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67話 ロゼッタの戦い

 その日の港は早朝から慌ただしかった。

 港なのだから当然と言えば当然なのだが、それはいつもと違った慌ただしさ。

 陸揚げされる海産物とは別に、木材やロープ等が山の様に運び込まれる。

 それを大工たちが手際よく組み立てて出来上がったのは、紛れもなくボクシングリングであった。


 一辺が6メートル弱の四角形。正確に測ったわけではないので正方形ではない。

 もっとも、現代のボクシングリングも正方形ではないので似たようなものだろう。

 そのリングの周りに、三段に組まれた即席の木製長椅子が取り囲むように作られていく。


 男達の怒号が飛び交う中、その特設試合会場を見つめてロゼッタは大きく息を吸った。


 いよいよ始まる。

 これが、自分が初めて主催する拳闘(ボクシング)興行であると意識すると、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。

 ロイムとエドガーの試合が決まってから一か月半。ロゼッタは二人の試合をどこで開催するかに頭を悩ませた。

 当然コロッセオなんかを押さえられる伝手もなければ資金もない。かといって、誰かの主催する興行に参加するのでは意味がない。1から10まで全てを、ロゼッタ・マスタングが取り仕切るものでなければ意味がないのだと、ロゼッタは考えていたのだ。


 兼ねてから候補の一つに上げていた、この港市場の一角あった空き地スペース。

 ここの地主とは、マスタングの経営する海運業との縁もあり顔見知りであった。

 特に使う予定もないので、1日だけなら好きに使ってもいいと言って貰えたのも、ロゼッタの日々の営業努力によるものであった。


 問題はリングと客席の設営費、そして人件費であった。

 父トーレスに借りるという手もあったが、そこはロゼッタのプライドが許さなかった。

 銀行に融資して貰うのも、マスタング家のご息女だからとあっては同じこと。

 ならばと、ロゼッタは港を運営する商人達に話しを持ちかける。

 今回の試合で賭けを行う、その賭け金のマージンを出資額に応じた率でバックすると言うものだ。

 ロゼッタにとってはそれ自体が賭けであった。

 そんなに上手くいく話ではないと思っていた。

 コロッセオでは下火になっている拳闘試合を誰が見に来るのだと、そう突っぱねられる可能性が高かったからだ。


 しかし、そこで思わぬところからの援護射撃が入った。

 真っ先に手を挙げたのが、海運商の名手であるナザレック海運であったからだ。


「港という場所は特殊な場所だ。世界中の物が人が、様々な物がこの場所には集まっている。それは形ある物に限らず、情報という物もそうだ。今回の拳闘試合、これが海を越えて伝わった時、どのような商材になるか興味が沸いた」


 これが鶴の一声であった。

 港の土地経営者のみならず、多くの海運業者や港に出入りしている業者が興味を示し、スポンサーとなったのだ。

 これはつまり、そこで働いている労働者達も観客として見込めると言う寸法だ。


「お嬢さんっ! こんな感じでいいかい?」


 隣で聞いてくる大工の棟梁の大声に、眉を顰めて頷き返すロゼッタ。


「舞台は整ったわ。ロイム……あとはあなたの番よ」





 一方その頃、ロイムは……。



「いてて……」


 体中(主に上半身)に出来た擦り傷にディックが薬を塗り込むと俺は声を上げた。


「こんな直前まで練習をさせるなんて、バンディーニ先生はなにを考えているんだろう」

「知らねえよ。あいつがなにを考えてるかなんて。まあ、ウィービングでジャブを避けるだけだから、そんなに身体に負担は掛からないけど」


 そうは言いながらも、パンパンに顔の腫れている今の俺の姿では説得力はないだろう。


 バンディーニに課せられた練習を、船の荷揚げと並行して俺は約一ヶ月間みっちりと行った。

 その結果、下半身はかなり強化されたと自分でも思っている。

 ミット打ちバッグ打ちなんかの時に感じたことだが、踏込みの強さと安定感が増したのでかなりパンチ力は向上されただろう。

 そして、いまだに苦戦しているのが、ウィービングでジャブを躱して相手の懐に飛び込むあれ。顔がパンパンに腫れているのはその所為だったりする。

 当たり前だ。トールとディック、二人並んで同時にジャブを出してくるんだぞ。

 最初の方なんて二人面白がって、左右交互に出してくるもんだから全部俺の顔面にヒットしてジャブだけで気を失ったわ。

 とにかく、ウィービングに関しては漠然と頭を振り続けても意味がない。

 時折フェイントを交えて不規則に、変則的に頭を振り続けなければならない。

 そして最も重要なのが踏込みの瞬間だ、相手のジャブを躱すのと同時に前に出るよりも、ジャブを引くのと同時に一気に懐に飛び込む。このタイミングを違わなければ、まず間違いなく、エドガーは反撃する間もなく俺の強打をその身体に味わうことになるぜ。


「それにしてもトールは残念だったな」

「仕方ないよ、今日は牧場の方が忙しいみたいだし、これまで練習に付き合ってくれただけでも感謝しないとね」

「ああ、おまえもサンキューなディック」

「お礼なら勝って見せてから言ってくれ」


 そう言うと、右拳を前に突き出すディック。

 俺はそれに拳で応えると、立ち上がり試合に向けてアップを始めた。



 続く。


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