ラスボス級の転校生
■君といた夏
今日はマスターと久々のブリザードの3人で上級職ナイトのイベントをやっている。
王都エルフィランデルでクエスト探しをした際、今まで門前払いだった王都の城門が開いたのだ。
建国の英雄王ランデルの盗まれたペンダントを探すイベント、北の大洞窟の姿を消すゴブリンが怪しいとのことらしい。
一人で北の大洞窟に向かいたかったんだが、暇だからと言う理由でブリザードとマスターが合流して来た、二人は傍観者の立場で、とりあえず空気として側にいるそうだ。
洞窟内の焚き火のある場所や松明がある部屋などゴブリンがかたまっている場所を転々とし怪しいゴブリンを探したが見当たらない、それならとゴブリンを倒しまくったか成果なし。
うーん、姿を消すって所がやっかいだな…、とりあえずゴブリンがわくまで待ってみよう。
俺は無人となった焚き火あとを見下ろせる場所に移動し待つ事にした。
「マスターには、いろいろ付き合ってもらって申し訳ない」
「ん?なに?」
「いや、マスターはもっと遠くに行けるレベルだから悪いなって…」
「そんな付き合ってないよ、むしろリッカちゃんとばっかり行ってるじゃん、二人でセカンド取りに行ってるし、ズルいって感じだよ」
「リッカはレベル同じくらいだから…マスターは俺たちとじゃレベル上がらないんじゃ?」
「それはブリザードも同じでしょ」
「僕なら問題なし、他のメンバーとも付き合ってるしね、今日は暇なだけ」
「私はいいの、好きでついてきてんだから」
「ありがとう」
「“好きで”くっついてるんだ(笑)」
「ブリザードうるさい!」
マスターって案外可愛いかも?
そうだ、日曜の花火大会はギルメンで集まるのか聞いてみよう、ユキカと花火大会もあるから、サンセットとギルドと掛け持ちすると大変だからな。
「そう言えばマスター、日曜に花火大会があるでしょ、みんなで集まるんですか?」
「え?うちの?」
「うちのって?」
あれ?リアルの話かな?
「らしくない、リアルの話をしたんじゃないだろ(笑)」
「あ…」
「ちなみに僕が住んでる場所も日曜が花火大会」
「あ、俺の所もです」
ま、この時期の日曜はどこも花火大会だろうな。
「リア充の君は例のマーメイドとデートか?」
サンセットが彼女って言ってるのか、ネトゲの話をしてるのか分からない質問だなぁ…
「マーメイドとはネトゲの話なのでリア充とは言わないんじゃ…」
「そうなのか?」
「ショウタは、リアルの花火大会に行くの?」
「行きます、だから時間次第だとこっちの花火大会には参加出来ないかと…」
「やはりリア充ではないか!」
「ははは、そう言えばオフ会ってなんですか?花火大会でオフ会って話がこの前出たんですが」
「オフ会!」
「オフラインでの集まり、つまりギルメン達なんかの仲間とリアルで会おうって事だな」
「そう言う意味なんですか」
「ま、FK7の様な全国規模のネトゲは、知り合い同士で始めないと無理だろうけど」
「ショウタはオフ会に誘われたの?」
「いえ、オフ会の意味がわかって無かったので…」
サンセットのあれは冗談だよな、どっちにしても、花火大会はユキカと行かなきゃ…
でも、あれ?ユキカに誘われてない気がする…
ラインで確認しとくか?
≫日曜って花火大会だっけ?
ネトゲしながら、チャットしながら、ラインしながら…見るとこ多い…
あれ?今一瞬画面が揺れた様な気が…
何か透明な何かが動いてる気がする、ほんの少しの揺らぎ…これが姿を消すゴブリン…、こんな微妙な事?
「ショウタ?」
俺は立ち上がり弓を引き絞った、壁際の松明に狙いを定める、明るい場所が少しほんの少しだけ揺れ、それを目掛けて矢を射た!
ギャーー!
「お見事!」
ブリザードの称賛が飛んできた。
俺は、両手斧を振りかざし魔法が解けて姿を現したゴブリンに斬りかかった。
相手は魔法使いタイプのゴブリンらしく、魔法を繰り出そうとするが、詠唱を中断させる様に叩きまくった!
ゴブリンは倒れた…王家の楯が彫り込まれたペンダントを落として。
「スゴいな、普通ならディスペルでこの空間の魔法をキャンセルして、偶然出てきたら叩くのに」
「そうなんですね、でも何となく見えましたから」
「ますます、研究したくなる、ぜひ我がギルドに!」
マッドドクター解剖はやめて下さい。
「ブリザード!お前はもうギルド追放だ、キャロがいるからお前はいらない!!」
「マスター、冗談だって怒らないで」
「いや、僕はけっこう本気だよ♪」
「おい!」
マスターをなだめ、ブリザードに余計な事を言わせない様にしながら王都に帰る、バトルよりこれが大変だった。
王宮内の謁見の間に通される。
エルフィランデル王の前に跪く。
宰相より国宝ランデル王のペンダント奪還の報告がされる。
「今回の功績を讃え、冒険者ショウタにナイトの称号を与える!」
俺は上級職ナイトの称号を手に入れた。
「おめでとう、ショウタ♪」
マスターが一人、城門前で待っててくれた。
「ありがとう、なんかいいですねこう言うの」
そう言えば、半年前、叶崎高校の合格発表でもユキカがそう言ってくれたっけ
「ん?」
「喜んでくれる人がいるって」
「よし、キスしてあげよう♪」
マスターが近づいてきた、何だか背が低く黒髪のエルフが一瞬ユキカと重なる。
俺も少しの近づいたため、キスしたように重なった。
「あ…」
「さてと、ナイトに着替えてレベルアップして来ます!」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
一人でナイトをレベルアップ中、ユキカからラインが届いた。
≫日曜日は7時から花火大会だよ、5時頃迎えに来てね
≫了解( ̄▽ ̄)ゞ
《花火大会当日》
予定通り5時にユキカを迎えに行った。
「あ、ショウタ♪」
ユキカは家の前で待っていた、水色の花柄の浴衣がめちゃめちゃ似合っており可愛い。
「この浴衣どう?」
「スゴく可愛い」
「ありがとう♪さー行こう」
「了解」
「あ、これ持って、シートとか飲み物入ってるから」
とりあえず7時前まで屋台見物だな。
で、なんか買って、河川敷で場所探しをしよう。
「今日は大月達はいないんだな」
「アカリ達も来てるはずだけと…」
「ん?」
「今日は、二人がいいかな」
「よし、さっさと屋台見て買って、河川敷に移動しよう!」
「はーい♪」
屋台で杏飴や綿菓子を買う、焼そばを買おうと思ったが、ユキカが食べ物は持ってきたらしい。
まだ、明るい内に河川敷で花火を見る場所探す、ちょっと土手から離れた芝生の場所にシートを敷いて、花火を見る準備はできた。
「明るい内にご飯にしよ」
そう言って、持ってきた包みの中から重箱を出した、中にはおにぎりや唐揚げ串揚げ、デザートなんかも入っていた。
「え?これユキカが作ったの?」
「どんなもんだい!」
「スゴい、いただきます♪」
「召し上がれ♪」
なんかどれもこれも美味しい、野菜の煮付けも苦手だったはずなんだが、今日から好きになろう♪
「ユキカに料理のスキルがあったとは…」
「えー昔から料理してたよ」
「はじめて食べたから…」
「それは、部活ばっかなショウタが悪いんでしょ、ピクニックとか行ってくれたらいっぱい作ったのに」
「美味しい料理が食べれるなら、ピクニックにもキャンプにも行きたかったなぁ」
「ほんとに♪じゃあ今度ね」
「わかった」
最後のおにぎりも頬張る!
「あ!ゴメン、なんかユキカの分も食べちゃったか俺?」
「大丈夫だよ、それよりご満足頂けましたか?」
「大満足、大満腹♪」
「よかった、ありがとう♪」
いいなこれ、夏休みって本来こう言うのを言うんだろうな…、リア充か…。
「なに?」
「ん?うーん、幸せだなって…」
「なにそれ?」
「リア充って知ってる?」
「リアルが充実してる人の事でしょ」
「彼女がいて、友達がいて、休みには一緒に遊んで充実って奴をネトゲの世界じゃ嫌ってるらしい」
「まぁ、人付き合い苦手な人たちってイメージ強いけど…」
「でも、最近思うようになったんだ、ネトゲの人間関係ってなんだろうって、俺の人間関係?それとも別のキャラとしての人間関係?なんかだんだん境目が分からなくなってきた、そもそもネトゲで友達と遊んでたらそれはリア充じゃないか?って」
「ショウタは熱中すると、スポーツでもゲームでも深く入り込むんだね。でも、ショウタの言う通りかも、キャラと言っても人が動かしてるし、言葉はその人が入力してるもんね」
「不思議だけど、その人がどんな人かわかる気がするんだ」
「そうなんだ…」
「マスターには、ネトゲを始めさせた責任をとってもらわなきゃな」
「責任って言われても…」
ヒュルヒュルー、ポン
開始の合図の花火が上がった、周りが薄暗くなってきている。。
「悪く言ってるんじゃないんだ、スゴい楽しいし、マスターのおかげかなって思ってるよ」
「!」
ユキカの目が大きく開かれた、マスターって言ったのを気が付いたんだろう
「ショウタ…どうして?」
「いや、そろそろ期末テストのご褒美のキス、してほしいなぁって思って」
いや困った、思いのほか照れるぞこの言い方は、止めれば良かったかな?
「そっか、前はキス断ってたのに急にOKしだすから、正直戸惑ってたんだよね…そっか、気付いてたか…」
「ユキカがネトゲなんて想像できなかったけどな」
「ショウタのせいだからね、部活ばっかりでスゴく暇だったんだから…」
「そっか、中学の頃なんだ…」
「でも、すぐ彼女つくるわ、キスのしてくれって言うわで、ショウタの性格疑うとこだったよ、でも私と気づいてたんだ、よかった…」
「彼女は違うし、キスはユキカが言い出したんだろ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
ヒュルヒュルー、ドーン!
打ち上げ花火が夜空に大輪の花を咲かせる!
「始まったか」
「始まったね♪」
ユキカが俺に寄り添ってくる、なんか幸せだな。
■想い出の中…
中学一年の夏、私はこの町に引っ越してきた。
新しい生活、とくに学校には全然馴染めず、基本的に一人での行動が多く友達もいない、静かな目立たない存在だった。
私の唯一の楽しみはゲーム、特にRPGは大好きで、人気作品の続編が出るとなると、学校を休む勢いだった。
ま、それなりに勉強はしていたので、親には何も言われていない。
来年には、あのファイナルキングダムの続編がネットゲームで出ると聞き、お年玉貯金でパソコンを買うかPS9を買うか思案中♪
正直な話、友達がいなくてもそれなりに楽しい生活はおくれる、ゲームオタクと言われようが、私がいいならいいのだ!
今朝は気分がいい、昨夜ファイナルキングダム6の裏ボスを見つけ苦労の末倒したからだ。レベル上限、隠しキャラも全て見つけコンプリートした快感がたまらない。
いつもの通学路をいつもより早い時間に通る。
清々しい空気!なんか、いい事が起こる予感がひしひしするではないかー♪
「やばい!朝練に遅刻する!いってきます!」
同じクラスの男子が家から飛び出してきた…名前は下川口ショウタ君、サッカー部に入っている、私の片想い。
へ~ここが自宅なんだ~、けっこう近い♪
あ…私ったら何考えてるんだろ…下川口君私の名前なんか知らないだろうなぁ
目が合う、下川口君が笑った。
「おはようー、三崎、今日は早いな」
え?
「朝練遅刻しそうなんだ、んじゃな」
「う、うん」
えー!!い、今、下川口君におはようって言われたよ!マジ?マジなの、しかも三崎って名前も呼ばれた!!私の事知ってるの?学校じゃ、一度も話した事ないのに!
今日は早い?いつも遅いと知ってるの?
え?え?え?あああッ!私、おはようも言ってないじゃないかー!
いけない、混乱してきた!熱も出てきた!よし、今日は学校休もう!
って無理ーッ、休んだら下川口君に変に思われちゃう!
ガチャ!
「ショウタ!」
下川口君の家から母親らしい人が飛び出してきた、既に下川口君の姿はない。
「まったくあの子ったら、体操服忘れてるじゃない」
お母様と目が合う、しまった!下川口君の家の前で固まったわ混乱したわ母親に遭遇だわ、なんだこれは?どんな殺人イベントだ!
「お、おはようございます」
よかった、お母様にはちゃんと挨拶できた。
「おはよう、叶崎中学の子?」
「あ、はい、1年D組の三崎ユキカです」
「1D?ショウタと同じクラスね」
「はい」
あれ?イベント発生なの?下川口君と私のイベント発生なの?
「あのバカ体操服忘れて行っちゃったのよ、ユキカちゃんお願い、届けてもらえるかな?」
「え、はい、わかりました」
「助かるわ~、お願いします」
体操服入った袋を受け取り、学校へ向かう。
下川口君の体操服が今まさに私の腕の中に!!これ持って帰って抱き枕にしちゃダメかな?いやーちょっと幸せ~
って浸ってる場合か(汗)
まてまてまて、これは私程度のレベルがクリアできるイベントなの?
話した事もない片想いの人にどうやって渡す?
①「下川口君、お母さんに預かった」
ダメダメ!、下川口君って言った時点で真っ赤になる、絶対なる!
②黙って机の上に…
えっと、イベント終了じゃないかー!
③下川口君の友達に渡して…
アホかー!ないないない!だって私、男子に話しかけた事ないんだもん!
落ち着けユキカ!これはとんでもないアイテムが手に入るイベントなのだ!手順を間違えちゃいけない!
まずは、下川口君が一人になる所を押さえなきゃ、誰も見てないなら真っ赤になっても大丈夫!だと思う…
①朝練終わりの部室
②下駄箱前
③校舎内の階段
④教室
何となく②下駄箱前が良さそう、ゆっくり学校に行って、朝練終了時間に合わそう。
学校に到着…
早すぎ…、一時間以上も早く出たんだもん当たり前か、せっかくだし朝練見ていこう。
うわー、朝からハードな練習してるなぁ、可哀想……、でもカッコいい♪
そろそろ終わりかな?下駄箱に移動しよう。
私は自分のクラスの下駄箱に移動した、もうほとんどのクラスメイトは教室に入ってるみたい、これなら大丈夫かも。
ヤバい!ドキドキしてきた…、自然な感じでさらっと渡す。自然な感じでさらっと渡す。
き、来た!!
バカバカ!下駄箱の横に隠れてどうするんだ私!でも、バインド??足が動かない!!
「ん?三崎どうした?授業始まるぞ」
下川口君から話しかけてくれた!チャンスだユキカ!一生分の勇気をここで出すんだ!
「お、おはよう下川口君、お母さんからこれ預かった…」
よし!言えた♪渡せた!
「え?あ!しまった靴はいてた時、玄関に置き忘れたのか!ありがとう!」
下川口君と並んで廊下を歩くなんて♪なんだか私ふわふわしてる…
「しっかしおふくろのヤツ、はじめて会った人間にお使い頼むかなー、無理やりだったんじゃないか?」
「ううん、私が持って行くって言ったの」
「ゴメンな、運が悪かったと思ってくれ」
「大丈夫だよ~」
逆に運がよかったと思ってるよ、でもなんだろう、話してるとそんなに緊張しなくなった…やっぱり下川口君って最高!!
「先生はまだ来てないな、今日はありがとう」
「いえいえ♪」
教室に入り下川口君は友達の輪に入って行った、私はいつもの窓際の席につく、いつもと同じ風景、いつもと変わらないボッチ感、なのに今日はなんだか違って見える♪
「きゃーッ!!今日は下川口君と話してしまった♪」
帰ってからも嬉しさが止まらない、とりあえずベットで枕を抱いて喜んでみた、こんな調子じゃ明日には喜び過ぎて死んじゃうかも?
そして、翌朝…
昨夜は一睡も出来なかった…、けど学校行かなきゃ、て言うか行きたい!下川口君がいる学校へ行きたい!!
もう、朝御飯食べたかどうかもわからない…私、ちゃんと制服着てるよね…ははは、今日は通学路が歪んで見えるよ…ふらふらだー
「お!来た来た、おふくろ来たぞ、おーい三崎ーッ」
あれ?下川口君が見える。ははは、幻想もここまで来れば笑えないぞ。
「おはよう三崎」
え?一気に血が上る、アドレナリンMAX、これは現実だ!昨日のイベントには続きがあったのか?
あ、今日はちゃんと挨拶しなきゃ!
「お、おはよう下川口君」
「どうした?眠そうだな?」
下川口君に眠そうな顔、見られちゃった、死にたい!
「え?あ、昨日は勉強してたら夜遅くなっちゃって…」
「偉いねユキカちゃんは」
下川口君だけ見てたから気付かなかったけど、門の向こう側にお母様もいたんだ。
「あ、おはようございます」
「ショウタから聞いたわ、昨日はゴメンなさいね」
「いえ、お役に立てて嬉しいです」
「昨日の朝はここでショウタと話してたみたいだったから、私てっきりショウタに彼女が出来たんだと思っちゃって…」
「え!」カーッ!
「おふくろ!昨日も言っただろ、三崎とは学校でもあんま喋った事ないって、三崎も赤くなってんじゃない」
「な、なってないよー」
「お母さん的には、ユキカちゃんみたいな勉強出来て、可愛い子がいいなぁ」
「もういい、学校行くぞ三崎」
「は、はい」
「あ、ユキカちゃんちょっと待って、昨日クッキー焼いたのよかったら食べて、それから…」
お母様が顔を近づけて小声で話した。
「ショウタはたぶんユキカちゃんの事好きだから、頑張ってね♪」
「!!」
「行ってらっしゃい♪」
先に行く下川口君は振り返らず進んで行く、私はお母様に会釈し小走りで下川口君に追いついた。
「おふくろ、何だって?」
「うん、クッキーいただいた…」
「そっか…」
その先は言えない…下川口君が私を好き?両想いって事?顔から火が出るよー!
「…」
「…」
うわーどうしよう、何話せばいい?何話せばいい?どこのバカだサイレス(沈黙の魔法)使いやがったのは…私か。
えっと…えっと…なんか話さなきゃ…なんか話さなきゃ…
「き、今日は朝練ないの?」
ぎゃー、声が裏がえっちゃってるじゃないかー
「うん、2学期の中間試験終わるまで部活ないよ」
そっか、試験前は休みなんだ…部活なんてしようと思わなかったんで知らなかった…
「練習キツそうだったから、ちょっと休めて良かったね」
「それがそうでもないんだ…俺にとっては勉強の方がキツい!」
「そっかー」
お母様も言ってたなぁ勉強って、下川口君と一緒に出来たらいいなぁ…
「三崎って勉強できるんだな、転校したばっかなのに授業とかすらすら出来てるし」
え!チャンスなの、これはチャンスなんですかお母様!
「解らない所があったら教えるよ」
「え!ホントに!?」
「うん」
「迷惑じゃない?」
「全然、大丈夫♪」
「やったー!よろしくお願いします三崎先生」
「先生はやめてよー」
その日から私は、私達は、試験日まで放課後図書室で勉強した。
実際、勉強は出来る方だったが人に教えてると基礎がしっかりしてくるし、間違えやすいとこも見えてくる、明日も下川口君と勉強すると思うと、帰ってからの勉強も楽しい♪
どうやったら解りやすく説明できるか?ふふふ、下川口君が言った通り三崎先生だなこりゃ。
下川口君も、元々頭がいいんだろうスゴく吸収が早いので、今は図書室勉強前の私くらいじゃないかな?
もう一ついい事があった、下川口君と電話とラインの交換をしたのだ、男子の登録も人生初だけど、今回は好きな男子の登録のあるスマホ♪超レアアイテムだよこれは♪
よし!中間までもう少し頑張るぞ!
≪中間試験日終了≫
「えっと、下川口君どうだった?」
「完璧!最高のでき!涙が出そう!三崎ありがとう!」
「よかった♪」
ホントによかった、もう今回は私の成績なんかどうでもいい、下川口君の成績が良ければそれでいい♪
「今日から部活がはじまるけど、また教えてくれ!」
「うん、いいよ。サッカーも頑張ってね♪」
「いってきます!」
下川口君の笑顔が眩しい♪なんかリア充ぽい事してるな私。
1年中間試験成績表、上位20名
1位 1D 三崎 ユキカ
2位 1A 三原 レナ
・
・
15位 1D 下川口 ショウタ
やったー!下川口君、学年15位!スゴいスゴい!!
「三崎、学年トップかスゴいな」
下川口君、あれから普通に喋りかけてくれるなぁ、嬉しい♪
「あ、私より下川口君15位だよ♪」
「は?」
「ん?」
「な、なにぃーーーー!!!」
びっくりしてる下川口君も可愛い♪
「おめでとう♪」
「マジか?」
「マジだね」
「写メ撮らねば!!」
「あはは」
この日から私は下川口君を学年15位まで上げた女【ミラクル三崎】【魔術師ユキカ】の異名を先生方からもらう事となった…うれしくない…。
学年一位の肩書きは伊達じゃない、いきなり女子の友達も増えた、とくに同じD組の大月アカリちゃんと、アカリちゃんの幼なじみ(2人のお母さんが親友らしい)A組の三原レナちゃんは趣味が合うみたい、私はちょっとゲーム好きでちょっとゲームアニメ好きで自己紹介したのだが予想以上に食い付いてきた大のゲーム好きって教えたらどうなってただろう…
二人とも下川口君と同じ小学校らしい、もしかして女子の友達がいない私を心配して下川口君がなんかしてくれたのかな?考えすぎかな…
でも、ほんのちょっと前までボッチだったのに、いきなり別世界に行っちゃった感じがする。
世界の全てがいい方に回っている、ゲームがあればいいなんて言ってた自分がウソみたい。
全て下川口君のおかげ、下川口君がいなかったら勉強もほどほどだっただろう、中間も上位20人にも入らない感じだったと思うし、友達も出来なかっただろう。
どうしよう…下川口君の事どんどん好きになってる…
告白する?
……(シミュレーション中)
無理ーッ、無理無理無理無理!ムリーッ!!
自爆する、絶対する、爆弾系モンスターのイメージしか出てこない!!
応援してくれてるお母様すいません私には無理です!!
ピロロ、ピロロ、ピロロー
きゃー!あ、下川口君から電話…
どうしよう、何?何かな?早く出ないと…落ち着け落ち着けユキカ!、
「あ、もしもし…」
「三崎?ショウタだけど」
下川口じゃなくて、ショウタって言った!きゃー!嬉しい♪私も名前で呼びたい♪
「どうしたの?」
「それが何と言うか困った事になってしまって…えっと、日曜日ヒマ?」
え?なになに??
「とくに予定は無いけど…」
「いやーおふくろ達が学年15位のお祝いするってきかなくて…」
「お祝い?」
え?話が見えないぞ?
「お祝いって言っても俺じゃなく、三崎にお礼する会を開くって、なんか寿司とかいろいろ注文してんだよ」
「えー!!!」
「悪い三崎、俺にはもう止められない…三崎から断って…」
(ちょっとおふくろ!)
「そう言う事だからユキカちゃん、日曜日に遊びに来てね♪そっちまでショウタを迎えに行かすから♪」
(俺は三崎ん家知らないって!)
「はい」
(ユキカちゃん、OKだって♪)
「おい、三崎!」
「ゴメン下川口君…【はい】しかコマンド入力出来ない仕様みたい…」
「あ…わかる…気がする…ゴメンな…」
そして、日曜日…
「下川口くーん♪」
私の家を探している下川口君発見!
「あ、三崎ん家って、ホント近いんだな」
「今日はおじゃまします…」
「もはや、ゴメンしか言葉が見つからない…」
「あはは」
「実は親父も上機嫌で待ってるんだ…」
お父様まで…一気にイベントの難易度が上がった気がするんですけど…
「うわ…どうしよう…」
「土下座して謝りたい!むしろ三崎のご両親に謝りたい!」
「えー!、いいよそんなの、早く行こう」
「お願い、謝らせてくれー」
「あはは」
おもいっきり下川口君の腕を引っ張って、移動する。うわー、やっぱスポーツやってる男子の腕って固いんだー
ずっと、下川口君は謝っている、私は笑ながら腕を引っ張って歩いている。
止めてある車のサイドミラーに二人の姿が写った…
あ…
わわ私、しし下川口君と腕をくくく組んでる?
どどどうしよう!なんか自然に腕をつかんじゃった!電撃の呪文を食らって気絶しそう!!
「三崎、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、ちょっと緊張してきたみたい…」
ずっと電撃食らって気絶しそうなのに、腕を離したくない!
「ついたぞ、入っていいか?」
「うん…」
ガチャ!
「いらっしゃい、ユキカちゃん!」
「あー、初めましてショウタの父です」
「こ、こんにちわ三崎ユキカです」
「さ、入って入って!」
「おじゃまします」
「親父、おふくろ、あんまりいじめないでくれよ!」
それからは、ほんと楽しい会だった。
お父様にもお母様にも感謝された、お父様は酔っぱらって、うちに嫁に来いって何度言われたか、お母様には下川口君の子供の頃のアルバム見せてもらった、超可愛い♪
自分はコミュ障だろうと思ってたから、他の家族の中で楽しく会話してるなんてホント想像出来ない。
なんか、ジョブチェンジしちゃった。
「また、遊びに来てね♪」
「はい、でもお父様大丈夫ですか?」
「よっぽと嬉しかったのね、大丈夫よ、寝ちゃってるだけ」
「おじゃましました」
「ショウタ、ちゃんと家まで送るのよ」
「はいはい」
下川口君と帰り道、なんか幸せ~♪
「想像以上だった…もう恥ずかしくて穴があったら入りたい…」
下川口君の顔が赤くなってるのは夕日のせいかな?
「私はスゴく楽しかったよ~」
「それなら良いけど…」
下川口君のお嫁さんかぁ、あの家庭なら上手くやっていけるかも♪って何考えてるんだ私。
「あ、ちょっと散歩していかない?」
「うん、いいよ♪」
だってもうちょっと一緒にいたいし♪
「この先にいつも走ってる公園があるんだ」
「公園?近くに公園あったんだ」
この町に来て以来、ゲームと学校往復だけだったから知らなかった…
その公園はちょっと広目で真ん中の噴水が印象的、下川口君の言った通り周りをランニングしている人も多い。
「ちょっと素敵な公園だね♪」
私は真ん中にある大きな噴水に走った、夕日がキラキラ光って幻想的♪
「あ、あの三崎…」
下川口君がなんか下を向いて話してきた…
「ん?」
「みさ…ユキカさん…」
「え?」
え?え?え?
「ユ、ユキカ…」
「はい…」
え、うそ…、うそ…、これは夢?夢なの?
「転校して来た時からユキカの事ずっと好きだった!俺と付き合ってくれ!」
「はい」
ドオォォォーーン!!
最後の花火が大輪を咲かせている。
ショウタの腕を抱き抱える。
「ユキカ、何泣いてんだ?」
あれ?涙が出てる…
「ちょっと昔の事を思い出しちゃって…」
「なんだそれ?」
「何でもない」
「よし、帰るか」
「ショウタ、もうちょっとだけこのままでいて…」
「…いいよ。」
チュッ♪
「!」
「遅くなりました、期末テストのご褒美だよ♪」
■俺の好きな人は
「え?マスター花火大会にいかないの?」
花火大会の帰り道、ユキカが今日はネトゲしないと言ってきた。
「マスターって言わないでよ~」
「あ、ゴメン」
「花火大会は去年も昨日も見たし、今日の花火大会が最高過ぎてもう満足」
「そっか」
「あ、でもみんなにはネージュが私だって言わないでね」
「もう一人気付いていると思うんだけど…」
「え?」
俺はサンセットがギルメンの誰がリアル彼女か聞いた事、リッカとサンセットが同盟を組んだ事を教えた。
「流石だね、あの子にはなんか私と同じ匂いを感じてたけど…」
「じゃ花火大会行く?2人集まると思うぞ」
「行かない、だって私の勝利は揺るぎないもん♪でしょ♪」
「です。」
勝利か、たしかにゲームとリアルじゃ勝負にならないか、相手の性格はわかってもどこの誰かわからないんじゃ恋愛と言えるのかどうかも謎な気がした。
そう考えれば、ユキカがサンセットとバトルしたのも、ユキカがゲームをかなりやってたからだろうな、普通ならなにこれ?程度かもしれない…
ユキカを家まで送った俺は、ネトゲを始めた、サンセットと約束したつもりはないがネトゲの花火大会も見てみたくなったからだ。
ログインする、一人でナイトのレベル上げしていたので、リテーラ高原にいる。
ナイトはHPが高く回復魔法も使える盾役で、セカンドに戦士をつけているため攻撃力もあり一人でもけっこう戦える、花火大会は夜だろうから敵を倒しながら城まで帰る。
オークションでナイト専用防具を落札する。うん、大きめの盾も装備しなんか伝説の勇者っぽくなってきたぞ。
さて約束の花火を見に…って何処へ?
まずい、花火大会の場所知らないってどうなの?いや待て、これはゲームだから何処でも見れるんじゃ…いやいやそしたらサンセットはどこで待ってる?
えっと、…とりあえず噴水広場に行こう…あそこが一番可能性高い。
噴水広場に移動…
うわ、けっこう人がいる、これじゃサンセットがいるかどうかわからないぞ、参ったなぁ…
「ショウタ見つけ~♪」
「ショウタさん、こんばんは~」
サンセットとリッカが駆け寄ってくる。
「よかった、見つけられなくて途方にくれてた(笑)」
「愛の力の差ですね♪」
「ですね~♪」
「あれ、二人はかなり仲良しになってるんだな」
「何言ってるんですかショウタさん、ライバルですよライバル」
「そうだね~、あれ?ショウタ、ナイトになった?」
「イベント頑張ったからね、似合ってる?」
そう言って、盾と片手剣を構えて見せた。
「ショウタさんかっこいい♪」
「うん、似合ってます♪でもあのイベント一人でクリアしたの?」
「したよ」
「魔法なしで?」
「ブリザードもそんな事言ってたな、ちゃんと一人でやっつけました」
「ショウタって、このゲームほんと楽しんでるね情報も一人で集めて、リッカちゃんに聞いたけどセカンドのイベントも楽しかったんだって?」
「そうそう、薄暗い部屋でショウタさんに抱きつかれましたから(笑)」
「リッカ!」
「え!リッカちゃん、それはズルい」
「サンセットさん、雰囲気のいい部屋で二人っきりになったんですから仕方ないですよ~」
「ショウタ!本当なの!?」
「あのなぁ…、ピラミッドの小部屋で外にはミイラの大群がウヨウヨ、ほとんど死にかけていたあの状況を、雰囲気のいいとは言わないぞ!」
「私はドキドキしてたんですよ~」
「ショウタの浮気者…」
「ちょっと待って、ドキドキの意味が違う気がする!」
「サンセットさん、浮気じゃないですよ私のショウタさんですから♪」
「もう、花火の約束したのは私ですからね」
「それこそズルいですよ、私、ゲームの事全然知らないんですから!」
ちょっと怒った感じでサンセットにアピールした、サンセットも笑ってかわしていたが、ふと疑問がうかんだようだ。
「そもそも、リッカちゃんはなぜFK7をはじめたの?話を聞いてる限りゲーム好きとは思えないけど…」
「それは…」
ちょっと返事に詰まってしまったリッカに、サンセットの鋭い質問が突き刺さる。
「ズバリ!好きな人が始めたから!でしょ♪」
「!」
「え?そうなの?」
「えっと、私、かなり動揺してます…」
「その人は見つかった?」
「それが…その…」
「え?まさかショウタ?」
「え?俺?」
ユキカがマスターだとわかったばかりなのに今度はリッカまで、でも誰だ?
大月や三原?大月はゲームやってるって言ったな、じゃ三原?無いだろそれは、ゲームのゲの字もイメージがない。
その点じゃユキカも同じか…
「ち、違うんです、実はショウタさん、顔が私の初恋の人にそっくりなんです、キャラの顔ですが…」
リッカは初恋の人、たしかサンセットは知り合いに似てるって言ってたな。
「ちなみに、ショウタは自分の顔に似せてるらしいよ」
「そうなんですか!?」
「いや、そのー…」
うわ、やっぱ恥ずかしい…名前も本名だって死んでも言えない…
「でも、このネトゲじゃ会える確率低いよね、所属の王国とか違うと海の向こうだし、そもそもサーバー違うと確率0%だしね」
「サーバーは大丈夫のはずです」
「聞いたの?」
「いえ、女のカンです(笑)」
「リアルの詮索はやめて花火大会にいかないか?そろそろ夕暮れだし…」
「危なく忘れるとこでした…」
「でも、この辺が一番いいかな」
「そう言えば、ネージュさん達は来ないんでしょうか?」
「たしか、マスターとブリザードはリアルの花火大会って言ってたな、キャロはわからない…」
俺達は噴水広場の芝生に座った、サンセットが左にリッカが右にくっついて座る…
「ゲームの花火大会だからね、あまり期待しちゃダメだよ♪」
サンセットは何度も花火を見ているのだろう、ユキカも今年は見ないって言ってたので、リアルの花火大会には勝てないんだろうな…
ヒューーー… ドーン!!
「あ、始まった♪」
開始の花火が上がった、思ってた以上にクオリティーが高い。
「え?スゴいじゃないですか!!」
「今年最後の花火だからね、気合いが入ってるのかな♪」
花火大会の様に色んな花火が上がる、星形等の図形花火も綺麗に花を咲かせている、リアルじゃないんだから当たり前か…
「こうやって好きな人と花火見れたらいいなぁ…」
「私もそう思います♪」
「ちょっとショウタで疑似体験(笑)」
「この角度なら、サンセットさんがショウタさんに隠れて見えないので、私も疑似体験♪」
「えっと…逃げていいですか?」
「ダメー!」
「ダメだよ~」
ユキカも来ればよかったのに…、いやバトルが始まるか…それも怖い…
大中小の花火、城壁に添ってナイアガラの滝まである、かなり見ごたえがある花火大会だ。
噴水や木々の先端から花火が噴出する演出もある、現実では出来ない仕掛けだ、そう言う小さな仕掛けを探すのも楽しい、見つけたらチャットで教えてあげるが、見てるかどうか疑問だ…
かなりの時間花火は上がった、もうすぐ夜明けか空が少しだけ明るくなっている。
と、突然花火が途絶え、王宮の灯りや街灯もバチッと音をたてて消えた、周りは薄暗い状態になる。
「あれ?終わり?」
「いえ、前回は朝日が昇るまでやっていたのですが…」
あちこちで、終わり?バグ?などのチャットが飛び交う!
ドオォォォーーン!!
突然の大音響とともに、城壁がライトアップされる、城壁からバラバラと石くずが落ち二回目の大音響とともに崩れ落ちる!
「なんだ?」
「なんなの?」
「ショウタさん怖い…」
崩れた城壁から姿を現したのは、忘れもしない暗黒の衣を纏った奴の姿だった!
「ゴーズ…」
「ウソでしょ…」
「ショウタさん…」
俺は、盾と剣を構えリッカとサンセットの前に立った!
あちこちで悲鳴のチャットが飛び交う!
ゴーズからレーザー光線が幾重にも放たれ、あちこちの城壁や王宮に火の手が上がる。
嘘だろ、初心者もいる広場でこんな敵倒せる…のか?
「リッカは部屋に逃げる準備を!」
「はい」
「サンセット!もしかしたら俺たちしか倒せないかもしれない、危険だけど来てくれ!」
「はい!」
相手がゴーズなら、精霊王の紋章を持っている俺とサンセットだけが戦えるだろう、サンセットもすぐ理解してくれた。
「死なせたらゴメンな…」
「どこまでも、ついて行きます♪」
よし!精霊王が来るかどうかは運次第いっちょ行きますか!
「って、あれ?」
「どうしたの?」
巨大なゴーズが広場に移動してくる、あちこち破壊されて…でも壊れたはずの城壁が壊れてない?
「あ、もしかしたらプロジェクションマッピングって演出かも?」
俺は戦闘体勢を解除し、様子を見た。
「あのお城とかに映すやつですか?」
「ほらあの壁、壊れてない」
「ほんとだ」
ザバァーー!!
中央の噴水から勢いよく水が吹き出し、美しい女性が姿を現した。
「あれは!」
「ウンディーネ!」
「女神ですか?」
今度はホログラフィーって感じなんだろう。
「ウンディーネは水の精霊王です」
ウンディーネの高く上げたら左腕が光り、魔法を発動、水色の輪が広がり辺りの炎を全て消し去る。
「あの左腕、ショウタさんと同じ?」
今度は左手を前に突きだし魔法を唱える、魔方陣が出来上がり氷の刃がゴーズを貫く!!
ギギギーァー!!
ゴーズも魔法を唱え防御体勢となる、体の周りに紫の妖しい帯が出来上がり氷の刃を粉砕していく。
一進一退の攻防が広場で展開される。
そして、
高らかにギャラルホルンが吹きならされた…
ウンディーネが攻撃をやめ、王宮を振り返る。
王宮の門にライトがあたる、王者の登場シーン…鳥肌が立つような音楽が響きわたる!
正門がゆっくり開き、巨大な黒馬にまたがり、純白の鎧を纏った騎士が現れた、その姿はまさに誇り高き聖騎士。
耳の長さがエルフであることを物語っているが堂々とした体躯、両手剣であろう大剣を片手でもち、巨馬を操っている。
ギャギューーァ!!
ゴーズから威嚇の咆哮が飛ぶ!!
聖騎士は馬上より大剣を掲げた。
ウンディーネの姿が水滴のように変化し移動、ランデルの大剣に重なる。
聖騎士の剣が青白い光を纏った!
≫我が名は聖騎士ランデル、暗黒より出し者よ、闇に帰るがよい!!
ランデル、建国王ランデルその人の姿だった。
巨大馬とともに怒濤の様に宙を翔る聖騎士ランデル。
ゴーズからの魔法攻撃はランデルの体に届かず全て消滅している。
これはあの時の再現?
ランデルは俺たちの頭上を通りすぎゴーズに向かう!!
ズシャーーッ!!
一撃でゴーズを切り裂くランデル!
≫おお!
≫すげー!!
≫オーディーーーン!!
≫ウォォーー!!
一気に歓声が上がる。
ゴーズを斬り倒し消滅を確認したランデルは、高々と大剣を掲げた!!
ランデルを祝福するかの様に、背後から花火が連発で上がり、最後の大玉の花火とともにランデルの姿も消えた…
朝日が登ってきた…
≫スゲー!!
≫最高だった!!
≫感動した!!
あちこちでチャットが飛び交う!俺たちも興奮していた。
「スゴいじゃないですか!ネトゲの花火大会!!」
「私もびっくり、最終日以外の夜は普通の花火だったのに!」
「スゴいです、ネージュさん達にも教えてやらなきゃ♪」
ほんとだ、これはユキカにも教えてやらないと!!
「ショウタとこんな花火大会を見れて幸せです♪」
「ショウタさん、ありがとう♪」
「俺の花火じゃないからね…」
「ゴーズ出てきた時、真っ先にかばってくれたし…私、ショウタさんが好きです!」
「私は最初から好きだよ♪でもさきほどの俺についてこい!は感動的でした♪」
俺についてこいなんて言ったか?
ヤバイ、なんか色んなフラグが立っている様に感じる…
「二人ともとにかく落ち着こうな、なッ」
「たしかにちょっと興奮して胸がドキドキしてるかな?」
「吊り橋効果ってヤツでしょうか?ゴーズが出た時のドキドキと花火とショウタさんへの想いと…」
「いろんなドキドキが重なっちゃのかな?」
ちょっとは落ち着いてきたかな? よし、このタイミングで話題を変えなきゃ。
「二人はリアルの花火大会にいったの?」
「行ってないよ…」
「私は友達と行きました、でも見る場所がなくて…」
「そっか」
話題の選択は失敗に終わった…
「花火大会…終わった後は何か寂しいですね…」
「ホント、だからみんな彼氏といくんだろうなぁ…」
「彼氏…欲しいですね…」チラッ
「そうだね…」チラッ
「…」
そんな見つめられても何も出ませんから、ユキカに殺されますから!
「私、ショウタに会いたいな…」
不意打ちのチャットだった、サンセット本人も何の気なしに打ってしまったのだろう。
「え?」
「サンセットさん!」
「あ、私なに言ってるんだろ…」
「えっと…」
「ごめんなさい、今の無しです」
「サンセット…」
「うぅ…顔から火が出そう…、今日はもう寝ます、おやすみなさい」
サンセットがログアウトしていった。
「私もショウタさんに会いたい気持ちは一緒ですが、サンセットさんとちょっと違うかな」
「?」
「私はショウタさんが、初恋の人だと確信しています」
え?リッカは俺を知ってる?俺が初恋の人?つまり昔からの知り合いって事?
「リッカ、君は…」
「お休みなさい、またね♪」
「リッカ…」
リッカもログアウトした。
朝日が噴水の水しぶきをキラキラ輝かせている… 俺は…
≫だって私の勝利は揺るぎないもん♪でしょ♪
「です。」
俺はもう一度、笑顔のユキカに返事をしていた。
■新キャラ登場?
夏休みの高校生にはあまり感覚はないが、世間的にはお盆休みに入ったようだ。
親の休みに振り回されるのは子供の務めか、ユキカは両親と一週間田舎に帰っている、今日帰ってくる予定だ、お土産を買って来てくれるそうなので期待しよう。
俺も隣町の祖父母の家で過ごしていたのだが、ユキカが帰って来るので“勉強”と言って早めに帰って来た。
お祖母ちゃんは寂しがったが、ユキカと違ってすぐ会いに行けるのでいいだろう。
夏休みの課題はほぼ終わっている。
ユキカが帰るまで、やる事もないのでネトゲを始めた、こっちの人口も少ない感じだ、みんな夏休みで遊びに行ったのかな?
とりあえず、暇な時は釣りにかぎる。
釣りスキルが上がったので、そろそろ海釣りもやってみたいが、今日はいつものフリーシア湖に向かった。
湖の手前までくると、まるで迷子の様に走り回るの冒険者がいた。装備からして初心者だろう。
そんな走り方は敵に見つかり危ないぞと思った矢先、案の定この辺りでは一番厄介なオークに見つかり、追われ出した。
俺はオークに向かって矢をはなったが、サンセットの様に矢で一撃とはならなかった。
アーチャーのジョブも取得しなきゃ…
急ぎ、冒険者とオークの間に割り込み敵の攻撃を受ける、そして両手剣の一撃で倒した。
お!盾が使えないので使ってなかったが、ナイトの両手剣意外に使えるぞ!
呆然としてこちらを見ている冒険者。
ヒューマンの女性で茶色髪ツインテール、小柄で可愛い感じのキャラだった。
「新人さん、この辺りはちょっと危険だよ」
サァーー。
そう言ってヒールの魔法を使う、なんか以前の俺を見てる様だ。
「ありがとうございます」
「迷ってるなら、町まで連れて行こうか?」
「ホントに!お願いします!」
「よし、行こう」
俺は今来た道を戻った、
上級者の心得
一つ、初心者に優しくする事。だな
「俺はショウタ、よろしく」
「ハルカです、二人とも本名みたいな名前ですね(笑)」
「ほんとだね(笑)」
本名だけに笑えない、このゲームに改名機能は無いのかな?今さら改名したら逆に本名だとばれるか…
「ショウタさん、ひとつ教えて欲しいんですが…いいですか?」
「俺もはじめてまだ2ヶ月くらいだからあまり知らないんだけど、わかる範囲なら答えるよ」
「あの…ゴールドを持ってる敵ってどれでしょう?」
うわ、仲間だ♪よかった俺だけじゃない、普通のRPGしてた奴はそう思うよな、敵倒してお金を貯めるんだもん…
「あはは、仲間だ♪」
「え?」
「ごめんごめん、実は俺も初日に同じ質問したの思い出しちゃって」
「そうなんだ(笑)」
「そうだなぁ、説明するよりも実戦がいいかな?時間があればお兄さんが基本機能を教えてあげるけど、どうする?」
ちょっとサンセットみたいな事を言ってしまった、基本一人では遠出が出来ないまだまだ初心者なのに…
ま、いいか。
「はい、よろしくお願いしますお兄様♪」
「お兄様って…」
ハルカのジョブは魔法剣士だ、俺は少し遊びに使っていたプーリストにジョブチェンジして、ハルカとパーティを組んだ。
「お兄様、フレンド登録していいですか?」
「いいよ、お兄様言わなきゃ…」
「よろしくお願いします」
とりあえず、城壁周辺でサンセットに教わった通りに操作を教えた。
魔法剣士は魔法も剣での攻撃もあり、いろいろ大変なのだが、魔法発動のタイミングさえ分かればかなり使えるジョブである。
俺もプーリストだが、杖系の武器で打撃に加わる、前衛が慣れてると言うのもあるが、ナイト時のヒールのタイミングの練習にもなった。
ハルカは無言で操作していたが、途中からなれなのか、チャットをしてくるようになった。
「お兄様は、どうしてこのゲーム始めたんですか?」
「お兄様は止めて欲しいんだけど…そうだなぁ、始めたのは知り合いに“無理やり”進められたから。かな」
「そうなんですか」
「ハルカさんは?」
「お兄様、ハルカと呼び捨てにして下さい」
お兄様は止めないのね…、と言うかそこは完全に無視なのね…
「ハルカは?」
「ハルカは、お兄様に会うためにこのゲームを始めました♪」
「えーと、なんだそれ?リアルの兄がいるって事?」
「ちがいますよ、私のお兄様はショウタお兄様だけです」
あれれ、もしかして初めて会った時のマスター以上に痛い子だったかな?それともキャラ設定だろうか?
どっちにしろこの子はブレそうにないな、完璧に演じきりそう…
「もしかして、これは運命…とか言うのかな?」
「はい!間違いありません!」
「えっとハルカ、これキャラだし、中身はお兄様ではなくて、オジサンだとか女性だとか、悪い人だとか疑わない?」
「お兄様をですか?ハルカは1ミリも疑いませんよ」
「少しくらい疑った方がいいんじゃ?」
「世界中がお兄様を疑っても、ハルカだけはお兄様を信じ、ついて行きます」
何かの映画の様なセリフだな、でも主人公になりきるのもネトゲの楽しみかたかな。
「ほんの10分程度で、そこまで信頼されるとは思わなかった…」
「私達、いい兄弟じゃない…兄妹ですね♪」
「突然、妹が出来てもなぁ」
「いいじゃありませんか、突然血のつながらない可愛い妹が出来るのはよくある事ですよ♪」
「俺の周りでは、ほぼゼロの確率だけどね」
「これはゲームですし、アニメやゲームではよくありますよお兄様♪」
「今度、その辺に詳しい友人に聞いてみる…」
ハルカはアニメが大好きな様だ、いろいろアニメ関係の事を教えてもらったが、さっぱりわからない…
このネトゲ(FK7)も秋にアニメ化する様でゲームを始めたのはたぶんそれだろう。
「さて、ある程度アイテムもそろったし、次に行くか」
「はい」
町に戻りオークションのやり方を教える、素直に聞いてちゃんと操作しているようだ。俺は一人っ子だが、こんな妹ならいいかもと思うようになった。
でも、実際妹のいる友人からはいい話は聞かないが…
「って、これくらいが基礎知識かな、後はイベントとか頑張って!」
「お兄様、ありがとうございました」
「最後までお兄様通すんだな(笑)それじゃ、またなんかあったら声をかけてね」
「はい!」
パーティを解除し自宅に戻る、ナイトにジョブチェンジし当初の予定だった釣りに戻ろうとした、途中オークションによる、ナイト装備の価格を確認するためだ。
オークション前で、リッカが真剣に商品の確認をしている、花火大会の事もあり何となく話しかけにくい…
いや、ここは自然に話しかけよう。
「あれ?おーい、リッカ」
「あ、ショウタさんこんにちは♪」
「何してる?」
「うーん、誰もいなくて暇なので、料理のスキルでも上げようかと素材を見てたんですがどれも高くて…」
「魚料理なら、釣りのスキル上げのついでに釣った魚をトレードするけど」
「あ!その手がありましたか♪私も釣りに付き合っていいですか?」
「いいよ、そしたら後で料理教えて」
「もちろんです♪」
「しかし、人少ないな」
「最近、ネージュさんも見ませんね」
ユキカは田舎に帰ってる…
「お盆休みだからなぁ、旅行とかじゃないか?」
「旅行かぁ、いいなぁ~」
〉お兄様、この猫娘は誰ですか!
「!」
「え?」
俺の後ろにハルカが立っていた。
「お兄様?ショウタさんの妹?」
「いや、さっき知り合ったばかりなんだけど、変になつかれちゃって…」
「そうなんですか…、よし!私に任せて下さい」
なんか…嫌な予感しかしないんだが…
〉こんにちは私はリッカ。ショウタさんの彼女です、よろしくね♪
〉おーい
リッカそう来たか…でもそれはユキカとサンセットのバトルを思い出すので、やってほしくなかった…
〉お兄様、ハルカはお兄様の恋愛に口を挟むつもりはありませんが、この方はお兄様にはふさわしくないと思います。
〉それは、どういう意味かしら
〉言った通りです。お優しいお兄様には、猫娘の貴方は相応しく無いといったのです。
ヤバい…バトルな要素だらけじゃないか!
〉聞き捨てなりませんね、メルルもどきの分際で!
〉メル!?姿だけでその言葉が出るとは思いませんでした、さすがは邪王真眼の使い手
〉ふふ、貴方も私の名前だけでそこにたどり着くのね
〉最低でも眼帯が無くては、さまになりませんけどね。
〉あなたこそ、そのキャラでお兄様は無いですね、もう少し清楚なキャラを作るべきです。
〉お互い気が合いそうですね(怒)
〉まったく同感です(怒)
なんか、理解不能な領域でバトルがはじまってる!
〉えっと、ケンカは止めような…
〉ショウタさん、この件に関してだけは引けないんです分かって下さい!
〉お兄様、私の存在意義がかかってるんです止めないで下さい!
〉そんな大袈裟な…
〉負けられない戦いがあるんです!
〉負けられない戦いがあるんです!
〉そのセリフをこの状況でハモられても…
オークション前では周りに迷惑がかかりそうなので、場所を人気の無い広場の端に移動、3人でバトルパーティを組んで、討論バトルが始まる。
「どうせ、アニメ化記念につられてゲーム始めたんでしょ」
「そうですよ、アニメ化の応援いいじゃないですか!おかげでお兄様と運命的な出会いもありましたから」
「その姿でお兄様はないですね、せいぜい名前を呼び捨てにしなさい」
「妹の“あんた”ではなく呼び捨ての方ですか」
「当たり前です、も・ど・きの方ですから」
「あなただって少しは中二病な発言した方がいいですよ」
「知らないんですか、恋をしている時は普通になるんです」
「知ってますよ、バトル中は中二病全開だって事を」
二人の間でバチバチ火花が弾けている、まったく意味不明な会話なだけに割り込めない…
多分これは何をやっても止まらないだろう…理解不能な会話を延々と聞くツラさは尋常じゃない…
俺は和解をさせると言う不毛な考えを捨て去り、横の水場で静かに釣りを始めた、終わりがある事を祈りながら…
1時間経過…
〉な、なかなかやりますね…
〉私がこんなに苦戦したのは初めてです
〉お互い、にわかファンと侮った結果でしょう
〉これはもうお兄様に勝敗を決めてもらうしかありません!
〉引き分け
俺は、即決で答えた。もうこれ以上付き合うのはキツ過ぎる…
〉お兄様!でもハルカの方が多くの作品を知ってたんですよ!
〉ハルカ、兄の決断に異論があるのか?
〉あ、ありません、お兄様…
内容のわからない討論だったが、お兄様と言う存在は特別らしい、だからキッパリ言ったのだが、当たりだった様だ。
〉ショウタさん♪今のはスゴくいいです♪私もお兄様とお呼びしてよろしいでしょうか?
〉ダメに決まってる!
〉そうです、お兄様はハルカだけのお兄様なんですから
〉あのなぁ…
〉彼女の方が妹よりランクが上のはずなのに…なんでしょうこの負けた感は…
〉この世界では、妹は至高の存在なのです!
〉もう勝手にやってくれ、俺は現実に帰る。
〉あ、ショウタさん!
〉お兄様!
俺はさっさとログアウトした、二人はまた口論するのだろうか?
案外、時間がたてば仲良くなってるかもしれない、あれだけ趣味の話が出来る相手はそうそういないだろう。
しっかし、疲れた…ネトゲはしばらく止めよう。
そうだ、マスターにあの二人の仲裁を頼もう、あの意味不明な話題についていけるか謎だが…
≫ただいま♪
ユキカからラインが飛んできた、田舎から帰ったようだ。
≫お帰り
≫それだけ?もうちょっと喜ぼうよ!
≫わーい、帰ってきた
≫そんなやる気のないわーいは初めて見た。
≫いや、いろいろあってね…
≫とにかく、お土産持ってきたから開けて!
≫え?
窓から玄関前を見ると、ユキカが手をふっていた。
お土産は地元の海産物、大好きな刺し身とかもある。
「お!やった!晩御飯確保!!」
「え?お母さん達いないの?」
「隣町のじぃちゃん家、夜には帰ってくるかな」
「そうなんだ」
「ユキカと違って近いから田舎って感じないなぁ、昨日まで泊まってたんだけどね」
大事な刺し身なんかは冷蔵庫に入れ、部屋に移動する。
「田舎楽しかった?」
「うん、でもゲームが気になって、またリッカやらあの子と遊んでんじゃないかって」
「あのなぁ…」
「ほっとくと、すぐ女の子連れてるし…」
「女の子のキャラね!」
ちょっと視線が痛いです…そして今はログインしたくないです…
「みんなは元気?」
「この一週間なら会ったのはリッカだけだな、マスターは旅行かも?って言っといた」
「ありがとう、他には?」
「そうだなぁ…なぜか妹ができた」
「………え?」
キョトン…って顔だな…
「ゲームの話だよ、妹ができた」
「え?、え?、え?、意味わかんない?」
「俺にもよく分からない…」
「またショウタを好きな、女の子が増えたって事?」
「女の子のキャラね!!」
「同じでしょ、ログインして見せて」
「断る!」
「なんでよ!」
「また、バトルする気なのか?」
「ち、違うけど…」
「ユキカがバトルしなくてもスゴい事になってるから!」
「スゴいって…?」
「さっきまで、リッカと妹が人生をかけて戦ってた…」
「人生って…」
「一時間以上の凄まじいバトルだった…」
「ええ!?」
「一つ聞くが、お兄様、邪王の目、メルメル、メイド隊って聞いて何だか分かるか?」
「さっぱりわからない…」
「だったら触れない方がいい、精神が崩壊する…」
「えっと…」
「ちなみに俺はしばらくネトゲをしたくなくなった…」
「大丈夫なの…」
「大丈夫、事実を言ってる俺も、何言ってんだ?って感じだから…」
「…」
「マスター、後は頼んだ…」
そして俺は、真っ白な灰になった…
「ダメー、ウソ、やめてーッ!」
■夏の終わりに…
≫下川口、ひま?
夏休みも終盤になった頃、大月からラインが届いた。
なんか不幸のメールのような気がしてならない…
≫只今、留守にしています、ご用の方は明日連絡下さい。
≫おーい、愛しのアカリ様ですよー
誰の愛しい人ですかってつっこんほしいのか?!
≫無理です!
≫何も言ってないじゃん!
≫でも、無理だから忙しいから!
≫一緒に夏休みの課題してほしいなぁ
あぁ、やっぱり厄介事だ!これは課題を一緒にではなく、丸写しにさせてほしいって事だな…
≫やってないのか?
≫いやいや、けっこう終わってるよ
≫やってないんだろ?
≫だから、少しはやったけど…
≫やってないんだな
≫はい…
≫お前は小学生か!
怒りのスタンプを送りつける!
≫お願い下川口、あなただけが頼りです!
≫オビワンみたいに言うな!
≫オビワンってなに?
≫スター…、何でもないとにかく無理
≫本気のお願い!
≫ユキカか三原に頼めよ
≫2人とも、私の為にならないって…教えてぐれない…(涙目)
≫俺も同感だ!
≫冬は冬休みはちゃんとやるから!
≫はぁ?
≫お願いお願いお願いお願いお願い
今度は、お願いスタンプの嵐になる。
≫わかった!、わかったから!で?どこで勉強するんだ?
一時間後の俺の部屋…
「んで、なぜこうなった?」
俺の部屋で、大月と夏休みの課題をやっている…机に俺と大月、ベットでユキカが持ち込んだ雑誌を読んでいる、テレビは三原が持ち込んだアニメのブルーレイを見ている。
はっきり言って、俺の部屋はそんなに広くない…
「どうしたんですか?」
「なんで二人して、俺の部屋で寛いでるんだ?」
「なんでって?」
「強いて言うなら、アカリさんがこの部屋にいるからでしょうか…」
「俺の監視なのか?」
「私は別にかまわないよ、下川口に襲われても…」
そうか、そう言う事か。
「大月、お前策士だな」
「な、何の事かなー?」
「俺の部屋で勉強すると、2人にそれとなく伝えただろ!」
「あははは…」
「そもそも、なんでショウタはOKだしちゃうの」
「お前たちが教えないからだろうが」
「それはアカリの為にならない」
「それに関してはまったく同感だ!」
「女の子にお願いされて、断れなかっただけでしょ」
「そうですよ、下川口君は優しいからいい様に使われてるんですよ~」
まったく三原まで、なんで俺がお前達の親友の勉強を見なくちゃいけないんだ、そもそも俺はそんなキャラじゃない!
「よしわかった、今後お前達からの勉強“以外”のお願いがあった場合、為にならないと断る事にする!」
「え?」
「大月もいいな、スポーツ関係のお願いされても断るんだぞ!」
「アイアイサー♪」
大月も俺の意図を理解した様だ、満面の笑みで答えてきた。
「…」
「…」
「秋には運動会もあるし、俺たちは楽しみだな大月」
「だね、下川口♪女子のリレーは誰が選手かな?」
「立候補なけりゃくじ引きだよなきっと」
「私の友達、くじ運悪いんだよね~」
「そう言えばそうだったな、でも大丈夫だよ一生懸命走れば、みんな生暖かい目で応援してくれるさ」
「わかった、ゴメン私が悪かった!」
「うん、ゴメンなさい…」
「ありがとう、ユキカ~♪レナ~♪」
「脅しに屈してしまった…」
「下川口君、あの…私のお願い事も聞いてもらえるんですか?」
「優しいからいい様に使われてるんじゃなかったか?」
「わかりました、下川口君ちょっと代わって下さい」
猛然と課題を教えだす三原、答えを写すのではなく、解く事を教えている。
「レナ…ありがと、でも余り時間が無いので答えを…」
「ダメです。」
「し、下川口…」
「そこは自業自得だ、あきらめろ」
「はい…」
3時間である程度の課題を教え終える。
三原は優しくおっとり系のイメージしかなかったが、勉強に関してはユキカと違ってスパルタだ、三原の意外な一面を見た気がした。
「アカリは帰っても続きをやること、いい、ほとんどは期末テストで勉強したとこだからね」
「はい…」
「それから、明日と明後日は私の家で勉強します、わからないとこはメモっておいてね」
「はい…」
大月も観念して勉強をするようだ、最初は答えを写すつもりだったんだろうご愁傷さま…
でも気持ちはわかるぞ、部活やってると夜は寝ちゃうよな、頑張れ大月!
ユキカと目が合う。
「私たちの出番は無さそうだね」
「だな、三原に任しとけば安心だ」
翌日、三原の部屋…
「えっと、なぜこうなった?」
期末テストの時に使ったテーブルで三原と大月が勉強している、三原が用意したのか“煩悩退散”と書かれたハチマキをしめている。
ユキカは相変わらず、ベットに寝転がり雑誌を読んでいる。
俺は…ヘッドホンをつけて、三原の用意したアニメをみている。
何年か前の深夜に放送されたTVアニメらしいが、感想を聞かせてと“お願い”されたのだ。
しかし、このアニメは一体なんだろ?
魔法も出ない、変身もしない、敵もいない、単なる日常をアニメにしてる様に見えるが、これってアニメにする意味があるのか?
実写の方が楽だろうに…ってこれは素人考えなんだろうか…
雑誌に飽きたのかユキカも横でアニメを見出した。
「ユキカ、私が音楽聞きながら勉強するから、テレビの音出していいよ」
大月がスマホとイヤホンを取り出して勉強を続ける。
教え終わったのか、三原もそばにきてアニメを見出した。
「これ最高だから!マジ神アニメだから!!」
え?何いまの…三原が言ったの?
おっとり系のお嬢様キャラがこうもハキハキ喋るとびっくりしてしまう、それに内容が先日の俺のトラウマを呼び起こす…
「か、神アニメって…なに?」
「最高って事だよ、私のアニメ道はここからはじまったと言っても過言ではない!」
「三原…なんかキャラ変わってるぞ」
「レナはいつもそんなだよ」
「そうなの?」
「へへ」
「期末テストのお礼でアカリが秋葉原連れてった時なんて、町中で秋葉原ー!って叫んだもんねぇ」
〉あっきはばらー!
主人公の女の子が叫んでる…
「これをやったのか?」
「普通やるよ!秋葉原だもん♪」
どこの世界での普通だろう…俺、その場にいなくてよかった…
視聴、1時間経過…
えっと、何話まであるんだろう…かなりキツいぞ、これなら大月に勉強教えてた方がよかったかな…
ユキカと三原は俺を挟んで楽しく見ている、ユキカはアニメとか無縁かと思ったが、案外好きなのかも…
大月の状況を見たが、課題をすらすら記入している、多少期末試験の勉強会を思い出したのだろう。
あれ?メルル…?どっかで聞いた様な気がする…
邪気眼…あれ、これってリッカとハルカがバトルした奴なのか?
妹は出てるお兄様はいそうにない、この冴えないアニキがバージョンアップするのか?
「三原はなんでこのアニメを俺に見ろと?」
「え?迷惑でした…か?」
「そうじゃなくて、俺とアニメって凄く相性が悪いと言うか無縁の存在な気がするんだけど…」
「たしかにショウタにアニメなんて想像できないね、ゲームも想像出来なかったけど」
ユキカが笑って言った、たしかにゲームも想像出来ないけど、やっぱワクワク感かな?アニメもファンタジー物ならちょっとはまるかも…
「たしかに、FK7のアニメならちょっとハマるかもしれない」
「そうですね…一つは正義のヒーローやロボットが出ない、こんなアニメもあると知ってほしいのと…」
「と?」
「あの笑いませんか?」
「ん?笑わないよ」
「えっと、私が書いてる小説の参考になるから…です!」
「え!?小説の書いてるの?」
三原が恥ずかしそうにうなずく。
「こう言うアニメの原作、ライトノベルを書いてるんです」
「スゴいな」
「今度、読ませて!」
「あ、でも、なんて言うか…その…主人公の設定から行き詰まってて…」
「えらく初期段階から止まったな…」
「どの辺りで行き詰まったの?」
「いろんな作品を見すぎたんでしょうか…いくら書き初めても何かの作品に似てるんです」
「まぁ、小説って凄く沢山あるからなぁ、どれかには多少は似るんじゃないの?」
「そうだよ、アニメだって似た作品かなりあるんじゃない?」
「そうなんですが…」
「で?最初に戻るけど、三原の小説関係で、俺の役処は?」
「私の好きなラノベの主人公は当初彼女がいないんです、だから私の書く小説は彼女がいる設定で始めれば、少なくとも同じにならないって考えて…」
「うん…」
「そしたら、いっその事下川口君を主人公にしちゃえって…」
だんだん声が小さくなってくる、また恥ずかしくなってきたのだろう。
「で、俺が登場か、なるほど…」
「で?主人公の設定がクリアされたから、次の内容は?」
「え?ショウタいいの?」
「主人公の設定でしょ、いいよそれで?」
三原の顔が明るくなる、同士を得たって感じかな。
「設定は…」
~主人公と彼女、仲のいい二人の日常から話は始まる、ある日の深夜主人公が異世界に召喚される。
そこは剣と魔法と魔物がくりなす王道のファンタジー世界。
主人公はそこでいろんな人に出会うんだけど、その世界で眠りにつくともとの日常に戻って朝を迎える、長い夢だったと彼女に話す主人公、しかしその日眠りにつくとまた異世界にいる。
現実と異世界を行き来するようになった主人公。
異世界では主人公に別の彼女(仮)ができる、と言うより優しい性格でスポーツ万能のリア充主人公はモテまくる。
ピキーッ!(怒りの反応)
「ユキカ、小説の話だから俺じゃないから」
「わかってるよ」
~魔王と戦う主人公、そのサポートをする5名の女性、実は、その中に現実世界の彼女(異世界に主人公を召喚した張本人)がいる。
「あ…」
「え…」
うわ、ネトゲの今の俺の状況に似てるぞこれは…現実も彼女あり、ネトゲも彼女あり、ユキカは俺に内緒て別のキャラで近くにいた。
「え、えーと、レナ?これは小説の話だよね…」
「え?なんか変かなぁ…」
「そうじゃないんだけど…」
「異世界の女性キャラにはそれぞれ主人公を好きになるイベントを用意して…」
「例えば?」
「モンスターに襲われた所を助けるとか、二人で謎解きをするとか、罠にはまって暗闇で二人きりになるとか、考えてる」
え?え?まさかリッカ??
セカンドジョブの話なら、ユキカは知らない話だ、リッカが三原ならマスターがユキカだって知らない…
リッカは初恋の人に似てると、そして好きな人を友達に取られたとも…
いや、想像で判断するのはやめよう、これは小説の設定の話だ。
「どうかな?」
「おもしろいかも」
「うーん、私的には彼女が現実でも異世界でもハッピーエンドなら…」
「ユ~キ~カ~さん」キラッ
三原の目が光り、少し意地悪な笑顔になった。
「な、なに?」
「私がクリエイターですよ、小説で言えば神的な存在ですよ、そう簡単に彼女をハッピーになんかさせません」
「えーッ!!」
「あはは、三原それかなり面白い」
「え!そうですか!?」
「リアル彼女と異世界彼女でバトルしたらもっと面白い!」
「な!」
「下川口君!!そ、それ!!わ、湧いてきましたストーリーが湧いてきました!!」
三原は立ち上がり、机のノートパソコンに向かって入力しだした、小説を書きはじめたのだろう。
「ちょっとショウタ!」(小声)
「今の話、俺達のネトゲみたいだったな」(小声)
「そうだけど…」(小声)
「完成が楽しみだ♪」(小声)
「もう…」(小声)
「タイトルが決まったーー!!」
三原がノートパソコン掲げ飛び跳ねた、大きな胸も飛び跳ねた。
「どんなタイトル?」
「ジャーン♪」
三原がノートパソコンの画面を見せてきた、そこには大きく
『異世界のフレがリアル彼女に宣戦布告』
と、書かれていた。
「フレ?」
「フレンドの略。うん、ここから始めたらスゴい事になる予感がする、私の頭の中でキャラが勝手に動き出したよ!」
「そっか、何か役に立ったみたいだね」
「ありがとう下川口君、主人公はホント大事にしますね」
「リアル彼女も大事にしてほしいんだけど…」
「それは保証しません」
「えー!!」
それからは、大月は課題、三原は小説、俺とユキカはアニメ観賞となった。
「うーん、異世界の話はだいたい目処がつきました♪」
三原が大きく伸びをしながらこっちにくる。
「残すはリアルでの話ですね」
「リアル?」
「その為のアニメ観賞ですから♪」
「そう…だったね…」
「で、で、リア充の下川口君から見て何か気になる点てある?」
「リア充って…」
三原が目を輝かせて答えを待っている、なんか答えなきゃ…
「そうだなぁ、何となくだけどアニキの好感度が高いのがなぜ?って感じ」
「好感度ですか…」
「三原はこのアニキ好き?」
「まぁ、私はブルーレイ全て見て、過去の話も知ってますし…」
「過去になんかあるなら、知ってる妹にはお兄様くらい言わせればいいのにって思ってる、そしたら行動に違和感ないし周りの好感度も自然かな?」
「下川口君、凄いです!」
「そう?ま、妹がアニキをあんたと呼んでる時点で好感度は低いけど、どう?、妹目線でアニキって?」
俺はアイスコーヒーを飲んで休憩している大月に話しかけた。
「正直ウザい、もうゲーム貸してもらってないから関わりがない」
「ってこんな感じの人を、友達の三原が好きになる?」
「なるほど、やっぱりリア充設定いいかも、他の子が好きになるのが自然な流れかぁ…それから彼女の方は?」
え?まだ聞くの…
「そうだなぁ、彼女は完璧にしてほしくないなぁ、この妹みたいになんか隠し事があった方が可愛い」
三原はユキカを見た。
「ユキカさん、下川口君に何か隠してる事ありますか?」
「あ、ある訳ないでしょ!」
ゲーム好きで、ギルドマスターやってること隠してたくせに…
「なにショウタ」
「小説の話だからな、なんか面白い設定の趣味とかないの?アイドルオタク的な」
「そうだ、アキちゃん!!」
「ん?」
「え?」
「ふふふ、浮かんだわ。今ハッキリとしたビジョンが!」
「なんか闇が見えるんだけど…」
三原は机に戻ってキーボードを叩きだした。
「ユキカさん覚悟しなさい、ユキカさんとバトルする相手は、アイドルの宿毛アキにしてあげる…プールの悪夢ふたたびよ」
「レナ…」
「お、面白い小説になりそうだね…」
アニメは4時間以上かけてやっと終わった…、三原はいったん小説をやめ俺の隣に座る。
「ね、どうだった?」
「うん、面白かった…」
「で?下川口君から見て誰が好み?」
「うーん…まぁ黒猫かな…」
「黒猫キターーッ!!」
「ユキカ、三原大丈夫か?」
「だから、いつもこんなだって」
「私も今日は終了していい?」
大月がフラフラしてやってくる。
「どこまで進んだんですか?」
三原が立ち上がり、代わりに俺の横に大月が座る。
「ほとんど終わってますねアカリさん、これはホントに明日で終わるかもしれません」
「よかった、私寝る…」
大月は俺の膝を枕に転がった。
「ちょっとアカリ!」
「くぅ…」
「寝てるみたいだな…」
「もう!」
三原が帰ってきて、ブルーレイを入れ替える、そして俺の斜め後ろから抱きついてきた!
「レナまで!何やってるの!もう、私の彼氏なんだからね!」
リモコンのスタートボタンを押す。
「よし、アカリが起きるまで、第二期行ってみよー!」
「へ?まだあるの!?」
■転校生
夏休みも終わってしまった、結局ネトゲ三昧だった気がするが、まぁユキカ(マスター)が楽しんでたしいいか。
「おっはよー下川口」
「おはよ、朝からテンション高いなぁ大月」
「いやぁ、こんな清々しい2学期初日は小学校3年以来だね♪」
「お前はその頃から宿題やってなかったのか…」
「あはは…」
「笑えないぞ」
「いやいや、夏休みの宿題ちゃんとやってる方が異常だって」
「何基準だよそれは」
こいつもブレない奴だな、きっと10月の中間試験もお願いの嵐が吹き荒れるんだろう。
「そう言えばユキカは?」
「そろそろ来るんじゃないの」
「遊びすぎて、学校始まったの忘れてるんじゃない?」
「まさか、大月じゃあるまいし」
「あはは♪」
なんか期末試験前の勉強会以来、大月と三原の距離がぐっと縮まった気がする、ユキカの親友だし小学校からの付き合いだから、成り行きに任せてるが…ユキカ嫉妬とかしないよな…
叶崎公園前で三原が合流する。
「おはよう~♪」
「レナ、おはよう」
「おはよ」
「レナ、清々しい朝をありがとう♪」
大月が三原に抱き付きながら言う。
「なぁにそれ、夏休みの課題の事なら下川口君にお礼言わなきゃ」
「お?下川口に抱きついて良いと、レナが許可をくれたんだが」キラッ
大月の両目が光る。
「おい!」
「許可してないよー」
「ま、下川口なら、こんな可愛い子が膝枕で寝てあげたんだからOKでしょ」
大月は三原の家での2日間、課題が終わったら俺の膝で1時間ほど仮眠をしている。
実はそれを見て少々ご立腹のユキカも、次の日ネトゲをしている俺の膝で昼寝をしていた。
「普通、逆じゃないか?」
「逆?」
「いや、男の方が膝枕で寝るん…」
「わかった!今度、私の膝枕で寝かせてあげよう」
「あ、いや、やっばいい」
「遠慮しないで、私の太ももけっこう柔らかいよ、それに私と貴方の仲でしょ♪」
「どんな仲だよ!」
「えー、下川口とイチャイチャしたいのに♪」
そう言って、大月は腕を組んできた。
「おいおい」
「アカリさん!」
「ユキカが来るまでだって♪」
「俺がユキカに殺されるだろ!」
大月の腕を払って距離を開ける。
「ちぇッ、少しくらい浮気しなよ~」
「あのなぁ…」
まったくコイツは、昔っからのこんな感じでからかって来る、少しはこらしめてやるか。
「お前、もしかして俺の事好きなの?」
「えー!小学校からの付き合いなのに、今ごろ気付いたのー!?」
「…マジ?」
「マジマジ」
「…」
「マジマジ」
「今の、質問から取り消す事は可能?」
「不可能」
動揺してる、かなり動揺してる。
三原とはクラスが違う事はよくあったが、大月は偶然にも小学校から高校まで同じクラスだった、まさか俺の事好きだったなんて…
「知ってた?」
俺は三原に聞いてみた「ウソだよ」を期待してたのかもしれない。
「うん…」
三原はうつむいたまま返事をくれた。
「レナに聞いてどうすんの?レナもなんだから」
「アカリさん!」
「も?」
三原の顔がが真っ赤になる。
「うそ…」
「みんなーおはよう!」
ギグーッ!
ドキーッ!
ビクーッ!
振り返ればユキカがかけて来ていた。
「お、おはよ」
「おはようございます…」
「ん?何?みんなどうしたの?」
「ど、どうしたのって?」
「なんか、みんな挙動不審だよ、レナは顔真っ赤だし」
「あ…えーと…今、プールでのお礼の話をしてたんだ」
大月が胸を揺するマネをした。
「もう、知りません」
三原が走って先に行った、大月が追いかける。
「ショウタ、おはよう♪」
「うん」
「みんな、なんか変だね…」
「そ、そうか?夏休みが終わったからじゃないか?」
「わからなくは無いんだけど…」
「?」
「最近、アカリやレナと仲良くし過ぎ!」
「う、気をつけます…」
「まぁ、ショウタから行ったんじゃないと思うけど、ゲームでも女子だらけでこっちでもなんて、ちょっとヤキモチ」
ユキカがちょっとふくれながら前を歩いて行った。
悪い予感が的中した、大月達の距離が近くなっている事をユキカも感じてたんだ…、しかも昔から俺の事好きだったなんて…
ユキカには言ってない様だが、少し距離を開けるか…よし、勉強会とかにも参加しないようにしよう。
「ショウタ?」
「あ、うん、大月達とはちょっと距離を置くな」
「え?、アカリ達もなんかそんなつもりじゃないだろうから…」
「じゃ、自然にそうする」
「うん」
教室に入ると、ユキカは大月達の所に行った、大月はウインクしてきたが三原は目を会わせてくれない。大月の好き以上に三原の好きはマジっぽい…
後方の座席周辺でみんながざわついている。
「清水どうしたんだ?」
俺は席に鞄を置きながら友達に聞いてみた。
「おう下川口、見てみろよ机が一つ増えてる、転校生が来るんじゃないか?」
俺の席の二つ後ろに、机が用意されていた。
「このザワザワはそれか」
「女子がいいなぁ、可愛い女子!」
「お前はそればっかだな」
「うっせッ」
ダダダッっと、中村が教室に駆け込んできた。
「男子諸君注目!!」
教室のみんなの視線が集まる。
「わかったのか?」
「どうなんだ!」
「女子か?女子か?」
入口近くの中村に、男子が群がる。
「いいか、転校生はー」
教室が静まり返る…
「とんでもない美少女だ!!」
「なにぃ!!」
「マジか!!」
「やったーー!」
大いに盛り上がる男子のクラスメイト、女子の視線が冷たい…、あ、ユキカ達の視線も冷たい…
興奮が覚めないが、始業ベルがなったので、みんな自分の席についた。
俺もそのとんでもない美少女には興味があるが、ま、ゲームの様な出会いフラグはないだろう。
ガラガラガラーッ
「ホームルームはじめるぞー」
先生が入ってきた、続いて入って来たのは、え?
全員びっくりした表情になる…、知ってるヤツはびっくりし、知らないヤツは次元のちがう可愛さに固まる。
少し茶色がかったロングヘアー、俺よりちょっと低いくらいの伸長、スタイル抜群、超美人、あの宿毛アキが、俺達と同じ制服を着て立っている。
「アキちゃん?」
女子の誰かがしゃべった…
「えーー!!」
「うそ?」
「マジか!!」
「何これテレビ?」
呪縛がとかれたようにみんなしゃべりだす。
「まぁ、みんな知ってるな、今日からうちのクラスに入った宿毛アキさんだ」
「宿毛アキです、よろしくお願いします、えっと、何かの企画ではなくちゃんと転校してきましたよ♪」
笑顔が眩しい、男子だけでなく女子もやられてる。
ユキカは、現実が飲み込めずポカーンとしていたが、はッ、っと何かに気付き俺を見た。多分プールでの事を思い出したのだろう、人生で最大級の危険信号が鳴ってると分かる目をしていた。
「宿毛は、とりあえず後ろの空いた席についてくれ」
「はい」
「帰りのホームルームで席替えを行う、以上。」
先生が教室から出ていく。
宿毛が自分の席につく為に歩いて来る、席は俺の後ろ側だ、途中で俺と目が合った…
宿毛の目が大きく見開かれる。
「あ、ショウタさん?」
「ども…」
とりあえず挨拶した…
「下川口!なんでアキちゃんと知り合いなんだテメー!!」
清水が唸った、クラスメイトからの視線が痛い…
「ちょっと待った!」
「あ、そんなんじゃないんです、この前ちょっとあって…」
「何を待つって?」
「ちょっとナンパしたのか?」
「お前は一度死なないとわからないらしいな」
男子高校生の怨念が押し寄せてくれる、まるでゴーズの大群の如く
「いい加減にしとけよテメー!」
「キサマには、ユキカちゃんがいるだろうがッ!!」
一瞬で男子の壁に取り囲まれてしまった、これは脱出不可能だ。
「ゆき、ユキカ?」
宿毛の目線が女子を探す。
ほどなく、視線がユキカを捕らえる。
「ユキカさん」
「は、はい」
「おや~、あの場所には私たちもいたのに、どうしてユキカが解ったんだろう?」
大月が質問した。
「あの場所?」
「ちょっと前、プールでのイベントだけど、違うの?」
「あ、そっかあの時か…、ふふ、私もパニクって周りが見えてなかったなぁ」
「じゃ、どうして解ったんでしょう?」
「え?えっと…、女のカンです」
バンバンバン!!
「君たち!二学期早々、授業を受ける気がないなら、全員廊下に立ってろ!!」
既に英語の小筑紫先生が教壇に立っていた、眼鏡の小筑紫先生は黙っていればとても美人で初めて合った男子の憧れなんだが、喋ると言葉使いは男性的でキツく、ツンツンな性格のため、みんなの恋は冷めてしまう。合気道の達人との噂もある。
一瞬で男子は自分の席に戻る。
「宿毛もはやく席に座りなさい」
「はい」
横を通りすがり、宿毛が俺の耳元でそっと呟いた
「よろしくね、お兄ちゃん♪」
「!」
バチバチバチッ!!
それを見ていたユキカ達から火花の様な視線が突き刺さる。
男子からの死ね死ね念波も凄まじい。
「さ、勉強しようなみんな…」
2時間目が始まる頃には、宿毛アキが転校してきた事は全校に知れわたっていた。
俺はと言うと、全学年の男子からの敵意にさらされている…
宿毛は何となく俺と話したそうだが今は無理分かってくれ…
「アキちゃん、私、大月アカリよろしくね」
昼休み、大月が最初に宿毛に話しかけた。
男子もなのだが、女子も宿毛に話しかけられずいた。
「アカリさん、よろしくね」
「アカリでいいよ」
「じゃ、私もアキって呼んで」
何となく、緊張が解れた感じがする、女子が宿毛の周りに集まりだした。
「アキって、なんでこんな一般高校に転校して来たの?普通は芸能高校に入るんじゃないの?」
大月がみんなの疑問を聞いてくれた。
「うーん、どうだろ?私のモデル仲間はほとんど地元の高校だし、私も夏まで地元の普通高校いたしね」
「そんなもんなんだぁ」
「実は親の反対を押しきってモデルやってるから、条件が出ちゃって…」
「条件?」
「高校・大学はちゃんと行く事ってね。だから芸能高校なんか行ったら『本末転倒だ!』とか言われて、モデルを辞めさせられちゃうかも…」
「ふーん、けっこう苦労してんだね」
「まぁ、仕事は週末とかだし寝る間もないほど忙しい訳じゃないから」
「あ、仕事と言えば、さっきも言ったけど夏休みのサンシャインビーチでのイベント、私たちも行ったんだ」
「ありがとう。でもごめん、気が付かなくて…」
「何言ってんの、あんなに人がいて気づく訳ないよ」
「ですね」
「ユキカがアキの大ファンでね、私達はお供で連れて行かれただけなんだけど」
「そうですか、ユキカさんが…」
宿毛はユキカに視線を向けたが、ユキカは三原と話していて気付いていない。
「下川口が男子連中に殺されるから大きな声では言えないんだけど…」
「?」
「抱きついちゃったんだって?(小声)」
「そ、それは…」
ちょっと赤くなる
「ま、その話はおいおいね、学食に行く?」
「うん。あ、ショウタさんは学食?」
宿毛の口から俺の名前出て、また一段と男子の死ね死ね念波が強くなる。
「下川口の生死を問わないなら、連れて来るけど」
指の先には男子の山がある中心は俺なんだが…
「あ…大丈夫…」
「じゃ行こうか、ユキカ、レナ学食行こう!」
「三崎ユキカです」
「三原レナです」
「宿毛アキです、よろしくね」
みんなで自己紹介をする。
「しかしあれだね~、動物園のパンダになった気分だね」
学食がいつも以上に混んできた、まぁ宿毛アキがいるのだから仕方ないけど…
「さっきも言ったけどユキカがアキの大ファンでね、苦労してチケットとって行ったんだ」
「ありがとうございますユキカさん」
「こ、こちらこそ…」
ユキカはまだ緊張がとけない様子だ。
「お仕事やりながら学校に通うってタイヘンじゃないですか?」
レナがかわりに聞いてきた。
「うーん、レナさんは部活とか塾とかは?私はその時間がたまたま仕事だったって感じかな」
「なるほどです。」
「今は、家まで車で送ってもらえるし、部活してる人より楽かも」
「いいなぁ、私も部活帰りにお迎えがほしい!」
「でしょ、車の中じゃ寝てるし以外に楽なのよね~」
「ん?どうしたユキカ?」
「え?いやその…、なんかまだ緊張するって言うか…」
「同級生に緊張してどうすんの」
「あはは」
「そうですよユキカさん」
「しっかし、有名人のアキが知り合いでもない下川口に興味があるってのも信じられないけど」
「興味って訳じゃ無いんだけど…」
「あんまりやってると、嫉妬に狂った彼女に抹殺されちゃうよ~」
「殺しません!」
「それよりも下川口君が心配です、上級生の男子とかに連れて行かれそう…」
「私はそんなつもりは…」
「アキさぁ、あんたは自分がどんなに有名人が考える事だね」
「うーん…」
「まあ、下川口が刺されない為に、学校じゃ控えめにしたら。そうだ!FK7で話せばいいじゃん!」
「え!?」
「下川口この前から始めてるよ、アキのサーバーで、ちなみに偶然私もそのサーバーにいるけど」
「そっか、ショウタさんも」
明らかに喜んだ表情なる。
「私はアニキがノーパソ貸してくれないと出来ないけどね」
「アカリはお兄さんとゲームしてるのかぁ」
「そんなに嬉しそうな笑顔を見ながら聞くのはちょっとあれなんだけど…」
「ん?」
「アキ、あんたの大ファンの女の子の彼氏を奪うなんて、非道な事考えてないよね?」
ユキカとレナがアキを凝視する、ユキカはほとんど泣きそうだ。
「ち、違う違うそんなんじゃない」
「だったら良いんだけど…」
ほっとした表情のユキカ、レナは興味津々で目を光らせる。
「アキさん、架空の話として聞くんですが、下川口を奪うとなったら、どんな手をつかいますか?」
「えええーッ!」
「ちょっとレナ!!」
「ユキカさん落ち着いて、あくまで架空の話ですから」
「また、小説の話をしてるの?」
「間近にヒロインのライバル登場、これは聞かなくては!!」
「ライバル?なんか面白そうですね♪どんな小説ですか?」
「アキちゃんもやめてー!」
レナが考えてる異世界召喚物のあらすじを話す。
「くすくす♪」
「あの…やっぱり、こんな設定はかなり変ですか?」
「ううん、違うの。なんて言うんだろうとっても面白そう♪」
「そうですか?」
「そうです♪」
「やめて…」
ユキカはほとんどふせったまま固まる。
「そうですね、奪うと言うより異世界の方が現実で、実は私の方がショウタさんと先に会ってた。ってのはどうでしょう?」
「な!」
「ユキカさん黙って!!それで!」
「ショウタさんは私の大事な人の生まれ変わりで、でもショウタさんは覚えていない…とか?」
「おお!」
「アキちゃんやめて…」
「アキってレナと趣味が合いそうだね」
「なんか、凄く前からの知り合いな気がしてます♪」
「ですね~、でもなんかFK7の話してるみたいで楽しい♪」
アキもなんだか打ち解けてきた感じ。
「そう言えば、ユキカさんはFK7してないんですか?」
「え?私は…ゲームとかはちょっと苦手で…」
「そう言えば下川口にFK7させたのは、アキを探してって頼んだんだったっけ?」
「そうなんですか?」
「あはは…、あんなに人がうようよしてるとは知らなかったから…」
「下川口はハマっちゃったんだよね、ユキカに隠れてこっそり聞いたらすんなり会ってくれるんじゃない?」
「ナイスアイデア!了解です!」
「おい!おまえたちー!!」
「あはは」
「うふふ♪」
「くすくす♪」
「まったくもう!」
■新たな冒険
「ショウタ、朝のは何なの?」
今日はマスターと二人しかいなかったので、ユキカは、リアルの事を聞いてきた。
「朝ってあれの事か?」
「そう」
「あれなぁ…」
あの後は散々だった、お昼過ぎには宿毛アキ親衛隊なる組織が出来上がる、俺は全校生徒の敵になったんだろうか、親衛隊の呼び出しをくらい事情聴取をされるはめになった。
基本的にはプールでのイベントに連れて行かれて、そこで宿毛アキにぶつかられた…事にした。
「よろしくねって言われただけなんだけど…」
「ふーん」
お兄ちゃんって所は無しにしよう、なんかややこしくなる。
「マスターはどうだったんだ?一緒に昼飯食ったり帰ったりしたんだろ」
「食べたんだけど…なんか緊張しちゃって…帰りもマネージャーさんがいたし…」
「それはそうか、宿毛アキだもんな」
なんせ大ファンだし、混乱するよな。
「うん…」
「まぁ、芸能人が俺の事を好きとかそんな小説みたいな事は起こらないんじゃないの」
「うん…でも、なんかレナの小説通りに進んでる気がする、次の展開もアキちゃんと話してたし…」
「そう言えば、ユキカと宿毛を戦わせるとか言ってたな…、結末が気になる…」
一心不乱に小説を書いている三原の姿が浮かぶ、今日の出来事でアイディアがどんどん湧き出てるだろう。
現実は小説より奇なりって言うが、小説の方が先に行ってるな、本気で今度読ませてもらおう。
「でも、私の勝利は揺るぎない!んだろ?」
「何言ってんのショウタ!、ゲームキャラじゃなく、現実のアキちゃんだよ!超美人だよ!私でどうやって勝てばいいの…」
かなり落ち込んでるって言うか、なんかいろいろありすぎてパニクってるんだろうか?
「えっと、ユキカもかなり美人だと思うんだが」
「え?わたしが…?」
なんか、意味不明の質問をされた時の様にきょとんとなっている。
「お、おまえ気付いてないの?」
「え?え?」
「俺の彼女って、こんなに天然だったとは知らなかった…」
「……え?」
「成績優秀な美少女で小柄で可愛いくて控えめで女子の人気も高い、って子が彼女だから、俺がどんなに男どもの負のオーラにさらされてるかわかるか?」
「わかんない…」
わからんのかい!
「俺を好きな女子は、ユキカにかなわないから諦めるってのは?」
「わからない!誰?その子は?」
「その子達な」
「達…なの…」
今日知ったばかりだが、お前の親友2人の事だぞ、とは言えないが…
「話を戻すけど、ユキカもかなり美人だと思うんだが」
「あ、ありがと…」
「宿毛が何を考えてるかわからないけど、俺なんかよりイケメン芸能人に行くだろ普通、考えすぎだと思うぞ」
「確かにそうだね、うん、そうだそうだ♪」
やっと、調子を取り戻したか。まぁ宿毛が変なちょっかいを出さなきゃいいんだが…、お兄ちゃんってのはちゃんと聞いとかないとな…そんな事聞くチャンスはあるのか?
いっその事、本気でゲーム内の宿毛を探すか…
「そう言えば、宿毛がこのゲームやってるって言うのは、俺にゲームをさせる口実だった?」
「え?ううん、ホントにやってるみたい」
「そっか、どこかにいるのか…マスターは心当たりないの?」
「わかってたら行くって以前のわたしなら」
「だな」
「ショウタは?」
「そうだなぁ、一番似てるって言ったら、サンセットかな?」
「あ!?」
「あ!って何?」
「似てる…確かに…あのケンカした時のキャラのイメージ…」
〉お兄様!!(怒)
突然話しかけられた、驚いて振り向くと茶髪のツインテールのハルカが怒って立っていた。
〉!!、びっくりしたハルカか脅かすなよ
〉またお兄様がお兄様にそぐわない亜人と話してるからです
〉亜人…って、私の事?
〉ハルカ、この人はうちのギルドマスターの…えっと名前なんだっけ?
〉ネージュです、よろしくね
プイッ
ハルカはマスターに対してそっぽを向く素振りをした。
これは、マスターを無視するって意思表示だな、相変わらずこの子は…
〉なんなのこの子は(怒)
マスターがユキカだと知らない時期は笑って済ましたんだが、今はちょっと複雑だなぁ
〉お兄様お久しぶりです、ハルカに会えなくて寂しくなかったですか?
〉だ、大丈夫だったよ…
〉うー、ハルカはとても寂しかったんですよ、ずっと捜してたんですからー
マスターの視線が恐いんだけど…、話を続けない方がいいのだろうか…
〉ショウタの妹さんかな、この子は?
〉えっと…会ったのは2回目だけど、変になつかれちゃって…
〉お兄様との会話に割り込まないで下さい。
〉イラッ(怒)
〉おい、リッカの次はマスターと喧嘩する気か!
ホント、この子はいったいどんな子なんだろう実物を見てみたい、小学生とかなんだろうか?
〉あのヲタ猫娘はどうしてますか?お兄様にちょっかい出してないか気になって眠れません…
〉リッカは…そう言えば最近見てないなぁ、いろいろ忙しいんじゃないのか?
〉それは吉報です!猫娘撃破です!
〉ちょっとショウタ、そのおかしな子と話してないで狩りに行こうよ
〉亜人の分際で失礼ですね!
〉あんたに失礼と言われたくないわ!
〉おいおい、喧嘩すんな。
〉だってお兄様!
〉一緒に狩りに行こうな
〉なんでショウタはこんな子に優しいの!!
う…、確かに…、なんかお兄様言われ過ぎて、年の離れた本当の妹みたいに感じてた…
〉ホントに、なぜ私の彼氏はこんなに女性に優しいんでしょう(ため息)
〉女性じゃなく女性キャラね! あ、サンセット
振り向くとサンセットが立っていた。
〉強敵!!
〉ラスボス!
〉ええッ!?
マスターとハルカが完全に戦闘体制になる、俺はびっくりして2人を止めに入る。
〉ちょっと、何してるんだ!
〉お兄様、この方は史上最大に危険な匂いを感じます。
〉イヤな奴なのに、その意見にはまったく同感だね
〉イヤな奴は余分です、ぶった切りますよ。
〉ハルカはぶった切るな!、マスターも落ち着く!
〉えーっと、たしか初対面だと思うけど、私は二人に何か嫌われる事をしちゃったかな…?
〉してませんよ、でもハルカとお兄様にとってラスボス位に危険な存在だと、精霊達が知らせるもので。
〉精霊が見えるのかぁ…スゴいね~
〉サンセット、おひさ
〉お久しぶりです、この好戦的な方は妹さんですか?
〉彼女の中でそう言う設定になってるらしい、会ったのは今日で2回目なんだけど…
〉そちらの方はオアシスで会いましたね。
〉そちらの雰囲気は随分と変わってるみたいですけど、確かに会ってますね。『ショウタはお前なんかにやらない!』って言った事も覚えてますよ。
〉そうですか、そんな事を言われた気がします。
おーい!バトルを始めるのかー、マスター2度目だって気づいてるかー?
〉ささ、お兄様、この亜人共はほっといてデートしましょう
〉ちょっと待て、ど素人娘
〉妹設定の分際で!ちょっとわきまえなさい!
えっと、何かなこのバミューダトライアングルは?
〉やっと会えたんです、邪魔しないで下さい。
〉いいえ、邪魔します。ショウタは私と狩りに行くんです。
〉二人には申し訳ありませんが、私も時間があまり無いんです、ショウタと二人で話をさせてくれませんか?
〉嫌です。
〉そうそう、時間がないなら早く行った方がいいですよ、あなたもね小娘!
〉ハルカはお兄様に甘えたいんです!いけませんか!!
〉いい訳ないでしょ!
〉なんですか、その素敵な言葉は!
〉はい?
〉ラスボスも分かってるじゃないですか!
〉コホン、一つ聞きます、彼女と妹と友達と、ランクが上なのはどれでしょうか?
〉もちろん“妹”が上に決まってます。
〉この世界じゃギルドマスターが上です。
〉彼女が上に決まってるでしょ!
〉ちょっとお兄様!何とか言って…あれ?
まったく付き合いきれない、ここんとこあんなのばっかりで疲れた。
ちょっと遠くへ行ってみよう。
ユキカからラインが届く。
≫ちょっとショウタ!何逃げてるの!
≫マスター、私がリアル彼女だ!って言った?
≫それは、言ってない…
≫リアル彼女しか止められないって、あんな状態になったら。
≫私を選べばいいじゃない!
≫ただのギルドマスターを?あの状態なら違和感しかないよ。
≫だって…
≫もうそれ隠す必要ある?
≫…
≫そもそも、最初から隠す必要なかったんじゃない?
≫だって…、ゲームとかしてると嫌われると思ったんだもん…
≫あのなぁ…
≫ショウタにゲームのネージュも好きになって欲しかったの!
≫欲張りだよそれは、ユキカがいる状態で他の子好きになっていいのか?
≫ダメ…
≫だろ、だったらマスターもだめじゃん。
≫そうだけど…
≫それに、リッカやハルカはともかくサンセットは、誰かが言ってたラスボス級に強敵だ、あれは普通の男子なら必ず落ちるオーラを出している。
≫うう…
≫今の状態は、宿毛アキと同日に転校してきて勝てるのか?って事だぞ
≫勝てない…
≫じゃ、リアル彼女って裏技があるんだから使わなきゃ。
≫でも、でも、リアルと分けて考えたいの!
≫それを言うなら、俺のキャラを知ってる時点でアウトだよ。
≫あ…
≫俺は、サブキャラ作ってゲーム始めてもいいんだけどね。いっそそうするか?
≫…
≫言っとくが、俺はユキカだと見抜いたぞ(笑)、ズルしてた誰かさんとは愛の深さが違う。
≫う…
ユキカからのラインが無くなった、またさっきの広場で口喧嘩を続けてるのだろうか?
さて、本気でサブキャラ作るかな?
かなり慣れたので、新しくキャラ作っても、すぐにレベルアップ出来そう。
≪天空都市ハイランド≫
切り立った山々の間に存在する山岳都市だ、周りの山々が自然の城壁になっており、都市そのものの城壁は低い。
早朝の城壁、眼下には雲海が広がっている。
ハイランド城は切り立った山沿いに作られており、城と言うより段々に町が作られている感じだ。
竜人族(長身、ヒューマンに近い容姿だか皮膚に鱗が見え角がある)の姿が多い。
俺はサブキャラを作成した、竜人族でも良かったのだが、何となくヒューマンが愛着があったのでそうした。
名前はツバサ、容姿は頑張って作ったが、ショウタとあまり変わらないかな?髪型は少しロン毛の赤髪にした。
基本は同じなので、とりあえずレベル上げと素材集めだ。
今回のジョブは魔法剣士にした。
魔法の練習もしながらザコを狩りまくる、この辺りは小さな山羊や動く植物、フクロウなんかが敵対生物だ。城から離れるとゴブリン的な敵が現れる。
山岳地帯であるため、あちこちに洞窟がありゴブリンの巣穴って感じなんだろうか?
なんか、いろいろ新鮮。
そう言えば、さっきまではRPGじゃなく、昼ドラの様な泥沼人間関係をプレイしてたので、なんかゲームやってるって感じられる。
集めた素材をオークションに出す。
最弱装備じゃパーティのお誘いを受けられないから、とにかくゴールドが必要だな。
おや?なんかショウタからトレード出来るっぽいぞ。
いったんショウタに戻り自宅に帰る、そっと噴水の前を通ったが、マスターとハルカのバトルは続いてる様だ、サンセットの姿は見えない。
自宅から必要な装備を一式送る、ついでに魔法の書を購入する資金も送った。
家宝の鉄の剣+3は置いておこう。
ツバサにログインし直し自宅のポストを確認、全て届いている。
よし、装備はばっちり。
オークションで回復系や弱体系魔法を買う。
ほどなくパーティのお誘いがあった、喜んで参加する。
「ふう、なんか忙しいが楽しいぞ」
竜人族は戦闘力は高いが魔法が苦手らしい、ミーヤ族はスピードが速いのが特徴だけどこれも魔法が苦手らしい。
と言う事で、ここハイランドでは魔法使いキャラはパーティに引っ張りだこらしい。
6人パーティで挑む、いきなり森林の町グリーンウッドまで行った。
敵の強さから言ってバジル砂漠くらいだろうか。
「セカンド無い人いる?」
パーティのリーダーが聞いてきた、俺とミーヤ族♂の武闘家が手を上げる。
スゴいな、やっぱ上級者とパーティ組むとレベル上げがハンパない、一ヶ月くらいかかったセカンドイベントを数時間で行ってしまうとは…
「よし、この辺で素材集めて遺跡で狩りをしよう」
バジルの町の魔女のクエストと同じなら必要素材は3つ、あっと言う間に素材は確保した様だ、すぐに遺跡へ向かう。
途中、迷いの森があったが難なく移動し遺跡に到着した。
アンコールワットに似た遺跡が森の中に隠れていた。
遺跡の中でスケルトンを狩りまくる、レベルもかなり上がり、たぶん必要なアイテムもそろった。
「時間も遅くなったので、グリーンウッドに戻って解散します!」
リーダーの統率力がスゴい、ブリザードもこんな感じなんだろう。
「セカンドの人とハイランドに帰る人はついてきて、ここでいい人は解散」
セカンドのイベントは喋る大木だった、必要なアイテムをトレードし終了それだけ…
≪でもね、苦労もせず努力もせず悩みもせず探しもせず、ただくっついて行ったらクリアって…何が面白いんだ!?キミもそう思うよね!!≫
マスター、まったくその通りです。
リーダーの仲間が合流したこの人も上級者っぽい。
「わたしの周りに集まって!」
すぐに仲間がテレポートの魔法を唱える、仲間の上級者を中心に魔方陣が完成する。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
魔方陣内の仲間が消えていく。
一瞬でハイランド近くの山岳地帯に移動した、なんかスゴい、レベルいくつでテレポートの魔法使えるんだろう…
「お疲れさまでした、じゃ解散!」
楽しさはともかく、凄かったな上級者ってあんな感じなんだ。
それに…レベルって1日でこんなに上がるんだね…
オークション出してもう寝よう、ハイランドでのイベントは明日かな…
■二人だけの暗号
「おはようショウタ…」
「おはよう…どうした?」
なんたろ、ユキカが落ち込んでいる。
「なんか…ごめんなさい…」
「え?えっと…」
「昨日はあの後、3人でショウタにワガママばっかり言っちゃったって話になって、サンセットはショウタを探して謝るって別れたんだけど、ハルカは泣いちゃって…」
「ええッ?」
泣いた?あの負けん気の塊みたいな妹が?
「あまりに可哀想でうちのギルドに入れてショウタを一緒に探す事にした…」
「予想外な展開だな、ケンカが止まらないと思ってたんだけど…」
「なんか、話すと可愛いねハルカちゃん、ほんと妹が出来たみたい。ショウタがやさしくしたのが今なら分かる」
「やさしくしてたつもりは無いんだけど…」
「本人てどんな子なんだろうね、ほんとに小学生くらいだったりして、今日ハルカちゃん来たら見つかってね」
「おはよう、ユキカ、下川口!」
「おはよう」
「大月は今日も元気だな」
「レナ、今日は遅いのかな?、例の小説を夜中まで書いてたりして?」
「い、いろいろネタになる出来事があったからね…執筆が進んでるんじゃ」
「ユキカとアキのバトルの部分だけていいから読んでみたい♪」
「アカリ!」
俺も読みたい!こっそり読ませてもらおうかな?
「オッス!」「よお」
清水と中村が俺を挟む様に歩く。
「おはよ、なんだ?気持ち悪いんだが」
「そう言うな、お前がアキちゃんにチョッカイ出さないよう上から監視を命令されたんだ」
「上ってなんだよ!」
「グッドモーニング♪」
宿毛がかけてきた、まったく何をやっても絵になる子だ。周りのほんわかした空気と、俺に刺さる殺意が何とも言えない。
「アキ、おはよう」
「おはよう」
「おはよ」
「お、おはようございます♪」
「お、おはようございます♪」
「えっと…」
「清水ユウトです!」
「中村ダイチです、ちなみに下川口の監視役です!」
「そうなんだ、清水君、中村君、よろしくね♪」
「はひ」「はひ」
完全に目がハートになってる、特に清水は宿毛のとなり、あれは倒れるな。
「お前らとろけすぎ…」
「と、言う事は、清水君と中村君がいればショウタさんと話していいんだね♪」
「はひ」「はひ」
「はい、なんだ…」
「よし、ショウタさんFK7やってるってほんと?」
「やってるよ、まだ初心者レベルだけど、まぁ、宿毛を探すって理由でやらされてるって感じだけどね」
「今、どの辺にいます?」
「んー、雲の上」
「なるほど、ハイランドですか♪あそこの雲海は私も好きです♪」
「さすが上級者」
「上級者じゃないですよ、ちょっと長くやってるだけです♪」
「下川口、今のは何の話だ」
「教えてくれ!」
「宿毛アキ親衛隊ならそれくらい調べておけ!」
「ショウタさん、会えるといいですね♪」
「会えたら、ユキカからのお願いはクリアだな。あれ?もう本人に会ってるからいいのかな?」
俺はユキカにたずねた。
「う、うんそうだね…」
「え?やめちゃうんですか?」
「最初はなんだか分からなかったけど、実は最近ちょっと楽しくなってきた、もうちょっと続けようかな?」
「やりましょう!ユキカさんも見てるより断然楽しいですからやりましょう!」
「わたしも?」
「ね♪ね♪私がちゃんと教えます」
宿毛がユキカの手を取ってお願いを始めた。これはユキカは断れないな。
「おいおい、宿毛アキってバレたらパニックになるぞ」
「あ…」
「アキってほんと、有名人だって自覚が無いんだね~、まさかフレやギルメンに教えてないよね」
「言ってもたぶん信じてくれないかな?なんか、偽アキが大量に発生してるらしいし」
「うわ…」
「ほら見ろ、カオスってるじゃん」
「あはは、今度ショウタさん探してみますね♪」
「そんな、千里眼的に人を探す機能ってあるの?」
宿毛が少しピクッとなった。
「ありますよ、逢いたいって魔法をかけると、偶然って結果が返って来ます、よくある話です♪」
今度は俺がピクッとなる。
あれ?これどこかで聞いた気がする…どこだっけ…
あ、湖で釣りをしてた時だ、サンセットが同じ事を言ってた…まさか?
えっと、この後はなんて話したっけ…
「そっか、もしかしたら俺、偶然宿毛のキャラに会ってるかもしれないね」
もはや暗号の領域、俺とサンセットしか分からない暗号、しかし宿毛の顔が輝く。
「ですね♪」
それから…次は俺なんて言ったっけ?
サンセットとユキカがケンカ的な事を言った気がする…
「あ、そうしたら浮気したってユキカとケンカになるかも…」
もう、宿毛も気づいてる。やっと会えたって顔をしている。
「くすッ、みんな加わってスゴい事になりますね♪」
サンセット、宿毛アキはサンセット!
「笑えません!」
「あはは♪」
まさかが的中してるなんて、一番最初に会ったキャラが宿毛アキってこんな偶然ある??
宿毛は気づいてたのかな?でも表情からすると確信が持てたのは今だよな。
「ショウタ何言ってるの、ケンカなんかしないよ」
「清水、中村、下川口を止めなくていいのか?上の方々の視線が刺さってるように見えるんだけど?」
ぽーっとしていた二人は大月の一言で我に帰る。
「下川口確保!」
「署に連行します!」
両脇を抱えられ強制的に連れていかれる。
「あ…」
ちょっと悲しげな宿毛に大月が聞く。
「もう一度聞くけど、ユキカから彼氏を奪おうとしてるの?」
「え?ち、違うよ」
「…」
「違うと言われても、そうにしか見えないけどね~」
「アカリ、アキちゃんは違うって言ってるし…」
「…」
「ふーん、ねね、もし二人で下川口争奪戦をやるなら私も参加していい?」
「え!」
「!!」
「ちなみに、私は下川口と幼馴染み、幼稚園から高校まで一緒のクラスでスポーツ系の話は合う、容姿も2人に負けてないって感じだけど」
そう言って二人にウィンクする。
「え…」
「えっと、」
「まずユキカに言っておくね、下川口があんな一途でぶれない奴たから安心してるかも知れないけど、みんな狙ってるんだからね。ユキカは安心しすぎだよ」
「アカリ…」
「それからアキ、あんたもしかして恋愛経験ゼロじゃないの?」
「それは…」
「ちなみに今、下川口に抱いてる感情はどうみても恋だから」
「うん…」
「と、言う事で、たぶん近い将来、二人は私にめんどくさい恋愛相談するでしょう、だから私はそれを回避するために、下川口争奪戦に参加します。よろしいかな?」
「…」
「…」
「まぁ、この件以外は普段通りなんで心配しないで、それじゃ下川口を助けに行くから♪」
アカリは学校へ走って行った、二人が残される。
「アキちゃんどうしょう…」
「ごめんなさい、私がショウタさんに変な態度とってたから、アカリさんあんな事を…」
「コホン、アカリさんは昔から下川口君の事が好きですよ」
振り替えるとレナがいた。
「レナ聞いてたの?」
「ちなみに、下川口君もその事を知ってます」
「え?」
「相手がユキカさんだから諦めてたのに…、アキさんがいるくらいでどうかなる下川口君ならとっくに新しい彼女作ってますよ、そう思いませんか?」
「レナ…」
「もしかして、レナさんも?」
「もちろんです、ちなみに下川口君知ってますよ」
「うそ…」
「私の知る限りあと5人います、でも下川口君って宿毛アキさんでも動じない人ですから、半ば呆れて半ば納得してますよ、『あぁ、私の好きな人はこんな人だった』ってね」
「分かる気がします…、ユキカさん、なんかとても羨ましいです」
「アキちゃん…」
「じゃ、アキさん玉砕覚悟で行きますか♪」
「了解です!」
アキが敬礼をして、先に行くレナについていく。
「そんな…私はどうすればいいの?」
って感じだった…」
「そっか…」
学校の帰り、叶崎公園ベンチでユキカの相談を受ける。
「私って、けっこう鈍感なの?」
「まぁ、あれだな、俺はユキカの事を好きな男子を何人か知ってるから鈍感かって言えば鈍感かな?」
「ショウタは不安にならないの?」
「えっと、何を?」
「何をって…」
「ユキカが他の男子を好きになる事をか?」
「…」
「宿毛じゃなくイケメンアイドルが転校してきたら、ユキカは好きになるのか?」
「そんな事ない!」
ユキカは、スゴく強く否定した。
「まったく同感です」
「あ…」
「ん?」
「そっか、私が疑ってるだけなんだ…」
「ぶっちゃけ、そう言う事かな…」
「はぁ…」
「もう一ついいか?」
「一つくらいなら全然いいよ、もう地の底まで落ち込んでるから…」
「地の底にいるんだ…」
「なに?」
「宿毛はサンセット」
「え?」
「宿毛が使ってるキャラ、サンセットだった」
「ウソでしょ、なんで?」
「朝少し話してたあれ、ちょっと前にゲームの中で同じ話をしてたんだよな、宿毛も気付いたのかその時の話を続けてきたし、表情が完全に『あ、ショウタだ!』って言ってた…」
「あの時の…そっか、何であんなチグハグな会話で、アキちゃん喜んでるんだろ?って思ったらそう言う事なのか…」
「授業中にいろいろ考えたんだけど、だいたいこんな感じだと思う」
「教えて」
「宿毛の親しい人、彼氏かもしれない人が俺に似てて、FK7やってて宿毛にゲームを教えた、でもその人は随分前に止めている、宿毛はその人を今でも待っている…」
お兄さんだろうけど…
「俺は多分その人の代わりかな」
「でも、アキちゃんゲーム好きだし、それに誰かに会いたいだけでネトゲなんか続けないんじゃ」
「それ、宿毛の出てるテレビや雑誌でFK7以外のゲームの名前出てきた事ある?」
「あれ?ないかも…」
「ユキカに質問、FK7の初心者がマスターに聞きました『ゴールドを落とすモンスターってどれですか?』」
「FK7じゃモンスターはゴールドを落とさないの、ドロップアイテムを売るのよって言ったかな昔」
「おや?ユキカってけっこう昔からゲーム好きだった?」
「え?え?何で?何でばれた?」
「サンセットはたしかこう言ったんだ『ゴールドなんかモンスターも落とさないよ、持ってないよモンスター買い物しないし』ってね」
「あ…」
「俺のやってたRPGは必ずモンスターがゴールドを落とすからね」
「正直、宿毛はゲーム好きなんだろうか?俺に似た誰かが好きだから好きって気がしてる」
「そこまで好きな誰か…か…」
「うん…ぜったいそうって訳じゃないけど」
「でもでも、なぜショウタなの?その人に行けばいいのに」
「海外にいて会えないとか…なんて言うの好きになっちゃいけない相手とか」
「結婚してる人?」
「後は兄弟とか…」
「あ、昨日アカリがお兄さんとゲームしてるって言ったら嬉しそうだった」
「まぁ、お兄さんの代わりって事じゃ無いと思うけど…」
「はじめはそうだったけど、話してるうちにショウタに心惹かれた訳か」
「あくまで想像のはなし!」
「ホントに、なぜ私の彼氏はこんなに女性に優しいんでしょう」(ため息)
「キャラのモノマネはやめて」
「でも、そう言う事ならアキちゃんがうちの学校に来たのは偶然じゃないよね、ホントにショウタに会うためなのかも知れない」
「ユキカ思い出してみ、始めてサンセットに会った時ユキカとバトルして…」
「あ…、あれの相手がアキちゃんだったなんて…」
「なんか、リアルの俺を奪うとか書いてなかったっけ?」
「そんな気がする…でもあれはケンカの中での話だから…あ!叶崎公園の噴水ってリアルの事言ったかも…」
「ホントに、なぜ俺の彼女はこんなに天然なんでしょう、かっこため息」
「仕方ないじゃない、ケンカ吹っ掛けられたんだから!」
「吹っ掛けたのはユキカだと思うが、あ、これは宿毛を庇ってるんじゃないからな」
「そうだったかも…じゃ、アキちゃんはゲームでケンカしたのが私だと気付いてるって事?」
「そうなるな」
「昨日、すぐに私が彼女だと気付いたのは?」
「女の子カンか、それともマスターに近い容姿を探したか」
「そっか、彼女がゲームしてるって見抜いてたんだよねアキちゃんは…」
「大スターになる子だから、そう言う感性的なとこは人一倍凄いんじゃないの?」
「なんか、いろいろ解ったらモヤモヤが溶けた、ありがとうショウタ!」
「うん、あ、最後に言っておくけど俺がユキカの事を好きになって、俺が告白したんだからな」
「私も好きだった!」
「好きでも言わなきゃ伝わらない、勇気を振り絞って伝えた俺の勝ち♪」
「うう…」
「レベルが上がればマスター探して、きっと近くにいるから、新しい俺を探してみ」
「うん…」
「見つけたらキスしてあげよう♪」
「…ばか」
■幽霊船の踊り子
スゴいレベルアップだった、数日のパーティバトルで、グリーンウッドやハイランド周辺では敵なしとなり、上級職の『アーチャー』と『ドラゴンナイト』も手に入れた。
上級者について行っただけと言う悲しい状況ではあるが…
今、森林地帯を抜けた海岸にある港町ブルーウッドにいる、ここから砂漠の港町カバルやその他の王国までの定期船が出ている。
まずは、港町カバルへ行き、エルフィランデルに戻り(ツバサとしては初だが)、ナイトのジョブを獲得するつもりだ。
定期船到着まで港で海を眺める、俺の傍らには少し大きくなったブルードラゴン“シュート”が昼寝をしている。
ドラゴンナイトのイベントは、ドラゴンの卵を探し、レア素材を使ってる孵化させる事だった。
ドラゴンには何種類かありどんなドラゴンが生まれるかは分からない。
俺のドラゴンは氷系、コールドブレスで敵を行動不能にする特技がある、かなりなついており俺が攻撃されそうになれば間に割り込んで庇ってくれる、かなり可愛い。
レベルが上がればドラゴンに騎乗し上空から攻撃できるらしい、その為武器は槍をメインで使っている。
定期船が近づき俺が立ち上がると、シュートも起きて俺についてくる。
ゴールドを払い乗船する、しばしの船旅だ、船室で座ってる人、釣りを楽しんでる人、海を眺めている人、戦闘体制で釣り上げられたモンスターと戦ってる人、それぞれだ。
10分くらいで港町カバルに到着した、何もしない10分はかなり長く感じる釣竿でも持ってくればよかった。
定期船を降りる際、懐かしい顔が見えた。
マスターがみんなと話している、リッカとハルカ、それにサンセットもいる。
よかった、みんな仲良くしてるみたいだ、サンセットも仲間になったのかな?
サンセットはアーチャー、マスターは武闘家に見えるけど短刀を2本持ってるからニンジャかな?2人はレベルが高そう。リッカはシーフ、お?ハルカはプーリストになってる。
レベル差があると言う事は、レベル上げじゃなさそうだな…あれ?もしかしてハイランドへ俺を探しに行くのか?
4人はブルーウッド行きの定期船に乗り込む、そう言えば宿毛は俺の居場所を知ってる、まぁこんなにレベルアップしてるとは思ってないかも知れないけど、ユキカもあの時となりで聞いてたから知ってる、でもどうやって他のみんなに伝えたんだろう?まさか、リアルのショウタに聞いたなんて言えないだろうし、サンセットとマスターの関係も微妙だな、たぶんユキカですって言ってないだろうな。
あ、マスターならショウタに聞いたって言っても変じゃないか…
うーん、少し悩んだが同じ船に乗ることにした、ハルカがまた泣き出すと困るから。
とんぼ返りで船に乗り込むキャラが複数名いた釣りをする為だろうか、目立たなくてよかった。
定期船出港後は、行きと同じく船の後方で海を眺めて過ごした。
マスターとサンセットは船室にいるようで外に出てこない、リッカとハルカは初の船なのだろう、甲板ではしゃいでいる様に見える。
今回は釣りをしているキャラがいないので甲板にはハルカとリッカ、俺と他2名だけだった。
雨雲が急激に広がり辺りを薄暗くする、なんかイヤなイベントが発生したみたいだ。
雷と同時に大粒の雨が振り注ぎいっそう視界が悪くなってくる。
〉来たぞー!
俺と同じく、再度定期船に乗り込んだコビットが叫んだ、左側後方に大型船がの影が見える、海賊船か?と思ったが帆はボロボロで幽霊船に近かった。
甲板に冒険者が集まる、多分レアアイテムのイベントなんだろう。
幽霊船に人影が見える…
「うわ、スケルトンの群れか…」
ガイコツやゾンビ的な敵の影がうじゃうじゃ見える。
あれ達と戦えって事か?
マスターとサンセットも飛び出して来た…、まぁ、上級者2人は参加するよね、レアイベントみたいだもんね…
リッカとハルカは船室の入口付近に移動した、最悪船室に逃げ込める位置だ。
幽霊船からスケルトンとゾンビが乗り移ってくる、スケルトンの一部は弓を使っている。
3体ほど俺の所に来たが問題なく倒せた、幽霊船からの弓での攻撃は多少ウザいがゾンビの動きは遅くシュートとのコンビ攻撃は敵なしだ。
炎を扱うレッドドラゴンだったらさらに楽勝だったかもしれない。
幽霊船の弓を使うスケルトンも船の先端に立つサンセットの弓が正確に倒して行く、マスターは二刀流を使い片っ端からゾンビを斬り倒して行く、他の冒険者もこのイベント狙いなのだろう、炎系の魔法や炎の剣を装備し倒しまくる。
上空に死霊の姿も見えるが、上級者プーリストの光魔法で浄化されている。
リッカやハルカも安心したのだろうバトルに参加する。リッカはマスターの様に移動し弱った敵を片付ける、ハルカは回復担当だと思うが途中からガンガン炎魔法をぶっぱなし出した。
それを見たリッカが、回復に専念するため少し後方に下がる。
「マスター、いいパーティだな」
船の後方、高い位置にいるため戦いが見渡せる、軍師な気分だった。
俺も敵を10体ほど倒した、高い位置からの槍の攻撃&シュートのブレスでほとんどダメージを食らっていない。
高価で売れるようなドロップアイテムの中に竪琴があった、武器なのだろうか?
サンセットは幽霊船の弓スケルトンを全て狙撃している。
大雨の中、船の先端に立ち的確に撃ち取って行く姿、紋章で光る左手がうす暗さの中で弓を光らせている。
戦いの女神ワルキューレのイメージだ。
他の冒険者も勝利の女神イメージだろう、『貴方のために戦います』や『女神様にこの身を捧げます』など称賛のチャットが飛び交う。
雲間から光が差し、サンセットを照らす、笑顔で手をふるサンセットに冒険者達は心を奪われる。
おいおい、まだ敵片付いてないぞ…
MP回復の為かリッカとハルカが後方に下がりしゃがみこむ。
甲板に乗り移っている敵はほとんどなく、空も明るさが戻ってきた。
幽霊船が離れだすその時、黒い影がリッカ達の後方に出現した…
ヤバイ俺はリッカ達の所に走った。
最初にリッカが影に吸い込まれる…
「あ!」
次にハルカが消える、俺の足元にも影が出来ていた、落とし穴に落ちた感覚周りが暗闇になる。
「ふう~、片付いたね♪」
「ネージュさん!リッカさんたちが!」
「え?」
サンセットに言われて後ろを振り返る、そこでMP回復してるはずの2人がいない…
「あちゃー、よりにもよってあの2人が行っちゃったの?」
〉すいません、そちらのパーティで幽霊船に行った方いますか?
サンセットが幽霊船攻略パーティに聞く。
〉女神様、今回は誰も行けなかったようです。
〉そう言えば、後ろにいたソロのドラゴンナイトがいないかも?
〉ありがとうございます。
「とりあえず、ドラゴンナイトさんに期待するしか無いですね…」
「ハルカ…泣いてなきゃ良いけど…」
幽霊船はもう見えないくらい遠くに移動している。
ここは何処だろう?鉄格子?と言う事は牢獄?
「まいったなぁ…なんのイベントだろう…」
〉うえぇぇぇん!一人は嫌です!!
あれはハルカかな?チャットで泣くなんて器用だな…
〉ハルカさん、そこにいるの?
〉リッカ?リッカ助けて!!
〉ゴメンなさい、なんか鉄格子があって外に出られないんです。
リッカはマスターにこのあたりの事聞いてないかな?
〉えっと、こんにちはツバサっていいます、この状況が何なのかわかる人いますか?
〉リッカです、すいません私にはなんの事やら分かりません…
〉分かんない…
〉えっと、とりあえず3人いるって事が分かったね♪
〉こんな暗いとこはイヤー!!
〉どうしたら…
とりあえずここを出なきゃ2人がパニクり出す…でも牢屋の鍵を開けなきゃ…まてよ…カギを開ける…?
リッカはシーフだったな、鍵開けスキルを使って…えっと、どう言おう…
〉いや、まいったなぁ昨日までシーフのジョブだったからカギを開けれたのに…
〉あ!私シーフです!
カチャ、カギを開ける音が聞こえた、よかった。
〉リッカ、私のも開けて!!
リッカは、ハルカの前まで走って来た。
〉えーっと…あれ?カギ穴がない、それに何この腕の骨が重なった様な牢屋は?
〉うえぇぇぇん!!(涙)
〉ちょっと待って、探してるから…
おっとそう来たか、鍵があるのはシーフの牢屋だけか、まぁそんな毎回シーフがいるとは限らないからな。
となるとジョブなりの開ける方法があるって事だな…
よし、シュート!鉄格子にブレス攻撃だ。
シュートは口からコールドブレスをはき、鉄格子を凍らせる。
凍った鉄格子を槍で横殴りしたら簡単に粉砕できた。
〉どうしよう…カギ穴が無い…
〉うえぇぇぇん!お兄様ぁ!助けて!
俺はハルカの牢屋の前まで来た、
リッカはうようよ動く骨の格子から鍵穴を探している。
〉プーリストさん、骨に向かって『ターンアンデット』を唱えられますか?
〉え?
〉お兄様…? はい、やってみます!
ハルカは、ターンアンデットを唱えた骨の格子が消え去る。
〉よかった、二人とも大丈夫ですか?
〉わーん!怖かったようー!
ハルカは俺に飛びつく
〉えっと、ツバサさんありがとうございます。
〉いえいえ、でもこれは何のイベントなんだろう?とにかく先に進みませんか?
〉はい
〉うん…
俺たち3人とシュートは先にある階段を上った。
〉形から言ったら、さっきの幽霊船の中にいるかな?
ドサッ
上から逆さ釣りの死体が降ってきた
〉おっと
振り返ると、二人のキャラが固まっている、もしかして本人はパソコンの前で絶叫してるのかも?
〉お化け屋敷みたいだね
〉なんなのこれは!心臓止まりそうになったじゃん!!
〉びっくりしました…
〉あはは、とりあえず外に出よう
迷路の様なフロアを抜け、階段を上がった、そこにはダンスホールの様な空間だった…
幽霊船の大きさから言ってこのフロアの上は甲板だろう、外への階段は鍵のかかった扉で閉ざされている。
〉ツバサさん、スキルでは開かないみたいです。
〉鍵が必要かぁ…
〉ガイコツとかとバトルして手に入れるんでしょうか?
〉敵がいないんだよな…
ひとつのテーブルにロウソクが灯った、飲み物が3つ用意されている。
〉座れって事でしょうか…
〉やだ、もう帰りたい!
〉座らなきゃ帰れないみたいだね…
ハルカを中心にしてテーブルにつく、中央にゴーストって言えばいいのだろうか、半透明の踊り子と表現するのがぴったりな女性が浮かび上がる…表情は悲しげでうつ向いている。
と、もう一人のゴーストが写し出される…椅子に座って悲しげである、吟遊詩人って風貌なのに楽器を持っていない。
あれ?たしか…
〉えっと、二人は幽霊船のバトル中になんかレアアイテムがドロップしなかった?
〉え?
〉ちょっと調べてみます
俺は吟遊詩人の前に行った、竪琴をトレードする。
吟遊詩人が俺を見上げ、ありがとうと言った声は出ないが…竪琴を奏でるがやはり音が出ない…悲しげな表情に戻る。
リッカが何かをトレードする、踊り子の服に色彩が浮かび上がる。
〉リボンをトレードしました。
リッカが席につく、ハルカがトレードを終えた…、踊り子の両手にダンスシューズが握られる。ハルカが席につくと踊り子が話し出した…
皆さんありがとう、私は踊り子のエトワール、そちらの音楽家はハーメル、ゴーストに奪われた私たちの大事な品物を取り返してもらい感謝に堪えません。
ですが、私たちは幽霊船の主に一番大事な物を…、踊り子の私は足を奪われ踊る事もここから逃げ出す事もできません。ハーメルは音を奪われました、音楽を奏でる事も歌う事も出来ません…
お礼も出来ず申し訳なく思っております、あと少しで朝になります。そうすれば今日の事は夢となり目が覚めるでしょう。
踊り子はうつむき後ろを向いた、泣いてる様だ…
〉つまり、どういう事でしょう?
〉うーん、朝になる前に幽霊船の主を捜して叩かなきゃいけないって事みたいだね。
〉ツバサお兄様、敵いましたっけ?
〉お兄様…
〉あ、この子の悪い癖なんです、気にしないで下さい。
〉敵はいなかったね、うーん、強いて言うなら最初の牢屋かな?全部見てないから
〉行きましょう、ツバサお兄様♪
〉行こうか
〉はい
ハルカが先頭で迷路の様な通路を抜ける、ハルカは迷路とかが得意なのだろうすんなり抜けて下る階段へ
ドサッ
上からまた、逆さ釣りの死体が降ってきた。
今度は先頭のハルカだけが固まった。
〉あれ?ハルカさんまたびっくりしてます?
〉ち、ちがうもん!
〉あはは
階段を下り牢屋の中を確認、敵らしい姿は無い、それにそれぞれのジョブ用の鍵の開けかたがあり、俺達では開かない様だった。
〉いないな…
〉いないね
〉迷路のとこ、まだ見てない部屋があるのかなぁ?
〉迷路に行くか
階段上の逆さ釣りの死体を今度は全員スルーする。
と、ハルカが何かに気付き立ち止まって振り返る。
〉ツバサお兄様…、あれ…
俺も後ろを振り返る。
〉あれ?あ…、あれだな…
リッカも振り返る。
〉なんですか?あ、あれですね…
逆さ釣りの死体がロープを掴んで元の天井に戻ろうとしていた。
〉炎系の魔法ある?
〉ファイアーランス!!
既にハルカは攻撃体制に入っていた、何度も驚かされた恨みの気持ちが炎の槍となって死体に突き刺さる。
炎は周りを焼いていく、ロープも焼き切れ死体はドサッと地面に落ちる。
〉よし行くぞ!
〉はい!
俺とリッカ、それにシュートが攻撃を加える。
ハルカは回復しながら、問題ない時は炎の攻撃を追加する。
最後はハルカの『ターンアンデット』で幽霊船の主は消滅した。
光の玉が2つドロップしたが、すぐに上のフロアへ消えた。
〉踊り子のとこへ行ってみよう
〉はい
〉了解です、ツバサお兄様♪
〉ははは…
ダンスホールに軽快な音楽が流れている、音を失った音楽家が竪琴を引いているのだ。
HPが少しづつ回復しているのがわかる。
中央の踊り子が笑顔で迎えてくれた。
ありがとうみなさん、この船に囚われ何百年たったのでしょう、魂だけになってもここに囚われ続け、私たちに与えられるものは絶望のみでした…
でも、今日あなた方が来てくれた事で私たちの魂は解放されました、これでやっと眠る事ができます。
最後に私たちの踊りと音楽を聞いてください。
軽快な音楽が流れ、踊り子がステップを踏む、ダンスにはあまら詳しく無いがベリーダンスに似ている。
〉ステキ♪
リッカが呟いた、リッカは踊り解るのかな?
天井から優しい光がさす、徐々に2人の姿が薄れていく…
ありがとう…私たちの心を貴方に…
【音楽家のジョブが追加された】
周りが光に包まれる。
まもなく、ブルーウッドの港に到着します。
俺たちは、定期船の船室にいた。
〉新ジョブのイベントだったんだな。
〉やりました、ツバサお兄様『踊り子』ゲットです!
〉そっか、女性キャラは踊り子なんだ
〉ツバサさんはちがうんですか?
〉俺は『音楽家』だった、バトルでは役にたたなそう(笑)
〉そんな事無いです、ツバサお兄様だったらきっと役に立ちます!
〉ありがとう
〉ツバサお兄様、フレ登録していいですか?
一瞬迷ったが、まぁいいだろう。
〉いいよ
〉おや?ハルカさん浮気ですか?
〉ち、ちがうもん!
フレ登録が完了した頃、定期船が港に到着した。
〉じゃ、俺行くとこあるから、今日はありがとう!
〉ありがとうございました
〉またね、ツバサお兄様♪
走って港を出る、マスターとサンセットがリッカ達を待っていた。
横を走り抜ける、サンセットは少しこっちを見た気がした。
〉リッカ、ハルカ大丈夫だった?
〉はい♪
〉踊り子ゲットしたよ♪
〉よかった、心配したんだからね!
遠くでマスター達の会話が聞こえている…
目的がぐちゃぐちゃになったから、今日は終わりにするかな…
と、言いながらショウタで久々のログインをする。
さて、寝るまでレベル上げパーティに参加しよう。
■緊急クエスト
秋の大型アップデート、去年はアクアラング群島と魚人族が追加されたが、今回は謎のマップが追加されたらしい。
噂の結婚システムは導入されなかった(内心、ホッとしている)が、その代わりに王族の結婚イベントが追加された様だ。
謎のマップを見つけるべく、上級者が洞窟やイベントの探索を開始した。
ま、俺には別世界の話だが。
「ショウタ、週末ショウタでログイン出来る?」
朝、ユキカがこそこそっと話しかけてきた。
「ん?アイツがいるとみんなが喧嘩しちゃうからしばらく使わないつもりでいたんだけど…」
そう言いながら、ショウタでもかなりログインして、ナイト、戦士のレベルを上げている。
「実は昨日ギルドマスター宛に緊急クエストが発動されて、私を含む7つのギルドマスターが選ばれたの」
「え?」
「みんなギルメン相当数いるとこのマスター…」
「なんでそんな、ど偉い所にうちみたいな弱小ギルドが?」
「クエストの条件が“精霊の紋章”を持つメンバーがいるギルドって事らしいの、ブリザードに聞いたら、おそらくショウタの事だろうって」
「とうとう来たのかって感じだな」
「え?紋章の事知ってたの?」
「まぁ、本人だからね」
「え!ズルい、知ってるなら教えてよ私も欲しい!」
「苦労も努力も悩みも探しもせず、ただくっついて行ったらクリアって…何が面白いんだ、キミもそう思うよね!」
俺はマスターのモノマネをしてみた。
「うッ…」
「と言っても、なんかすれば貰えるってイベントじゃ無さそうだから」
「そうなんだ…」
「とりあえず、マスターの指示なら参加します。」
≪そして週末≫
〉お兄様!!
エルフィランデル城内の中庭で俺を見つけたハルカ(プーリスト)が飛び付いてきた、一緒にいたリッカ(踊り子)もこっちに歩いてくる。
〉二人とも久しぶり
〉お久しぶりですショウタさん
〉ハルカ、今日はケンカするなよ
〉はい♪お兄様のいいつけは、ハルカ守ります♪
〉よしよし
〉お兄様、ハルカ“踊り子”って上級ジョブのゲットしたんですよ♪
〉おお凄いなぁ、ハルカもちょっと見ないうちに成長したんだな
〉はい♪
〉ハルカさん、新しいお兄様に浮気しましたよね(笑)
リッカが笑ながら言った、そのツバサお兄様も俺なんだが…
〉え?そうなの?
〉ち、違うもん!ハルカのお兄様はショウタお兄様だけです!
〉そうかなぁ(笑)」
〉なんか、ちょっとショック…
わざと落ち込んだふりをしてみる。
〉信じてくださいお兄様!
そう言ってさらに抱きついてくる。
〉無邪気に抱きつく所、ほんと羨ましい(笑)
サンセット(アーチャー)が笑ながら近づいてくる。
〉サンセットも久しぶり
宿毛アキと分かってるが、今日は普通にしてよう。
〉私もお兄ちゃんに甘えたい!!
おいおいサンセット、お前は何をいってるんだ?
〉ダメー!!
必死にしがみつくハルカの頭を撫でながらサンセットに話す。
〉サンセットのギルドもイベント参加みたいだね、やっぱこれの?
左手の紋章を見た。
〉みたいです。一通り見ましたが水の紋章は私とショウタだけですね。
〉そっか、例の知り合いはいなかったか…
〉あ…、そっか、ショウタには言ったんだっけ。
〉昔の話…言わない方がよかった?
〉ううん、大丈夫。
〉おーい、みんな集まってるか?
ギルドマスターの打ち合わせから、マスター(ニンジャ)が帰ってきた。
〉マスター、お久しぶり
〉オッス♪
〉あれ?ショウタなんか装備が違う、レベルアッブしてる?
〉ちょっとだけ頑張りました。
〉そっか、うちのギルドは4名だけなんで助かる♪
〉ん?ブリザードは?
〉あっち…
マスターが別のギルドを指した。
〉そっか、ブリザードは大手ギルドに所属してるからなぁ
俺を何度も引き抜こうとしてたっけ?
〉紋章もちがいる6人パーティが6組と、うちが4名だから総勢40名の大パーティで緊急クエスト参加します。
〉なんか、どきどきしますね。
〉ハルカはお兄様について行きますね
〉はぐれて泣くなよ
〉はぐれたら、泣くよぉ…
エルフィランデル城から、騎士団が出てくる。
冒険者ギルドの諸君、私は王宮騎士団長ギースだ!
暗黒界からのゲートが出現して以来、我々の国土は侵略してくるオーク共の驚異に晒されてきた、それはこのゲートが神出鬼没であり、元凶である暗黒界の敵を駆逐出来ないからである!
しかし、我が王国はこのゲートの一つを確保し我々の物とした!!
これより、暗黒界に乗り込み悪の元凶を暗黒神を打ち倒す!!
うおぉぉぉ!!
騎士団が雄叫びを上げる、冒険者も同じく剣を上げる!
エンディングに向かっている…この時俺たちはそんな高揚感に包まれていた。
俺たちは、エルフィランデル城北部の山岳地帯にある“不滅のゲート”に向かった。
自分の地図に印が表示され、マスター達と走る。
〉なんか、新しい冒険にワクワクするね♪
マスターが言った。
〉ネージュさんってほんとゲーム好きなんですね(笑)
〉リッカだってワクワクしてるでしょ
〉ですね、新しい経験はとても新鮮です♪
〉危なくないなら、キャロも呼んだんだけどね~
〉もしかしたら、お兄さんがいるから嫌がるかも?、攻略したら、レベル上げで来ましょう♪
〉そうだね。
〉お兄様、ハルカは今日とても幸せです♪
〉うん、頑張ろうな。ハルカは俺の後ろにいるんだぞ護ってやるから。
〉お兄様!!私、私、幸せです!
〉何、わたしーとか言ってるの?あなたの一人称は、ハルカでしょ。
〉ハルカさん、デレ過ぎてキャラ崩壊してますね♪
〉う、うるさーい!!
目標地点に到着した、俺たちのギルドが一番遅かったようだ。
「ここは、ブラックナイトのイベントがある古代遺跡だね」
「そうなんですか」
「うん、一番奥に不思議な模様の壁があるんだけど、どうやらそこへ行くみたい、敵が多いので絡まれたら叩きます」
「了解!」
と、言ったが実際は敵はいなかった。
「最強ギルドの最強メンバー6名が6組も通った後に敵なんて残ってる訳ないか」
「だね」
難なく不思議な壁画の前まで来た。
俺たちの到着を待っていた訳ではないだろうが、到着後すぐに魔導士の魔法の詠唱がはじまる。
壁画の中心の壁が崩れ、怪しい粒子が飛び交う黒い空間が出現する。
「あれが暗黒界へのゲート?」
「みたいだね」
王国騎士団を先頭に、次々に暗黒界へのゲートをくぐった。
ラスボスの居城がある暗黒界への入口に相応しいオドロオドロ感だ。
画面が揺れ新しい景色が現れる。
「え?ここは?」
「なんだ?」
「うそ…」
同行した仲間が全員驚く、そこはエルフィランデル城前の草原に似た風景だった、空は多少紫色の色彩だが、とてものどかで平和で最終決戦のイメージと違い過ぎる…
ギース騎士団長が話す。
「ここより南、森を抜けた先にゴブリン族の要塞がある、そこを攻撃、占拠し全線基地とするのが今回の任務である」
続けて、魔導士が話す。
「私はライネル、魔導士団の団長をやっております。要塞への攻撃は我が王宮魔導士が行います、冒険ギルドの皆さんは要塞を囲み敵を要塞内へ封じ込めて下さい。我々が全線基地を作るまで敵の援軍が来ないよう、全ての敵を逃がしてはなりません」
何か胸の奥に刺さった様な、騙されてる様な、嫌な予感がどんどん膨らんでくる。
俺はブリザードのギルドに移動した。
〉ブリザード、物凄く嫌な予感しかしないんだが…
〉ショウタもそう感じたか
〉うん…
〉そもそも戦わなくていいなら、なぜ僕たちが必要なんだろ?疑問だらけだよ、既に罠にはまってる気がする…
〉止めるって選択は?
〉相手はNPCだからなぁ…
〉選択権は無いって事?
〉だね
≫とりあえず配置が決まったよ、私たちのギルドは向かって左側を担当します。
〉マスターから指示が来た
〉僕のとこもだよ、それじゃご武運を
〉お互いな
俺はギルメンの所に返り要塞へ向かった。
「ショウタ、何処に行ってたの?」
「ブリザードの所に、この緊急イベント危険じゃないか?って」
「大丈夫だよ、うち以外のギルドは超強力だもん、私たちはあまり先行せず行きましょう♪」
「危険の意味が違うけど…」
「お兄様、意味ってなんですか?」
ハルカが聞いてきた…
「うーん、とても暗黒界にいるって雰囲気じゃないと言うか…」
「私も、暗黒界ってもっとオドロオドロしい所だと思っていました」
リッカが答える
「お兄様の言う通り敵もいないし、なんか普通の村がありそうですね♪」
それが一番恐いんだか…
森で他のギルドと別れる、サンセットが俺に手を振っている、サンセットのギルドは正面左側を担当するみたいだ。
要塞後方へつくべく先行していたギルドが森の出口で止まっている。
悪い予感が的中した…森を抜けて見えたのは小さな村だった。
ゴブリン族と言うか少し大きいコビット族が普通に生活をしている。
木で作ったら柵の中には家々が並び屋台もある、野菜を運んでいる人、果物を売っている人、屋台で買い物をする親子、走り回っている兄弟。
平和な日常がそこにあった…
「…なにこれ?」
「お兄様…これは
「敵の要塞はどこ?」
どのギルドのメンバーも止まっている、まさかこの村を戦闘員でもない村人を攻撃するのか?
ヤバい、小学生かもしれないハルカには見せられない。
「マスター!俺たちだけでも撤退しよう」
「え?ショウタ?」
「帰れなくなるぞ、ハルカ!リッカ!帰るぞ走れ!」
「え?」
「はい、お兄様!」
俺たち4人は森をもと来た方向に走った、森の上を火の玉が走る、王宮魔導士の攻撃が始まったようだ。
「ショウタ!」
「お兄様!」
「ショウタさん!村が攻撃されています!!」
「今は考えるな!」
サンセット、ブリザード、無事でいてくれ!
森を抜けた先で見たものは、王宮騎士団、王宮魔導士、それに俺たちが敵として戦ってきたオークやゴブリンだった…
「くッ!」
「どうして、騎士団がオークといるの?」
「そんな…」
魔導士から今度は俺達に向かって火炎の魔法が飛んでくる!
「森へ!」
ゲートまでの草原は、炎で多い尽くされた。
騎士団とオーク達はゲートに消え、攻撃が終った魔導士も次々に ゲートに消える。
炎が治まりゲートのあった場所に帰るがそこには何も無かった…
「まさか、ゲームで置き去りにされるとは…」
「ショウタ…これからどうしたらいいんだろ私達…」
「まぁ…とりあえずこのゲームを知り尽くしてるギルドマスター達に聞いてみよう」
森から上級者パーティが続々こちらに向かって来る。
「ショウタ、ギルドマスターの会議に参加してくれる?」
「わかった」
「リッカとハルカはこの辺で待ってて」
「はい」
俺達はギルドマスターの会議に参加した、会議はみんなに聞こえる様にオープンチャットで行われる。
〉こう来たか!って感じの緊急クエストだね~
〉FK6や4での裏切りイベントあったけどネトゲでやっても…ねぇ…
〉村一つ全滅、どう見ても私達がやった事になってるんじゃないの?
〉だね、お尋ね者として暫くこの世界で生きていくか(苦笑い)
〉で、どうする?
〉私はとりあえずゲート探して、あの騎士団長ぶっ叩きたいんですけど!
〉だね、暫くは協力して地図作りかな?
〉一ついいですか?
俺はまず、肝心な事を確認した。
〉どうぞ
〉先ほど、俺達は一番最初にここへ帰りました、そこで見たのは騎士団達とオーク達の姿です、手を組んでいるとしか思えない状況です。
〉マジか!
〉ゲート開いたのはエルフィランデルの魔導士でしたか。
〉ほぼ素人の俺には分からなくなってるんですが、現状誰を敵として戦いますか?村の大きなコビットと戦いますか?
〉難問だなそりゃ…
〉少なくとも、彼らの目線では私達は敵でしょうね…
〉攻撃されたら逃げる…しかないか…
〉村や町があった場合や、暗黒神の城とかあった場合もスルーでゲートのみ探すと言うことだね。
〉ゲート探すと言うより、魔導士が使ってるゲートの魔法を入手するって事だな。
〉それに関しては、おそらく紋章がヒントだと思うの
〉どうしてだ?
〉あのゲートを出した魔導士、後で団長だとか言ってた奴だけど、詠唱の時私の場所から杖を握った右手が見えたの、あの光は紋章だと思う
〉なるほどね
〉だから紋章のあるメンバーか、攻略方法がある程度見えてきたな
〉でも、せっかく来たんだし、しばらくこの新マップ冒険してみたいね♪
〉そうだな、NPCには嫌われてるかもしれないけどそうしたいな
〉では各ギルドは手分けして新マップの作成とゲートの魔法を入手に専念、バトルは各ギルドマスターに一任、一人でもゲートの魔法をゲット出来たら、各ギルドに連絡し、ここに集合で!
〉おK
〉了解!
〉オッケー♪
〉はい♪
〉了解です。
〉わかりました。
マスター会議を終え、みんなの所へ帰る。
「マスター、どうする?」
「そうだね、リッカ達はこの後時間ある?」
「時間ありますよ」
「私も♪」
「そだね、もともと暗黒界の攻略にきたんだもんね、よし冒険に出発だ♪」
「楽しそうだね」
「もちろん♪誰も知らない攻略本もないマップなんてワクワクせずいられようか(笑)」
「あはは」
備品の交換など、冒険の準備をしていると、ブリザードが走ってきた。
〉おーい、僕もパーティに入れてくれー
〉ん?ブリっちどうしたの?
〉こっちのパーティに入れてくれない?僕、けっこう役に立つよ、向こうのギルドマスターの許可はもらってるから♪
〉こんな時、上級者の参加は大歓迎だけど、あんたは裏があるからねぇ…、理由を言ってみて
〉イヤだなぁ、このパーティの力になりたいと思っただけだよ~
〉ホントに…ジー(疑いの目)
〉こっちの方が面白そうだしね、幸運スキルがメチャメチャ高い奴もいるし
〉幸運スキル?
〉そそ、裏スキルの一つ、パラメーターの表示がないから数値の確認は出来ないけどね。
〉知ってる、ラッキーロッドみたいにラッキーが付くアイテムはみんな幸運スキルが上がるって言われてるね、で?幸運スキルが高いのはショウタ?
〉だね、紋章のイベントはこの幸運スキルが関係してるらしい、初心者で紋章を取ってるショウタは初期設定の段階で幸運スキルがかなり高かったと推測できる
〉なるほど…
〉んで、たぶんリアル本人も幸運の持ち主、いくら幸運スキルが高くても精霊のいる場所いる時間、そこにいなきゃ意味ないしね♪
〉どうするショウタ?
〉正直な話、この後ブリザードに来てくれと頼む予定だった
〉じゃOKって事だね
俺は頷いた。
〉ありがとう♪
〉いいなぁー、私もそっちのパーティに参加したい!
隣のパーティで会話を聞いていたのかサンセットが話しかけてきた。
〉ちょっとサンセット!
〉おいおい!
〉ちょっと待て!
ギルドメンバーから制止のチャットが飛ぶ、かなり慌ててる様だ、俺もダメと言っておこう。
〉ブリザードはともかく、サンセットは紋章あるからダメだろ
〉だって、こっちみんな上級者だし、私やる事無いんだもん。
お前も上級者だろ、でもなんだろ少しづつ、サンセットがハルカ化してる気がするが…
〉そんな事ないって、必要だって
〉こんな所でわがまま出さないでサンセットちゃん…
〉あはは、サンセットはいつもわがままなんだ、知らなかった(笑)
〉ち、違うよー
〉お兄様は私に任せて、そっちのパーティで頑張って下さい♪
ハルカが抱き付いたままサンセットに話す。
今一瞬、舌を出したのか?
サンセットがハルカに向けて矢を構える!
〉まて!落ち着けサンセット!!
〉落ち着いてます、だから狙いは外しません!
怖い事を言うなよ。
〉毎度毎度ショウタさんも大変ですね♪
〉リッカとの1時間越えバトルが一番タイヘンだったけどね!
〉え?あ、ゴメンなさい…
〉マスター俺たちも行こう!!
既に、他のギルドは冒険に出ている、俺もハルカを抱えて走った東の方向に。
〉了解、またねサンセット♪
〉ちょっと!
東側の山道を登り隣のフィールドに向かう、敵対モンスターはいるがレベルが違うのか襲って来ない。
山道を越えた先は、深い森になっていた、木々が高く方向を見失いそうになる。双頭の蛇や巨大なトカゲ、針のあるカエルなど爬虫類に似た好戦的なモンスターが多く、絶えずバトルが繰り返される。
ブリザードはウィザードだと思ったら上級ジョブの「賢者」と言う職業らしい、名前からして頼りになるが実際戦闘では回復、強化、攻撃、弱体とかなり頼りになる。
俺とマスターが前衛、中間にリッカ、後衛にブリザードとハルカ。
ハルカは俺のみの回復を担当している、ハルカを含めた残りのメンバーの回復はブリザードが担当する。
夜は月明かりで進む、敵も強くなって倒すのにかなり時間を取られる。
朝になり、かなり時間をかけて深い森を抜けると、そこは白い砂浜、風がなく鏡のように光を反射する湖、湖と言っても歩ける程度の浅さがずっと続いている。
とても不思議な場所だった。
「なんかありそうな場所だね~♪」
「僕もそう思うよ♪」
「ワクワクして来ますね♪」
「さすがはお兄様の幸運スキルです♪」
「俺が連れて来た訳じゃ無いけど」
「そう言うわりには、森の途中から右とか指示してなかったか?」
「なんとなく、方向によっては紋章の光が強くなったりした気がしたので…」
「なるほど、他のギルドは気付いてるかな?」
「あ!お兄様、何か見えます!」
「え?どこ?」
「あそこ、なんか透けてるけどガラスで作った小さなお城みたいに見えませんか?」
ハルカが指した場所には、透明な遺跡の様な物が時折キラキラと輝いている。
「行ってみよう」
俺たちは、透明の遺跡まで湖の上を走って行った。
「ガラスって言うよりホントに透明なんだね…」
「これって入れるんでしょうか?」
「紋章の光からするとここで間違いないと思うんだけど…」
透明な遺跡、光の加減で全体の大きさは分かるが、何もない空間…中へは入れそうにない。
「何かイベントが発生する仕掛けとか無いかなぁ…」
手分けして、透明な遺跡の周りを探したがそれらしい仕掛けはない…
「敵もいないし仕掛けもない、どうすればいいの?」
「うーん、きっとここが精霊に関係する何かなんだろうけど…、ここも幸運任せじゃないよね…こんな事ならラッキーロッド持ってくれば良かった…」
「待てよ…精霊に関係がある?」
水の精霊王にあった時はたしか…俺は太陽の位置を確認して、透明な遺跡の正面に座り込む。
「お兄様?」
「果報は寝て待てって言うだろ」
ハルカもチョコンと俺のとなりに座る
「ショウタ、何か分かったの?」
マスター達も俺の近くに集まる。
「俺の考えが正しければ…ね」
みんなが俺の側に集まる、そして同じ様に遺跡の前に座り込む。
太陽は西に傾いている。
「なるほど、フリーシア湖の!」
「さすがブリザード、博識だね」
「なになに?」
「もうすぐ分かるから待った待った」
暫くして、夕日で湖面が赤く染まりだし、そしてキラキラ輝きだした…
「お兄様、湖が綺麗です!」
「ホントだね」
「あ!」
透明な遺跡が本来の色を取り戻した…
汝、我 声が聞こえますか?
「え?」
「誰ですか?」
「お兄様!」
真っ白な大理石の様な石で作られた遺跡、今は夕焼けで赤く染まっている。
正面の扉が開く、俺は立ち上がり遺跡に入って行った、4人も続く。
遺跡内部も白く輝いている、足元は浅く綺麗な水で満たされている。
待っておったぞ、人間の子よ
水柱が円を描くようにあがり、中心のから水の精霊が姿を表す。
「女神ですか?」
「精霊王らしい…」
初めての者もおるようじゃな、我が名はウンディーネ。そなた達がなぜここに来たか解っておるが、暫し我の話に付き合ってくれぬか…
汝らも疑問に思うておろう、ここは暗黒界ではなく4大精霊が世界の均衡を保っておる精霊界じゃ、本来なら物質界の存在であるそなた達が存在できる場所ではない。
精霊王の話は続く…
太古の昔、精霊界と物質界が重なると言う大事件が起こった。
もともと、精神的な世界だった精霊界にこの時、色がつき、空や大地が現れ、物質界の様な世界となった。
精霊達も影響を受け、妖精や妖魔に変化するものまで現れた。
エルフ、コビット、ドワーフやゴブリン等はもともと精霊だった。
ヒューマン族、ミーヤ族、竜人族、魚人族やオークは物質界の存在だ。
4大精霊はこの時、物質界を含む世界の均衡を保つ存在となった。
我々は、世界の重なりを癒しこの精霊界と物質界を元の状態にせんと尽力した…が、物質界で言う“時”がそれを許さなんだ。
世界は再び二つに別れたが、精霊界は色を失わず、物質界に大きく影響を受けた妖精達は物質界に残されてしもうた…
我々は、幾度か物質界に赴き残された精霊の子らを見守っていた。
そうじゃな…、ネージュ、お主の様な子を見てると実に微笑ましい。
「あたし?」
不思議なものじゃ…お主にはエルフと人間と、2つの世界の光が感じられる。
これは不本意な出来事がもたらした、輝かしい光だと我は思う…
「なるほど、ハーフエルフってキャラも存在していたのか」
「私はエルフを選んで容姿をヒューマン寄りにしただけだけど…」
昔話が長くなったようじゃな…、お主らが欲するは、物質界へ行くゲートの魔法じゃろ。
あれは土の精霊王であるノームが考案し魔法でな、大地の力を必要とする故、我には教える事が出来ぬ…
「土の紋章か…」
がっかりせずともよい、物質界に帰るだけであれば、ほれそこの精霊水に身を浸すとよい、物質界の湖に現れる事が可能じゃ、同じ様に紋章を持つ者がおればこちらへ来る事も可能じゃ。
まだ帰らぬなら、また、立ち寄るがよい。
おおそうじゃ、二つの光を持つそなたにも力を授けよう!
「え?」
精霊王の名のもとに、そなたに水の祝福を!!
マスターに水滴が集まり、左手に吸収された。
マスターの左手が輝き紋章が浮かび上がる。
「わ、やった!!」
「マスター、紋章おめでとう」
「いいなぁ…」
「幸運スキル上げねば…」
「私はお兄様が持ってるからいらない♪」
辺りは夕闇に染まっている、目の前にはほぼ見えなくなっているが透明の精霊王の神殿がある。
精霊水の場所は丸く光を発していて、夕方でなくても行けそうだ。
「さて、僕は他のギルドに連絡してもとの場所に戻るけどみんなはどうする?」
「お兄様、ハルカはそろそろ…」
「私も…」
「マスターは?」
「私は大丈夫」
「それじゃ、俺がリッカとハルカを連れて向こうに戻ります、もし10分以上帰らなかったら、無視して行って下さい」
俺はリッカ達とは3人パーティを作って精霊水に飛び込んだ。
泡が下から上へ、止まり、今度は上から下へ。
ザバーッと言う感じで外へ飛び出した、フリーシア湖の中央、サンセットが座ってた場所付近だった。
釣り人が驚いてない所をみると、ログインした時と同じ状況なのだろう。
いったん、噴水前広場に戻る。
「お疲れさま、戻って来れたね」
「お疲れさまです」
「ハルカはもっとお兄様といたいです…」
「そっか、でもハルカ、リアルでもいろいろ頑張らないといけないぞ」
「え? はい!頑張ったらお兄様ハルカに会いに来てくれますか?」
「場所的に近いならね」
「約束ですよ!」
ハルカがログアウトしていった。
「いいんですかショウタさん、あんな約束しちゃって」
「うーん、どう言ったらいいんだろ、いつも明るく元気っ子なんだけど…」
「?」
「なんか時折寂しそうに感じるんだよね、なんて言うの不登校とかしてなきゃいいなって…」
「そうですか…」
「考えすぎだと思うけどね」
「それじゃ、私も落ちますね」
「うん、お疲れさま」
リッカがログアウトした、俺は急ぎフリーシア湖に戻ったが、予想に反し精霊水の光が無い…
「あれ?何かしないと行けないパターン?」
ユキカにラインを送る
≫光がどこにも無い…そっちに行けない。
≫了解、ブリザードはもう草原に向かってる、私は暫くここにいるから来れたら来て
その後、マスター会議でブリザードが状況を説明した、紋章は水が2、火が4、風が1だった。
土の紋章はあの魔導士のみ、現状手に入らないものらしい。
ブリザードは元のギルドに戻り、風の神殿の探索に向かった、紋章の輝きと言うヒントがあれば、どのギルドも攻略出来るだろう。
1時間後、釣りをしていた俺の前に光の輪が現れた。
「連続で行き来出来ない仕組みか…」
俺は光の輪をくぐり、精霊界に出た。
丁度マスターがこっちに走って来る。
「お待たせ」
「遅い!(怒)」
「デートの約束してたんじゃないから…」
「あはは、さてどうしよう?ブリザードは、説明して元のギルドで神殿探しするって言ってたから戻らないね」
「それじゃ、2人でちょっと冒険してから帰ろうか」
「うん♪」