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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第三章
33/69

第32話 会議

あけましておめでとうございます。

第3章の開始です。

ダアァンッ!


 太って浮腫んだ拳が机に打ちつけられた。

 その場にいた者全員が縮み上がった。静まり返った会議室で、誰も何も言葉を発することなく、ゆうに三十秒が経過した。

 拳を打ちつけたハモンドは額に大粒の冷や汗を浮かべながら、まるで事態が飲み込めないといった様子で口をパクパクさせた。そして絞り出すようにようやく声を出した。


「我が軍の奇襲が迎え撃ちされただと……!?」


 ハモンドの右隣に座る国防大臣のボールドウィンが両肘をついて目を細めた。

「ええ、北軍があらかじめ待機していたようです」

 財務大臣のリッチモンドが白く蓄えられた口髭を撫でながら、鼻で笑った。

「待機なんてされていたら、奇襲の意味がないですなぁ」

 隣に座る財務副大臣が吹き出して、慌てて真顔に戻った。


 ハモンドはもう一度机を叩いた。机上のティーカップがかちゃりと宙に浮く。


「極秘中の極秘事項だぞ! 誰か内通者がいるのではないか!?」


 ギロリと集まった大臣たちを睨みつけた。出席している大臣たちは皆一様に目を逸らした。

 無血クーデターで政権を掌握したハモンドは、ボイデル派の大臣たちを次々と更迭した。ハモンドの意に背けば、次に更迭されるのは自分かもしれない。そうした恐怖からハモンドに異議を唱える者は多くなかった。


 緊迫した空気を一変させたのは国防省軍令部参謀総長のウォーカーだった。

「まあまあ、落ち着いて。そう疑うもんじゃないですよ」

「この作戦を立てたのは貴様のところだろうが!」

 より激昂するハモンドにウォーカーは頭を下げた。


「それは本当に申し訳ありません。私の不徳の致すところにございます。しかし、それについてはもう捜査を進めております。スパイなどという卑劣極まりない輩が捕まるのも時間の問題でしょう。まだ初戦。我々は勝てない戦をしているつもりはありません。今回の作戦により、得た情報があります」


 ウォーカーは教育大臣の方をちらりと見遣った。咳払いをすると、やや退屈そうにしていた大臣の背筋が伸びた。


「生き残った者の話によると、小さい花火が上がったかと思うと突然、ピカッと白く強烈な閃光が戦場を照らしたそうです。森じゅうを照らすとなると中々の大きさのものが必要となりますが、北軍にそのようなものはなく、一人の人間が体一つでやったことだとか。情通課の調査では北は、新たに魔法使いによる部隊を結成しているようです。そこでマキオン魔法局長から解説願いたいと思いまして」


 教育省の外局である魔法局のマキオンは「ええ」と返事をした。

「証言にある花火のようなものは『カルミナ』でしょう。この魔法はごく単純なもので、昔は山に遭難したときの狼煙代わりや合図などに使われていました。その次の閃光は『フォルクス』だと思われます。しかし、一般的なものはカメラのフラッシュ程度の光なので、おそらく強化魔法を加えているのでしょう。証言だけではどの程度のものなのか、あたくしには判別はできませんが」


 ウォーカーはやや大げさに頷く。

「我々の知っている魔法は手品のイメージなんですが、それは軍事転用できるもんなんですか?」

 マキオンは銀色の眼鏡のフレームを指で押さえた。陽光が反射して眼鏡が白く光る。

「ええ、可能です。古い書籍の中にはその内容から閲覧を禁じられたものも存在します」

 ボールドウィンが椅子に深く座りなおした。そして「禁じられたもの?」と尋ねた。


「たとえば、人的災害が起きるほどの天候を自在に操ること。広大な範囲での爆発、火災。最も禁忌とされているのは悪魔との契約です」

「悪魔、というと『悪魔憑きは人に非ず』の教訓の? 童話の中の話では? 本当に存在するんですか?」

 矢継ぎ早に質問するウォーカーをボールドウィンが片手で制した。

「悪魔と契約すると何が起きるんだ?」


「望めば何でも。ただし、契約者も精神汚染する可能性が高く、人道的な問題から禁止されています。まあ、そもそも悪魔と契約できる確率が非常に低いという点から現実的ではないですわね」


 黙って話を聞いていたハモンドが、興味深げに尋ねた。

「悪魔憑きを探すことは可能なのか?」

 マキオンは軽く肩を竦める。

「それは難しいと思いますわ。なにしろ、悪魔憑きは迫害されることを恐れて隠れていることが多いので」

「ではその禁じられた古い本とやらは?」

「禁書は三年大戦のときに行方不明になっておりまして」

 ハモンドが舌打ちをする。マキオンは「ただ」と続けた。

「我々、古い魔法使いの間ではある人物によって持ち出されたと認識しております」

「ある人物?」


「アルシア・カレッジの校長、ゴドフリー・オルムステッドです」


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