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35話 奴隷の価値

 次の試合までに一時間程の休憩を挟むことになった。


 俺達はバンディーニに集められると、次の試合の作戦会議を始める。

 なぜかそこにロゼッタも同席しており、バンディーニの横で偉そうに踏ん反り返っていた。


「なんでそいつが居るんだよ」

「あらロイム、なにか不満かしら?」


 ちっ、なんでこいつはいちいち俺に突っかかってくるんだ。

 いや、まあ、よくよく考えると俺が悪いのだが。

 バンディーニも多少困った様子でいるものの、仕方がないといった感じで話を進める。


「まずは皆に、話しておかなくてはならないことがある。ルクスのことなんだけど、さっきわかったことだ」


 そう前置きをして話し始めるバンディーニ。


「ルクスは先週まで、別の主人の元で拳奴として戦っていた拳闘士だったらしい」


 その言葉に全員が驚きの色を隠せない。

 まさか、現役拳闘士だったとは思いもよらなかった。

 バンディーニの話によると、ルクスはああ見えて18歳という年齢らしい。

 別の土地で拳闘士としてかなりの場数を踏んでいて、それなりに人気の選手だったとか。

 それも、ダーティープレイをする悪役(ヒール)としてだ。


 拳闘試合を見に来る観客は、皆がそうというわけではないが、日頃の鬱憤や不満を晴らす為に殴り合いを見にきている者が多い。

 要するに、人が殴り合いをして血を流すのを見に来てストレスを発散しているのだ。

 これは、現代で言うホラー映画なんかを見るのと一緒の感覚である。

 拳闘士達が自分の代理として酷い目に遭う姿を見て、恐怖を感じることにより出る脳内物質、そして試合が終わり勝者を見ることによって得る安心感。

 それらを得る為に市民は拳闘試合に夢中になっているのだ。


 しかしそんな興奮も、繰り返す内に感覚が麻痺してしまう。

 すると単なる殴り合いでは満足できなくなってしまうのだとか。

 そこでルクスのような反則技を使う拳闘士が、逆に人気を博すと言うのだ。


 観衆は、なんて卑怯な奴なんだとルクスのことを非難しながらも。

 次はどんな卑怯な技で相手選手を痛めつけるのか、そんなことに興味を持ち始めるのだと言うのだから勝手なものである。


「ルクスはそんな悪役として、試合でも結構な人気を博していたみたいでね」

「なんだよそれ、反則を喰らった方は堪ったもんじゃないぜ」

「そうだな、案の定ルクスはやりすぎた。何人かの選手を再起不能にしてしまったらしくてね。相手選手の主人への賠償金が多額になってしまった為に、ルクスは主人に売られたってわけさ」


 そういうからくりがあったのか。

 スカルツヤの部屋に1人欠員が出たのは、ルクスがなにかしたからではないかと言う。


「なんでそんな奴を碌に調べもせずに買うんだよ」

「なあに? パパの所為だって言うのあんた!」


 俺は非難めいた目でロゼッタのことを見るのだが、逆切れされてしかも他の奴らは全員ロゼッタの味方になりやがった。

 本当に駄目だ。女の存在は本当にチームを駄目にしてしまう!


 とりあえずロゼッタの事を宥めて、改めてバンディーニが仕切り直す。


「なんにせよ、これは良い機会だと私は思っている」

「どういうことですか? ルクスの野郎を潰すってことですか?」


 ロワードがなにやら物騒なことを言っている。

 まあ、こいつもこいつなりにルクスのやり方には頭にきているのだろう。


「そうじゃない。これは、より実践に近い拳闘試合を体験できる良い機会だ。拳闘試合は綺麗ごとばかりでは済まされない部分も多々ある。それを肌で感じ、実際に目にすることができるチャンスだと私は考える」

「物は言いようねバンディーニ。私は同意しかねるわ」


 ロゼッタがバンディーニの考えに不快感を示した。


「パパに言って即刻あいつは外すべきよ。こんなつまらない練習試合で、商品を壊されたらたまったものじゃないわよ」


 その言葉に俺はカチンと来てロゼッタに食って掛かった。


「俺達のことを物のように言うんじゃねえ」

「あらなぁに? ご不満だったかしら? だったら飼い犬にでもなる?」

「ああ、不満だね。俺達は物でも動物でもねえっ! 一人の人間だ! そして拳闘士だ!」

「ふん、下らないプライドね。あんた達みたいな、殴り合うしか能のない奴らを養っているのはパパなのよ。そうやって生きていられるのがあんた達拳奴って存在。商品価値がなくなったら、生きている価値もない奴らなのよ」


 なんという考え方のガキだ。

 俺は信じられないという思いで目の前の少女を見る。

 こんな年齢で、人の事をまるで石ころでも見るかのような目で見下している。

 その石ころの中に、少しでも商品になりそうな宝石が混ざっていないか、こいつらはそうやって俺達のことを値踏みしているのだ。


「ロゼッタお嬢様。そのお父様が、この試合を止めていないんだ。その意味がわかりますね?」


 見かねたバンディーニが俺とロゼッタの間に割って入る。


「だからパパにルクスのことをちゃんと話して」

「あなたのお父様の目がそんな節穴だとお思いですか?」

「そ、それは……」

「ちゃんとわかっておられますよ。ルクスを買い取った時から、全て調べもついているでしょう」

「だったらなんで!」


 ロゼッタは困惑した表情でバンディーニに詰め寄る。


「あなたのお父様は、本当に理に適った人物です。安く下取りした中古拳闘士を使って、新品の拳闘士達を、より強い拳闘士に育てようとしているのですから」


 俺はその言葉に、俺達の主人であるマスタングのしようとしていることを、ようやく理解した。


 マスタングは、この中から生まれるであろう新たな拳闘士が、いきなりの実戦で潰されないようにする為の訓練を行っているのだ。


 ルクスの反則行為(ダーティープレイ)を実感させることによって。

 俺達ひよっこが、それに慣れるようにと。



 続く。


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