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69話 特攻! 騙し合い?

 お互いのコーナーに戻るとゴングが鳴るのを待つ。

 今回の拳闘ルールはかなり近代ルールに近い物だ。

 1ラウンドは3分間。ラウンド毎のインターバルは1分間。テンカウント、3ノックダウン制。金的や頭突き、目潰し等は当然禁止。出血などによるレフェリーストップもあればTKOもある。

 これらは全て、エドガーのトレーナーであるホランドが提案したものだ。

 どうやら酒場拳闘ではこれらがかなり定着しているらしく、今回レフェリーを務めるのも不良達の一人だ。

 ちゃんとしたジャッジングをするか不安ではあったが、これはもう相手を信じるしかない。

 そしてこれまでと一番違うのは、手に付けているグローブだ。

 拳闘士達が装着している、革のロープを手に捲いただけの物と違って、しっかりと手袋状になっていて、拳を覆っている。

 親指だけ指ぬきグローブのように出ているが、他の四本の指は袋の中に覆われるようにできている革グローブであった。

 これもホランドが設計した特製のグローブらしかった。

 もうここまでくれば、ほとんど近代ボクシングと変わらない。

 こちらの世界では本家であるコロッセオでの拳闘よりも、場末の酒場で行われている拳闘の方がよっぽど進歩したものであると言えるだろう。

 勿論現代人であったホランドの入れ知恵もあっただろうが、それらを受け入れ自ら発展させていった酒場拳闘という土壌の広さには感心する物があった。


 さて、説明はここまでにして。

 俺は、はっきり言ってそれどころではなかった。

 エドガーに言われた一言、ロゼッタが俺に惚れている? そんな馬鹿なことがあるか、あいつはいつもいつも、理由もなく俺に暴力を振るう女なんだぞ。

 出逢った時からそうだった。俺と居る時はいつもカリカリしていて、なにか言うとすぐに引っ叩きやがる。常にご機嫌を伺わなければならないこっちの身にもなってみろってんだ。

 そんな女を賭けて勝負だと? 欲しいなら勝手にもってきゃいいだろ。なんで俺がロゼッタの為に殴り合いをしなくちゃならないんだ? て言うか、なんで俺はあいつと試合をするんだっけ? 根本的な理由がもうわからなくなりました。


「…イム……ロイム! 聞いているのかロイムっ!」


 ふと顔を上げると、険しい顔でバンディーニが俺の名前を呼んでいる。


「なにをぼーっとしているんだ。もうゴングが鳴るぞ」

「ああ、わかってるよ」

「エドガーになにか言われたのか? くだらない挑発だ、君は君のこれまでやってきたことを信じて戦えばいいんだ! 余計なことには耳を貸すな」

「わかってるよっ! くそ! どいつもこいつも俺のことをなんだと思ってんだ!」

「なにを怒ってるんだ?」

「知るかああああああっ!」


 俺が叫ぶのと同時、ゴング代わりにバケツを木槌でガンガンと叩く音が鳴り響く。

 セコンドであるバンディーニがリングから降りるのと同時に俺は一気に飛び出して行った。

 最初の作戦、それは先手必勝。

 対角線上に居るエドガーの元に一気に飛び込んで行ってぶちかましてやる。防御の練習をしてきたからと言って、なにも先に相手に打たせてやる必要はない。俺の特攻に面食らっている所に一発ぶち込んでやればこっちのペースに持ち込める可能性だってあるんだ。


 そう思い一気にエドガーとの距離を詰めようとした所で、俺は逆に面食らってしまった。

 対角線上に居たエドガーも、俺と距離を取ろうとせずダッシュでこちらに突っ込んで来たのだ。

 想定外の出来事に俺はブレーキをかけてしまった。

 それを見て構わずに先に右を放って来たのはエドガーの方であった。


「な!? なにをやってんだロイムっ!」


 バンディーニの叫び声が聞こえるが、それどころではない。

 ロングリーチを活かして、アウトボクシングを仕掛けてくると思っていたエドガーが、まさか距離を詰めてインファイトをして来るとは思っていなかった。

 エドガーは俺のガードの上から左右のラッシュを打ってくる。最初からエンジン全開であった。


「ロイム! 固まるな! 体を振れ! そこはおまえの得意な距離だろうっ!」


 バンディーニの助言は耳に入らなかった。

 俺はエドガーと真っ向から打ち合うことを避けて、距離を取ってしまった。

 バックステップでエドガーから離れる、追撃に来た所をフットワークで躱しつつ体制を立て直すんだ。


 しかし、それは悪手であった。


 距離を取った俺のことを、エドガーは見送りそのまま離れた。

 なぜ追ってこない?

 そう思った瞬間、エドガーの左腕がダラリと下がる。


「しまっ……」


 つい声に出してしまった。

 その瞬間、乾いた革の音が響き渡った。


 顔面に衝撃を受けると、頭が後ろに跳ねあがる。

 それが二発、三発と続く。堪らず離れようとするのだが、追撃が来る。

 ジャブを打たれている。しかし、まるで拳が見えない。どこから飛んで来るのか目視できなかった。


 フリッカージャブ。


 初めてその身に受けてみてわかる。こいつがどれだけ厄介な代物であるかを。

 警戒していた筈のフリッカージャブであったが、エドガーとホランドの立てた作戦にまんまと嵌り、俺は成す術もなく見えない左に打たれるのであった。



 続く。


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