第21話 新聞を読んで
この回はレオが主人公としての三人称視点です。
タグの男主人公がようやく回収されました。
からりと晴れた日の昼前。ペンクスリ王国と接するアンスバッハの都市ホッティンゲンの市場は今日も賑わっていた。レオはその中でチーズを吟味していた。厚みのある円盤型の黄色いチーズはまるで鈍器だ。購入した約四キロものチーズを抱えながら自宅兼ホテルに帰った。
チーズを冷蔵室にしまうと、コーヒーを淹れて新聞を読み始めた。火事の記事に目を通しながら、一か月半前のことを思い出す。リリーと別れたあと、目撃者として警察の事情聴取を受けた。レオは知っていること――と言ってもほとんど何も知らないに等しいが――を全て話し、その後も新聞であの爆発について何か進展がないか確かめていた。
この爆発による死者は十二人。爆発の範囲にいた者は全員炭の塊となって亡くなっていた。爆風に巻き込まれた怪我人が数名。すぐに逃げたため軽傷で済んだそうだ。レオがいた中心地付近には死体しか転がっていなかった。しかし、爆発の原因になるようなものもなく、犯人も見つからず、未解決のままだった。
やるせない思いを募らせたまま、新聞の一面を飾った記事を読み始めた。
『アンスバッハ合併条約 締結へ』
また憂鬱な気分がした。同じ内容を何度も目で追う。身体を叩きつけるようにソファーにもたれかかった。
(アンスバッハはアンスバッハ人のものだ。ペンクスリ人のものじゃない……!)
レオは唇を噛みしめた。
アンスバッハは今、北ペンクスリに合併されようとしている。
事の発端は三週間ほど前、アンスバッハの大統領マックス・シュルツによる発表だった。アンスバッハは畜産と観光が主な産業で細々とやってきた小さな国だが、未開発な土地が多い。国の発展のため、隣国の北ペンクスリと経済協定を結んでいた。しかし、ともに国の繁栄と国民のより豊かな生活を獲得するために合併という手段を以て一つの国になることを決定したというのだ。
「『アンスバッハは北ペンクスリ社会主義共和国アンスバッハ自治区という名称に変更となる可能性がある』だって? ふざけんな!」
『自治区』ということは国以下の扱いになるということだ。今まで『国』として得ていた権利は北ペンクスリのものになる。政治だって、自治が認められているといっても北ペンクスリの影響下だ。
レオはソファーに仰向けになって開きっぱなしの新聞を頭にかぶせた。目を瞑って思考を回らす。
ここ数年で増えたペンクスリ人の住民たちは北ペンクスリ人だということになる。北ペンクスリとペンクスリ王国は同じ民族だ。見た目じゃ判断はつかない。おまけにレオは積極的に彼らと関わろうとしなかったため、どちらの国の住民なのかまでは関心がなかった。ペンクスリ語を使うペンクスリ人であることには変わりない。
思い返せば、北ペンクスリ人の住民が増えたのは三年ほど前からだ。あるとき突然アンスバッハに住むようになって、経済的に密接な関係になってきた。経済だけではない。三年前と言えば、シュルツが大統領に就任した時期だ。
(いや、まさかな……。でも、もしそうだとしたら……)
レオは瞼を押し上げた。新聞の隙間から光が差し込む。インクの匂いが鼻をすっと通り抜けた。
(もしそうだとしたら、次は何が起こるんだ……?)
レオはしばらく考え込んだ後、電話の受話器を耳に押し当て、ダイヤルを回した。
「もしもし、レオンハルトだ。元気か? クラウディア、……頼みがある」
サブタイトルが毎回思いつかないので、無理やりつけてます




