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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第一章
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第2話 箒に乗ってどこまでも

書き溜めているものを投稿しているので、1話分をどこで切ればいいかわからないですね

 どれくらい飛んでいたのだろうか。

 気が付けば、遥か上空にいたハヤブサはいなくなっていた。長く風に乗っていたおかげで、ブライトンからもだいぶ離れてしまっていた。


「私の力で飛ぶ箒の乗り心地はどうだい、リリー」


 どくん。心臓がひとつ大きく波打った感覚がした。眉をひそめて、しかしすぐに何ともないような顔に戻る。

 箒の柄を握る手に力を込めて前かがみになると速度を上げた。

 心臓がぎゅっと縮こまって、頭に笑い声が響く。顔を見なくてもあの悪魔の薄ら笑い顔が脳裏に浮かぶようだ。

「くく、忘れてしまったのかこの私の声を。ただの人間であったお前を魔女に仕立て上げたこの悪魔の声を」

「うるさい。魔女って呼ばないで」

「魔女ではなければ『悪魔憑き』と呼ぶべきか?」

 悪魔憑き――十年前リリーが犯した罪。おばあさんの言いつけを破り、自分の欲に負けた結果である。

「魔女と魔法使いの名称の違いなど取るに足らない。お前たちは悪魔と契約した者を魔女と呼ぶが、魔法使いも魔女も元は変わらないではないか」


「悪魔憑きは人に非ず」とはペンクスリでは昔話とともに語り継がれる教訓であり、しばしば卑怯者とも言われる。

「お前は実に卑怯者だ。お前の父も、母も、祖母もだ。お前たちは悪魔を嫌うくせに悪魔の力を借りないと今の生活を送れない。そのくせお前は私を他人の目から(くら)まそうとする。偽り、欺き、ああ、卑怯なリリー、小さな魔女! お前は私を手放しては生きていけない!」

「うるさい! 演説したいならわたしじゃなくて他の悪魔になさい! 言われなくたってわかってるわよ!」


(――悪魔のくせに)

 ルシフェルの言っていることは正しい。だから悔しい。自らの罪を、現実と向き合うことから逃げ続けてきたことをよりにもよって悪魔から言われる。

 ふと箒が沈んだ気がした。後ろを振り向くと、普段はリリーの体の中にいるというルシフェルが実体化していた。

出会った頃から変わらない容姿を持つ悪魔はにこりと笑いかけた。リリーが今まで見たどんな人よりも美しい顔に思わず見惚れる。そしてリリーの体を抱き寄せて優しく囁いた。


「しかし悪魔と契約することは卑怯ではない。お前は自分の欲求に従ったまでだ。お前がもし善き魔法使いになりたいのなら、お前が私の力をそう使えばいい。私の力はお前次第だ。何も心配することはない。お前ならできるさ」


 容姿だけでなく、その声までもが人を魅せつけるように柔らかくて甘い。体温を感じない体だけが、ルシフェルが人間でないことを顕著にしていた。

 やはり悪魔は悪魔だ。甘い言葉で人間を誘惑しようとする。

「リリー、今君は『もし願えばこんな美人になれたりするのかな』とか思ったな。それは無理だ。私の美しさは唯一無二だから、叶ったとしても二番目だ」

「うっ……うるさい!」

 ちょっとだけ思ってしまったことをズバリ言い当てられて恥ずかしくなった。しかも二番。

 ルシフェルに気を取られていた刹那、強い突風がリリーの身体を横から突き飛ばした。

「きゃああああっ!!」

強い風圧にどうすることもできず、ただ箒だけは離すまいと腕と脚で必死にしがみついた。塵のように風に流されるまま、きつく目を瞑ってただ事が過ぎるのを待つ。

落ちるとき特有の、心臓が身体から離れていくような気持ち悪さと冷たく痛い向かい風。あれだけ空高いところにいたのにどんどん地面が近くなっているのがわかった。


「飛べッ! ()けろッ! 私の箒!」


 箒が上昇するよりも早く衝撃と鈍痛が身体に走る。目の前がチカチカとして、頭がぐらぐらとする。視界が真っ暗になると同時に、意識を失った。


 頭痛と共に悪魔が(わら)うのが聞こえた。


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