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初めまして Side ビジュリー=エリオット=バンデンバーグ子爵令嬢

 出会いは、そう、私が、まだ9歳の時だった。



―――――



 ある日、王都シンダイのタウンハウスで、お兄様にバイオリンの練習を付けて貰っていた。 音の妖精霊さん達は、いつも私の近くにフワフワと漂っていて、間違った音とか、心に響かない音を出すと、目の前に飛んできて、ベーってするの。 それが嫌だった。




 そう、嫌だったのよ。




 生まれた時から、音の妖精霊さん達がいつも見えていた。 バンデンバーグ子爵家は、ハンダイ王家に「音楽」で仕える、宮廷楽士の一門の長。 故に、御父様を含め、何人も音の妖精霊様を感じられるの。 そう、感じられる…… けっして、見えては……いないの。 



 でも……





     私は特別。





 生まれ落ちた、その時から、音の精霊様が加護を与えてくださったの。 いつも傍らに、妖精霊さんが小さな羽根をパタつかせて、飛んでいるのよ。


 なにか、楽器を習う度に、ずっと正しい音が出るまで、ベーだの、ブーだの、言っているの。 楽器に手を出さなければ、それは、それで、ご機嫌斜めになっちゃって…… 脚をひっかけて来たり、髪の毛を掴んで引っ張ったり。


 それでね…… 眠るの。 いつも、いつも一緒だけど、眠っている時は、流石に遠慮してくれたから。


 9歳にして、もう疲れてたのかな。 ずっと、見張られているみたいなものだし…… お兄様との練習も終わって、ほっと一息入れたのね。




「ビジュリーのバイオリンは、何時聞いても一級品だね。 光が舞い降りる様だった」


「お兄様…… 妖精霊さん達が許してくださいませんのよ? 一音一音、それはそれは、厳しくて……」


「疲れたか?」


「とっても…… 練習が終わったなら、お部屋で眠りたいのですが?」


「今日はな、ちょっと、外出しよう。 ずっと眠ってばかりいる、我が家の御姫様の世界を広げてあげるよ」


「えっ? なんですか?」


「父上の御友人が、ある人物の教師となられて、その方の授業の一環として、とある歌劇を楽団と一緒に演奏されるそうなんだ。 チケットは、一般席。 どうだ、行ってみないか?」


「えぇぇ~~~ 街の劇団の楽団ですか~~~ 妖精霊さん達、また腹を立ててしまいますわよ?」


「そうなのか? でも、まぁ、そっちに気が行って、お前にはちょっかいかけないだろ」


「はぁぁぁ…… 後が厄介なのですが……」


「お嬢様、御手を」


「仕方ありませんね。 お兄様のお誘いですから」




 苦笑いを浮かべる、お兄様。 だって、わたし、膨れた顔で物凄く嫌な声、出してたから。


 ホントに、嫌々だった。 だって、お話した通り、ご機嫌の悪くなった妖精霊さん達、あとで、私に八つ当たりするのよ。 それを諫める為に、また、長時間の演奏…… 外を見るっていっても……ねぇ。 これが、宮廷楽団様の演奏なら、大丈夫なんだけどねぇ…… 溜息しか出なかったわ。





******************************




 外出着に着替えて、お兄様と一緒に街に出たの。 いろんな音が聞こえるのだけど、不協和音は、心に悪い。 もう時間は夕刻。 気の早い人達が、家庭料理店バルの店先で陽気な歌を歌ってるのだけど、調子外れで、耳がおかしくなりそう…… 


 お兄様は笑ってるけれど、私はホントに如何にかしてほしかった。




 帰って、眠りにつきたい……




 小さな劇場に着いたの。 ホントに小さい。 たまにお邪魔させてもらう、宮廷楽団様の練習室よりも小さいんじゃないかな。 それに…… 建物が木製。 きっと反響とか酷いだろうな。 なんか、心が沈んで来たわ。 御兄さまも、チケットの住所と目の前の建物を見比べて、”アチャァァァ~~~!” って、顔されているわ。




 そうね、お兄様もきっと私と同じお気持ちだったのでしょうね。




 御父様の手前、このままタウンハウスに戻る訳には行かなかったけれど、きっと途中で抜け出すわ。 きっとそう。 演目は……「魔法弾の射手」?  初演ってあるわね。 リュートの曲を使って、歌劇に仕立てたのね。 きっと、無茶な編曲して、オリジナルの美しくも悲し気な曲想を滅茶滅茶にしてしまってるわ…… 気が重い。


 お兄様にエスコートされて、その劇場に入ったの。 外観通りの、まぁ…… 最低では無いにしろ、酷いものだった。 席について、開演を待つと、横に座れられたお兄様が、小声で謝られたのよ。




「済まないね…… こんな所だったとは、思いもよらなかった」


「仕方ありませんわ。 御父様の御友人なのでしょ? 御父様のご紹介なのですもの……」




 俯きながらそう答えたの。 仕方ない…… そう、ただ、ただ、時間の過ぎるのを待って、タウンハウスにかえろう…… そう考えてたの。 オーケストラボックスに、人が入って行くのが見えたの。 チューニングが始まった。 


 まぁ……腕は悪くないわ。 音の妖精霊さん達、そんなに機嫌が悪くなっていないもの。 それでね、主役のリュート奏者が、見えないの。 よほど小柄な人なんだろうなぁ って思ってたの。




 ビックリした。




 その方、チューニングに、”ダフラーテッドの練習曲” を、使ったの。 早く、遅く、下の弦から、上の弦まで、全部使うのよ、あの曲。 それで、破綻が無いの…… 気に入らないのか、何回か同じスコアーを繰り返してる。 


 いいえ、違う。


 違う、あの部分で、チューニングしてるんだ…… なんて人なの! 音の粒が立って、互いに反響して…… 綺麗……


 あんな、チューニング法、知らない。 リュート…… 凄い。 お兄様も気が付いたみたい。 私の方を向いて小声で言って来た。




「これは、少々期待が持てるね」


「ええ… 楽しめそうですわ」




 音の妖精霊さん達、もう、気もそぞろ。 興味がずっと、リュートの方に向かってるの。 いまにも飛んでいきそうね。 指揮者さんが入って来て、歌劇の演出家さんも席に着かれた。 音が止まる。 シンと静まる会場。 いよいよ始まる。


 最初の音は……ピアニッシモ。 リュートが小声でささやくように、オープニングを奏で始める。 舞台の幕が上がり、明るい光が輝いた。 音の妖精霊さん達、 オーケストラボックスに飛んで行った。 こんな事も、初めてよ!



 ―――――――



 圧巻だったわ。  出ずっぱりで、一時も休むことなく、全編を一人の方だけで弾き通された。 緩むことなく、間違える事も、つっかえる事も無く、なにより……



 楽しげだった。



 あんな音、聞いた事無かった。



 もし



 もし、私が、あの曲を弾いたとして……



 テクニックでは、遜色なく再現できるかもしれないけれど……




 あの楽し気な音は……




 再現できるとは、思えない。



 幕が下りるまで、息をつめて、一音も聞き逃すまいと、真剣に聞いていた。 時間がまるで魔法のように飛んで行った。 歌劇の幕が下り、会場がすこし明るくなる。 スタンディングオベーションが始まる。 お世辞抜きに素晴らしかった。 リュートに引き摺られる様に、オーケストラも自分達の力以上の音が出た様な気がするの。




 立ち上がった私見たの。 リュートを抱えて、控え室に向かう、その方を。




 小柄な方。




 柔らかな色のシンプルなドレス。 そして、浅い蜂蜜色の御髪が、ふんわりと揺れていた。




 子供? なの? ……あり得ないわ! 




 アンコールの拍手に、第一バイオリンが応えていた。



 でも……



 そのあと……



 あの、小柄な女の子は、二度と私達観客の前には出てこなかった。





******************************





 それが、私の大切な人、 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公令嬢様との、初めましてだったと、気が付いたのは、王立魔法学院に入学してからだったの……





初めましての、お話でした。


主要人物の「初めまして」のお話に、したいな と、そう思って居ります。

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