学べよ遊べ♪
久しぶりにユキカとデート、と思ったら何故だか全員集合してしまって…なぜこうなった?
■がんばれ受験生
「ユキカちゃんこんにちは」
「お母さんおじゃましまーす」
「あー、ハルカちゃんねお久しぶり、大きくなったわね~」
「お久しぶりです、お母様」
「まぁ、お母様だなんて恥ずかしい」
玄関でユキカ達とおふくろが挨拶しているのが聞こえた。
昨日の夜、おふくろにハルカの話をしたら江戸村の事は覚えていた。
ハルカからの手紙は俺がどこかにしまったらしいのだが、うーん、記憶がないなぁ。
「おう、ハルカ早かったな」
「お兄様、おはようございます♪」
「ハルカちゃんは本当の妹みたいだね、ゆっくりして行ってね」
「はい♪」
俺の部屋に移動する。コタツをテーブル変わりにして勉強する。
「悪いな狭くて」
「いえ、大丈夫ですお兄様♪」
とりあえず教科書とノート、最近のテストを見せて貰う。
テストに関しては見せたくないと渋ったが、間違いが分からないと教えられないと言って持って来させた。
「なるほど…基本の英数国が苦手なのか、これはまた中1時代の俺のようだ」
「だね」
「お兄様もなんですか?」
「うん、下から数えた方がはやかったしな、部活でサッカーしてたから家では疲れて勉強とかしてなかったんだよね」
「私は部活とかしてない…」
落ち込むハルカ。
「んで、ユキカに勉強を二週間くらいだっけ?教えてもらったら」
「もらったら?」
「学年15位まで上がったんだよね」
「えー!!ユキカさん凄い!」
ハルカから尊敬の眼差しをもらうユキカ。
「あれはショウタが頑張ったからだよぉ」
「いやいや、当時は魔術師だのミラクルユキカだの言われてたよな先生から」
「ショウタそれは言わないで!!」
「あはは!ヤン提督ですね♪」
「お?ハルカ知ってるのか?」
「はい、ユキカ提督よろしくお願い致します」
ハルカがユキカに敬礼した、俺も一緒に敬礼した。
「もう…」
「さて、どっから手をつけよう」
恥ずかしそうに俺たちを見るハルカ、テスト結果を見てガッカリされないか心配している。
「そうだね、英語は大丈夫そうだね」
「単語の間違いがほとんど無いし、これはすぐ終わりそうだな」
「え?」
「ん?ハルカどうした?」
「いえ、なんかこんな点しか取れてなくて嫌になるかも…って…」
俺はユキカに確認する。
「嫌になりそうか?」
「ううん、ショウタと同じでちょっと苦手意識さえ無くなれば余裕に見える」
「ハルカ、提督はそう仰ってるが?」
少し笑顔になるハルカ。
「は、はい、なんか嬉しいです…」
俺たちは続きを確認した。
「国語は古文ですね、英語と同じで漢字は結構いけてるね」
「これは例の手を使えば3教科の中で一番簡単だな」
「だね♪」
「やっぱり問題は…」
「この赤点の…」
「数学だな…」
恥ずかしそうに下を向くハルカ。
「さて、今日は英語2時間、古文1時間、数学3時間くらいかな?」
「よろしくお願いします」
「頑張ろー!」
英語の勉強から始める、テストを見ながらユキカが説明する。
基本的な文法の使い方必要な動詞などの説明、学校で習っている事の復習だ。
「なんか、今まで分からない所がわからなかったけど…」
「分かって来たか?」
「はい、お兄様♪」
「じゃ、俺からテストな」
「は、はい…」
「ハルカさん、スマホ、駅、?マークで5つくらい文章を作って」
キョトンとするハルカ。
「え?英語の勉強ですかお兄様?」
「そうそう♪」
「えーっと…
①ハルカさんはスマホを買いに駅に行ったんですか?
②ハルカさんが駅で見たのはこのスマホですか?
③ハルカさんは駅で売ってるスマホが好きなんですか?
④駅前のスマホショップ?に立ってるのはハルカさんですか?
5つ目は…、ゴメンなさい出てきませんお兄様…」
指折り数えていたハルカがギブアップしてきた。
「な。」
「なって?」
「3っつの文字と?マークで作れる文章ってそのくらい、と言うことは単語が分からなくても訳せるかもって事」
「あ!そっか!」
「単語が分からなくても諦めないって事が入試には必要かな」
「そうだね、マークシートばかりじゃないから、このテストみたいに空白で提出はもったいないね」
「これなんか、私、フレンド、北海道だろ、だいたい予想できないか?」
目を丸くして問題を見る
「ホントだ、テストの時はたぶん Hokkaido が読めて無かった…」
「つまり、英語は難しいと毛嫌いしてるだけ、単語になれは読み書き出来るんだから大丈夫!」
「はい、お兄様」
「そうだね、さぁこの3個の空白を回答してみよう」
ハルカは読める単語に丸を書き、分からない単語に下線を引いた。
「あ!そうかこれは住んでるか!」
分からない単語も丸に代わる、3問の答えを記入し俺達の顔を見る。
「お兄様、ユキカさん出来ました!」
「うん、満点♪」
嬉しそうな顔をするハルカ。
「お兄様とユキカさんのおかげです!」
「違うだろ、それはハルカが出来るのに諦めてただけの問題。俺達はハルカは英語が出来るって言っただけ」
「はい!」
「さぁ、もう一度テストをやって百点を取ってみよう」
「はい♪」
「って言っても、分からない単語とかあったらすぐに聞いてね」
「了解です、ユキカ提督」
「提督はやめて…」
「そう言えば、ユキカさんのフルネームを教えて下さい」
「三崎ユキカ、みさきは三つの崎って書きます」
「了解しました、三崎提督!」
再度、敬礼するハルカ。
「からかってるなら怒るわよ」
「ご、ごめんなさい…」
それからは、すらすらと問題を解くハルカ、思ってた通り大丈夫そうだ。
「んじゃ、時間なんで英語は終わりかな」
「次は古文ですね」
「はい…」
「じゃ、古文を読んでもらいますショウタあれ持ってる?」
「よし」
俺は中学の時にユキカにもらったマンガを出した。
「え?これは?」
「そう、古文とか漢文はとにかく暗号と思わない事、内容が分かれば問題なし♪」
「マンガを読む事なら任せて下さい、レビューも書いて見せますよ!」
ハルカは黙々とマンガを読み出した。
「ショウター」
一階からおふくろの呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい♪」
俺は席を外した、ハルカはマンガをユキカはスマホをいじっている。
ハルカの目が光る。
「ユキカさん、ちょっとこっちに」
「ん?どうしたの?」
「ちょっとここに座って下さい」
そう言ってベットの端を叩く。
「ん?何?」
そう言ってベットの端に座るユキカ。
「ちょっとお願いがあります」
ハルカはベットに上がり正座する。
「そのまま、コロンってしてくれますか?」
「コロン?寝るって事?」
「はい」
「えっと…、」
「お願いします!」
ベットの上で土下座をするハルカ。
「はいはい…コロンね」
仰向けに寝転ぶユキカ。
「私も…」
そう言って、枕に顔を埋めるハルカ。
「…で?」
「お兄様の匂いがしますねユキカさん♪」
一気に顔が真っ赤になるユキカ。
「ハ、ハルカちゃん何やってるの!」
「クンカクンカ ですよ、ベットがあれば普通やりますよね」
「やりません!」
ユキカはハルカの肩を掴み枕から引きはなそうとする。
「ユキカさん、やめて下さい!」
ガチャ
「おい、ユキ…カ…」
俺が見たものは、俺のベットにハルカを押し倒しているユキカの姿だった…
俺と目が合い固まるユキカ…
俺は静かに下がり、静かに扉を閉める。
「ち!違うのショウタ!!」
慌ててベットを下り、コタツに足を引っかけ盛大に転ぶユキカ。
ハルカはまだ枕に顔を埋めている。
足とおでこを赤くしてユキカが廊下に出てきた。
「ショウタ、ちがうの!!」
「えっと、俺は何も見てないから…」
「だからちがうの!事故なの!!」
真っ赤になって詰め寄るユキカ。
「わかってる、わかってる、ハルカが何かしでかしたんだろう」
「ショウター、信じてー」
涙目で俺を見上げるユキカ
「わかったから!」
「うう…」
俺はユキカと一緒に部屋に入る、ハルカは既にテーブルに座って古文のマンガを読んでいる。
「お帰りなさいお兄様♪」
「ハルカー!!」
「まぁまぁ落ち着けって、あ、そうだユキカ、おふくろが昼飯どうするか聞いてるんだけど」
「え?もうそんな時間!?」
「ユキカさん?」
「ちょっと手伝ってくる、ハルカ!変なことしないでねッ!!」
ハルカに釘を指し、階段を下りるユキカ。
「何したんだ?」
「何にもしてないですよー」
そのイタズラっぽい表情は絶対何かやっただろ。
「あんまり、怒らすなよ」
「はーい♪」
そう言って、古文のマンガを読み出した。
暫くすると、チラチラと俺の顔を見ているハルカに気づく。
「どうした?分からない所でもあるか?」
「いえ、二人っきりだなぁって思って♪」
「飛び付くなよ、下にはおふくろもユキカもいるからな」
「この、押さえきれない気持ちをどうすればいいんですか!」
「この27点にぶつけろ」
俺は数学のテストを出した。
「はい…」
やっぱ、ユキカがいないと勉強がはかどらないかな?いや、さっきはベットで何かしてたし…二人で見ないとダメだな。
「休憩にする?」
「はいお兄様、えっと、ユキカさん遅いですね…」
「俺達の昼飯作ってるんじゃないか」
「ユキカさんって料理出来るんですね…」
「出来ると言うかスゴい上手、ハルカは料理とか出来るの」
「少しは…」
「そっか、偉いなハルカは」
「え?」
「最近じゃ料理出来る子って少ないんじゃない、逆に男の方が料理してるし、偉いと思うぞ」
「そんなこと…」
「そんな事あるある」
「お兄様は料理の出来る子って好きですか?」
「俺がまったく出来ないからな」
「そうなんですか…」
「今度、教えてもらったら?」
「はい♪」
すぐに、ユキカが呼びに来た。
「お昼ご飯食べよう」
昼飯はオムライスだった、3人で食事をする、おふくろが台所から声をかけてきた。
「ハルカちゃん、叶崎高校受験するの?」
「はい♪」
「そっか、頑張んなよ」
「お兄様に教えてもらってるから大丈夫ですお母様」
「ショウタはユキカちゃんに教えてもらうまではドンケツだったから、大丈夫かしらねー」
「ドンケツ…ですか?」
「ははは…」
「ユキカちゃんに教えてもらいなね」
「はい♪でもお兄様も教え方上手ですよ」
俺を見て笑うハルカ。
「なんか、こう言うの楽しいですね」
「ん?」
「みんなで食事するの、私の家は両親が共働きなので一人で食事する事か多いから…」
「そっか…」
おふくろが台所から出て来てハルカの隣に座った。
「ハルカちゃんがよかったら、毎週食べに来ていいんだよ」
「ありがとうございますお母様♪」
やったー!って感じて礼をするハルカ
「おふくろ!ほんとに来るから!」
「いいじゃない、ユキカちゃんだって勉強教えてもらってる時はうちの子みたいなもんだったんだから、ねー」
おふくろがユキカに同意を取る。
「は、はい…」
おふくろに「はい」と言わされるユキカ。
「まったく…」
「やったー!!毎週お兄様の家、毎週お兄様の家♪」
食事後も上機嫌のハルカ、ユキカと二人で勉強に向かった。
俺は食器洗いをしている、ユキカがしそうになったので俺がやる事にした。
「ハルカ、」
「わかってますよ、お兄様の家に行くときはユキカさんと一緒にです」
「そ、そう…」
古文の勉強に入る、マンガで物語が分かってるだけに容易に回答ができる。
「なるほど、このマンガがロゼッタストーンって事ですか」
「そうだね、内容が分かってるから古い言葉が出ても問題ないでしょ」
テスト問題を見ながら納得するハルカ。
「さすがですユキカさん、これはお兄様もホレてしまいますね」
「これで惚れたのかなぁ…」
「そっか、ユキカさんは中1の頃からお兄様の部屋に来てたんですよね」
「え…?」
「羨ましい、やっぱりホレさせる何かをしたんですか?」
「べ、勉強しました!」
「えー!好きな人の部屋ですよ二人っきりですよ!」
「勉強です!」
「なんかもったいない、ほんとですかー?」
「ほんとです!」
少し探る様な目つきになるハルカ。
「でも、お兄様から何かされたんじゃないですか?」
「…何って?」
「抱きつくとかキスするとか♪」
「ない!」
少し赤くなるユキカ。
「うっそー!」
「ユキカ、ハルカのペースに乗るんじゃない」
階段から聞こえてきた話の内容に苦笑しながら部屋に入る。
「お兄様、ユキカさんと二人っきりでいて何にもしなかったんですか?」
「何かするに決まってるだろ」
俺は座りながら答える。
「ショウタ!!す、す、するって」
真っ赤になって声が裏返るユキカ。
「するって何をですか?」
「教えてやってもいいけど、聞きたいのか?ユキカがこんなに真っ赤になるような事だぞ」
「えぇーッ!」
「ショウターッ!!」
「ユキカはもうちょっと大人の対応した方がいいな、もう子供じゃ無いんだから」
ユキカの頭から煙が上がり魂も抜けたようだ、ハルカは「子供じゃ無い…子供じゃ無い…」を繰り返しこっちも魂が抜けている。
「おーい、二人とも戻って来ーい」
しばらく二人が落ち着くのを待つ、ハルカが先に目覚めた。
「何か記憶の欠落を感じるといいますか、変な気持ちですお兄様…」
「うーん、自己修復機能が働いたってとこかな?」
「私は大ダメージを受けてたんでしょうか?」
「勉強を急にやったからじゃないか」
まず、回復したハルカに数学のどの当たりが分からないか、いつ頃から成績が悪いか聞く。
どうやら、中一の後半からついて行けなくなった様だ。
俺は数学のノートを見ながら話す。
「しかし、ハルカは字が綺麗だなぁ」
「え?」
「ノートの字がすごく綺麗、習字とか習ってんの?」
「はい、小学生の頃ですが」
「なるほど、書く時の姿勢がいいのも習字かな」
「そうですね、姿勢が悪いと習字の先生に怒られましたから」
「あれ?ここは?」
ユキカが復活したようだ…
「俺の部屋、ハルカの勉強中」
ハッとして服やスカートを直すユキカ。
「ゴメン寝ちゃったみたい…」
「今、数学を教えてた、中1の後半くらいからやった方がいいかな?」
「わかった、任せて」
そう言ってバッグから中1と中2の教科書を取り出すユキカ。
「用意がいいな」
「中学の女子の苦手はだいたい分かるからね」
「ユキカさんお願いします」
ハルカも勉強スイッチが入った様だ、数学以外は自信がついたのもやる気がでてる原因だろう。
俺は2人の邪魔をしない程度に勉強に参加した。
「よし、いったん休憩にしよう、飲み物とか変わりの持ってくるな」
俺は一階に飲み物を取りに行った。
「凄いなぁユキカさん」
「え?何が?」
「だって、勉強も出来て料理も出来て、彼氏もいて友達もいっぱいで…」
「そんなことないよ」
「そんなことありますよ…ほんと羨ましい…」
少し落ち込むハルカ。
「ハルカちゃん?」
「なんかユキカさんみたいな人って理想だなぁ…」
「そんな理想にする程の事ないよ…」
「わた…」
何か話すのをためらった仕草をするハルカ。
「どうしたの?」
ユキカの目をまっすぐ見る…そして決心したように話し出した。
「私…ね、小学校の頃こっちに引っ越して来たんだ…」
「ん?」
「笑うかも知れないけど、私、人見知りが激しくて…今で言うコミュ障ってヤツなんです、そこでクラスに馴染めなくて、すぐにボッチなっちゃって…」
「…」
「一人って楽だったんです、気を使わなくていいし、なんでも自分のペースで…」
声が小さくなる。
「ううん、うそ…、嫌いだったそんな自分嫌いだった…」
「ハルカちゃん…、でもショウタの前ではあんなに行動力があるのに信じられない」
「そうなんです!小学生の時もそう、親や他人の顔色ばかり見て言う事を何でもきくいい子…それが私だったんです、でもお兄様に会った時だけ初めて親に逆らいました、イヤをイヤと言えたんです」
「そっか」
「学校では今だにボッチなんです…私もユキカさんみたいに、お兄様がいなくても堂々とした女性になりたい…」
うつむいたまま話すハルカ。
「くすッ」
ユキカが笑顔になる、ハルカが秘密を話してくれた事を素直に喜んでいる。
「あ、変なこと言ってゴメンなさい」
「あ、違うのハルカちゃん」
「?」
「笑わないでね、私は中一の夏にこっちに引っ越して来たの」
「え?お兄様の幼馴染みとかと思ってました」
「実は私も小さい頃からコミュ障で、夏から転校だから当然友達もいなくて、趣味に走って一人が楽だなんて思ってて…」
「うそ」
「ホントだよ、学校では誰も私を見てない空気の様な存在…中学だけじゃない転校前も小学校もそうだったから」
「でも、そんなに美人で…」
「ハルカちゃんだってかなり美人だよ、昨日だってショウタにめちゃめちゃ可愛い子が抱きついたって、みんな焦ってたんだもん」
「私は…」
「ショウタがハルカちゃんのクラスに転校して来ました、彼女はいません、ハルカちゃんはどんな気持ち?」
「今すぐ飛び付きます!」
「あはは♪さすがだね、でも飛び付かなくても教室が世界が変わってると思わない?」
「思います!」
「私は転校したクラスにショウタがいた…、でも飛び付く事も告白する事も出来なかった…、ただ空気のように窓際の席にいるしか出来なかった…」
「ユキカさん…」
「ある日ね朝の通学の時ばったりショウタに会ったの、私はパニクって挨拶も出来なかったのにショウタは『おはようー、三崎、今日は早いな』って言ってくれたの」
「あ!」
「そうなのハルカちゃん!ハルカちゃんには分かるよね、この挨拶の意味!」
「分かりますユキカさん、名前を覚えてるだけじゃなく私を見ていてくれてる!」
「うん!私、涙が出そうになった。その時初めて空気のような私に色が付いた、周りの景色も輝きだした」
ハルカの目に大量の涙が浮かんでくる。
「ユキカさーん!!」
泣きながらユキカに抱きつくハルカ。
「勉強だって前から出来てた訳じゃないよ、ショウタが教えて欲しいって言うから頑張ったんだ、ハルカちゃんもショウタと同じ学校に行くんでしょ」
「うわーん!私も頑張る、なんかツラくなくなったー!」
俺はドドドドッと一気に階段をかけ上がる、ハルカの泣き声が聞こえた気がしたからだ。
「どうしたハル…」
ユキカに抱きつき泣いているハルカを見る。
「あ…」
またしても俺と目が合い固まるユキカ…
俺はまた静かに下がり、静かに扉を閉める。
「きゃーっ!ショウタちがうの!」
ハルカはユキカの胸に抱き付いたまま離れない。
「あ、えと、そだ飲み物を取りに行ってたんだった…」
俺は部屋の中に聞こえる様にそう言い、しばらく一階のリビングで待つことにした…。
「お兄様、ありがとうございました」
「俺が送らなくていいのか?」
「今日は私が駅まで送るよ、ショウタはハルカの家まで送りそうだし」
「おもてなし、しますよお兄様♪」
いたずらっ子の微笑みを浮かべるハルカ。
「そうか、まだ勉強したかったのか、偉いぞハルカ」
「え?ユ、ユキカさん早く帰らないと暗くなりますよ!」
「あはは、それじゃまたな」
「はい♪またお願いします~」
「じゃあね、ショウタ」
手をふって2人は帰っていった。
しかし、あそこまで仲良くなるとは思わなかったな…なんかあったかな?
「お兄様!ハルカは今補給が必要なのです!アニメを見させて下さい!マンガを読ませて下さい!ゲームで遊ばせて下さいーッ!!」
「何も言ってないだろ…」
いつもの桜の木の前で会ったハルカの第一声がそれだった。
「目が…」
「目?」
「お兄様の目が勉強しろと言ってます!!」
「ハルカはホントよく分かるな」
「ううう…(涙)」
「ウソだよ、今日は頑張ったから遊んでよろしい」
「お兄様♪」
そう言って抱き付いてくる、よしよし。
「ま、数学以外は問題なしってのも分かったし数学も日曜日に集中してやれば冬前には追いつくだろう」
「ありがとうございます♪」
「さてと、エドマチも一通り見て回ったし、今日はサムライかニンジャのジョブにチャレンジするかな」
「お兄様、頑張って下さい!」
「え?ハルカは取らないの?」
「ハルカはずっとお兄様の背中を追いかけていたいんです♪」
何か言い回しが慕ってくれてるみたいで可愛いんだが…
「訳すと前衛は苦手です。って事?」
「はい、その通りです、さすがはお兄様♪」
サムライイベントの発生はエドマチを見学中に何となく分かっている。
『武士道を極める者へ』エドマチの領主家康公が東側の広場に貼り紙を出している、冒険者が多数この貼り紙をみて領主の屋敷に走って行くので、おそらくサムライはこれだろう。
領主の屋敷に向かって走る。
「そう言えば、アニメの主人公はサムライなの?」
「いえ、戦士だと思います、途中でジョブチェンジするかも?ですが」
「まぁ、初期設定で選べるジョブからだろうな、で、妹さんは?」
「…」
立ち止まるハルカ…
「どうした?」
「お兄様、槍みたいな長い武器で先端が刀みたいになってる武器ってなんですか?」
「え?えーと、薙刀の事かな?武器屋で日本刀と同じくらい種類があったから見た事あるんじゃない?」
「薙刀って、サムライが使うんですか?」
「うーん、サムライと言うより武道を習った女子?」
「もしかして、サムライの女子しか装備できない系でしょうか?」
「だぶんそうだと思う」
「…」
考え込むハルカ。
「どうした?」
「お兄様、私もサムライのジョブが欲しくなりました!」
「え?」
「主人公の妹が薙刀を使っています!」
「そ、そうなんだ…」
「これは、妹として取っておかねばならないジョブでした!」
「妹として…ねぇ…」
貼り紙の場所に帰る、ハルカにもイベントが発生した様だ。
桜の木の近く、エドマチの中央に領主の屋敷はある。
屋敷に移動し門番に話しかけると門が開いた。
しばらく、中庭で待機するように言われて待つ。
「何かのアイテムを取ってくるんでしょうか?」
「そんなイベントが多いねナイトもそれだったし、ここはどうかな?」
「え?お兄様は攻略法とか見ないんですか?」
「うん、その方がおもしろいからね、そう言えばハルカはセカンドジョブ取ったの?」
「はい、ネージュさん達とレベル上げのついでにやってきました」
「あれも、何も知らないでやるとけっこう苦労するんだ(笑)」
「そうなんですか、私はついて行っただけでしたから…」
≫冒険者の方々、中央にお集まり願いたい。
中庭の中央に時代劇に出てくる様な簡易な椅子が用意されており、そこに座り屋敷内の領主家康公の話を聞く、イベント参加者は十数名いるが、キャラなのかNPCなのかは分からない。
ハルカは俺の左隣に座った。
≫武士道を極めんとするものよよく来た、ここに失われし国ヒノモトより伝わったサムライの極意が書かれた巻物がある。これからの試練『心技体』に打ち勝った者のみ、この巻物を読む事を許そう。
そう言った瞬間ナイト装備が弾け、剣道の胴着(紺色)、袴姿に代わる、武器は日本刀でレベルは1になっている。
隣にいたハルカは白色の胴着でけっこう可愛い。
「お兄様、とてもよくお似合いです♪」
「ハルカもな」
まずは、武器の基本動作から!
竹人形が目前に表れ、刀を使っての切る動作の訓練。
攻撃を受けとめる訓練、受け流す訓練を行う。
受け流す操作以外は両手剣のと似ており簡単にできた。
残りはリミット技の『斬鉄剣』、1体の敵に対して一刀両断の必殺剣だ。
ズバッと竹人形を両断する。
隣でハルカがリミット技を出している、薙刀をふった後に桜吹雪が舞い散る幻想的なリミット技だ。
「ハルカ、カッコいいな」
「ありがとうございます♪」
家康公が立ち上がる。
≫よし、試練「体」開始!
家康公の合図と同時に中庭に面した雨どいがすべて閉められる。
庭の奥から刀で武装した鬼の面を付けた一団が大量に出現し冒険者を包囲する。
「ハルカ、俺の背中側に立って後ろから来る敵を頼む」
「はい、お兄様!」
冒険者もそれぞれ攻撃体制になって鬼面を見つめる。
レベル1だから、鬼面の攻撃を5~6回食らったらおしまいかな?
でも、後ろにハルカがいるから受け止めて叩くしかないか…
鬼面の攻撃が開始される、俺の所は2体が襲ってきた。
鬼面の行動は少し遅い、注意していれば攻撃を受ける事は無いだろう。
真正面の1体を斬り付ける、面が真っ二つになり消滅する。
薙刀の鬼面の攻撃がすぐ襲ってきたが刀で受け止め、受け流して斬る。
一瞬ハルカを見たが、受け流した刃は当たっていない様だ。
次の敵との間隔があったので『大丈夫か?』とチャットを打ったが、チャットが表示されず、≪試練中は私語禁止≫と表示が出る、チャットは禁止の様だ。
後ろを確認しつつ正面の敵と対峙する、ハルカ側には行かせない様にしないと…
残る鬼面が同時に動いた、あちこちで複数の敵を相手にした乱戦となる。
俺も4匹の同時攻撃を刀で受け止め流し横殴りに胴体をはらうが、右側の1体を倒しきれず攻撃を受ける。
HPが1/4ほど減った。
「まずいな、4回食らったらアウトかもしれない…」
俺を攻撃した右側の1体を片付けそのまま時計回りに反転し、ハルカが闘っていた鬼面を横から斬り倒す!
ハルカはまだ攻撃を受けて無い。
ハルカの操作が止まる、たぶんハルカもチャットが使えない事に今気付いただろう。
俺はそのまま時計回りにハルカの前を横切り、ハルカを攻撃をしてきた鬼面を斬り倒す。
もとの位置に戻った所で2体の鬼面に襲われるも軽く切り捨て、周りの状況を見る。
俺たちの近くて闘っていた竜人族の冒険者が大型の鬼面に倒される。
その鬼面の次のターゲットは俺たちの様だ、配下らしい2匹の鬼面がまず襲いかかる。
ハルカはまだ気付いていない、俺は胴体を狙い刀を横にはらったが配下の鬼面に受け止められる。
もう1体が俺の頭に刀を降り下ろすが、俺は斜め前に移動、そのまま刀をすべらせて胴体を斬る。
受け止めた鬼面は真横から斬り消滅させる。
その時、大型の鬼面の攻撃が頭上に来た、ギリギリで刀で受け止めたが瞬間電撃が走る。
雷属性の武器は知っていたが、敵が持っているは初めてだ。
電撃の魔法を食らった時と同様に、俺の体は一時的にマヒしてしまった。
「うわ、詰んだ…」
大型の鬼面が笑いもう一度刀を振り上げる。
瞬間、俺の横から薙刀の先端が飛び出し深々と鬼面の胸にささる。
ハルカが大型の鬼面を倒した。
「おお!ハルカ!」
画面の前で叫んでしまった。
大型の鬼面が消滅すると同時に全ての鬼面が奥に消える。
依然としてチャットは使えないが、俺は感謝を込めてハルカの頭を撫でた。
嬉しそうに笑うハルカ。
周りを見ると、今の攻撃でかなりの冒険者が消えている。
≫試練「技」開始!
家康公の声が響く、心技体…、試練は3つあるのか…
次は狐の面を付けた敵が5体出てきた。
冒険者の数より少ない敵、しかし手にした刀は紫色に妖しく光り、妖刀と思わせる。
狐面が冒険者に襲いかかる、冒険者は攻撃をかわし斬りつけるが、狐面はゆらりと陽炎の様に揺れて攻撃が体を通過し当たらない。
そのまま2撃目が冒険者に、サッとかわしたが今度は少し腕をかすった。
とたんに倒れこむ冒険者、刃に毒が仕込まれているようだ。
「今度は倒せない敵か…」
狐面が次々と冒険者を襲う。
①1度も当たってはいけない刃
②倒せない相手
③技の試練…
うーん、攻略方法が分からない…
背中側に敵がいないのでハルカも俺の斜め後で狐面を伺う。
とにかく、狐面の攻撃をかわす事に専念だな、見る限り集団で襲う事は無さそうだから、弱点が分かるまではかわしきろう。
狐面が俺に向かってきた、攻撃を受け止め受け流す、とにかく日本刀を使った技がヒントだろう。
ハルカが横に移動し攻撃体制になるが、俺はハルカと狐面の間に移動して攻撃させない様にする。
「ハルカ、攻撃するなよ」
その間も狐面の攻撃を日本刀で防御する。
ハルカも分かったのかなぎなたを水平に持ち防御体制になる。
狐面がゆらりと揺れて見えなくなる、俺の体をすり抜け後方のハルカに斬りかかった様だ。
ハルカも俺と同じく防御に徹する。
ちゃんと見てたのか、初めてにしては上手に防御している。
狐面がハルカへの攻撃を諦めて中庭の中央に向かう。
全ての狐面が中央に集まる、武器が弓矢へと変わっている、矢の先端がやはり紫色に妖しく光る。
ハルカに向けて矢を射る狐面、自然に体が動き、ハルカを襲った矢を叩き斬った。
「お?矢って斬れるんだ…」
バシッと今度は俺を狙った矢をハルカが斬った。
少し微笑んでいるハルカと並んで矢を叩き斬る。
防ぎきれなかった冒険者が矢に当たり倒れる。
「だぶん…何かの技であの狐を倒さないと終らない試練か…何かの…技!!」
俺は矢を射るタイミングを測る。
3回射れば少しの間射るのを止める、俺は3回目の矢を叩き斬った後、一気に狐面に近づきリミット技『斬鉄剣』を放つ。
狐面が割れ1体の消滅した。
「ビンゴ!」
隣で桜吹雪が舞う、ハルカも狐面に対しリミット技を使った様だ。
残りの狐面は3体は奥へ退散した。
よし!試練は残り一つ!
≫試練「心」開始!
すぐに最後の試練が開始された。
冒険者の数はもう数える程しかいない。
最後は能面を付けた一団がやって来る装備は俺たちと同じ剣道の胴着だ。
周囲に妖しい霧が立ち込め一瞬視界を遮る…
風が吹き霧が晴れた時、能面の一団がバラバラに配置されている、ハルカの姿は見えない。
心の試練は一人で、と言う事かな…ハルカ泣いてなきゃいいが…
左から能面が襲ってくる、今度も集団で襲いはない様だ。
対応が分からないので、取り合えず防御で様子を見る、攻撃は単調で問題なく倒せそうだが、この周りの能面同士のバトルってなんだろう?バトルロイヤルって事かな?
うーん、これはまた難解な…
「心の試練…だろ…心、心…」
心の目でボスキャラを見抜けって事か?
でも、それだと全て倒すつもりでやればいつかはボスキャラを倒す事になる、心は関係ない力勝負…
あ!もしかしたら倒してはいけない敵がいるって事か!
俺はいったん目の前の能面を突き放し、離れて全体を見回した。
倒してはいけない敵…家康公か?装備に何か違いがないか?
「ない…みんな同じだ…白と紺…男女の違いだけだ…」
ほとんどが闘っている、攻撃するがかわされ、相手の攻撃をかわすを繰り返している、NPC同士の戦闘はこんなものだろう…、俺に逃げられた能面の他数体が相手を探してうろついている。
ん?戦闘で薙刀の能面が負けそうになっているのが見える、刀の能面から幾度か攻撃を受け壁際に追い詰められている。
動きに人が操作している感覚がある、それに白い胴着、薙刀の能面にハルカの姿が重なる。
そう言う事か!あの能面はハルカだ!まったく理解不能だったチャットを使えなくした理由もこれでわかった!
俺はそのバトルに割り込んだ。
ハルカから見れば、たぶん俺も能面に見えているだろう、2体現れてパニクってるかもしれない…
俺は刀の能面の攻撃を受け流して斬り付け斬り倒した。
薙刀の能面の攻撃体制は変わらない。
俺は薙刀の能面に背を向けた、俺の考えが間違っていたら、後ろから一突きで終了だな…
後ろ向きなら能面は見えないはず、ちょっと前まで見てた俺の背中だぞハルカ。
1体の能面が向かってくる、俺は容赦なく斬り倒し、また薙刀の能面を背にして立つ。
お兄様!
ハルカの声が聞こえた気がする。
薙刀の能面が俺の斜め後ろに立つ、よし!この子は絶対にハルカだ!
俺たちは向かって来る能面を次々と倒していく、他の冒険者なら2体いる俺たちに手は出さないはず、来るのは敵の能面のみ!
≫それまで!!
家康公の声が響く、雨どいが全て開けられ家康公が立ち上がる。
能面は全て奥に下がった。
振り替えったそこにハルカがいた。
「お兄様!!!」
直ぐに抱きつくハルカ。
「あ、チャットが復活したのか、ハルカよくやったな」
「はい♪」
「後ろから攻撃しないと信じてたぞ(笑)」
「勿論です、すぐにお兄様だと分かりましたよ♪」
≫武士道を極めんとするものよよく試練を乗り越えた、約束の巻物をここに。
家康公が誰かを呼ぶ仕草をし、奥より巻物を手にしたNPCが現れる。
「よし、巻物を見て終了だな」
「お疲れさまでした♪」
ズシン!っと、屋根から大型の鬼面が飛び降りてきた。
手には狐面が持っていた妖刀が妖気を発している。
俺はまだナイトに戻っていない、まともに闘えばレベル1のサムライなど一撃でだろう、かわしてもあの妖刀がかすればアウト…
直ぐに家康公の側近が3名攻撃するも一撃で倒される。
≫いかん!冒険者よ早く巻物を取り屋敷から出るのだ!
いっせいに巻物に駆け出す冒険者。
「お兄様、逃げましょう!」
逃げる!?ハルカの一言に俺はハッとなる。
「ハルカ、闘うぞ」
「お兄様!?」
「武士たるもの強敵に対し背中を見せてはならない、ものらしい(笑)」
「分かりましたお兄様、もとよりこの命お兄様に捧げています♪」
「楽しそうにそのセリフを言ってもなぁ…」
「あはは♪」
「よし行くぞ、武士道とは死ぬ事と見つけたり!」
「お兄様と死ねるなら本望です♪」
俺たちは、大型の鬼面に突っ込んだ。
最初の一撃を刀で受け止める、その間にハルカが薙刀で鬼面の横腹を斬る。
次の攻撃は刀を滑らしかわし、バランスを崩した鬼面に斬りかかる。
俺とハルカの連続攻撃でどのくらいHPが削れたか分からないが、とにかく攻撃の手を緩めなかった。
ふとゲージを確認すると、リミット技が使える様になっている、通常なら時間的な問題でまだ使えないはずだが、これは試練のイベント中だからか?であれば思いっきり使わしてもらおうか!
『斬鉄剣』
俺はリミット技を叩き込む!
隣で桜の花びらが舞う、ハルカもリミット技を使った様だ。
だが、大型の鬼面は倒れない、技を発動した後のハルカ目掛けて妖刀を突き込む。
ぐ…、俺は鬼面とハルカの間に割り込み妖刀を腹で受けた。
ダメージ後、僅かに残ったHPも妖刀の毒により急激に減り…
俺は倒れた…
「レベル1じゃ倒せないか、選択ミスだったかな…」
反転した画面を見る、リスポーンはまだされない様だ。
暫くして画面暗くなり、そして明るくなった。
甦生魔法が俺とハルカに使われたのが分かる。
≫天晴れな武士よのう、お主達の武士道しかと見せてもらった。
家康公が中庭に降りて俺たちの前に立った。
≫巻物などに頼らずともお主達は既にサムライの資格は十分じゃ!受けとるがよいワシからの餞別じゃ。
サムライ初期装備と刀、ハルカは薙刀をもらう。
≫わははは!かくも見事な男気を見ると、ワシももう一度戦場に出とうなるなぁ!その時はお主らを我が賓客としてもてなそう、それとも敵国へおるのかのう、わっはははは!
そう言って家康公は屋敷の奥に消える。
【サムライのジョブが追加された】
画面が変わり屋敷の門の前にスポーンする、ジョブは元のナイトに戻っていた。
「いや、大変だったなハルカ」
「お兄様…ハルカはスゴく感動しています、身を呈して私を守ってくれた事…、このリアルで流している涙をお兄様に見せたいです」
「守れなかったみたいだけど…」
「はい、お兄様が私を庇った時、涙が溢れて画面が見えませんでした…コントローラーも落としてましたし、後は分かりません…」
「そっか」
「お兄様、大好きです。」
これは、兄弟としての好きだよな…
「ありがとう、よしそろそろエルフィランデルに帰るか?」
「はい♪」
「おっとその前に、こっちでサムライの装備いろいろ買って行こう!」
俺たちは、レベルが上がった時用に装備を揃えて、故郷のエルフィランデルに帰った。
「んじゃ、ちょっとサムライのレベル上げして今日はおしまいでいいか?」
「はい、お兄様♪」
■異世界のフレが…
「どうだ、宿毛の状況は?」
放課後、小筑紫先生が俺たちを呼び出して聞いてきた。
「大丈夫です、本人も努力家ですし」
「少なくとも俺よりは成績いいはずです」
「ふむ、2人がそう言うなら問題無いんだろう」
「特に英語なんかは満点取ると思いますよ」
「ほう、なんだ心配はいらなかったのか、余計な事をしたな」
「あ、でも数学の方はダメだったので、本人も勉強会してよかったと言ってます」
「うむ、そうか。引き続きよろしくな」
「はい♪」
「わかりました」
俺は職員室を出て帰り支度をする、ユキカは小筑紫先生にまだつかまっている。
教室に三原が入って来た。
「あれ?、下川口君今日は勉強会無いんですか?
「宿毛、仕事だって」
「そうですか」
「悪いな、三原にもヘルプ頼むつもりで時間空けてもらってたのに、宿毛けっこう勉強できるんで大丈夫になってしまった…」
「いえ、それは大丈夫です」
「三原は今日もなんかの打合せ?」
「よ、ショウタ君おひさ~♪」
「あ、弘見先輩お久しぶりです」
弘見リサ先輩、ちょっと赤みがかったくせっ毛のショートカットで大人びた雰囲気、叶崎高校2年で中学ではサッカー部のマネージャーをやっていて、かなりお世話になった先輩だ。
「ショウタ君は高校でサッカーやってないんだね~」
「はい、なんかまだ部活決めかねてて、先輩はまたサッカー部ですか?」
「嫌だよ高校生になってまであの汗臭いのは」
「嫌だったんだ…」
「まぁ、ショウタ君がサッカーするなら考えてやってもいいよ~」
「まだ…ですね、それはそうと誰かに用ですか?」
「うん、レナちゃんと打合せ~」
そう言って三原を指差す。
「あ、三原の打合せ相手って弘見先輩だったのか」
「あ、はい…」
「ん?どうした?」
「あの…ちょっとお願いがあるんですが…」
三原が少しもじもじしながら聞いてくる。
「ん?」
「今日の打合せに下川口君も参加してくれませんか?」
「いいけど、何の打合せ?」
「え?いいんですか?」
「いいよ」
「えっと、小説の最初の話が出来たので見てもらいたいなって…」
「お!うそ、俺が先に読んでいいの?」
「はい、それで感想を聞かせて下さい」
「了解♪」
「そんな楽しみにされると恥ずかしいんですが…」
三原が弘見先輩をチラ見する。
「弘見先輩も関係者だったんですね」
「うん、キャラクターデザインとイベントは私が担当、シナリオ?…ちがう小説はレナの担当」
教室にユキカが入ってくる。
「あ、ユキカおひさ~」
「リサさん、お久しぶりです♪」
「見ない間に女性らしくなったね~ユキカは」
「そ、そんなリサさんの方が大人びて綺麗です」
「ありがとう~、でもまぁ一番成長してるのは…」
弘見先輩の視線が三原の胸に行く、つられて俺とユキカの視線も胸に行く。
「きゃッ、なんですか!」
赤くなって両手で胸を隠す三原。
「いや~、女としてほんと負けた気分になるなぁって思って、直に見てみたいよ~」
「やめて下さい!」
「ショウタ君も見たいよね~」
「やめて下さい!!」
俺も速攻で止める
「みんなで温泉に行こうよ、レナの胸が拝めるし♪」
「先輩、発言がおやじ臭くなってますよ」
「見たいでしょ♪」
「俺は男湯です!」
「混浴あるとこにすればいいだけだよ~」
「三原とユキカは来ませんよ!」
「大丈夫だって、私とショウタ君が二人っきりで混浴入ったら必ず来るから、ねッ」
ユキカを見る弘見先輩。
「知りません!」
そっぽを向くユキカ、三原はちょっと逃げ腰だ。
「さぁレナ、私とショウタ君に胸を見せるんだ!」
「ええーッ!!」
後ずさる三原。
「あはは、相変わらずですね先輩は」
「こほんッ、その見透かした様な言い方、ショウタ君も変わらないね~」
「先輩に随分鍛えられましたから」
「そっか…」
俺はユキカの方を向く。
「それで?、先生今度はどんな命令だった?」
「うん、勉強だけじゃなくアキちゃん見てやってくれって」
「そっか、適任だな」
「そうかなぁ、アカリの方がいいと思うけど…」
「ま、大月にも三原にも協力願おう」
俺は三原に言った、三原はまだ胸のガードをしている。
「え?もちろんいいですよ」
「あ、ユキカ、ちょっと私とレナにショウタ君貸してくれない?」
「え?、あ、はい」
「ありがとう、じゃ図書室に行こうかショウタ君」
「えっと…ショウタ、先に帰るね」
「うん、じゃな」
俺たちは図書室に移動した。いつも宿毛の勉強会をしている机に座る。
三原が鞄から小説の印刷した原稿と赤ペンを出した、少し緊張している。
「よろしくお願いします」
「え?添削もするの?」
「よろしくお願いします」
弘見先輩がキャラクターのデザイン画を出してきた。
「よろしくお願いしま~す♪」
「え?うそ、こんな本格的なの??」
「よろしくお願いしま~す♪」
「拝見させて頂きます」
俺は俺は一礼して、原稿とデザイン画と赤ペンを受け取った。
『異世界のフレがリアル彼女に宣戦布告』
タイトルは三原が夏休みに閃いた時と同じだな、1ヶ月くらいでこんなに書いたんだスゴいな…、弘見先輩のキャラクターは何となくFK7のキャラに似ている。
主人公が異世界に立つ、この場所も自分が誰なのかも何もわからず呆然とする主人公。そこに狂暴な魔物が襲いかかる、訳が分からず逃げ惑う主人公、拾った木の棒で応戦するも全く効いてない。
魔物の斧が主人公の頭に降り下ろされるその時、猫耳の女戦士が現れ魔物を一撃に倒す。
≫なるほど、最初のイラストはこのシーンだな。
猫耳の女戦士はリカと言った、リカから情報を得る主人公。
どうやら召喚の儀式とやらで異世界から呼び出された俺が、魔王を倒せる唯一の者らしい…嘘だろ…?
「嘘だろ?なんだ♪」
「へん?へん?」
三原が心配そうに聞いてきた。
「勇者にあるまじき反応なんだけど、正しい♪」
心配そうに俺を見ている三原、弘見先輩は現状を楽しんでる様だ。
リカの住むの町で召喚の儀式の情報を探る、実は召喚の儀式はかなり昔に行われており、儀式を行った召還士は既にいない、召喚したものの容姿と召喚場所が王城跡のレリーフに刻まれているという。
リカの一族は王城跡を守り異世界から召喚される勇者を待っていた。
レリーフを見るため王城跡に行く主人公とリカ、そこには悲しげにレリーフを見つめる一人のエルフが…
俺たちに気づき視線を向けるエルフ
「ショウ…」
「ショウ?俺の事知ってるのか!」
「分からないの、貴方の名前しか…」
はッ!突然頭の中にエルフとの思い手が甦る。
「サン…」
エルフの名前はサン、俺はこの子を知っている…
バチッ!サンの左手の甲から電気のような物が弾ける、そして、黒い煙がサンの左手を包む…
「サン!」
「勇者様!!」
リカが叫ぶ、俺の左手にも黒い煙がまとわり付く
左手の甲から体の内部に入り込もうとする、全身に痛みが走り意識が遠退く。
薄れ行く記憶の中で左手をが輝き何かの紋章が浮き出るのを認識した…
はッ!
目が覚めた…ここは…
「ちょっとショウ、昼休みに本気で寝すぎだよ」
「え?ここは?」
「なに寝ぼけてんの、学校だよ」
「あ、ユキエ、なんか変な夢見てた」
「はいハンカチ、汗びっしょりだよ」
「わるい」
「ショウ君、大丈夫?」
「リカ、大丈夫だよ」
「リカって?、私はエレナだよ~ほんとに大丈夫なの?」
「ごめんエレナ、ちょっと熱っぽいかもしれない」
「保健室行く?」
「大丈夫、もう大丈夫」
「ダメそうなら言ってね…」
「わかった…」
いったい、何だったんだ…、ユキエのハンカチで額の汗を拭く。
ふと、左手の甲に視線が止まる。
あの夢で見た紋章が浮き出ていた。
「おぉ、けっこう面白い」
「でしょ~!」
「ほんとですか!」
弘見先輩と三原の顔が喜びに満ちる。
「うん」
「ちょっとその辺で何か添削できませんか?」
「そうだなぁ、あ、でもその前に二人はどういう関係なの?」
三原と弘見先輩が目を合わせる。
「レナの隣の家が私の家、昔から姉妹みたいな関係だよ~」
「え?知らなかった」
「そう?中学の時はいつもレナと帰ってだけど」
「そう言えば三原はよくサッカーの練習見に来てたけど、そう言う事か」
「それは違うと思うけどなぁ~」
弘見先輩がチラッと三原を見る、三原はちょっと赤くなっている。
「レナとアカリは小さい頃からの親友、もちろんユキカもね」
「知らなかった…」
「レナを漫画やアニメの世界に引きずり込んだのも私だよ~」
「そうなんです、リサちゃんにこの前下川口君に見せたアニメを借りたのが、きっかけでした」
「二人で漫画を作るのが夢、コミケとかに出せれば言うことなし!」
「って頑張ってるんですが…リサちゃんと違って私には絵の才能が無いみたいで…」
「私には物語を作る才能がないし…」
「そしたら!」
「そしたら!」
二人顔がグッとせまる!近いよ…
「夏休みにショウタ君に貰ったアイデア、私はレナにそのタイトルを聞いた時全身が落雷に打たれたようにシビレた、内容を聞いた時天地創造を見た!」
「そんな大袈裟な…」
「そのくらいなんだって、今までのスランプが嘘の様にイラスト書けるしアイデアも出てくるんだ♪」
「私もです、あの日以来キャラが勝手に動き回るんです、書くと言うより書かされてる感じです、こんな経験初めてです!」
「よ、よかったですね…」
二人ともニコニコしながら席に座り直す、周りの視線に気づいてないな、ここは図書室ですけど…
「で?どうでしょう下川口君?」
三原が再度添削を依頼してきた。
「そうだなぁ、あ、でも素人考えでいいの?添削して悪くなるかもしれないよ」
「いいんです、お願いします!」
「えっと、リカの容姿をもうちょっと具体的に書いて欲しい、助ける時は戦士でいいけど、助けた後の出会いのシーンでなんかほしいなぁ、デザイン通り容姿は可愛い少女、髪は癖ッ毛で猫耳がある、鎧を纏っているが露出度が高い尻尾がある、思い出せそうで思い出せない…とか?」
「はい!」
「それでエレナを見たとき、リカが重なる…思わずリカって感じ?」
「なるほど…」
「たぶん三原はデザインが出来る前から頭の中でキャラのイメージが完成してるんですっ飛ばしてるけど、この子どんな子は読んでる人は大事だと思う」
「ふむふむ」
三原は、原稿用紙に青ペンでいろいろ書き足した。
「ヒロインぽいサンはエルフで終わったら可愛そう、こっちは容姿というより、なんか美少女的な感想がいいな、少女の表情に一瞬心奪われる…とか?あの宿毛が転校してきた時の教室のシーン感なんかを出せる?文字じゃ難しいか…」
「がんばります!それから?」
三原は正面から俺の隣に移動してきた。
「会話が続くとき、なんか一気に読んでしまうんで、視線を下げたとか、頬が赤くなるとか、のぞきこんで心配してるとかの行動が間に入ったらいいかも、ほらこの前見たアニメとかも話の最中に意味なく外の風景とか、足や手のアップあるあれ、なんか心の動きって言うの、両手をぎゅっと握ると真剣さがますとか、そういうのがあると分かりやすい」
「例えばどの辺でしょう?」
三原がぐっと近寄って原稿を見る。
「寝起きのとことかかな…」
さりげなく原稿を三原の前に移動する、あまり近づいちゃ変な誤解を生みかねない。
「ユキエが心配そうにのぞきこんでる場面ですか?」
「それ!」
「え、どれ?」
「昼休みに寝てる奴見て、笑ったり呆れたりせず心配してるから、読んでる俺らはユキエが彼女だと思える」
「なるほど、ユキエの話の後にか…するとここも…ここもか♪」
青ペンでどんどん付け足していく三原、ものすごく楽しそうだ。
「ショウタ君、イラストの方は?」
弘見先輩がイラストの事を聞いてきた、スゴく上手なんだが…気になる…
「スゴく綺麗です、先輩って絵が上手なんですね」
「まあね~、で?」
「うーん、一つ気になってる点が…」
「なに?」
「先輩ってFK7してますか?」
「う…なぜそう思う?」
「しかも、最近始めたばかりの初心者?」
う…、って感じで下を向く先輩。
「…さすがだね、分かるんだ…」
「やってますから、キャラの装備なんかが結構似てますね」
「初心者ってのは?」
「えっと、もう少しジョブに合った装備があるんですが…」
「なるほど、その装備を知らないか装備できないレベルって事ね」
「はい」
「うーん、少しは参考にしたけどダメだったか…」
「あ、知り合いの高レベル者に見せてと頼んでみましょうか?」
「大丈夫、大丈夫、私のフレに頼んでみる」
「でも…たくさん知ってる訳じゃないんですがアニメとかマンガって装備と言うか服装って変わるんですか?」
「あ…」
「だから、レベルが上がって装備が変わるFK7よりか、日常の服に鎧パーツを追加とかローブを少し冒険者風に動きやすくするとかがいいんじゃないですか?オリジナル感も出てくるし」
「なるほど…確かに服装が変わるマンガとかアニメは少ないね」
弘見先輩は持ってきた画用紙に鉛筆で下書きを始めた。
「スゴいですショウタさん、もしかしてマンガとかかなり読むんですか?」
あれ?ショウタさんになってる…まぁいいけど…
「マンガはあまり読まないなぁ、うちの親、小学生の頃は漫画とか買ってくれなくて、小説ならOKだったんで読んでたな」
「え?漫画ダメだったんですか?」
「バカになるって、笑っちゃうだろ?小学校の時に三原がマンガとかアニメ好きとか知ってれば『漫画読んでも頭がいい奴がいる!』って言ってやりたかった」
「うふふ♪」
「まぁ、そんな感じ」
「そっか~、ちなみにどんな小説読んでたの~?」
弘見先輩がスケッチしながら聞いてきた。
「初めは指輪物語、そう言えばあれもこの小説と同じジャンルかな?エルフとか出てくるし」
「指輪物語?」
「あ、ロードオブザリングの方がわかるかな?」
「あ、分かりました、キングオブファンタジーですね♪」
「けっこう夢中になったなぁ、初めは異世界の話だし、キャラのイメージが分からないし、何度か読むのやめたんだけど、キャラとか風景とか歴史とかわかり出すと、読むのが止まらなくなった」
「分かります♪」
「それからは銀河英雄伝説っていう宇宙戦争的なものも読んだなぁ、小学生にしては小説読んだ方だと思う」
「それも有名だね~、漫画にもアニメにもなってるはずだよ~」
「ショウタさんには小説を書く才能があるのかも、一緒に書きませんか!」
三原の目が光だす。
「無理無理、そんな才能はないよ」
「そうですか、残念です…」
俺は続きを読み出した、
眠る度に現実と異世界を行き来する主人公、異世界では仲間ができ、中でもエルフのサンとは恋仲と見られるほどの仲になっていた、ショウ本人は現実にユキエ(彼女)がいるため仲間と言う意識には変わりない。
勇者になるべく戦いを続けるが、一向に魔王の正体も居場所も分からない。
一つの疑問が生まれる…
魔王は存在するのか?
町の郊外には敵対生物はいる、しかし人々が怯えて暮らすほどでもない、そもそも、いるかどうかも分からない魔王討伐のために、何故俺は呼び出された?
冒険を魔王討伐から召喚の儀式に切り替えて探索を進める。
迷いの森でみんなとはぐれ、ショウは一人古びた小屋を見つける。
そこであったのは漆黒の魔導士と言う人物。
彼は魔導士と言っているが賢者で、儀式の話も詳しかった。
そして彼が話したのは、今まで集めた話とまったく違う歴史の話だった。
500年ほど昔、確かに魔王と呼ばれた王が存在した、その魔王は次々隣国を滅ぼし領土を拡大していた、当時大国であったエルレイン王国が唯一魔王に対抗できる軍事力を持っていた。
魔王軍とエルレイン軍はこの地で最終決戦を行い、そして共に倒れた…
鬼神のごとく突進する魔王に対し、エルレイン王国王子、勇者ショウが立ちふさがる、7日間に及ぶ戦闘で戦場に立っているのは魔王と王子そして王子の5人の仲間だった。
魔王が最後の魔力を放出して突進、禍々しい槍が王子の鎧を砕き胸に深々と突き刺さる!
「ショウ!!」
仲間から悲鳴が上がる、致命傷だと言う事は誰が見ても解った…
魔王がニヤリと笑った、仲間が全員飛びかかる。
「ザコ共が」
魔王は槍を抜こうとするが動かない。
焦り王子を見る魔王、そこには王子ではなく仲間のプーリストの姿が、体は石化の呪文で硬直し、槍も魔王の右腕も石化している。
飛びかかる仲間の中で、プーリストの姿が王子変わる!
仲間の渾身の一撃で、左腕や足を封じられた魔王の首に王子の勇者の剣が滑り込み真一文字に切り離す。
落ちた魔王の首以外は消滅する…
「なぜこんな事を…」
王子は、石化したプーリストの前に立ち呆然とした、胸には魔王の槍が刺さったままになっている…
「なんなのこれは!ショウが刺されたんじゃないの!?」
「まさか、身代りになったの…?」
「ぐ…」
「誰か解除の呪文を!」
「ダメだ…命を代償にした呪文の解除なんかできる訳がない…それに…」
「それに?」
「解除が出来たらそれは…彼女の死を見る事となる…」
その時、転がる首…魔王の口が笑いに変わる。
危険を感じ振り返る王子、首が飛び王子の腕に噛みつく、魔王の黒い妖気が王子を侵食していく…
そして、大爆発が起こった…、地形を変える程度ではない、時空が歪む程の大爆発だった…
漆黒の魔導士の話はそこで終わった…
そして、部屋の奥にある石像を見せてくれた…あの石化したプーリストを…
「ユ、ユキエ…?」
「君は…ショウにとてもよく似ている…」
「貴方は王子の仲間の一人なんですか?」
「分からない…そうかも知れないしまったくの別人かも知れない…次元の歪みに落ちた私は、異世界の私の記憶もあるのだから…」
「異世界の記憶…私は自分の世界とこの世界を行き来しています、仲間の話では魔王を倒す勇者を召喚したのが原因だとか…」
「あの召喚は王女殿下、王子の妹君が行ったと言われている、そして王女殿下も時空の狭間に落ちたとも言われている」
「そうですか、いろいろ有りすぎて少し混乱しています」
「はぐれた仲間はおそらく森の外にいるだろう、君は無事だとメッセージを送っておくので今日はここで休みなさい」
俺はここで休む事にした…
「スゴいな三原、なんか尊敬する」
「え、あ、そんな事…」
三原は少し照れた表情になる。
「女子が書くからもう少し恋愛チックな小説だと思ってたけど、これは正直ビックリ」
「ありがとう♪」
残りのページを一気に読む、石化したユキエが復活しないので、リアル彼女に宣戦布告とはいかなかった…
「どう?」
「うん、面白い♪先に言ったキャラのイメージのとこだけで、内容はすごく良いし、読んでて楽しい」
「よかった♪」
「デザインは?デザインは?」
「うん、これもスゴく綺麗で、挿絵にするの勿体ないですね」
「まぁ、マンガにしようとおもってるからね」
「で、FK7の初期装備じゃないのがいいですね、頭装備はいらないかもせっかくの髪型が隠れちゃうし」
「なるほど、で、今描いたんだけどこのリカどう?」
もうリカのイラストが出来ている、鉛筆書きなんだけどいい。
「リカは戦士だから両手剣みたいな大きい武器を背中に背負ってるってどうでしょう?それに獣人族なんで皮みたいな鎧より、金属の鎧の方が似合うかも」
「プロデューサー、了解しました」
「誰がプロデューサーですか!」
「あははは♪」
「うふふ♪」
弘見先輩は装備に金属の光沢を加えた。
「スゴい、一書きで装備が金属になった」
「ま、このくらいはね♪」
そう言って、背中に大剣を書き足し始める、俺は三原に肝心な質問をした。
「で?誰が誰に宣戦布告する予定?」
二人とも作業が止まってしまった…
「え…っと…」
下を向いて困った表情になる三原
「サンとユキエなんだろうけど、ショウがいい人過ぎてケンカにもならない感じだね」
「そうなんですよ、何度かケンカのシーンは書いたんですがショウ君があっと言う間に解決しちゃうんです…」
「だろうね、いっそタイトル変える?」
「それはダメ!」
「それはダメです!!」
二人は立ち上がり大きな声を出して言ってきた、ここが図書室だと言う事を忘れてたな…
「す、すいません…」
消え入る様に小さくなる三原、弘見先輩はスッとイスに座った。
「宣戦布告…か、異世界と…」
「はい…」
「弘見先輩のアイデアは?」
「石化のユキエを治療し復活、サンとバトル…だったんだけど、いまいちリアル彼女って所が弱い…」
「私の書いたのも似てます、タイトルの通りの恋愛バトルが出来ないんです」
「やっぱり1巻目でタイトルの思いをドーンと読者にぶつけたいんたよね~」
「ショウタさん、何かアイデアありますか…?」
「プロデューサーお願~い♪」
「あのね…」
俺は暫く悩んだ…
そうだな、ネトゲみたいにはいかないぞ、どっちかがどっちかに行かないとケンカなんか出来ない…
と、言うか行く方法か…
「うーん、例えばこう言うのはどう?」
「聞かせて下さい!」
「おお!さすがプロデューサー!」
「弘見先輩、俺はプロデューサーじゃないですよ、でもいい案だと思います」
二人の期待に満ちた瞳にさらされる…
「えっと、迷いの森の前、召喚の儀式探索以降はぶった切るけどいい?」
「大丈夫です、第二巻の冒頭に持って行きます!」
「わかった」
「まず、異世界の住人は、他にいくつも異世界がある事を知っていて、そこを行き来する上位魔法も存在する、サンはそれを使える」
「はい」
「サンがショウをスゴく好きになるようなイベントを用意する、助けてもらうでもいいし、昔の話を思い出すでもいい。サンは冒険の最中にショウの世界や彼女のユキエの話を聞いてしまう…」
「サンはこっちの世界に来たくなる!」
弘見先輩がいい、三原の目が輝く!!
「当然ショウを目指して来るのだから、ショウの部屋に降臨、そこへユキエが遊びに来たら…」
「あー!!」
「いただきます!!」
「あはは、でもせっかくのシリアスな雰囲気からかなり脱線するけど大丈夫?」
「問題なしです、むしろこう言う展開にしたかったんです、ストーリーも少し変えます!」
「え!マジ!もったいない!」
「ほんと言うと、先の展開が書けなくてスランプだったんですよ…」
「うん、打合せしてもアイデア浮かばないしね~」
「短期間にこんだけ書いて、スランプって言うかなぁ…」
「これでまた書けます、ありがとうございました♪」
三原は立ち上がり、大きく礼をした。
弘見先輩は俺に抱きついてきた。
「だから、図書室だって…」
またしても、みんなの注目を浴びる三人。
「す、すいません…」
「図書室では静かにしないとね~」
「先輩、今日は帰りましょうか」
「そだね…」
弘見先輩と三原は、また打合せをすると言って大急ぎでどこかに行ってしまった。
校門でユキカが待っていた。
「あれ?ユキカ帰ったんじゃないの?」
「うん、ちょっとだけ待つつもりだったんだけど…」
ずっと待ってたのか。
「そっか…」
「遅かったね図書室…」
「ん?実はね…、あ、まだみんなには内緒な…」
「うん…なに?」
「三原の小説第一巻を読ませてもらってた」
「え?レナもう小説かいちゃったの」
「ちゃんとユキカも登場してたぞ彼女役で」
「私も読みたい!」
「そうだな、これから少し手直しするらしいから、ユキカが読めるのはもうちょっと先かな♪」
「私はアキちゃんとケンカするの?」
「そこは内緒だな」
「えー、教えてよー!」
■会えてよかった
「お母さん、何してるの」
ユキカの額に怒りマークが浮き出ている…
「何って、紅茶とケーキを持って来ただけだけど?」
土曜日、宿毛の勉強会をユキカの家でやっている。
テーブルの前にはユキカと宿毛、ユキカからは怒気のオーラが上がっている。
そして俺の隣にはユキカのお母さんがちょこんとくっつく様に座って一緒に紅茶を飲んでいる。
「あ、えっと、少し休憩にしよう」
そう言ったがユキカの怒気は治まらない。
「アキちゃんて、あの宿毛アキちゃんなんだってねぇ、ごめんなさいねお母さん気付かなかった」
「いえ、そんな気を使わないで下さい、私の方がユキカさんに勉強教えてもらってるんですから」
「そう?」
チラッと俺の方を見るお母さん、初めて挨拶に行った日を思い出す。
…緊張して予定より随分早くユキカの家についてしまった
家の前の花壇に水をやっている女性に会う、お姉さんだろうか?
『あら』
『は、はじめまして下川口ショウタといいます』
『あ、ユキカちゃんの…』
そう言って抱きつかれ、胸に顔を埋める形になる。
『は?え?えー!!』
バタンッと勢いよく玄関の扉が開かれ、怒ったユキカが家用のスリッパのまま飛び出してくる。
『お母さん!何してんの!!』
『何って、ユキカの初めての彼氏にご挨拶してるのよ』
お!お母さん??俺はまだお母さんの胸に顔を埋めたままになっている…
『離れて!離れてよー!!』
なんて事あったなぁ…
「でも、こんなに綺麗な子が近くにいたら、ショウタ君取られちゃいそうでお母さん心配だわ」
「え?、そ、そんな事無いです」
「そうだよ、アキちゃんはそんな事しないよー」
少しユキカの怒気が少し治まった。
「ショウタ君、アキちゃんに取られちゃっても私には会いにきてね、たまにでいいからね」
再びユキカの怒気が飛ぶ。
「お母さん出ていって!!出てけー!!」
部屋からお母さんを追い出すユキカ、部屋のドアを閉め肩で息をしている。
「えっと…」
宿毛と目が会う。
「えっと、どこまで進んだっけ?」
「き、教科書のこの辺り…」
「おお!もう大丈夫くらいになってるなぁ」
「うん、全部ユキカのおかげかな」
二人でそーっと、ユキカを見るがまだ扉を閉めて肩で息をしている…必死で落ち着こうとしてる様だ。
「どうしょう…(小声)」
「参ったなぁ…(小声)」
ユキカが落ち着くのを待つ。
暫くして落ち着いてきたのかテーブルに戻ってきた。
「ごめん…」
「だ、大丈夫だよー」
まだ、ユキカは下を向いている。
「そうだ、気分転換に公園でも散歩に行かないか」
「あ、いいね、行こうよユキカ」
≪叶崎公園≫
「うーん」
公園に入ってすぐ宿毛がちょっと伸びをした。
「結構広い公園なんだね、なんか気持ちいい空気♪」
「朝はここでランニングすると結構気持ちいいよ」
「え?ショウタさんもランニングしてるの?」
「部活してないから体が鈍らない様にかな」
「アキちゃんも走ってるの?」
「うん、家の近くを人目を避けてね」
「たいへんなんだね…」
噴水前に到着する。
「なるほど、これが例の…」
「え?なにアキちゃん?」
「ううん何でもない、あ、この噴水どっかで見た事あると思ったらエルフィランデル城の噴水にそっくりだ!」
「うん…じゃなくてエルフなんじゃらの噴水って?」
「前に俺のゲームで見せたお城の中にある噴水」
「あ、そっか…、あのショウタの浮気現場にあった噴水ね…」
ユキカからまた怒気のオーラが上がる。
「浮気現場?…ぁ…」
宿毛はあのバトルを思い出した様だ。
「ちょ、ちょっと待った!ユキカ今日怒りすぎ!」
「浮気現場でしょ!可愛いエルフの子と秘密な事してたでしょ!!」
ユキカお前はわざと言ってるのか?、相手が宿毛だと知っててわざと言ってるのか?
「ゲームのキャラだから、お世話になった人だから」
「浮気者…」
横を向くユキカ、俺は宿毛を見るが宿毛もどうしていいか分からない感じで目が游いでる。
「ユキカ!ショウタ君、美人さんそのまま動かないで!!」
ベンチに座って公園のスケッチをしてる人から突然声がかかった。
スケッチノートをめくり新しい絵を書き始める。
「え?」
「リサさん?」
「弘見先輩どうしたんですか?」
「ユキカ!動くな!!さっきの怒った感じを出して!!」
「はい??」
そう言ってスケッチしながらスマホをかける。
「レナ!今どこ!、うん、うん、早くダッシュで来るんだ!!」
黙々とスケッチを続ける弘見先輩。
「あ、あの…」
「美人さんも動かないで!!」
「あ、はい」
訳が分からずそのまま立ちすくむ俺たち。
「ショウタさんどなたですか?(小声)」
「2年の弘見先輩、ユキカ達の友達と言うかお姉さん的な存在らしい(小声)」
ユキカがうなづく。
「まさか、あの絵を仕上げるまでこのままなんて事は無いよね(小声)」
「リサさんならあり得ます(小声)」
「うそだろ…(小声)」
「あ、あれ?皆さんどうしたんですか?」
弘見先輩に呼び出されたのだろう三原が噴水の前に到着して聞いてきた。
「どうしたも何も…」
「私たちにも分からないんだけど…」
「ユキカ動かないでって!レナは邪魔だからこっちに来て!」
「は、はい」
三原はベンチの横に移動する、そして弘見先輩の絵をのぞき見する。
「あ!」
笑顔になる三原。
俺たちはそれから、しばらくの間噴水の前に立ち尽くした…
「オッケー!下書き完了、みんなありがとう♪」
「リサさん、いったい」
そう言って俺たちは弘見先輩のいるベンチの前まで移動した。
「これを描いてたんだよ♪」
弘見先輩が見せてくれたスケッチは噴水の前で困った顔の俺と、ケンカしてるユキカと…、サンセット??
宿毛は容姿も服装もエルフになっている、俺とユキカは制服っぽい服装だが。
「あ…」
「えっと、私はなぜエルフなんでしょう?」
「お?エルフと気付いてしまったね、実はこれ…」
そう言って、宿毛を見る弘見先輩。
「これ?」
「え?あれ?美人さんってアキちゃんだったの?」
「はい」
弘見先輩が三原を見る。
「グッジョブですリサさん」
「だね♪これはもう神が私に描けと言ってるとしか思えない♪」
勝手に納得し合う二人。これはたぶん、ユキカと宿毛…じゃないユキエとサンのバトルシーンだな。
しかも俺の言ったショウの部屋じゃなくゲームと同じ噴水前に変更したのか?
違うな今パッと弘見先輩が閃いたって所か…
「リサさん、何ですかこの絵は?」
「そうだね、ショウタのリアル彼女と異世界の彼女のケンカのシーンかな」
…やっばり。
「異世界の彼女…ですか…」
「あ、レナの小説!!」
「ピンポーン!正解、私はレナの小説の挿絵の担当、後日マンガにもする予定だよ♪」
「スゴいですね、前にレナさんに聞いた時はここまで本格的とは思いませんでした」
「いやー、色々な風景をスケッチしに来ただけだったのに思わぬ収穫だね♪」
「それで、私ってエルフでユキカの恋敵なんですか?」
「もともとは、アキちゃんが転校してくる前にユキカのライバルは宿毛アキって決めてたんだ、レナが思いついたんだけどね」
「いえ、あれは夏休みにショウタさんに教えてもらったんですけど」
「そうだっけ?」
「ユキカと異世界彼女がケンカしたらもっと面白い!って所もショウタさんの発案です」
「そ、そんな事あったかな…」
宿毛が少し微笑みながら俺を見る。
サンセットごめんなさいネタにしてしまいました…、でも普通考えないでしょサンセットが宿毛アキだとか、本人が転校してくるだとかは…
「勿論キャラ作りのイメージの話だけどね♪ユキカがアキちゃんの大ファンだったし、なかなかに面白い設定だと思ったんだけど、まさか本人が転校して来るなんてねビックリだよ」
「エルフって言うのも異世界ものの小説では定番ですし、アキちゃんって言ったらエルフでしょ♪」
「どう?、スゴく綺麗に描いたんだけど気に入らない?」
スゴく上手すぎて、俺から見たらサンセットにしか見えない、宿毛もそう思ってるのかも。
「えっと、そうではなくて…」
「やっばり私、アキちゃんとケンカするの?」
嫌だよと言いたげな表情で弘見先輩を見るユキカ。
「ん?ユキカはケンカを回避してショウタ君をアキちゃんに譲る未来を望んでるの?」
「それは…」
「アキちゃんに負けてもらっては困るんだけど、2巻目以降は同級生やら幼馴染みやら美人の先輩やら妹やらがショウタ君を狙って登場するんだから」
ピキーッ!!
「ユキカ、小説の話だから俺じゃないから!」
って、大月や三原や弘見先輩やハルカまで登場するって事??
わ、笑えない…
「ショウタがこの小説の主人公を引き受けるからいけないんでしょ!」
ユキカ…なにギレなのそれは…
「主人公の名前はショウタじゃないから!!遊び人でもないし、けっこう一途な好青年だから」
「え…、そうなの?」
「ユキカさん、私の小説ですからそんな甘い夢を見ないで下さい」
「レナー…」
「そうだね、できれば美人の先輩とハッピーエンドがいいなぁ♪」
「レナさん後日でいいので、このエルフとハッピーエンドの外伝も書いて下さい、私買います!」
「アキさん、予約受付ました!」
「お前たちなぁ…」
「お!!まさかの恋愛シミュレーションも行けるのかこれは!」
俺とユキカ以外は楽しそうに笑っている。
「ねぇユキカ、さっき噴水の前で浮気現場がなんとかってケンカしてたよねぇ、そこんとこ聞きたいなぁ」
「先輩!話をややこしくしないで下さい!」
「ショウタさんがゲームの中で浮気をしたそうです」
「おい宿毛!」
「しかも相手は可愛いエルフだったそうです!」
「ほう、詳しく聞こうではないか~」
弘見先輩と三原の目が光り、宿毛を連れて噴水の陰でヒソヒソ話を始める。
「ショウター…」
泣きそうな目で俺を見るユキカ。
「だから小説の話だって」
「そうじゃなくて…」
「わざと宿毛に聞こえるように浮気だって言ったユキカが悪い」
「だって…」
「サンセット、あの状況をおもしろおかしく話してるだろうなぁ…」
しばらくして、弘見先輩が宿毛を解放してくれた。
「あはは、アキちゃん取っちゃってごめんごめん」
「とても魅力的なお話でした♪」
「何かを創作するのって楽しいですね♪」
「お!アキちゃんは今日から特別会員に認定しよう♪」
「分かりました、FK7の情報は提供しますね♪」
「やる気がみなぎって来た~!」
そう言って、続きを書き始める弘見先輩。
「で、三原はスマホで何をやってるんだ?」
「今の情報を忘れないために急ぎ文字にしてるんです」
「そっか…」
二人とも周りが見えないほど集中している。
「えっと…俺たちは散歩の続きをするか?」
「そうだね…」
「はい」
噴水から移動、木々の間を抜けると少し大きな池がある、何艘かボートが浮かんでいる。
「うわー!ショウタさんショウタさん!あれに乗りたい!!」
ボートを指差し子供みたいにはしゃぐ宿毛。
「私も乗りたい♪」
ユキカも笑顔でそう言い、ボートの貸し出し所まで走り出す。
二人とも子供みたいな所あるんだな…
ボートに乗り、池の中央にゆっくり漕ぎ出す。
二人は並んで座り、俺が漕いでいる。
スカートで対面に座られるとちょっと目のやり場に困るなぁ…
「気持ちいいね♪」
「うん♪」
「それにしても、この公園ってエルフィランデル近くに似てない?ちょっと参考にしてるかも?」
「なるほど…言われて見れば、大きさは違うけどこの池なんかフリーシア湖に似てるな、あそこの木の所が森で…」
「ふーん、そうなんだぁ」
「何度も言うけどユキカもやりなよ、私を探すためにショウタさんに始めさせたんでしょ?」
「うーん、考えとくね…」
「絶対だよ♪ネットだけど女性ばっかりのギルドもあるし、ほんと楽しいから♪」
俺をチラ見するユキカ、はいはい俺は知りません。
「種族をマーメードに選択すると、水の中も行けちゃうんだよ、海底神殿なんかを探索するのってドキドキだし!」
「そうなんだ」
「ユキカは黒髪ロングのキャラを作る?私に任せてくれれば、そっくりのキャラを作ってあげるよ♪」
「うん、その時はよろしくね」
「やったー♪」
今度は俺をガン見するユキカ、だから俺は知りませんって。
「あー今日はスゴく楽しい♪今まで生きてた中で二番目に楽しい♪」
「なかなかの高ランクだな」
「一番目は何なのアキちゃん♪」
「一番は…」
ちょっとテンションが下がる宿毛、それを見て慌て出すユキカ。
それはたぶんお兄さんとの思い出だろうな、また思い出しちゃったか…
「あ…」
宿毛が遠くの水面で何かを見つけた。
「ショウタさん、あの浮いてるビンの所に行ってください!」
そう言って指を指す、ジャムの入れ物くらいの小さなビンが浮いているのが見える。
「了解」
俺はゆっくりそのビンの方にボートを進めた。
「アキちゃん、何があったの?」
「うん、ちょっと…」
ビンが宿毛の手の届く所までくる、透明なビンの中に何か入ってるのが見える。
宿毛はそっと、そして大事そうにビンを取った。
「メッセージボトルかな?」
「海じゃなく公園の池なんだけどねここは」
宿毛がふたを開けなかの手紙を取り出し手紙を読む。
「えっとなになに『僕の事を大切に育ててね、そしたら君をずっと守ってあげるよ』だって、これ何かの種かな?」
ユキカがのぞき込み手紙を読んでくれた。
ポタッと手紙に水滴が落ちる。
宿毛の目から大粒の涙が溢れていた。
「おい宿毛、どうした!?」
ユキカも驚いて宿毛を見る。
「アキちゃん!?」
「と、とにかく岸にもどるな!」
俺は急ぎボートを岸に戻した、宿毛を近くのベンチに座らせ、飲み物を買うために自販機に走る。
宿毛は泣き声は出さないが涙が止まらなくなっている、ユキカは横に座って心配そうにハンカチで宿毛の涙を拭いている。
「お茶を買ってきた」
宿毛にお茶のペットボトルを差し出す。
「…ありがとう…」
サンセットの時と同じだ、あのビン何かお兄さんの思い出があったのかな…
「大丈夫?」
「うん…ありがとうユキカ…ゴメンね…」
「謝らないでアキちゃん、泣きたい時は泣いていいんだよ、友達だもん」
「…ユキカー!!」
ユキカに抱きつき今度は声を出して泣き出す宿毛、ユキカは優しく抱き返した。
「今日の勉強会はこの辺りにしとくか、俺、宿毛の持ち物取ってくる」
俺はユキカの家に走り宿毛の勉強道具を持って公園に帰った、ユキカのお母さんをかわすのが一苦労だったが…
宿毛は泣き止んでベンチに座っていた、ユキカは手を振っている。
「元気になったみたいだな」
「うん、ありがとう」
「気にするな」
「まったく、もう泣かないって決めてたのに、ダメだなー私って」
そう言って笑顔で俺を見る宿毛、さっきまで泣いてたとは思えない笑顔だ。
「アキちゃん、そんな事を我慢しちゃダメだよ」
「ユキカ…分かった、ありがとう」
「うん♪」
それからしばらく、ベンチに座って雑談をしていた。
夕日が空を赤く染め始めた。
「夕日…」
池の水面を見つめて宿毛がポツリと言った。
「え?」
「夕日が池に反射して綺麗」
「そうだね♪」
「私、二人に会えて良かった」
「アキちゃん♪」
「俺は何にもしてないけど…」
「してくれたよ♪」
笑顔で答える宿毛、ユキカが一瞬ふくれたように見えた。
「そだっけ?」
あ、サンセットの時の事を言ってるのかな…
「よし、明日も仕事だしそろそろ帰ります!」
「そうだな」
「うん、頑張って」
「パワー満タン、HP限界値まで回復しました!」
宿毛の手には、例のビンが大事そうに握られていた。
■トリック オア トリート
「…と言うことで、アキちゃんとハルカちゃんからお礼がしたいと言って来てるんだけど、どうする?」
中間試験が終わり、いつもの“封印の札”をはがしてゲームを開始した時、先にログインしていたマスターが俺を見つけて声をかけてきた。
中間試験、宿毛は俺をぶち抜いて学年上位の成績だ、親父さんにも堂々の成績を見せ転校の件もアイドルの件も納得させたとの事だった。
小筑紫先生も上機嫌で会うたびに俺にヘッドロックをかけてくる、頭が胸にうまり清水などからは“ご褒美”と言われているが、これがかなり痛い…
ハルカの中間試験も学年15位まで急上昇し先生方も驚いている様だ。叶崎高校問題なしと言われているらしい。
本人は試験がよかった事よりも、俺と同じ15位になった事を喜んでいる。
ハルカはしきりにお礼がしたいと言って来たが、断り続けたらユキカに泣きついた様だ。
(ちなみに大月は、三原のスパルタ勉強会でなんとかいい結果を出せている)
「お礼って言ってもなぁ…」
大月のお礼のプールを思い出す。
「俺はいいや、全部ユキカなんだからありがたく貰ったら」
「えー、そんなのダメだよ」
「と言うか、俺の中間が良かったのもユキカのおかげだからお礼がしたい、何がいい?」
「え?」
「何でもいいぞ」
「何でもいいの?」
「ごめんなさい、普通の高校1年生に出来る事にして下さい」
「…じゃ、デスティニーランドに行きたい」
運命の国デスティニーランド、国内で1、2を争うテーマパークで、異世界体験が出来るアトラクションが豊富にある。
夏からFK7のVRアトラクションも追加され大人気だ。
「了解、宿毛の勉強会も終わったし次の土曜に行くか?」
「うん♪」
「それじゃ決まりな、これからどうする?」
「デスティニーランドの行きたいアトラクションをチェックする♪」
「そっか、じゃ俺はサムライのレベル上げをするかな」
「ニンジャは取ったの?」
「まだ、サムライだけ」
「次に上級職取りに行くときは連れてってね!」
「了解、それじゃ」
俺は出口に向かって走り出した。
「あ!、みんなのお礼は?」
「ユキカが貰ったらー?」
「もう!」
俺はサムライを育てる為に狩りにむかった、途中でパーティに誘われれば参加するつもりだ。
先ずはフリーシア湖前の森でオークを探す、直ぐに剣と盾を持つオークが襲ってきた。
サムライの操作は、攻撃を受け止め受け流しHPを減らさず倒すのが重要だ。
森のオークは難なく倒せるレベルになった。
しかし、たまに落とすこのキャンディはなんだろ?レアアイテムには見えないけど…
湖近くに移動すると、同じくオークと戦っているミーヤ族がいた、近くでみると戦士にジョブチェンジしているリッカだった。
〉リッカおひさ
〉あ、ショウタさんお久しぶりです。
〉戦士になったの?
〉えっと、色々なジョブを試してみたくて、ショウタさんのそれはなんですか?
〉サムライ
〉サムライかぁ
〉うん、中間試験前にエドムラまで遠出をしてそこでね。
〉中間試験…
〉えっと、リッカも学生だったよね
〉うう…私は今回の中間なめてました…
〉ダメだったの?
〉orz
〉マジか…
〉いろんな意味でピンチです(汗)
〉…なんと言えばいいのか…
〉ショウタさんは?
〉俺の場合は試験がダメならゲーム出来ません…
〉つまり今回も良かったって事ですね…
〉なんか申し訳ない…
〉とりあえず、私の憂さ晴らしに付き合って下さい!
憂さ晴らしって…、それで戦士にジョブチェンジしたんだね…
リッカとパーティを組んで手当たり次第敵を狩りまくる。
リッカはセカンドジョブに踊り子を選択しており、時折HP回復の舞いを踊る。
踊りながら両手剣で敵を斬りまくる姿はある意味感動する光景だ。
「チョコレート3つゲット(笑)」
「あはは、オークもチョコレート食べるんですね♪」
「HPが少しだけ回復するみたいだけど…なんだろね?」
「何かに必要かもしれないし、私は食べずに取っておきますね♪」
「そうだな、さてもうこの辺は敵なしだから、装備を変えて高原に行こうか?」
「はい」
「戦士装備はあるから買わずに待ってて」
「ありがとう♪」
いったん自宅に帰り装備の変更をする、リッカに渡すため戦士装備も一式用意する、剣は斧より両手剣が似合いそうなのでナイトで使っていたクレイモアを用意する。
自宅前でリッカに戦士装備を渡す。
「なんか、この装備を露出度高いですね、防御力下がって無いですか?」
「ほんとだ、俺が着てた時はガチガチの鎧だったのに、同じ鎧でも男女で変わるんだなぁ」
「でも、可愛い♪どうですかショウタさん」
「たしかに可愛い」
「ありがとう♪」
「この前まではこんな感じじゃなかった気がするのに、バージョンアップで変わったのかな?」
「なのかな?」
俺たちは高原で狩り場を探していた。
〉こんにちは、レベル上げですか?
近くのパーティからチャットが飛んできた。
〉はい
〉2人だったら一緒にやりませんか?
「リッカいい?」
「はい、いいですよ」
〉お願いします。
〉よかった!今日はなかなかメンバーが揃わなくて困ってたんだ。
〉よろしくです!
〉よろしくお願いします~
俺たちはレベル上げをしていた4人パーティに参加する事になった。
メンバーは竜人の武闘家、ドワーフの魔法剣士、コビットのウィザード、ヒューマンの賢者だ、賢者は上級者でこのパーティのリーダーとなっている。
高原で狩を始めたが、クレイモアをもったリッカが、まさしく鬼神の如く敵を斬りまくる。
舞で敵を弱体化しながら斬り倒す無双ぶりで、出番のない俺たちはみんな笑うしかなかった。
〉OK分かった、砂漠に行こう(笑)
賢者さんが笑いながら砂漠まで移動を提案、オアシス周辺で狩を行う事になった。
〉ここで魚やコブラを狩ります。
〉了解です。
〉あ、一つだけ。夜にゴーズって言う黒い大きな化物が出る時があるので、逃げろって言う前にオアシスの町まで逃げて下さい。
ゴーズか、懐かしいな。
〉了解です。
〉OK!
俺は前にブリザードに教えてもらった様に、怪魚とクイーンコブラを狙い釣って来た、賢者さんも納得している様だ。
知らない人達とのパーティはやっぱり楽しい、特に新人っぽい3人は色々聞いてくる、賢者さんが全て答えてるが俺の知らなかった情報とかもありビックリする時もある。
〉なんか今日はお菓子がたくさんドロップしますね…なんですかこれ?
リッカが聞いてくれた。
〉お菓子はそのうち分かりますから、いっぱい集めて下さい。
〉わかりましたー。
〉でも、魚の持ってるクッキーって湿気ってそうですね(笑)
〉www
〉猫さんのその技はなんですか?
竜人の武闘家がリッカに聞いてきた。
〉技ですか?
〉あれは技と言うより、セカンドジョブに踊り子を付けていると出来る戦い方ですね。
賢者さんが答える。
〉セカンドジョブか…
〉残念だけど男は踊り子のジョブを取得出来ないから、あの技は使えないかな
〉そうなんですか残念。
〉でも、戦士は武闘家と会わせるのが一番強いから先ずはそこを目指しましょう!
〉わかりました!
〉さて、3人はセカンドジョブを持っていないんでしたね、ドロップアイテムに金色の鱗と毒牙はありますか?
全員有りますの返事が来る。
〉それじゃ狩り場を移動しますか
俺たちはセカンドを持っていない3人の為にピラミッドまで行く事になった。
「なんか、懐かしいですね♪」
ピラミッドに入った時、リッカが直接話して来た。
「二人でピラミッドに行くなんて、今考えれば無謀だったかな(笑)」
「なかなかのスリルと興奮を味わいました、私、抱きつかれましたしね♪」
「あれは…もういいです」
「あはは♪」
「今日は賢者さんもいるし安心できるな」
「危険が無いのは冒険とは言いませんよショウタさん、私はあの時のドキドキ忘れません♪」
「お!?リッカ、今のはいいフレーズだ、今度小説書いてる友達に教えてあげよう」
「小説かぁ♪」
〉よし、狩り場はこの辺にしょう!
ピラミッド内部、大きな広間の角にある小部屋を拠点とした。
〉初めはミイラで、慣れたらツタンカーメンいってみようか、サムライさんよろしくー
〉了解!
俺が釣り役で、盾役はリッカと俺が入れ替わりながら行う、かなりのミイラを倒したが錫杖はドロップしなかった。
〉前衛の二人は息ぴったりだね、もしかして隣でやってるの?
〉え?
〉いや、リアルは知らないです、ゲームでの付き合いは2ヶ月くらいかな?
〉そうなんだ~、あまりに連携がうまいからリアルではパソコン並べて話ながらやっているのかと。
〉ショウタさん、私たち息ぴったりですって(喜)
他のメンバーから羨ましいなどのチャットが飛んでくる。
〉あはは、リアルでは男でした!って落ちじゃないの?みんなそれを期待してるぞ(苦笑)
〉うは!
〉それは痛い!
〉www
〉そう言う話題は至るところに転がってるのがネットの世界(笑)
〉うう…ボケるべきか葛藤がはじまっていますよ私の中で…
〉ボケられても上手いツッコミはできないぞ俺は(汗)
〉あははw
みんなチャットを楽しんでいる。
その時、広間の中央に例の黄金マスクが見えた。
〉よし、緊張がほぐれたところで、そろそろアレ行きますか!
賢者さんが黄金マスクを指差す、見た目から強そうな敵に緊張が走る。
〉了解、行ってきま!!
〉ツタンカーメンはバインドの魔法を使いますから、出来るだけ拠点の近くで釣って下さい!
そうだった、前回はリッカが動けなくなったんだった。
〉OK!
俺は出来る限り長距離で黄金マスクに矢を放ち、当たるのを確認せず拠点へ走った。
拠点へ飛び込んだ時、魔法が飛んできてその場で動けなくなった。
察知したリッカが黄金マスクを引き付け小部屋の奥に誘導し攻撃を開始した。
俺は入口付近で止まってたが、賢者さんの解除魔法で移動できるようになり攻撃に参加する。
黄金マスクはかなり強い、前衛4人で叩きまくったがなかなかHPが減らない、範囲攻撃で前衛4人のHPが同時に削られる。
負担が大きくなった回復担当の賢者さんにも黄金マスクは攻撃をするようになった。
リッカが賢者さんの前に移動、回復の舞いを踊りながらの攻撃に変える。
俺も回復の舞いの効果範囲に移動し斬りまくる。
コビットさんはのMPが尽きたらしく下がって回復する。
俺が盾役になった時は攻撃を食らわない様に防御中心に操作する。
今は回復の必要なしと判断した賢者さんも下がってMPを回復する。
賢者さんの回復が完了するまで、リッカは回復の舞いに集中、俺は防御に徹した。
「回復完了、やっちゃって下さい!」
賢者さんからチャットが飛び、攻撃を再開した、魔法剣士のドワーフは魔法の方が効いていると判断したのだろう、下がってコビットの隣で炎系の攻撃魔法を連発した。
竜人も黄金マスクの範囲攻撃が当たらない背後に周り込み連打する。
回復の負担が減った賢者さんは弱体化の魔法で黄金マスクの防御力とスピードを下げる、俺とリッカの武器にはいつの間にか炎属性が付いている。
「もうちょい!行けー!!」
賢者のみチャットをしている、他のメンバーは攻撃に手一杯だ。
黄金マスクのHPが残りわずかになった時、リッカの渾身の一撃が決まりドサッと黄金マスクは倒れた。
〉よっしゃー!
〉やりました♪
〉ふう…、あいかわらず強い。
〉僕、最終ボスと闘ったイメージですよ!
〉やった!楽しいー!
〉いやー快感です!!
生死ギリギリの攻防に全員が興奮している、やっぱり黄金マスクは強敵だったが、このパーティなら大丈夫そうだ。
そして、やっと錫杖1本手に入れた。
「よし、錫杖もゲット!」
手に入る時は連続するもので、次のミイラが錫杖を落とし、そして残りの1本も戦い方を理解し、余裕となった黄金マスクを倒してゲットした。
〉錫杖も集まったしレベルも上がったし、今日はこのくらいにしようか。
〉了解です
〉はい♪
オアシスの町まで帰り3人のセカンドジョブイベントが終るのを待つ。
〉セカンドおめでとう
〉おめでとうございます♪
〉おめー
〉ありがとう!
〉皆さんのおかげです。
〉感謝、感謝!
〉今のレベルならこの辺りの敵は大丈夫と思いますが、エルフィランデル城まで帰りましょう、ちょっとしたイベントもやってると思うしね♪
〉はい
〉了解です。
俺たちは、エルフィランデルまで帰った、敵の攻撃はまったくなかったので、走りながらチャットを楽しむ。
話題はリッカが男か女かだった。
〉うーん、サブキャラで猫さんやコビットの女性キャラを選んでる人はたくさんいますね。
〉僕は女性だと思いますよ、雰囲気から言って優しいお姉さん?
〉お!?俺の第一印象もお姉さんだったなぁ
〉そう言えば、ショウタさんは私をOLとか言ってましたね♪
〉じゃ、女性で決定と言うことで。
賢者さんが言った。
〉いやいや、チャットで女性言葉は簡単だよ、いえ簡単ですよ~♪
〉おお、女性に聞こえるw
〉でしょでしょ♪
〉せめて、ドワーフさんじゃなくコビットさんに言って欲しかった…
〉だね(笑)
〉逆に女性が男キャラ使ってる事も多いんじゃない?
〉それはあるかもね、ネトゲ好きの女性増えてるし
〉猫さんが男で私たちは女子だったりして~♪
〉ドワーフさん、おねぇ化してますよ
〉ぐはッ!
〉wwww
〉あはは♪
やっぱりこう言う時が一番楽しい、何故かなほんの数時間前に会ったばかりなのに…
城門前に到着し解散となる。
〉お疲れさまでした、解散します!
〉ありがとうございました
〉また、よろしくー
〉またです♪
〉機会があれば、またよろしくです
〉私はおっとり系の女子ですよー!
〉www!
〉おお!
そこでパーティ解散となった。
みんな手をふり走って行く。
「お疲れさま、俺は買い物して落ちますね」
「お疲れさまです、あのショウタさん…」
「ん?」
「サンセットさんやハルカさんとばかり遊ばないで、たまには私に付き合って下さいね(笑)」
「了解しました(苦笑)」
そう言って城門を潜る。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「あ、ハロウィンかなこれは?」
なんか様子が違うと思ったら街灯がカボチャになっている。
「ハロウィン?あ!ホントだ♪」
「たしか、なんか限定アイテム貰えるって言ってたな、夜になるまで待つかな(笑)」
「あ!そっか、このためのお菓子ですよショウタさん」
「なるほど、トリック オア トリートって事か!」
「お化けさんにいっぱいあげなきゃ♪」
「去年はウイッチの帽子があったって」
「キャロさんが装備してた可愛いやつですか、欲しい!!」
「お菓子はかなりゲットしてるから貰えるんじゃない?」
リッカとオークションを見ながら夜になるのを待つ。
「ショウタさん、鎧と武器返しますね」
「あ、いいよ戦士もナイトもその装備は使わないし」
「でも…」
「リッカの無双ぶりに惚れて進呈しますは?」
「じゃ、トリック オア トリート!」
「あはは、ハッピーハロウィン♪」
周りが暗くなり仮装した子供のNPCキャラが笑いながら走り回りあちこちで冒険者に話しかけている。
〉トリック オア トリート!!
俺たちの前にも2人の魔女に変装しているエルフの女の子が来てお菓子をせがむ。
「可愛いー♪、可愛いよショウタさん!!」
「いっぱいあげなきゃな」
お菓子をトレードするとにっこり微笑んで、また冒険者の所に走る。
「ショウタさん!!可愛いステッキ貰っちゃった♪」
「おめでとう、こっちの子は笑顔をくれた」
スケルトンのお面を付けてるドワーフの男の子、吸血鬼に変装してるミーヤの子供、お化けの格好をしたコビットなどが動き回る。
カボチャを被ったコビットの子にパンプキンヘッドをもらい装備する。
「あはは♪ショウタさんなんですかそれは♪」
「あのカボチャの子に貰った、おや?これけっこう防御力高いぞ!」
「私は、あ!せっかく貰ったのに戦士には装備出来ないみたい!」
走って自宅に戻るリッカ、ウイッチ装備を貰ったのかな?
「お待たせー♪」
リッカが黒のワンピース姿で現れる、スタイルがいいのでワンピースがミニスカートの様になって少々際どい。
「どう?」
「いいね!」
「後は、帽子とブーツが欲しいなぁ」
何人かの冒険者はもう装備が整っている。
「あ!レギンスがあるんだ!私ミニスカートみたいになってる!(汗)」
「いいね!」
「エッチ!!」
「いや、それの方が可愛いって」
二人でお菓子をどんどんあげる、俺は骨の剣とフランケンヘッド、パンプキンヘッドの3つをゲットした。
リッカはマジカルブーツと黒のワンピース、マジカルステッキとほうきをもらったみたいだ。
周りが明るくなり可愛いお化け達は家に帰る。
「うーん、帽子が欲しかったなぁ…」
「まだ、10月末日まで時間があるから大丈夫じゃない?」
「あ、そうだ!」
そう言って走り出すリッカ。
帰ってきたときは大きな赤色のリボンを頭に巻いてホウキを持っている。
「ショウタさんどうですか?」
「おお!魔女ッ子帽子より魔女ッ子みたいだ!」
「でしょ♪」
「キキだな」
「です♪リボンはなんかのイベントで貰いました(笑)」
リッカの周りに冒険者が集まってくる。
〉ちょっとスクリーンショット撮ってもいいですか?
〉俺もお願いします!
〉となり、いいですか?
〉え?え?ええー!!
ミニスカートでキキコスプレのリッカは大人気となり、周りで撮影会が始まりそうになった。
「ショウタさん…」
「よし、逃げるぞ走れーー!!」
「はい♪」
俺はPSXの電源を切りベットに寝転ぶ。
リッカって誰なんだろう?
最初は優しいOLのお姉さんって考えてたっけ?期末試験の時に学生だと分かったんだよな…
「ちょっと整理してみよう…」
机に向かいノートに現在の関係図を書いてみた。
俺⇔ユキカ(彼女)ネージュ(師弟)
俺⇔宿毛(友達)サンセット(彼女)
俺⇔大月(友達)
ツバサ⇔キャロライン(友達、彼女)
俺⇔ハルカ(妹?)ハルカ(妹)
俺⇔リッカ(?)
俺⇔ブリザード(大月の兄)
うーん、リッカ以外はこんなに固まっているのか…
いやいや、リッカも俺の事知ってるんだっけ、初恋の相手って言ってたような…
リッカって三原?でも小説の感じだと違う…、あ、小説の原案は弘見先輩っていってたぞ、まさかリッカは弘見先輩?
アニメ好きも当てはまる…、ハルカとバトルしても知識で負けてなさそう…
俺がFK7をするのも、ユキカか三原から聞いてるとしたら、同じくらいにゲームを始めててもおかしくない…
うーん、どんどん弘見先輩な気がしてきた、本人には聞けないけど…
まて!弘見先輩の初恋相手が俺?
ない、それはないよ…
誰かクラスメイトかな…
スマホを見る、ユキカからラインが届いている、絶対に行きたいアトラクション名が書かれているが…
今日は返信せず寝よう…
■運命の国
≪土曜日の朝≫
「えっと、ユキカ…これはいったい…」
「あの…そのぉ…」
叶崎駅前、デスティニーランドへ行くためにユキカと早朝待ち合わせをしてたのだが…
「私を置いてくなんておかしいです!」
眼鏡と髪型で変装した宿毛が、ユキカの隣でちょっと怒り気味に言ってきた。
「そうですよお兄様、ハルカはいつもお兄様のそばにいます♪」
俺の左腕にしがみついて、上機嫌のハルカが言う。
「…で?」
俺はユキカに理由を聞いた。
「あ、アキちゃんには嘘がつけなくて…」
想像するに、宿毛に『今週の土曜日予定ある?』って聞かれてキョドったな。
「ハルカは?」
「ハルカちゃんには、何故か見抜かれて…」
「当然です、お兄様レーダーにバンバン反応ありましたから♪」
「そうなんだ…」
「えへへ♪」
まぁ仕方ないか、ユキカが自分でまいた種なんだから後で怒ったりしないよな…
「それじゃ、行きます…か…?」
う、うそ…
「おーい、おまたせー♪」
大月が走って来る、その後ろに三原と弘見先輩も続く。
「うそだろ…」
俺はまたユキカを見た。
「あの…、アキちゃんとの話をアカリが聞いてて…」
「おいおい」
「遅れてすいません!」
「ゴメン、ゴメンちょっと朝寝坊しちゃった♪」
「弘見先輩までどうしたんですか?」
「いやぁ、登場キャラが一堂に会すと聞けばライバル達の弱点を知りたくなるのは仕方のない事だよ~」
「キャラって…」
「で、なるほどこの子が…」
弘見先輩がハルカをまじまじと見つめる。
「な、なんですか…、誰ですかお兄様…」
「えっと、俺の先輩なんだけど」
「こら、妹もどき!ショウタ君にくっつくな!」
「も、もどき!もどきってなんですか!」
いきなり、弘見先輩とハルカがバトルを始める。
「その茶髪ツインテールなんて絶対にもどきでしょ、お兄様を使うならせめてユキカの様な黒髪ロングにしてきなさい」
「な!」
「さ、ショウタ君お姉さんと行きましょ~♪」
そう言って俺とハルカを引き離す弘見先輩、二人の間でバチバチと火花が飛ぶ。
「何でしょう、なんとか先輩を見てると何か懐かしい感じがしますね」
ハルカが笑顔で問いかける、目が恐いんだが…
「そう?楽しい思い出ではなさそうだけど」
弘見先輩の笑顔も怖い…
「はい、色々と思い出してます、私をもどきと呼ぶような人間は二人といないでしょうから」
「たくさんいると思うけどね~」
「先輩とは一度この件で討論してますよね」
「さぁ、どうだったかなぁ?」
「いえ間違いありません、こんなに近くにいたんですね中二病猫娘」
「あなたこそ、私にとってはまさかですよメルルもどき」
「ケンカするなら置いてくぞー」
俺たちは二人を残してさっさと改札を抜けホームに向かっている。
「あ!お兄様!」
「ま、待ってー!」
慌てて走り出す二人、仲良く改札をぬける。
≪デスティニーランド≫
「来たー!!」
「デスティニー!!」
「キャー♪」
ハルカと宿毛と三原が園内に飛び込む、宿毛は小学生の様にはしゃいでいる。
「迷子になるなよ、って引率の先生か俺は」
「さぁ、私たちも行こう!」
ユキカが俺の腕を引っ張る。
入口でもらったマップを広げながら上機嫌な宿毛。
「アキ、はしゃぎすぎ♪」
大月が笑ながら言う。
「初めて来たんだもん、はしゃぐでしょ♪」
「アカリさん、初めてでなくてもはしゃぎますよ♪」
「そうだよ、これが普通のテンションだよ♪ちなみに私も初めてー♪」
三原とハルカが宿毛の手にしたマップで確認する。
「よかった、アキちゃん嬉しそうで」
ユキカが笑ながら言う。
「これってたしか、ユキカへのお礼だったよね?」
「そ、そだね…」
「細かい事は気にしない、ショウタ君にはラノベ小説のネタになるようなハーレム主人公を演じて欲しいなぁ」
「先輩…いったい何を言ってるのですか」
「ちなみにショウタの隣の席はくじ引きだからね♪」
「アカリ用意がいいじゃないか」
弘見先輩と大月がニコニコしながらはなす。
「ちなみにユキカは2回引く権利あるからね」
大月がユキカにウィンクした。
「おい、うちの彼女はとんでもなくくじ運悪いの知っててそうしたのか?」
「えっと…あははは」
ユキカは苦笑いしている。
「何から乗りますか?」
「やっぱりFK7でしょう!!」
「私もそれがいい!」
先頭の3人が最初のアトラクションを決めて走り出す。
「いきなり大人気アトラクションに決めた様だね」
「あ、待ってー!」
ユキカを先頭に俺たちも走り出す。
開園直後に走ったおかげで、10分程度の待ちでアトラクション内に入った。
中に入るとまずキャラ登録のコーナーに入る、パスポートのコードを読ませ種族と職業と顔を登録する。
顔に関しては、顔認証ソフトが勝手に作成する様だ。
俺はヒューマンのナイトを選んだのだが…
「マジか…なんかいつものキャラになってないかこれ…」
一瞬、取消すか迷ったが時間制限があり先に進んでしまった。
登録後に操作説明のスペースに入る。
ユキカが横に来た。
「まずいよショウタ、ネージュそっくりになっちゃった…(小声)」
「俺も…ユキカはエルフ?(小声)」
「ヒューマンの魔法剣士…、エルフにしてれば金髪だったかも?なのに…」
周りを見ると俺たち以外は楽しそうだ、たしかにユキカと違ってゲームキャラに似てても問題ない…かな?俺の事知ってるし…
「素人な感じを出しとけば大丈夫だよ」
「そうかな…」
大月がユキカを呼んでいる、例のくじ引きかな?
みんながが真剣な表情になって大月の出した棒を掴みいっせいに抜き取る。
宿毛が小さくガッツポーズした。
このイベントの隣の席は宿毛に決まった様だ。
最初にエルフィランデルで会ったエルフのNPCと同じコスプレのお姉さんが表れ操作方法を説明をしてくる。
VRヘッドを付けマップを動き回るらしい。
操作方法は基本自動だが、戦闘などコントローラーを使っての操作もできる、シートの手すり部分にコントローラーはあり左右に分かれているが、操作方法はPSXのコントローラーと同じ作りになっている。
説明が終わり、いよいよイベントブースに入る。
ちょっと広いスペースにリクライニングシートが6×3の18席ありそこの前列に座る。
左隣は宿毛、右隣はハルカが座った。
前列の6人は左から三原、宿毛、俺、ハルカ、弘見先輩、大月となっている。
ユキカは…後ろの列に座った、2回引いてダメだったとは…
〉認証コードをスキャンし操作レバーが青く光っているのを確認して下さい。
〉シートに深く腰掛け肘掛けにある操作レバーを確認して下さい。
〉VRベットをセットし、操作レバーを握って下さい。
周りが暗くなった様だ。
バーチャルリアリティは初めての体験だなんかワクワクしてくる。
目の前が少しづつ光り全体的に白へ、そして水の音や、小鳥のさえずりが聞こえ、少しづつ周りが見えてくる。
俺はエルフィランデルのあの噴水の前にいた。
「!」
リアルと間違うほどの映像のクオリティに言葉を失う。
「凄い!」
左隣から声が聞こえた、ヘッドホンからだったが、横を向くと若草色の装備をしたエルフが噴水を見つめて立っていた。
「あ、宿毛?」
俺の声が届いたのか、エルフがこっちを向く、見た目はサンセットだ。
「ショウタさん?うわそっくり」
「あはは、お前もだろ」
俺は周りを見回した。
右側、ちょっと離れた位置にツインテールのヒューマンが立っている、完全にハルカだ。
「ハルカ、凄いなこれ」
ハルカがこっちを向く。
「あ、お兄様♪すいません、ビックリしてました」
「だな」
どうやら噴水の周りに前列の6人はスポーンしたようだ。
えっと…ユキカは何処に…
〉ギルドデスティニーの諸君、今回の任務を伝える。
ギルドマスターらしき男のエルフ声が聞こえ、6人は噴水の前に並んだ。
宿毛の隣のコビットは三原、ハルカの隣のミーヤは弘見先輩?その向こうのエルフは大月かな、大月はコビットにしなかったんだ。
〉フリーシア湖のオークがこのところ活発になっている、今回のクエストはそのオークの討伐である。
周りを見回すギルドマスター。
〉うむ、既に用意は済んでいる様だな、行きたまえ幸運を祈る!
俺たちは城門に向かって駆け出す。
「ゲームってこんなに綺麗なんですか?」
三原の声だ、宿毛が答える。
「これはリアル過ぎ♪」
木洩れ日、そよ風の音、日の光りそして影、全てに感動してしまう。
城門を抜け草原で一旦とまる。
「うわー!!」
「スゴいスゴい!」
「お兄様♪スゴいです♪」
「見て、フリーシア湖も綺麗♪」
「いやー、これは想像以上だ」
「ビックリだよ~」
俺たちはフリーシア湖に向かって走り出す、ラビット等の敵対生物はいるが、今は可愛い小動物だ。
湖前の森に入る、FK7経験者なら少し緊張する場所だ。
操作が自動ではなくなった、コントローラーを掴み、慎重に辺りを見回す。
「きゃー!!!」
突然叫び声が聞こえてきた、三原の声だ、左側宿毛の向こう側にいるコビットにオークが襲いかかっている。
俺は三原の所に走った。
「サ…じゃない宿毛!」
「わかってます♪」
既に宿毛は弓を構えて攻撃をしていた。
矢が肩に刺さりバランスを崩すオーク、一撃で消滅はしない様だ。
「レベル低すぎ!」
宿毛が叫ぶ、再度攻撃をする為巨大なこん棒を振り上げる!三原は動く事が出来ない様だ。
「きゃー!!!」
ガキッ!
間に合った、俺は三原とオークの間に割り込み攻撃を盾で防いだ。
「三原!下がって!」
「は、はい」
オークと対峙する、近くで見るととんでもなく醜悪な表情になっているのがわかる、これはホラーだな三原泣くよこれは。
ドーンっと衝撃が走った。
画面が揺れシートも揺れているみたいだ。
オーク蹴りが入りHPが削れる。
「お兄様ッ!!」
倒れた俺は青白い光りに包まれHPが回復した、ハルカがヒールの魔法を使った様だ。
俺は立ち上がりオークに攻撃を開始する。
矢の攻撃と雷撃の魔法攻撃も加わる、宿毛の隣でエルフが魔法を詠唱してるのが見える、大月だな。
「お待たせ~」
弘見先輩の声が聞こえ、ミーヤの戦士が両手剣で攻撃を開始した。
「オークのHPが分からないから、叩き続けるしかないですね」
「了解~♪」
ハルカの回復があるので、オークの攻撃を気にせず叩きまくる。
俺の攻撃力が上がった、見ると三原のコビットが魔法を唱えている、程なく弘見先輩の攻撃力も上がった。
「レナー、ナイス!」
チームの連携がうまく働き出した所で、ガクッとオークが片足をつき前のめりに倒れた。
「やったー!」
「ショウタさんありがとう♪」
「お兄様大丈夫ですか?」
「なんとかね、攻撃食らうとシートが揺れるから操作しづらい」
「だね~、前衛はつらいよ~♪」
「リサさん操作うまいですね!」
大月が弘見先輩に聞いてきた。
たしかに上手だな、ほんとリッカみたいだ。
「まぁね、いろいろ経験してるからね~♪」
と、キャラが動き出す、フリーシア湖に向かっている。
森をぬけ湖畔に立つ、映像が凄く綺麗になっているが、精霊界へのゲートがある俺がいつも釣りをしている場所だ。
「綺麗ですね♪」
夕日が湖面に反射している。
「フリーシア湖、私の一番好きな場所です」
「アキさん、私も好きになりそうですこの風景」
「アキはいつもここにいるの?」
「昔は、昔は毎日来てたよ」
そう言って俺を見る宿毛。
「お兄様、夕日が綺麗ですね」
「そうだな、夕暮れでフリーシア湖の湖面が赤く染まる時…」
「水の精霊が現れる…」
俺に続けて、宿毛が言った。
湖面が赤く染まりキラキラ輝きだす。
「あ!」
「え?」
「お兄様!?」
水面から水柱が上がり水の精霊が現れる、ゲームでも神秘的だったが、このアトラクションは映像がとにかくスゴい。
ウンディーネも美しい女神感が半端ない!
〉汝、我 声が聞こえますか?
水の精霊がまぶたを上げる、透き通った水色の瞳に吸い込まれそうだ。
〉我が名はウンディーネ、そなた達の思いに答えましょう… 暗黒神を封印する聖なる水の力を…
ウンディーネは両手を上げる、精霊力と言えばいいのだろうか、優しい光が指先に集中する。
〉精霊王の名のもとに、そなた達に水の祝福を!
俺たちは優しい光りなのか霧なのか分からないオーラに包まれる、とても暖かい…
〉させん!!
突然、闇が押し寄せる、先程までの暖かい空気は、身震いする様な空気にかわる。
バチバチッとウンディーネと俺たちの間に亀裂が入る、足元をみるとブオッっと暗黒の闇が広がった。
闇は底無し沼のように俺たちを飲み込む。
「ちょ、ちょっと!!」
「何これ!どうしたらいいの!?」
「お兄様、助けてー!」
まったくコントローラーが効かないまま、俺たちは奈落へと落ちた。
≪コキュートス≫
突然文字が表れた、周りは暗く氷づけの不毛の大地、一つだけ大きな氷の塊がある。
「コキュートス?」
「地獄の河、氷結地獄、地獄の最下層って感じかな~」
弘見先輩の声がする、これもアニメとかの知識だろう。
「つまり、暗黒神のいる場所ってことですか?」
「かな?」
「まさしくな場所ですね、少し寒くなって来ましたし」
宿毛が一歩踏み出して話す。
「やっぱあれかな?」
大月の見る先に氷の塊がある。
「何となく堕天使が氷づけになっているイメージですね、翼とかに見える部分もありますし」
三原も弘見先輩に劣らず、この辺りの知識は豊富なのだろう。
「私はお兄様の陰に隠れてますね♪」
「ハルカ、俺は暗黒神に突っ込むぞいいのか?」
「お供します♪」
氷の塊目掛けて走り出す俺たち、近づくとかなりデカイ。
左側に別のパーティが見えた、たぶんユキカのパーティだろう。
コントローラーでの操作が可能になり俺と隣のパーティの3名、その隣のパーティから2名前に進み出る。
氷に近づくと確かに天使に似た巨大な影が見える。
そして…
バリッ!バリバリッ!!と大音響が響き、氷の欠片が魔法の様に飛んでくる!
今の一撃でシートが大きく揺れ、HPが半分削られる。
「マジか!」
「お兄様!」
直ぐにハルカの治癒魔法で俺は回復したが、他パーティの前衛は回復が間に合ってない。
氷から現れたのは、片方の翼が折れている天使だった…
顔は青白く凍って瞼は閉じられたままだ。
横に伸ばした手に、冷気を発した魔剣が握られている。
ブオーン!
堕天使の一振りは、とんでもない範囲攻撃だった。
俺は盾でガードしたが、冷気の刃は後衛にも届きパーティ全員のHPが削られる、いや俺の真後ろにいたハルカは無傷だ。
「ハルカみんなの回復を!みんなは俺の後ろに並んで!」
隣のパーティは前衛が2名倒れ壊滅状態だ、ユキカは大丈夫かな?
一番向こうのパーティは攻撃を開始している。
堕天使が動く、俺に向かって連続の攻撃、俺は盾で防ぎHPの減少を抑える。
「お兄様、みんなの回復終りました!」
「よし、反撃!?まった!」
「え?」
堕天使がまた、氷の魔剣を水平にし構えている。
「俺の後ろに!」
「は、はい!」
俺は盾を構えて範囲攻撃に備える、弘見先輩や宿毛はガード体制、ハルカと三原は防御力や攻撃力UPの魔法を唱えている。
ブオーン!
範囲攻撃が通り過ぎた、今度は俺のHPが少し削れただけで他のメンバーのHPは満タンのままだ。
「よし!いくぞ!」
堕天使は、上級者と思われる向こう側のチームを攻撃している。
俺と弘見先輩が堕天使の足元を攻撃、宿毛と大月が矢と魔法攻撃、ハルカと三原はMPを回復している。
上級者チームに巨大な氷塊が叩き付けられる!
「何あの魔法!メテオ??」
「氷の塊をぶつけられたみたい!」
「うわ、キツい!」
上級者チームは2人が倒れ、残りは後方に下がった、仲間のHPを回復するのだろう。
堕天使はユキカのチームを攻撃し始めた。
前衛2名が倒れ回復も間に合っていない上に、魔剣の連続斬りで残った戦士も倒れそうになる。
黒髪の魔法剣士が後方から飛び出し戦士をガードする、ユキカだろう。
戦士は回復のため後方に下がる。
ユキカは防御体制で戦士を守る。
堕天使の左手に氷の槍が表れそれをユキカチームの後方回復魔法を唱えているコビット目掛けて投げつけた。
槍はコビットと後方に下がった戦士の間で爆発し、コビットと戦士が倒れた。
ユキカは振り向いて呆然としている。
チーム内で残った、もう一人の魔法使いはMP回復の為、後方に下がっていたため助かっている。
ユキカに魔剣が振り下ろされる。
俺はユキカの所まで移動し、堕天使の攻撃を盾で受ける。
ショウタ!
VRベットで聞こえないはずのユキカの声が聞こえた。
ユキカへの攻撃を全て受ける、HPも30%くらい削られる。
堕天使は、弘見先輩への攻撃に切り替えた。
俺はユキカの無事を確認して、元の場所へ走って戻る。
攻撃を受けていた弘見先輩と入れ替わり堕天使の正面に立つ。
堕天使の頭上に隕石の様な氷塊が現れる。
「みんな!バラバラに後ろへ!」
俺はみんなが後方へ走るのを確認して、氷塊を受ける為、堕天使の正面に進み出た。
「お兄様!!」
最初にハルカが気づいて悲鳴を上げる。
「ショウタさん逃げて!」
振り返った宿毛が叫ぶ、声が緊張している。
「大丈夫、耐えて見せるよ」
たぶん俺に向かって来る攻撃だ、俺を中心に周りにも衝撃が来るだろう、だから逃げられない…
ドーンッ!!
体に衝撃がきた、HPは一気に減り0ptとなった。
「そんな…」
「お兄様ーッ」
「ショウタ!」
「ショウタさん!」
「ショウタ君!」
やられたか…、俺はシートに深く座り直した。
堕天使は上級者チームを攻撃に攻撃を切り替えている。
上級者でも、あの攻撃はどうする事も出来ないな…全滅か…
ユキカが一番先に駆け寄ってきた、俺を守る様に攻撃を開始する。
宿毛たちも攻撃を再開した、仲間の声は聞こえなくなっていた。
俺は上を見る形で倒れている。
光が3つ見えてきた、青、緑、赤、どんどん大きくなる、俺の所には青い光が降ってきた。
青い光、精霊王ウンディーネが降りてきた。
ユキカチームには、羽の生えた妖精の様な精霊王が、上級者チームにはドラゴンが擬人化した様な精霊王が降りる。
精霊王の胸元からハルカに向かって光が注ぎ込まれた。
ハルカがリミット技の様な魔法を唱えた、全員のHP・MPが回復し、俺も蘇る。
「ありがとうハルカ!」
「お兄様!ご無事で!」
ユキカチームもプーリストが精霊王の力で蘇り、リミット技で回復している。
大月と三原の水系高等魔法が堕天使に突き刺さる、ユキカも風系高等魔法を唱え、堕天使の黒い羽根が飛び散る。
ぐおおォォーッ!!
堕天使が苦しみの咆哮をあげる。
宿毛の弓が眩い光りに包まれた。
「唸れ白銀の矢ーッ!!」
放たれた矢は白銀に光り数十本の矢に分裂し堕天使に突き刺さる。
ぐおおおおォォーッ!!
堕天使は飛び上がり上空に逃げようとするが、3大精霊王から放たれた精霊魔法で地に叩き落とされた。
弘見先輩の両手剣が水色のオーラを纏い2倍の大きさに変化する、その剣を振り回し堕天使を切り刻む!
俺の体が宙に浮き、高速で堕天使に飛びかかる、俺と他のチームの戦士とナイトが同じ様に堕天使に突っ込んだ!
リミット技の発動マークが音を出して点滅する。
「行けー!!」
俺の回りに水の紋章が輝き、全身が光の矢となり堕天使に突っ込んだ。
ガ…ッ!!
堕天使を突き抜け凍った地面に足をつく。
振り返って見たものは、天を掴もうと手振り上げた堕天使が砂のように崩れ去る所だった。
「やったー!」
「え?倒した!?」
「やりました♪」
「よっしゃー!!」
「勝利ですお兄様!」
「勝った勝った!」
歓喜の渦が出来る、ユキカも俺たちの輪に参加している。
〉よくやりましたね物質界の勇者達。
ウンディーネが語りかけてきた。
〉まさかな、この小さき者が暗黒神を倒すとは思わなかったぞ!
サラマンダーが語る。
〉ぼくは、勝つと知ってたけどね~♪
シルフが飛び回りながら話す。
〉帰りましょう、あの暖かな陽射しのところへ
ウンディーネが上を指差す。
光の点が広がり、俺たちはフリーシア湖の湖畔に立っていた。
美しい湖面にウンディーネが立っていた。
〉ありがとう勇者たちよ。あなた達の事は未来に語り継いで行きましょう。
TheEND
「よかったー♪」
宿毛が大興奮で話し出す。
「ほんと、あのクオリティは無いね~、びっくりしまくりだよ~」
「リサさんはスゴい斬りまくってましたね♪」
「レナは最初、オークに驚かされて泣いてたね~」
「あんなゾンビみたいな顔を間近でみたら泣きますよー」
「なんか全てが綺麗でもう一度入りたい位ですよお兄様♪」
「あ、私もそれ賛成!今度はナイトとか前衛にしようっと♪」
「私は、みんなとはぐれたのが残念だったけど、すごく面白かった♪」
「ユキカはどんなのだったの?」
「ゴブリン討伐クエストで移動してシルフって精霊会って、あの地獄に吹き飛ばされちゃったって感じだった」
「あ、途中でショウタ君が隣の子を助けてると思ったら、あれユキカだったんだ~」
「うん、ショウタはなんかそっくりだったから直ぐに分かった♪」
「そうだっけ?なんかいろいろ操作しすぎて分からなかった…」
「はいはい、ご馳走さま♪」
うーん、ポリポリ…
「ショウタさんはほんと駆け回ってましたね、最後は隕石一人で食らっちゃうし」
「そうそう、ショウタさんは勇者し過ぎだよ♪」
宿毛が指を指して言う、みんな笑っている。
「初っぱなにスゴいの見たから、少し何か飲んで休まない?」
大月が言い、お茶しながら次の作戦会議をする事になった。
まず、もう一度FK7に入る事が決定された、ユキカみたいに一人別のパーティは可哀想なので4人3人に別れる事となった。
「ジェットコースターは制覇したいよね♪」
「ミュージカル的な舞台もかなりいいし混んでなさそうだよ~」
「パレードは絶対見ようよ!」
「うん、見る見る♪」
「ハルカは“エルフと世界樹旅行”に行きたいなぁ」
「あ!私もそれ!」
「この、ゴブリンの洞窟って言うホラーな乗り物もいいなぁ♪」
「アキはお化け大丈夫なの?」
「ゴブリンなら大丈夫、日本のお化けはダメ眠れなくなるから!それから…」
「ん?」
「私、高所恐怖症で落ちる奴や高いジェットコースターは無理…」
「そうなの?」
キラッと大月の目が光り、満面の笑みで俺を見る、やっぱりサンセットは宿毛アキだ!って言ってる様だ。
…知ってるって。
「私もジェットコースター苦手だから、そこは二手に別れよう♪」
ユキカは宿毛と一緒に行く事になった。
「じゃ、ショウタ君はくじ引きで当てた方に行くって事だね~」
「俺には選択権は無いんですか?」
「ないよ~」
はは、そうなんだ…。
「私はお兄様の方に行きたいってダメですか?」
「ダメダメ、どっちに行くかはくじ引き前に決めるんだよ」
「あう…」
次は、エルフと世界樹旅行に決まった。
大月がくじ引きを出しみんなが一本づつ掴む、ユキカは一本と余りの一本を握った。
「せーの♪」
大月の号令でぬく。
「やったー!」
ハルカが先の赤い棒を高く上げる。
「行きましょうお兄様♪」
デスティニーランドは、森の国、地下王国、水の楽園、未来都市の4つに分けられており、FK7のある未来都市から世界樹のアトラクションがある森の国へ移動する、ハルカは上機嫌で俺にくっつき、他のみんなも次にどこにするかワイワイ話ながらついてくる。
アトラクションには15分ほど並んで入れた。
二人乗りのゴンドラで、幼いエルフの冒険を疑似体験する、ちょっと子供向けだが、ファンタジー世界を堪能できる。
最後に世界樹の上でお母さんエルフと再会した時はハルカは泣いてしまっていた。
次は森の国内にある大木エントのフリーフォールとハーフエルフと言うミュージカルに別れた。
大月、三原、ハルカがフリーフォール、宿毛、ユキカ、弘見先輩がミュージカルに別れる。
俺は連続で俺を引いたハルカのフリーフォールとなった。
ミュージカルのとなりがフリーフォールだ。
移動しながら、みんなで悲鳴がするフリーフォールを見上げる、宿毛はちょっと首をすくめている。
「うわ…、けっこう高いなぁ」
「ショウタは苦手だったっけ?」
大月が聞いてきた。
「うーん、得意ではない」
「ショウタ君、私が守ってあげるからこっちに来なよ~」
弘見先輩が俺の腕を取る。
「ダメ!私が当てたんだから!お兄様はフリーフォールッ!」
弘見先輩との間に割り込むハルカ。
「くじ運だけはいいのね~、妹もどきちゃん♪」
「なんですか?、中二先輩♪」
また、バチバチ火花が散る。
「はいそこまで、仲良くしないなら今日は二人の隣には座らないからな」
「お兄様!」
「そんなショウタ君!」
「な・か・よ・く・な」
「はい…」
「うう…」
「あはは♪、でもリサさんとハルカちゃんは初対面だよね、何でそんなに仲いいの?」
それは言える、でも思い当たるのは弘見先輩がリッカの場合かな?初対面で1時間以上も口論してたもんなぁ。
「仲良くありません!」
「アカリ、それはとんだ勘違いだよ~」
「だから!仲良くな!」
「はい…」「はい…」
「素直でよろしい」
「じゃ、ショウタの隣は2番を引いた私がいただき♪」
「うぅ…」
にこにこの大月の後ろで、シュンとしたハルカと弘見先輩が、休戦協定を結んだ様だ。
フリーフォール下から見たのと上から見たのはかなり違う、座った状態で上がるのだが、足が宙に浮いてるのもかなり怖い。
4人席に座る、右から大月、俺、ハルカ、三原の順番に座る。
ハルカと三原は「こわい~」「高い~」とか言いながらけっこう楽しそうだ。
大月の声が聞こえないので横を見る。
大月は下を見、顔面蒼白になっている。
「大月どうした?」
カクカクカク、っと機械人形の様に俺の方を見る大月。
「ショウタ…」
「へ?」
完全に目が泣いている、怖くなったのか?アカリだよなこの子?
「ショウタァ…」
「ええ!?」
顔が半泣きに変わる、いやいやさすがにもう止められないだろ…
ハルカや三原はキャッキャ言ってる。
もうすぐ頂上だ、どうする?
俺は、安全バーを握った右手を外し大月の左手に重ねた。
「大丈夫」
…な訳、無いよなぁ…
「うん…」
大月の額が俺の手の甲にくっつく。
〉どうだい、遠くまでよく見えるだろう。
木人エントの声が響く。
〉あ…
ふっ…っと宙に浮いた感覚。
そして、急激に落下がはじまる。
「キャーー♪」
「落ちるーーーッ!」
「あ!じゃねぇーー!!」
「う゛!!」
ガクンっと、中間地点を過ぎたあたりで途中で止まる。
〉おっと危ない、大丈夫かい?
エントが受け止めてくれた様だ。
〉さあ、もう一度…
今度は登りも早くなる。
もういい!!、降ろして!!などハルカと三原は上機嫌でキャーキャー言ってる、三原がこう言うのが好きなのは予想外だったが。
大月は目をつぶり、俺の腕に顔を付ける目元に涙が見える。
〉じゃあ行くよ、そーれ!
一番上から一気に落下する。
「うおおぉぉ!!」
「キャー♪」
「キャー落ちるー!」
「!!!」
「お兄様、帰る前にもう一度乗りましょう♪」
ミュージカル組との合流地点に向ながらハルカが話してくる。
「いや、あれはもう勘弁してくれ」
正直、二度と乗りたくない乗り物だ。
「アカリさんもどうしたんですか?」
三原が静かな大月に話しかける。
「えっと…途中で気持ち悪くなっちゃって…」
「俺も気持ち悪い…」
「朝御飯しっかり食べ過ぎたからですよ」
「そうですよお兄様、こう言う乗り物を乗るときは軽めの朝食がいいんですよ♪」
「あのなぁ…」
ユキカと2人ならこれは乗ってないはずなんだが…
「あ、みんな待ってるよー」
ハルカが俺の腕を引っ張る。
「次は落ちない奴でお願いします」
ちょっと顔色の戻った大月が言った。
「では、ゴブリンの洞窟にしましょう♪」
宿毛が行きたがっていたホラーな場所を指示してきた。
「賛成♪」
「それじゃ、地下王国へ」
ゴブリンの洞窟はデスティニーランドのお化け屋敷だ、2人乗りのゴンドラに乗って洞窟を巡る。
今回のくじ引きはみんな真剣だ。
二人乗りのゴンドラでお化け屋敷なんて…、ユキカ、そろそろ俺を引いてくれ!
俺の願いも虚しく、三原が小さくガッツポーズしている。
ここも人気アトラクションらしく、随分待って入る。
宿毛とユキカ、弘見先輩とハルカ、俺と三原、最後に大月が一人とゴンドラに乗る。
洞窟に入って、あちこちにゴブリンの姿が見える、比較的怖くはないアトラクションの様だ。
宿毛やハルカの笑い声が聞こえる。
洞窟内の大広間に出る、ゴブリン達がダーツで遊んでいる。
ゴブリンが投げたダーツが比較的広い赤印に刺さる。
レールが切り替えられ、宿毛達は赤く光っているコースに向かう。
ハルカ達は青いコースに向かう。
ゴブリンがダーツを投げ、1ヵ所しかない小さな黒い場所に刺さる。
ゴブリン達の奇怪な笑い声が響く中、とても楽しいとは思えない黒いコースをゴンドラは進む。
「ショウタさん、何か嫌な予感がするんですが…」
「だな…」
バシャと水溜まりに突っ込みゴンドラが止まった。
薄暗い洞窟の中だ、前にも後ろにも他のゴンドラはいない。
がさがさと何か蠢く音が聞こえる。
「最悪の場所に来たのかな…?」
「シ、ショウタさん…」
三原がガシッと俺の腕にしがみつく。
ひたッひたッと松明を持ったゴブリンが一匹近づいてくる。
松明の火を、何かの台に点火する。
ぼぼぼッと炎が燃え上がり、油をひいている水路から次の台に炎は燃え移り周りが一気に明るくなる。
「げ!」
「ひィ!」
天井や壁、あたり一面にゴブリンが蠢いている、なんと言うか…気持ち悪いほどゴブリンがいる!
三原はもう気絶するんじゃないかってほど怯えている。
ぬうッと、ゴブリンがゴンドラ前面に顔を出す。
「キャーーーッ!!」
三原の絶叫と同時にゴンドラが後方に動き出す。
ゴブリンの群れがゴンドラを追いかけてる、中には火のついた矢を射るゴブリンもいる。
ゴンドラが少しづつ前向きになり明かりが照らす方へ向かう。
出口…、と思ったが今度は光り輝く財宝だらけの部屋に突入し停止した。
「今度はなんだろね…」
俺は腕じゃなく完全に抱き付いている三原に話しかける、目を閉じ顔を俺の胸にうずめている。
三原は状況をチラ見して泣き声で言った。
「ドラゴンです!きっとドラゴンがいます!」
「そ、そうなんだ…」
何故だか分からないが、今度はドラゴンに襲われるらしい。
俺の右側の財宝の山から熱風が吹き付ける、ドラゴンの寝息?規則的に財宝の山が上下している。
ドラゴン?を起こさない様にゆっくりゴンドラは移動する、そこへ俺たちを追って来たゴブリン達が奇声を発して突入してきた。
「ま、こうなるよね…」
「ショウタさーん!」
ドラゴンが首を持ち上げ、ゴブリンを睨む、ゴブリンは慌てて洞窟に逃げ戻る。
そこに向かって炎を吐くドラゴン!
「熱ッ!!」
熱風がこっちにも来た、本物の火を使っている。
ドラゴンがこちらにも気づく。
俺たちの方を向き大きく口を開く、口の奥で炎が凝縮されているのが見える。
「おいおいおい…」
とっさに三原を庇う形で抱きよせる。
ドラゴンが、炎を吐き出す直前に、ゴンドラは急発進した、今いた場所は炎の海になっている。
そして、やっと地上に出られた…
「大丈夫か?」
俺は三原に肩を貸してゴンドラをおり、そのまま通路を進む。
先に降りてた5人が待っていた。
「レナどうしたの?」
ユキカが来て反対側の肩を支える。
「いや、今の恐怖のアトラクションのせいで三原がこうなった…」
「恐怖?」
「やっぱあれ、プレミアなコースだったんだ、5%くらいの確率らしいよ」
大月が言ってくる、後ろにいた大月は俺たちが黒い洞窟に入ったのを見たのだろう。
「お兄様が戻って来ないので心配してたんですよ」
「悪いな、でもプレミアと言うよりとんでもないコースだった、燃やされそうだったし顔がまだ熱いよ」
「え?燃やされるの?」
宿毛も驚いている。
「そう、燃やされる…」
「マジ…」
大月もちょっと引きぎみだ。
「ほんと、運がいいのか悪いのか…」
ちょっと早いが三原の回復待ちと言う事で昼飯となった。
まだレストランは余裕だ、それぞれランチを買いテーブルに付く。
「楽しいー!!」
宿毛が大声を出す。
「あはは、アキってこんな時は子供みたいだね」
「アカリは楽しく無いの?」
「めちゃめちゃ楽しい♪」
「あはは♪」
笑いながらみんなでゴブリンの洞窟の話をする。
多少の脅かしはあったが、赤と青の洞窟は普通にゴンドラに座って見るだけらしい。
「俺たちは、ネタバレになるから止めようか」
俺は三原を見た。
「そうですね、あれは是非何も知らない状態で体験してもらいたいですね」
「じゃ、もう一度行こうよ~」
「嫌ですリサさん!私はもう行きません!ショウタさんがいなければ私は気を失ってました!」
「そんなに怖いのか~」
「はい…」
「次は水の楽園のマーメードビューに行かない?」
「3Dの奴ね、私もアキに賛成♪」
「じゃその次は水上コースターと楽園クルージングあたりだね~」
「ハルカは両方に行きたい♪」
「私も♪」
「アキちゃん、ジェットコースター大丈夫なの?」
「こっちは子供向けで高さが無いみたいだから」
「そうなんだぁ」
「あのぉ…」
振り向くと中学生くらいの女の子が立っていた。
「ん?どうしたの~」
弘見先輩が聞くが、女の子の視線は宿毛に向かっていた。
「私にご用ですか?」
宿毛の顔が女優の顔になる。
「あ、あの…、アキちゃんですか?」
「ん?」
「サ、サインもらえないでしょうか?」
宿毛がちょっとこっちに来いと、女の子に指示する。
急ぎ宿毛の側に移動する女の子。
「今日だけでいいから私がここにいる事は誰にも言わない、SNSに投稿しない、約束守れる?」
「は、はい!」
「お友達は?」
「家族で来ています、みんなは気づいていません」
「わかった、あなたを信じる」
女の子の目を見つめて宿毛が話す、女の子はまるで魔法にかかった様にふらふらとし出す。
「それで?何処にサインする?」
「これに…」
女の子は可愛い白い手帳を出した、宿毛は自分のポーチからサインペンを出し手帳の裏側にサインした。
「あ、ありがとうございます」
宿毛はニコッと笑い手帳を渡す。
「今日はいっぱい楽しんでね♪」
「は、はい♪」
女の子はふわふわ浮きながらランチのオーダーをする為に並んでいる家族の元に行った。
「こわー、芸能人こわー」
大月がわざとらしく寒気がする用な仕草をする。
「確かに凄いね~、あの視線で何人の男を落としたの~?」
弘見先輩が興味津々で聞く。
「落としてません!!」
「まぁ、うちのクラスの男子は全員落としてるけどね」
「アカリ怒るよ!それにショウタさんは落ちてません!」
「あのなぁ…」
俺を指差し全力で否定する宿毛、大月が俺を見て笑っている。
「でも、アキさんの顔が一瞬で女優さんの表情になりましたよ、私も惚れちゃいそうでした♪」
「うん、私もそう感じた、あの子なんて魔法にかかったみたいだったし」
「レナさん、ユキカまで!」
「ふむ、あれがチャームのまほ…」
「ショウタさん!怒るよ!」
「な、何でも無いです」
「なるほどアキちゃんはウィッチでしたか、お兄様、私の愛でアキちゃんの魔法から守ってあげますね♪」
ギロッとハルカを睨む宿毛、さっきまでの笑顔は何処に行ったのやら…
「ハルカちゃん、私はユキカみたいに優しくないわよ」
「お兄様、助けて下さい」
そう言って抱き付いてくるハルカ。
「俺を守るんじゃなかったのか?」
「たった今、レベルの差を痛感しました、ハルカには倒せません」
「あのねぇ…」
「ぷッ」
最初に大月が笑い出す。
「くすくす」「あははは」「うふふ♪」
みんな笑い出した、宿毛もつられて笑い出す。
「でも、こんな楽しい学園生活は私には来ないと思ってた…、ほんと転校してきて良かった、皆に会えて良かった♪」
「アキちゃん…」
「そうマジで言われると照れるよ」
「アカリ、最初に声をかけてくれてありがとう♪」
「私じゃなく最初はショウタでしょ、私は昼休みでショウタは朝のホームルームの時だもん」
「お兄様が最初にアキちゃんに声をかけたんですか?」
「いや、あれはその前の事があったから」
「前ってなんですか?」
珍しく怒った顔で俺に聞いてくるハルカ
「いや、その…」
参ったな、どう言えばいいんだか…
「裸のショウタにアキが抱きついたんだよね」
「えええーッ!!!」
「大月!お前!」
「アカリ!!」
「その辺の事を詳しく~♪」
弘見先輩の目が光りメモを片手に大月に聞く。
「詳しくは知らないんだ、私たちは別の場所にいたから。ユキカはちゃんと教えて貰った?」
「えっと…まだ…」
「お、お兄様…は、裸って…裸って…」
ハルカがまた魂が抜けそうになっている。
「どんな状況なの~、転校してくる前って事はショウタ君の事は知らないんだよね~?」
「そうなりますね」
宿毛の顔が赤く染まってきた。
「知らない男性カッコ裸に抱きついたって事??」
「カッコ裸は…やめてほしい…俺は水着だし」
「海とかプールって事?となると、アキちゃんの姿は?」
「カッコビキニ」
「アカリ!!」
宿毛の顔が見たこともないくらい真っ赤になる。
「視線だけで男を落とせる宿毛アキがショウタ君を落とすために体まで使ったって事だね~」
弘見先輩が言いながらメモをする、宿毛は真っ赤な顔を手で隠しテーブルにふせった。
「先輩、言い方がまたオヤジ臭くなってますよ」
先輩のボールペンが俺に向く。
「ショウタ君は、カッコビキニのあの宿毛アキに抱きつかれたのに、なんで落ちて無いの~?」
「なんでって…」
「宿毛アキだよ、超美人だよ、カッコビキニだよ~落ちるでしょふつう!」
耳まで真っ赤でふせってる宿毛を除き、他のみんなの視線が俺に集中する。
「え、えっと…ユキカがいるし…」
はぁ…、っとため息が聞こえる、ユキカ以外だけど。
「ショウタ君、君にはハーレム系リア充主人公の自覚が足りないんだよ~」
「な、何ですかそれは…」
「仲のいい幼馴染み」
バシッと大月を指差す弘見先輩。
「巨乳の幼馴染み」
次は三原の胸を指差す。
「やめて下さい」
恥ずかしそうに胸を隠す三原。
「学園のアイドルに綺麗な先輩、可愛い妹」
宿毛、自分、ハルカと指を差す。
「これぞハーレム系主人公の定番じゃないか~」
「はい?」
弘見先輩の言ってる事が理解不能の場合はどうすればいいのか。
「そうですよお兄様、鈍感なのも重要なファクターです、一人だけじゃなくもうちょっと大きな愛を持っててもいいんじゃないでしょうか?」
「そうです、主人公と言う者は全ての女子に優しくあるべきです!」
三原も加わって来た…
「ごめん、何言ってるかサッパリ分からない」
俺は会話をぶった切った。
「まあ、3人の言おうとしてる事は分かるけど…」
「大月、今の分かるのか?」
「少し、少しだけね…」
宿毛はまだ耳を赤くしてふせっている、ユキカを見たが知らないフリしてパスタを食べている。
「えっと、つまりお前たちの愛してやまない主人公君カッコ俺は、優柔不断の浮気者ではないといけない!って事?」
「えっと…」
ハルカが口ごもる。
「ハルカ、例えば俺がユキカと別れるから俺と付き合ってくれ!っと言ったとする」
「え!?は、はい♪」
「でも、俺は女子みんなに優しいからユキカや宿毛やいろんな女子と遊びたい、ハルカは分かってくれるよな」
「え…?」
うつ向くハルカ。
「そんなの…、嫌です…」
「なぜ?」
「なぜって…それは…」
答えられなくなるハルカ。
「それはイヤに決まってるからだよ、俺だって嫌だよ彼女が他の男と親しく話してたりしたら、しかもそれが当たり前なんて言ったらアホかって言うよ」
みんな沈黙する。
「それ以前にそんな子は好きにならない、女子は違うの?例えば…そうだな俺からしたら清水なんかがピッタリ当てはまるけど」
「清水君?」
「中学でサッカーやってたあの子?」
「そうそう」
「ごめん、清水は無い」
「大月、少しは分かるんじゃなかったのか、俺よりも当てはまる所がいっぱいだぞ」
「うーん…」
またしても沈黙が…
「清水には悪いが、好きにならないってかも?って感じがしだした?」
「ショウタさん、初恋の人って言う属性を追加して下さい!」
三原が言い、ハルカが大きく頷く。
「追い討ちみたいであれだけど、悲しいお知らせがあります」
「な、何ですかお兄様…」
「統計的に初恋の人と結婚出来る確率は…」
え!?って感じてみんなが注目する。
「1%未満だそうです」
カチャンッ!とハルカがフォークを落とす、大月も三原もショックを受けている様だ。
「だから、可能性で言ったら中学で会ったユキカと…」
ユキカを見ると目が泳ぎパスタに刺したフォークがずっとクルクル回っている。
あれ?ユキカって俺が初恋??
「高校で会った宿毛と…」
宿毛は完全に固まっている…、え?高校生で初恋??
「弘見せんぱ…」
なんか小声で1%未満…1%未満…と繰り返している…
え?え?、みんな俺が初恋!??
ど、どうしよう…この重い空気は…
「えっと…ユキカさん?どうした?」
「え?ショウタ、な…何?」
「何って…」
ダメだ、ユキカは俺が初恋の人だった。
宿毛は…こっちもダメだ高校生で初恋確定みたいだ。
弘見先輩は…ホントに俺?そう言えば俺が1年でサッカー部に入ってからマネージャーとして来た記憶がある。
「弘見先輩?」
「は、はい」
「先輩って俺の事好きだったんですか?」
「え!?」
真っ赤になる弘見先輩。
「え!」
「うそ…」
「リサさん!」
ユキカ、大月、三原、の視線が弘見先輩に向けられる。
たった今俺は弘見先輩がリッカだと確信した。
「ユキカも大変だな…」
何となく重い空気のまま水の楽園に向かう。
「ハルカ、アニメ的にはありなの?」
「みんながお兄様を好きな事ですか?」
「うん」
「ありです、でも…ハルカはお兄様の話を聞いて少し疑問に思ってしまいました…」
「そっか」
後ろを振り返るとユキカ達は随分後ろを歩いている、俺とハルカが先に行ってしまった様だ。
「少し待つか」
「はい」
「でも、ちょっと心配だな…」
「何がですかお兄様」
「ハルカも含めて誰も失恋経験が無いって事だよね」
「はい…、あ、でも幼馴染みのアカリさん達はユキカさんの時に…」
「そのはず…なんだけど…」
「?」
「諦めてたら、今さら好きとか言うかな…」
「失恋してませんね…」
「だろ」
ハルカが俺の前に立ち両手を合わせて見つめて来た。
「なに?」
「ハルカは…ハルカはお兄様に捨てられたら生きていけませんから」
そう言って笑顔になる。
「そう言う脅しを笑顔で言うなよ」
「あはは♪」
「兄貴とすれば、幸せな恋を見つけてほしいものだけどね」
「見つけてますよ♪今が、今までの人生で一番輝いてます♪」
このぶれない所、ユキカにも見習って欲しいもんだな…
「ハルカに比べたら、あの4人の心配の方は簡単に思えてきた…」
「えへへ♪お兄様はずっとハルカの事を心配してて下さいね♪」
「ごめん、待った?」
ユキカが言ってきた、何となくさっきまでの重い空気は無くなった感じがする。
「少しは回復したみたいだな」
「まぁ、今日は楽しもうって事になった」
宿毛たちが頷く。
「そっか、それじゃそれを記念してあれどうだ?」
俺はランド内の雑貨屋の方を指差す。
「買い物?」
「じゃなくて、隣の写真の方」
そこには、異世界コスプレ写真の文字と共にエルフや妖精にコスプレした写真があった。
「あ!行く行く!!」
「行きたい!」
宿毛とハルカが飛び付いた、もう種族と職業を決めながら走っている。
「じゃ、決まりかな」
「みんな早くー♪」
宿毛が呼んでいる、俺たちも写真館に走った。
中はフォトスタジオみたいになっており、コスプレした人が写真待ちをしている。
男女に別れて着付けコーナーに入る。
「ジョブチェンジなさいますか?」
ちょっとアラビアンな服装をした定員が聞いてきた。
「はい、えっと…」
「お兄さんはカッコいいからナイトとか戦士とか前衛装備が似合うと思いますよ、種族はそのままヒューマンかな」
「それでお願いします」
「分かりました♪」
カチャカチャと白銀の鎧を装備する。
鎧と言っても金属の光沢はあるがメチャメチャ軽い、前から来て背中のマジックテープを合わせる、レギンスも同じく前を当てて後で止める。
「兜はどうしますか?」
「えっと、装備しなくていいです」
「じゃ、コロネットにしましょう」
そう言って、ハチガネの様なものを額に付けられる、王冠らしいのだが…
盾と片手剣を渡され準備完了、装備に5分とかからなかった。
スタジオに移動しユキカたちを待つ、女性の着付けはかなり時間がかかる様だ。
暫くしたらハルカと大月が出てきた。
ハルカはプーリスト、白い生地に青で模様が書かれているローブを着てロッドを持っている。
大月は踊り子かな?さっきの定員の様なアラビアンナイトな洋服に、宝石で装飾された短剣を持っている。
「お兄様カッコいい♪」
ハルカが俺を見つけて走って来た。
「なんか、エドマチに行った時を思い出すな」
「ですね♪」
「江戸がどうしたって?」
大月がやってくる、下半身はぶかぶかのパンツだが、上半身は露出が高い…
「大月、思いきったな」
「ち、違うよショウタ、ここも肌じゃなく服だから!」
大月が照れながらお腹部分を引っ張る、確かに肌の様な布だ。
「二人ともなかなかいいよ」
「ありがとうございます♪」
「ショウタそれ、重くないの?」
「全然、冬場のコートより軽いかも」
「軽いんだ」
三原が出てきた、魔女の帽子と黒っぽいローブに杖を持ったウイッチだ。
少し耳が大きい、コビットかな?
「三原はウイッチか」
「ショウタさんどうですか?」
「似合ってる」
「ありがとう♪」
ユキカと弘見先輩が出てくる。
ユキカは黒髪から耳がでている、エルフの魔法剣士かな、鎧ではなく三銃士の装備と言えばいいのだろうか赤い服に少し鍔の広い帽子とレイビアを腰に下げている。
弘見先輩は、この前のリッカと同じ装備だ、露出の高い皮の鎧を来ており背中に両手剣を背負っている、猫耳や髪も変えておりミーヤ族の戦士だ。
「ちょっと恥ずかしいなぁ~ショウタ君どう?」
「エルフとミーヤか、いいね」
「ショウタありがとう♪」
「ショウタ君はナイトかぁ、それ動けるの~?」
「スゴく軽いから、走れるよ」
そう言って走るまねをする。
〉おお!
〉キャッ♪
〉スゴい完成度!
〉誰なの?
周りがざわめく、宿毛がエルフのコスプレで出てきた、髪も金髪にしておりメガネも外している。
宿毛アキと言うより、今はそのままエルフが実在すると錯覚するくらいのクオリティだ。
新緑の色の装備に白い魔法の文字が彫りこまれた弓を持っている。
「スゴいな…」
「まったく絵になる子だねぁ」
大月も呆れながら見ている。
宿毛が走ってくる、金髪がなびく。
「ショウタさんどうですか?」
「びっくりしてる、さすがプロだね」
「誉めてるんですかそれ?」
「誉めてるよ、スゴくいい」
「ありがとう♪」
俺は少し近づき小声で話した。
「見てみ、また親衛隊が出来そうだぞ」
「え?」
周りを見る宿毛、キャー目が合った等の歓声が上がる。
宿毛が無意識に笑顔で手を降るとさらに歓声が上がる、写真待ちの女性たちが集まって連れて行かれる。
「あれは職業病だね~」
弘見先輩が笑いながら言う。
「アキさん、みんなを虜にしてしまってますね」
「着付けのスタッフなんか、アキの時の気合いの入れ方が半端なかったからなぁ」
「宿毛だってバレたんじゃないか?」
俺はユキカに聞いた。
「たぶん、そうだと思う…」
「ご、ごめんなさい…」
そう言って俺の方に走り背中に隠れる宿毛、周りの俺への視線が冷たくなる。
「なんだろ…この負のオーラは…」
負のオーラに押されて少し下がってしまった。
「助けてよ!」
宿毛が言う。
「息苦しいほどのプレッシャーを感じてるのを分かって貰えますか…」
弘見先輩の目がまた光る。
「お!ショウタ君とうとうニュータイプに覚醒したんだね~」
「お兄様、素晴らしいです♪」
「ショウタさんはそうじゃないかと思っていました♪」
アニメ好きチームがまた何か言って来た。
「早く撮影にならないかなぁ…」
20分ほど待たされて、やっと自分達の出番になる。
宿毛にアタックをしていた女性たちは私服に着替え終わっても入り口周辺で見ている。
「とりあえずみんなで1枚撮るよ~」
俺を中心にみんなそれぞれの位置につく、ユキカとハルカが俺の前、宿毛と大月が俺の隣、三原と弘見先輩が斜め前に立つ。
「それじゃ撮りますよ」
カシャ!
それから一人一人の写真を撮った。
「ユキカ、ショウタと2ショット撮りなよ」
大月の提案で2ショット写真も撮る。
「ユキカさん、私も2ショットさせて下さい!」
ハルカがユキカにたのみ、ハルカとも撮ることになる…
「あの、私も…」
宿毛が言い、結局全員と撮ることになった。
「あのなぁ…」
「えっと…あはは…」
「ユキカの方が鈍感リア充主人公にピッタリじゃないか?」
「えっと、ここは夢と希望のパラダイスだから、みんなに楽しんでもらいたいって感じ…かな?」
「彼女のセリフじゃないなそれ…」
コスプレを脱ぎ、3Dシアターのマーメイドビュー3Dにダッシュで向かう。
とりあえず親衛隊(仮)はまいたようだ。
3Dゴーグルを付けマーメイドたちと海底散歩をする。
隣にはユキカが座った、くじ引きは止めたようだ。
それから、水上コースター“リバイアサン”に乗り、水の楽園内の水路を巡る“楽園クルージング”と続けて乗る。
未来都市に戻って室内ジェットコースター“異次元トリップ”と、体感型シアター“誰もいない星”に別れる。
今回は体感型シアターに行く、ユキカと宿毛、弘見先輩もこっちだ。
よくよく思い出してみるとリッカも高所恐怖症とか言ってた気がする、弘見先輩もジェットコースターダメなんだ。
誰もいない星は、人類が滅んだ後の世界を体感できる。
巨大隕石の激突から物語は始まり、あちこちの大地から噴煙が上がり、光の差さない極寒の星にな変わる。
全ての生物は死んだか見えた。
千年後、噴火活動は収まり大地に光が差し始める。
大地に緑が増え、海には生物が誕生する。
一万年後、大地にも生物が現れる、恐竜などではなく妖精の様な生物が。
そして…、エルフが誕生する。
そう言う進化もあると言う内容だった。
再度合流して、1時間待ちのFK7に再度並ぶ。
「これ終わったらポップコーンでも食べながらパレードの場所取りしようよ」
大月がデスティニーランド攻略本を見ながらパレードの道順を確認している。
「エルフの大樹が見える場所がいいみたいだね、この大樹も光輝くんだって」
「なんか楽しみがありすぎて困ってしまいますね」
三原の意見にみんなが頷く。
「いっそ泊まり込みで来たいね~デスティニーランドホテルには温泉もあるって聞いたよ~」
弘見先輩がチラチラ俺を見る。
「先輩、俺は男湯ですよ」
「え~、混浴行こうよ~」
「ここのホテルって、絶対に混浴は無いですよね!」
「あるよきっと、レナも行こうよ~」
三原の胸をチラ見する弘見先輩。
「また!なんですか!」
「先輩そのネタ止めませんか、そのうち本気で三原に嫌われますよ」
「ゴメン、ゴメン」
「みんなは泊まりで遊びに行ったりするんですか?」
宿毛が聞いてきた。
「さすがにないない、レナの家とか部活の友達の家に泊まるのはあるけど」
大月が手を降って無いを強調する。
「俺は中学の時サッカー部の合宿で泊まりがあったくらい」
「だね、ショウタ君の寝顔超可愛かった~♪」
え?今なんつった先輩…
「・・・、えーッ!!」
ユキカや宿毛が驚いて声を出す。
「先輩…何をやってるんですか…」
「見に行っただけだよ~、マネージャーはみんな見に行くって~」
「リ、リサさん…見ただけですよね」
ユキカが怒りモードに変わっているような気がする…
「見ただけですよね!」
俺は弘見先輩に釘を刺した。
「見ただけだよ~、でも夜は死んだように寝てたから、たぶん何をしても気付かないだろうけどね~」
キッと俺を見るユキカ。
「無理、あんだけシゴカれて走らされて、あれは寝てるんじゃなく気を失ってるんだから!」
「そう言えば、夜、女子バスケ部も来てたよね~」
はッと大月を見る、大月は中学時代バスケをやっていた。
ユキカの視線も大月に向く。
「え…えっと…、みんなが行こうって言うから…」
「おいおい…」
「見ただけ、見ただけだから!それに暗くてよく見えなかったし…」
見たんかい!
「嘘ですね、目の前に無防備で眠っているお兄様がいるのに、中学女子が何もしない訳がありません」
ハルカも怒りモードに変わっているような…
「ハルカ、見ただけって言ってるし」
「いえお兄様、少なくとも添い寝はしています、暗闇にまぎれてキスまでしてるかも知れません!私なら絶対にします!」
「してない!」
真っ赤になって否定する大月、瞬間ハルカの目が光る。
「先輩、今、目が泳ぎましたね」
「え?な、何の事かな~」
「暗くて見えないのに可愛いだなんて、先輩はお兄様に添い寝したんですか!」
「リサさん!」
「マジ!?」
「違う、近くで見ただけ添い寝はしてないから!」
「お兄様、合宿って何日間ですか?」
「え?えっと近くの中学と練習試合も含めて一週間くらい…」
「一週間も毎日お兄様と…なんて羨ましい」
羨ましいんだ…
「ハルカちゃん、なに言ってるの」
ユキカがハルカも睨む。
「ごめんなさいユキカさん、本音がポロッと出ちゃいました…」
ペロッと舌を出すハルカ。
「はぁ…もう時効でいいです…」
ユキカがため息をつく。
1時間以上待って、やっとFK7の登録コーナーに入る、チケットをかざすと朝作ったキャラが表示される。
俺はジョブを武闘家にし直す。
イベントブースに入るが今回は前が4人だったためユキカと俺、残りの5人に別れる。
リクライニングシートに座りイベントが開始される。
噴水の前、エルフのユキカを見つけ冒険を楽しむ。
ユキカはエルフィランデルが初めてなので「キレイ♪」とか言いながらはしゃいでいる。
4人の冒険者も初めてなのだろう大興奮な声が聞こえる。
フリーシア湖でオークを倒し、水の精霊王に会う、そして闇に吸い込まれる。
≪地獄の門≫
あれ?コキュートスは??
俺たちの前には黒い金属製の巨大な門の前にいる。
少し横には、宿毛たちのチームが出現した。
「ラスボスが複数いるみたいだな」
「これも人気の秘密かぁ」
ギギギッと門が開き巨大な魔物が進み出る。
「ケルベロス!」
黒く頭が3つある巨大犬がそれぞれの首で炎を吐く。
俺はガード体制でユキカを守る。
他の4人が炎を喰らう、ユキカが直ぐに回復魔法で戦士を回復した。
「ありがとう!」
「いえいえ」
HPがあまり減ってない俺たちのやり方を見たのだろう、戦士がガードの体制になりプーリストが回復を行う。
ケルベロスが宿毛のチームを攻撃する、俺たちは攻撃を開始した。
物理攻撃と炎の攻撃が繰り返されるが、堕天使の鬼畜な強さを体験した後だけに範囲攻撃の少ないケルベロスは容易に感じる。
ガブガブッとケルベロスが噛みつき放り上げる、ドサドサドサッと宿毛、大月、弘見先輩が天上から降ってくる。
「ユキカ!」
「分かってる!」
ユキカは下がって宿毛を回復する。
俺は大月と弘見先輩の前に立って防御をする。
回復した宿毛は元の位置に走る。
ケルベロスは向こう側のパーティもくわえて放り投げている。
俺たちへの攻撃が来たが、基本ガードでかわし耐えきる。
精霊王が降りてくる、俺たちはウンディーネの力でパワーアップし最後の攻撃を加える。
ケルベロスは3つの頭に3人のリミット技の同時攻撃をくらい消滅した。
「まさかラスボスが違うとは思わなかったな」
「私なんか吹っ飛ばされて死にかけてたよ~」
「私も宙に舞った♪」
「私はHP少ないキャラだったからかなり危なかった♪ユキカが回復してくれたの?」
「うん♪」
「前衛ってあんなに揺れるんだね、落下した時なんてシートから飛び出すかと思った♪」
「隕石の時もかなり弾んだぞ、そうだ大月は最後を決めた?」
「決めた決めた、あれは気持ちいい♪」
「だな!」
俺たちは飲み物とポップコーンを購入してパレードを見る場所を探す。
いい場所はデスティニーランドの達人たちに押さえられていたが、その横を陣取った。
俺以外は今日撮ったコスプレ写真で盛り上がっている。
エルフの大樹が夕日に照らされ紅くなる。
「夕日の色ってなんか幻想的だね」
「うん」
「そうだね~」
夕日が沈み、だんだん周りが暗くなる、道沿いの街灯に光が灯る。
ユキカが俺の左肩に寄りかかる、なんか花火大会を思い出すなぁ。
「パレードは何時からですか?」
「7時らしいよ」
「もう少しだね♪楽しみ~」
そう言いながらみんな何となく俺の近くに移動する。
夜風で少し寒いはずなんだが、みんなちょっと近すぎだー!
7時になり街灯にが消える。
ぼわっと、エルフの大樹が青い優しい光に包まれる。
あちこちで歓声が上がる。
静かな落ち着く音楽が流れはじめ、エルフ大行進が始まった。
大樹の下から整然と並んだエルフが足音を立てずに進み、中央にはエルフの女王が鎮座するフロート車が続く。
妖精達がクラシックバレエの様に踊り、宙を舞う妖精から金色の粉が舞い散る。
エルフ達が通り過ぎた後には、ドンッドド!ドンッ!!と激しい地鳴りの様な音楽が鳴り響く。
ドワーフの王を先頭に完全武装したドワーフの戦士が続く。
その後ろにはピッケルを担ぎ、大量の鉱石の入った荷台を引くドワーフ達が現れる。
一人は荷台から宝石を取り沿道の見物者に配っている。
「お兄様♪宝石を頂きました♪」
ハルカがルビーの様な石をもらい喜んでいる。
水の楽園からは、三ツ又の矛で魚人属の戦士とマーメイドの姫が通る。
「水をぶっかけられるらしいよ♪」
大月が言いみんなが慌てて俺の後ろに隠れる。
「おいおい…」
「ラスボスと対戦した時の陣形ですよお兄様♪」
「そうだね、ショウタさんガードよろしく♪」
海竜リバイアサンが登場し歓声があがる、が、噴水は無いみたいだ、ほんとはこいつが水をぶっかけるんだろうけど…
「夏だけ?なんじゃない、寒いし…」
みんなホッとし俺の後ろから離れる。
チュッ…
俺の右頬に柔らかい感触があった。
え?これって…
ユキカは俺の左隣に座った、残りはみんな右側にいる。
ハルカと三原が前に座り、宿毛が右隣に、大月と弘見先輩が後ろ側に座る。
次は何処かで聞いたRPGの様な音楽が流れ、勇者とその仲間達の冒険が動く舞台の様に見られる。
が、俺の頭の中はそれどころではない。
今のキス…だよな…
ユキカは左側にいた、位置的に無理だろうし、こんな場所ではしないだろう。
じゃあ、誰なんだ?
ハルカならキスしそう…でもハルカは堂々とするだろうし…
宿毛や三原は?…したいと思っても出来ないなきっと。
消去法で大月か弘見先輩…
スッと後ろをみる、二人とも夢中でパレードの勇者達がレベルアップしていくのを見ている、二人にそんな素振りはない。
宿毛にも三原にもハルカにもない…
気のせいか…?
誰かの指が当たったのか?
勇者はドラゴンと戦っている、炎を吹くドラゴンに一歩も引かず戦う。
最後はドラゴンに勝利し高々と伝説の剣を振り上げる勇者、剣先からの眩しい光が辺りを照らす。
最後にもう一度エルフの大行進が戻って来て大樹の中に帰っていく。
全てのエルフが大樹に帰りパレードは終わった、街灯に光が灯る。
エルフの大樹はそのまま神秘的な光を放っている。
「さて、帰りますか」
ユキカがみんなに言う。
「すっごく楽しかったです♪また誘って下さい♪」
ハルカがみんなにお辞儀をした。
「私もまた誘って、仕事休むから♪」
「仕事は休んじゃダメでしょ」
宿毛と大月が笑って話している。
「そうだね~、じゃ温泉旅行とか企画しようか~♪」
「リサさん、また言ってる」
「レナは行かないの?」
「い、行きますけど…」
「ショウタ、記念にみんなの写真撮って」
「了解」
俺はスマホをで写真を撮る、何枚かエルフの大樹をバックに撮った。
ちょっと疲れたのか一瞬ふらつく。
「大丈夫ショウタ?」
「え?あ、大丈夫!」
「お兄様?」
「写真撮ったぞ、どうだ」
みんなが俺の周りに集まる。
「いいね♪」
「大樹もいい感じに光ってる♪」
「送って下さい」
みんなワイワイ見ている。
「え?誰これ?」
写真の中に一枚、草原の様な場所で綺麗な女性を撮った写真があった。
「ん?いたっけこんな子?」
「ショウタが撮ったんでしょ?」
「うーん…覚えてないなぁ…」
大月が時計を見る。
「あー、とにかく大渋滞になる前に電車に乗ろうよ!」
「そうだね!」
「はーい」
俺たちはデスティニーランド駅に走った。
叶崎駅からの帰り道、ユキカと二人で歩く。
「なんか、変なデートになっちゃったな」
「ゴメンね、ショウタ…」
「まぁ、ユキカが楽しかったら良いけど、お礼の件も片付いたみたいだし」
「うん」
「今度は…」
「ん?」
「今度は二人で行こうな」
「うん♪」
今日一番の笑顔がそこにあった。