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68話 一人の女を賭けた、男達の闘い?

 控室として使っていた小屋から出て来ると俺は驚いた。

 港の一角にあるスペースに立派なリングと観客席が出来上がっていたからだ。

 なにより驚いたのは、満員御礼であること。席はぎっしりと観客達で埋まっていて、座れなかった客たちも所狭しとひしめいている。中には倉庫や建物、果ては船のマストによじ登っている者もいた。


「すげーな、まるで後楽園ホールみたいだ」

「まったくだ。ロゼッタお嬢様にこれだけのビジネスの才能があるなんて思わなかったよ」


 バンディーニも舌を巻いた様子で驚いている。


 観客を掻き分けるようにセンターのリングに進んで行くと歓声と拍手が巻き起こった。


「ロイムーっ! 貴族のおぼっちゃんをぶっ飛ばせるチャンスなんてそうそうねえからしっかりやれよっ!」


 どこからかそんな応援が聞こえてくると、どっと笑い声で沸く。

 なるほど、こいつらはそれを見にここへ来たというわけか。

 港で働いている奴らは、奴隷階級の者がほとんどだ。まあ別に貴族などの支配階級に対して恨みを抱いている奴らが大半ってわけでもないが、やはり胸がスカっとする思いはあるのかもしれない。


 俺がリングに上がると、次はエドガーの入場である。

 ブーイングが起こると思いきや、意外に歓声で迎え入れられていた。

 俺はつい最近知ったのだが、あの不良貴族。毎晩のように喧嘩に明け暮れて街じゃ有名なゴロツキだったらしい。

 というわけで、不良共の間ではかなりカリスマのある奴だと言うのだ。


 海に生きる男達も血気盛んな奴らが多い。と言うことはなるほど。

 ロイムサイドとエドガーサイドの観客達で既に火花バチバチと言った感じで、一触即発の状態だ。

 この構図を狙って作ったのかはわからないが、ロゼッタの奴意外におもしろいことをしやがる。

 コロッセオでの拳闘試合では、有名な選手にはそれなりのファンは付いてはいるが、ほとんどが選手の事もわからず見に来ている客がほとんどだ。

 どっちサイドにファンが付くなんてことはほぼない。選手の事もわからずただ殴り合っていることに歓声をあげているだけなのだ。


 今回は一ヶ月間共に働いてきた港の仲間達が俺の応援を、そしてエドガーと共に喧嘩に明け暮れて、酒場で拳闘試合をしてきた仲間達がエドガーの応援を。

 観客達も一緒に戦っている気分になれるので、盛り上がるに決まっているだろう。


 俺が自分のコーナーで素振りをしていると、リングサイドにロゼッタが上がって来て声をかけてきた。


「ロイム、大丈夫なの? あんた、なんかもう既にズタボロじゃない」

「まあよくあることだよ気にするな」

「気にするわよ、あんた、エドガーに勝てるの?」

「さあな、やってみないとわからないけど。負けるつもりはないよ」

「そうじゃなくて……」


 ロゼッタはなにを心配しているのだろうか?

 不安気な顔で俺のことを見つめるロゼッタのことを、プロモーターがこんなところに上がってくんじゃねえと、リングから下ろした。

 ロゼッタは不満そうな顔をしていたが、大人しく自分の席に戻る。


 そうこうしているとエドガーがリングに上り、拳を突き上げて自分の応援団を沸かした。

 そして俺のサイドの応援団の方に来ると、挑発的に拳を突き出した。


「ちっ、いけすかねえ野郎だぜ」

「君は本当に単純だね、あんな挑発に乗るんじゃないよ」


 呆れ顔で言うバンディーニのことは無視してリングの中央へ行くと、エドガーもやってきて俺達は向かい合うと睨み合った。


「まだ試合も始まってないのに随分と男前じゃないか」

「うるせえな、すぐにてめえもこうなるぜ」


 挑発に挑発で返す。エドガーは軽く笑うとそれを受け流して、目線を横に送った。

 その視線の先に居るのがロゼッタであることはすぐにわかった。


「正直、侮っていたよ」

「はあ? これから打ち合うんだぜ?」

「違うよ。まさか、あんないい女だとは思わなかった」


 何を言っているのか理解できずに俺が首を捻っていると、エドガーは呆れ気味に溜息を吐く。


「ロゼッタのことだよ」

「はぁ? おまえら婚約してんだろ、結婚する前に相手の魅力に気づけてよかったな」


 俺のその言葉に、エドガーの視線が鋭くなる。

 エドガーは前に踏み出すと、俺の額スレスレまで自分の額を近づけてきた。

 その行為に観客達は沸く。しかし、エドガーは俺にしか聞こえないように言った。


「婚約は知らない内に親が決めたことだ。だから、俺達の意思は関係のないことだった」

「だった?」

「そうだ。でも、この一か月半で俺は気が付いたぜ。俺は、ロゼッタに惚れている」

「ああそうかい、だったら本人にそう言ってやれよ」

「おまえを見ていると苛々するぜ、まったく。俺が惚れていても、ロゼッタの方にその気がなかったら意味ないだろ」

「知らねえよそんなの、自分でなんとか惚れさせろよ」


 エドガーは、呆れ果てて天を仰ぐ。そして再び俺の顔を見据えた。


「馬鹿かおまえは! ロゼッタはおまえに惚れてんだろうが」

「はぁ……、はあああああっ?」

「ロイム、決めたぜ。この試合はロゼッタを賭ける、俺とおまえの男の勝負にしろ」


 なにを言っているんだこいつは? ロゼッタが俺に惚れてる? なんでロゼッタを賭けて俺がこいつと戦わないといけないんだ?


 まじで意味がわからん?




 続く。


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