。なんせ噂だからねぇ」
「そうですか。ああ、もうこんな時間だ。ごちそうさま」
コーヒーを飲み終え、代金を置くと『鉤爪』は喫茶店を後にした。