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戦場の悪魔  作者: 漬物田中
第二章
26/69

第25話 ダニー・ハモンド

今回はちょっと読み辛いかもしれません。

 配膳(はいぜん)待ちでカウンターに並んでいると、食堂に設置してあるテレビから妙な音が鳴った。編み上げブーツの歩みを止めて、テレビの方に顔を向ける。その場にいた学生全員がテレビに注目していた。


 テレビはリポーターを映し出していて、焦った様子で何かを(まく)し立てている。カメラは王国議事堂を映し出しており、テレビ中継のようだった。

「大変です! ダニー・ハモンド氏のクーデターにより臨時政府が樹立されました! ボイデル首相は現在、外国訪問で国内にはいません。ハモンド氏は臨時政府樹立後、正式に首相に就任する所存です。あっ、今からハモンド氏による会見が始まるようです!」

 リポーターの早口実況から王国議事堂の一室、重たいブルーのカーテンをバックにした映像に切り替わった。ハモンドはまだ出てきていない。


 ダニー・ハモンドの名前はペンクスリ王国民なら誰でも知っている。三年大戦や内戦で武勲(ぶくん)をたてた軍人として学校の歴史の教科書に載っており、たいていの人は「ハモンド将軍」と敬愛を込めて呼び、人気の高い人物だ。


 カーテンの向こうからハモンドが姿を現した。

 余裕があるのだろう。髪の毛が退行した広い額には汗一つ浮かんでいない。一呼吸置くと、軍人らしい大きな声で話し始めた。


「ボイデル政権になって七年、ペンクスリ王国の情勢はどうだ。生活は豊かになっただろうか? 君らは満足しているか、今の生活に。――私は違う! ボイデル政権になってから経済状況は一向に悪くなるばかりだ! 私は常々この国を、この状況を憂いていた。しかし、ここ最近になって北の軍備拡張、アンスバッハの合併など良くないニュースが王国中を蔓延(まんえん)している。まるで流行病(はやりやまい)のように! 

国民は不安に思っているだろう。今度ばかりは北に攻め込まれるのではないか? 我々は家族を守れるのか? この不安はボイデルのせいだ。彼の弱腰な態度は横柄な北の奴らをつけあがらせるばかりだ。我々はこのままで良いのか? それは断じて良くない! 良いわけがない! 我々は我々の正義のために、北をこれ以上のさばらせるわけにはいかん! 

そのためにはまずはボイデルを排除しなければならないのだ! 北が攻めてきたらボイデルのせいで何人の勇敢な兵士が、愛する国民が死ぬだろうか! しかし私ならそんなことはさせない。現に今、我々は無血クーデターを行った。我々は被害を最小限に食い止めることができる! 優秀な国民ならこの意味がわかるだろう。

これは我々の神聖なる大義である! 我々は本当の自由と幸福のために今、立ち上がらなければならない! そのために一週間後、全国民投票を以て私が首相に相応しいかどうかを選んでもらう。そのためになら私は何度でも繰り返す。繰り返すぞ。突然のことに驚いた国民や、聞き逃した国民のために何度でも、いつでも繰り返す。いいか。ボイデル政権になって七年――」


 ハモンドが二度、三度と同じ演説を繰り返し、数十分過ぎた頃、リリーはハッと我に返った。静寂は打ち破られ、食堂内が一気に騒がしくなる。

 舌端(ぜったん)火を吐く彼の言っていることはなんとなく理解できた。理解できたが、同時に目眩(めまい)のような感覚がした。


 なんだかとてつもなく大変なことを言っている気がする。しかし何がどう大変なのか、数十分彼のスピーチを聞いていたリリーでさえよくわからなかった。

おそらく、この場にいた誰もがそうであったはずだ。誰もがこの状況を正確に飲み込めないでいた。



 それから一週間後、全国民投票が行われた。ニューヴェニアに亡命中の現首相ボイデルを差し置いてハモンドが全体の約七割の票を勝ち取った。

 事実上ダニー・ハモンドが新しい首相の座に就いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「流行病のように!」いいですね。いかにも民衆を扇動しようとする権力者の言葉って感じです。 展開を見ているとクリミ○半島が頭をよぎります。 日本はヘイワダナーー(笑)
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