第30話 開戦(2)
一通り終わって、撤退しようとしたとき、動く影を見つけた。まだ生きている敵兵だ。腰を抜かして、ぎょろりとした目で怯えた表情を浮かべていたソレは、レオと目が合うと「ひぃっ!」と叫んだ。
レオは銃を構えながら慎重にその男に近づいた。もはや戦闘の意志がないことを確認すると、「大丈夫か? 立て」と、手を差し出した。男は考えあぐねて、恐る恐るその手を掴む。引っ張り上げると、僅かに生気を取り戻したような顔をした。あの閃光の中、運よく弾に当たらなかったのだろう、怪我をしている様子はない。
死体を避けて、北側へ彼を誘導したところで、威圧的な声に呼び止められた。
「ホフマン、ソレは何だ」
上官に向かって敬礼をし、「はい。生き残っていた敵兵です」と答えた。
「何故生かしている。殺せ」
「恐れ入りますが、それはできかねます」
「聞こえなかったか? あの王国のクソ犬を殺せと言ったんだ」
レオは上官を見据えた。隣にいた男は怯えた様子で両手を上げている。
「彼は武器も持っていません。この通り降伏しています。これ以上無駄な殺傷は控えるべきだと存じ上げます」
振り下ろされた拳がレオの頬を殴打した。両足で踏ん張って耐える。
「卑怯者を庇うのならお前も同罪だ」
上官が拳銃を取り出したところで、レオは声を荒げた。
「降伏の意思を示している兵を殺すことは国際法に違反します! これが公となったら我が国の責任となります。また、このような行為こそ卑劣ではありませんか。また、彼にはこの奇襲の情報を聞き出すのに、捕虜としての価値があると存じ上げます!」
一気に捲し立てられ、上官は怯む姿勢を見せた。国の為と言われてしまえば文句も出ない。上官は大げさに舌打ちをした。
「小賢しい餓鬼が。もういい。捕虜として連れていけ」
レオはもう一度敬礼をした。先ほどと全く同じ角度で右手を伸ばす。
「はい。お心遣い感謝いたします」
男を別の兵に引き渡した。これから収容所送りになる。男は何かを言うこともなく、レオをただ睨みつけて、そして静かに顔を背けた。
ギルマンが後ろから背中を叩いた。
「レオ、生きているヤツを助けるのはいいけどよ、俺だったら捕虜はごめんだな」
「死ぬよりはマシだろう。生きていたらそのうち家族にも会えるかもしれない」
ギルマンは苦笑いをした。
「でも、北の捕虜になるってことは、酷い拷問を受けるってことだぜ。噂によると人体実験してるとかなんとか……」
レオは眉を顰めた。
「噂だよ。うーわーさー。でも、捕虜として孤独で酷い扱いを受けるよりは、仲間と一緒に死んじまった方がいい時もあるんだよ」
捕虜となった男の、小さくなる背中を見つめた。
(俺がしたことは、ただの偽善だったのか……?)
銃の扱いに慣れていたとしても、実際に人を撃ったことはない。しかし、作戦のうちとはいえ、自分の魔法により大勢の人が死んだ。人を殺すのは確かに怖い。そしてそれは、直接手を下していなければ良いというものではない。
ふと空を見上げると、満月がいつもよりもひときわ大きく輝いているように感じる。ポケットの中の「星読みのための羅針盤」を握りしめた。
「今日は星がよく見えないな」
ぽつりと呟いて、その場を後にした。
戦闘シーン書くの嫌いじゃないんですけど、戦術とかよくわかってない




