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72話 反撃、一進一退の攻防

 仕切り直しだ。このラウンドで巻き返す。

 1R目はドタバタしちまったけど、ダウンを取られたのもタイミングよく打たれてつい膝をついちまっただけだ。

 ダメージはほとんど残っていない。

 もうまんまとおまえらの策には乗らないぜ。


 エドガーは、やはりと言うか、当然1Rとは違い突っ込んでは来なかった。

 二度も三度も同じ手は通用しないってことはわかっているらしい。

 それもそうだ、ロングリーチがあるのだから、わざわざ俺の間合いに入ってくる必要なんてない。

 要するに、1R目はエドガー側も俺達と同じように、相手の不意を突いて一気に片を付けよう作戦に出たと言うわけだ。

 今回は譲ってしまう形にはなったが、そこで攻めきれず、決めきれなかった時点で引き分けだ。2R目からは、本当の実力がものを言う勝負となる。


 エドガーは俺と距離を取って、フリッカージャブで攻めてくるファイトスタイルに切り替えたようだ。いや、この場合は本来のスタイルになったと言う方が正しい。

 相手がジャブを放つタイミングを見計らっている間に、俺はゆっくりと頭を左右に振り始める。

 そして少しずつ速度を上げ、回転力を増していく。


 どうだ? こんな高速ウィービング。これまで戦ってきた相手には居なかっただろう。捉えられるもんなら捉えてみろ。


 エドガーはジャッブを放ってくるのだが、高速で左右に頭を振り続ける俺を捉えることができない。

 二度三度、ジャブが不発に終わると、明らかに不満な表情を滲ませた。

 焦れろ、焦れろ、今度はおまえが苛々する番だぜ。

 内心ほくそ笑みながら、俺は飛び込む振りを見せたり、フェイントを織り交ぜながらエドガーを挑発する。

 そんな俺の挑発に乗らずに、エドガーは根気よくジャブを放ち続ける。

 偶にヒットするのだが、クリーンヒットではない。当然俺はピーカブーで顔面を固めた状態なので、ガードは出来ている。


「行けロイムっ! 多少強引でも構わない、抉じ開けろ!」


 バンディーニの掛け声で、俺は一気にエドガーとの間合いを詰めた。

 覚悟が決まれば、ちょっとやそっと被弾した所で怯みはしない。

 俺の圧力に、エドガーが苦い顔をした。

 バックステップで下がろうとした瞬間。


「遅いぜ」


 俺の右ブローが炸裂する。

 ドンっと言う重い音が響き渡ると、観客達はどよめいた。

 明らかに俺よりも体格の大きいエドガーが、後方へ弾き飛ばされたからだ。

 パンチはクリーンヒットではなかった。


 ショルダーブロック。


 エドガーの構えは、左手を下げるヒットマンスタイル。

 右腕と左腕が丁度、L字になる。L字ガードの状態がスタンダードなポジションだ。

 だから必然、左肩が前に出る。

 相手の右ブローを防ぐ為に、肉の厚い肩で受けるのが定石だろう。

 これは、下手をすると肩を痛めるので推奨しないトレーナーも多いのだが、ディフェンスの名手である、メイウェザーなんかも多用しているガード技術でもある。


 上手いこと俺のブローをガードしたものの、身体が弾き飛ばされる程の威力のパンチを食らったエドガーは唖然としていた。

 驚いている今がチャンスとばかりに、俺が突っ込むと観客達も今のパンチで目が覚めたのか、一気に歓声が沸き上がる。

 ウィービングをしながら一気に突っ込む。

エドガーは十八番であるフリッカージャブで俺を引き離そうとするが、突進力に負けてロープ際に押し込まれた。

 フリッカーを完全に攻略できたわけではないが所詮はジャブだ。2~3発喰らうのを覚悟で突っ込めばこっちのペースに持ち込めるぜ。

 ロープで後方に逃げ場のないエドガーを強引に押し込むと。俺はボディにショートパンチをお見舞いしてやる。

 エドガーの顔が苦痛に歪むのが見えた。

 効いている。こんなパンチは貰ったことがあまりないのか、明らかにボディが弱い。

 エドガーも応戦しくるのだが、密着したインファイトになると、ロングリーチが仇となる。

 狭いスペースでの回転力では明らかに俺の方が上だ。

 左右のフックでバランスを崩したところで空いたガードの隙間。

 右のボディーブローを突き上げるように喰らわせてやると、エドガーは腹を押さえながらその場で片膝を付いた。


「ダウン!」

「オラーっ! 見たかこの野郎っ!」


 膝を付くエドガーに向かって右拳を突き出していると、早く自分のコーナーに戻れとレフェリーにドヤされた。


「いいぞロイム! その調子だ。明らかにボディが効いている、そこを徹底的に攻めろ」

「わかってるよ! スカっとしたぜあの野郎、1Rは散々にやられたからな」


 リング下から大声で叫んでいるバンディーニの声が掠れるくらいに、お互いのサイドの観客席からは怒号が飛び交っていた。

 序盤からダウンの応戦となったので当然だ。

 観客は俺達の試合を見て、明らかにヒートアップしている。

 まるで比較にならない程の動員数なのに、コロッセオに居るかのような熱狂ぶりだ。


 エドガーは、ロープに手を掛けながら8カウントで立ち上がるとファイティングポーズを取る。

 レフェリーが開始の合図をするのと同時、俺は一気に畳みかけようと突っ込んだ。

 それを待っていたかと言うように、今度はエドガーが先に右拳を突き出してくる。


 見え見えだぜ! その拳を躱して懐に飛び込むと、俺は違和感を覚えた。

 なんだかわからないが、嫌な予感がする。

 エドガーは、相も変わらず苦しそうな顔をしているのだが、どこか余裕があるようにも見える。


 そんな気がして、結局俺は攻めきることができずに、第2ラウンド終了のゴングが鳴り響くのであった。



 続く。


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