嵐の島
私の傷は大したことなくほどなく退院となった。
退院してみると占領したヘンダーソン飛行場には友軍の戦闘機や爆撃機が増強され並んでいた。
さらに地上軍の兵隊や重火器などの増援が次々と到着し我がガダルカナル上陸部隊も万全な体勢を整えつつあった。
入院中には新たにこのガダルカナル島の近海で海戦があったようでまたもや友軍の艦隊は大きな損害を受けたらしく上官たちはピリピリしていた。
私はしばらく前線を離れ防御が硬く安全なヘンダーソン飛行場での勤務が認められていた。
目の前で手榴弾が爆発し目の前で部下が爆死したため精神的静養するようにとの上層部のはからいなのだろう。
しかし中隊がまだジャングル内に潜伏する日本兵と戦っている事を考えると早く中隊に戻りたかった。
私は退院すると同時に中隊と合流する事にした。
しかし目の前で吹き飛んだウィルソン一等兵のことが頭から離れなかった。
我々が上陸して一ヶ月が経とうとしていた。
そんな頃このガダルカナル島に日本軍の新手が上陸してきたとの話が入ってきた。
今度は前回を上回る大部隊とのことだ。
そんな話が聞かれると同時に飛行場基地内の活動もあわただしいものとなった。
さらに敵の新たな部隊が上陸したとの情報を聞いた直後からパトロール任務で日本軍の斥候部隊と遭遇する事が多くなった。
中隊からは負傷者も出た。
我々は敵との大きな戦闘が間近である事を感じていた。
敵の出没が増えて程なくして敵上陸部隊の主力がこの飛行場を目指して移動中との情報が入ってきた。
我が中隊は大隊の他の中隊と連携し、敵を迎え撃つべく出撃命令を受けた。
日本軍が飛行場へ向かうルートのひとつと思われる飛行場南部にある高地へと向かう。
ここで日本軍を迎え撃つのだ。
高地に到着すると日本軍の空襲があり、私は敵がやはりここ飛行場南部からの突破を目論んでいると確信した。
本格的な陣地を作る事となりすぐさま塹壕と機関銃陣地の構築するようにと指示を受けた。
塹壕掘りをしているとマイケル一等兵はスコップ片手に補充で来た補充兵と会話をしながら作業をしていた。
「この島に来てジャップとはじめて戦ったが奴らはイカれてやがる。
死ぬと分かっていても爆弾持って突っ込んでくる。近づかれる前に撃ち殺さないとこっちがみちづれだ。
ウィルソンもジャップの自爆攻撃で死んだ。奴らは本物のクレイジーだ」
その話を聞いていた新米の補充兵達はこれからどんな奴と戦うのであろうかと、想像もつかない日本兵に若干の恐怖心を抱いているようだった。
日本兵が間近に迫ってきたようでできる限りのことはしたが我々の陣地は未完成のまま迎え撃つ事となった。
日が暮れ夜になり陣地で日本兵の夜襲に備えていると、どこからともなく無く照明弾が降ってきて我々の陣地を照らした。
「敵の照明弾だ!銃砲撃に注意しろ!」と誰か叫んだ。
すると轟音が響き尋常ではない破壊力を持った砲弾が陣地に何発か着弾した。
「艦砲射撃だ!隠れろ!」
とっさに私は部下に指示を出し即席塹壕にもぐりこむ。
大口径の砲弾が凄まじい音を発しながら飛んで来るので心理的効果はあったが日本軍の照準はバラバラで
陣地の上を飛びぬけていったり、遠くに着弾したものがほとんどだった。
マイケル一等兵が「ヘタクソな射撃だぜ」と壕の中で言った。
私は前回飛行場に押し寄せてきた日本兵と今回の日本兵では決定的に違うものを感じていた。
前回の日本兵には無かったが今回の日本兵には海上部隊からの支援砲撃や航空機の支援爆撃を伴っての攻撃だ。
敵も連携して総力を上げてやってきたのである。
今回の日本兵は前回の日本兵よりも数段手ごわいであろうと思った。
敵の艦砲射撃が終わると壕から首を出し陣地を見渡すがたいした被害を受けていないようであった。
艦砲にやられた者がいないか「負傷者はいないか!」と叫び周囲の部下にたずねた。
その時だった。
「ジャップが来たぞ!総員戦闘配置!」の号令が出された。
マイケル一等兵も「ついに来やがった!」と小銃を持って壕に飛び込んでくる。
私も日本兵の襲撃に備えて短機関銃を構えて塹壕の外を見張る。
すると夜のジャングルの木々の向こうから雄たけびが聞こえて来た。
その狂気に満ちた雄たけびはだんだん我々の陣地向かってせまってきていた。
塹壕を守る分隊の部下たちはいよいよ来たかと緊張する。
味方の照明弾が雄たけびのするほうへ降り注ぎ日本兵の一団を照らし出した。
その瞬間、陣地に布陣する我が軍の砲門が一斉に火を噴いた。
サブタイ用意してなかった