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ヌーヴォー・アヴェニール  Other Side  作者: 龍槍 椀
衛生兵分隊 小隊長 ユージン=コビック Side
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衛生兵分隊 小隊長 Side  ユージン=コビック ④

 





 演習初日の移動…… はぁ…… 移動。




 演習地まで五日かかる。 最初の日は、宿場の村に泊まる。 しかしな、ほぼ同じ方向に向いて、学院の一学年の大部分が移動中。 俺達にまともな宿が、宛がわれるとは思えんしな。 早速、階層の壁の洗礼がきやがるぞ? 大丈夫か、あいつは。


 道中は、なにも無かった。 怪我人も居なかったという事が、ちょっと驚きでもあるんだ。 お貴族様は、長距離移動に慣れていない。 当たり前だ。 当然の様に馬車で移動している。 俺達は、歩くか騎乗。 で、歩く速度での行軍。 馬車も居る。 荷物やら、魔法科の生徒やらを載せてな。 ゆっくりしたもんだが、反対に疲れが溜まる。 油断もする。 怪我をする。 それが無かったんだ。


 この距離なら、半日、いや四半日で抜けられそうなものだ。 しかし、街道は馬車の群れ。 ゆっくりゆっくり…… なんか、イライラしてきた。




「分隊長様、意見具申」




 あいつが、馬を隣に寄せて来た。 女の子とは思えない、手綱さばきだ。 何年も乗ってた奴等みたいだったな。 メティアを背に括りつけ、素顔を晒してやがる。 綺麗な整った顔に、紺碧の瞳。 強い視線が俺を見詰めていた。 ふ~ん、良い目をしてやがるな。 




「許可する」


「有難う御座います。 分隊長様、こうゆっくりと進みますと、騎兵……特に、馬達がイラつきます。 鎮静効果のある、飼葉…… いえ、薬草を持参いたしました。 各騎兵に渡し、馬達の気を落ち着かせては、如何でしょうか?」


「……それは、衛生兵の領分か?」


「馬が暴れ、落馬したり、徒歩での行軍を強いられている皆様に突っかかる様な、万が一の危険を避けられます。 結果、損耗は抑えられます。 目的地に損耗なく到着できます」


「予防処置か…… いいだろう。 お前から言うか?」


「若輩者の言葉など、届きませぬ故、どうぞ、分隊長様から、よしなに」




 驚いた…… ホントに驚いた。 行軍って奴を理解しているぞ、コイツ。 いくら小休止を挟むとはいえ、ただ、ダラダラ歩くだけでは、士気もなにも無い。 無事に野営地に着く事も、我らの仕事の一環。 しかし、ひよっこ共も一緒だ。 気が逸るしな。 そんな気持ちを、馬達は敏感に感じ取る。 で、暴れ出す。


 ちょっと、走ってやれば、それで収まるんだが、行軍中の逸脱は、懲罰モノ……


 考えたな。




「わかった。 で、その薬草は?」


「こちらに」




 斜め掛けの大きく膨らんだ衛生兵鞄の中から、わしゃわしゃと出してきやがった。 きちんと、括られて準備されていた。 知ってやがったな……コイツ。


 でな、衛生兵分隊の奴等も、他の分隊の連中も、いつ根をあげるかって、遠巻きに見てやがんの。 誰一人、声すらかけねぇ…… 仕方ねぇな。




「おい、嫌ンなったら、何時でも言いな、直ぐに王都に帰してやる」


「えっ? 楽しいですよ? とっても。 天気は良いですし、クリークの脚も快調ですし。 嫌になる要素は御座いませんわ」




 なんて、いい笑顔しやがるんだ。 こいつ、何処まで耐えられるのかって、思ってた俺が馬鹿みたいだ。 ならいい。 取り敢えずは、今晩の宿までは大丈夫そうだな。




 ―――――




 宿…… と言っても、豪華な宿舎とか、借り上げの宿屋なんかは、俺達に回ってこない。 俺達がその宿場町に到着したのは、最後だ。 その上、前の部隊がノロノロ動きやがったもんだから、とっくに日は沈んでいる。 さっさと飯食って、寝るぞ。


 野郎共は、”勝手知ったる” だから問題はねぇ。 教官共と、魔法科の奴等は、予定されていた宿に入った。 飯も用意されている筈だ……筈なんだが。




「これより、自由行動を許可する。 明朝出立するまでは、各人の自覚と規範に期待する。 各人の寝床は確保しておいた。 飯は行軍食を喰え。 以上だ」


 これだ……誰が喰うか、携帯食料あんなもん。 こっそりと、野郎共は小銭を隠し持ってる。 酒場に繰り出す者も居るな。 おい、喧嘩だけは勘弁してくれよ。




「飯だ、飯!!」




 教官共の通達のあと、野郎共は散り散りに、思い思いの場所に散開していったぜ。 まぁ、酔い潰れる馬鹿はいねぇと思いたいがな。 アイツはっと…… 教官共が入った宿の前で、従者のネエちゃん二人に捕まっていたな。 従者の娘って、割と大声なんだなぁ。 あんな良い声出すんだ……ほう。




「わたくしが代わります!!!」

「わたくしでも!!! どうか、どうか、お願いします」




 なんか、変だな? なにが有った? おい、なんでお前が、そこで踵を返す? 前に回り込んだ、魔術師のローブを着た女が血相変えていたな。




「どうか、どうか!!」


「エル、ダメよ。 私は衛生兵。 貴方は、魔法科の大事な人。 この処置は当たり前。 行軍訓練よ、判ってる? 貴方達は魔力と体力を温存しなくてはならないの。 初日から、そんな事を言ってはダメ。 ほら、教則本に有るでしょ? ”本実習は、劣悪な環境に適合した、精強な精神と肉体を育む” って。 ルールはルール。 守ろうよ。 伯父さまから何を命じられてるかは、聞かない事にするよぉ。 貴方達は、学生として、やるべき事をして、受けるべき特典は享受すべきなの。 その特典は、貴方達の『やるべき事』が要求するモノよ? それを他人に譲ってどうするの。 受けなさい。 命じましょうか?」




 女が項垂れとるな・・・とんでもない事、言ってやがる。 何となく理解した。 あとで、エルガスか、アムエルに様子を伺わせよう。 しかし、まさか衛生兵が、厩の横の藁の山が寝床だとは知らんだろうから、泣き見るぞ? その心意気が何処まで、本気か見せて貰おうか。




 ―――――




 エルガスに様子を見に行かせ、俺は飯を喰いに行った。 食堂だが、結構安くて旨かった。 暫くは、携帯食料だけが俺達の飯だ…… くそマズいアレを喰うんだ、いいだろ、これくらい。 そんで、その食堂に レオが居た。 一人で喰ってやがった。 エールの入ったコップを二つ持って、奴の横に座る。




「おい、あいつは、ホントになにもんだ?」


「黒龍大公令嬢、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント それ以外にないよ」


「そんな事は知ってる。 なんだ、あの正論で固めた様な態度は」


「……侍女たちの間で噂がある」


「なんだ」


「階級意識が薄い……いや、嫌ってる節がある」


「なんだそれ?」


「『人は皆、精霊様の前に同じ命です。 此処はいわば、通路のようなモノ。 ちょっとした木陰と、ベンチがある。 誰モノでも無い、唯一精霊様が見守る場所です。 堅苦しいのは、ゴメンです』……中庭で、あいつがお茶してるんだ。 そん時に、近くに居て、ビビってた庶民階層出身者の他家の侍女、メイド、執事達に言った言葉だよ。 俺が時々情報を拾う場所でもある…… 今じゃ、「大公家のお茶席」 とか、呼ばれててな。 色んなモノを持ち寄って、喋ってるんだぜ。 信じられるか?」


「……お貴族様、それも、高位のお貴族様は、『サロン』とか、呼ばれるお仲間達とつるむ場所に居るもんじゃねぇのか?」


「それがな…… 嫌いなんだと」


「へっ? あいつらが、目の色を変える、社交とやらの場じゃねぇのか?」


「嫌いなんだと」


「……わかんねぇな」


「見えん人だ」




 まぁ、それも、今晩までだがな。 いくらなんでも、あの場所を見れば、泣き出すぞ。 ” 嫌 ”とか言ってらんねぇからな。 直接向けられる ”悪意” なんざ、向けられた事もねぇ筈だしな。 王都シンダイに無事に帰れるように、準備しとこうか。


 飯食って、チョット飲んで、あちこちの組にいる、庶民階層出身者達に繋ぎを付けて、色々と聞き出しといた。 まぁ、奴等の役目は、お貴族様の御先棒担ぎだからな。 へとへとになってやがった。 ざまぁみろ。 簡単に美味しい目に会えるか!


 で、夜半、寝床に向かった。 寝とかねぇと、明日がヤバイ。 寝る前にな、エルガスに聞いた、あいつは如何してるってな。




「分隊長殿…… 寝てます。 厩の横で」




       なに? 




「至って、満足そうに。 慣れている感じがしました。 それに……」


「なんだ、言ってみろ」


「俺が、『……お前、従者が宿で、主人のお前がこんな所で眠ることに、なんか思わんのか?』って聞いたら、心底不思議そうな顔されて、『えっ? 何かとは? 野外実習ですよ? 当然ですわ』って答えられました。 ……彼女、ホントに、黒龍大公閣下の、”お嬢様”、なんですよね?」




 驚いた。 いや、マジで。 あの劣悪ともいえる場所で、なんの衒いも無く、そう言って眠れる度胸に…… 女の冒険者でも嫌がるぞ? 普通。 代わってくれる従者も居るんだ。 まぁ、あの教官共が許さんだろうがね。 それを見越して? んな訳ないよな。 




「引き続き、明朝も見張っておけ。 脱走されたら、ことだ」


「はっ!」




 夜中に泣いて抜け出しゃせんだろうな……。 それは、勘弁してくれ。 探す手間が大変だ。 本当に眠っているのか、気になって、覗きに行ったら、マントにくるまって、藁の上に眠っていやがった。 こいつ、ホントにお嬢様かよ…… なんかの冗談だろ?





 *****************





 俺達の朝は、お貴族様より、ずっと早い。 自分達の装具点検から、馬の世話、後片付け、色々あるんだ。 だから、日の出前には起き出す。 日が昇って、朝日が差して、しばらくしたら、あいつが来た。




「分隊長殿、装具点検終わりました。 差し出がましいですが、騎乗される馬達にも、飼葉と水を与えました。 出発までの間、装備品の員数確認に当たりたいのですが、許可頂けますでしょうか。 何分と、行政内務科の課題が有ります故……」


「お、おう。 許す。 員数確認を許可する」


「はい」




 またも、いい笑顔を向けられた。 なんだ? 媚びてるのか? いや、話は手短だし、実習関係だけだし…… 俺の事をきちんと、” 上官 ”って認識してる。 いや、普通なんだけどな、俺は分隊長を拝命してるし、あいつは兵だ…… 貴族がだぞ? それも、この龍王国じゃぁ、最高位と言ってもいい、大公家の御令嬢だぞ? 混乱してきた……


 そうだ、エルガス! おい、今朝の様子はどうだったんだ?




「そ、それが…… あの人、『剣の型』を、鍛錬してました」


「はぁ? それで?」


「不思議に思って、聞いたんです。 『お嬢様が、なんで、剣の型の練習なんかするんだ?』と。 そうしたら、ニッコリ笑って、応えられたんですよ。 『小さい頃に、御爺様に教えて頂いて、体を丈夫にする為と、なにが有っても対応できるようにする為ですわ』 って…… 俺も貴族の端くれ、普通の貴族の令嬢は、そんな事しないって、知ってんだけど、高位のお貴族様では、当たり前なのかと思って、聞いてみたんですよ。 『貴族って……そう言うモノなのか?』 って、そしたら、『さぁ…… 判りかねます。 少なくとも、わたくし・・・・は、変えるつもりは御座いません』 って凄い真剣な目で、見詰められました。 ほんと、分けわからん」




 なんだかな。 俺も判らん。 此れじゃ、女冒険者よりも、根性坐ってるとしか言いようがねぇ。 もうちっと、様子を伺うか。 しっかし、残念だったな。 一日目に脱落するって、賭けてた奴等。 朝の出発前整列で、あいつが並んでいるのを見て、何人かぶったまげてたな。





 ―――――





 二日目から行程は、人家もまばらになる。 もう、街も村もねぇ。 ちっさな集落があるくらいだ。 でな、此処で、他の組と違う道に入るんだ。 俺達の組だけ、スターブの森に入る小街道を行く。 道も悪くてな…… 途中、ギレ砦に一泊するんだが、その前に、本格的な野営がある。 拠点野営では無く、行軍野営だ。


 朝はまだよかった。 昼、夜と、携帯食が俺達の飯。 旨くねぇんだ、これが。  焼いたパンを、ギュって押し固めた棒状の携帯パン。 ガッチガチになった、干し肉。 パッサパサのチーズ。 粉吹いて真っ白で、ボソボソの、チョコレートの塊。


 マジ、喰えたもんじゃねぇ。 だがな、喰わねぇと、体がもたん。 仕方なく野郎どもは喰うんだよ。 そんでな、こんなひでぇもん、喰った事無いだろうから、根を上げるぞって思って、嬢ちゃんを見てたんだ、飯時にな。 ちっさい口を、大きく開けて、モソモソ喰っとるんだ。 顔に如実に出とる、美味しくないって表情は、いいんだ、野郎共、全員同じ顔で喰っとるからな。


 でもな…… 嬢ちゃん文句言わねぇんだ。 美味しくないですねって、言ったきり、黙って喰ってるんだよ。 おかしいだろ、そこは、盛大に文句を言う所じゃねぇのか? でな、反対に聞かれちまったぜ。 これをよ、全組で喰ってるのかって。 他のお貴族様も同じもん、喰ってると思ったから、我慢してたのか? 残念だったな。 繋ぎつけた奴等から聴いた話をしといた。 ついでに、ちょっとした嫌味も混ぜてな。




「んな訳あるかい! 殿下の居る1組なんか、朝昼晩と豪華なビュッフェだそうだ。 他の高位貴族の処もな。 この組だけだよ」




 ほら、茫然としてる。 自分が悪意の対象になってんだ。 気が付いたか。 その上、その悪意のとばっちりを俺達は受けてるってな。 ちょっと、悪いが、その認識は、大体あってる。 だから、隠す事もないだろう? 嬢ちゃん、くそマズいパンを、モソモソ喰いながら、”……どうして” って、呟いとるな。 じゃぁ、八つ当たりさせてもらう。 娯楽が無いもんでな。 




「一つには、シュバルツハント。 お前が居るから」




 やっぱ、衝撃が大きかったか。 眉を下げて、シオシオになったな。 そんで、モソモソ口を動かしながら、頭を下げおった。 ”ごめんね、9組のみなさん。” って、呟きながらな。 い、いや、すまん。 たんなる、八つ当たりだ。 少し、真実も含まれちゃいるが、今のは完全に八つ当たりだ。 ちゃ、ちゃんと説明しとこうか……。




「ただ、それだけじゃない。 と云うより、もともとだ。 お前の存在がどうこう言う前にな」


「どういう事ですの?」


「分からんかったのか? 組分けの人選で、9組だけ、庶民階層の者がほとんどだ。 で、教官がアレだ」




 ギラリって感じで、紺碧の瞳に強い光が宿った。 憤ったな。 こんな、嫌がらせされてるからか? う~~~ん、 違う様だ。 怒りの矛先は、嬢ちゃんに対して投げつけられとる、悪意に対してじゃねぇ…… どういえばいいんかなぁ~~~。  


 嬢ちゃんが、誰に言うでは無く、口の中で呟いたんだ。 おれ、耳はいいんだ。 何度も、この耳に助けられた。 でな、聞こえたんだ。 ” ……こう云うの。 兵を蔑ろにすると、士気も下がるし、精強さだって落ちる。 兵はそれこそ、死の前に平等なんだから、ココはちゃんとした方がいいのに…… なんか、釈然としない” ってな。


 嬢ちゃんは…… 赤龍大公家の人間か? 赤龍大公家ゆかりの騎士さん達と、同じ事言ってるな。 その騎士さん達は言ってた。 共に戦場を駆ける漢達は、身分の上下は有るが、仲間だ。 仲間に酷い待遇をするって事は、龍王国の力を削ぐ事だ。 それでは、龍王国の民を外敵から守れん。 とな。 そんなんだから、赤龍の騎士達は、兵に、厳しくも優しい。 同じ志を持つ、仲間だと認識してるからな。


 嬢ちゃん、あの尊敬すべき、鍛えに鍛えられた騎士達と、同じ考えか…… 





「シュバルツハント、ちょっとは、見直したんだ、お前の事を」


「はぃ?」


「俺達と同じものを、まぁ、しかめっ面だけど、喰ってる。 同じ所で眠る。 黒龍大公のお嬢様だから、もっと、高飛車で嫌な奴だと思ってた。 大公家の人って、大体そんな感じだと思っている」





 俺の言葉に、嬢ちゃん怒ったな。 何に怒ったんだ? ちょっと判らん。 物凄い目付きで、睨んで来る。 いや、マジで、ちょっと怖いと思ったぜ。 真剣な本気の怒気ってのは、相手が幾つとか関係ねぇ。 純粋な怒気を孕んだ目で、じっと見詰められた。 そんで、低い底冷えのするような声でな、呟いたんだ。




「・・・黒龍の伯父様をそんな方だと、思わないでください。 私の事は何と思って頂いても結構です。 でも、黒龍の家の方達は一心に龍王国にお尽くししておられます」




 驚いた。 いや、本当に驚いた。 嬢ちゃん、ちゃんと見てるんだ。 尊敬できるものと、そうで無い者を。 でな、自分が尊敬している人々を、蔑まれると一気に着火する。 いや、矜持か。 黒龍大公家の人達って、あんま表に出て来んけど、相当な実力者って、噂されて居るからな。 




   いや、マズった。 




 此処は、きちんと謝っておかないとな。 ええっと…… 礼法の教官が言ってたな。 謝る時は、言葉を直せと。 ”俺”はマズイと。 少なくとも ”僕” ”わたくし”って言えってな。 そんで、謝る相手は、嬢ちゃんじゃねぇ…… 認識を違えていたのは、黒龍大公閣下と大公家の人々に対してだ。 




      すまん。 




「・・・うん、すまなかった。 僕の失言だ。 黒龍大公閣下には、申し分けない事を言ってしまった。 許してほしい」




 怒気が解けた。 紺碧の瞳が澄んだ色になったみたいだ。 愛らしい顔に、一杯の笑顔を浮かべて、嬢ちゃんは、俺に言ったんだ。




「許します。 ちゃんと、私にではなく、伯父様に謝ってくれたから」


「ありがとう。 ・・・まぁ、実習は気楽に行こう。 どうせ、我等は、文字通り魔物討伐に駆り出されるんだから」


「衛生兵分隊として、精一杯お勤めいたします」


「期待している」




 いやはや、お貴族様の矜持って奴、見せて貰ったよ。 こいつは、本物だ。 俺の知っている、良い方のお貴族様と、同じ目をしてやがる。





 認識を、改めよう。 嬢ちゃんは、本物の貴族だ。






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