~1~ 退屈な日常(1)
「昨日のあれは無いよなぁ」
「ほんとほんと、あんな終わり方はねー」
「来週までこの悶々とした気持ちをどうしろって言うんだー!?」
放課後の教室、騒がしく昨日のドラマの話で盛り上がる三人と、少し離れた自分の席でそれを眺める俺ーー須藤 泪。
俺たち四人以外、他に生徒の姿はない。
グラウンドからは部活に励む活発な声が響いてくる。
「それにしてもちょっとドキドキしたよね、昨日のは」
若干、声のトーンを落とし言った女子は葵依 亜理子、俺とは小さい頃から家が隣同士の幼馴染。
「あー、追い掛けて行った後な……」
アリスに相づちを打って遠い目をしている男子は安岐野 陽一、高校に入ってから仲良くなった一人。
「うん……あんな不意打ちのキスなんて、ねぇ?」
続けてうつむき加減に話す女子は川嶋 紘子、陽一と同じく高校になってから仲良くなったクラスメイト。
紘子が言ってから、三人が黙り顔を赤らめる。
くだらない。
聞きながら内心でぼやいてしまう。
そのドラマに興味がないから、というのもある。
それ以上に俺は興味があることが見当たらなかった。
「それにしても来週が待ち遠しいなー」
「長いよなぁ、一週間」
「予告がまた意味深だったよね」
しばしの間を置いてから、再びおしゃべりが再開される。
いつまで続くんだ、声にはしないで毒づいて窓へと目を向けた。
相変わらず聴こえてくる部活の声、そして空は次第に暮れて来ている。
「血、みたいだな」
「……え?」
無意識に出た呟きにアリスが反応し、こちらへと声を掛けてきた。
「いや、何でもない」
「そっか、うん」
「ところでまだ帰らないのか?」
「あー、ごめんルイ。もうちょっとだけ」
顔の前で両手を合わせて言うアリスに、俺はまばたきだけで返事をして再び外へ視線を戻す。
なんであんな事を口にしたんだろうか?
ただ何となく赤くなり始めた空を眺めていたら、自然とそんな感想が浮かんだ。
「中二病か、俺は……」
今度はアリスに聴こえないように注意をして、小さく呟いた。
「でもいいよなー」
「なにが?」
「……キス」
陽一の放った言葉に思わず吹き出しそうになる。
「あー……うん、いいよね」
「う、うん。そうだね」
対するアリスと紘子の戸惑う様子が、見ていなくても伝わって来た。