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異世界でも一般人  作者: さゆ子
二人の聖女
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セドリックの一人言

「あの……一つだけ、我儘言ってもいいですか」

「えぇ。出来る範囲でならお力になりますとも」


悠は目を瞑り、このまま何もかもを忘れて好きに生きる自分を想像してみた。文化の違いなどで苦労することはあれど、援助をしてもらえるのであれば餓死などの可能性は低いはずだ。この言葉が嘘ではない限り、きっとそこそこ快適に過ごしていけるだろう。けれども、桃華の事を思えば自分のことを優先することがとても恥ずかしいことに思えた。


「櫻井さんの……桃華さんの、傍に居させて下さい」

「それはどういう……?」

「彼女はこれから大変な毎日が待っているんですよね。命をかけて戦う日も来るのかもしれない。けど、今は仲間とかも居ない……心細いと、思うんです」


余計なお世話とは思いながら、先程桃華に呼ばれた声が頭に引っ掛かる。悲痛な涙声に対して手を伸ばすことはなく、見送ってしまった。たとえ怒られたとしても駆け寄ってあげるべきではなかったのか。そんな後悔が悠の罪悪感を募らせた。


「何の力もない私がこんなに不安なのに、櫻井さん、もっともっと……怖いと思うんです」

「ですが……」

「お願いします。ずっとじゃなくて良いんです。櫻井さんが信頼出来る仲間が出来たら私の役割は終わりで構いません。それが無理ならせめて今夜は櫻井さんと同じ部屋にしてくれませんか。知らない土地で、訳わかんない能力に目覚めて、不安でいっぱいな夜に一人って……そんなの辛いし、元気無いと能力に影響出るかもしれないし! そうなって困るのはそっちですよね? そうですよね!」


思い付く言葉を連ねてセドリックにたたみかければ渋っていた表情が緩み、諦めに変わった。仕方がない、という意図が読める溜息に悠は密かに拳を握った。


「……分かりました。お部屋は隣同士にお一部屋ずつご用意させていただきますが、どのように過ごされるかはお二人でお決めください。メイドへはそのように申し伝えておきましょう」

「あ……ありがとうございます!」

「モモカ様はこの先のお話が長引きます。ユウ様はお先にお部屋へご案内致します」


セドリックの言葉に扉に立っていたメイドが一人悠の近くへ歩み寄り、案内をする前に恭しく頭を垂れた。ソファから腰を上げた悠はセドリック達へ慣れない浅いお辞儀を数回繰り返し、メイドの背中を追って部屋を後にした。


「二人の聖女が居れば安泰とは思ったのだが、一人は全く能力が無いとは……」

「大司教様」


ソファの肘掛けと背もたれに体を委ねたセドリックの元へ部下の男が駆け寄る。疲労の色が滲む表情は儀式の直後だからなのか、はたまた。

軽く右手を上げて部下へ問題無いことを示したセドリックは用意された葡萄酒を一口含み、ゆったりと喉を潤した。


「あぁいや、私は大丈夫だ。ありがとう。……しかしモモカ様の能力を早く覚醒させなければ、代替わりした魔王の力には及ばない。それどころか覚醒されたとして……五分といったところか」


重苦しい声音で発せられた声は部下の表情も曇らせた。桃華と悠の姿を見た時は聖女が二人という、前代未聞の事実に胸が踊った。絶望的な戦況はこの二人によって覆され、平和な毎日は約束されるであろうと。


「……我が国はどうなるのであろう」


見る限り桃華の能力は人間界を丸々守れるような強さを感じはしないうえに、魔界を滅ぼすほどの強さも感じられない。

そして悠に至っては聖女にしがみついて良い暮らしをもぎ取ろうとしているのか見極めなくてはならないときた。詳しい話を聞かせろと部屋へ乗り込まなかっただけ助かったが、今は猫を被っている可能性も捨てきれず、安心は出来ない。異国の知識だけを聞き出すために何が効果的なのか考える必要もある。


「今は聖女様のために無理に引き剥がすことはやめておけ。小娘一人始末するのは容易いが、同郷の扱いに疑念を抱かれては能力に支障が出る可能性も確かに否めない」

「はっ」


悠の主張した事は確かにと納得する部分もある。こちらの痛い部分を突いて要求を押し通そうとするやり方はセドリックの苛立ちを刺激した。言うことだけ聞いていればいいものを、聖女を盾に自らの主張を実現させた悠は邪魔になる可能性が出てくる。


「幸い、聖女様は扱いやすそうだ。王子はどうか分からん。もしもの際に言うことを聞かせるため従者候補の男共の誰かが聖女様の心を掴むよう仕向けておけ」

「御意」

「同郷の友人が亡くなった時すら男女の絆を深める糧にしていただかなくては。万が一王子以外の誰かと懇意になった場合、国王に仕立てあげて私が実権を握れば済むことであろう」


残りの葡萄酒を一気に煽ったセドリックは空のグラスを部下へ返し、部屋を後にした。


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