第19話 校舎裏で(2)
三日に一度投稿するって言ってましたけど、やっぱり三の倍数の日に投稿します。
額を膝頭に付けたまま、幾何かの時が過ぎた。ルシフェルがリリーの体内に戻ったのは気配でわかっていた。しかし身体を動かすことができなかった。
昼休みが終わる鐘が鳴る。
(香月が心配しているかも……。なんだか、授業に出たくないなあ……)
ぼんやりとする頭で何と無しにそう思った。
重たい頭を上げて、空を仰いだ。どこまでも青い空。今日の空は今までで一番遠く感じる。
目線を下げかけて、何かが上空で光ったのに気付いた。太陽の光などではない。もう一度顔を上げると、ちらりちらりと舞い散る何かがある。それが目の前に来てようやく光の粒であるとわかった。
ベルルフォ・フルスィテ――美しい煌めき。
「元気は出たかな?」
聞き覚えのあるその声の主は校舎の壁に寄りかかって立っていた。
スウィングラーだ。杖をしまうと、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「この魔法はね、魔法使いが子供を喜ばすために作ったものと言われているんだ。ほら、子供ってなんかキラキラしたもの好きだろう?」
リリーは声を詰まらせた。それを悟られないように、ひとつ咳をする。
「……先生も、キラキラしたもの好きでしたか?」
スウィングラーはどこか遠くを見つめて、懐かしそうに微笑んだ。
「弟や友達とよく近所の魔法使いの家に遊びに行ってたんだ。その魔法使いは怖い顔のおじさんだったけど、とても優しくてお菓子をくれたり、魔法を披露してくれた。そのおじさんの得意な魔法がベルルフォ・フルスィテ。本当に綺麗だったよ」
スウィングラーは腕時計を見て、「もうこんな時間か」と呟いた。
「今日はもう無理をしなくていいから、大丈夫じゃないなら寮に帰りなさい」
リリーは目を瞬かせた。
「サボっていいんですか?」
「具合の悪そうな生徒を無理に授業に出させるほど僕は非道じゃないさ。担当の先生には僕から伝えておくから心配しないで。僕はいつでも君の味方だからね」
リリーはきゅっと胸が熱くなった。心臓にまとわりついていた黒くて重いものが溶けるような感じがした。
自分の過ちを何度も振り返っては胸が痛くなる日々。悪魔に何度も現実を突きつけられながら消耗する心。何も罪を赦してほしいわけじゃない。ただ、一言温かい言葉がもらえればそれでよかったのだ。
思わず溢れそうになる涙に目頭を押さえるが、それは熱を持って頬を伝い、土に染み込む。
「……ごめんなさい」
「謝る必要はないよ」
込み上げてくる嗚咽を止めることはできなかった。
スウィングラーは無言のまま泣きじゃくるリリーの傍に腰を下ろした。そして、リリーが泣き止むまでいつまでもその大きな手のひらで小さな背中を擦り続けた。
予約投稿してるので、今日は10月20日なんですが、もう10月が終わるってやばいですね。