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50話 そして、戦いの幕が上がる

「私もかつて拳闘士だったんだ」


 静かに言うバンディーニの言葉に、俺は少し驚くものの黙って続きを聞く。

 ロワードがデビュー戦で命を落としてから1週間が経っていた。


 訓練生達もそれなりに元気を取り戻し、少しずつではあるが練習にも身が入るようになっていた。

 そんなある日、俺は一人でバンディーニの個室に呼び出されて突然そう告げられた。


「もう、10年も昔の話さ。これでもね、それなりの戦績を残したんだよ。でもね、それなりだったさ。こちらに来ても私は凡人だったんだよ」


 自嘲気味に笑うと、バンディーニは遠い目をする。

 こちらに来てもと言うことは、俺と同じように転生者であるバンディーニは、元居た世界でもボクサーだったのだろう。


「それでもね、こんな私を拾い上げてくれた人物がいる」

「マスタングが……」

「そうだ。マスタングさんは私の勝率よりも、試合数の多さとダウンの少なさに目を付けたんだ」


 バンディーニは5年間の拳闘士生活の中で250試合も熟したと言う。月平均で4回以上も試合をしている計算だ。

 ほぼ毎週試合をするなんて、現代では到底ありえない。

もし、そんなペースで試合をしている選手が居るとしたら、それは最早、自殺行為と呼んでもいいレベルだ。


 バンディーニはとにかく、試合を熟すことを目指したらしい。

 戦い続ける内に、この世界で生き残る為の活路が開けるのではないかと考えたのだ。

 それを続ける為には、とにかく怪我をしないことが最重要だった。

 幸いこちらの試合には階級はない。なので減量による身体への負担はなかった。

 とは言うものの、毎週試合をしていたら、当然身体へ掛かる負担はとてつもないものになる。

 だからバンディーニは、程良いところでわざと負ける技術を身に着けたらしい。


「良いパンチを貰った振りをしてね。大げさに首を捻りながら倒れてやれば、皆納得するからね。そうやって私は、この世界での生き残りを図ったんだよ」


 壊れずに試合に出続ければ、それなりの利益を主人に運び続けることができる。

 ジョーンさんのように頑丈でなければ出来ない事を、バンディーニは頭を使い拳闘士の世界で生き残ったのだ。


 その結果、マスタングに見出されたバンディーニは、今もこうして拳闘士を育てる指導者として居られると言うわけだ。


「そうか……負けることも、奴隷拳闘の世界では一つの選択肢ではあるんだな……」


 俺がそう零すと、バンディーニの顔に悔しさが滲んだ。

 拳を力いっぱい握りしめて、歯を食いしば姿は、怒りを押し殺しているようにも見えた。


「私は、勝ち方を教えたが、負け方は教えられなかった。ボクサーとしての戦い方は教えられたが、人として生き残る術を教えることは、私にはできなかったよロイム……」


 ロワードのことを言っているのはわかった。

 死んで勝利をすることになんの意味があるのかと、負けても生き残りさえすれば、それが勝利なんだと、バンディーニはきっとそう言いたかったのだろう。


「いや、バンディーニ……それは違うよ」

「ロイム?」

「俺はある人に言われたんだ。俺達拳奴の拳は、大事なものだって」


 俺は、今もかさぶたの残る拳をバンディーニに見せながら言う。


「これは、俺達の誇りを守る為の拳なんだと。俺達はただ生きる為に、それだけの為にこの拳を鍛え上げてきたのか?」

「ロイム……それでも私は、君達を死なす為にリングに上げたいわけじゃない」

「違う! 俺達は、死ぬ為にリングに上がるんじゃないんだ! 守る為に! この拳で、俺達がボクサーとして、生きる証を守る為に戦っているんだ!」


 いつしかバンディーニは涙を流していた。

 俺はバンディーニの肩を強く掴むと、真っ直ぐに目を見る。


「勝とう、バンディーニ」

「ああ」

「三年だ。俺は、セルスタを超える事ばかりを考えていた。来年にもデビューをして、試合をすることばかりを考えていたが、それじゃあ駄目だ」

「どういうことだい? ロイム」

「俺達が本当に戦う相手は、勝たなければならない相手はセルスタでも拳神ディアグラウスでもない。この世界の拳闘に勝たなければ、現代のボクサーとして拳闘に勝たなければならないんだ」


 俺の言葉にバンディーニは目から鱗といった様子で驚きを隠せない。


 ボクシングで拳闘に勝つ、その為の三年。

 焦る必要はない、三年なんてあっという間だ。

 俺はまだ13歳だし、もうすぐ14歳になる。現代日本でも17歳になればプロライセンスを取れる年齢だ。

 それはつまり、成人として闘える身体になるということだ。

 それまではこの身体と、そしてボクシング技術を鍛え抜き磨き上げる。


「バンディーニ、宣戦布告だ。俺達はこの世界の拳闘に、ボクシングで宣戦布告をするんだ!」


 バンディーニは、立ち上がると俺の両手を握りしめて力強く頷いた。


「やろうロイム! 我々のボクシングで勝とう! この世界の拳闘にっ!」





 現代から異世界にやってきた、一人のボクサーと一人のボクシングトレーナー。

 ロイムとバンディーニ、二人の本当の戦いの幕が上がったのであった。




 第二章 少年期 拳闘士訓練生編 完


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