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28話 強者の世界

 特訓の開始だ!


 とは言っても、特に変わったことはしない。

 トーナメントが開催されるのは約一ヶ月後。

 今から特別な事をしてもあまり意味がないので、各自の長所短所を意識しながらこれまで通りに地道にトレーニングを続けた。


 しかし、俺がハードパンチャーとしての素質があると言うのは驚いた。

 自慢じゃないが、前世での俺の戦績は20戦20勝である。

 内KO勝利はたったの7回。約3割だ。


 俺のファイトスタイルは、ミドルレンジで相手と打ち合うもの。

 相手にパンチを当てたら、攻め込まずに間合いから離れる。

 相手が離れようとしたら、間合いに入りつつ接近はしない。

 その試合運びは慎重すぎるあまり観客からしてみれば退屈かもしれないが、付かず離れずで着実にポイントを重ねて行って、勝利をもぎ取る戦法だ。

 パンチ力がなかったからそうせざるを得なかったというのが本音である。


*****


 ここからはパンチ力に関するお話です。

 ストーリーとはあまり関係ありません。


 パンチ力と言う物は天性の物であると、かの偉大なヘビー級チャンピオンマイクタイソンも言っていた。

 実を言うとボクサーには筋力はそれほど必要がない。勿論まったくないのは論外だが。

 ボクサーのほとんどがガリガリであり、モリモリマッチョな選手はあまり見たことがないのではないだろうか?

 あれは、厳しい減量によって筋力が落ちているわけではなく、あまり筋トレをしすぎて筋肉が膨らむと体重が重くなり動きにくくなるからだ。

 あくまでボクサーは補助的な物として上半身の筋トレをするのである。


 では、パンチ力に筋力は必要ないのか? 実を言うとそうではなくて。

 以前、パンチは腰で打つと説明したことがある。腰の回転力により、パンチを押し出す力を倍増させる為だ。

 その為にも下半身を鍛える必要もあると言った。


 では、下半身を鍛えればハードパンチャーになれるのか? その答えはイエスともノーとも言えない。

 しかしながら、歴代のハードパンチャーと呼ばれる、KOの山を築き上げてきたボクサー達に共通しているものがある。


 それが、俗にヒットマッスルと呼ばれている筋肉だ。

 ヒットマンの異名を取ったトーマス・ハーンズなどは、ボディービルダーのように筋肉モリモリの大胸筋ではなかったが、背中の筋肉が異様に盛り上がっていたと言う。


*****


 話をロイムに戻します。


 バンディーニは、俺のパンチを初めてミットで受けたあの日に確信したと言う。

 特に最後に放ったリバーブローは、必殺ブローにまで昇華すればそれ一本でも拳闘士として戦い抜けるほどの物になるとまで言っていた。


「リバーブローか……」


 俺は呟きながらシャドーを繰り返していた。


 脳裏に描くのはセルスタの姿だ。

 あの男を超えるイメージを頭の中に描ければ、俺はもっと強くなれる。

 黙々と練習をしていると、珍しくロワードが声を掛けてきた。


「ロイム、ちょっといいか?」

「ん? べつにいいけど」

「師匠は、俺はディフェンスが弱いと言っていた。パンチを打った後に右拳が下がる癖があるって、それを矯正するのはわかったけど。もっと効率よくディフェンスを出来るようにするにはどうしたらいい?」


 ロワードの言葉に俺は驚き固まる。

 あのロワードが、この俺に教えを乞うてくるなんて。

 いやまじで驚きなんだけど。


「な、なんだよ? 教えたくないなら別にいいよ」

「あ、いやごめん。そうじゃないよ。そうだな、ディフェンスか」


 俺は少し考え込む。


 ディフェンスと言っても、避ける事だけが全てではない。

 ウィービングをしながら相手に的を絞らせないのは勿論のこと、相手のパンチを受けることも防御の一つだ。


「全部を見て躱す必要はないかな」

「見て躱さない?」

「そうだ。例えばだ。相手とインファイトになった場合、接近戦での攻撃はショートアッパーやフックが多くなるだろう? ある程度の攻撃パターンは予測できるわけだから。躱さずに拳や腕で、テンプルや顎をガードするんだよ」

「なるほど、受け止めるのか……」

「そうそう、躱すのはダメージが少ないけれど、その分反撃もし辛くなる。避けるのと受けるのを上手く使い分ければ、攻撃のバリエーションも増えると思うぜ」


 俺のアドバイスが終わるとロワードは黙り込む。

 そして、俯きながら小さい声で言った。


「あ……ありがとうな」


 そして走り去ってしまった。


 まったく、ツンデレですかロワード君、幼くてかわいいもんですな。

 精神年齢は年上の俺は、そんなロワードのことをニヤニヤしながら見送ると、突然背後から声を掛けられた。


「青春してるねえ」

「うわおうっ! びっくりさせんじゃねえ!」


 どうやらバンディーニが物陰に隠れて一部始終を見ていたようだ。


「ロワードはね。君に負けてから、本当に真剣に練習に打ち込むようになったんだ」

「見てればわかるよ。元々良い右をもっていたからな。あれは、あんたが教えたんだろう?」


 バンディーニは笑みで返事をする。


 そしてポツリポツリと話し始めた。


「ロワードの弟のことを覚えているかい?」

「確かハワードだっけ? そういやどこに居るんだ? 全然見かけないけど」

「ハワードは、拳闘士を辞めたんだ」

「え? まさか、俺が来る前に辞めた訓練生って」


 どうやら、俺の前に雑草組に居たのはハワードだったらしい。


「ハワードは、君やカトル君を見て自分の限界を知ってしまったと言っていたよ。あんな才能を持った拳闘士には将来自分は絶対になることはできないと」

「そんなの、続けてみなけりゃわからないじゃないか」

「そうだね。でも、彼自身がそう感じてしまった。これは決定的だよ。本人にその気がなければ、強くなれるものもなれはしない。そう、導いてやれなかった私の不甲斐なさもあるかもしれないけどね」


 俺はなんだか複雑な気持ちになった。

 これじゃあまるで、俺がハワードの拳闘士としての芽を摘んだみたいじゃないか。


「だからね。その分ロワードは自分が強くなって、見返してやるんだって、ハワードの分もがんばっているのかもしれないね」


 返す言葉もなく黙り込んでいると、バンディーニは俺の肩にポンと手を置く。


「責めているわけではないよ。君だってプロだったんだろう? 往々にして、そうやって才能の差を思い知りリングを降りて行ったボクサー達を見てきた筈だ」

「ああ、わかってるよ」


 そうだ。そんなことを気に病んでいたら、試合で誰にも勝てなくなってしまう。

 ロワードもそれは承知の上で、俺にアドバイスを聞いてきたんだ。


 強い者だけが生き残れる。


 厳しい世界だが、それが拳闘士(ボクサー)の世界なのだから。


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