~3~ 異日常への誘い(1)
『ルイ、助けて! 千彰が……千彰が!!』
「落ち着けアリス! 古元がどうしたって!?」
アリスからの助けを求める電話があったのは、夜も深まろうかと言う頃のことだった。
『ボク、もうどうしたらいいか……!』
「とにかくすぐにそっちに行く。今、場所はどこだ!?」
電話口の向こう、狼狽しきったアリスの震える声にすぐさま出掛ける支度をしながら問い掛ける。
『が、学校……学校の中だよっ。でも、ここ違うの……!!』
「学校っ!?」
なぜこんな時間に? 違うって何が……? 返ってきた言葉のおかしさに戸惑いの声が脳裏に浮かぶ。
だがそれを問い質している暇が無いことは、アリスの切迫した様子から確信していた。
「わかった、すぐに行くから待ってろ!」
告げて通話を切り、上着を脇に抱えると俺は部屋を出る。
「ちょっと出掛けてくる!」
「は? あんたこんな時間にどこに……」
「後で話す!」
外出する旨を早口に親に伝え、返ってきた言葉を遮り外へと飛び出していった。
「……静かだな」
数十分後、たどり着いた学校を前にして呟く。
門は閉じられ、ここから見る限り校舎にも人のいる気配は感じられない。
「学校の中って言ってたなよな、確か……」
電話口から聴こえたアリスの言葉を思い出す。
あの時の声から感じたのは、今までに聞いたこともないほど緊迫した様子だった。
だが、視界に映る校舎からはそんな様子はまるで無かった。
「とにかく電話してみるか……っ!?」
アリスの電話番号を出し、通話ボタンを押してすぐに俺は愕然となる。
『お客様のお掛けになった番号は……』
スマートフォンのスピーカーから流れたのは呼び出し音ではなく、圏外にいる時に流れるアナウンスだったからだ。
「くそっ、どうなってるんだ!」
通話を切り、校舎を睨み付ける。
やはり何かが起きている様子は感じられない。
が、異常事態が起きていることははっきりと理解した。
「とにかく中へ……」
校舎へと向かうため、乗り越えようと門に近づいた時だった。
『ルイ……』
「……!?」
微かな、しかし間違いなく俺を呼ぶ声がどこかから聴こえてきた。
「アリスか!?」
呼び掛け、少し待ったが返事はない。
しかしそれが合図かのように、正門がゆっくりと勝手に開いた。
「なんなんだよ、いったい……」
目の前で起きた信じられない事に、恐怖心が襲う。