~3~ 異日常への誘い(3)
何もあるはずのないそこにあったのは、一枚の大きな『鏡』だった。
人の全身を映し出せる大きな楕円形の『鏡』。
「これは……」
見覚えがある。
最近見る夢の中に出てくる、あの『鏡』と同じものだった。
「なんで、ここにこれがある……?」
あるはずのない場所に、現実にあるはずのない『鏡』がある。
それは振り払ったはずの恐怖を呼び戻すのに十分な、十分すぎるほどな異常な光景だった。
「どういう事だ……俺はどうすれば……?」
夢の中とは違い、『鏡』には少女の姿は映し出されてはいない。
鏡面に映し出されているのは俺の姿だけだ。
教室へと向かわなければいけない、と言う思いと。
夢の中では手を触れることも出来ずにいた『鏡』を調べるのと。
迷う必要がないはずの選択肢に、俺は動くことが出来ずにいた。
「ルイ……どこ……?」
「! アリス!?」
立ち尽くし逡巡する耳に聴こえたのは、確かに良く知る少女の声だった。
階段を登り二階のを見回すが、見慣れたその姿は見あたらない。
「早く来てよルイ……怖いよ、ボク……!」
「なっ!?」
再び耳に届いたアリスの声。
それが聞こえてきた方向は……『鏡』の中だった。
慌てて『鏡』へと顔を向ければ、先程まで俺の姿を映していたそこに見えたのは、うずくまり怯えた顔で俺の名を呼ぶアリスの姿。
「アリス!」
『鏡』に駆け寄り、アリスに呼び掛ける。
「……ルイ?」
「どうなってるんだよ、アリス!?」
「え、え、どこ? ルイ!」
俺の声が聞こえているのか、顔を巡らせこちらの姿を探すアリス。
「俺はこっちだ!」
言いながら鏡面に手をついた時、異変が起きた。
「なん……だっ!?」
触れた途端、『鏡』から光が溢れ出す。
何が起きたのを理解する間もなく光は大きくなっていき……
俺は光に包まれた。