募る想い…
みんなの想いが絡まったまま、体育祭の季節になる。そしてあのキャラがリアルで登場。
■どうしたんだ?
「な、中村…、今日アキちゃんどうしたんだ?」
「わ、わからん…」
教室で清水と中村が話す、視線の先には朝からずっと不機嫌な宿毛アキがいる、あまりに近づくなオーラが激しく今日は誰も宿毛の席には近づかない。
清水越しに宿毛と目が合う
ムスッ!プイッ!
メチャメチャ可愛く不機嫌を表現する宿毛…
だが、なぜ俺に怒っている…?
「下川口!お前アキちゃんに何をした!」
清水が唸った。
「何もしてねえ!なぜいちいち俺のせいにする!」
「今、完全にお前に怒ってる表情だっただろ!」
「下川口…おまえはやはり死なねばわからんらしいな…」
このところ落ち着いていたが、またしても男子の死ね死ねオーラに晒される…
「どしたのアキ?」
大月が宿毛に近づき質問する、ちょっと楽しそうなのは気のせいか?
「別に何でも無いけど…」
目線を下げふくれたまま答える宿毛
「ならいいけど、もしかして下川口にフラれた?」(小声)
「な!」
「え?図星なの?」
「ち、違うそう言う意味のフラれたじゃなくて…」
「違う意味でフラれたんだ♪」
「何そんなに嬉しそうなの!」
「そりゃ、最強のライバルが脱落となれば頬も緩みますわな♪」
「違います!」
「後で聞いてみよー♪」
「もう…」
あれ?機嫌が悪いのは、まさか昨日俺達のパーティに入れなかった事か?
それが理由なら…まずい…
大月と宿毛のやり取りを耳を大きくして聞いていた清水が聞いてくる。
「今の話は、お前なのか下川口」
「また、裁判にかけねばな!」
中村も続く
「いやいや、違うだろー」
お前たちもはやくネトゲに入って、ギルド:サンセット親衛隊を作ってくれ!
あ、ますます宿毛が怒りだすか…
「ショウタ、ちょっと…」
ユキカが廊下からこっちに来いと呼んできた。
ユキカと屋上へ行く。
「昨日、アキちゃんを私達のパーティに入れなかったから不機嫌なのかな?」
「たぶん…」
「あぁ…アキちゃんパーティと一緒に行けば良かったかなぁ…」
「あっちのギルドマスターに怒られるって」
「うん…、最近は一緒にパーティしたりしてたんだよね…」
サンセットの事、教えない方が良かったかもしれないな…
「で?宿毛の機嫌を治す方法の相談?」
「…」
「マスターならともかく、ユキカは無理だよ、昨日の緊急クエスト知らないんだから、まぁ、アカリみたいにどうしたの?って聞くだけかな?」
教えてくれないだろうけど…
「うん…」
「話は変わるけど、大月ってどんなキャラだろうな」
「?」
「大月なら宿毛の相手が出来るかもしれない、ユキカと違ってFK7してるって言ってるし」
「そっか、アカリもいるんだ…」
「案外、近くにいるかもね」
「近く?」
「ブリザードとかハルカとか」
「そんな近く?」
「リッカは違うな、どっちかって言うと三原かな?」
「え?」
「あの小説の話ってFK7の話みたいだなってユキカと話しただろ」
「…」
「ハルカもアニメ化応援とか言ってたしね、同じアニメ好きで小説ネタの宝庫だから、内緒でやってるかも」
「ある…かも…」
「それにこの前言ってた俺を好きな5人なんか、ユキカがいないネトゲの世界、チャンスと思うんじゃないか?」
「なんか…怖くなってきた…」
「あのなぁ…ユキカが一番怖いだろ、ゲームなんて出来ませーんとか言ってそばで監視してるんだから」
「あ…」
「わかった?宿毛のゲームキャラの悩みをユキカが心配する事は出来ません」
「はい…」
納得したかは分からないが、とりあえず宿毛の機嫌を治すのは俺たちには出来ない、結論がないまま教室に帰る。
大月との会話は続いてる様だ。
「それはそうと、アキは体育祭の日はどうするの?」
「体育祭!楽しみ~♪」
なんか知らないが、宿毛の機嫌が治っている。うん、この件はアカリに頼むのが一番だな。
「え?出るの?」
「わたし、アカリほどじゃ無いけど運動神経抜群だよ、足も速いよ♪」
「ははは、そうなんだ…(どうしよう…)」
「ん?」
「ううん、何でも無い」
「いいですねアキさんは、私には悲しい季節がやって来たって感じです…」
「レナさんは体育祭が嫌いですか?」
「はい、とても…」
「大丈夫ですよ、一生懸命ならみんな応援してくれます!」
「生暖かい目でね…」
俺と分かれてユキカも話に加わった。
「ユキカもダメなの?」
「憂鬱です…」
「これでアキが脱落してくれたら体育祭は私の一人勝ちだったんだけどね」
「脱落しません!」
「またショウタの話なら、憂鬱がさらに深くなってくるんだけど…」
「あ…」
≪放課後のホームルーム≫
「それじゃ、体育祭の実行委員は下川口と大月でいいな」
意義なしの返答が聞こえる。
「それじゃ、実行委員の挨拶」
俺と大月はホームルームで体育祭の実行委員に選ばれた。
「頑張ります」
俺は一言で挨拶を終える、次は大月の挨拶だ。
「実行委員として、一つ言っておきたい事があります!」
なんだ?なんた?みんながざわつく。
「それは、宿毛アキは仕事関係で体育祭には参加しない、と言う事です」
「ちょっとアカリ!」
宿毛が立ち上がって抗議しようとしたが大月が手で止める。
「いいみんな、体育祭に行けば宿毛アキに会えるとしたら、どれだけの人数がこの学校に押し寄せると思う?たぶん体育祭なんて出来なくなるよ!」
それを言われると、みんな確かにその通りって顔になる…
「でも、アキちゃん可哀想なんだけど…」
ユキカがみんなを代表して言う。
「私もそう思ってるよ、でも宿毛アキって高校生は不参加です。代わりに大月アキナって私の姉妹が参加します」
全員あぁそう言う事かって顔になる、宿毛アキで参加しなきゃいいんだ。
「みんなは体育祭まで、宿毛アキは参加しないといい続けて下さい、それでも観戦人数が多かったり、関係者以外が多かったりした場合は、大月アキナは寂しく教室で観戦する事になります」
「いいですか、何度も言います、親や兄弟はもちろん、彼氏彼女や先輩後輩にも宿毛アキは当然不参加だといい続けて下さい、大月アキナの体育祭参加はクラス全員の演技力にかかっています」
「よしやろう!アキちゃんのために!」
清水が立ち上がり、みんなを代表して言った。
「清水君ありがとう♪」
宿毛の笑顔に爆死する清水。
「あと、アキは変装の準備かな?」
ホームルームが終わりみんな帰り支度をする。
「ごめんアカリ、なんか気を使わせちゃったね」
ホームルーム後、宿毛が大月の所に来て謝る。
「体育祭楽しみ~♪なんて言うんだもんびっくりしちゃった」
「我ながら状況判断が出来てない、と反省してます…」
「アキらしいけど」
「なんか手伝う事あったら言ってね」
「大丈夫、下川口を奴隷の様に働かすから」
「聞こえてるぞ」
「おっと、いけない♪」
「あはは」
「んで?競技とかの打ち合わせどうする?放課後とかか?」
「部活あるからなぁ…、そうだFK7内でしない?時間とか気にしなくていいし」
お?大月の方から誘いが来たか、丁度いいから大月のキャラを確認しよう。
「まぁ、良いけど」
「え?いいなぁ私も参加したい!」
「アキはダメだよ、って言うかアキのキャラを知ったら、私みんなにしゃべってしまいそうで怖い…」
おっとダメなんだ、大月はそう言うの気にしないと思ってた。
「えー、そんなのいいよ」
「ダメはダメ、下川口、後で時間と場所をラインするから来てね」
「俺のレベルで行ける場所にしてくれよ」
「いいなぁ…いいなぁ…」
宿毛がまたふくれる…、男子全員思っただろう… か、かわいい と…
大月からラインが送られてきた。
≫9時にエルフの町の噴水前で、私はコビット族の女の子だぞ
≫了解。ヒューマン、赤毛の男子、ドラゴン付き。
さてと、エルフィランデル城に向かうか。
俺は、ツバサでログインし港町ガバル行きの定期船に乗る、今日は何かイベントが発生しても無視しよう。
幽霊船のイベントは無かった。
ガバルからバジル砂漠を抜け王都まで一気に走る。
レベルが上がれば世界が広がる、今度は何処に旅立とうかと考えるのも最近は楽しくなってきた。
イベントの攻略本には興味ないんだが、世界地図は本屋で手を出しそうになる、あれは冒険心をくすぐる。
時間までフリーシア湖で釣りをする事にした。
釣りスキルのアップと、釣れた魚をシュートにトレードするとかなり喜ぶので、見ていて楽しい。
ちなみに料理したものはトレード出来ない。
そろそろ、時間なので噴水前に移動する、噴水前でドラコンを連れているのは俺だけだ。
とてとてとコビット族のお姫さまの様な子が走って来る…
あれ?あれはキャロラインじゃないか?
〉えっと、ここで待ち合わせしてますか?
〉体育祭関係の方と待ち合わせです。
たぶん大月だと思ったが間違えるとまずいのでそう返した。
「下川口?」
「おつかれ、大月には似合わないキャラだなぁ…」
うわ…、キャロって大月だったのかマスターに言ったら驚くだろうな。
「下川口は、なんかそっくりだね」
「知り合いに会うと恥ずかしいな…」
とりあえず、赤白の振り分けやら競技の選択、参加者の人選などを話し合う。
「ダンスとかは?」
「男女でのダンスはやめようぜ、宿毛に負担がかかりそうだし男子がその後使い物にならなくなる」
「たしかに…、んじゃ、ユキカ達が出られる借り物競争的な競技にしよう」
「最後はリレーの代表だね」
「男子リレーは俺が走ってもいいけど、陸上部の佐川や山田がいいだろうな明日話してみる」
「女子は私が走る!もう一人は…」
「宿毛にしよう」
「そうだね、リレーは最後の種目だし変装やめて出すか!」
「ひと走りで注目もハートもかっさらいそうだな」
「サプライズ!いいんじゃない♪」
「よし、だいたい決まったかな」
「だね♪」
こんな事ならラインとかでもよかったかな?
「さて、せっかくだから俺はナイトのイベントしてくる」
「私も行っていい?」
「いいけど、キャロラインはイベント発生するレベルか?」
「大丈夫、兄貴のノーパソかっさらって休みには友達とけっこう狩りしてるし、このゲームじゃ私の方が先輩だからね♪」
「そっか」
「じゃ、行ってみよう♪」
城門は開かれた、どうやら2人同時にイベント発生するらしい。
「よし、北の大洞窟に行こう」
「下川口、詳しいね」
「キャロラインさん、私はツバサですよ」
「あ、ごめんごめん」
「さ、行こうか」
俺たちは北の大洞窟でゴブリン探しを始めた。
「ツバサはこの辺が拠点?」
「いや、生まれはハイランド。キャロラインに呼ばれなかったら、まだこっちには来てなかったかも」
「そっか、アキは見つけた?」
おっと…どう返答しよう…
「見つかんないな、既にユキカも見つける気は無いみたいだし…」
「まぁ、本人目の前にいるからね」
「だな」
「まあ、ツバサみたいに見た目を本人に似せてるなんてないだろうし(笑)」
「お前は可愛く作りすぎだな」
「お?惚れたか?とうとう私に惚れたのか!」
「ほんと、その性格じゃなければとっくに惚れてたかもな」
「え…」
あれ?今、松明のとこ揺れたか?
「キャロ!ディスペル!!」
「へ?」
「はやく!ディスペル唱えて!」
「は、はい!」
この空間に満ちた魔法力よ、すべて消え去れ!ディスペル!!
ぼわッ とゴブリンが姿を現す。
「ビンゴ!」
俺とシュートはゴブリンに襲いかかる、キャロは電撃の魔法サンダーボルトで攻撃を加える。
キャロの電撃でマヒ、シュートのコールドブレスで硬直、俺の槍での連続突きでゴブリン魔法を唱える時間を与えない作戦、ほとんど無傷でゴブリンを倒した。
「よし!」
「やった♪」
二人で王宮に戻り、謁見の間でナイトの称号を得る。
おや?あの騎士団長ここにいたのか…
今はツバサだが、ショウタなら殴ってやりたいとこだな…
「お疲れ」
「うん、ありがとう、ナイト使ってみようかな?」
「キャロラインはお姫様みたいな容姿だからな、意外に似合うかも」
「だね、それでさっきの話なんだけど…」
「ん?」
「ほら、さっき洞窟の中で言った…」
え?俺、何か言ったか?
〉キャロ~こんばんは♪
〉あ、ネージュさん、ばんわ♪
おっとマスター登場、俺に気づくか?
むしろその子は大月だぞ気づいてるか?
〉あれ?パーティ中だった?
〉あ、ツバサとナイトのイベントクリアしてました。
〉こんばんは
〉ギルドマスターのネージュです、よろしく♪
〉ツバサです、よろしく。
〉二人はお知り合い?
〉ですね、それはもう深い仲で♪
〉おい!
〉あはは、羨ましい♪
複雑だ…、やっばりネトゲは相手が誰かわからない方がいいかも…
〉そうだキャロ、新しいマップに行けるんだけど時間があるなら行ってみる?
〉行く行く!ツバサも行こう!
〉バージョンアップで追加されたとこですか?俺らも行けるの?
〉たぶんね♪
〉それじゃ。よろしくお願いします
〉うん、行こう!
フリーシア湖へ
「え?こんな近くから新マップにいけんの?」
「誰でも行ける訳じゃないけどね」
「ネージュさんて、実は凄い人なんですか?」
「違う違う、凄いのはギルメン、私はオマケみたいなイベントで能力が追加されたんだ」
「えっと、俺、レベルの高い危険な場所じゃあまり役に立てないと思うんだけど…」
「大丈夫、スゴく綺麗な場所だから」
精霊界への光のゲート前に来た、あれ?このあたりに光の輪があるはずなんだけど見えない…
「そこの光の輪が見える?そこに飛び込んで!」
「オッケー!」
「え?そこって?」
二人は飛び込み精霊界へ行った、俺の目の前は、ただの水辺で光のゲートはない。
「おいてけぼり…か…」
しばらくして大月からラインが届く。
≫下川口、どうした?
≫なんか、俺は行けないっぽい…
≫そうなの?
≫ギルドのメンバーじゃないとダメって感じかな?
≫残念…
≫ま、楽しんできて。マスターの人に謝っといて。
≫了解です。
さてとどうしょう?
ナイトのレベル上げもいいけど、シュートが可愛くてジョブチェンジ出来ないなぁ。
俺はサンセットが座っていた付近に座る、シュートも隣で丸まり眠りだした。
あれ?フィールドのBGMってこんなのだったっけ?
何か懐かしい音楽がかかっている…
あ、向こうのパーティから聞こえてくるのか…って事はあれが音楽家…
そうか、音楽家はFKシリーズの音楽が演奏出来るんだな。
これはたしかFK5のオペラだったな…セリフを間違えないように台本をメモったっけ…
不思議だな…小学生の頃なのに覚えてるもんだなぁ…
〉愛しい貴方は遠い所へ…
〉色褪せぬ永久の愛、誓ったばかりに
〉悲しい時にも辛い時にも…
〉空に降るあの星をあなたと思い
〉望まぬ契りを交わすのですか?
〉どうすれば、ねえあなた、言葉を待つ…
〉♪
〉ありがとう、私の愛する人よ
〉一度でもこの思い揺れた私に…
〉静かに優しく答えてくれて
〉いつまでも、いつまでも、あなたを待つ…
こんな感じだったかな?
あ、向こうの音楽家が手を降っている、あそこまで聞こえたのか…
「あ、あの今の歌は?」
「ん?」
振り向いたらそこにサンセットが立っていた。
えっ?、待て待て今はツバサだ普通に会話しないと。
「あ…」
「この歌はFK5だったかな?のオペラのイベントで使われた歌です、懐かしくて思わず…」
あれ?サンセット固まってる…?
「えっと、どうしたの?」
返事がない…パソコントラブってるのかな?
「ゴメンなさい…ちょっと待って下さい」
「はい」
なんか、調子がおかしいそう、それより宿毛はFK5とか知ってるんだろうか…FK7以外は知らないと思ってたのに…
「ゴメンなさい、なんかスゴくいい歌で涙が出ちゃいました…」
「恋人が亡くなったと知らされて、それでも忘れられないお姫様の話だったかな?イベントクリアに必要だったから歌詞を丸暗記してたんだけど、音楽家の演奏で思い出しちゃいました」
「ゴメンなさい、邪魔しちゃったみたいですね」
「あはは、君はゴメンばっかりだな、ツバサですよろしく」
「サンセットです」
「この歌詞、知ってましたか?」
「ええ、ゲームは知らないんですが、知り合いが何度もその場面を見せてくれたのを思い出しました…」
「そっか、俺もイベント前にセーブして何度も見たっけ」
宿毛のお兄さんはゲーム好きなのかな?
「えっと、ツバサさんはここで何をしてるんですか?」
「ツバサでいいですよ、知り合いの知り合いが新マップに行こう言われ、ここへ来たんだけど、俺は行けないみたいなんだ」
「行きましょう、私たちも新マップに行く予定だったので、私が連れて行きます!」
「え?でも、なんか制限があるみたいだし…」
「大丈夫全部調べてあります。ちょっと待って下さい、すぐに仲間が来ますので♪」
「うん…」
「あの…そのキャラって誰かに似せたんですか?」
あっ、そうかお兄さんに似てるんだったな…
「え?なんで?」
「今からギルメンが来るんだけど、びっくりすると思うから(笑)」
暫くするとミーヤ族の♂キャラとヒューマンの女性が走ってきた、緊急クエストの時にサンセットといたメンバーだ。
「お待たせサンセット♪こん」
「お!?」
俺を見るなり二人が固まる…
「ハルト!?」
ヒューマンの女性が飛び付いてきた。
「バカ野郎、今まで何してやがった!!心配したんだぞ!」
「ちょっとサンセット、これは何?」
俺はサンセットに助けを求める…
「オウガ、カチュア、違うの似てるだけなの」
「へ?」
「マジか!」
「こ、こんにちは…」
「うそ!似すぎでしょ!」
「から喜びだったのか…」
「えっと…ツバサって言います」
「実は、私もさっき嬉しくて泣いてたんだ…」
「だよね、サンセットなんか妹みたいに可愛がられてたもんね」
「なんか…申し訳ない…」
ショウタに似ないように赤髪にしたらそっちが似てたか…
「がっはっは、この場所に赤髪のその顔でくるのが悪い!」
「この場所?」
「ここはギルド“スカイブルー”が発足した場所なんです、ギルドマスターはハルト…」
「そうだったんですか、そのハルトさんは?」
「1年前から音信不通なんだ…」
「そうですか…」
「しかしなんだ、初期メンバーの3人と、ハルトの妹がそろったみたいでなんか嬉しいな!」
「うん♪」
「だね♪」
「オウガ、お兄ちゃんにギルドカードを渡して」
「おうよ」
俺はこっちのギルドに入る事になった様だ…
「マックス達も驚くだろうね♪」
「お前、ホントにハルトじゃないのか?中身はハルトでしたって落ちはないのか?」
「残念ながら…」
「ぷッ、お兄ちゃんだ(笑)」
「ホントにチャットも似てる♪」
「だな、ナイトのイベントはクリアしたか?」
「さっき新マップに行ったフレとクリアしたけど?」
「ハルトがナイト装備なら完璧だけどね」
「名前はツバ…もういいです…」
「お兄ちゃんもナイトばかりじゃ退屈だって、ドラゴンナイト格好いいよ♪」
「ありがと」
「よし、ハルト新世界に向かおうか!」
「いくよ、お兄ちゃん光の輪が見える?」
「あ、今回は見える!」
「よし、ハルトGO!!」
俺は光の輪に飛び込んだ、精霊界に向かって。
精霊界に再び降り立つ、ツバサは初めてだから、なんかコメントしなきゃ…
「なんか、綺麗だけど何もない場所なんだね」
「ここは精霊王の神殿前ですね、精霊なのに神殿ってちょっと変ですが、なんかしっくりくるのでみんな神殿って呼んでます」
俺は後ろを振り向く。
「お?この透明なのがそう?」
「おうよ」
「まだ朝だし、ここはまた後で。」
「さぁお兄ちゃん冒険に出発だ!」
マスター達はいないかな?俺は周りや遠くの森を確認した。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「うん、先に行ったフレがいないかなって思って…あ、あれかも?」
西の森付近で2人が森を見ているのが分かる。
「ここの神殿なら、私の知り合いかも?お兄ちゃん行ってみよう♪」
「行こう」
「なんか、自然にお兄ちゃん言われてるけど、ハルト大丈夫?」
大丈夫って言われても…
「カチュアさん達には自然にハルトと呼ばれてますから(笑)」
「あ、そうだね…ははは♪」
マスターとキャロラインに向かって走って行く、二人は森に夢中でまだこちらに気付いていない。
突然、近くの森で土煙が上がる、マスター達は慌てて逃げ出した!
「あれ、ヤバイんじゃない?」
「え?」
「とにかく、急ぐぞ!戦闘準備!!」
「了解」
森から飛び出したもの、それは巨大なワニに似た怪物だった。
キャロラインが攻撃を受ける、いや、マスターが攻撃を防いだみたいだ。
「サンセット!」
「オッケー!」
サンセットが止まり弓を構えた!
え?ここから届くの?
「来たれ長弓!」
サンセットの弓が光り身長ほどの長さの弓に変化した。
矢を少し下げ距離を確認する。
「唸れ白銀の矢!!」
長弓から銀色の矢が一直線に飛び、巨大ワニに突き刺さる!!
「サンセット、すげー!」
「イエイ!」
巨大ワニは攻撃ターゲットをサンセットに切り替えた、目を赤くし怒りながらこっちに向かって来る。
「オウガ、よろしく」
「おうよ!」
オウガが挑発、攻撃ターゲットを自分に向け、正面から拳で殴りかかる!
俺も側面に回り槍とシュートのブレスで攻撃で応戦、サンセットとカチュアは魔法と遠距離攻撃と回復。
マスターとキャロラインも到着して後方から攻撃を加える。
ほどなく、巨大ワニの討伐に成功した…
〉ありがとうございます、助かりました
〉あ、やっぱりネージュだ(笑)
〉サンセットだったの、ありがとう♪
〉大丈夫かキャロ、さすがは新マップ危ない場所だなぁ
〉ツバサ来てくれたんだね、あいつ見た時はホント死ぬかと思ったよ…
〉キャロ、ごめん前回来た時にはあんな化物いなかったんだ…
たしかに、レアな敵なのかな?
〉え?そうなの?
〉神殿は先に探すし、強敵には遭遇しないし、お前たちどこまで運がいいんだ?俺達はあの森で、恐竜クラスの敵に5~6回襲われたぞ、なぁ
〉そだね、かなりビビったね…
そうなんだ、俺たちのパーティだったらヤバかったかも…ま、ブリザードがいたからなんとかなったかな?
〉あ~ぁ、やっぱネージュのギルドに参加すれば良かった…
〉おーい!サンセットー(汗)
〉あははは♪
〉緊急クエスト以来だな、オウガっていいます、よろしく
〉ネージュです、ありがとうございました
〉キャロラインです
〉私はカチュア
〉えっと、キャロラインさんは初めてですね、サンセットです
〉あ、キャロでいいですよ
〉俺は、みんな知ってるかな?
〉あれ?ショウタは?
〉今日は、ショウタはいないかな
〉え?じゃあ、どうやってここへ?
マスターが左手の紋章をみんなに見せる。
〉神殿の中のイベントで、なぜか私が紋章を頂いた
〉え?そんなイベントあるんですか?
〉まさかイベントをスルーしてたのか!
〉ギルメンの話じゃ幸運スキルが関係してるみたい
〉うちは、サンセット以外は幸運スキルが低いって事なのね…
〉襲われた回数みてもそうだな…
〉で?お兄ちゃんの知り合いはネージュ?
〉いいやキャロの方
〉え?お兄ちゃんって?
キャロがキョトンとしている「下川口に妹?」って大月本人は思ってるんだろう。
〉えっと、話せば長くなる…
〉細かい事は気にするな、まぁハルトを含め6人になった事だし、少し冒険に行かないか?
〉ん?ハルトって誰?
今度はマスターが疑問に思う。
〉えっと、話せば長くなる…
〉がははは!
〉あはは♪
〉ん?
俺たちは、1時間だけ冒険する事となった、神殿の東側に向かう。
サンセットは俺のとなりで、ハルトお兄ちゃんの事を色々教えてくれる、オウガやカチュアも懐かしく聞いてる感じだ。
なんか宿毛と知ってるだけにお兄ちゃんの話しは聞いておこう。
マスターとキャロはそんな俺たちを不思議な感じて見ている。
西側と同じように深い森はあったが直ぐに抜ける、そこには浮遊島が複数浮かぶ不思議な場所だった。
「島が浮いてますね…」
「下が見えない…断崖絶壁だね」
「落ちたら死にそう…」
「ツバサ、あれってつり橋じゃない?」
キャロラインが指した方に、一番近い浮遊島までつり橋が架けられていた。
「行ってみよう」
つり橋の手前まで移動する、木の板とロープで作られてる簡単なつり橋、リアルで出会ったら決して渡らないだろう。
「冒険心をくすぐりますね♪」
「行こうぜ」
オウガが先頭で橋を渡る、カチュア、ネージュ、キャロラインと続けて渡る。
「俺が最後に渡るから」
サンセットが先に行くように言ったんだが、動かない。
みんなは先に行っている、オウガなんかは途中から走り出した。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃん…怖い…」
「え?何が?」
「渡るのが怖い(涙)」
「…え?まさか高所恐怖症って言うキャラ設定?」
「設定じゃなくホントに怖いの!」
「でもゲームだし、本物じゃないし、落ちても本人痛くも痒くも無いし」
「分かってるよ(涙)」
「泣くなよ…」
俺が運ぶしか無いのね…、幽霊船の時は船の先端に立って戦ってたのに…
「じゃ、抱き付いといて運んでやるから」
「うん♪」
サンセットに抱きつかせ、つり橋を移動する、これなら宿毛は目をつぶっているから平気だろう、シュートは飛んでついてきている。
しかし、宿毛って高所恐怖症だったんだ。
サンセットを抱いたまま渡っている俺を、渡り終えたみんなは呆れながら待っていた。
「えっと、サンセットついたよ」
「ありがとう…」
「何やってんだお前ら?」
「だって、怖いんだもん…」
「だそうです」
「相変わらずお前はハルトに甘えるなぁ…」
「いいじゃん妹なんだから、あんまり言うとネージュのギルドに移籍するからね!」
「はいはい」
「キャロ、ツバサさんあんなになってるけど大丈夫?」
「ちょっと複雑…」
「だよね…いくらゲームでもね…」
「え、えーと」
「ツバサって一途な奴かと思ってたのに、案外女ったらし?」
「ち、違うだろ!運んであげただけだし!」
「どうだか、可愛い子に抱き付かれて喜んでるんじゃないの」
「キャラだから、ゲームだから!」
「サンセットは男を魅了しますからねぇ、昔チャームの魔法を使ってると話題になって、それが原因でウィッチにジョブチェンしなかったくらいだから」
「ちょっとカチュア!」
「わかるぞハルト!守ってやりたい気になるんだよな!」
「おいおい」
「うわ~、私の知り合いにもいるよサンセットみたいな魔性の子、ツバサだけはそんな魔法にかからないと思ってたのに…」
「魔性って言わないで!」
「キャロ、ちょっと来い!」
俺は、キャロラインを連れてちょっと離れた場所に行き2人だけで話した。
「お前、リアルの話を出す気か!」
「あれぜーーったいアキだって、間違いない」
大月、鋭い…
「マジか!?」
「私にはわかる、もうキャラ見た時からピーンっと来た!」
「宿毛のファンかも、いわゆる偽アキってやつ?」
「いや、キャラの顔が似てるのは些細な事、チャットと言うか雰囲気と言うか、ともかく学校で会ってるアキだって」
大月…その通りなんだが…
「お前のギルドマスターの知り合いらしいじゃないか」
「ネージュとかは気付いてない、と言うか普段のアキを知ってないと分からないって、近くで色々話してる私だから分かったんだから」
ネージュは知ってるんだけど…俺が教えたから…
「それでも、確認しようがないんだから余計な事言うなよ!」
「わかってる、ふふふ楽しくなって来た♪」
「その可愛いキャラで闇を出すな!」
みんなの場所に戻り冒険を再開する。
今は雲の中のにいる様で少し視界が悪い、周りが見えない訳ではないので、とりあえず浮遊島の端を目指す。
「キャロ、ツバサさんと喧嘩になってないよね…」
「喧嘩になるに決まってるじゃん、これが終わったら朝まで説教タイムです!」
「なに!?朝までだとーーッ!ハルトいつの間に嫁持ちになったんだ!」
「ちがう!」
「ええッ?深い仲ってそう言う意味?」
「深い仲の人が出来たのハルト…(涙)」
「お兄ちゃん…(悲)」
「仕方ないなぁ、朝までギューってしてくれたら許してあげよう」
「ちがーう!!キャロ、おまえいい加減にしろよ!世界の果てに捨ててくるぞ!」
「あはは♪でも、ツバサはあなた達には渡しません!」
「む!」
「!」
「おお!?カチュアとサンセットにケンカ売りやがった!」
大月、やり過ぎだぁぁぁ!
ススッとネージュが3人の間に入る。
「帰る事を考えたら、そろそろ1時間だね、今日はこの辺にしない?」
仲裁しているのか、ナイスだユキカ!
「そうだね、そうしよ…」
強い風が吹き、雲が晴れた…
浮遊島の端に近い場所から見えたのは、数個の浮遊島と巨大な浮遊島、そして巨大な木だった。
「うわーすごいね」
「世界樹…でしょうか?」
「ですね」
「世界樹…」
「うぉぉぉおッ!燃えてきたぁ!ギルメン集めて攻略だぁ!!」
「え?今から??」
「とりあえず、今は帰りませんか?」
「あ…そうだな、帰るか!」
「オウガ、忘れてるかも知れないけど、私がいないとこっちに来れないからね、ちなみに私は今日は寝ます」
「さ、サンセット…」
「みんなして、ネージュのギルドに移籍すればいいじゃん、あっちは紋章持ち2人もいるんだから!」
「…ハルト、なんでサンセットは機嫌悪くなったんだ?」
「いや、俺には何とも…」
帰りも俺がサンセットを抱えてつり橋を渡る。
特に敵も出ず、神殿まで一気に走った。
光の輪に飛び込み、フリーシア湖に移動する。
「なんかいろいろあったが、とりあえず今日は、おつかれ!」
「お疲れさま、ハルトには神殿の中見せたかったけど、また今度ね」
「了解、お疲れでした」
「今日はありがとうございました」
「おつかれー」
「お兄ちゃん、またね…」
「またな、サンセット」
全員ログアウトした、大月が宿毛に何かするか心配だが、今日は寝よう…
翌日…
宿毛は遅刻ギリギリに登校してきた。
昨日に増して話しかけないでオーラが凄まじいが、今日は怒ってると言うより泣いてる感じだ。
「な、中村…、今日もアキちゃんどうしたんだ?」
「わからん、わからんが下川口のせいに違いない!」
清水と中村が俺を睨む。
「知らないって!」
宿毛は授業以外は寝ている、と言うより顔を見られたく無いのか伏せっている。
「アキ、今日はまたどうしたの?」
昼休み、大月が元気のない宿毛に話しかけた。
一瞬顔を上げたが直ぐに伏せる。
「何が?」
「その『最愛の人にやっと会えて幸せの絶頂で、訳の分からない泥棒猫に最愛の人を奪われて心身とも奈落に落ちてしまった』って表情は?」
「な!」
大月…お前って奴は…
「え?」
心配して大月と一緒に宿毛のとこに来たユキカもびっくりしている。
そう大月はキャロラインなんだぞ
「なに昨日から変な事言って!、それにその事細かい分析もなに!?」
「だって、アキの顔にそう書いてるし、昨日の不機嫌といいスーパーアイドルがその表情はダメだねぇ」
「別にいいもん、もともとこんな顔です!」
ちょっと元気を取り戻したのか、少し怒ったのか、宿毛は起き上がり膨れる。
「えっと、アキ…私なんか地雷踏んでる?」
「べ、別に…」
「ふうん、まぁ元気出しなよ」
「元気だって!」
怒った宿毛をかわし、大月が俺の所に来る。
「下川口、今日もFKで打合せする?」
「そうだな、今日は種目のメンバー決定しようか、男子リレーの選手は陸上の二人にOKもらったし」
「了解♪」
大月がさらに近づいてきた。
「絶対あの子、アキだって(小声)」
知ってるって…
「たしかに疑わしいけど、まぁゲームくらいであんなに落ち込むかなぁ…」
ユキカが宿毛と話している、地雷を踏まなきゃいいが…
「そうだ、アキ~」
大月が宿毛の所に帰る。
「なに?」
「そんなムスッとした顔しないでよ、下川口が心配するぞ~」
「別にショウタさんは関係ないし…」
「でも、昨日のは関係あったんでしょ?」
「ち、違います!」
「ちなみに下川口に心配されると、問題が解決するまで、ねちねちねちねち付きまとわれるからね」
「俺を妖怪みたいに言うな」
「あはは♪」
「なに?」
「ん?」
「今、『そうだアキ~』って言ったでしょ」
「えっと、何だっけ?」
「あのねぇ…」
「そうだ、下川口のキャラ知りたい?教えてあげようか?あ、ユキカも知ってんだっけ?」
「え?ユキカ始めたの?」
「違う、違う、ショウタの家で見ただけ…」
「いいなぁ…、ショウタさんの部屋に行ってるんだ…」
「あ、それは…」
あからさまに赤くなるユキカ
「下川口の部屋なら私も一人で行ったよ夏休みに、これは幼馴染みの特権だね♪」
「えええッ!」
立ち上がり俺を見る宿毛。
「おい!あれはそんなんじゃ!」
「行ったよね♪」
大月がウィンクしてくる。
「ユキカ、怒らないの?」
「怒ってるよー」
「え、えーと…ははは…」
ヤバイ変な誤解を解かなきゃ…
「おい違うだろ、勉強してただけで、すぐにユキカも三原も家に来たし」
「そだっけ?」
「大月…お前はこの状況をどうしたいんだ…」
「特に考えて無い…」
こ、こいつは…
「わかった、お前の勉強は二度と見ない」
「え!し、下川口、いやショウタ様それだけは勘弁して下さい!」
「いや、ダメだ!」
「そんなぁ…」
ユキカを助けてと言う目で見る。
「知りません」
「いいなぁ…勉強会…」
宿毛がぽつりと言った。大月の目が光る!
「でしょ!中間テストの時、アキも参加しよう!下川口の家に集合だ!」
「いいの?♪」
「ダメだろ!」
「ホント勉強になるよ~、学年2トップのユキカとレナがいるのはもちろんだけど、下川口の教え方はなんかクイズみたいで楽しいし♪」
「そうなんだぁ~♪」
「おい!俺の話を聞け!それに宿毛はアイドルって忘れてないか!」
「父親がきびしいんです!、学校の成績が悪いとアイドルの仕事を辞めさせられるんです!私にはとても重要な問題なんです!」
「うッ…」
「で?で?アキってどのくらい勉強ができるの?」
「中学の時はだいたい学年の上位をキープしてて、高校は転校を決めてたから、この学校の中間がホントの本番」
「アキってけっこう頭いいんだ…」
「高校は別だよ…」
「かもな…」
「転校して一人暮らししてるし、絶対に成績落とせないの…」
「そっか…」
宿毛が必死なのは分かったが、これはユキカと三原に頼むしかない。
「どうしたんだ? 元気ないのはそれ?」
あれ?いつの間にかユキカがいない…
あれ?大月も…
「…大切な人に…彼女がいた…(小声)」
「え?」
あッ、と口を押さえる宿毛、顔が真っ赤になる、思わず本音を言っちゃったんだろう。
俺の方も予想はしてたけどまさか言うとは思っていなかった、なんて答えていいか分からない…
突然、背中に柔らかい物があたる、そして優しく俺の首に手がまわり、そして…
がっちりとスリーパーホールド!!
「ぐ…」
「しーもーかーわーぐーちー、私の授業中に女子をナンパしてるとはいい度胸だな、死にたいのか?」
小筑紫先生が首締め上げてくる。
ユキカも大月もいつの間にか席についている、ユキカは『ゴメン』って言ってるようだ、大月は横を向き口笛を吹くまねをしている。
宿毛は真っ赤なまま下を向いている…
「こ、小筑紫先生!ギブ!ギブーッ!!」
放課後…
「ショウタ…ゴメンね」
ユキカが謝ってきた。
「いやいや三崎ちゃん、小筑紫先生の抱擁なんて天にも昇るご褒美だよ~」
俺の横を通りすぎながら清水がからかってきた。
「本当に天に召されそうだったけどな!!」
「じゃ、今日は仕事があるから先に帰るね…」
宿毛が大月達に言い、スタスタと教室を出る、俺の方は見てくれなかった…
「アキちゃん大丈夫なのかな…」
「学校、仕事、宿題にネトゲ、けっこう大変かもな」
「勉強会、誘ってみようかな…」
「俺の家はダメだぞ!」
「分かってるよ~」
「下川口いるか?」
小筑紫先生が教室に入って来た。
「はい」
「おういたな、ちょっと職員室に顔を出せ」
「え?」
小筑紫先生のメガネが光る
「顔を出せ」
「は、はい!」
「ちょうどいい、嫁も連れてこい」
嫁って…、ユキカに視線をおくる。
「返事!」
「はい、すぐに行きます!」
≪職員室…≫
「お前たちは宿毛と仲はいいのか?」
「えっと、はい仲はいいと思います」
「どっちかと言えば大月が一番だと思うんですが…」
「大月はダメだ、あいつは勉強が出来ない」
「?、先生?なんの相談でしょうか?」
「相談じゃなく命令だ、宿毛の勉強を2人で見てやれ」
「え?」
「ちょっと、ユキカはともかく俺はまずいって!」
「なんだ下川口、お前は嫁が隣にいるのに浮気するようなクズ野郎なのか?」
嫁って…、ユキカさんちょっと嬉しそうにするのは止めて下さい。
「違いますよ!」
「じゃあ、問題ない」
「先生、実は俺、転校前に宿毛と知り合ってて、それで宿毛は俺に親しく話しかけて来たんだけど、先輩方がそれを気に入らないらしくって…」
「分かった、その件は今日中に片付ける」
「え?」
「他に問題は?」
え?的な感じなんだが小筑紫先生なら片付けるかも…
「…無いです」
「私も…」
「よろしい、やり方は2人に任す」
職員室を出てユキカと同時にため息を付く…
「相変わらず強引だな、小筑紫先生」
「どっちみち教えるつもりだったからいいけど…」
「図書室あたりか…な?」
「休日は私の家?アキちゃん仕事かな?」
「ユキカの家か…」
「ん?」
「いや、ほらユキカのおふくろさん…ちょっと苦手で…」
「あ、そうだね、その日は外出してもらう」
「ありがと…」
「仕事が無い休日か…レナにも相談するね」
「そうだな、そうそうゲームは隠しとけよ」
「わかった」
「宿毛にはゲームで会えたら俺が言っとく」
「おねがいします」
■宿毛アキ
「あーもう!私ってば何言っちゃったの!!」
ベットに転がりコビット族のぬいぐるみに抱きつく。
今日は仕事の無い日、本当だったらみんなと帰りたかったんだけど、お昼にショウタさんに言った一言が恥ずかしくて逃げてしまった…
『どうしたんだ?』
ズルいよショウタさん、お兄ちゃんそっくりの顔でそれを言うのは、反則だよ…
なんか、リアルのショウタに逢いたくて勢いで転校しちゃったけど…
バカ!、ショウタに彼女がいるって事は分かってたじゃないか!
あのフリーシア湖での運命の出会い、彼女とチャットで喧嘩になって…あれ?あれはユキカって事か、喧嘩しながら『あ、この人もゲームしてる』って思ったんだっけ…
噴水のある叶崎公園…調べたなぁ…
ショウタの近くにはネージュ、リッカ、ブリザードがいて全部“雪”に関連するから名前にユキの付く女の子だろうと…
学年トップ、遅くまでネトゲをやってるから中学生や高校3年は外したっけ…
ショウタが同い年くらいって感じもあったし…
はぁ…、私ってなに必死に調べたり推理したりしてたんだろう…
この前まで、ゲームのショウタとショウタさんが同一人物だったら、なんて考えてた…
ホントにショウタだ!って気づいた時は嬉しかったなぁ…
私はショウタさんを奪う気なの?
アカリに最初に指摘されたなそれ…
お兄ちゃんに会いたいだけ?それとも好きになってほしい?
予想以上にショウタさんモテるからなぁ、お兄ちゃんもかなりモテてたから、あれは顔じゃなく性格だろうな。
優しかったもんなぁ、でもみんなに優しいのは嫌だった、私だけに優しくしてくれればいいのにって…子供だな私…
どんなに頑張っても私は妹だし…好きになってもらっても彼女にはなれないし…
あれ?…ショウタさんはお兄ちゃんじゃないからいいのか。
ギューっとコビット族の人形を抱きしめる。
プールで抱きついた時の感触…、お兄ちゃんとおなじスポーツマンだった。
抱きついた…とき?
うわー思い出しちゃった超恥ずかしいー!!
昨日のゲームのお兄ちゃんは誰だろう…あんな事があったからショウタさんに思わす言っちゃったんじゃない!
あのコビットの子…ホントに彼女なのかな?一緒にいるって言ってたけど…
よくよく思い出すと違うって怒ってたかも…
まてよ、もしかして妹?
妹がお兄ちゃんを取られまいと必死だった…?
まるで昔の私だな…
はぁ…、私ってば一人でなに考えてるんだろ…疲れた…今日は寝よ。
…あれ?今日はお兄ちゃんの事思い出しても胸が痛くならない…なんでだろ…
「お兄ちゃん…ショウタ…ZZz」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「お兄ちゃん、またゲームなんてやってる!」
ハルトお兄ちゃん、中学の時は勉強も出来て野球少年でカッコよかったのに、今じゃゲームオタクと化している。
もう高校生なんだから少しはスポーツとか勉強すればいいのに…
「お兄ちゃん!晩御飯できてるよ!」
「悪いアキ!ちょっと手が放せないんだ」
「ゲームなんて、ちょっとストップ押せばいいでしょ!」
「ネトゲにポーズ機能は無いんだよ」
ネトゲって?ポーズってなに?
「ちゃんと、言ったからね!まったくもう!」
私は、晩御飯食べるためにリビングへ向かう…。
あれ?お兄ちゃん?
そっか、私、夢を見てたのか、そりゃそうだ、私がゲームなんてやる訳ないしお兄ちゃんがあんな事になる訳ないしね。よかった♪
「ハルトはどうしたの?」
「なんか、忙しいんだって」
「最近、ゲームばっかりでお母さん少し心配だわ…」
「ほんとだね」
「あんたもよ、アイドルなんてお父さんがOKすると思う?」
「うーん、でもやりたいの!」
「じゃあ、自分でお父さんを説得しなさい」
「それが難問なんだけど…」
私は読者モデルからアイドルを目指してる、なかなか難しい夢だとは思うが、やってみたい。
「お母さんも応援したい気持ちはあるけど、仕事は東京とかになるんでしょ、やっぱり心配だわ」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「大学卒業まで待ってたら、私、二十歳越えてるじゃない!そんなに待ったらもう、モデルやアイドルなんてなれる訳ない!!」
「お父さんのバカァーッ!!」
泣きながら走って2階の自分の部屋に飛び込む。
すぐに、トントンと優しく扉をノックする音が聞こえた、お兄ちゃんだろう。
「どうしたんだ?」
扉を開けたらお兄ちゃんが立っていた、昔から変わらない優しい笑顔を見たら、私は泣きながら抱きついていた。
「お父さんがモデルはダメだって…」
「そっか」
お兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
「親父の話も親からすれば当然だな、可愛い娘をそんな訳わからない世界に出せないだろう、アキは特に可愛く産まれちゃったからな」
「うん…」
頭を撫でられていたら少し落ち着いて来た。
「で?どうする?」
「え?お兄ちゃんも、あきらめた方がいいって言ってるんじゃないの?」
私は泣き顔でお兄ちゃんを見上げた。
「あきらめたら、そこで試合終了だぞ」
「?」
「安西先生って言う日本一有名な高校の先生の言葉、つまり、あきらめなきゃなんとかなる!」
「お兄ちゃん!」
「策はあるやってみるか?」
「うん!」
策って言うのは、私が期末試験て学年トップになる事だった…
「む、無理だよー、お兄ちゃん私の成績知ってる?」
「知ってるよ、母さんが悲鳴あげてたからな」
「ホントにお兄ちゃんの妹?って学校の先生にいまだに言われてるんだから…」
そう、お兄ちゃんは中学の時、学年トップの成績だった。
「それは悪い事をしたな、でも大丈夫、期末試験からはやっぱり妹だったと言われる様にするから」
「でも…」
「ん?あきらめるのか?」
これには私の夢がかかってる、教えてくれるのは最高の講師、よし!やってやる!
「やる!あきらめない!」
「いい目だな」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
それから毎日勉強をした。苦手な数学がメインだったが、お兄ちゃんの教え方はなんだかパズルを解くみたいだ。
アハ体験って言えばいいのだろうか、やっててすごく楽しい。
なるほどな、だからお兄ちゃんは勉強できるんだぁ♪
「よし、いったん休憩」
「え?まだまだ大丈夫だよ」
「これはオレ流なんだけど、休憩した方が頭に残りやすいんだ」
「そうなの?」
「例えばある公式を覚えて休憩でコーヒー飲んだとする、試験の時にコーヒーを思い浮かべると覚えた所が出てくるみたいにな」
「へー」
やっぱスゴいなぁ、そう言えば私の友達全員お兄ちゃんのファンだったし、高校でもモテるのかな?
「でも、あれだな。アキがしっかりノートを作ってるから、教えやすいと言うかやりやすいな」
「授業はちゃんと聞いてるからね♪」
「これだけのノート作ってて、あの成績ってのが信じられない…」
う…、痛い所をつかれた…
実は写しただけのノート、お兄ちゃんに教わって、やっと意味がわかってきている。
「そう言えば、お兄ちゃんは私にばっかり教えてていいの?試験勉強しないの?」
「してるよ頭の中で、大丈夫、百点満点間違いなし!」
腰に手をあてて、どんなもんだいってポーズを決めてる。
「お兄ちゃんって、高校でも優等生なの?」
「もちろん♪」
「おお!」
スゴい兄をもって妹はタイヘンです、よしお兄ちゃんとは違う高校に行こう。
「お、お兄ちゃん彼女とかいないの?」
「なんだ急に、うーん、今はいないかな?友達ならいるけど、一緒にゲームしてるし」
「ゲームの友達?」
「そう、みんなで集まって協力し合ってゲームしてるんだ」
ゲームかぁ…、まてよ…この完璧お兄ちゃんには今の私じゃ何もお礼が出来ない、けどその協力するゲームならなんか役に立てるかも?
「あ!そうだ、私にもゲームやらせて、お兄ちゃんの手伝いしたい!」
「手伝いって言ってもなぁ」
「だって、毎日勉強を教えてもらってるのに、私じゃお兄ちゃんの助けなんて何にも出来ないもん、なんでもいいから、雑用とかするから!」
「うーん確かに、プーリストが仲間に欲しかったが…」
「私がプーリストになる!」
私のノートパソコンにゲームが来た、名前はサンセットにした、なんかお兄ちゃんが作ってくれた私に似たキャラクターにピッタリだ。
「それにしてもびっくりだね、これゲームなの?」
「そうだよ、スゴいだろ」
「お?みんな来たか、コイツらが俺のギルド“スカイブルー”のメンバーだ」
男性キャラ3名、女性キャラ1名がかけよってくる、この子がお兄ちゃんが言ってた女友達かな?
〉お疲れ、新しく仲間になったサンセットさんだ、初心者だけどよろしく
〉よろしく
〉よろ~
〉よろしくね♪
〉よろしく、サンセットさん
〉よろしくお願いします、サンセットって呼んで下さい。
〉なんか、ハルトのサブキャラの一人に似てるね
〉ホントだ、春夏秋冬で作ってる秋キャラのエルフにそっくりだぞ
〉まさか、彼女なのか?リア充なのかハルトは?
〉なにぃ!!
〉そんなぁ…(泣)
「お兄ちゃん、私、彼女になってるみたいだね♪」
「いや…まいったな…」
〉残念ながら…、彼女ではないかな
〉ぶっちゃけ、私はハルトの彼女を狙ってます!
「おい!」
お兄ちゃんに、笑って舌を出す。
〉な、なにおう!
〉お?カチュアのライバル出現か!
〉カチュアさん!勝負です
〉叩き潰す!
〉こら、サンセットもカチュアもやめないか、やめないと2人とも破門する
〉ゴメンなさい。
〉う… 調子に乗りましたすいません…
〉2人が仲良くなった所で、よろしくサンセット、我がギルドへようこそ。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
勉強はしっかりやった、お兄ちゃんのおかげで授業内容がスゴくわかる、得意な英語も怠けずしっかりやる。
誉められたノートは、帰ったらお兄ちゃんが見るからしっかり書いたそして覚えた。
休憩時間や休日はお兄ちゃんとネトゲをやる。
〉サンセット、フレ登録していい?
ギルドメンバーのチャットが飛んできた、となりのお兄ちゃん聞いてみる。
「お兄ちゃん、このフレ登録ってなに?」
「フレンド、友達登録だな」
「お兄ちゃんと私は登録してるの?」
「俺は一人前の戦友としかフレ登録しないんだ」
「そっか…」
〉ゴメンなさい、一番にフレンド登録したい人がいて、その人に認められるまで待って下さい。
〉了解、頑張ってね
〉はい♪
「俺の事か?」
「そうだよ♪」
「アキならフレ登録してもいいぞ」
「ううん、一人前になる」
「じゃ、一人前のアイドルになったらな」
お兄ちゃんが、笑いながら言ってきた。
「絶対なってやる!!」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「お兄ちゃんゴメン…学年3位だった」
「3位!?マジか!」
「英語で失敗しちゃって…」
1問目、簡単な単語の問題の答えが全て間違っている…記入欄がずれていた。
「アキらしい間違いだな」
「ゴメン、せっかく応援してくれたのに…、お父さんも説得してくれたのに…、ゴメンなさい…」
悲しくて泣いてしまった。
アイドルになれない事より応援してくれたお兄ちゃんの期待に応えられない事が悲しかった。
お兄ちゃんは、何度もお父さんを説得してくれた、内容は聞こえないけど私が学年トップになればって条件だったのだろう…
お兄ちゃんがまた頭を撫でてくれた。
「アキ、おめでとう。モデルやアイドルのオーディションはトップをとるんだぞ♪」
「え?」
え?お兄ちゃん今なんて言ったの?
「あ、ゴメン言ってなかったか?親父の条件は学年5位以内だったんだけど…」
「言ってない!」
私の涙を返して!!
「ゴメン、ゴメン。でもこれからが本番だからな、頑張って有名になれ!」
「うん♪」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「どんなもんだい!ここの専属モデルになったぞ!」
企業のホームページに宿毛アキの名前と写真がでている。
「おお!」
「それに…」
「なんだ?」
「来月はテレビに出ます!」
「うっそ、マジか!」
「ドラマのちょい役だけどね」
仕事が終わったらお兄ちゃんに報告がなんか日課になっちゃったな。
「仕事が増えて来たみたいだけど勉強は大丈夫か?」
「うん、勉強時間とネトゲの時間は確保してる。お父さんがマネージャーに言ってたからね“成績落ちたら仕事はさせん”ってね」
「わはは、マネージャーさんも大変だな、でもネトゲ時間は確保しなくていいんじゃないか?」
「それがネトゲやってます、って言ったらファンが急激に増えたんだよ、私もびっくりしてる、親近感がわくのかな普通にゲームとかしてると」
「ま、たしかにモデルってちょっと遠くの存在って感じがするな」
「マネージャーなんか、これは新たな戦略だとか言ってるし、このゲーム楽しいし、それに…」
「それに?」
お兄ちゃんの隣にいられるし…って事は言えないよね…
「ううん何でもない、あれ?お兄ちゃんその光ってる左手の装備かっこいいねレアアイテム?」
「これか?光ってるのはグローブじゃなくて左手なんだ、この前フリーシア湖の精霊に偶然会ってね」
「え?そうなの?私も会いたい!!」
「それが何度かギルメンで行ったんだけど会えないんだ、かなりレアなイベントっぽい、俺のは水の精霊だったけど、火、水、風、土の精霊がいるんだって」
「いいなぁ…」
お兄ちゃんと同じ左手の光かぁ…
「今日は暇だしフリーシア湖に行ってみるか?」
「行く!あ、アーチャーに着替えるからちょっと待って」
「ん?」
「なんか、せっかくレベルアップしてるのに全然うまく使えなくて…、結局短剣で攻撃してるし…」
「狙撃は距離感が大事だからな、近すぎず放れすぎず」
「教えて!」
夕方になるまでフリーシア湖周辺のオークで練習する。
「まず、水平に相手を狙う。オークはデカイから胸元かな、そして…」
「難しいよー!」
よいしょ、ってお兄ちゃんが私の後ろに座った、コントローラーを持ってる私の手の上にお兄ちゃんの手が重なる。
「いいか、まず真っ直ぐここを狙う」
あわわ…お兄ちゃんに抱きつかれちゃってるんですけど!お兄ちゃんの顔が近いんですけど!!
「それから足元、この角度なら絶対当たる距離だ、いけ!」
矢を放ちオークを消滅させる、頭に血がのぼりすぎて私の記憶も消滅しそう…
「この角度なら水平攻撃の限界の距離、射つときには少し上向きにする」
簡単に敵を射抜く、スゴい♪
「この角度が限界、これ以上離れると絶対当たらない」
矢が敵の手前の地面に刺さる。
「矢先を下げるだけで当たる距離と、上向きで当たる距離がわかる、簡単だろ♪」
「うん、何となく出来るかも…」
「よし、そろそろ湖に行くか」
お兄ちゃんが離れる…ちょっと残念…
フリーシア湖に夕日が落ちる。
「やっぱ出なかったか、俺がイベントクリアしてるから、そもそもダメなのかな?」
暗くなった湖を見ながらお兄ちゃんが残念そうに呟いた。
「お兄ちゃんは、その時なんでここに来てたの?」
「ここの風景好きなんだ、暇な時はここで釣りとかボーっとしてる」
「あはは、通信費もったいないなぁ」
「そうだな」
お兄ちゃんが湖に小瓶の様な物を2個流した。
「なにそれ?」
「メッセージボトル、未来へのメールって言えばいいのかな?さて、誰が拾ってくれるかな?」
「私にくれればいいのに!」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「アキ…、仕事が終わったら○○総合病院に来なさい…」
「え?お父さんどうしたの?」
「病院で話す…」
なんだろ…胸騒ぎが止まらない…凄く嫌な予感がする…お兄ちゃんにも連絡が取れない…
「マネージャー、ゴメンなさいさっきから体調が悪くなって…」
「どうしたの顔が真っ青よ!」
「わからないの…」
「待って家まで送って行くから!」
「病院に、病院に行って下さい…」
マネージャーの車の中、何故かお兄ちゃんとの思い出が走馬灯の様に流れてくる…
やめて!こんなの思い出したくない!
病院の前でお父さんが待っていた。
「アキ…」
名前を呼ばれたがその先は言ってくれない。
お父さんが黙ったまま歩きだした、私はふらふらついて行く…
霊安室の前、お父さんが扉をあける…
座って泣いているお母さんが見えた。
そして、白い布をかぶせられた人が…
ウソ…
ウソだよね…
ウソだーーー!!
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
今日は私の誕生日…だぞ…
はやく帰ってこい!グスッ…
プレゼント買ってなきゃ…怒るから…
暗くなったお兄ちゃんの部屋、机には二人の笑ってる写真が置いてある。
ノートパソコン…、最後にゲームしたのいつだろう…お兄ちゃんがいないとゲームもする気がおきない…
あ、精霊に会うため湖に行った時だ、結局会えなかったんだっけ…
メッセージボトル、未来へのメールって言えばいいのかな?
メッセージボトル!
私は急ぎパソコンを立ち上げた、自宅で手紙の確認をするが何もなし。
フリーシア湖!!
飛ぶようにフリーシア湖に走った、プーリストはお兄ちゃんのおかげでレベルがカンストしてるので敵はいない。
お兄ちゃんが小瓶を流した付近に、それは浮いていた。
小瓶を手に取る、暖かい気持ちが流れ込んできて自然に涙が溢れてきた。
手紙を確認する。
『俺の可愛い妹へ』
アキはどんどん有名になっていくな、たぶんこのメッセージボトルを開いている頃は、かなりの有名人になってるだろう。
俺が助けなきゃ立ち止まってばっかりの妹アキはもう何処にもいないかな?
「そんな事ないよう、お兄ちゃんがいなきゃ立ち止まっちゃうよう…」
でも、頑張りすぎてないか?
たまには休息も必要だぞ、あ、ゲームやってんだからそこは大丈夫か。
直接言うのは恥ずかしいから、メッセージボトルに思いを詰めておくな。
兄ちゃんがいつも見守ってるから、迷わず走れ!!
「うん…、お兄ちゃんがくれた夢を終わらせない、一人前になってもう一度お兄ちゃんに頭を撫でてもらうから…」
疲れたら兄ちゃんの所に帰って来い、また楽しくゲームでもしよう!有名人でもゲームなら人目を気にする必要もないしな。
「うん」
背中にお兄ちゃんを感じる…暖かい…
来年の誕生日のメッセージボトルも流しておいたから、お楽しみに。
注意≫メッセージボトルに関する質問は(恥ずかしいため)一切受付ません。
「ありがとうお兄ちゃん、私、頑張る頑張ってみる」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
お兄ちゃん、見ててくれてるよね。
どう?お兄ちゃんの予想を遥かに越えて有名になったぞ!
誕生日、今日はお兄ちゃんから2つ目のメッセージボトルが届く日。
フリーシア湖に移動する、あった!お兄ちゃん、ただいま。
『俺の愛しい妹へ』
誕生日おめでとう!、アキも高校生だな、さすが芸能人日に日に綺麗になっていくから兄ちゃんもドキドキだw
「バカ…」
もう綺麗な女優さんか大人気のアイドルってとこかな。
俺は、大学に行ってるから家をでてるし、あれ?アキも仕事の関係で東京に行ってるのかな?
とにかく、俺はいつも側にいるから頑張るんだぞ!
「ありがとう、お兄ちゃん」
さて、愛しい妹よ、来年分のボトルも今から湖に投げてくるからな♪
「ふふ、今日、湖に入れる気だったのかぁ、何処にいるんだよ、隠れてないで出てきてよ」
森に視線を向けると新人冒険者がこちらを見ていた、後ろにオークの影が!
私の弓でオークを消滅させた、ついでに新人冒険者の反対側にいたオークも消滅させた。
新人さん呆然としてるけど…あれ?もしかして私を助けようとしてくれたのかな?
「新人さん、この辺りはちょっと危険ですよ」サァーー。
ヒールと強化魔法を一通りかけてあげた。
「私はサンセット、よろしくね」
「ショウタです、今日やりはじめた新人です。」
「ショウタさん、よろしくね(笑)」
「えっと、ここで何をやってるんですか?」
「ん?」
「なんか、みんな何もせず座ってるので…」
「そうね、イベントみたいなものかしら、夕暮れでフリーシア湖の湖面が赤く染まる時、水の精霊が現れるらしいの。でもいろんな条件があるらしく、今じゃ伝説扱いかな…」
「そうなんですか」
「ずいぶん前にゲームやめちゃった知り合いが、水の聖霊に会ってるの、どうやって会ったかは聞けずじまいだったけど…」
「想い出のイベントなんですね」
「いろいろ、ホントいろいろ試したの、複数できたり、1人できたり、水に入ってみたり、隠れてみたり、晴れの日、雨の日、曇りの日…でも全然ダメだった…」
あれ?なんで私この人にいろいろ話してるんだろう…
え?お兄ちゃん??
初心者装備だったから気付かなかったけど、キャラの顔お兄ちゃんにそっくり…と言うか本人??
「知り合いから、ヒントは無し?」
「左手がちょっと光ってたかな?そのくらい…」
どうしよう、お兄ちゃんですか?って聞いてみる?、笑われちゃうなきっと…
でも!
「くすッ(笑)」
「え?」
「そのキャラは誰かに似せたの?それとも自分?」
「えっと…自分です…」
えー!!じゃ本人お兄ちゃんに似てるかも♪これは言っとこ♪
「その知り合いに、そっくりだよ」
「そうなんですか?」
「そうです♪」
あはは、ショウタさんか…、仲良くなったら、フレ登録しようかな?お兄ちゃんももう一人前って認めてくれてるよね。
「…あれ?」
え?
夕日で湖面が赤く染まり、そしてキラキラ輝きだした…
「え?え?なんかいつもと違う!」
「え!?」
汝、我 声が聞こえますか?
「うそ!? ホントに??」
「サンセットさん!何をすればいいんですか?!」
「えっと、えっと…」
お兄ちゃん、どうすればいいの?教えて!
汝、気高く聡明なエルフの子
汝、激しく危うい人間の子
我が名はウンディーネ、そなた達の思いに答えましょう… 暗黒神を封印する聖なる水の力を…
「うそ…私泣いちゃうかも…」
あれ?夢?
私、帰ってすぐ寝ちゃったのか…4時だったから…7時間も寝てるじゃん。
なんか、長い夢だったな…でも、お兄ちゃんにまた会えたからいっか。
うーん!
思いきり伸びをした。
よし!また仕事に勉強にゲームに頑張るぞ!
ツバサで大月と打合せをする、大月はまたサンセットを見つけようと言ってきたが、サンセットが宿毛本人なら仕事だと諦めさせた。
しばらくツバサで釣りをする。
宿毛がログインするなら夜中かなと思い11時頃ショウタでログインする。
ログアウトした場所がいつものフリーシア湖なんで、サンセットが入れば声をかけてくれるだろう。
昨日の事もあるから、あのギルメン達に呼ばれてるかな。
釣った魚をシュートに…って、いつものクセでドラゴンにトレードしようとしてしまった…
ショウタでもドラゴンナイトを取りに行こうかな?
「あ…」
「あ…」
サンセットが至近距離に現れた。
「お疲れさま、サンセット」
「う、うん、こんばんは」
「えっと、ちょっといいかな?」
「うん…」
「ここだと、精霊界行きのみんなが来るかもしれないし、移動しようか」
サンセットのギルメンが来るかも知れないので、リテーラ高原の丘の上に移動した、サンセットも素直についてくる。
「えっと、どうしたのショウタさん」
「さんは止めて、変な感じがする」
「わかった…」
「あの、今日の昼休みの話だけど…」
「あ、あれは何でもない!忘れて!」
しまった、大切な人がって所が来たか、俺もダメだなぁ…
「勉強会の話だけど…忘れた方がいい?」
「え?」
「えっと、ちゃんと説明するから、ちょっとそこに座りなさい」
「はい」
サンセットは素直に座った。
「サンセットは勉強や試験の事を先生に相談した?」
「えっと、お昼にショウタの首を締めた難しい漢字の先生に…」
「小筑紫先生ね、うちのクラスの副担任」
「なんて読むの?」
「こづくし」
「読めない…」
「先生に言えば『お前もな』って言うだろうね」
「あはは、そうだね♪」
「んで、放課後に小筑紫先生にユキカと一緒に呼び出されて、サンセットの勉強係りに“強制的に”任命されました」
「え♪」
「以後、よろしく」
俺は一礼した。
「うそ!やった!よろしくお願いいたします♪」
「ま、とりあえず転校とかで遅れてるかもしれない1学期の復習からかな?」
「はい!ショウタありがとう(泣)」
「俺とユキカね、あともしかしたら三原も参加するかも」
「とりあえず、仕事の無い日は図書室勉強で、休日はどうすっかな」
「ショウタさん家に行っていいの?」
「ダメだろそれは!ユキカか三原の家」
「えー、アカリも行ってるのにズルいー」
「ワガママ言わないでサンセットちゃん」
「!」
「って言われてたなこの前(笑)」
「私はあの時ショウタに捨てられた事を、まだ怒ってんだからね!」
「捨てられたって言うなよ…」
「ふん」
「話を続けるけど、土日はずっと仕事?」
「ううん、土曜日は空いてる、と言うか勉強時間が必要だし、体育祭あるから」
「そっか土曜だな、とりあえず図書室でどのくらいか確認して、土曜に集中して勉強しよう」
「はい♪ショウタの家でね」
「それはダメ」
「ちぇッ」
サンセットは何を言っても可愛くなるんだな…
「あはは」
「なーに?」
「いや、サンセットって何やっても可愛くなるんだなって」
「ふーんだ、どうせ真剣に怒っても怒ってるって思われませんよー」
「そうだな(笑)」
「笑わないで!」
「ゴメン」
「まぁ、慣れてるけどね…」
「でも、真剣に悲しい時はちゃんと言うんだぞ」
しまった、調子に乗って変な事言ってしまった…
あれ?沈黙…
「あ、あの…」
「なんか、ありがとうお兄ちゃん♪」
また、お兄ちゃん…か
「前々から聞きたかったんだけど、そのお兄ちゃんって何?」
「ないしょ♪」
「なんか、お兄様って言われたりお兄ちゃんって言われたり、最近は妹が流行ってるのか?」
「あはは♪」
「元気になったな、良かった」
「ショウタは私が誰か分かっても変わらないね」
「そうか?ちょっとは気を使ってると思うけど…」
「うっそだー♪」
「あ、そうそう明日からは普通に話していいらしいから」
「ショウタに?」
「うん」
「また上級生に連れていかれないの?清水君や中村君の監視は?」
「無いみたい、小筑紫先生が言ってたんで間違いないと思う」
「そっか♪」
「えっと、ユキカがやきもち焼かない程度にお願いいたします」
「了解です♪」
「だいぶ時間とらせちゃったね、これから精霊界?」
「昨日も行ったんで、今日はいいかな」
「やっぱ、大手ギルドはちがうね」
「ネージュ達と行ったんだよ」
「そうなの?マスターは紋章もらって喜んでたからなぁ」
「ショウタは行かないの?」
「まだまだこっちの世界に行ってない所あるからね」
「そうだね」
「あ、そうそう体育祭頑張れよ、リレーの代表だからな」
「任せといて♪」
「それじゃ明日」
「うん、お休みなさい」
ログアウトし、ユキカに電話をかける、ユキカはすぐ出てくれた。
「もしもし、ゴメン遅くに」
「大丈夫、アキちゃんの事?」
「うん、勉強会の件伝えといた」
「どうだった?」
「うーん、スゴい喜んでた」
「そっか、じゃ気合い入れて頑張らなくっちゃね!」
「とりあえず、夏休み前の期末試験と同じ感じで、かな?」
「わかった」
「三原はどう?」
「レナも喜んで協力するって」
「そっか、でも三原はスパルタだからなぁ」
「まぁ、3人だし最初は私の家かな」
≪翌朝…≫
「グッドモーニング♪」
「おはよう」
「おはよう、アキちゃん」
「おはようございます」
「おはよう、うわアキどうしたの?」
「何?元気に挨拶しただけなのに?」
「えっと、いい事でもあった?」
「うん♪ ね、ショウタさん」
「そ、そうだな」
「なぜ下川口?、あやしい…」
あやしいって言うなよ…
「アカリには秘密♪」
「ゆ、ユキカ…調査費用を出してくれれば、浮気の証拠をとってくるよ…」
「あのなぁ…」
「大丈夫だよアカリ」
ユキカが余裕をもって答える、大月にはとても大人に見えてるだろう。
「ユキカ…そうやって友達に彼氏を取られる女子が何人いると思う?」
「ちょっとアカリ!」
宿毛が制止に入る。
「くすくす、アカリもなんでしょ」
「なに、その余裕の表情は!」
「アカリさん、止めた方がいいですよ」
「レナまでどうして!」
「だって、みんな中間試験までの勉強会の話をしてるんですから」
「…へ?」
「と言う事で、今回は私が臨時先生達をお借りしますね」
宿毛がえへんって感じで大月に向かう。
「え!ちょっと!」
「大月、小筑紫先生からの命令なんだ分かってくれ」
「だ、ダメだよ、それに下川口はアキに近づいたら… あれ?」
周りを見回す大月、清水も中村も監視の先輩方も今日はいない。
「そうなんでーす、ショウタさん解禁でーす!」
と、言いながら俺の腕に抱きつく。
「アキちゃん…そこまでは解禁してないんだけど…」
反対側の腕をつかんで、悲しそうに宿毛を見るユキカ。
「え?あ、ごめんなさい、調子に乗りすぎました…」
「えっと、あれ?大月は?」
大月は固まったまま現実逃避をしている様に見える。
「私の中間が…私の試験が…」
「だれか大月を慰めてやってくれないかな?」
≪放課後の図書室≫
今日からとりあえず全教科の確認に入った。
俺とユキカで宿毛のノートを見る。
前の高校のノートだが、見た限りまったく問題なさそう、と言うよりメチャクチャ勉強出来そうだ。
「アキちゃん、すごい!」
「うん、ノートを見る限り俺の方が教えてもらいたいくらいだ」
「そ、そうかな…」
「そうだよ~♪」
完全にユキカは崇拝モードになっている。
「教科書もちょっと違うけど、やってる事はほとんど一緒だし問題ないよ」
「いやぁ誰かさんの壊滅的な勉強会に比べたら天国と地獄、いや精霊界と暗黒界だな」
「あはは♪」
「んじゃ、1学期の期末試験の問題を小筑紫先生にもらって来てるからやってみるか?」
「テスト?」
「じゃなく、話ながら見ていこうかって考えてる、数学なんかはどうやって解いてるかわかるし」
「了解です」
今日は現代文と英語を行う。
宿毛を俺とユキカで挟んで問題を解く、大丈夫な所はすらすら記入している。
現代文は途中質問があったが、英語は得意らしくまったく質問がなかった。
いったん休憩にした、ユキカがニコニコしながら宿毛の英語のテストを見ている。
「おや?」
ちょっと席を外していた宿毛が戻ったんだが、席に座らず両手でカメラのフレームを作りユキカを見ている。
「どうしたんだ?」
ユキカも気づき不思議そうな顔で宿毛を見る。
「アキちゃん?」
「ユキカってけっこう美人だね♪」
「はい?」
「すごいなユキカ、宿毛に美人と言われたぞ」
「な、何を言ってるのアキちゃん!」
完全にキョドりだすユキカ
「ショウタさん、ユキカをうちのマネージャーに紹介していい?」
「いいけど、本人がなんと言うか?」
「良くない!」
「ユキカ可愛いし黒髪綺麗だし、絶対アイドルいけるって、さっきの表情なんてかなり胸キュンだよ!」
「おお!本人かなりの鈍感娘だから言ってやってくれ、ほら、俺の言った通りだろ♪」
「やろうよ、一緒にアイドル」
「む、無理だってー」
ユキカが全力で拒否る。
「ユキカ、宿毛はあれだぞ、すっごいワガママだから自分の思い通りに動かないと1日不機嫌になるからな♪」
「ええーッ?」
「ショウタさん、そんな事ありません!」
ふと周りを見ると、みんなの冷たい視線にさらされている…
「えっと、ここは図書室だから静かにしないとな…」
「あ…そうだね…」
「き、今日はこの辺にして明日は問題の数学にしようか」
「あ、うん、よろしくお願いいたします♪」
≪ユキカの家≫
「お母さん、今度の土曜日友達と家で勉強するから」
「レナちゃん達?」
「えっと…」
「お?とうとうショウタ君呼んだのか、そっか♪」
「し、ショウタも来るけどショウタだけじゃないからね」
「ショウタ君しか興味ないからいいよ、何人来ても♪そっか、ショウタ君来るのか♪」
「お母さん?」
「ユキカ、お母さん何着たらいいとおもう?可愛い系の洋服かな?」
「もう、お母さんいなくていい!お父さん連れてどっか行っててー!」
「えー、私もショウタ君に会いたいよー」
「もー、うるさい!」
≪土曜日、ユキカの家≫
「ささ、上がって」
「お邪魔します♪」
「いらっしゃい、あれ?新しい友達?」
「はじめまして、宿毛アキと言います」
「こんにちは、ユキカの母です」
「え?お母さん??」
「もう恥ずかしいなぁ、お父さんはもう出たんだから、お母さんも早く行ってよ!!」
「はいはい、でも、ショウタ君に一目会いたいなぁ…」
「友達の前で恥ずかしいこと言わないで!」
急ぎ2階の自分の部屋に入る。
「ユキカ、変な事聞くけどホントのお母さん?」
「うん…」
「て言ったら30歳後半だよね、メチャクチャ若いんだけど、20歳そこそこにしか見えないじゃん!」
「よく姉妹と間違われる…」
「わかる!」
「本人は調子に乗っちゃって、若い子の服とか着てるんだよ、恥ずかしいよホント…」
「あはは、ショウタさんにも興味があるんだね、お姉さんが妹の彼氏を取るみたいな感じ?」
「やめてよ、最初に紹介した時なんか母親だって言う前に抱きついちゃったんだ、ホント恥ずかしい!死にたくなった!!」
「うわ…それは…」
宿毛の視線がベットの枕元に移る。
「あ!コビットのぬいぐるみだ!私もこれ持ってるよ♪」
「あ…あ、そうなんだ可愛いからいつもそこに置いてあるんだ」
「これ、FK7のキャラだよ♪」
「うん、それは知ってる。えっと、ショウタはもう少しで来るけど、先に始めますか」
「了解です、三崎先生♪」
「それはやめてよ、アキちゃん」
10分後…
あーショウタ君久しぶりー♪
ユキカのお母さんお久しぶりです
「あれ?ユキカのお母さんの声だ」
ワナワナワナ!!
「ゆ、ユキカ落ち着いて!」
2人で窓際に移動、家の前でショウタに抱きついているお母さんを発見
「あ…抱きついてる…」
「何やってんのーーーッ!!!」
階段を駆け降り、数秒でショウタを引き剥がすユキカ、怒った状態なのでもう何を言ってるのか分からない。
「確かにこれが自分の親だったらキツいなぁ…」
そして、ユキカの部屋…
「ほんと、信じられない!!」
ずっと、恥ずかしい、もうやだ、死にたい、家出する、を繰り返してたユキカだが、疲れたのか少しテンションが下がってきた
「少しは落ち着いたか?」
「うん…」
「まぁ、あれはユキカのお母さんのコミュニケーションなんだから…」
「ショウタが来るまで玄関前で待ってたなんて…もー」
「わかった、もう勉強しような、な、宿毛も困ってるから…」
涙目で宿毛を見るユキカ…
「ゴメンね、アキちゃん…」
「大丈夫だよ、でも、ユキカって怒ると恐いんだね…特にショウタさんの事では」
「お母さんの事です!」
「はいはい、勉強しような」
「数学って苦手…」
「みたいね、まぁ全科目できたら勉強会の意味が無いんだけどね…」
「ユキカは数学好きなの?」
「どっちかと言えば苦手かな…レナは得意みたいだけど」
「ショウタさんは?」
「まぁ、解き方を覚えるだけなんで単語を覚えるより得意かも」
「そもそもこの問題なんて、実際計ればいい!って思うと思考が停止するんだよね」
「わかる、三角形なんて定規で長さ計りたくなるもん」
おいおい三崎先生、嫌いを増幅させてどうすんだよ!
よし、ゲームの話でもして数学教えるかな?
「昔々、とある世界にとても綺麗なエルフのアーチャーがいました…
なになに?って感じで宿毛とユキカが食い付いてきた。
そのエルフの弓の正確さはずば抜けて的を外した事がありません。
ある日、連れの戦士が聞きました。
『どこまで離れて的を射てる?』
エルフは少し遠ざかり的を射抜きました。
『もっと遠くで』戦士はいいました。
エルフは下がり、何度か的を射たあとで『ここまでです』と言いました。
『なぜ限界がわかるんだ?』戦士は不思議そうに聞きました。
『敵を垂直に狙い、そこから足元を狙った時の矢先の動きの幅、角度で相手との距離が分かるんですよ』」
「あ!」
「どうしたの?」
「昔、同じ話を聞いた事があったから…これを教えてもらってから弓が上達したと言うか…」
「その人、数学得意でしょ」
「え?う、うん」
「定規で計ればいいって言った、三角形の話でした。ちゃんちゃん♪」
「え?」
「敵は襲ってくるぞ、メジャー持って計ってる時間なんてくれないからね、瞬時に距離を計って射たなきゃ」
「あ!」
宿毛がもう一度問題を見る。
「そっか、あれはカンとかの話じゃなくちゃんとした理由があったんだ」
宿毛は、解けないなぞなぞが分かったような感じで喜んでいる。
「ちょっとは数学が好きになれそうかな?」
「うん!スゴいよショウタさん!」
「よかった」
ユキカも俺を見て笑ってる。
「他には?他にはないの?」
「さっきのは時間がないから計れない問題だったたけど…そうだなぁ…月までの距離はどうやって図る?定規では図れないよ」
「うーん、ユキカわかる?」
「角度が分かればだけど…?」
「たしかに、月のどこ見て角度がわかるんだろうね、月明かりの夜を想像してみよう♪」
「あ!影だ♪」
「なるほど、アキちゃんスゴい♪」
「で答えは?」
「棒かなんかの影を見て角度を確認する。」
自信満々で宿毛が答える。
「33点」
「うう…」
ユキカが気づいて答える。
「うん、底辺の長さがほしいから同じ時間に1キロ先でもうひとつの角度を計るかな?」
「正解!ってユキカが答えてどうする…」
「あ、ゴメンなさい」
「あはは♪」
「では、遠くの星までの距離はどう計る?底辺をどうするかって事だけど」
「日本とブラジルで計る!」
「地球の直径って事だね、それが最大?そんなんじゃ何百光年先の星だと角度が同じだよ」
「ショウタ、宇宙に行ってとか、ロケットでって言うのは無しだよね」
「もちろん」
「うーん、ヒント!!」
「そうだな、星座は何百年も形が変わってないって事かな?」
二人とも真剣に悩み出した
「ヒントの意味も分からない…」
「距離じゃなく時間って事?」
「そうだね」
「時間で長さ?ますます分からない…」
「じゃ、これは後日って事で勉強再開しようか」
「えーダメだよ!!」
「ショウタ、胸のモヤモヤが…モヤモヤが!」
「じ、じゃ答えを…」
「それもダメ!!」
「星空はいつも変わらない…、地球より大きな底辺…」
えっと、勉強してくれませんか…?
「あ!今ピーンと閃いた!わかったかもー!!」
「ほんとにアキちゃん?」
宿毛が俺の隣に移動し、ユキカに聞こえない様に耳元で答えを話す。
宿毛の顔がこんなに近いとさすがに照れるな…
「おお!正解!」
「やった!」
「え、なに?いや…やっぱ言わないで!」
「えっと、宿毛がスッキリしたところで勉強再開しようか」
「はーい♪」
「私、ちょっと外すね…」
「いってらっしゃい♪」
とりあえず、他の公式なんかを教える、FK7に例えると宿毛の理解力が増す、事前にこの例えを考えててよかった。
「お疲れさま、お昼にしよう♪」
「ん?」
ユキカが、サンドイッチや唐揚げ、サラダ、飲み物を運んできた。
「わ、スゴい、感動♪」
「うん、うまそう!」
テーブルを片付けて、食べ物を置くスペースを作る。
「こんなの夢だったんだ~」
「ん?」
「友達の家でご飯食べるの♪」
「そっか、どうぞ召し上がれ」
「いただきま~す♪」
「いただきます」
みんなで昼御飯を食べる、サンドイッチはいろいろな味があって楽しい。
「美味しい♪」
「うん、うまいな」
「ありがとう♪」
宿毛がびっくりしてユキカを見る。
「え!お母さんじゃなくユキカが作ったの!?」
「うん、今作ったよ」
まじまじとユキカを見る宿毛。
「ユキカって…女子力も高いし嫁力も高いんだね…」
「嫁力って、はじめて聞いたよ」
「り、料理スキルは高いの?」
「まぁ一通りは、最近じゃ家のご飯私が作ってるし、アキちゃんは一人暮らしでしょ、作らないの?」
「なんかスゴいなぁユキカは、私ちょっと落ち込むわ…」
ガクッとなる宿毛…少し目が死んでいる…
「な、なに言ってんのアキちゃん!」
「何って、ユキカに女子としての差をいろいろ見せつけられて、少々落ち込んでるだけなんだけど」
「ショウタもなんか言ってよ!」
むちゃぶりだよそれは…
「今の宿毛に『アイドルだから』とか言っても意味無いよ、事実料理が上手いんだから」
「でも…」
「このあと、お弁当の作り方とか教えてやれば?」
チラッと宿毛を見るユキカ、まだ目が死んでいる…
「うう…」
涙目でまた俺を見る、俺にどうしろと言うんですかユキカさん!
「いっそ、アイドル目指したら?」
「やろう!ユキカ!!」
お!?復活した?
「いや、それは…その…」
「いやぁ、元気になってよかったな、さ勉強しようか」
■募る想い
「じゃあ私は部活に行ってくるね」
「頑張れ」
大月と体育祭実行委員会に出席後、鞄を取りに教室に戻る、今日は宿毛の勉強会は無い日なのでそのまま帰る予定だ。
「あ、下川口君いま帰りですか?」
三原が帰り支度をしている。
「うん、体育祭の実行委員会があったからね、三原も今日は遅いんだな」
「えっと、ちょっと知り合いと打合せしてました」
「そっか、そう言えば例の小説進んでる?」
「え?は、はい…」
あれ?トーンダウンしたぞ…、顔もあからさまに暗くなってるし…
「もしかして、第二の壁にぶつかってたりする?」
「うー、下川口くーん…」
三原が近づき涙目で見上げてきた。
ち、近いよー、胸が当たりそうじゃないか!!
「こ、今度の壁はどんなやつだ?」
とりあえず、席に座り話を聞いた。
「夏休みに少し話しましたが、主人公の下川口君が異次元と現在を行き来するんですが書いてると時間のズレといいますか不都合な点なんか色々見えてきて…」
「む、難しい話?」
「えっと、混乱中です…」
「例えば?」
「なんと言いますか、寝てる時に異世界へ行き来する設定で、昼寝をしました。10分後起こされてしまいましたその時どうなる?って…」
「異世界の10分後はまだ寝てないので本人が強制的に消えるって事?」
「もしくはアバター的に意識がなくなる感じですか?」
「バトル中なら死ぬな…」
「はい…」
「俺は誰かに起こされるの?」
「学校の昼休みに寝ていてユキカさんに…」
「なるほど…」
うーん…現実と夢の境目か…、あれ?どっかで聞いたなこれ…そうだあの話だ!
「胡蝶の夢ってやつだな」
「え?」
「ある日蝶になって空を飛ぶ夢を見た。私が蝶の夢をみたのか?それとも蝶が私の夢を見ているのか?」
「前に歴史先生が言ってましたね」
「夢って時間が関係あるのかなぁ、昼寝で超大作な夢を見る事もあるし10時間寝ても一瞬の場合もあるし」
「あ!」
「そもそも、三原の設定だとどっちが夢でどっちがリアルって話も作れそうだし」
「異世界の方がリアルで、現実の方が夢…もしくは異世界…」
「話がとんだけど言いたかったのは、すべて同じ時間軸でやる必要はないんじゃないって事」
「時間軸ですか…」
「30分で1日分の夢を見るのも、寝たら異世界の未来や過去に行くのもいいんじゃない?夢って覚めたらうる覚えだし」
「平行世界って概念を捨て去れといってるんですね!」
「えっと、そう言う事かな…平行世界がなんなのか分からないけど…」
「下川口君!」
ガチッと俺の手を取り胸の前に持っていく三原。
「ありがとうございます!また書けそうです♪」
「よ、よかったな…あの…手が胸に当たってるんだけど…」
胸を見下ろす三原
「ひゃッ!」
手をはなし真っ赤になる三原。
「ごごごご…ごめんなさいー!私、帰ります!!」
三原とは思えない速度で教室を飛び出る。
「お、俺も帰るか…」
異世界…か…
ゲームにログインしながら呟いてみる、これも異世界ちゃ異世界だよな…
俺は変わらず俺なんだが、俺とは違うキャラが動きまくる、俺の意思で…
俺の体は俺が鍛えたり食べたり休んだり、キャラも俺が鍛えたり食べたり休んだり…不思議だな…っと
ログインするなり、戦闘状態のオークに襲われる、リテーラ高原で誰かが襲われている中にスポーンしてしまったようだ。
だが、この辺りの敵はもう敵ではない。
俺に攻撃してきたオークの群れをかわし叩ききる、考える前に自然に体が動く様になった。
サッカーをやってた時を思い出す、後ろの敵も直前の行動で見なくてもだいたい位置が分かる。
レベルの差はあるのだろうが、6体相手に無傷で勝利した。
〉スゴいね、まるで背中に目があるようだ~
近くで見ていたヒューマン(活発な男の子)が話しかけてきた、おそらくこの子がオークに追われてたのだろう。
〉助かりました、ありがとうございます
〉いいタイミングでスポーンしたね
〉です!
元気な男の子は答えた…って
あれ?子供キャラっていないはず、小柄な女性キャラを男の子っぽくしてるのかな?
〉ショウタです、よろしく
〉リオンです、見とれるくらい操作が上手ですね、何年やってるの?
〉2ヶ月ちょっとかな?
〉え?そのくらいなの??
〉はい
〉他のゲームが得意とか?
〉ゲームは久しぶりかな?あまりやってない
〉へぇ~、あんなに上手なのに?そうだ!突然だけどボクのギルドにスカウトしていい?
スカウトって…、ブリザードを思い出すなぁ、最近会えてないけど精霊界攻略に忙しいかな?
まぁ、俺の紋章の謎解きが一緒にいる理由だったからもう戻ってこないかもしれないなぁ…
〉スカウトって?
〉ボクたちはある人の為に、FK7の知識のある方や上手な人を集めてるんだ♪
〉ん?集めるより上級者のいるギルドに入るのがいいんじゃないの?
〉ダメダメ、ボクのギルドの活動内容を理解して入ってくれる人が欲しいんですよ
〉活動内容?
なんか、単純にゲームをしてるだけじゃなく、みんないろいろしてるんだなぁ…
〉そう、ボクのギルド『宿毛アキ親衛隊』にね!
うわ、あるんだ親衛隊…
〉あ、そう言う事ね…、宿毛アキがこのサーバにいるって有名だもんね
〉興味あります?
〉多分…俺をこのゲームに引きずり込んだ奴は興味あるだろうね、なんせ最初のクエストが『宿毛アキを探せ』だったし(笑)
〉おお!同士だ!!
〉そう言う事なら、ぜひ!その方もボクのギルドに来て頂きたい!
〉えっと…、もしかして宿毛アキを探せって言ってる?それとも既に仲間になっているの?
あ、これはイジワルな質問だったかな?
〉なって無いです…
〉だろうね、偽物の宿毛アキが沢山いるらしいしね
〉うう…
〉そっか、親衛隊をつくるほどの大ファンの集まりと言う事だね
〉ショウター!
サンセットがログインしてきたみたいだ、丘の上から声をかけてきた。
親衛隊の前に宿毛アキが降臨してしまった…
〉サンセットこんばんは
〉あれ?パーティ中だった?
〉いや、この子のギルドに誘われてた
俺はリオンを指差す。
〉えー?ネージュ怒るんじゃない?
〉かもね…
〉ショウタさん、もしかしてこの方ですか?
〉ん?
〉サンセットさん申し遅れました、ギルド『宿毛アキ親衛隊』のリオンといいます、ボク達と一緒に親衛隊を盛り上げて行きませんか!
〉は…?ええッ!?
〉えっと、俺に宿毛アキを探せと言ったのは、この子ではないんだが…
て言うか宿毛アキ本人ですけど、本人に親衛隊に入れって言ってますけど!
〉あ、すいません…
〉えっと…ショウタ、つまりどう言う事?
宿毛、パソコンの前でどんな顔してんだろうなぁ…
〉FK7版、宿毛アキファンクラブって所じゃないかな?
チラッとリオンを見る。
〉違います、ボク達はアキちゃんがゲームをしやすくする為に、いろいろサポートするギルドを作りたいんです!
リオンは強く言ったが、なんだか宿毛のため息が聞こえるようだ…
〉宿毛アキってかなりの上級者って聞いてるよ…そんなサポート必要ないんじゃない?
〉俺もそう思う、そもそも本人喜ばないんじゃ?
〉そんな事は!
サンセットがリオンの言葉を遮る。
〉アキちゃんの事はテレビとかで知ってるけど、誰かに仕事を任せっきりとかやらせるとか、そんな女王様気質じゃないと思うなぁ…、あなたなら知ってるでしょ親衛隊だもん、逆に嫌われると思うよ
〉う…
〉だな、多少ワガママに見えるけど基本的に人に頼らないしっかりした性格だと思うぞ
〉ショウタ!ワガママってなに!?
おい本人!笑ってしまうだろうが!
〉宿毛アキの話だって(笑)
〉アキちゃん、ギルド名気づいても話しかけてくれないかな…?
リオンの奴、ちょっとショックなのかな?キャラなのに落ち込んで見える…
〉無いですね
ガクッとうなだれるリオン、雲も出て太陽を隠したから風景まで暗くなってる…
〉リオン、ちょっと笑ってるかもしれないけど気にしてはくれるんじゃないかな?
リオンの顔が明るくなる、が…
〉100%無いですね!
サンセットの痛恨の一撃が決まり倒れ込むリオン、サンセット容赦ないなぁ…
〉サンセット、リオンは純粋に宿毛アキの事を思って…
そう言った所で言葉が止まる、サンセットが屈みやさしくリオンの肩に手を置いた、聖母と言えばいいのだろうか後光まで見えるようだった。
〉リオン君、貴方は宿毛アキの事を全然わかってない、宿毛アキはなぜこのゲームをしてるの?有名芸能人みたいに特別扱いしてもらいたいから?
リオンはサンセットを見上げる。
〉違うわ一人の普通の女性としてみんなと接したいからよ、そしてファンではなく信じられる仲間がほしいのよ♪
〉サンセットさん…
あれ、今度はリオンの顔が恋する少年の顔になって見える…
〉リオン君、貴女は純粋な人だからその純粋な心でゲームを楽しんで、そんな貴方ならきっとアキちゃんのフレになれると思うよ♪
〉サンセットさん!
サンセットスゴい、あっという間にリオンを落とした…
俺とサンセットの背後に10名ほどの集団が走って来る。
〉リオンお待たせ!
〉悪いちょっと遅刻したな
〉お?今日は2名加入か?
〉親衛隊もだんだん大きくなって嬉しいな♪
それぞれリオンに話しかけてきた、宿毛アキ親衛隊のメンバーだろう。
リオンは立ち上がりみんなの前に立った。
〉すまないみんな、突然だが今日は重大な話がある…
親衛隊のメンバーは、どうした?いつもの会合は無いのか?とざわつく…
〉ボクの作ったギルド『宿毛アキ親衛隊』は本日を持って解散します!
〉…
〉…は?
〉今なんて?
〉なにぃーー!!
一瞬の沈黙後、親衛隊全員がパニクる、何故だ!どうしてだー!の悲鳴がこだまする、
〉リオン、お前ほどの男がどうしたんだ、宿毛アキへの情熱は何処へ行った!
〉そうだ、俺たちは宿毛アキの笑顔とお前のその純粋な情熱に引かれたんだぞ
〉すまない…
〉すまないで済むか!
〉でも、ボクは…ボクの情熱は少しも変わっていない!
〉どう言う事だ…?
周りが少し明るくなってきた…
〉みんな…ボクは見つけたんだ…
〉リオン…まさか…
〉見つけたって…まさか…
〉宿毛アキ親衛隊は今日解散する…、そして新たに『サンセット親衛隊』を発足する!!
高らかにリオンが宣言し、サンセットを指差す。
は?
〉え?
丘の上、雲間から光が差しサンセットを照らす、ビックリして振り返るサンセットに親衛隊のメンバーは心を奪われる。
〉この方が…
〉おい、まさか…
〉まさか、船上の女神様なのか…?
〉間違いない…幽霊船イベントで会った女神様だ!!
そう言えば、ここにいる5人くらいは船上で見た気がする…
〉みんな、知り合いだったのか?
〉リオン、お前の目は間違いない、俺はこの方に忠誠を誓う
〉俺もだ!
〉僕も!
〉では!
〉サンセット様の親衛隊、全員異議なし
あまりの展開に俺とサンセットは呆然としていた…
〉ちょ、ちょっと!
〉言わないで下さいサンセット様
そう言って全員サンセットの前にひざまづく。
〉し、ショウタ…
〉スゴいな、これがチャームの魔法か…初めて見た…
〉何言ってんの!!みんなもこんな冗談は止めようね!
〉いえ、ボク達は真剣です
〉そんなこと言われても…ショウタ…
〉親衛隊のいるキャラなんて、やっぱサンセットはスゴいな
〉他人事みたいに言わないで!!
≪フリーシア湖≫
〉なんなんだこれは…
〉オウガ…えっと…その…
〉サンセット様のギルドマスターですか?
〉サンセットさま…?
〉ボク達はギルド『サンセット親衛隊』のメンバーです、よろしくお願いします
〉親衛隊…って…
サンセットを見るオウガ…
〉えっと…
〉うわ、サンセットちゃんとうとうファンクラブまで作っちゃったの?
カチュアがびっくりして話し出す
〉違います!!
全力で否定するサンセットだが、他のギルメンはサンセットならやりかねないって感じだ。
〉いやー、先ほどのチャームの広範囲魔法、皆さんにも見せたかった。
〉ショウタ!怒るわよ!
〉君は?
しまった、今はツバサじゃ無かった…
〉緊急クエストの時サンセットの近くにいたショウタといいます、この前はあまり挨拶出来なくてすいません
〉いいって事よ、それよりサンセットの奴はまた禁断の魔法を使ったのか?
〉おそらく
〉ショウタ!!それ以上言うと一生話さないからね!!
〉ごめんごめん…
〉えっと、俺も親衛隊に入っていいかな?
〉マックス何言ってるの!
〉いや、なんかおもしろそうだし
〉もちろんOKです、ギルドカードをトレードしますね♪
ギルメンからも親衛隊員が誕生した。
①親衛隊はサンセット様の下、みな平等
②サンセット様の行動を陰から手助けする
③危険がある場合、自信が滅んでもサンセット様をお守りする
④そして、サンセット様の意見は全てに優先する
〉以上です、マックスさんよろしく
〉よろしく!
〉よろしくない!即刻、解散しなさい
〉申し訳ありません、それだけは聞けません
〉うぐぐ…
〉じゃ、俺はこの辺で…
〉ショウタ!責任取りなさい!!
〉は?何の責任だ?
〉ショウタさん、責任を取ってもらいます、でなければ親衛隊全員があなたの敵になりますよ
怖いよリオン…
〉責任って、何をすればいいんだ?
〉親衛隊から私を守りなさい!
〉話が無茶苦茶だよ…お前を守ってる親衛隊だろ
〉サンセットちゃんはハルトに守ってもらえばいいんじゃない?こっちのハルト似のお兄さんは私が面倒見るから♪
〉カチュア!!
〉何、自分ばっかり何人も!いいでしょ一人くらい!
〉ショウタはダメ!
〉だったらハルトを諦めなさい!
〉お前ら昔みたいにケンカするな!
〉オウガうるさい!
〉オウガ黙りなさい!
〉おう…
サンセットとカチュアのケンカは続いている、俺の所に追い払われたオウガがやって来た。
〉おつかれ
〉お疲れさま、ギルドマスターも大変ですね
〉おうよ
〉今日はもしかして精霊界に?
〉だったんだが、サンセットがあれじゃあな…
〉ですね…
〉まあいいだろう、仲間が思い通りに動かないのもネトゲの楽しさだからな
〉確かに…
いつの間にか、サンセットとカチュアを中心に親衛隊とギルドメンバーで輪が出来ていた。
みんな、なんて言うかほのぼのと二人を見ている。
まてよ…あの位置は…
「オウガさんすいません、リアルで用事が出来てしまったのでいったん落ちます」
「おう、おつかれ」
俺は森の奥に移動しログアウトした。
そして、ツバサでログインする。
俺はケンカしている二人の間に出現した。
近距離でにらみ合いをしてる二人の間なので、まるでキスされてる状態になる。
〉えっと…、そう言う歓迎の仕方はちょっと照れるんだが
〉あ!ハルト!!
〉お兄ちゃん!
〉ばんわ…って、なんだこれ??
俺はわざと周りを見回した。
〉えーと、そのー
〉な、なんと言うか…
〉サンセットとカチュアがケンカして、どうもできない男共が遠巻きに見てる図だな
オウガが答えてくれた。
〉なるほど…
〉違うのお兄ちゃん!
〉そう、サンセットがワガママで!
〉カチュアだってそうでしょ!
〉・・・。
〉ハルト?
〉お兄ちゃん?
〉うん、大丈夫続けて。もう少しで二人の事キライになれそうだから(笑)
〉!
〉え!
俺はオウガの隣まで移動し二人を見た。
〉あ、あの…ゴメンなさい…
〉私も大人げなくてすいませんでした…
〉俺に謝ってどうすんだよ…
〉あ、ゴメン
〉うん、私も言い過ぎた…
〉そか、二人仲良くな、じゃ俺は行くから、またな。
〉え?お兄ちゃん何処へ?
〉ハイランドに帰るだけだよ
俺はシュートと走ってその場を離れた、あとはオウガがなんとかやってくれるかだろう。
森を出た所で、マスターの一行に遭遇する。
〉おーい、ツバサー!
キャロラインが手を振っている、無視する訳にはいかなくなった…
〉キャロお疲れ、ネージュさんこんばんは
〉え?ツバサさん?
〉ツバサお兄様!!
ハルカが飛び付いてくる、えっと…どうしよう…
〉え?あ、幽霊船のイベントの時の!
〉そうですよー、もうハルカの事忘れたんですか?
〉リッカです、あの時はありがとうございました。
〉うん、俺も二人に助けられたし、ありがとう。
〉あの時のドラゴンナイトって、ツバサさんだったんですね。
〉そっか、ネージュさんとはスケルトンだらけの船の上で会ってるのか、そう言えばエルフの忍者いたなぁ…
〉へへへ
ハルカが嬉しそうに抱きついている。
〉ツバサの浮気者…
キャロラインがちょっと不機嫌になっている。
〉ち、違うだろ!
大月、お前は何を言い出すんだ!
〉だって、この前から女の子ばっかりに手を出してるじゃん!
〉女の子じゃなく女キャラだから、この前も今日も女キャラばかりってだけだから、きっとみんなリアルで男だから!
〉ハルカ、可愛い系の女子ですよ。
〉リッカもおっとり系の女子です。
〉う…
〉みんな、ネットでそんな事言うのは…
ネージュが止めに入る。
〉私も女子だから、ネージュ以外は浮気じゃん!
〉私も可愛い系の女子です!!
ユキカ、乗るんじゃない!!
〉おい、ネージュさんだけはまともでいてくれ…
〉あ…
〉ハルト!
森からカチュアが走って来る。
〉どうしたんだ?精霊界に行かないのか?
〉うん、誰かに精霊のイベントが発生しないか夜まで待つんだって…
〉そっか
カチュアが抱きついているハルカを見る…
〉ハルト…その子は誰かしら(怒)
〉えっと…
〉お兄ちゃん!
サンセットもやって来る、現時点で生命維持装置が必要なほど俺の頭痛は激しくなっている。
〉お兄ちゃんですって??
ハルカの目が光る。
サンセットもツバサに抱きついているハルカを捕らえる!
〉何度も何度も貴方って人は!!お兄ちゃんから離れなさい!
そう言って弓を引く!
〉あの人、ツバサお兄様の妹なんですか?
〉えっと…、君と同じでそう言う設定なのかな?
ハルカは俺に抱きついたままサンセットを見る。
〉べーー!
舌を出した、ついでに隣にいるカチュアにも舌を出す。
〉べーー!
〉何この子は、私を挑発して生きて帰れると思わないで下さいね
〉ちょ、ちょっと!ハルカ、あなたのお兄様はショウタじゃないの?
ネージュが止めに入ってくれた。
〉ショウタお兄様ですよ、でもツバサお兄様は同じ匂いがします、だからいいんです。
〉何なのその理屈は…
見抜かれた…ハルカスゴいなぁ
〉そのショウタさんなら、今湖にいますけど!さっさとハルトから離れて湖に行きなさい!
ハルカが少しビクッとなる。
〉え?そうなの?
〉その人は私のお兄ちゃんです!離れなさい!!
サンセットは攻撃する気満々でハルカを狙ってる。
〉ゴメンなさいツバサお兄様、私行きますね、バイバイ♪
ハルカは離れて森に走って行った。
〉えっと、私もショウタさんの所に行きます。
〉じゃ、私も…
ネージュとリッカもハルカを追いかけて走って行った。
〉ハルトって、モテるのは知ってたけど、あっちでもこっちでも何なの!
〉何なのと言われても…
〉お兄ちゃん、あの生意気な子と知り合いなの?
〉う、うん幽霊船のイベントでちょっと…
〉幽霊船?
少し考えるサンセット。
〉あ!あの時のドラゴンナイトって、お兄ちゃんだったの?!
〉ん?そうか、女神とか呼ばれてたアーチャーはサンセットだったか
〉女神ねぇ…
〉なに?!
〉なーんでも!
〉なんなの!!
〉二人とも、いい加減にしろ。
シュンとする二人、案外カチュアも素直ないい子かも?
〉ところで…、私が見えないの?それとも、わざと無視してるの?(怒怒怒)
キャロラインが腕を組んで怒っている、コビットなので俺の視界には入っていなかった。
〉あ…
〉えっと、ハルトのお知り合いでしたっけ?
〉ツバサの彼女です!!
〉おい!!
なにキレてるんだ大月!
〉ツバサはあなた達には渡さないと言ったでしょ!、それにツバサはハルトじゃない!分かってるよね!まったくの別人!!
〉おい、キャロ!!
〉ツバサもなにハルトを演じてるの!
キャロに言われ落ち込む二人…
〉わかってるよ…、わかってるよそんな事!!
〉サンセット…
サンセットが湖の方に走って行く、泣きながらに見える。
〉キャロさん、ゴメンなさい
カチュアも湖に向かい歩いて行く、うつむいたままだ。
二人とも落ち込んでる…サンセットはかなりショックみたいだ。
「下川口…、私…」
大月から直接チャットが届いた。
「彼女うんぬんは置いといて、あの子が宿毛でなくても、あの様子…ちょっとまずいかも…」
「私…そんなつもりじゃ…」
「分かってる」
大月は冗談でいろいろ言うが、悪気がある訳じゃない。
「ううん、違う…私、嫉妬したの…」
「え?」
「もう、下川口を取られたくないって、中学の時のあの日は嫌だって…」
「大月…」
いつもの大月じゃない、でもこれがホントの大月かも知れない、繊細な心を冗談で隠してるのかも…
「覚えてる?ユキカと付き合うあの日まで私はショウタって呼んでたんだよ、私の事はアカリって呼んでくれてたんだよ…」
「…」
「私は今でもショウタの事が好き」
夏休み明けの通学路、冗談ぽく告白してきた大月…
今日はそうじゃなかった、俺は…
「ごめん、俺には…」
「私、みんなの所に行くね」
キャロラインが森へ走って行った。
「今でも好き…、か…」
部屋の天井を見上げる…
たしかに、昔はアカリって呼んでたな、ユキカと付き合う様になって、ユキカ以外の女子は名前で呼ぶの止めたんだっけ…
宿毛の時は好意を示されても現実味がなく平常心でいられた、大月は長い付き合いなだけにちょっとキツいな…
俺にはユキカがいる、答えが出てるのに迷うな!
バチッと両頬を叩く。
今、やるべき事はなんだ!?
サンセット、宿毛があんなになるなんて…、行かなきゃ
急ぎショウタにログインし直す。
こっそり湖畔を見たがサンセットは帰っていなかった、マスターやハルカはそこにいた、オウガからログアウトしたと教えてもらってるだろう。
サンセット、何処へ?
森に戻ったのは見えたけど、一人になりたいって事か…
俺は森の周辺を走った…
旧王家の墓地…
湖の森の東の外れに、エルフィランデル王国以前にこの地を納めていた王国の墓地がある。
墓地と言ってもほとんど朽ち果てており、スケルトン等の討伐イベントでしか使われていない…
その墓地にサンセットは立っていた。
中央の王子の墓碑の前、ナイト装備の王子の像がそこにある。
「あ、ショウタ…」
「どうしたんだこんな所で、もうすぐ日が暮れるぞ」
夜になればスケルトン等がうようよするのはクエストをしている冒険者なら知っている。
「ショウタはどうしたの?」
「え…っと、たまたま」
「たまたまこんな場所に来たの?変なの(笑)」
「なんか、いつもの場所が精霊界のゲートがあるから、新しい釣り場でも探そうかと」
「そうなんだ、でもここは…」
「そうだね、水無いし…」
「あはは」
笑ってるけど、やっぱりいつもと違う感じがする…、顔もこっちを見てくれない。
「さっきはごめんな」
「え?」
「親衛隊の事、まさかあんな展開になるとは思わなかった」
「そんなに私って魅力的かな(笑)」
「だと思うよ」
「そんな魔法があるなら、なぜ好きな人には効果が無いんだろ…」
「まぁ、好きな人は魔法でなんて好きになってほしくないからじゃないか?」
やっとこっちを見てくれた、でも悲しそうな雰囲気は変わらない…
「そうだね、なるほどそう言う事か納得した」
俺は普段通りに話そう、慰めるとかそんな感じじゃなく…
「どうしたんだ?」
「ここね、初めの頃クエスト来ただけなんだ、こんなに長くゲームしてるのに今日が2度目…」
石碑に手をやり話し出すサンセット。
「そうだな、ここはあまり来る機会が無いな」
「その時の帰りね、この王子の像を見てたらメンバーとはぐれちゃって、周りはスケルトンだらけ、怖くて石碑の影に隠れてたんだ」
「…」
「そしたら、お兄ちゃんが助けに来てくれて周りのスケルトンを全部片付けてくれたの、今思えばレベルの差があるから簡単だったんだろうけど、その時はほぼ初心者だったから感動したなぁ」
「そっか」
「そんな無敵で頭が良くてカッコいいお兄ちゃん…、1年ちょっと前に交通事故で死んじゃった…」
「え…」
死んだ?ハルトさん交通事故で亡くなってた?
「もう、なんだろね、妹がお兄ちゃんを好きになっちゃったからいけなかったのかな?、私の好きな人は神様に永遠に奪われちゃった…、でも、そんなの、そんなの辛すぎるよ…」
「宿毛…」
「忘れた!頑張って忘れてたの!でもFK7でショウタに会ってお兄ちゃんみたいで楽しくて、プールでショウタさんに会って夢みたいで、お兄ちゃんそっくりのキャラに会って有頂天で…、それで今、もう一度お兄ちゃんが死んだのを思い出して…」
「サンセット…」
「ショウタ…私…胸がくるしい…」
まさか、そんな事って…あんなに明るい宿毛にそんな過去があるなんて…
「サンセット、今は泣いとけ」
「うん…」
サンセットが抱きついて来た、そのまま沈黙が続いている、パソコンの前では宿毛が泣いているだろう。
俺は何も出来ない。現実に対しては無力だな俺って…
黙って待つしかない、俺はそれしか出来ない…
それしか…
「ショウタ?」
しばらくして、宿毛がちょっと泣き止んだのか声をかけてきた。
俺はと言うと、溢れるスケルトン集団を片っ端から斬り倒していた、サンセットに近付く奴は容赦なく切って切って切りまくる!!
「どうだ、一緒に気晴らししないか?」
「うん♪」
サンセットは弓ではなく短剣でスケルトンを斬る、斬る、斬る!
「敵はウジャウジャいるぞ!いけー!!」
スケルトンはどんどん地面から出てくる。
「バカー!、神様のバカー!、私からお兄ちゃんを取り上げて、何が楽しいんだ!!」
サンセットが突然叫びだした、俺も一緒に叫んだ。
「そうだ神様なんてバカ野郎だ!」
「お兄ちゃんのバカー!私を一人にして、心配じゃないのかー!」
「そうだアニキが全部悪い!」
「私のバカー!いつまでも落ち込んでるなんて!お兄ちゃんに笑われるじゃないか!」
「そうだ自分を変えるんだ!」
これで全てを忘れるって事にはならないだろう…、けど少しは…。
「ショウタのバカー!いつもいつも優しくて暖かくて、本気で好きになったらどうするんだー!」
「え?ちょっ…お前…」
「私は有名なアイドルだぞ!宿毛アキだぞ!ファンのみんなのために恋愛なんてしちゃダメなんだぞ!!」
「…」
「ショウタなんて、ショウタなんて、大好きだぁー!お兄ちゃんより大好きだー!!」
「お…」
墓地に朝日がさしてきた。
日にあたり、スケルトンは次々に消滅していく。
「あースッキリした(笑)」
「さ、サンセット…」
「いいショウタ、FK7のショウタの彼女は最初から私だからね♪」
サンセットがウィンクする、いつものサンセットだ。
「そう…だったね(笑)」
サンセットは王子の像を見る、明るい場所でみるとハルト(ツバサ)のナイト装備に見える。
「私の中のお兄ちゃんはきっと一生無くならない…、でもさっきまでの苦しい感じゃなく暖かい感じに変わった…」
「そっか」
「ありがとう、ダーリン♪」
「だ、だ、だ…」
「おぉ、なんかいい響きだ♪これならあの『お兄様』に勝てそう♪」
「サンセット…まさかみんなの前でそれ使うの?」
「ダーリン♪みんなの所にもどるよー♪」
サンセットは走り出した。
「うそ…、それはやめて…」
俺は、固まった…
〉遅い!!
オウガがイライラしながらサンセットを待っている。
結局、ギルメンも親衛隊も精霊王のイベントは発生しなかった。
〉お待たせ♪
サンセットが走って来る。
〉遅い!何処へ行ってたんだ!
〉まぁまぁ戻って来たんだから、サンセット大丈夫?
カチュアがさっきのハルトの件を気にして話す…
〉大丈夫!!、それよりも、誰も精霊王に会えなかったの?
〉うぐ…
〉そうなんです、サンセット様のお役に立てず申し訳ない…
サンセット親衛隊を代表して、ギルメンのマックスが答える。
〉マックス!その言い方やめて!
〉お断りします。
〉まったく…でも、精霊王に会いやすくなったってオウガ言ってなかった?
〉会いやすくなったはずなんだが…
〉ダメでした…
みんなガッカリしている、紋章持ちがいなければ、おのずと精霊界に行けるメンバーが制限される。
〉たしかに、オウガにはウンディーネよりサラマンダーが似合ってるし、カチュアなんかシルフって感じだよね♪
〉!
〉あーッ!!
〉そっか!
みんなサンセットの言葉にハッとなる。
〉そうだ!その通りだサンセット!
オウガが吠える!
〉なに?なにがその通り?
〉本日の世界樹攻略は延期とする、代わって炎と風の精霊に会いに行く!
〉了解!!
〉おK!
スカイブルーのメンバーが準備を始める。
〉サンセット様の負担を軽減するよう親衛隊も精霊のイベントに参加する!
〉ヨッシャ!
〉楽しくなってきた(笑)
〉行こうサンセット様の高みへ!
親衛隊のメンバーも盛り上がる。
〉えっと…、私は?
〉今日はおしまい、ネージュさん達とでも遊んでて♪
〉えーッ!
〉さんざん待たしといて文句言うな!
〉テレポート準備できました!
〉よし!まずはデトライトの火山に飛ぶ!
〉ウィザードの魔方陣が完成し、陣内が青白い光に満たされる。
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
テレポートの魔法でみんなが消える、サンセット一人残して…
〉ふられちゃったみたいだね~
ハルカがサンセットに話しかける。
〉うん、ふられちゃった
〉あの、サンセット…
キャロラインがサンセットに近寄る、リッカとネージュが横にいる…
〉ゴメンね、さっきはなんかムキになって…
キャロラインは素直に謝った。
〉ううん、こっちがゴメンなさい、カチュアもだけど、なんか懐かしくて勝手に話を進めてた…
〉そっか…
〉ツバサさん、いい人ですね(笑)
サンセットが笑って話す。
〉いい人じゃないよ、ひとの気持ちも分からない鈍感やろうだから…
〉ツバサお兄様はいい人ですよ♪
ハルカが答える。
〉あんたに何がわかるの?
キャロラインがハルカをにらむ…
〉だって、ショウタお兄様と同じ匂いがします、ショウタお兄様と一緒なら絶対いい人ですよ、たぶんリアルは同じ人です♪
〉え!
〉ホントですか!?
〉マジ!
〉うそ…
〉まさか、ハルカさんはリアルのショウタさんを知ってるんですか?
〉それは知らない、でもわかるよ。
〉キャロはツバサさんの彼女だっけ?
〉あ…うん
〉じゃあ、ショウタさんはキャロラインさんの彼氏って事になりますね。
〉それは無いよ、キャラの顔は似てるけど。
〉そうだよ、ショウタとは初心者からの付き合いだけどツバサさんとは違う。
〉私もショウタとお兄ちゃんは違うと思う…
〉くすッ、やっぱりこの中でショウタお兄様に相応しいのは私ですね♪
〉なぜそうなる!
〉お兄様と心が繋がってるからですよ~♪
〉わかってるハルカ、キャロの彼氏だよ、ダメじゃんそんな事しちゃ
〉なぜですか?
〉なぜって…
〉彼女がいるって、好きな人を諦める理由になるんですか?
〉なるでしょ!
〉ならないですよ、好きな人を諦めなきゃいけないのは、その人が悲しむ時だけです。
〉!
みんな、びっくりした顔になる、サンセットはまじまじとハルカを見ている。
〉あんたって、子どもかと思ってたけどリアルはスゴい年上?
〉ハルカは可愛い系の女子ですよ♪
〉いいの?彼氏がいる人を好きになっても?
サンセットがポロッと話す。
〉ダメだよ!
〉そっか、ネージュはダメなんだ…、みんなは?
リッカとキャロラインは沈黙する。
〉キャロ!ダメだよね!
〉私は…
〉ツバサさんの話だよ!
〉もう、好きになっちゃったんだから仕方ないですよ~彼女さんがいても♪
〉私、ショウタさんもツバサなのか聞いてくる!
〉ダメですよキャロさん、お兄様がそうしてるのはきっとハルカやみんなの為なんです、そう言う人なんですお兄様は。だからそんな些細な事を聞いちゃダメです。
〉う…
〉な、なんか悔しいんだけど…
〉うん…
〉ハルカさんって…
〉エヘヘ♪
〉なんだろ…ちょっと落ち込んできた
〉うん…
〉私、お兄様の所にいきますね♪
ハルカが森の中へ駆け出す。
お兄様~どーこですかー♪
その頃、俺は途方にくれていた…
もし、サンセットがユキカの前でダーリン発言したら…
「ショウタ、そこに座りなさい」
「はい…」
「ショウタの彼女は誰かしら」
「え?」
「だ・れ・か・し・ら」
「ユキカ…さんです」
「そうよね、私よね」
「はい」
「じゃ、なに?このダーリンって」
「ニックネーム?」
「そんな訳ないでしょう!!」
「ですよね…」
「何をしたの?」
「へ?」
「アキちゃんに何をしたー!!」
…想像するに、以前のサンセットとユキカのバトル以上に恐ろしい…
どうする?しばらく身を隠すか…
〉お兄様~発見~♪
ハルカが飛び付いて来る、よしよし…って、ヤバイなんか癖になってる…
〉ハルカ、こんな所にどうした?
〉お兄様レーダーの反応をたどってきました♪
〉相変わらずスゴいなハルカは
〉エヘンッ
〉それで…、みんなは?
〉なんか、あっちで凹んでます~
〉ヘコんでる?
〉はい♪
〉なんか、あったの?
〉何ですかね~、みんな私に負けたって感じかな(笑)
満面の笑顔で俺を見る。なんか、ほんとにこんな妹がほしくなってきた…
〉お兄様、ハルカ行きたい所があるんですけど…
〉ん?何処だ?
〉エドマチ♪
〉ああ、デトライトの近くでサムライとかのイベントがあるとこか
〉お兄様行った事あります?
〉無いけど、レベル的にはオアシスの町バジルくらいだから問題ないかな。
〉連れてって♪
今日はキャロラインとサンセットに告白されてるし…なんか、みんなと合流するには抵抗ある…
〉じゃ、みんなに見つからない様にそーっと行くか(笑)
〉はい、お兄様♪
俺とハルカは森をこっそり移動し、高原と砂漠を一気に駆け抜け、港町ガバルに到着する。
ハルカは、お兄様と二人旅♪と言う変な歌を作って笑っている。
「でも、お兄様と二人って思いませんでした♪」
「そう言えば、二人っきりは最初にレベル上げして以来だね」
「はい♪なんか幸せです♪」
「そんな、死亡フラグたてるなよ」
「あはは♪」
デトライト方面の港町、サカイムラ行きの定期船に乗る。
こっちの定期船はなんか屋形船みたいだな、幽霊船に襲われたら戦う場所が無いぞ…
「ハルカはなんでエドマチに行きたいの?」
「10月から開始のアニメの主人公がエドマチ出身なんです♪」
「そうなんだ」
「主人公はヒューマンでデトライトから物語は始まるんですが、とんでもない敵に襲われたり恋あり謎あり…って♪ワクワクです♪」
「とんでもない敵ってゴーズかな?あれは死ぬ(笑)」
「ハルカは今、アニメの世界にいるんです、これってアニメ好きにはたまらないです♪」
「そっか、主人公に妹がいれば俺たちみたいだな」
「いるんですよお兄様♪だから一緒に行きたかったんです♪」
「そうなんだ」
「その子は、あにさまって呼んでますけど」
「まさか、兄が大好き系?」
「もちろんです!妹が兄を好きになるのは当然です♪」
「どこの当然なんだか…、あ…一人いるなぁ」
「でしょ、でしょ」
「でも、いずれ誰かに取られるんだから悲しい立場だな妹って」
「…そう…ですね」
あれ?妹にこのセリフは禁句だったのかな?
「俺も見ようかなFK7のアニメ」
「是非!!」
まもなく、港町サカイムラに到着します。
「お?着いたな」
「着きました♪」
ハルカがまたお兄様と二人旅を歌い出す、リアルは歌詞だけじゃなく音楽もついてるんだろう。
サカイムラ、瓦の屋根があり昔の日本な雰囲気だ。
ちょっと興味はあったが、ハルカと共に東の街道を進む。
「エドマチはどのくらいでしょう?」
「そうだな、オアシスのバジルから港町くらいだと思うけど」
「東海道二人旅ですね♪」
「そうだな♪」
「お兄様と旅行行きたいな~♪」
「新しい歌か?」
「本音がポロリと出ただけです♪」
「そっか」
海沿いの街道を進む、草原に川、海岸には砂浜や岩場、防砂林なのか松林なんかがあり、日本的な雰囲気が漂う。
敵対生物はヤマイヌ、ヤモリ、蜂系が現れるが全く敵ではない。
「全体的に日本な雰囲気だな」
「はい、なんかデトライトが鉱山の町って言ってたので、エルフの国にしたけど、こっちでもよかったかも♪」
「うん、しばらく滞在しようかな」
「お兄様、わたしも!」
「エルフィランデルに帰らないと、みんなとレベル上げ出来ないぞ」
「お兄様と一緒がいいんです♪」
「友達も大事だろう」
「楽しみかたは人それぞれだと思いますよ~」
と正面に高い山が見えて来る。
「お!位置的には富士山か?」
「富士山♪」
「となると、エドマチはあの山の向こう側だな」
「もうすぐですね♪」
勝手に富士山と名前をつけた山を目指し街道を走る、山に近づくと山頂から少し噴煙が上がっているのが見える。
「炎の精霊がいる場所はあそこかな?」
「炎の精霊ですか?」
「デトライトの火山、ハイランドの風の谷、エルフィランデルの湖が精霊のいる場所らしい」
「そうなんですか」
「ハルカは風の精霊かな?紋章もらいに行ってみる?」
「ハルカ、紋章はいりませーん♪」
「そっか」
「あ、お兄様と同じ紋章なら欲しいかも…」
富士山を通り過ぎ、山道を越えた先の平原の中央にエドマチが見える、敵はもう襲ってこなくなっており、何事もなくエドマチに入る。
江戸の町…印象はそのままで古い日本の町並みがある、ナイト装備やハルカのプーリスト装備はかなり違和感があるが、意外に冒険者が多く俺たちが目立ってる訳ではない。
サムライと忍者のジョブイベントの関係だろう。
「子供の頃、夏休みに行った日光江戸村思い出すなぁ」
「あ、ハルカも行きましたよ!」
「忍者屋敷とかあって、かなり面白かった記憶がある」
「はい♪」
堀にかかった橋を渡る、向こう側で泣いている子供が目に入る、NPCかな?
何かを思い出せそうな雰囲気だ。
「江戸村って子供にはけっこう広いでしょ、ハルカ、迷子になったんですよ」
「いたなぁ迷子の女の子」
「あの子みたいに、お堀の前で泣いちゃって…」
「そうそう、俺の持ってた飴で泣き止んで」
「うん、大きなぐるぐるキャンディー♪美味しかった♪」
「一緒に親を探したんだよな」
「手をつないでくれて嬉しかった、たしか夏休みの絵日記に書いたなぁ♪」
「お母さんが見つかっても、一緒に行くとか言い出して、結局帰るまで一緒にいたんだよな」
「あはは、なんか同じ様な思い出ですね♪」
「そうだな、たしかその子の名前は、あ…」
「あ!!ショウタお兄ちゃん!!」
「ハルカちゃん…だった気がする」
「そうです、私です!姫ノ井ハルカです!!なんて運命的な出会い♪」
「こら、さらっと本名言うんじゃない!でもウソだろ、あの時のハルカちゃんなのか?」
「お兄様もリアルの名前を使ってるんですね♪」
「まさか、こんな偶然でバレるとは思わなかったが…」
「最初に会った時ちょっとだけデジャブを感じてたけど、そっか江戸村のお兄ちゃんだったんだ♪」
「おっきくなったなハルカ(笑)」
「そんな事言われたら、会いたくなっちゃうじゃないですか(笑)」
「2~3才くらい年下だと思ったけど、ハルカはもう中学生かな」
「来年、高校受験です…」
「中3って事? うわ、ゲームしてる場合か!」
「お父さんみたいな事言わないで下さいー!」
「あはは♪」
「もう…」
「でも、アニキ的にはそろそろ勉強させないといけないな、よし今日の所は解散♪」
「えー!!」
「頑張れ高校受験♪陰ながら応援してるぞ」
「陰じゃない所で応援して下さい!」
「それじゃ、あの桜の木を待ち合わせ場所にしよう、ログインしてる時は定期的に顔を出すから」
「はい♪」
「じゃ、おつかれ」
「お疲れ様です、お兄様♪」
■体育祭
「明日、体育祭なんですか?」
「ハルカの学校はまだ?」
「10月の最初の土曜日です」
入試を控えていると分かった為、一日一時間と決めてハルカとエドマチの探索をしている。
大月や宿毛はあれから何かとよそよそしい、恥ずかしいのかユキカに悪いと思っているのか分からないが…
そのユキカもちょっと変な感じだ、あれほどしていたFK7の話をまったくしなくなった。
宿毛と大月に告白されたあの日、マスターの所にみんな集まったはず。
なんかあったんだろうな…
ユキカは自分を隠してるしキャロラインが大月とは知らない…、じゃ、サンセットに何か相談されているって所かな。
「お兄様?」
「ゴメン考え事をしてた、何だっけ?」
「あの…、お兄様の体育祭に行っていいですか?」
「え?」
「あの…えっと、お兄様を調べたとかそう言うんじゃ無くて…その…」
なんか、昔会った事があるって知ってから、このあたふたする姿も可愛いと思ってしまう。
「まぁ、ハルカなら直感で俺を見つけそうだし、もう驚かないけどね(笑)」
「えっと、この前江戸村の話をした日に懐かしくて昔の絵日記探したんです、そしたらハガキが出てきて…」
「ハガキ?」
「お母さんに聞いたら、私…お兄ちゃんと離れないって帰りに駄々をこねたらしく、帰ったらお兄ちゃんに手紙を出すって事で納得したんですが、その時にお兄様のお母様に住所を聞いたらしく」
「そこに書いてた?」
「いえ、私の手紙の返事がお兄様からあって、それが見つかって」
返事を書いたのか…、と言うかハルカから手紙が来てた事も忘れちゃってる…
「ゴメン、まったく記憶がない…」
「いえ、いいんですハルカも忘れてたし」
「そのハガキに住所が書いてあったって事か」
「はい、たぶん住所とかはお母様が書いてるみたいです」
「そっか、えっと、体育祭ね…」
「ダメ…ですか?」
「うちって家から近いの?」
「電車で二駅くらいです♪」
「え?ハルカそんなに近くにいたの?」
「あ、これもお兄様が関係するんですが…」
「え?」
「あの時、両親がマンションを購入する話をしてたんですが、私がお兄ちゃんの近くがいいって聞かなかったらしく…」
「ははは…」
「小学校とか転校しなきゃいけないからって両親は説得したらしいんだけど、それでもいいって断固として引かなかった様で…」
「ハルカの兄LOVEは、笑うしかないレベルだね」
「自分でも恥ずかしいです、でも実際は転校して大変で、もともと人見知りだったから新しいクラスに馴染めなくて…、そのうちボッチが当たり前になって…、お兄様の事も忘れて…」
「まだ、子供だから仕方ないよ」
「ううん、ハルカは今でもそう…迷子で泣いてたあの頃と全然変わらない…」
「ハルカ?」
「お兄様が…、いえ、何でも無いです」
「体育祭来てもいいけど、俺がわかるのか?ってハルカには愚問だな」
「はい♪すぐ見つけますよ♪」
「まさかだけど…お兄様って飛び付く気は無いよね…」
「いやいや、気持ちを押さえきれずやるかも知れません♪」
「勘弁してくれ…」
≪体育祭当日≫
「どうだった校庭の様子は?」
「大丈夫、学生の関係者ばかりにしか見えない」
「人数的にも去年位だと先輩が言っていた」
「学校外周も不審者なし!!」
清水、中村を中心にした『プロジェクトA(AKIを体育祭に参加させる会)』のメンバーからぞくぞく情報が入ってくる。
「アキちゃん!」
清水が親指を立てグッドのサインを送る。
「ありがとう!みんな♪」
メガネ&ポニーテールで変装(?)した宿毛が最高の笑顔でみんなに答えると、よーし!等の歓声が上がる!
「よかったね、アキちゃん♪」
ユキカが喜ぶ。
「うん、ありがとう♪」
「引き続きメンバーは自分の種目以外は監視体制で待機!!終了は女子リレースタート時、全員で赤組のアキちゃんを応援する!」
「了解!!」
清水の号令の下、男子全員各所に散らばる。
「あのね、白組の私も応援して欲しいんだけど…」
リレーの代表、赤組の宿毛と走る大月が白のハチマキを絞めながらボヤく…
「仕方ないかなぁ…」
三原が笑いながら言う。
「アキを追い抜いちゃったら私ブーイングの嵐にさらされるんだけど…」
「あはは♪」
「アカリ!手加減は許さないよ♪」
「アキのそう言うとこ嫌いだよ♪」
女子全員が笑う。
「そう言えばショウタさんは?」
宿毛が大月に聞く。
「ショウタは実行委員席にいるよ、今日は私の委員会の仕事も全て任せたから、ずっとそこかな?」
「さ、周りは男子に任せて、私たちもそろそろ行こう!」
「はーい♪」
紅白の応援合戦から始まり2年男子の100M走、3年女子の障害物競走、ユキカや三原が参加する1年女子の借り物競走と続く。
最初にユキカが走る、三原は5番目位だ、応援席から大月や宿毛が応援している。
位置について、よーい、バーン!!
ユキカが一人分飛び出す、なんか足が速くなってる!?
1番で走り借り物のくじを引くユキカ、だがその場で固まる…
「あちゃ…せっかく1番だったのに運の悪さは変わらずか…」
大月が宿毛に話す。
「何を引いたんだろうね♪」
宿毛がワクワクしながらユキカをみる。
しばらく固まっていたが、決心して実行委員席の俺の所に走ってくる。
「ショウタ来て!!」
「え?」
「早く!」
俺はユキカと手をつないで走る、ユキカの顔は真っ赤だ。
「彼氏とか書いてたかな?」
「アカリ達が用意したんでしょ」
「ハズレは2~3枚のはずだったんだけどね♪」
舌を出す大月だが、手をつないで走る2人を複雑な表情で見送る…
〉ショウタく~ん、頑張れ~♪
応援席から黄色い声援が飛ぶ、ユキカの顔が違う意味で赤くなる。
「え?誰、あの美人?見たことあるような…無いような…」
大月が応援席に視線を送る。
「あ、ユキカのお母さんだ…」
宿毛が答える。
「あ、そうだ!ユキカのお母さんだ!相変わらす若くて綺麗だね!でもなんでショウタの応援?ユキカじゃないの?」
一応3位入賞だった。
「なんて書いてたの?」
「いいの、ショウタは知らなくていい!」
「気になるなぁ…」
俺は実行委員席に走って戻る。
競技は続き、三原の順番が来る。
「レナ!頑張れ~」
「いけー!!」
位置について、よーい、バーン!!
三原はちょっと足が遅い、それなのに胸が揺れるのを隠しながら走るからさらに遅くなる。
当然一番最後にくじを引く…、そして固まる…
「あれれ…レナもハズレ引いたのかな…」
「もう、アカリ何やってんの!」
「だから、2~3枚しか無いってハズレは、他のみんなはボールとか取ってんじゃん!」
「あ、またショウタさんの所に行ってるね…」
「ショウタ…モテるね…」
「うん…」
「下川口君来て下さい!」
真っ赤な顔で手を出す三原。
「は? わ、分かった!」
俺は三原とも手をつないで走る事になった、三原のスピードに合わせて走り当然の最下位だった…
「なんて書いてたの?」
「え?言えませんそんな事!!」
更に真っ赤になって目を背ける三原。
「ええー?そんな事ってどんな事?」
三原は集合場所に走って逃げる。
集合場所のユキカと目が合う、ユキカの隣に座った三原とも目が合う。
その向こう側、複雑な顔をした応援席の大月、宿毛とも目が合う。
そして客席の少女とも…
客席のロープを飛び越え、少女が俺の胸に飛び込んできた。
「お兄様♪」
「え?ハルカか?」
「はい♪」
ゲームのハルカと変わらない可愛い笑顔にちょっと笑みがこぼれてしまった。
瞬間、俺の背中に槍のような視線が複数突き刺さる…
≪集合場所サイド≫
「ショウタ!」わなわなわな!
「誰ですか!?下川口君!」ドドド!
≪応援席サイド≫
「だれ!」ムカムカ!
「何してんのショウタ!!」ゴゴゴ!
≪客席サイド≫
「ショウタくん!」ブオッ!!
「お、お母さんどうした??」
背中の視線が痛い…
「こら、これはするなと言っただろ」
「ごめんなさいお兄様、溢れる感情を抑えられませんでした♪」
少し涙目の笑顔を見ると怒れなくなってきた…
「とにかく、俺は体育祭の実行委員だから行かなきゃ、昼休みまで待てる?」
「はい♪」
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい♪」
可愛く手を振るハルカ、すごく年下なイメージだったが中学3年だもんな、ユキカと比べたらあまり変わらないか。
「客席にいろよ」
「はい♪お兄様♪」
「リアルでお兄様はやめて欲しいなぁ…」
さて、ユキカになんて話そう…
と言ってもハルカはあの性格だしなぁ、彼女って言葉なんかいっさい気にしないだろうし…
ヤバイ、あまく考えすぎてた…まずいぞこれは…
ユキカ達が応援席に戻る。
「ユキカ、誰あの子」
「あの子って?」
「見てたでしょ!ショウタに抱きついた子だよ!」
「わかんない…」
ユキカが少しふくれて話す。
「アカリやレナさんは知らないの幼馴染みでしょ?」
「うーん…同じ学校とかならわかるけど、親戚の子とかならまったく…」
「うん…見たこと無い女の子ですし…中学生くらいでしょうか?」
「なんだろ…めっちゃ気になる」
「ユキカ、ショウタさんに聞いてきて」
「嫌だよアキちゃん…なんかヤキモチ焼いてるみたいだし…」
「でも、あの子の目は恋してる目でしたよ、下川口君も笑ってたし…」
「う…」
「妹さん…とか?」
「ショウタは一人っ子だよ」
「親戚の子が遊びに来てる、ってとこでしょうか?」
「めっちゃ気になる…」
1年男子100M走
俺は最終組、陸上部の佐川、山田と走る。
「下川口、お前には負けん!」
「アキちゃんにいいとこを見せなきゃ」
「おい、その事は!」
俺は山田の口を封じた、他のクラスの男子には聞こえて無いようだ。
「わ、悪い…」
ポカッと佐川が山田の頭を殴る。
「まったく、今までの努力を無駄にする気か!」
「悪かったって!」
最終組の番になる、佐川と山田は陸上の短距離走の選手、良くて3番かな?
位置について!
「いけー!」
「頑張れー!」
「赤組ファイトー!!」
宿毛の声だ、敏感に赤組の佐川と山田が反応する、応援席の宿毛に顔を向け目がハートになる。
バーン!!
俺は出だしトップ!!
「ショウター!!」
ユキカ達の応援が聞こえる!!
コーナーまでトップをキープ、2位も近くにいない感じだ、佐川たちスタートに失敗したな…
「お兄様♪頑張れー!」
ハルカの応援が聞こえる、声でかいよ…
そのままトップでゴールする、ハルカは客席で飛んで喜んでいる。
ユキカ達は、あ、みんなハルカを見てる…どうしよう…
「今…、お兄様とか言った様に聞こえたんですが…」
三原の言葉に全員ハッとなる…
「お兄様…まさか…」
「アキさん心当たりがあるんですか?」
「ううん、違うの…妹さん…やっぱり親戚の妹さんかな?って…」
「アカリさん?」
「そ、そうだね…し、親戚かなぁ…」
「何ですか皆さん、ユキカさんも?」
「え?えっと…、たぶん勘違いだと思うけど、ちょっと前にショウタとFK7の話をした時に、仲間のキャラで妹が出来たとかなんとか…」
「仲間…ですか?」
「その子が、女の子なのかおじさんなのか誰なのか分からないけど、とにかくお兄様って慕ってくるとか言ってた様な…」
大月と宿毛がユキカを凝視する。
「ゲームの知り合いって事ですか?」
「まぁ、ショウタが自分の名前とか住所とか言う訳ないから間違いだと思うけど…」
「アカリさんは下川口君にゲームで会ってるんですよね」
「う、うん…、でも体育祭の話とかしてただけだから…」
三原が名探偵の様な雰囲気になる。
「今どき、お兄様なんて言い方はいくら妹でも親戚でもしないはず、言っているのはもはやアニメやゲームの世界のみでしょう、であればユキカさんのゲーム情報が一番真実味があります」
ユキカ、大月、宿毛の3人がゴクリと唾を飲み込む…
「あの子は下川口君のゲームでの友達!、何か事情があり下川口君は今日の体育祭の事を言ったのでしょう」
もはや、体育祭の競技そっちのけで緊急会議に入る4人。
「みなさんが下川口君の事を思ってるって事はユキカさんも承知ですよね」
三原の目が光る、気圧されてユキカがコクッと頷く。
「あの子、かなり可愛いと思いませんか?」
今度は3人がコクッと頷く。
「私の好きなアニメの話をして申し訳ないのですが、あんな可愛い妹がいた場合それも血がつながっていない場合、メインヒロインは喰われます」
4人の周りに電撃が走る!
「もちろん、幼馴染みや学園のアイドルなんかは早々に退場です」
「う…」
「下川口君の心が無意識に守るべき妹に向かって、そして心を満たしていくからです」
「そんな…」
「でも、そんな事は些細な事です!」
「え?」
「アキさん、ゲームの友達で一番長く付き合っているキャラを思い浮かべて下さい」
「あ、はい…、ギルドマスターかな?」
「その人がこの高校にいます、どの人でしょう?」
「え?」
「どうです?だいたいの印象でいいです」
「そんなの、分からないよ…」
三原の目が光る。
「あの子は分かったのみたいです」
「…」
「!」
「あ…」
衝撃を受ける3人。
「私はあの時、下川口君と走った後なので現場をずっと見てました。下川口君はあの子に抱き付かれてびっくりしてましたから、知らなかったのでしょう」
「そんな事って…」
「ゲームでの印象だけそれも短期間、それなのに抱き付くほどの確信」
みんな呼吸が止まる…
「あの子はたぶん下川口君しか見えていません、全く疑う事のない真っ直ぐな純粋無垢の愛情を下川口君は受け止める事になります」
「疑う事のない愛…」
「ユキカさん、あの子はアキさんをはるかに越える強敵ですよ」
「遥かに越える…ハルカ…」
「ユキカ!」
「どうしてその名前を!?」
顔を見合わせる大月と宿毛
「わ、私は…」
「そうですか、あの子はハルカさんと言うのですか」
「…」
3人とも沈黙し、自然と目線は物語の主人公に向いてしまう…
「下川口君どうする気なんでしょう…」
体育祭は続く、3年生の創作ダンスや1年男子の玉転がし(妨害あり)、2年の三人四脚などで観客を湧かす。
次、1年女子の100M走だよ!
「とにかく、今のところ想像の話でしょ、昼休みになればショウタが紹介してくれると思うし、それまでは体育祭に集中しよう!」
ユキカの一言で緊急会議は解散となり、みんなで次の競技の控え場所に移動する。
うーん、あれからユキカ達の視線が痛いんだけど…
応援席で4人同時にくる視線、何か話し合ってたみたいだけど…
ま、当然ハルカの事だろうな…
しかし、さっきはよくユキカ止まったなぁ、飛んで来て首を絞められてもおかしくない状況だったのに…
いや、あの槍のような視線は完全に怒ってるな…はは…
ハルカには彼女がいる事をちゃんと言っておかなきゃ。
「おお!誰だあの眼鏡の子はめちゃくちゃ速いぞ!」
3年の陸上部の部長だろうか、実行委員席が騒然となる。
宿毛、ホントに速いなぁ…、大月に勝てるんじゃないかこれ。
最後の直線でトップの宿毛が俺を見てウィンクする。
俺の周辺の実行委員席は完全にハートを貫かれた。
堂々のトップ、これは大月達の最終組にしといた方が良かったかな?
次は三原が走っている。頑張れ、結果より大事な物があるはず!
終盤の組でユキカが走った。
確実に中学の時より早くなっている。
2番手でコーナーを曲がる、これは行けるんじゃないか?
「ユキカ!一気にいけーッ!!」
俺の声が聞こえたのか、ユキカは加速しトップに並んだ、そのままゴール。
僅差で抜いたようだ、1番の旗を恥ずかしそうに持っている。
俺がガッツポーズすると、笑顔で頷いた。
大月たち最終組は別格だった、各クラスの精鋭揃い、陸上大会の予選のようだ、最後の直線までもつれたが、コーナーをトップで回った大月が逃げ切る。
手を振ってピースする大月、大月は昔から足が速かったが、また一段と速くなっている。
「今年の女子は期待できるなぁ」
陸上部の部長がマネジャーらしき生徒に指示を出している。
午前の部が終わり昼休みとなる。
ハルカを探そうとしたが、ハルカの方がこっちに走って来た。
「お兄様、1番おめでとうございます♪」
「ありがとうハルカ、ちょっといい?」
「はい♪」
俺はユキカ達がいるであろう応援席に背を向けてハルカに話した。
「えっと、どう言えばいいのか分からないけど…」
「分かってますよ、お兄様♪」
「え?」
「彼女さんがいるんですよね、えっと、ユキカさん?だからもうちょっと控えめにって事でしょ♪」
目が点になる…その通りなんだけど…
「ハルカ…俺の心が読めるの…」
「はい♪」
「あはは、やっぱスゴいな、もう驚かないつもりだったのに」
「えへへ♪」
「さて、じゃ紹介するから…ってユキカにはなんて言おうかな…」
「私に任せて下さい♪」
「ゲームみたいにケンカするなよ」
「はい、お兄様♪」
「お兄様も二人っきりの時だけにして欲しいんだけど…」
「二人っきりの時♪、はい、分かりました♪」
ユキカ達がこっちに来る、ハルカを意識しすぎて、みんななんかギクシャクしている。
「し、ショウタ、お昼食べない…」
ユキカが代表して喋らされてる様だ。
「そうだな、ハルカ行くか?」
「はい♪」
俺は自然にハルカも誘った、ハルカと言うフレーズに緊張が走る。
「お知り合いですか?」
三原が聞いてきた。
「初めまして姫ノ井ハルカといいます、ショウタ…お兄ちゃんには小学校の頃危険にあった時助けてもらった事がきっかけで、それから私が一方的に連絡とってる状況です。来年叶崎高校を受験しますのでよろしくお願いします」
ハルカは可愛く礼をした。
「よろしく、でもショウタにこんな可愛い知り合いがいたなんて知らなかった」
ユキカが確認するように聞く。
「うん、俺も会ったのは小学3年くらいの時だから」
「小学生?今日はどうやって、この中からショウタが分かったの?」
「うん、俺も不思議」
「分かりますよ、実際すぐに分かったし♪」
「とにかく昼飯にしよう、ハルカは…」
「私、お弁当持ってきましたから大丈夫です」
「用意がいいな」
俺は実行委員席の端に立っている小筑紫先生に話しかけた。
「小筑紫先生、来年の新入生に学校内を見せていいですか?」
「下川口の知り合いか?いいぞ許可する」
「ありがとうございます、じゃ行くか」
俺たちは教室で昼飯をたべる事になった。
「はいユキカさん、お兄ちゃんの隣にどうぞ」
「え! あ、ありがとう…」
「なんでユキカ?」
「あれ?お兄ちゃんの彼女さんはユキカさんですよね?」
「うん、そうだな」
「私はてっきりハルカさんが横に座りたがると思ってましたが…」
「そんな事しませんよ、お兄ちゃんが悲しむじゃないですか」
「そこまで気を使うと逆に困るんだが…」
「そうですか?えっとお兄ちゃん、ユキカさん以外の方を紹介してくれませんか?」
「お、すまんすまん」
「私はアカリ、大月アカリ、ショウタの幼馴染み」
「えっと、私は三原レナっていいます、同じく幼馴染みでユキカさんの親友です」
「こちらの美人さんは?」
「私は…」
チラッと俺を見る宿毛。
「ハルカなら大丈夫だろ」
コクッと頷きメガネとポニーテールを取る。
「私は、宿毛アキです」
ハルカの目が点になる。
「え?あの…アキちゃん…?」
「はい、あの宿毛アキです」
「ハルカ、みんなに言うなよ」
「は、はい、分かってますお兄様ちょっとびっくりしちゃって…」
「お兄様って言うなよ」
「あ…」
小さく口をふさぐ。
「まったく…」
≪ユキカの心≫
な、なんなの見つめあって!
ハルカってあのハルカじゃないの?
て言うか、お兄様って言っちゃってるじゃない!絶対ハルカでしょ!
まったく、何この急展開はアキちゃんだけて私のHPは消えかけてるのよ、それがアカリやレナも加わって、それでもショウタがこっちを向いてるから回復が間に合ってるのに…、ハルカだと妹だとショウタ優しいから向こう向いちゃうじゃん!回復ムリだよ!!
小学生の頃助けてもらったって…それどんな話なの?私聞いてないよ!私はネージュなのよ!あなたのギルドマスターよ!!
って、アキちゃんの前でそれは言えない!あーどうしよう!!
≪アキの心≫
ハルカ…、いけない私ったら自然に弓矢を構えようとしている。
間違いないあのハルカだ!まさかゲームの敵がリアルにまで…
そもそもその妹の立場は本来私のものなのよ!後から出てきて図々しい…
でも…小学生の時からの知り合い?アカリ達知らないって言ったじゃない!
お兄ちゃん…そんな子に笑顔見せないでよ!じゃなかったダーリン!!
って、ゲームでショウタにそんな事言ってるなんてユキカに言えない!どうしたらいいの!!
≪ハルカの心≫
やはりお兄様は弱い立場の人から優しい、この場合は私に一番優しいって事だね。
彼女は誰?って、先ほどの100M走の応援からして、黒髪ロングのユキカさんだけお兄様が応援してたので彼女と推測したけど、当たりだったみたいだね、ユキカさんがキャロラインかぁ、どちらかと言うとネージュさんの方がイメージに近いんだけど。
でも、まさかお兄様の近くにあの宿毛アキがいたなんて…、あ!まさかあのボスキャラ…サンセットだっけ?アキちゃんじゃないよね、でもこうやって見ると似てる、たしかにアキちゃんがFK7してるのは有名だし、まさかの強敵出現って事?生で見ると可愛さは尋常じゃない!ユキカさんも想像以上に美人だし…
お兄様、ハルカ前途多難です。
何だろ、ユキカとハルカと宿毛の3人の間に火花の様な何かが見えるんだが…
「ハルカちゃんって、ゲームとか好き?」
大月が聞いてきた、そりゃハルカって名前とお兄様と来ればそこ聞くよね、ユキカや宿毛は、あ、ナイス!って顔になった。
「え?ゲームですか?スマホのやつを少しって感じてす。だって受験生ですから」
「そうなんだ…」
「ゲームがどうかしましたか?」
「ううん、ちょっと知り合いに似てるなぁって思って…」
「ゲームに顔が出てるんですか?」
「あ、そうじゃなくて、うん私の勘違いかな?」
チラッと俺を見る大月、ハルカだよね?違うの?って俺に質問してるのかな?気付かない振りをしておこう…
「ハルカは受験勉強ちゃんとやってるか?」
「え?えっと、はい…」
「おや?ちょっと曖昧な返事だな」
「ちゃんとやってます!ちょっとだけ努力に結果がついてこないだけです…」
薄々は気付いてたけど、やっぱり勉強苦手か「教えてやろうか?」なんて言ったらユキカが…
あ、言うんじゃないオーラが刺さってますよユキカさん…
「でも、お兄様の周りって女性だらけなんですね…」
教室内を見回しながらハルカが呟く。
「今日はそうだな、男子はちょっと仕事をしているから」
「お仕事?」
「うん、セキュリティ関係の仕事。俺だけは実行委員だから対象外だけど」
「いや、ショウタはいつも女の子に囲まれてるけどね」
大月がハルカに指摘する。
「おい!」
「やっぱりそうですか、ユキカさん怒らないんですか?」
「え?」
「だって、彼氏が他の女性と普通に話してるんですよ、なんか怒ってもいい気がするんですが」
「ハルカちゃんはショウタが他の女性と話すのはイヤ?」
「…イヤですけど私にはそれを言う資格がありません」
「そっか、ハルカちゃんもショウタの事好きなんだね」
「え!?」
「大丈夫、ここにいる3人にも好きだとカミングアウトされて、私ダウン寸前だから」
驚くハルカが3人を凝視する、3人はばつが悪そうに視線をそらす。
「ぜんぜん大丈夫に聞こえないんですけど!」
「それでさー、聞いてハルカちゃん、まだ5人いるらしいんだよー」
ずいーっと俺の前に乗りだし、ハルカに顔を近づける。
「な、なにが5人?」
「おい!なんか浮気してる様に聞こえるんだけど!」
「違うの?」
今度は俺に顔を近づける。
「違うだろ!」
「でもさ、ゲームでは楽しそうに遊んでるみたいじゃない?女性と!」
「女性キャラね!」
「えー、一人目は確実に女性だったし、アカリとも遊んでるし」
大月と宿毛がギクッとなる。
「それは…」
ユキカ、お前もやってるだろー
「もう…高校でもこれ、ゲームでもそれ、ハルカちゃん私ってなんだと思う?」
また、ずいーっとハルカに話しかける。
「あ…えっと、」
「ハルカちゃんは好きな人に彼女がいたらどうする?」
ユキカらしくない事を聞くと思ったら、これを狙ってたのか…
「私は…」
言葉につまるハルカ、うまくやれると思ったんだろうが、ユキカの方が一枚上手だな。
「ごめんなさいユキカさん、私は好きな人に彼女がいても、諦められません…」
だろうな…あのハルカだもんな…
「はぁ…、その行動力がほんとうらやましいよ…」
ため息をつきながら席に座るユキカ。
「ハルカちゃん日曜日は空いてる?」
「え?」
「明日、空いてる?」
「はい…とくに予定は…」
ハルカがかなりビビった表情で答える、一応ユキカに目線を送ったが大丈夫的なサインが来た。
「ハルカちゃん家は近くなの?」
「えっと、柏島の方です…」
「よし、明日は柏島図書館に10時に待ち合わせ、私とショウタで勉強見てあげる」
「…え?」
まさか、さっきは全力オーラで止めてたのに、自分から言い出すとは。
「よかったなハルカ、ちなみにユキカは中学からずっと学年トップだから先生よりスゴいぞ」
「ショウタも来るんだよ」
「分かってる」
ハルカを見たが、話の意味が分からず呆然としてる状態だ。
「えっと、イヤかな?」
「あ、とても嬉しいです…でも、なんかウソみたいで…」
ハルカが答える。
「なんだったら、ショウタの家で勉強する?」
「はい!!」
即行で答えるハルカ!目がスパークしている。
そして、ちょっと苦笑いのユキカ。
「おい!」
「私も行きたい!!」
宿毛が乗り出してくる。
「宿毛は日曜日仕事だろ!」
「休むから!」
休むからって…
「アキちゃん、仕事は休んじゃダメだよー」
「私が英語を教えるから!!」
「宿毛の英語力は疑ってないんだが」
「アキさんごめんなさい、私はお兄様に教わりたいんです♪」
ハルカは丁重に断った。
「ズルいユキカ、私の時はダメなのになんでこの子はいいの!」
「あ、えっと…、妹だから?」
「妹じゃないでしょ!他人でしょ!」
「あ、妹みたいなものだから?」
「そんなぁ…」
キッと俺を見る宿毛、反対してと言っているようだが…
「ハルカなら来ても大丈夫かな、と言うか隣の部屋に住んでても違和感ないなぁ」
「お兄様ったら♪」
あ、前の3人の視線が恐い…、ユキカはなんか諦めモードに入っているし…
さっさとご飯食べて、実行委員席に戻ろう…
≪午後の部…≫
午後の部は、部活対抗障害物リレーで始まった。
各部はユニフォームを着てリレーに望む、体育系は歓声を文化系は爆笑を取っている。
応援席に戻った4人はまた緊急会議に入った、宿毛がユキカにせまる。
「ユキカさっき4人で話した事忘れたの?あの子はちょー危険なのよ!!」
「そんな悪い子には見えなかったけどなぁ」
「いや、あの子はなんか色々隠してる感じがする、ユキカの言ったゲームの妹ってあの子だよ!」
大月もユキカにせまる。
「そ、そうかなぁ…」
「私もそう思う、ゲームでショウタさんの情報を聞いてるんだよきっと!」
ユキカに詰め寄る2人。
「な、なんか2人とも恐いよ…」
「でも、お二人の話を聞いてると、ハルカさんの事知ってる様ですね、先ほどもお兄様やハルカって言葉に敏感に反応してましたし、ゲームでその妹さんに会ってるんですか?」
ギクーーッ!
三原が話し、あからさまにキョドりだす2人。
「それは…」
宿毛を見る大月、宿毛も困った表情になる。
「どうやら、色々隠してるのはお二人の様ですね」
三原の目が光り、再び名探偵が登場する。
「まさかですがアカリさん、ゲームで下川口君と二人っきりって言うのをいい事に、何か抜け駆けしようとしてませんか?」
「そ、そんな事は…ないない」
「そうですか、でも抜け駆けを妹さんに妨害されてますよね」
「な、ないよそんな事…」
大月の挙動不審はもはや三原の指摘を肯定しているレベルだ。
「では、最近下川口君の事をショウタと呼び出したのは何故ですか?」
「うぐッ…」
痛恨の一撃をくらいHPが尽きる大月
「ではアキさん」
「は、はい!」
今度は宿毛の事情聴取に入った様だ。
「アキさんは下川口君がどのキャラか知ってますね」
「えと…えと…」
「そして完全に抜け駆けしてますね」
「!」
「そうなのアキ!!」
大月が宿毛に詰め寄る!
「ち、違うのそう言うんじゃないの」
「そして現在、最強のライバルである妹さんに勝てない、もしくは既に負けていますね」
「ちが…、負けてなんか…」
声が小さくなる宿毛。
「私たちの紳士協定に違反した二人を処断します!!」
三原が大きくなり、二人が小さくなって見える。
「レナ、あなたもつい先日、ショウタと二人っきりの教室でイチャイチャしてたんじゃないの?」
ユキカが爆弾を投下する。
「ゆ、ゆ、ゆ…」
真っ赤になってへたりこむ三原
「レナ!どういう事!!」
「答えなさい!」
ポカッ、ポカッ、ポカッ、ポカッ
「お前ら4人で何話してるんだ!周りから苦情がきているぞ!」
俺は手に持ったプログラムを丸め4人の頭を叩いた。
「赤白別れて、ちゃんと応援する!」
「ショウタ…私は…」
ユキカが悲しく見る…が
「言い訳無用!さっさと自分の席に行く!!まったく!」
俺は『緊急ハルカ対策会議』を中断させた。
実行委員席に戻る途中でハルカが目に入る、俺の家に来る事がよほど嬉しいのだろう、完全に周りがお花畑化している。
俺は組体操や綱引きなど団体競技に参加し今日の日程を終わった。
そして残すところ、女子リレーと男子リレーとなった、俺のクラスの男子がぞくぞく応援席に帰ってくる。
学年で紅白6名づつ、18名×2でリレーを行う。
宿毛は変装をやめたかな?
女子リレーの待機場所がざわつき始め、そのまま選手の入場となる。
あれ?大月がアンカーのタスキをつけてるぞ、アンカーは3年のはずじゃ?
あ、宿毛をアンカーにしたのか!
すぐにスタートとなるはずだったが突然選手の紹介が始まる、放送席も大慌てだ。
≫白組アンカー、1年大月アカリ。
大月が立ち上がり手を上げ礼をする、各所で「1年がアンカー?」って話が飛び交う。
≫続きまして赤組!
赤組メンバーが手を上げ礼をする、みんなこの後の大混乱を想像してか笑っている。
清水達プロジェクトAチームは既に全員ハチマキを赤に変えて応援体制だ。
≫赤組アンカー、1年、宿毛アキィィーッ!!
一瞬、校内が静まり返る…全員の視線が校庭に集中する。
宿毛は立ち上がり、大きく手を降り礼をした。
うおぉぉぉ!!
アキちゃーん!!
マジかーーーー!!!
来てたのー!?
大声援がこだまする、清水達がアキバ系の様な踊りと声援を送る!
輝く笑顔を残し座る宿毛。
「うわー想像以上だよ、アキを敵にまわしたくないなぁ…」
大月が隣に座る宿毛に話しかける。
「敵でしょ♪」
「来年は不参加決定!!」
大月が指をさしていい放つ。
「イヤだよー!」
リレーが始まった、白組が一歩リードで2年となる。
「よし!そのまま白組行けー!私のために白組ガンバレー!」
大月が応援する。
2年も白組リードでバトンは3年へ、徐々に差が縮まる。
アンカーの手前、本来アンカーの3年生の時には赤組が僅差に迫っていた。
「アキちゃん、待ってな!!」
赤組3年陸上部の先輩がバトンリレー時に一気に白組を抜き去る。
おおおおおお!!
行けー!!!
初めて赤組が先頭になり、完全に宿毛アキファンクラブと化した応援席から歓声が上がる!
「行くよアカリ!」
「私はアキの引き立て役じゃないよ!」
二人はスタートラインにつく。
赤組トップで最終コーナーを回る。
「アキーッ、GOー!!」
走る先輩が、随分手前からスタートの合図を送る。
宿毛は敏感に察知し駆け出す。
先輩はぐんぐん加速し、宿毛にバトンリレーした、その勢いのまま宿毛は駆け抜ける
大月もバトンを受け取り一気に加速、かなり速いが赤組のバトンリレーで作った差が埋められない。
宿毛も速い、100M走の倍はスピードが出てるんじゃないかと思うくらい速い!!
応援席前はほぼ悲鳴にちかい大興奮の応援が続く。
最終コーナーを回り直線に、大月もコーナーを回り宿毛の斜め横に出た、追い抜ける距離まで来ている。
最後の直線勝負!!二人が実行委員の前に来る!大月が宿毛に並んだ!
「行けー!!」
俺も興奮して声をあげた!
クゥンーっと、宿毛がまた1段階速くなった!
「うそ!」
抜いたと確信していた大月の横を半歩飛び出る!
そのままゴール!!
大歓声とアキコールが吹き荒れる!!
宿毛は赤組の選手達に抱きつかれてもみくちゃにされている、まるで全国大会で優勝したような歓喜の輪の中で宿毛の姿は見えない、すぐに白組の選手も歓喜の輪に参加した。
俺はゴール地点で座り込んでる大月の所に行った。
「おつかれ」
「ショウタ…、はぁ、ほんとに疲れたー!!」
「悪役になり損ねたな」
「まったく何だろうねあのスター様は」
「最後、とんでもなく速かったしな」
「ショウタが応援するからだよ」
恨み目で俺を見る大月。
「バカいえ、俺は白組だぞお前を応援したに決まってるだろ」
ちょっと赤くなり下を向く大月。
「なんだ?」
「ううん…、しまった、その勘違いが敗因だ」
男子リレーも赤組が勝利し、今年は赤組の優勝となった。
閉会式が終わり、片付けをする前にハルカの所へ行く。
「悪い、片付けがあるから駅まで送れない」
「いいんですお兄様、明日はよろしくお願いします♪」
「了解、ああそうだ!」
「?」
俺はハルカの耳元で小さく話した。
「今日はゲームせず勉強しろよ」
「は、はい」
真っ赤になって答える顔が可愛い。
「じゃ、明日な」
俺は手をふって実行委員席に向かう。
「はい、お兄様…」
大好きです♪