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5話 思わぬ挑発

 それは唐突にやって来た。


 麦の収穫から一週間、いつものように朝練を終えると昼過ぎには自主練と言う名の自由時間がやってくる。

 この時間に如何に自分自身を律し、鍛えることができるかによって今後の拳奴としての人生が変わって来ると言っても過言ではなかった。

 まあ大体の奴が、自分自身に甘く楽な方へ流れてしまうのだが。


 俺とカトルはいつものようにロードワークに出ようとしていると、数人の年長者に囲まれた。


「おいおまえ、ちょっと(ツラ)貸せよ」


 そう言って俺にメンチを切ってきたのは、二つ上の確か……ロワードとか言う奴だ。


 ロワードは既に検定には合格している拳闘士候補生だ。

 検定と言っても主人であるマスタングが独自に行っているもので、拳闘士として商品価値が見込める者として認められるだけである。

 だからその検定に合格しても、実際の試合に直ぐに出られるわけではない。

 闘技会には年齢制限なんてものはなく、大体のマッチングは申し込み順か、或いはくじ引きで決められるので、12歳の子供が出場したら大人の拳闘士に当たって壊されてしまうに決まっている。

 だから、検定に受かった者はもう少し質の良い環境で訓練を受けられるようになり、大体の拳闘士は15~16歳でデビューを飾ることになるのだ。


 そんな一応の検定に合格したロワードが、なぜ俺に絡んできたのか。


「おまえ最近は、随分と熱心に訓練に参加しているみたいだけど、一体どういう風の吹き回しだ?」


 ロワードの取り巻き達も、「口だけロイムの癖に生意気だ」なんて言っている。

 訓練をしているだけなのになんで生意気なのかはよくわからない。


「べつに、俺も来年は検定を控えてるし、真面目にやろうかなって思っただけだ」

「思っただけ“です”だろ、チビすけ」


 そう言いながら俺の髪の毛を掴んで上を向かせようとするロワード。

 俺がその手を払いのけると、ロワードは眉間に青筋を立てて怒りの表情を見せた。


 その時、カトルが俺達の間に入ってくる。


「ごめんなさいロワードさん、目障りだったのなら目立たない所でやるので、どうか見逃してください」


 カトルはそう言いながら頭を下げた。


 なにを言っているんだ、こんな奴になんで頭を下げなくてはいけないんだ。

 そもそも、ちゃんとトレーニングをしている俺らが文句を言われる筋合いなんてないだろう。


「おまえ、カトルだったか? 女みたいな顔してひょろひょろのおまえが、拳闘士になろうだなんて笑わせるぜ。女装して花売りでもしている方がお似合いだろう」


 ロワードがそう言うと、取り巻き達もゲラゲラと笑っている。

 ちなみに花売りとは娼婦の隠語である。

 カトルは顔を真っ赤にすると唇を噛み黙り込んでしまうのだが、ここまで友達のことを馬鹿にされて俺も黙ってはいられなかった。


「おいてめえ、今の言葉取り消せよ」

「ああん? なんだってチビ、チビすぎてよく聞き取れねえよ」

「カトルはてめえらなんかよりもずっと強い拳闘士だって言ったんだよ!」


 俺の言葉にロワードはニヤリと笑った。


「へえ、だったらそれを証明してみろよ」




*****




「どうしてあんな事を言ったの?」


 カトルの拳に布を巻いてやっていると、責めるような口調で言ってきた。


「どうしてって、本当のことだろう?」

「本当のことじゃないよ。ロワードは検定をクリアしているんだよ。僕なんかが勝てるわけないじゃないか」


 俺の切った啖呵の所為でロワード達と練習試合をすることになってしまった。

 要するにこれは、出る芽を先に摘んでおこうという新人潰しである。


 どんな世界にでもよくあることだ。

 まあ、ロワードごときが俺らに才能があると判断したかどうかはわからないが、出る杭は打つぞという周りへの見せしめにも使えると言うわけだ。


 俺はロワードの安い挑発に乗ってしまい、それにカトルを巻き込んでしまったわけだ。すまんなカトル。


 話しながら、細く裂いた布をバンテージの要領でカトルの拳と手首に巻いてやった。


「こうすれば、手首がしっかり固定されてパンチがヒットした時に手首を痛める心配もなくなるんだ」

「ちょっとキツイ」

「我慢しろよ、これくらいがちょうどいいんだよ」


 こちらの世界にはボクシンググローブなんてものは当然存在しない。

 それこそスパーリング用のヘッドギアもなければボディプロテクターもない。

 厚めに捲いた布の隙間に藁を詰める簡易的なスパーリンググローブだったりするので、練習試合で怪我をすることなんてしょっちゅうであった。


「いいかカトル。俺の教えたことをやればあんな奴らなんかには絶対に負けない」

「うぅぅぅ。ロイムの言うことを信じていないわけじゃないけど……」

「心配するな、おまえは強い、ここに居る中じゃあ俺の次に強い!」


 カトルの背中をバンバンと叩いて気合いを入れてやると、覚悟を決めたカトルはゆっくりと前に出た。


 すると、相手はロワードだと思っていたのだが、取り巻きの一人であった。


「こいつは今年の検定試験を一番の成績で通過したハワード、俺の実の弟だっ!」


 ロワードが得意気に胸を張ると、ハワードがニヤリと笑う。

 兄弟揃って嫌味な笑い方をする奴らだ。


 いつの間にかギャラリー達が集まり出すと、いよいよカトル対ハワードの練習試合が始まるのであった。


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