第27話 スウィングラー先生と写真
授業が終わる鐘が鳴る。今日はいつもよりも暑い。窓から見えるオークが青々とした葉を広げていた。
少し薄暗い教室を生徒が次々と退出して行く。リリーは頬杖を突いて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。あれから約一か月、変わらない日常が流れている。
ハモンド政権になってから、北ペンクスリ、アンスバッハとの間の緊張がさらに高まった。得られる情報だけでは、何とも実感は湧かない。そもそも、北との緊張は、数年に一度は高まるものだ。きっと今回も何もないはずだ。
そろそろ教室を出ようと視線を外すと、リリーしかいなかった。途端に教室がいつもより広く見える。気怠げに立ち上がって、教卓の傍を通り過ぎようとしたところで、忘れ物を見つけた。教卓の上の一冊の本。スウィングラーが忘れていったのだろう。
興味本位で、パラパラとページを捲ると、一枚の写真がするりと滑り出た。スウィングラーによく似た若い男と椅子に座る女性。裏には、「ジェイク・オースティンとその愛する妻メラニー 1464.06.13」と書かれていた。
もう一度写真の男性をよく見る。そっくりというより、本人そのものだ。しかし名前が違う。
(人のもの勝手に見るなんて良くないわよね。先生のところへ返しに行こう)
写真を本に挟んで、スウィングラーの研究室を訪れた。ノックをすると、スウィングラーが出てきた。
「スピアーズ?」
スウィングラーに本を差し出した。スウィングラーは軽く目を見開いた。
「先生、教室に忘れていましたよ」
「ああ……、ありがとう」
スウィングラーは本を開いて、あの写真を見ると、ほっとした様子を見せた。
「大事なものなんだ」
「すいません、勝手に見てしまいました」
「いいよ。これね、弟とその奥さんの結婚式の写真なんだ」
リリーは思わず「へぇ」と声を漏らした。
「先生とそっくりなんですね。もしかして双子ですか?」
スウィングラーはひらひらと写真を振る。
「そうそう、美人な奥さんを貰ってね。写真立てに飾らなきゃとは思っていたんだけど、ずっと忘れていて、今は栞代わりさ」
スウィングラーは時計を確認すると、「それじゃあ」と手を振って扉を閉めた。
そろそろ今書いているところに追いつきそうなので、2章が終わるころにお休みしそうです。




