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38話 ぶつかり合う意地と意地

 ルクスのことはほとんど見えていない。

 こんな状態ではパンチを見て躱すのなんて不可能だ。

 距離を取って足を使うアウトボックスは無意味。

 だったらどうする? どうもこうもない、相手と身体をくっ付けて打ち合うインファイトしかない。

 とにかく殴り合って、先に相手をぶちのめす。俺にはその選択肢しか残っていなかった。


「バンディーニ……あんたの言葉、信じるぜ」


 ハードパンチャー。


 バンディーニが俺に言った長所だ。

 俺が前世の時に持ち得なかったパンチ力。それをこのロイムの身体は先天的に備えているとバンディーニは言っていた。

 にわかには信じられなかった。

 だってそうだろう。

 俺はこれまでにKOで勝利したことなど、数えるほどしかないんだ。

 パンチのないボクサーが勝利するには、相手には有効打を与えずに自分だけがポイントを積み重ねていくこと。もしダウンを取れたとしても、それはその副産物にすぎない。

 そのダウンでノックアウト(KO)勝利はできなくても、ポイント差を広げることができるのだ。


 俺のボクシングスタイル、思考にはそんな戦い方が染みついている。

 だが、今はそんな場合じゃない。判定勝ちのないこの世界では、相手をキャンバスに沈めるしかない。

 それは相手に立ち上がることのできない、決定的な一撃を与えること。

つまりはKO勝利を狙うしかないんだ。


「どうしたよ? まさか、ビビっちまったのか?」


 ルクスが挑発してくる。

 相手への挑発行為も一応禁止されてはいるが、注意を受けるくらいで特に失格になったりはしない。

 ボンゴエは、余計なことを言うなと怒声を上げている。


 ああ、ビビってるぜ正直。

 こんな戦いを俺はこれまでしたことはなかった。


 いや……。


 冗談じゃない。

 それじゃあ、俺がこれまでに戦ってきたボクサー達が、こんな反則をする卑怯者より弱いってことになっちまうじゃねえか。

 俺がそれを認めちまったら、これまで俺が勝って来たボクサー達が、臆病者ってことになってしまうじゃないか。


 現代ボクシングは確かにルールに守られたスポーツだ。

 しかし、ボクシングは決して安全なスポーツではない。

 いつだって、どんな時だって、試合となれば皆命懸けなんだ。

 なにも変わらない、あちらの世界のボクサーも、こちらの世界の拳闘士も、皆命懸けで戦っているんだ!


 だからこそルクスのことを許すわけにはいかない。

 こんな、命を懸けた戦士達を侮辱するような戦い方を、認めるわけにはいかないんだ。


「来いよルクス……ここから先、てめえがどんな反則技を使おうが、俺がそれによって倒れることはねえ」

「へえ……言うじゃねえか」

「かかってこいよっ! てめえの全てを俺の拳で捻じ伏せてやるっ!」


 挑発に乗ったルクスが真っ直ぐ突進してくる。

 俺はガードを固めると、ルクスの右ストレートをその上から喰らうのだが怯まない。


 体を揺らせ、ウィービングだ。

 速く、もっと速く!


 横に8の字、∞の軌道を描き俺は身体を高速回転させる。

 よく見えないがルクスのパンチが空を切っているのがわかる。

 ウィービングに翻弄されて的を絞れないのだ。

 そのまま体制を低くした状態でもっと回転を上げて、帰るところに俺は右フックをぶち込んだ。


 パンチが当たったのはガードの上、折り畳んだ腕の丁度二の腕部分。


 構うものか!

 回転は止めずにそのまま身体を右へ戻すのと同時に全体重を乗せた左フック。

 体が密着した状態なら、相手が見えなくてもどこかに当たるはずだ。

 高速回転の左右のフックをぶつけまくってやる。


「くっ、そ! この野郎!」


 呻き声のように漏らすと、ルクスの身体がよろめく。

 俺の左右のフックを喰らい続けている内に、ガードの上からでもその衝撃を吸収できなくなったのだ。

 次の瞬間、反撃をしようとルクスが右拳を振り上げるのだが、俺の左フックが右脇腹へ突き刺さった。


「がっはあっ!」


 ルクスは腹を押さえながらよろよろと後ろに下がり悶絶する。


 まだだ! このまま追撃する!

 俺は一気にダッシュで詰め寄った。

 その時、ルクスの頭が俺の顔面目がけて振り下ろされる。誰がどう見てもあからさまな言い逃れの出来ないバッティング。


 しかし、頭突きの衝撃に仰け反ったのはルクスだった。


「来ると思ってたぜ!」


 俺はルクスのバッティングを誘い込む為にわざと体制を低くしていたのだ。

 来るとわかっている頭突きなら迎え撃つことができる、俺もルクスの額に向かって頭突きをお見舞いしてやったのだ。

 痛いことは痛いが、面を喰らったのは、まさか反撃をされるなんて思っていなかったルクスの方だろう。


 だいぶ、左目も回復してきた。

 俺は一気にルクスの懐に潜り込むと、ラッシュを仕掛ける。


 ルクスは防戦一方だ。反撃することもできずに滅多打ちにされている。

 そして俺の右ストレートが顔面を捉えると、ルクスは膝から崩れ落ち……。


「くそがああああああああっ!」


 ルクスが吠えた。

 ルクスは態勢を低くしたまま、アメフト選手のタックルのように俺の腰に突進してくると、そのまましがみ付いて持ち上げた。


「舐めるんじゃねえええガキがあああああっ!」


 俺はそのまま地面に叩き付けられた。

 一気に肺の中の酸素を吐き出してしまい苦しい、背中を強打した為に息が詰まった。


 ルクスは俺に馬乗りになると、上から拳を滅多打ちにしてくる。

 もうこんなものは拳闘試合ではない、単なる殺し合いだ。

 凄まじい剣幕でルクスは叫びながら、俺のことを打ちつける。


「てめえみてえな甘ちゃんがあ! 生き残れる世界じゃねえんだよっ! 俺の味わってきた地獄はこんなもんじゃねえええっ! てめえらみてえなあああ! 温室育ちのぼんぼん拳闘士にわかるかあああああああっ!」

「やめろルクスっ! おまえの反則負けだ!」


 ボンゴエがルクスを羽交い絞めにして引き離す。

 俺は朦朧としながらも立ち上がると、ルクスは俺のことを指差してなにか罵声を浴びせかけてきた。

 なにを言っているのかはわからないが、無性に腹が立った。

 俺は気が付くと羽交い絞めにされているルクスに殴り掛かっていた。


「やめろロイム! もう決着はついているおまえの勝ちだ!」

「ふざけんなあっ! 認めねえぞっ! こんなのはボクシングじゃねえっ! こんな勝利なんかいらねえ!」


 今度は、殴りかかろうとする俺のことを、バンディーニが羽交い絞めにして止めた。


「てめえ、ルクス! 汚ねえ反則ばっかしやがって! そんなに俺と戦うのが怖いのか! 拳で勝負をするのが怖えのかよこの野郎っ!」

「てめえに何がわかるっ! 負けたらそこで終わりの世界で、俺達奴隷には生きる価値もねえって、見世物にされて嬲り殺されてきた俺達のなにがわかるんだっ!」

「ああっ!? 俺も拳奴だ! てめえとなにも変わらねえ!」

「変わらねえだと! とんだ甘ちゃんだなっ! なにもかも違うんだよっ! おまえらはマスタングに拾われた! でも俺は違う、俺は、こうしなければ生き残れなかったんだっ!」


 ルクスの言っている意味が俺にはわからなかった。

 拳奴が生きる世界、拳闘士の世界にも様々な世界があって、俺達が今までどれだけ恵まれた環境にいたかを、俺はまだ知らなかったんだ。



 続く。


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