~1~ 退屈な日常(2)
陽一のやつ、いきなり何を言い出すかと思えばまたしてもくだらない事を。
まぁ、思春期の男子としては健全な心理だと言えなくは無いが。
「なんだよ、おまえらは興味ないのかよ!?」
微妙な反応に恥ずかしくなったのか、陽一が上ずった声で二人に問いかける。
恋愛とか彼女とか、そういうものへの憧れが強い陽一らしいとは言えるが……自ら引っ込みがつかなくしてるだけだ。
「そりゃ、興味はある……けどさぁ」
「って陽一、いつまでも引っ張るなよその話題!」
さっきよりも顔を赤くしながら、小声で答える紘子。
一方アリスは笑いながら陽一へ抗議の声を上げた。
「なーんか誤魔化してないか、葵依?」
だがそれは逆効果だったようだ。
後に引けなくなった陽一は余計にむきになってしまう。
「なによー?」
「ちょっと、二人とも」
ジト目で言う陽一に、むっとした顔で返すアリス。
不穏な空気に、紘子は慌てて静止の声を上げるが収まる気配はなく。
「さては葵依、もうルイとしてるんだろ!?」
「「はあ!!?」」
陽一が口走ったとんでもない発言に、俺とアリス二人の張り上げた声が綺麗にハモって教室に響き渡った。
「おまえら幼馴染だもんなぁ……まさか、キスより先」
「いい加減にしろよ、陽一」
さすがにこれ以上は黙ってられず、俺は机を叩いて陽一の言葉を遮り言った。
「あ、いや……」
強い口調に気圧されたか、陽一が顔を引きつらせ言葉に詰まる。
「幼馴染だからってそんな事する訳ないだろう」
「そ、そうだよな……ご、ごめん」
ばつが悪そうに謝る陽一を尻目に、ちらりとアリスへと目を向ける。
「陽一、調子のりすぎ。そもそもボクなんてルイに女として見られてないんだからー」
口を尖らせ咎めるように言ってから、胸を張り笑っていた。
俺の言葉で変に機嫌を損ねてないか心配していたが、それは杞憂に終わったようだ。
「あっ、もう空が赤いよ」
紘子の言葉に窓を見れば、確かに外はすっかり夕焼け模様だった。
「いつの間にかこんな時間か」
「そろそろ帰ろっか」
「うん、そうしよう」
アリスが場を収める形にはなったものの、それでも残る気まずさからか、三人が口々に言って帰る態勢へと移行する。
やれやれ、ようやくお開きか。
「先に昇降口に行ってるぞ」
机に置いてあったカバンを手にすると、無愛想に言って俺は教室の出入口へと向かっていった。
「待ってよルイ、ボクも行くから!」
慌てた声を上げて、アリスが早足に追いかけてくる。
陽一と紘子はまだ動く様子は見えなかった。