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異世界でも一般人  作者: さゆ子
二人の聖女
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「……何でこんな所に」


いきなり攻撃男、もといジャンが居なくなった静寂に一息吐いていた悠にカールが小さな声で問いかけた。

悠からすれば、たまたま駆け込んだ部屋がここだっただけだ。カールからすればとんだお昼寝の邪魔だったに違いない。

互いの体を覆う布を避けながら起き上がった悠はソファの上で正座をし、行儀良く膝の上に両手を添えて頭を下げた。


「お昼寝邪魔してすみませんでした。けど、助けていただいて大変助かりました」

「……いつもあんな風なのか」


未だに寝ぼけているのか、気だるげな様子のカールの質問に悠は首を傾げた。


「いや、いつもあんな風に命は狙われてません」


もしかしてこの人は私が聖女ではないことを知らないのではないか。

未だに頭の中から悠殺害命令の説を捨てきれず、一気にここを離れればまだ街へは生きて出られるかもしれないと、希望を見付けた喜びに顔が緩む。こうしてはいられないと悠は急いで腰を上げた。

先程命を、と口を滑らしてしまったこともある。顔だけ知らず見逃してもらえそうなチャンスを自分で潰す前に撤退するが正解だろう。桃華の側に居たいのは山々だが、命が尽きてしまっては元も子もない。それよりも桃華と合流出来れば一旦は手を出せない状況にならないだろうか。

今更ながら土足でソファに乗り上げたことを少し申し訳なく思いつつ、座席部分に足裏を押し付けた時だ。


「簡単に男に身を委ねる」


ワンテンポ遅れたカールからの返事に、悠は何を言われたのか理解するまでに数秒を要した。

男に身を委ねる。とは。

耳にした言葉から男にしなだれる妖艶な女性を想像した悠は、先程の体勢がまるで無防備にカールにしがみついているように見えたのだと察して一気に顔に熱が集まった。

必要に迫られたとはいえ悠自らカールに体を寄せたことに違いない。それに加えて、的外れの返事をしてしまった恥ずかしさも少し加わっていた。


「ちが、っていうかカールさんが先に引きずり込んだんじゃないですか! そういうアレじゃなかったですよね?!」

「柔らかかった」

「やわ……やわ……?!」


手のひらを見つめながら呟いたカールはご丁寧に指を数回開いて閉じる。今更どこを触られていたのか思い出せるわけもない。悠は先程まで恐怖でいっぱいだったのだ。


「その動きやめて下さい!」

「……うるさい」

「うる……。それじゃ私はもう行きますから。好きなだけおねんねしててください」


大きく欠伸をしたカールに怒るよりも呆れた悠はソファから足を下ろしてシャツドレスの裾を叩いた。

精一杯の嫌味がおねんねとはパンチ力が足りないとは思うが、キラキラとしたオーラが顔から漏れ出ている人物に吐き捨てるようにボサボサ頭と告げても大したダメージにならないのだ。

シャツドレスの裾のよれた部分がマシになるのを見届けて改めてカールに頭を下げた悠に対し、カールは何を言うでもなく片手を伸ばし悠の手首を掴んだ。


「え……?」


どこから出したのか、宝石の埋め込まれた少し大きめの指輪が悠の人差し指に現れた。


「持ってけ」


いきなり現れた気になったが、どう考えてもカールに付けてもらったが正しい。

それなりの大きさではそれなりの値段がするに違いない。窃盗を働く気が全く無い悠からすればありがた迷惑以外の何ものでもなく、指から指輪を取ろうとした時だった。


「あいつ、女に対しての嗅覚はいいからな。早く場所移動した方がいいぞ」


明らかな脅し文句を聞いて固まった悠を少し愉快そうに見つめたカールは有無を言わせず悠を扉へと押していく。男の力に悠が勝てるはずもなく、いとも簡単に廊下へと押し出された。


「ま、待っ……!」

「言っただろ、ここはあまり人が来ない」


カールが何を言いたいのか分からず焦る悠は、無情に閉まる扉を阻止すべくブーツを半分ねじ込んで抵抗したのだが、呆気なくカールに押し返される。


「正しく言うと誰も入れたくない、だ。出てけ」


バタンと目の前で閉じられた扉は触れなくなっていた。鍵をかけられた訳ではない。言葉通り触れなくなっていた。手が勝手にドアノブを通り過ぎてしまうのだ。これも魔法の一種かと察した悠は便利な世界だな、と思うと同時に、無理矢理渡された指輪を見下ろして深い溜息をついた。


「指輪……! 置いときますからね!」


小声で叫んでも一向に反応が無い扉の向こう側に諦めた悠は、指輪を廊下に置いて去った後にキズでも出来れば責任を負わされてしまうことを想像してしまって大人しく指に付け直した。ポケットに入っているよりは盗んだ感が和らぐ気がする。カールに無理矢理つけられたと主張することも出来るだろう。


「……魔法の指輪とかならいいのに」


不謹慎ながら悠は少しだけわくわくした。魔法を使ってみたくないと言えば嘘になる。ファンタジーの世界はゲームやマンガの中でも王道で未知なる力を使うことに憧れが無いわけではない。

と言っても悠は救世主になりたい訳でもない。日常の中で、ありふれた人間の一人として、そういう生活も悪くは無いと思う程度だった。

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