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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第三章
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第35話 ドクター・ウェルチ(1)

 某日、北ペンクスリ社会主義共和国の首都マレイグの郊外にその研究施設はあった。国家主席のエイブラム・ジェイソン・バレットが直々に訪問するとだけあって、この施設は異様ともいえるほどこれまでにない緊張感に包まれていた。

 建物の外、高い塀に囲まれた場所でバレットは一つ、咳払いをした。


「ドクター・ウェルチ、例の研究の成果を知りたくてわざわざ来たのだけれども、何か面白いものは見せてもらえるのかな」


 ドクターと呼ばれた小太りな男――ヴィクター・ウェルチ博士は両手を揉みながら「ええ、ええ」と頷いた。

「もちろんでございます。世紀の悪魔ショーをご覧にいれましょう。ヨハン!」


 ウェルチがその名前を呼ぶと、音もなくヨハンが現れた。いつもの無造作な恰好ではなく、正規軍の戦闘服を身に着けている。

 ヨハンの目の前には十人ほどの縄に縛られた男たちが等間隔で立っていた。政治に異を唱えた者、スパイ疑惑のある者など粛清理由は様々だ。

 事前に打ち合わせをしていたのか、ヨハンはウェルチを見て少し頷いた。ヴィネを呼び出すと、一番右端の男に標的を定めて、右手を伸ばした。指輪が淡く光る。


「生体認証完了。第二部解放。悪魔式撃滅術アルファ発動」


 ヴィネの首輪が呼応した瞬間にヴィネは消え、男は火あぶりにされていた。断末魔の叫びを上げながら、男は死んだ。

 次にその隣の男に右手を伸ばした。男はその恐怖からか失禁をして脚はガクガクと震えている。


「かわいそうにね。君は苦しまずに死なせてあげるよ。第二部解放。悪魔式撃滅術シータ発動」


 男は瞬きをする間もなく、胴体から首が転がり落ちた。

 その後もヨハンはあらゆる方法でヴィネを使役して残りの男たちを殺していく。

 バレットはその様子を見て、手を叩いた。

「素晴らしい。他には?」


「はい、数十回にわたっての実験の結果、目標とする座標を視認できる位置からならどこでも爆破・炎上させることができるようになりました。これにより、より少ない兵力での遠隔支援が可能となります」

「しかしながら」とウェルチは続けた。


「人工で悪魔憑きを作るには精度に限界がありますゆえ、すぐ使い物にならなくなります。そこでヘルダイトを使用することにより、悪魔の拘束及び強制的使役を比較的に持続させることができます。これは凄い発見で、今までの悪魔学者たちは知る由もなかったのですが、被験者であり天然の悪魔憑きであるヨハンの悪魔ヴィネの話から、ヘルダイトから作った首輪を悪魔に嵌めることで、悪魔の忠誠率が上がるのです。なぜなのかと言うと、もともとヘルダイトは神や天使が悪魔を地に堕とすときに使った石や武器と似た性質であり、これもなんという素敵な偶然というかアンスバッハにその鉱山があったわけでして――」


「わかったわかった。だから君の研究のためにアンスバッハを合併したんだ。ドクター、君は本当に早口で冗長だな。もっと短く話せ」

「申し訳ございません、閣下。人工悪魔憑き一人を作るのにおよそ三百キロのヘルダイトが必要とされておりまして、それはですね、人間と悪魔両方の拒絶反応により大量のヘルダイトが消費されてしまうからでして――」

「もっと短く」

「つまり、ヘルダイトと研究費がもっと欲しいのです!」

「閣下に対して無礼だぞ!」

 バレットは側近のホーガン少佐が怒鳴るのを片手で制すると、「ふむ」と口に手を当てた。


「研究費は考えておこう。……三百キロか。資源は無限ではない。それに、ヘルダイトの他の使い道についても考えたい。もう少し減らせないのか?」

「人間と悪魔の相性の問題です。ヴィネのように天然の悪魔憑きなら、ヘルダイトはさほど使用しなくても制御ができますが、人工となるとなかなか難しく。……ただ、上級クラスの悪魔を保有する天然の悪魔憑きがいれば、下級悪魔などすぐおとなしくなるでしょう」


「上級クラスというのは?」

「バアルやアガレスといった悪魔の中でも序列が高いものです。しかし、我々はヴィネの協力により、さらに上級の、いえ、悪魔を統べることのできる悪魔を見つけることができました」

 バレットは生首をボールのように蹴って遊んでいるヨハンに目を向けた。ヴィネは既に姿を消していた。

「あれよりも強いというのか?」


「ええ、我々が制御できるようになれば、必ずや勝利をもたらすでしょう。その悪魔の名はルシフェル。サタンとも呼ばれていた御方です。今はリリー・スピアーズという少女に憑いているようです」

 サタン、とバレットは呟いた。

「今その少女はどこにいるのだ?」

 ウェルチは残念そうに肩をすくめた。

「王国のアルシア・カレッジの学生です」

 バレットは肩を落とした。


「先日もヨハンとヴィネが学校まで赴いて説得を試みたのですが、なにしろ警戒心が強くて」


「なるほど、面白いじゃないか。必ずやその少女をここに連れてこい。そうすればヘルダイトの量も資金も増やしてやろう」

 上背のあるバレットは小柄なウェルチに顔を近づけると、鳶色の瞳を鈍く光らせた。

「もし結果を出せなかったら、次に首を落とされるのは誰かわかっているな?」


 それだけ言うと、バレットはホーガンとともに研究施設を出て行った。

 ウェルチはその後姿を睨みつけながら、拳を血が出るほど強く握りしめた。


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