表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/83

45話 いつか夢見た舞台

 セルスタは俺の横に並ぶと、観客席から闘技場を見下ろす。


「懐かしいな、俺がここで初めて戦ったのも、もう4年も前の事だ」


 セルスタは目を細めながら、どこか寂しげな表情を見せる。


 バンディーニやジョーンさんから聞いた話であるが、セルスタの初戦は鮮烈なKO劇であったらしい。


 14歳の少年であるセルスタは、当時から既に170㎝を超える巨躯の持ち主だったとか。

 並の成人よりも長身で身体も仕上がっている。

とても新人とは思えないようなオーラを纏っていたらしい。

 対戦相手は当時、連勝を重ねている期待の若手拳闘士だった。

 大抵の新人は、拳闘士デビューで洗礼を受けるらしい。

 余程肝の座った奴でない限りほとんどの奴が、このコロッセオの大きさと観衆の多さに圧倒されて、ガッチガチに緊張した状態で試合をするのだ、実力の半分も出せずに負ける奴がほとんどだと言う。

 そんな中、セルスタは堂々とした試合運びを、と言うか一撃で相手の顔面を砕いて勝利したと言うのだ。

 眼窩底骨折と言う重傷を負った相手選手は、それで選手生命を絶たれたのだ。


「セルスタさんも、今日試合に出るんですか?」

「俺は軍のエキシビジョンに駆り出されたんだよ」


 セルスタは今や王国の近衛兵団の一員、その実力が拳神ディアグラウスの目に留まりスカウトされたのだ。

 セルスタの登用は例外中の例外とも言えた。

 本来奴隷身分である拳闘士が、正式な軍人になることなどありえなかった。

 もちろん奴隷兵と言う身分ならあるが、それは軍人ではない。


 どんな武勲を立てようとも、どんなに金を積もうとも、奴隷が市民にましてや貴族になることなんてできはしない。

 あくまでも解放奴隷と言う身分でしかないのだ。


 セルスタは解放奴隷と言う身分のまま、近衛兵団の一員となったのである。

 それはセルスタの実力もさることながら、セルスタを見出し慣例を捻じ曲げるほどの発言力を持った、拳神ディアグラウスの存在感と影響力を物語っていた。


 そんな拳奴達の英雄でもあるセルスタを前に、スカルツヤもエルナンドもガチガチに緊張しまくっている。

 ちなみにルクスはさっきから姿が見えない、たぶん試合になんて興味がないんだろう。

 そして、ロゼッタはと言うと。


「セ、セルスタ……ひ、久しぶりね」


 なんだか頬を染めながらモジモジとしている。なんだこいつ?


「ん? えっ? も、もしかしてロゼッタお嬢様かいっ?」

「え? まさか、今まで気が付かなかったの! 酷いわっ!」

「俺はてっきりロイムの彼女かと思って」

「か、かかか! そんなわけないでしょっ! なんで私がこんなチビ拳奴と!」


 さりげなく俺の悪口を織り交ぜるロゼッタ。

 セルスタはにこにこと笑みを浮かべながら、屈んでロゼッタの顔を覗き込む。


「いやぁビックリしたよ、お母様に似て美人になったね」

「今更そんなお世辞を言ったって……」


 再び顔を赤くしてモジモジしだすロゼッタ。こいつ、完全に面食いだな。

 セルスタはそんな乙女状態のロゼッタに、気付いているのかいないのか、再び俺の方へと向き直った。

 たぶんこいつ漫画とかアニメの主人公だったら、確実に鈍感系主人公だろうな。


「今日は、確かロワードのデビュー戦だっけ」

「そうです、あいつならきっと良い試合を見せてくれると思いますよ」

「良い試合か……」


 セルスタが意味深にそう呟くと、通路の方から呼ぶ声が聞こえた。


「おっと、そろそろ行かないと。ロイム、俺は14でデビューした。おまえも来年には同じ歳になる、その意味がわかるな? 期待してるぜ!」


 そう言うと、セルスタは呼びに来た同僚の元へ駆けて行った。

 なんかペコペコ頭下げてるから、たぶん上司だろうな。


 セルスタが行ってしまうと、ロゼッタがつまらなそうに俺に話しかけてくる。


「それにしても、あんたがセルスタと知り合いだったなんてね」

「知り合いもなにも、検定試験で俺はあいつと戦ったんだけど」

「あんたが? じょーだん、あんたみたいなチビがセルスタと戦って勝てるわけないでしょ」


 まあその通り、ボコボコにされたんだけどね。

 それにしても、チビチビって、流石の俺も傷つくぞちきしょう。どっかで牛乳売ってないかな?



 そんなこんなでいい時間になり、いよいよ拳闘大会が始まろうとしていた。

 まずは、主催者である興行主達が姿を見せてVIP席に座ると、観客席から拍手が起こる。

 そして、闘技場に進行係がでてくると大声で前口上を始めた。



「さあさあ皆さま! 大変長らくお待たせいたしました! まずは本日の初戦、新人拳闘士のデビュー戦を皆様にご覧いただきましょう!」


 盛大な拍手が巻き起こる。

 観客達は、この拳闘大会を心待ちにしていた様子で、最初からテンションマックスといった感じだ。


「す、すごいのねロイム。私、拳闘試合なんて見に来るの初めてだから、なんか圧倒されちゃうわ」

「俺もジョーンさんの試合を一度見に行ったきりだけど、観客があの時の10倍くらい居るから正直驚いてる」


 あっちの世界でも、5000人もの大観衆を前に試合をしたことなんて俺にはない。

 勿論、世界戦などを見にドームなんかに行ったことなら何度もあるけど。

 いつかは俺も、あんな大きな舞台に立つ日が来るんだろうかと、漠然としか考えていなかった。


 結局、前世ではその夢は叶わなかったけど、こちらの世界ならそれが夢でもないかもしれない。

 そう思うと俺は、胸の鼓動が高鳴るのを抑えきれなかった。



「それでは、早速呼びましょうっ! 今回の新人はあっ! あの拳神の再来! 英雄セルスタを輩出したマスタング商会所属の拳闘士! ロワードだ!」



 続く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ