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66話 パンチの軌道

 欠点がなんなのか。その答えをバンディーニに告げられないまま、俺はトールとスパーリングをするように言われた。

 はっきり言って今はそんな気分ではなかったが、その欠点と言うのが気になるのと。

 それを克服する為にトールとディックの二人を呼んだ理由が気になってしまい。

 結局俺はまんまとバンディーニに乗せられてしまった。


「トール、あれから練習は続けてるのか?」

「いや、正直言ってあまり。仕事の方が忙しくてそれどころじゃ……」


 自信なさげに頭を掻くトールのことを横目に、俺はバンディーニのことを呆れ顔で見る。

 それでもバンディーニは余裕の表情で説明を始めた。


「それじゃあ二人とももう少し離れて、そうそのくらいの位置で」


 俺とトールは、約1.5メートルくらいの間隔で向かい合って立った。


「よーし、じゃあ構えて。トールは普通にジャブを打てばいい。そしてロイム」

「なんだよ」

「君は、その位置から踏み込まないように。ウィービングだけでジャブを躱し続けて」


 なにがしたいのかよくわからないが、俺はバンディーニの言葉に頷いた。


「じゃあ、始めっ!」


 バンディーニの合図でトールがジャブを放つ。

 練習はしていないと言っていたが、中々に鋭いジャブを打ってくる。

 しかしそれでも、少し出来る程度といったところだ。今の俺には難なく躱せるレベルのジャブ。

 確かにリーチが長くて、このままでは俺の攻撃は届かないが、一気に踏み込んで懐に飛び込むのは容易だ。

 俺がそんなことを考えながら頭を振り続けているとバンディーニが指示を出してきた。


「よしロイムそのままで、私が合図をしたら、インに飛び込め」

「はあ? 一体なにがやりたいんだよ?」

「いいから、トールのジャブに集中しろ!」


 集中しろったって、話しかけてきたのはおまえの方だろうが、と俺は心の中で文句を言う。

 トールはずっとジャブを打ち続けているのだがスタミナ切れだろうか、だいぶ疲れが見えてきている。


「よしっ、今だ!」


 トールがジャブを放つ態勢に入った瞬間、バンディーニの指示。

 俺はそれに合わせて、頭を屈めてヘッドスリップの要領でジャブを躱しトールの懐に飛び込むと、そのまま右ブローを腹にお見舞いしてやった。


 腹を抱えながら地面で悶絶しているトールのことを見下ろしながらバンディーニが呟く。


「飛び込むだけで、パンチを打つなって言うのを忘れてた」

「おまえ、バカだろ……」




 しばらくして、トールが回復すると井戸の水を持って来てやった。


「いたたた、やっぱロイムのボディは効くなぁ」

「あれでも手加減したからな。鍛えてねえ奴の腹殴ったら、死ぬ可能性もある」


 俺の言葉にトールの顔が青褪めた。

 それを聞いていたディックが、苦笑しながら言う。


「ロイムのリバーブローは鍛えていても死にかねない」


 その言葉に皆で大笑いしていると、バンディーニがようやく俺の欠点の説明を始めた。


「ロイム、素晴らしいダッキングからのヘッドスリップインだったよ」

「そいつはどーも、あそこからのボディ攻撃が今の俺の代名詞みたいなものだからな」

「なるほどね、じゃあ今日からはその代名詞が君の欠点だ」


 バンディーニの言葉に俺が眉を顰めると、トールとディックはバツが悪そうな顔をした。


「どういう意味だよ?」

「君のステップインの技術は確かに目を見張るものがある。なんと言っても、相手の攻撃を擦れ擦れで躱して懐に飛び込んで行くその勇気は称賛ものだ」

「なんか、馬鹿にされている風に聞こえるな」

「まあ、そう言わずに聞け」


 バンディーニは真剣な表情で俺の目を見据える。


「フリッカージャブは何処から出て来ると思う?」

「はあ、どこからってそりゃぁ……あ」


 バンディーニの質問で俺は気が付いてしまった。

 フリッカージャブ屈指の使い手であるハーンズの構えを頭の中に思い浮かべる。

 左を前に半身に構える。右腕は折り畳み側面ボディを右手は顎下をガード。

 そして解放された左腕は、腰の辺りで振り子のように揺れている。


 そこから手首のスナップを利かせて鞭の様に繰り出されるジャブの軌道は……。



「下から出て来る……」

「そうだ、フリッカージャブが読みづらいと言われている所以は、どこから出て来るかわからないと言うのがある。ほぼ視界の外から様々な軌道を描いて飛んで来るんだ当然だろう」


 なるほどと、俺のみならずトールもディックも唾を飲み頷く。


「しかし、デトロイトスタイルである以上、初期動作は必ず下からやってくる。それを下に屈んで避けるダッキングで躱すなんてナンセンスだろう」


 言われてみれば確かに。ただ日頃の練習で身体に染みついているこの動作を、いきなり直せと言われてもそう簡単に癖が抜けるわけがない。


「んなこと言ったって、相手の懐に飛び込むにはそうするしか」

「そんなことはない。タイソンだってウィービングをしながら前進して相手に圧力をかける動きを練習していたんだぞ」

「た、確かに……」


 バンディーニは車座になっていた俺達に立つように促すとニヤリと笑った。

 これは絶対に、なにか良からぬことを考えている時の顔だと俺は知っていた。


「と言うわけで、ロイムにはこれから。トールとディック、この二人を同時に相手に、ジャブを躱す練習をしてもらう。その際、一切の反撃は禁止。ウィービングだけで避けて相手の懐に飛び込むように! ダッキングで躱したらペナルティを与える!」


 な、なんだってえええええええええええっ!


 こいつ、マジで馬鹿だろ。




 続く。


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