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初めまして Side 王弟 レオポルト=ハンダイ殿下

 



 彼女との最初の思い出は、王国舞踏会だったな。 



 彼女のデビュダントだったと、私は記憶(〇〇)している。 もう、他の者は忘れたであろうがな……



 我が龍王国の救世主(〇〇〇)とでも言うべき、小さな、” クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント ”と、最初に出会ったのは。 






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 その戦があったのは、先々代ラジシール=ハンダイ様が、まだ存命であったな。 先代のモスコー=ハンダイ国王陛下が、フョードル兄上を王太子に即位させた事は、当時の情勢からは、無理からぬ事だった。 クーベル白龍大公翁が失脚されて、その令息である、ルードヴィヒ白龍大公が、外務寮を掌握し権勢を伸ばし始めて居た。四大龍大公家のバランスが崩れ始めていた頃だからな。


 その頃は、まだまだ周辺国が龍王国を脅かしていた。 特に東北辺境が煩かった。 蛮族と言われながら、奴等の精強さは、龍王国の騎士達でさえ、侮れない。


 そんな奴等が、数年の飢饉に耐えかねて、ついに我が龍王国に攻め入って来た。 負ければ飢餓線を彷徨う事になるのが明白な奴等は、本当に必死だった。 龍王国の先遣部隊は、早々にその戦力を削ぎ落され、中央に援軍を要請して来た。 


 時期が悪かった。 龍王国の騎士団を纏める、赤龍大公が前年亡くなり、リカルド=ウルリヒ=ルベルグラディウス赤龍大公にその座を譲ったばかりだった。 まだ若い、リカルドにその大任を任せる事など、出来ない。 敵軍は待ってなど呉れない。 軍を纏めて、戦えるのは、私しかいなかった。



 第二王子として、” 親征 ”した。



 今でも、時折夢に見る。 荒れ野を行軍する、数千騎に及ぶ、近衛騎士。 龍王国 緊急展開できる総軍。 雨の降りしきる荒野を、夜を日に次いで、助けを求める味方の兵の元に……


 数を揃え、力で押し、戦闘を有利に持って行く。 その為の軍勢だった。 実際、その策は奴等の心を折った。 北東部の彼方此方に進攻していた、蛮族の部隊は、遊撃騎兵部隊に突き崩され、戦線は収斂していった。


 最後の組織的抵抗拠点、ワールロー。 其処さえ抜けば、この戦の勝利は見えた。


 最後の反撃を奇襲でくらった…… その時、切飛ばされたのが、左腕の肘から先。 奇襲を真面に喰らった。 蛮族の決死隊。 指揮官の私を排除できれば、まだ戦える、戦略的に勝てると、踏んでいたんのだろう。 其処に飛び込んで来たのが、カール=クスタフ=シュバルツハント近衛筆頭騎士だった。 並みいる蛮族の兵共を、一刀の元に切捨て、自らは傷一つ負わぬ、その剣技に目を見張った物だ。


 一命を助けられた私は、深く感謝をした。 


 これで、戦の趨勢は決まった。 あぁ、勝ったのだ。 龍王国は護られた。 戦の後始末をして、王都シンダイに帰還するまでに、半年もかかった。 ……その半年で何があったのかは知らない。 知らないが…… 私が王都シンダイに帰還し、カール筆頭に挨拶に向かった時、彼の姿は王都に無かった。 



 理由を聞いた時、膝から力が抜け落ちた。 命を懸けて、龍王国を護り抜いた男に対する仕打ちかと、憤った。 しかし、黒龍大公、国王陛下、各寮の高官共の落しどころとして、カール筆頭はその職を辞したと聞いた。 もう、龍王国のドロドロ下部分に辟易していたのだそうだ。 その後のカール筆頭の消息は掴めなかった……


 それから幾年も経ち、私はカール筆頭の御令孫に逢う事になった。  そう、フョードル国王陛下の末娘の為の舞踏会と聞いた、その王国舞踏会でな。




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 小さな方だった。 薄いピンク色のシンプルでも贅沢なドレス。 宝石が連なったネックレス。 兄上にご挨拶された後、お連れの方と別れられて、この壁際の絵画の並ぶ辺りに、一人で来られた、小さな貴婦人。 幼いながらも、貴人の嗜みを守って居られる、その小さな後姿に、興味を覚えた。 


 その子は、一枚の絵をジッと見ていたのだ。 忘れもしない、あの、ワールローの戦いを描いたものだった。 先頭に立ち、剣を振るうのは、カール筆頭。 


 そうだ、この画は、私が命じて描かせたものだった。 思わず声を掛けてしまった。




「”ワールローの戦い”、混戦でどっちが勝つか見えないいくさだった。 お嬢さんは、この絵の何処に惹かれたのだ?」




 その小さな貴婦人は、振り返りもせず、凛とした声で私に応えた。



「はい、……この国を護り、人々の生命と誇りを護ろうと、奮戦している姿でしょうか」


「……血生臭い、醜悪だと、思わないか?」


「この国を思う者は、此処に描かれている人に敬意こそあれ、嫌悪を感じないでしょう。 もし、嫌悪を感じるならば、その人は、とても幸せな人です。 すべての人が、この国に好意だけを向けると、信じておられるのでしょうから。……そんな訳など無いのに……」


「……フフフフ、 そうか。 いくさを悪とは取らぬのだな」


「御爺様に言われました。 ”いくさは外交の一方策だ。使えるモノは何でも使わねば、国が綻びる”と」




 そこで、小さな貴婦人は振り返えられた。 綺麗な紺碧の瞳が印象的だった。 吊り上がった目は、そう……俗に言う ” 鷹の目 ”  カール筆頭と同じ目をされて居た。 しっかりと視線を合わせ、物怖じせず、私に ” ご挨拶 ” を始めてくれた。




「申し訳ございません。 あの……わたくし……クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントと、申します。 お初にお目に掛かります」




 なんと! シュバルツハント黒龍大公家の御令嬢だったとは! 詳しい話は、聞いては居なかったが、リカルドから、エルグリッド=アーサー=シュバルツハントの息女が見つかったと、話に聞いた。 この幼子が、そのクロエと言う、エルグリッドの娘なのか。 リカルドが楽し気にこの娘の話をしていたな。 よし、名を名乗っておくか。




「ん。 あぁ、そうだ、私は、レオポルト。 レオポルト=ハンダイだ」




 鷹の目を、大きく見開いて、驚いているな。 私を見知らぬと、そう言う事か。 さもありなん。 社交は、ほとほと嫌に成っているからな。 舞踏会や夜会等は、招待されても断ってばかりだ。 この頃は招待すらされなくなったしな。 そうそう、この娘御は、何をそんなに興味深げに見ていたのか…… 知りたくなった。




「クロエ嬢、 先ほど、この絵の騎士をジッと見ていたように思うが? それも、この人物を」


「このローブに見覚えが有ります。 御爺様が最後の時に着用していたものと同じです。 白いクロークに ”月桂樹の葉”の紋章の縫い取り。 雄々しく叫びなら、先陣を切る様子、まさに御爺様と同じです。 ……あの……王弟様は薄緑色のローブに同じ紋章……ですね。 同じ部隊なのでしょうか?」




 クロエの答えに、私は大きく目を見開らいた。 御爺様? これは、カール筆頭だぞ? どうゆう事だ? いや、待てよ、エルグリッド卿のお嬢様なのは知っているが…… まさか……




「よ、良かったら、クロエ嬢の御爺様の御尊名を聞かせてもらえないだろうか?」


「カール=グスタフ=シュバルツハント と、申します。……黒龍大公家六男にして、元近衛騎士でした」




 言葉を失った。 まさかが現実になった。 感に堪えない。 低く唸る様にしか言葉を紡ぎ出せない。




「なんと! やはりそうか! クロエ嬢は、カール筆頭の御令孫か!  カール筆頭には、この戦いで、命を救ってもらった! そうか、カール筆頭の御令孫だったのか!」




 キョトンとしている、目の前の少女に、つづけさまに、思う所を吐き出してしまった。




「この戦いは、最初から、双方とも死力を尽くしたいくさでな、親征も辞さずと、私が指揮を執った。 戦線は膠着し、双方とも甚大な被害が出た。 消耗戦だった。 やっと、光明が見え、もう少しと云う所までは来たのだが……最後の反撃を奇襲でくらってな……その時、切飛ばされ、このありさまだ。 其処に飛び込んで来たのが、カール筆頭だ」


「閣下の左腕は、龍王国の礎になったのですね。 ご立派です」




 だまって、私の話を聞いてくれたこの少女は、誰も…… そう誰も言ってはくれなかった、真摯な感謝を私に授けてくれた。 カール筆頭殿! 貴女の御令孫は、国を想う心をお持ちです! 国を想う民の心を理解されております! 御照覧あれ!!




「く、クロエ嬢……」




 一枚の絵画の前で、涙ぐんでる、壮年の傷ついた騎士ウーデッドライオンと、十歳の少女。 王国舞踏会にはそぐわない雰囲気になった。 いや、済まない。 少し空気を換えよう。




「クロエ嬢、何かお困りの事は無いか?」




 突然、そう聞かれても…… そう云うような顔をしていた。 まぁ、私のような年寄りから、突然言われても困るだろうな。 よし、一曲お願いしよう。 なに、片腕が無くとも、昔取った杵柄。 小さな貴婦人には後れをとるまいよ。




「せっかくの舞踏会、一曲お願いできますかな?」


「え? 宜しいのでしょうか? お願いしても?」


「王家舞踏会で壁の花は無いでしょうに」


「ええ、でも、わたくし、本日がデビュダントでして……」


「おお、それは、すまない。 で、お相手は?」


「はい、当初はリヒター=ルードヴィッヒ=シュバルツハント子爵……従兄にお願いするところでしたが……」




 玉座近くに兄陛下の四女ソフィア様に拘束されているリヒター様を見た。 わたしは即座に理解した。 この舞踏会の本当の意味を、侍従共がシュバルツハント黒龍大公に伝えていなかったと。 馬鹿が…… わたしは、リヒター殿と、ソフィアをみて、苦笑いを口元に浮かべた。 仕方のない奴等だ。 いや、ソフィアと、リヒター殿の事では無い。 侍従と、その背後にいる者達だ…… なんて、嫌がらせをするのだ…… これだから、社交界は嫌なのだ。 




「ああなっては、もう無理でしょうな。 では、私と踊りましょう。 デビュタントで最初に踊る栄誉を貰えるならば、それも、あの… カール筆頭の御令孫。 これに勝るものは無い。 さぁ!」




 右手で私を誘った。 自然に。 クロエの手を引いて、広間の真ん中にでた。 注目された。 そんな事はどうでもよい。 今はクロエに楽しんでもらいたい。 せっかくのデビュダントだ。 思い出に成る一曲だ。 その相手が、王弟レオポルト、 この私だ。 


 貴族の娘のデビュダントとしては、破格の扱いになるな…… すまん。 王宮の奴等の嫌がらせのお詫びだ。 許せ。 今からは、全神経を音楽とダンスに集中。 この小さな貴婦人に、絶対に失礼にならない様に、無様な姿は決して見せない様に。




 次の音楽に代わった。 



 ワン、ツー、スリー、フォー




      大胆に!



     そして



      華麗に!






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今でも思い出すのは、その時の彼女の姿。



クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント



今でも、彼女は私の中では、小さな貴婦人のままだった。








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