第37話 六月二十一日(2)
六月二十一日、日没前。
未だに立ち入り禁止が解けない研究棟に五人は押し掛けた。
「先生! 校長先生の容態はどうなんですか?」
「あたし、校長先生のことが心配で心配でっ」
「あの、授業はいつ再開されるんでしょうか?」
セリーナ、香月、浩海が先生に詰め寄っている間に、開け放たれたままの校長室をリリーとパトリシアが覗き見る。
校長室はまだ、発見されたときのままにされており、中には警察官が三人ほどいた。扉からすぐ見えるところに、薄い木材のようなものが複数落ちていた。
「あー、あれがたぶんキャサリンだねぇ。バラバラでかわいそうにね」
「バラバラでも休止しているだけってすごいわね……。はっきりとわかる感覚器官はある?」
セリーナたちが教師の気を引いてくれている間に、なんとしてでも見つけなければいけない。見える範囲で、部屋の隅々まで見渡す。目を凝らして、破片の間、机の下あらゆるところまで――。そのとき、沈みかけた夕陽に反射してキラリと光るものが見えた。ガラス玉でできているようだ。
「キャサリンの目だわ」
「えっ、どれ?」
「ほら、あそこ。部屋の隅の木造の古いチェストの下。ガラス玉があるでしょ? あれがキャサリンの眼球よ」
パトリシアは目を細めて眼球を見つけると、頷いた。そしてヨーンちゃんをポケットから取り出す。
「ヨーンちゃん、あのチェストの下のガラス玉を取っておいで。絶対に見つからないようにねぇ」
「チュッ!」とヨーンちゃんは鳴くと、果敢に校長室に入って行った。すばしっこい動きで、あっという間にチェストの下に入る。そして、パトリシアがあらかじめ持たせていた背負い袋に器用に眼球を入れると、あっという間に戻って来た。
「さすがヨーンちゃんだねぇ! えらいえらい!」
パトリシアはヨーンちゃんを撫でると、褒美の餌を与えた。
リリーはセリーナに視線を送る。それに気付いたセリーナは頷くと、「先生、また詳細がわかったら教えてください!」と言った。
困惑している教師を尻目に五人は寮へと向かう。
感覚共有はツルバギア寮で行うことにした。男子である浩海は女子寮に入ることができないため、計画の成功を願ってから自室に戻り、パトリシアは別の用事があるとのことで途中で別れた。
リリーはベッドの上で以前オルムステッドから貰った眠り薬を取り出した。
これを飲んだ日はぐっすりとよく眠れる。しかし最近では、ふたさじ飲んでも効き目が薄いような気がする。そのせいかもう残り少ない。
「リリー、その薬使うの?」
「うん。香月もわたしが夢でうなされるのが少なくなったのを知ってるでしょ? 感覚共有するには潜在意識で繋がる必要があるわ。眼球だから、目が覚めた時に見たことを教えるわね」
リリーは眠り薬をふたさじ飲んだ。そしてそのままベッドに潜る。眼球を収めた手のひらを胸に当てる。
「セリーナ、お願い」
セリーナは杖を取り出すと、リリーに向けて振った。
「名はセリーナ、姓はエマーソン。ニックとイヴォンヌの娘。我が魂に誓え。夢と現実を繋ぎ、真実を暴け。プルシキ・ソムニロ・マティルス」
リリーはあっという間に眠りについた。




