~2~ 微かな違和感
「ルイ、あのさ」
教室を出てしばらく無言で廊下を歩いていると、アリスが不意に呼び止めた。
立ち止まりアリスへ顔を向けると、何やら言いにくそうな様子でうつむいている。
「なんだよ?」
なかなか言い出さないアリスに、俺から言葉を促す。
促されてアリスは顔を上げ、上目遣いに俺を見つめながら口を開く。
「さっき言ってたの……してみる?」
「は?」
「だから……キス」
「……はぁ!?」
恥ずかしそうにとんでもない言葉を口にしたアリスに、俺は驚きと呆れの入り交じった声を上げた。
まったくこいつは……
「いやほら、幼馴染なんだし……キスくらいならしてみてもいいかなー、なんて」
「陽一のくだらない発言に流されてどうするんだよ。そんな理由でしたって意味ないだろ」
笑って冗談っぽく言うアリスを、少しきつめの口調で俺は嗜めた。
「そういうのは彼氏彼女の関係になった相手とするものだろ。遊び感覚でしてたら、いざそういう相手とする時に後悔するって」
「ルイって意外と真面目なんだねー」
「意外とはなんだ、意外とは」
すぐに見た物や聞いた事に感化されて、突拍子もない行動や言動に走るのが彼女の悪い癖だ。
アリスのそういう主体性の希薄な部分が、俺は昔から苦手だった。
「……昔から?」
不意に違和感に襲われ、無意識に呟きを洩らす。
内心で浮かべた言葉に、なぜか妙な不自然さを俺は感じていた。
「え? 何が昔から?」
「いや、なんでもない」
「? ん、わかった」
言ったものの、アリスは怪訝そうな顔を浮かべたまま俺を見つめる。
俺とアリスは幼馴染で、小さい頃から共に過ごしてきた。
昔からで何もおかしな事はないはずだ。
「いいから帰るぞ。もう暗くなりそうだ」
「う、うん。そうだね」
自分でアリスとのこれまでを思い返し納得して、帰宅を促す言葉を掛けた。
俺の様子にそれでも微妙な顔をしながらもアリスは頷いて歩き始め、突然あっと声を上げた。
「ごめん、ルイ。ボク、千彰と約束あったんだった」
「古元と?」
「うん。一緒には……行かないよね?」
「一緒に行ってどうするんだよ。なら先に帰ってるぞ」
「あはは、そうだね。じゃあ」
手を上げ、そのままアリスは駆け出していく。
と、すぐに立ち止まり振り向いて言いづらそうに口を開いた。
「その、千彰もあんなだけど悪い子じゃないからさ……えっと」
「……早く行って来いよ。それと、ちゃんと家には連絡しておけよ」
「うん……」
短いやり取りを交わして、再びアリスは駆けて行った。
俺が怒ってるように見えたからなのか、それとも気付かずに不機嫌な顔になっていたか。
「そりゃ、そうもなるだろ……」
小さくなっていくアリスの背中を見つめながら、ため息混じりの呟きをこぼした。