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83話 夢の果てに

「それで? それからどうなったの?」


 小麦色に焼けた肌に、金色の髪を三つ編みに結った少女が妙齢の女性にせっついているのは、二人の男女の恋の物語の続きであった。


「だめよリアンヌ。今日中にここらの収穫を済まさないとご主人に叱られちゃう」

「えー、折角いい所だったのにー」

「一段落ついて、お昼になったら続きを聞かせてあげるから。もう少しがんばって」


 リアンヌと呼ばれた少女は頬を膨らませて抗議の態度を示すのだが、確かに今日中にこのオレンジを収穫しなければ叱られてしまうので、渋々仕事を再開するのであった。


 彼女が聞かされていたのは、元軍人でありながら奴隷剣闘士の身分へと落とされ将校と、皇女の禁じられた恋の話。

 二人は、幼い頃から結婚の約束をしていた許嫁であった。

 しかし貴族間の権力抗争に敗れ、策謀に嵌められ奴隷剣闘士(グラディエーター)として、生きていく運命を背負ってしまったのだ。

 二人は度々蜜月を交わしながらも、いつしか二人の思いは擦れ違い始める。

 皇女は、すべてを捨てて二人で遠くへ逃げようと言うのに対し、男はいつしか己の全てを懸けた闘いにのめり込んでいったのだ。



 お日様が丁度真上に来ると、午前の仕事を終えて昼休みとなった。

 リアンヌは、昼食係からパンとスープを二人分受け取ると、先程の女性の所へと駆けて行く。


「はやく! さっきの続きを聞かせて!」

「リアンヌったら、食事もゆっくりとらせてくれないの?」

「食べながらでいいから、ねえ早く、カトリーナ!」


 カトリーナと呼ばれた女性は大きな溜息を吐くと、仕方のない子だと言いながらも、物語の続きを話し始めた。


「剣闘士は、皇女の誘いを断ったの」

「どうして? 二人は好きあっていたんでしょ?」

「そうね。それでも、二人の目指す未来は違ったわ」


 言いながら、どこか遠い目をし懐かしむように、それでもどこか寂しそうに話すカトリーナに、リアンヌは不思議な気持ちになった。


「目指す未来って?」

「皇女様にとってはね。剣闘士と一緒にいられることが全てだったのよ。でもね、剣闘士にとっては、闘技場での戦いが全てだった。闘技場の真ん中で只一人、自分がこれまでに積み重ねてきた全てを、相手にぶつける。その瞬間が、忘れられなかったの」

「えー、信じられない。最低な奴ね、皇女様がかわいそう、ずっと彼のことを応援して、一緒に戦っていたんでしょう?」

「そうね。でも、最後の最後で皇女様が彼に迫った選択は、自分を取るか、“けんとう”を取るかだった」


 カトリーナの話を、リアンヌは呆れ顔になりながら聞いていた。

 奴隷と皇女様のロマンティックな身分差恋愛かと思っていたのだが、期待していた結末とは違ったのでがっかりしてしまった。


「あーあつまらない。これから二人の恋の逃避行が始まるのかと思ったのに」

「世の中そんなに上手くはいかないのよ」

「えー、物語の中でくらい、上手く行ってもいいじゃなーい」


 そうこうしている内に、昼休みも終わろうとしていた。

 早く食事を済ませて収穫の再開だ。リアンヌは開いたお皿をカトリーナの分も一緒に下げに行った。


 そんなリアンヌの後ろ姿を見送り、カトリーナは空を見上げて呟いた。


「ほんと、世の中なんてそんなものだよね……ロイム」





******




「さあああああああ! 遂に、この日がやってきましたあ! 現在、七度の防衛に成功しているチャンピオンが迎え撃つのは、こちらも破竹の勢いで駆け上がってきた無敗の新人だあああっ!」


 リングの中央で男が大声を張り上げると、観客達のボルテージが一気に上がる。

 そこら中から、歓声と怒号が鳴り響き、一万人の観衆で埋め尽くされたコロッセオが揺れていた。


「まず入場するのはあっ! あの、拳神の血を受け継ぐ男、神の継承者。これまでの対戦相手全てをKOで葬ってきた最強の挑戦者! ディアレグストだあああ!」


 その瞬間、コロッセオ内は更に大きな歓声に包まれる。

 拳神ディアグラウスの血を受け継ぐ最強の拳が呼びこまれる。

 18歳と言う若さで、20戦20勝20KOと言う。最強の挑戦者だ。


「そしてええっ! その、最強の挑戦者を迎え撃つのは、皆様ご存知、なんど倒されても、その不屈の闘志で立ち上がり、数々の大逆転劇勝利を飾ってきた不屈の王者!」


 これまで大歓声を上げていた観客達が一斉に黙り込む。

 一万人の大観衆が一斉に口を噤み、息を殺して、その男の名が呼ばれるのを待っていた。


「さあ! チャンピオンの入場だああああああっ!」



 その瞬間、これまで以上の拍手喝采。観客達は一斉にチャンピオンの名を大合唱し始めるのであった。




*****




 ロゼッタ。

 ロイムと別れた7年後に結婚。相手はエドガーではなく、仕事を通じて知り合った商人の長男であった。マスタングを出て独立したロゼッタは様々な商売を手掛けると、女傑として大陸中にその名を轟かせるほどの大商人となるのであった。


 エドガー。

 何度かロゼッタに求婚するも玉砕。傷心のまま幼馴染である貴族の令嬢と結婚。奔放な性格は直らず、ポートマス家の正式な当主となってからも夜遊びは続いた。ちなみに、ロゼッタとはその後も良き友人として接し、金銭面のことでよく説教をされたりしている。


 セルスタ。

 ロイムが海を渡った3年後、奴隷達を先導して挙兵。奴隷の解放を大義に戦争を起こした。約2年半続いた奴隷戦争であったが、遂に王国軍に捕えられたセルスタは、民衆の前で両拳を切り落とされて処刑された。その姿は、かつて拳神の再来と呼ばれた面影はなかった。


今回で完結となります。

なんだか打ち切り漫画のような終わり方になってしまいましたが、約半年間お付き合いくださった読者の皆様、ありがとうございました。


ロイムとバンディーニの戦いはこれからだっ!

あぼのん先生の次回作にご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。 [気になる点] まさかの打ち切りエンド。 [一言] 読みたい人はいます。書きたくなったら是非再開してください。
[一言] 自分の中で想定していたストーリーの厚さの5分の1ぐらいで終わってびっくりした。駆け足感が否めないですが、その駆け足の速さ分自分がこの作品に惹かれたということなんでしょうね。ありがとうございま…
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