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63話 アルバイトレーニング?

 俺達は今港に来ている。達と言っても俺とバンディーニの二人だけであるが。

 ロゼッタはなにやら別の用事があると言うので今日は別行動であった。

 なにやら秘密の特訓の為だとバンディーニは言っている。


 昨夜、帰って来るなり興奮した様子でバンディーニは捲し立ててきた。


「ロイム! 我々は絶対に勝たなくてはならない! エドガーのトレーナーも転生者だった。しかし、私は彼の考え方には賛同できない。我々の成すべきこととは! 人々の犠牲によって成り立つものであってはならないんだあっ!」

「な、なんだよいきなり? 落ち着けよ気持ち悪りぃな」

「落ち着いていられるか! きっとホランドはエドガーに様々な現代ボクシング技術を教えている筈だ。これは一筋縄ではいかないぞ」


 ホランドって誰だよ? あの爺さんのことか? てーかエドガーのトレーニング見に行ったんじゃないのかよこいつ?

 そう思いながらも、とりあえず俺はめんどくさいので適当に話を合わせてやることにした。


「そりゃぁ、フリッカージャブの攻略は難しいだろうけど」

「フリッカー対策だけではダメだ。きっと彼らはこちらがそれをやってくることも念頭に入れている筈だ。だったらその上を我々は目指さなくてはならない。いいかいっ! 明日は日の出前に出掛けるからそのつもりでいるようにっ!」

「いるようにって、一体なにを……? お、おいっ? 聞いてるのかよっ!」


 てな感じで、鼻息を荒げながら明日の準備があるからと言い残し、バンディーニは俺の質問は無視して帰って行ったのだ。


 そして今日、早朝からこの港で何をするのかと言うと。

 バンディーニは、なんだか俺のことを指差しながらおっさんと親しげに話している。そして話し終えると俺の所へ駆け足で戻ってきた。


「オーケーだってさロイム」

「なにがオーケーだ。何の話だよ!」


 親指を立てながらウインクするバンディーニ、なんか無性にムカつくな。


「君には今日から一ヶ月間、この港で積み荷の揚げ降ろしを手伝って貰う」

「手伝いってことはタダ働きってことだな」


 俺が呆れながら言うと、バンディーニはチッチッチと人差し指を振りながら答えた。


「そのつもりだったけど、ここの主人は良い人でね。働いた分はきっちり払わないと他に示しがつかないし、士気が下がるってんで、給料はちゃんとくれるってさ」

「はぁ、気前がいいもんだな」

「金払いの悪い雇い主には誰もついてこないからね。それに今や海運業は人手不足なんだ。海路による貿易は、陸路よりも大きな富を生み出す商売になっているからね。若くて健康な男は引く手数多さ」


 と言うわけで、俺は今日から拳闘士ではなく水夫の真似事をすることになった。

 まあ俺が手伝うのはマスタングの商船なので、最初から話はロゼッタ経由で通っていたんだと思う。

 親方に連れられて簡単な説明を受けると、港に運ばれてきたばかりの様々な積み荷の集積所に行く。


「要するにこいつを運んで足腰鍛えろってことだろ。今更感もあるけど、あいつにも何か考えあっての事だろうから、いっちょやってやるか」


 そう言いながら、指示通り港に停泊している一番でけぇ船に荷物を運んでやろうとすると。


「新入りいいいっ! そっちじゃねえこっちだあっ!」


 と、親方に怒鳴られる。

 積み荷は一番でかい船に運ぶって言っていたと思うのだが、親方の指差した方を見て俺は噴き出してしまった。


「ぶぅぅぅぅうううう! なんだありゃ、で……でけえ」


 少し離れた沖合に、まるでタンカーのような……まあそれは言い過ぎだが、とにかくとんでもないデカさの帆船が止まっていた。

 たぶん、デカすぎてこの港まで入って来られないのだろう。


 つまりどうするのかと言うと。

 まず数隻の小舟に荷物を積み込んで、そこから沖に止まっている船に積み直すというのを繰り返すのだ。

 二度手間だなと思いつつも、俺は一つ目の積み荷を小舟に乗せようとしたところで、このトレーニングの意図を理解した。

 俺が抱えている木箱は、一辺が1メートルくらいの正方形の木箱である。何が入っているのかはわからないが異様に重い。

 それを背負って運んでいるのだが、小舟の上はめちゃめちゃ揺れるのだ。

 ベテランの水夫たちはそれをいとも簡単に熟していた。

 足元を見ると脹脛の筋肉が異様に盛り上がっているのが見える。

 そして、バランスを崩さないように爪先でしっかりと船底を掴んでいる。素晴らしいバランス力だ。

 バンディーニは、俺の下半身をこんな感じにする為に、短期間でビルドアップしようと考えているらしい。


 おそらくその狙いは突進力の強化。

 ロングリーチのエドガーと俺のリーチでは、普通に打ち合っていたらこちらの攻撃は当たらない。攻撃を当てるには相手の懐に飛び込むしかないのだ。

 当然相手はそれを見抜いている筈だ。なによりフリッカージャブという厄介な弾幕を張られてしまっては、そう簡単に懐に飛び込めない。

 ちょっとやそっと打たれても退かない。そんな下半身の強さと、突進力を鍛えようとしているのだろう。


「くっそがぁ、例の漫画のごとく砂浜を走り込むとかそんなんじゃダメだったのかよ……」


 愚痴を零しながら、二つ目の荷物を小舟に積もうとすると、水夫の一人が大声を上げた。


「揺れるぞおっ!」


「ん? なんて?」


「ばかっ、新入り! 危ねえぞっ!」


「え? って、ぬおわあああああああああああっ!」



 直後、波に煽られた小舟が大きく揺れると、俺はバランスを崩して荷物ごと海に転落。なんとか無事、引っ張り上げてもらったものの、積み荷の一つをパアにしてしまったので、今日の俺の給料はマイナスになるのであった。


 そんな酷い話ってある?



 続く。


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