表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/83

76話 いつか見た光景

 最終ラウンド、これで全ての決着が付く。

 判定になった場合には俺の方が厳しいだろう。

 おそらく1ラウンドと3ラウンドはエドガーに取られた。

 このラウンドでぶっ倒すしかない。


 一分間のインターバルを挟んだとはいえ、カウンターを貰った俺はとっくに限界を超えていた。

 たった4ラウンド。ど新人の4回戦ボーイと同じラウンドしか戦い抜けない。

 17歳の俺の体は、まだまだ発展途上であった。


 わかってる、焦るな、ここからだ。俺達の戦いはまだ始まったばかりじゃないか。


 4ラウンド目開始のゴングが鳴る直前、バンディーニが耳打ちしたことを俺は頭の中で反芻する。

バンディーニが指し示してくれた道標、その先に必ず勝利が待っていると信じて。


 俺は痛む身体を引き摺るようにして、自コーナーから一歩足を踏みだした。

 エドガーもダメージは同様のようだ。既に手の内を隠す必要はない為に、サウスポースタイルでいる。

 このまま逃げ回って判定に持ち込もうなんて、そんな考えは持っていないだろうが。いかんせんお互い満身創痍の為に、決定的な一撃を与えられるかどうか。


 そんなこと考えている場合か。どちらにしろ俺は突っ込むしかない!

 両拳を顎の下に持っていき、頭を左右に振る。相手との距離が一歩縮まるに連れて、一回転、もう一回転。ギアを徐々に上げていく。

 これしかない、相手に的を絞らせず懐に飛び込むしか俺にはないんだ。

 エドガーはそんな俺の接近を阻止しようと、“右のジャブ”を放つ。これも左と同様にフリッカージャブだ。

 器用な奴だぜ。たぶんずっとこんなシチュエーションを想定して練習をしてきたんだろう。

 酒場ボクシングでは使えない手ではあるが、いつか大きな舞台に立った時に、その時の為に磨いてきた技。

 そして、必殺のカウンター。こちらは、まだ未完成のようだったのが幸いした。

 あれをエドガーが完全に体得していたら、既に試合は終わっていただろう。

 今も、振っている頭がガンガンと痛む。

 それでも、この痛みがなければ、俺はエドガーに立ち向かって行くことはできなかったかもしれない。

 倍返しにしてやるぜ、二度と立ち上がれねえ一発を、てめえの身体に叩きこんでやる。


 エドガーのジャブがヒットするが、俺はお構いなしに突っ込む。

 懐に潜り込んでボディーを打つがガードの上、そこから上へ2~3発ショートパンチをお見舞いするが、大きなダメージにはならない。

 エドガーはいたって冷静だ。やはり目が良い、全て躱すかガードしてきやがる。

 利き手でのストレートやフックなどの、大きなパンチを打ってこないのは、俺のことを誘い込みカウンターを狙っているから。

 いいぜ、そっちが防御に回るなら、俺は攻撃に回ってやる。

 いつまでも凌ぎ切れると思うなよ。


 フリッカージャブを掻い潜り再びエドガーの懐に飛び込むと、俺は渾身の右ボディブローを放った。

 エドガーはそれをエルボーブロック、左腕側は徹底的に防御を固めるつもりか。

 なら、右から崩すぜ。

 返す刀で、左のリバーを叩こうとするが、スウェーバックで距離を取られる。

 そのまま、むざむざと逃がすつもりはない。

 俺は渾身の力を足に籠めると突進、エドガーのジャブをガードで弾き飛ばしながら、一気に距離を詰めた。


 このタイミングならいける! 必ず決まる! そうすれば確実に相手をキャンバスに沈めることが出来る!


 そう思ったのはエドガーの方だろう。

 今のは俺を誘いだし、フィニッシュブローを打たせる為の後退。

 エドガーはここで間違いなく、距離を詰めた俺の右ストレートに、左のカウンターを合わせに来る!


 俺はバンディーニに言われた通りに動いた。


「乱打戦になった最中、エドガーが後退したら一気に追い込め、そこで確実にカウンターを狙って来るだろう」


 そう、間違いなく俺達がそんな風に読んで来るだろうと、ホランドは考える筈だ。

 だったら、裏の裏を読む? そんなことしたってしょうがない。どっちが正解かなんてわからないんだ。


 だから、バンディーニはこう言った。


「だったら力で捻じ伏せろ! 相手のカウンターを、君の拳と足で押し返せ!」


 バンディーニが狙ったのは相討ち。

 俺の左か、右か、どちらにエドガーが合わせてくるかわからないが、迎え撃てというのがバンディーニの結論だ。


 無茶苦茶だと思うが、結果、それが功を奏したのだから、作戦としては8割は成功したと言えるだろう。


 俺の左ストレートがエドガーの顔面にめり込むのと同時、エドガーの右フックが俺の首を刈る。

 一瞬気を失いそうになったが、なんとか意識は繋ぎとめておけたっぽい。

それでも、身体は言うことをきかなかった。

 自分の意思とは反対に、いや、反対どころかなんの反応もない。

 ゆっくりと、キャンバスが眼前に近づいてくるのが見える。


 ああ、この光景、どこかで見たことあるなぁ……。


 そんなことを考えながら、俺の身体は勝手に傾きキャンバスに膝をつくと、前のめりに倒れ込んだ。

 その時、眼前に見えたのは、同じようにロープに凭れ掛かりながらも、膝から崩れ落ちて行き、前のめりに倒れ込むエドガーの姿。


 ダブルノックダウンであった。



 続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ