第16話 魔法理論の授業(1)
アルシア・カレッジのカリキュラムは一、二年生時に必修科目、三、四年生時に基幹科目、五、六年生時に展開科目と段階的に受講レベルが上がっていき、基幹科目と展開科目は選択制となっている。
五年生のリリーたちはスウィングラーが担当する「魔法理論」を受講している。
「魔法理論」は、四年生までに習う魔法よりもさらに高度な技術を習得することを目標とされる。
「みんなもうわかっている通り、魔法使いが魔法を使えるのは、周りの精霊たちの力を借りているからだよね。でも魔法使いはそのままで魔法を使えるわけではない。これがどうしてかわかる人はいるかな? はい、君」
手を挙げた生徒のうち一人が当てられる。
「そもそも魔法使いが魔法を使えるのは、普通の人間に比べて精霊を身体に吸収しやすいからです。吸収した精霊たちを、杖や箒の魔法作用によって形を変えなければ魔法が生まれません」
「そう。箒で飛べるのも杖で魔法が使えるのも、全て吸収した精霊を触媒で変換してるから。でも魔法道具だけじゃ魔法は使えない。他に必要なものは?」
「呪文です。杖の魔法作用と魔法を使う本人の承諾としての呪文と固有呪文を唱えなければなりません。承諾呪文はそれぞれ異なる杖や箒を持つため、本人確認の意図があります。固有呪文のみで魔法を使うことができるのは力が強く、杖や箒との親和性が高い魔法使いです」
「よく勉強しているね。ありがとう、モラン」
スウィングラーは生徒を座らせると、黒板に向かって何やら図を描き始めた。人間と杖、そしてその先に魔法陣。魔法陣から伸びる三本線。人間の周りを小さな丸で囲む。
スウィングラーはこの点々とした丸を指した。
「これは精霊だ。まず精霊とはありとあらゆるものに存在する魔法の源泉だと言われている。この精霊は目には見えない空気のようなものだ。この精霊を吸収した魔法使いが自らの杖で呪文を唱えると魔法陣が出てくる。魔法陣は所謂、魔法の門、出入り口だ。変換した精霊たちはここから魔法となって出てくる。では、呪文を唱えてから魔法陣が展開されている間のことを何と言うかな?」
しばらくの沈黙のあと、一人の生徒が手を挙げ、答える。
「魔法式です」
「そう。魔法式。君たちはこれを無意識にやっていると思うけど、魔法使いだからって簡単に魔法が出てくるわけではない。この魔法式についての理解ができるようになればもっと難しい魔法を使えるようになれる」
そう言うとスウィングラーは天井に向けて杖を構えた。
「我が身体と魂と名において命じる。精霊よ、私に力を、杖に奇跡を。ベルルフォ・フルスィテ!」
杖の先から大きな魔法陣が展開されるやいなや光が飛ばされる。そして一瞬で消えたかと思えば、弾けるように煌めきだし、雪のように降り注いだ。
生徒たちはその光を手に取ろうとするが、それは触れることもできずに消えていく。
スウィングラーは杖をしまうと軽く肩をすくめてみせた。
「この魔法はそう難しくもないし、実用的でもないから、君たちが授業以外で使うことはそうないだろう。けれど、害もないから練習にはもってこいだ」
香月がそこで手を挙げる。
「先生! 呪文が〝承諾〟の意味があるのはわかりました。でも、どうして口に出さないといけないんですか?」
「良い質問だ」とウインクをする。
すごい!魔法学校っぽい!