第15話 四月上旬
四月上旬、暖かな春の陽。新学期が始まってもうひと月が経つ。冬休みには閑散としていたアルシア・カレッジも今は生徒が集まり、騒がしい。皆同じ詰め襟の制服に身を包んでいる。
襟から裾まで縁取るように金糸で装飾され、金のボタンが並ぶ高級感のあるワインレッドを基調とした制服は、国内外でも評判が高い。女子は黒いスカート、男子は黒いボトムが標準とされている。黒いマントと三角帽子は全員が同じデザインだ。
この制服は王国がまだ王政だった時代の名残である。王の親衛隊としての地位を獲得していた魔法使いたちが教育機関として発足したのがアルシア・カレッジだ。王政が終わり、親衛隊が解散した後も、こうして教育機関として残っている。
中庭のベンチでリリーと浩海、香月は並んで座っていた。穏やかな陽に当てられながら、リリーは思い切り身体を伸ばした。同時に澄んだ空気を大きく吸い込む。
「毎日こう暖かいと眠くなるね」
隣にいた浩海がぼんやりと遠くを見ながらそう呟いた。
「そうねー。浩海は卒業後はどうするの?」
「僕は魔法関係の大学に進学するつもりだよ。受験も近いんだ」
浩海の隣で足をブラブラさせていた香月が二つに結わえられた髪を揺らした。
「浩海なら絶対余裕だね! あたし、浩海と同じ大学に行くから、だから……」
頬をほんの少し染めて、上目遣いに浩海を見つめる。浩海は頷いて柔らかい笑みを返した。
「うん、待ってるね」
薄く染めた頬を一瞬で真っ赤にして、香月は静かに頷いた。
そんな二人を見ながら、リリーは自然とレオのことを思い出した。
あれからあの爆発の件については特に何も進んでいないという手紙が来た。律儀なものだが、リリーもそのことについては気にかかっていた。あれからルシフェルの様子が変なのだ。何が、とははっきりとはわからないが、どこか考え込むことが増えたように感じる。いや、何もしてこないことほどいいことはないのだが、あまりにも何もないと、かえって不安になるものだ。
爽やかな風に靡かれた髪が頬をくすぐる。
「もーこのまま授業サボっちゃいたい……」
暖かい陽気がそうさせるのだろう。香月は大きな欠伸をした。
「あー、わかる」とリリーもつられて欠伸をする。
「僕は授業がないから良いけど、二人は授業出なきゃ。次は誰?」
「えー誰だっけぇ?」
ぐでっと香月はベンチにもたれかかった。そのまま本当に寝てしまいそうだ。
そのとき、リリーと香月は頭をぺちんと何かで叩かれた。
「こーら。君たち次は僕の授業だろう」
スウィングラーが呆れた顔で二人を見ていた。
「乙女を叩くなんてひどーい」
香月のわざとらしい訴えにスウィングラーは肩をすくめた。
「授業をサボる悪い子には何度でもこれで叩くぞ」
手にしていた出席簿をひらひらと振る。全く痛くなかったが、そう何度も受けたくはない。
「春だからって、浮かれて授業をサボるようでは困るなあ」
スウィングラーがそう言い終わるのと同時に授業開始の鐘が鳴った。
「先生も一緒にここでお昼寝しちゃいましょうよ」
「まったく、スピアーズもいつまでも座ってないで。ほら、先生と一緒に行けば遅刻は見逃してあげるから」
リリーは「はーい」と生返事をする。
浩海が香月の頭を撫でた。
「あんまり先生を困らせちゃだめだよ。昼休みは一緒にご飯食べよう」
「うん!」と素直に返事をすると、ベンチから勢いよく立ち上がった。ついでにリリーを引っ張って立たせる。
スウィングラーと共に教室に入ると、既に多くの生徒が席に着いていた。
「リリー、香月、遅刻だねぇ」
隣の席の女の子がのんびりとした口調でそう話しかけた。パトリシア・ジャスミン・ソフィー・イングリス。そばかすが目立つ小麦色の肌にベリーショートの髪がふわふわと揺れる。窓から差し込む光が黒い髪をチョコレート色に変えた。
「おはよ、パティ。先生と同着だから遅刻じゃないよ」
「先生に見逃してもらっただけじゃない」と、リリー。
香月は「まあ、そういうこと!」と朗らかに笑った。
「ほら、そこ。もう授業は始まったぞ。……教科書二百五十一ページを開いて」
一斉に教科書を開く音が教室中に響き渡る。
投稿始めてからあっという間に第一章終わってしまったんで、第二章もすぐ終わりそうですね。
今書いているところで展開に困っているので、そのうち追い付きそうでヒヤヒヤしています。




