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ネトゲの世界でも彼女が出来た?

■ さぁ、異世界へ


「なっ!? これがゲームの中!?」


 目の前に広がる別世界、青い空、緑の木々と調和した町並み、清々しい空気さえ感じる。

 鳥肌が立っている、ゲームの主人公と完全にシンクロした感じ、リアルがぼやけ、この別世界があたかもリアルであると主張している。


 「王都エルフィランデルにようこそ、冒険者ショウタ」



 俺の名前は下川口ショウタ、叶崎高校1年で、成績はそこそこ良い。

 中学時代はサッカーをやっており、運動神経にはかなり自身がある、訳あって高校ではまだ部活に入っていない。

 ま、将来を模索中ってところか。


 「どうしたのショウタ?」

 この子は三崎ユキカ、髪はストレートのロングヘアー、小柄でなかなか可愛い、いつもは俺の隣にいて大人しいが怒るとかなり恐い、少し運動音痴だが成績は中学から学年トップの秀才だ、ちなみに俺の彼女♪

 

 「あ、いや別にちょっと部活とかどうしょうかと思ってね」

 「ショウタ、またサッカーするの?」

 上目使いで見られると、可愛さが際立つ。

 「そうだなぁ、それも選択肢の一つだけど、まだ、これ!ってのが決められなくって…」

 まぁ、こうやって一緒に登下校するのも、悪くはないんだが、やっぱ充実した高校生活おくるには部活は欠かせない気がした、と言うより放課後や休みはサッカーばかりの毎日だったため、今のように部活してないと暇でしょうがない、みんなは何をしてるんだろう。

 「はぁ…、部活するのかぁ、中学の時はサッカーばっかりで休みに全然遊んでくれなかったでしょ、夏休みなんてほんとつまんなかったんだから」

 ちょっとふてくされる仕草、高校生になって一段と可愛くなったあなたがいるから、部活選べないんです!と言ってやりたい。

 「え?あ、ごめん…でも去年の夏休みは、ほら花火大会とか行ったじゃん」

 ギロッ(殺気)

 「それは一昨年です、去年は雨で花火大会が延期、サッカーの合宿と重なって行けなかったでしょ!」 ゴゴゴッ!!

 しまった、地雷だったか…

 「ご、ごめん…」

 こんな風に、ユキカは怒るととてつもなく怖いんだが、普段はみんなに優しく、自慢の彼女である。男子連中からは憎まれているが…

 「まぁいいわ、ショウタがやりたいなら反対しないけど…」

 

 昼休み時間…


 う~ん…

 「今日はショウタ、ずっとそんな感じだね」

 友達3人で話していたユキカが振り替えって話してくる。

 「ん?どんな感じだって?」

 「なんか、こう難しいなぞなぞをといてるみたいな」

 「なんだそれ…?」

 「何か悩み事ですか?」

 ユキカの親友の三原レナが話に加わる。レナはおっとり系お嬢様な感じ少し天然で可愛い子。

 

 「悩みって事でもないけど、なぞなぞは案外遠からずだな」

 「なになに?教えて?」

 大月アカリ、ユキカのもう一人の親友、ショートカットで美少年な雰囲気、運動神経抜群。


 「笑うなよ、部活とかしてない奴って、休みの時間何してるのかな?って、勉強は置いといてだけど…」

 自分で言ってなんだが変な悩みだ、部活三昧の弊害か?

 「なんだそれ?下川口はユキカとデートじゃないの?」

 「毎日はデートしないよ」

 ユキカが少しテレながら話す。


 「う~ん、人それぞれだと思うんですが、だいたいは趣味とかでしょうか?」

 趣味…サッカーとか趣味になるのかな?、そう言う意味じゃ部活やってもやってなくても同じ時間をやりたい事に使ってんだから同じか…

 何となく、部活やってる方が偉いって思ってたけど…


 「趣味か…みんなの趣味って何?」

 「女子の趣味聞いてどうすんだ?私はラクロス部が忙しいけど、暇な時はゲームだな、アニキのゲームを借りてやってる」

 「私は帰ったら、なんかのお稽古してる。趣味はアニメですね」

 「ユキカは?」

 「え?わたし?私は…」


 「よ、下川口、俺の趣味は新たな出合いを求める事、毎日ラブラブなお前たちとは次元が違う、だが!うらやましい!」

 「ラブラブ言うな清水」

 友達の清水ユウト、女の子大好きのいわゆるチャラ男、中学時代から同じサッカー部に所属、高校では「サッカーは女子との出会いが少ない」って理由でテニス部に入った。


 「清水くん、どうテニス部は?」

 「出会いが…少ない…先輩方のガードがキツくで女子と話が出来ない」

 「…そ、そうなんだ…テニス部だよね入ったのは…」

 「ユキカ、コイツはサッカーとかテニスとか関係ないんだよ」

 昔はそうでもなかったが、ユキカが俺の彼女になって以来、彼女欲しい病にかかってしまっている。


 「三崎ちゃん知ってる?、下川口のヤツが部活しないのは、三崎ちゃんと遊びたいからだって」

 「え♪」

 「清水てめーなに言ってんだ!!ユキカも赤くなってんじゃねぇ!」

 「赤くなってないよ~」


 「じゃあな下川口、結婚式は呼んでくれよ♪」

 「お前は呼ばん!!」


 「へ~結婚式は否定しないんだ~」

 「うらやましい~」

 友達からからかわれる俺たち、二人して顔が赤くなる。


 「さっきの話だけと、私の趣味は買い物とか、かな?」

 ユキカが話を変えてきた。

 「買い物かぁ、みんな趣味あっていいなぁ…」

 「え?趣味がないんですか?」

 

 「何度も言うが笑うなよ、高校に入って部活やらずに家に帰っているだろ、でも何をしたらいいのかさっぱり分からない、宿題とかはさっさと終わっちゃうし、暇で暇で…」

 「なんだそれ?、逆の悩みなら聞いたことあるけど」

 「もう、部活なしじゃダメな体質なんですね下川口君は…」

 「実は、ちょっとそんな気がしてるんだ…」

 ここんとこ、完全に体内時計がくるってる感じだ…


 「うーん、遊びとかじゃだめ?例えばアカリみたいにゲームとか」

 「ゲーム?」

 「そうだ、ショウタ、PSXってもってるよね?」

 PSX(プレステ10)は、昨年発売されたゲーム機だ、インターネット、パソコン、オーディオ、音楽や動画の編集等など何でもこいのスーパー機種である。

 「もってるけど、ユキカからゲームの話って珍しいなぁ」

 「ネットにもつながってる?」

 「一応」

 「やったぁ♪」

 「ん?」なんだなんだ?


 「お願い!、ショウタん家でファイナルキングダム7ってゲームをやらせてほしいの、うちだと親がうるさくて…」

 ファイルキングダム7(FK7)は人気RPGの7作目、シリーズで唯一ネットゲームとなっている。


 「それって、ネットのヤツだよね、私やってるよ」

 「面白いんですか?たしか秋からアニメ化するとか…」

 「レナはアニメに詳しいね~」

 

 「えっと、やるのはいいけど、俺そのゲーム持ってないんだけど…というか、PSXって今、ブルーレイかネットでしか使ってないから」

 小学生の頃はゲームをやってたが、部活やってるとゲームをする時間がない、特に先の長いRPG的なヤツは…


 「いいのいいの、ゲームは私が用意するから♪」

 「?」

 「実はね、この前テレビで、宿毛すくもアキちゃんがこのゲームにハマってるって言ってたの♪」

 「あ、私もそれ見ました」

 「知ってる、生放送でネトゲを知らないアナウンサーの質問に、思わずサーバー名とか言っちゃったヤツでしょ、アニキが話してたなぁ」

 「へぇ~''ヤドゲ''ちゃ 痛ッ…」

 ユキカの蹴りが向こう脛に突き刺さる、ユキカはモデルでアイドルの宿毛アキちゃんの大ファンだったのだ、最初は単純に''宿毛''が読めなかったんだが、あまりの熱狂ぶりに今ではからかい半分にヤドゲと呼んでは怒らせている。

 「ショウタ 殺すわよ!」

 「も、申し訳ありません… で?宿毛ちゃんがどうしたって?」


 「アキちゃんがそのゲームしてんの、私も見てみたいの!だめ?」

 「大月に見せてもらったら?、やってんだし」

 大月が下を向いてため息をつく

 「女心がわかんないヤツだなぁ、ユキカは下川口と遊びたいんだよ」

 「そうですよ、最愛の人を部活に取られまいと必死なんです」

 「えっ…、そうなの?」

 「ち、ちがうよー」

 慌てて否定したが、友達からの生暖かい視線にさらされて、また赤くなる。


 「いいよ、でもRPG的なのは小学生の頃、ドリームクエストってやつしかやった事しかないけど、出来るかなぁ」

 「アイドルの女の子がやってるくらいだもん、大丈夫だよ」

 「ま、買い物につれ回されるよりいいか」

 「じゃ決まりね!土曜のお昼から遊びに行くから♪」

 「了解」

 「ふふ、楽しみ~♪」

 「はいはい、ご馳走さま」

 「ホント仲がいいですね~」

 「あ…」


 ≪そして、土曜日≫

 

 ピンポーン♪

 「はーい、あらユキちゃんこんにちは」

 ドアホンの画面にユキカが映る。

 「こんにちは」

 「ちょっと待ってね、いまドアを開けるから」


  ガチャ

 「お久しぶりです、お母さん、ショウタいます?」

 「部屋にいるわ、そっか珍しく掃除してると思ったら、ふふふ」

 「あ!き、今日は勉強というかネットワークとか通信とか…いろいろ教えて貰おうかと…」

 「偉いわ、ほんとユキちゃんは勉強熱心なのね、ショウタのお嫁さんになってくれたら大歓迎するわよ、さぁ上がって」

 「お、おじゃまします。」

 「ゆっくりして行ってね、後で紅茶でも持って行くわ」

 「あ、おかまいなく」


 急ぎ階段を上がり、一応ノックする。

 トントン

 「ショウタ、FK7持ってきたよ」

 ガチャ

 「オッス、いちおう一通り準備はしといた。じゃあさっそくはじめるか、ん?どうした?顔が赤いぞ?」

 「ふぇ? あ、暑いのかなこの部屋?」

 さては、またおふくろに何か言われたな…だいたい想像はつくが…


 「暑い?じゃあエアコンつけるわ」

 ピッ

 エアコンが涼しい風(ちょっと寒い気がするが)をおくってくる。


 「そう言えば、ユキカが家に来るの久しぶりだな、中学ん時はけっこう勉強教えてもらってたから、いつも来てた気がする」

 中学時代は部活部活で勉強は休日にまとめて教えてもらっていた。

 おかげでユキカは親に大人気、いつも嫁に来いと言われてるらしい。


 「そうだねぇ」

 「おかげで、高校では勉強が得意になりました、ありがとうユキカ先生」

 「バカ、何言ってんの!」

 また、顔が紅くなるユキカをからかいながらソフトをセットする。


 「さてと、はじめますか」

 PSXのスタンバイはオッケイ、ソフトさしてさぁ開始だ、ちょっとワクワクしてる自分を押さえて、起動を待つ…

 「ある程度はPSX本体にコピーするんだなぁ、ハードはほとんど使用してないから問題ないけど」

 ユキカはもう待ちきれない様子で画面を見ている。

 オープニングが始まる、写真のような風景にファイナルキングダム7のロゴが重なる。

 「お!来たか?」

 「あ!来たぁ!!」

 ユキカが飛び跳ねる、俺も久しぶりのゲームにちょっと興奮してきた。


 最初はサーバー設定となっている、自動とサーバー名入力が選択できる。

 「サーバー?何の事だろ?ま、初めてだし自動でしてみるか」

 「ダメーー!!」

 ユキカが飛んで制止してくる。

 「え?」

 「あ、サーバー名はMOMIJIにして」

 「紅葉?ここにもみじって入力するの?」

 「そう、アキちゃんがMOMIJIサーバぽい事言ってたの」

 「アキ(秋)だけに紅葉?そんなネタバレするような事テレビで言うかなぁ…」

 「言ったの!お願い!」

 「わかったわかった、MOMIJIっと入れたよ。」

 次はキャラクター作成か、種族や性別の選択、所属する王国。おっと顔や髪型、体型まで変えられるようだ。

 「ユキカ、キャラクターの名前は何にする?」

 「ショウタがするんだから、ショウタが決めて、私はアキちゃんを探したいだけだから」

 「え?俺がやるの?」

 「そ、私は画面をみてるだけ」

 「そんな簡単に見つかるはずないだろ?何万人もやってんだから」

 「いいから!はやく!!」

 「はいはい、名前かぁ…ま、ショウタでいいや」

 「え? 本名で行くの??」

 「なんか問題ある? だって、ドリームクエストも本名でしてたし」

 「あれはネトゲじゃない(ボソッ)」

 「ん?」

 「な、何でもない、種族とかはどうするの?」

 「エルフとかカッコいいけど」

 「そうだよね!エルフだよね!!」

 はしゃぎ出すユキカ

 「なんか、目がキラキラしてるぞ」

 「あ、いやエルフカッコいいなぁって思って、きっとアキちゃんはエルフを選択してるに違いない!」

 妄想をふくらますユキカを見てちょっと面白くなってきた。


 「いろいろ新鮮だな、ユキカがエルフとかオタクな事言うとは思わなかった。もしかしてこのゲームの事けっこう調べた?」

 「え?あ…まぁ少しは」

 「さすがは学年トップ、予習はかかせませんなぁ、でも俺はヒューマンを選択♪」

 「あ…」

 「なに?」

 「ううん、何でもない…」

 髪型や顔、ある程度は自分に似てる容姿を選択してみた。


 「すごいショウタ♪、けっこう似てるよ♪」

 「そうか?しかし最近のゲームはすごいなぁ、髪や目の色、体型までとは、なんかゲームと言うより着せ替え人形に思える、女の子がやったら、キャラ設定だけで1日終わるんじゃない?」

 「それ、わかる♪」


 「職業は、戦士、武闘家、魔法剣士辺りがいいなぁ、やっぱ男は前衛でしょう」

 「うんうん♪」

 「最初は戦士で行くか!」

 キャラ設定は完了、残すは所属する王国決めとなった。

 「ヒューマンだから鉱山都市デトライト」

 「ダメーー!!」

 今度は抱きつきながらコントローラーを制止してくる。

 おーいユキカぁ、今のはすごく嬉しい…恥ずかしい…んだが。

 少しばかし紅くなった顔と動揺を隠すように、

 「また?今度はなに?」

 って冷たく言ってしまった。


 「エルフィランデルにしてほしいの…」

 この体制での上目遣いのお願い…ユキカ…反則です。

 「えっと、エルフの国ね?いいよ、エルフィランデルでポチっと。」

 「ありがとう♪」

 「さあ、はじまるぞ! いざ!出陣!!」

 「うん!」


 ってあれ?


 【バージョンアップデータがあります。バージョンアップしますか?】

 【はい】【いいえ】


 えっと…これはなんだろう??


 「あ!これはネットゲームだからイベントの追加とかバグ修正とか、いろいろなバージョンアップがあるんだよ」

 「へぇ、詳しいんだな、【はい】を選べばいいって事?」

 「多分…」

 「んじゃ、ポチっと」


 【ダウンロード中】

 ■□□□□□□□□□ 1%


 *****10分後*****

 ■□□□□□□□□□ 3%


 「あのー、ユキカさん…、これ今日中に終わるんだろうか?」

 「え、えっと、どうだろう」

 最初の興奮は時間と共に消え去り、変わらない画面を見つめてるのも飽きてきた。

 「ヒマ…だね」

 「もう少し、もう少しだから待って!すぐにダダダって90%くらいに行くはずだから!」

 …その発言の根拠はなんですか?


 *****1時間後*****

 ■■□□□□□□□□ 11%


 「多分、家のネット回線が遅いからだと思うけど、単純計算であと9時間後にバージョンアップ完了だね」

 「う、うん…」

 「夜中だね…」

 「う…」

 「泊まってく?」

 「う、うん…?ええぇ!!? いや私、着替えとか持ってないし、それに、その」

 真っ赤になって話すユキカが可愛い

 「冗談だって、PSXつけっぱなしでバージョンアップしとくから、明日の日曜日にやろう」

 「え? あ、うん、わかった明日ね」

 「明日は着替え忘れんなよ」

 「バカ!知らない」

 階段をかけ降りる音が聞こえる、おふくろと何か話して家を出たようだ。

 「ネットゲームねえ、少しはやる気出さないとダメだろうなぁ…」



■ サンセット


 バージョンアップが完了しました、再起動します。


 「コノヤロー!やっと終わりやがったか!」

 ダウンロードで数時間、途中ユキカの言う通りダダダって90%近くまできたが、そこからがまた遅い遅い。

 ダウンロードが終わりガッツポーズを決めたが、今度はインストールが開始され、またまた数時間経過…

 何度「PSX壊しちゃいなよ」って囁きが聞こえた事か。


 時間は夜の11時、ホントに9時間くらいかかってしまった。

 さて、このまま放置しとくか?いや、明日またバージョンアップメッセージが出てもキツいから、ちょっと動くのを確認して、とりあえずセーブまでするか。


 カチッ

 オープニングムービー開始、4つの王国の対立・和解の歴史、和解後平和と思われた大地に突如暗黒界とつながるゲートが各地に出現、暗黒界からオークやゴブリンが襲来!各王国は暗黒族の殲滅に団結して挑む。が、敵の大群を前に一進一退の状況が続く。

 そこに、一つの噂話が流れる…


 ~暗黒界とのゲートを開いたのは王国親衛隊の魔導師だ~


 強固と思われた団結が、たった一つの噂話で砕け散った。各国はどの王国の魔導師の仕業かと疑うようになり、暗黒族と他3国を敵とみなして戦いはじめた。

 そんな中、各地にある冒険者ギルドだけはそんな現状を憂い、屈強な冒険者に暗黒族の撃退、ゲートの謎の解析、真犯人の調査を依頼した… って感じらしい。


 オープニングムービーが終わりまぶしい太陽の光で白一色となる。

 目がなれたって演出か、徐々に風景が見えてくる。


 「なっ!? これがゲームの中!?」


 目の前に広がる別世界、青い空、緑の木々と調和した町並み、清々しい空気さえ感じる。

 鳥肌が立っている、ゲームの主人公と完全にシンクロした感じ、リアルがぼやけ、この別世界があたかもリアルであると主張している。


 これはゲームだろ? RPGなんだろ?RPGってなんか上の方からキャラを見て、それをかつかつ動かすんじゃないの??


 「王都エルフィランデルにようこそ、冒険者ショウタ」


 振り替えるとローブを纏ったエルフ族の女性がいた。


 淡々とゲームの説明をしてくれているが、予備知識がない俺には内容が理解できない、いや一部理解出来た、表示の名前が白はゲームキャラ、青は冒険者、赤は敵キャラと言う事と、チャットは個人、周りの人全員、バトルメンバー、ギルドメンバーと切り替えられるという事、ギルドが何かわからないが…


 「では、これをお持ち下さい。」

 お?一応初心者な装備は頂けるようだ。木の剣、冒険者の服とズボンとブーツ。ま、最初はこんなもんだろう、装備の仕方を教えてもらう。

 「わかりましたか?」って、クスッと笑う仕草が可愛い!時おり風が彼女の長い髪を揺らす。


 「わからない事がありましたら、また話しかけて下さい」

 「はい!」

 うわ、ゲームキャラにマジ返事してしまった!

 またクスッと笑う仕草。絶妙のタイミング、制作会社恐るべし!


 「行ってらっしゃい冒険者ショウタ、世界はあなたが思っている以上に大きくて広くてワクワクがいっぱいですよ!」


 こうやって、俺のネットゲーム生活が始まった…ってあれ?


 いったい俺は何をする?

 え?放置ですか?うそでしょ、王様とかに呼ばれて「伝説の勇者よ、魔王ナンタラを倒すのだ!」的な話でしょ…


 まさか俺、単なる一般ピープルじゃ無いよね…

 なんかそんな気がする…マジか。


 とりあえず情報が欲しい、何事も情報が大事。そして、武器屋、道具屋、出入口の確認だな、ある程度は地図で確認を…

 なるほど、真ん中の矢印が今いる場所で矢が向いてる方向が自分の見てる方向か、では一番あやしい北の大門に向かおう!


 おっとこっちは王城だったか、近衛兵に止められてしまった、このゲームはいろんな場所を勝手に探索できる訳ではないんだな、タンスや壺もないのか残念…

 地図を見てとにかく走り回ろう。



 しかし、広いなぁ… 偶然宿屋?に行けたから、体力回復場所はわかったが、こんなに広くちゃ何がなんだかわからないぞ??

 あっちこっちでチャット文字は飛び交ってる、何かの依頼みたいだが、肝心な部分の言葉が分からない…いわゆるネット用語と言うやつか、月曜日に詳しい友達に聞いてみよう。

 うーん、おれもチャットで「出口、何処ですか?教えて下さい」って聞いてみようかな?笑われるだろうなぁ…


 ん? 剣と盾の看板発見! 武器・防具屋って事だ絶対!、個人イベント1クリア!

 所持金は最初に貰った20ゴールド!よし、ちょっといい武器でも買うとしよう。


 「いらっしゃい、今日は何をお求めで?」

 ガラガラの店内からドワーフの店主が声をかける。


 こんなに冒険者いるのに店内ガラガラって、ここもしかしてぼったくりじゃね?、と思いつつ武器の品揃えを確認。


 「武器ね、いいのがそろってるよ」

 ■鉄の剣(Lv10):2000G■


 2000ゴールド? 無理だ、しかもレベル10でないと装備できないっぽい。

 あきらめて店を出る、とりあえず、ザコモンスター倒して、お金とレベル上げだな…


 出口すぐに見つかった、何て事はない、走ってる冒険者についていっただけだ。


 「おお!!」

 そこには、森、川、花が咲き乱れる野原、遠くに湖まである

 「ちょっと感動、ユキカに見せてやりたい…。あ…」


 あまりにスゴいのですっかり忘れてたが、ユキカに頼まれただけのゲームだった、セーブするまでとおもったが、おもしろくて勝手にやっちまった…まずいよなぁ…

 セーブ、セーブ、あれ?マジ?

 てか、このゲーム、セーブ自体ないのかも??

 オートセーブいわゆるやり直しが出来ないゲームって事か…


 うーん、ユキカにラインしとこ。

 ≫ダウンロード完了、ちょっと動かして練習しとく。っと


 これでよし!

 さて、ザコ狩りいきますか?


 ラビット、ワーム、バット、近場の敵キャラを倒しまくる、この辺なら木の剣でも余裕だな。

 しかし、HP回復が問題だ、最初に貰ったポーション飲むの勿体ないし、かと言って宿屋まで帰るのもめんどくさいしなぁ…うーん、宿屋に帰るか、回復魔法ほしいなぁ…

 5匹くらい倒しては宿屋、5匹くらい倒しては宿屋を繰り返した。ま、宿屋がタダだったから助かったが。


 よし!レベル5に上がったぞ、お金も20ゴール…あれ?20??

 って1円も増えてない!なんで何が悪かった??けっこう倒したぞ?

 まさか、ゴールドを落とさない敵って事か?


 この辺の敵はほとんどの種類倒したし、湖のほうに向かってちがう敵を探してみるか…


 湖の近くまで走ったが、あまり敵はいなかった、ウサギが数匹いるだけで同じくアイテムは落とすがお金は落とさない。しかも悪い事に同じウサギでも多少強くなっている、一撃では倒せず、逆にかなり攻撃をくらい出した。


 これはかなりヤバいなぁ、何個かポーションはあるが、これで帰れるか?

 なんか太陽の位置が下がってるし、夜は敵が狂暴になるって事ないよなぁ…


 いや、ある!絶対に狂暴になる!…

 よし!走って逃げよう!!

 振り返ろうとした俺の目線が急停止する。


 はッ…


 湖のほとり、一人のエルフが座って湖面を眺めている。

 それは、素晴らしい絵画を見てるようなそんな感動を与える風景だった。


 俺の中でのエルフは、木々草花を愛で新緑の衣をまとい、金色の長い髪、風や水の精霊と話ができ、気高く純粋で美しい。

 目の前のエルフは、町中で見たどのエルフよりエルフらしく、俺はただただその横顔に見とれていた…


 ふと、エルフがこちらに視線をむける。覗き見してたかのような罪悪感におそわれ、俺は少し視線を奥の森にむけた…


 ガザッ

 木がゆれている、何かが潜んでいる、なんだ?


 ガザッザッ

 ぬうっと何かが姿を現した、そこには、俺の倍以上の体にこん棒を抱えた魔物の姿が!

 あれはオープニングで見たぞ、たしか名前はオーク!暗黒界のゲートから来た魔物!!


 のっしと一歩踏み出すオーク。

 とても勝てる相手ではない事は見てわかる、が、体はオークに向かって行こうとしていた。

 一発KOかもしれないが、だけどあのエルフの逃げる時間を!!


 「!」


 エルフは流れるような動作で立ち上がる、弓を構え矢をつがえ引き絞り、一連の動作が立ち上がる動作と連動し、立ち上がった瞬間、閃光のような矢が俺に向かって走った!

 「え!?」

 矢は俺の左頬をかすめ後方に!!


 ブギャー!


 振り返った俺が見たのは、俺の頭にこん棒を降り下ろそうとしていたオークが消滅する所だった、胸に深々と矢が刺さった状態で。


 ブギャー!


 もう一匹、反対の森にいたオークも消滅している。

 呆然としてる俺に、エルフが話しかけてきた。 

 「新人さん、この辺りはちょっと危険ですよ」


 サァーー。

 ヒールの魔法だろうか、優しい光に包まれHPが完全回復する、その後、複数の魔法がかけられた、効果はわからないが強くなった気がする。

 〉ありがとうございます。

 「いえいえ、でも私だけに話してくれれば、嬉しいのだけど…」


 気が付かなかったが、湖の回りには10人ほど座っていた。

 「ありがとうございました」

 今度はエルフのみに話しかけた。またエルフは座り込み湖を見つめる。

 「私はサンセット、よろしくね」

 「ショウタです、今日やりはじめた新人です。」

 「ショウタさん、よろしくね(笑)」

 サンセットが微笑む、表情がチャット文字と連動してるんだろうか?ドキッとした、一目惚れの感覚なんだろうかこれは。

 何となく、立ち去りたくない気分になり、思いきって話しかけてみた。


 「えっと、ここで何をやってるんですか?」

 「ん?」

 「なんか、みんな何もせず座ってるので…」

 「そうね、イベントみたいなものかしら、夕暮れでフリーシア湖の湖面が赤く染まる時、水の精霊が現れるらしいの。でもいろんな条件があるらしく、今じゃ伝説扱いかな…」

 「そうなんですか」

 「ずいぶん前にゲームやめちゃった知り合いが、水の聖霊に会ってるの、どうやって会ったかは聞けずじまいだったけど…」

 何故だか寂しい感じが伝わってくる、恋人…だったのかな?


 「想い出のイベントなんですね」

 「いろいろ、ホントいろいろ試したの、複数できたり、1人できたり、水に入ってみたり、隠れてみたり、晴れの日、雨の日、曇りの日…でも全然ダメだった…」

 「知り合いから、ヒントは無し?」

 「左手がちょっと光ってたかな?そのくらい…」

 やっぱり、寂しそう。なんとかしてあげたいけど、素人の俺じゃ無理だよなぁ…

 「くすッ(笑)」

 「え?」

 「そのキャラは誰かに似せたの?それとも自分?」

 「えっと…自分です…」

 うわ、気づかなかったが、これってけっこう恥ずかしいぞ!見た目も名前も本人なんて、ネットゲームじゃタブーだったのか?

 「その知り合いに、そっくりだよ」

 「そうなんですか?」

 「そうです♪」

 やっぱり、恥ずかしい話をかえなきゃ!


 「イベントの話だけど、攻略サイトとかあるんじゃないですか?」

 「あるよ、炎の精霊は条件がわかったみたい、でも必ず会えるって訳じゃないみたいね。精霊は気まぐれだから」

 「炎か…」

 エルフは火を嫌うって印象がある。

 

 「そう、炎。炎の精霊はいりません、だってエルフは炎を使いませんから(笑)」

 サンセットが微笑む、俺のイメージとここまで重なってるのかこの人は

 「本物ですね、サンセットさん」

 「ん?」

 「あ、いえ、何と言うか、俺の理想のエルフそのものだなって…」

 「ありがとう♪でも他のエルフは炎系魔法バンバン使ってるし、それもこの世界のエルフですよ。」


 「ハイエルフ…」

 昔読んだ何かの本にあったエルフの上位種族の名前がうかんだ。

 「ハイエルフ?なんかいい名前だね」

 「エルフの上位種族らしいです、俺も何かの本の受け売りですが、鏡の様な水面の上で夕陽に祈る姿が印象的でした」

 

 「鏡の様な水面、夕陽か…田舎のおじいちゃん家を思い出すなぁ」

 「サンセットって名前もそこからとったんですか?」


 「はい、でもここの夕日も綺麗ですよ、特にこのフリーシア湖の夕日は」

 「そんな気がします」

 夕日が湖面を赤く染めだしている。


 「こんなに綺麗だと、リアルとゲームの区別がつかなくなってくるなぁ」

 現実とゲームの区別か…なんか歴史の授業の時、先生が似たような事言ってたなぁ…

 

 「胡蝶の夢ってやつですね」

 「ん?」

 「ある日蝶になって空を飛ぶ夢を見た。私が蝶の夢をみたのか?それとも蝶が私の夢を見ているのか?」

 「なんか聞いた事がある(笑)」

 「解釈はいろいろあるけど、どれも自分なんだから気にするなって意味だったかな…ゴメン言い出しっぺなのに忘れた…」

 「あはは(笑)でも昔の人はスゴいね、リアルだバーチャルだ言ってる事を一刀両断にしてるね」

 「たしか荘子、2~3千年前の人だったかな?」

 「どれも自分か、たしかにそうだね」

 「俺は最初からゲームの世界に入っちゃった感じ…あれ?」

 

 夕日で湖面が赤く染まり、そしてキラキラ輝きだした…

 「え?え?なんかいつもと違う!」

 「え!?」


 汝、我 声が聞こえますか?


 「うそ!? ホントに??」

 「サンセットさん!何をすればいいんですか?!」

 「えっと、えっと…」


 汝、気高く聡明なエルフの子

 汝、激しく危うい人間の子


 水柱が円を描くようにあがり、中心の湖面から水の精霊が姿を表す。それは精霊と言うより女神だった。


 我が名はウンディーネ、そなた達の思いに答えましょう… 暗黒神を封印する聖なる水の力を…


 「うそ…私泣いちゃうかも…」

 「…」


 精霊王の名のもとに、そなた達に水の祝福を!


 大量の水が降り注ぎ、輝き、水柱と共に精霊は消え去った。


 俺もサンセットも呆然と暗くなり静けさを取り戻した湖面を眺めていた。


 「ごめんサンセットさん、頭がまったくついて行けないんだけど…」

 「ちょっと待って、私も整理できない。ずっと待ってたから嬉しくて…」


 日が完全に沈み、辺りは薄暗くなってきている。他の冒険者も帰り支度している。

 〉あーあ、今日も出ないか

 〉なんか都市伝説臭くなってるなぁ

 〉もう止めようよ、攻略でてからでいいじゃん


 「え?」

 「なに?」

 「これって?」

 「俺達(私達)だけ見えたの!?」


 夜の帰り道は危ないので、サンセットが町まで送ってくれる事になった。

 「ありがとうショウタ、もしかしたらこの出逢いがイベント発生条件だったのかも?」

 サンセットはかなり興奮していて、左手の甲に浮かび上がった水の紋章を見つめている。

 「それだったら誰もクリアできないよ(笑)」

 俺も紋章を見ながら笑った。


 「そうだ!何かお礼させて、なんでも買ってあげるよ♪」

 目の前に立ってウィンクしてきた、これはヤバイ…惚れてしまう…

 「いらないよ、身分不相応の紋章貰ったし、これで暗黒神倒しに行けとか言われたら、即死にますよ」

 「あはは(笑)」

 サンセットって、明るくてホントいい子だなぁ、ってゲームキャラ相手に何を考えてるんだ俺は。


 「でも、お礼したいなぁ」

 そうだ、ゲームでいろいろわからない事が山積みだった!サンセットに聞いてみよう、サンセットなら優しく教えてくれるはず!

 「それなら、教えてほしい事があるんだけど、授業料免除でどう?」

 「ショウタは学生さんですか(クスッ)で?お姉さんに何を教えてもらいたいの?」

 お姉さんかぁ~♪なんて魅力的な響きだろう。


 「あ、えっと、質問は、2000ゴールドためて鉄の剣を買いたいんだけど、お金を落とすモンスターがどれか教えてほしい…」

 「え?え?え?」

 なんか、すごくピント外れな質問をした気がする…


 「ゴールドなんかどのモンスターも落とさないよ、持ってる訳ないよだってモンスター買い物しないし(笑)」

 「そう…なの…?」

 「ショウタってほんとおもしろい」

 「ははは…」

 俺のRPG知識はまったく役に立たない事が判明した…

 「あと、お店で買い物しちゃダメだよ、もっと安く買えるとこあるから」

 「やっぱり、あのドワーフの店、ぼったくり店だったか!!」

 「ちがう、ちがう、もうショウタ笑わせないで、後でちゃんと教えるから(笑)」

 「…はい(汗)…」

 そんな会話もとても楽しい、町まで歩いて帰るこの時間、意外にこれがネットゲームの面白さなんじゃないだろうか。

 「サンセットさんは、このゲーム長いんですか?」

 「サンセットでいいよ、私はショウタって呼んでるし♪」

 「じゃ、サンセットはゲーム長いの?」

 「私は1年ちょっとかな、プーリスト・ナイト・魔法剣士はレベル上限で今は、アーチャーのジョブを上げてるよ」

 「ラスボスは倒したんですか?」

 「それはまだ、と言うかそんなイベントがまだ無いって感じかな」

 「え?そうなんですか?」

 「そのうち、バージョンアップで追加されると思うけど、まだ先かな?」

 「バージョンアップ…」

 先程までの嫌な待ち時間を思い出す…

 「あ!始めるときバージョンアップに時間かかったでしょ」

 「PSX壊しそうになりました…」

 「あはは(笑)」

 「9時間ですから…」

 「うわぁ…ご愁傷さま…」


 途中何度かオークに遭遇したがサンセットが弓で倒してくれた。

 もしもの場合と言って俺に強化魔法をかける事も怠らない。

 「しかし、ショウタは運がいいですね」

 「え?」

 「普通、この森でオークに遭遇して、湖にはたどり着けないはずなのに、誰かが大量にオークを狩ってたのかな?」

 「たしかに、ウサギくらいしかいなかったなぁ…」

 「あ、ちょっと待って、MP回復するから」

 森をぬけた所でサンセットが歩みを止めた。

 「このへんに宿屋とかあるんですか?」

 「え?それもなの?」

 「えっと…いろいろ申し訳ない…」

 「ショウタは本当になんの情報もなく始めたんだね、ある意味凄いかも」

 「なんと言うか…知り合いに無理やり始めさせられたと言うか、なんと言うか…」

 「さ、さ、ショウタもやってみて、こうやって屈めばHPもMPも回復するから」

 さっきまで何度も遠い宿屋に帰ってたが、なるほど、これで回復するのか勉強になる。

 「今までどうしてたの?」

 「ずっと町に帰っていました(汗)」

 「がんばれー♪」

 「恥ずかしい…」

 月明かりの草原をエルフが黄金の髪をなびかせて翔ていく、なんて絵になる子なんだろう。


 草原では、襲ってくる敵もなくすぐに城門前に到着した。

 「じゃ次はゴールド稼ぎね、クエストこなすのもいいけど、アイテム集めにしましょう、ついでにレベル上げもね♪」

 「よろしくお願いします」

 「ショウタのレベルは?」

 「5です」

 「5かぁ、ちょっと王城前広場の噴水で待ってて着替えてくるから、ちなみに着替えってジョブチェンジの事だよ」


 ≪サンセットお着替え中…≫


 「お待たせ、ウィッチにジョブチェンジしました、あ、理由はね、同じくらいのレベルじゃないと、戦っても経験値ぜんぜん入らないからです」

 魔女の帽子と言えばいいのだろうか、つばの広いとんがり帽子を被っている。

 「帽子が可愛いですね」

 魔女っ子の格好をしても、本当にサンセットはきれいだなぁ。噴水を背にした姿、水しぶきのキラキラまで纏っているようだ。

 「去年のハロウィーンのお宝です、ウィッチは育ててなかったからホコリをかぶってました(笑)」

 「アーチャーの服はエルフらしくていいですけど、ウィッチもいいですね」

 「ありがとう♪それではバーティよろしくお願いします」

 ピコッ


 サンセット〉パーティへのお誘いがあります。


 もちろんOK

 ピコッ


 「じゃ、ショウタの初パーティバトルいきましょうか!」

 「はい」

 「その前に、恋人登録ピコッ」

 「え??」

 「クスッ、ホントはフレンド登録です」

 こんな所もめちゃめちゃ可愛いではないか!これは絶対本人可愛い!超可愛いに決まってる!!


 「なんか機能がいろいろあり過ぎて覚えきれないですね…」

 「ま、そのうち解るよ」


 俺達はコウモリを中心に町近辺の敵を倒して行く。

 「私が回復もするから、バンバン倒してね♪」

 「なんかウィッチって回復なイメージ無かったけど、回復もできるんですね」

 「これはセカンドジョブっていいます、普通のウィッチは回復出来ないけど、2つ目のジョブ、今回はプーリストを付けているので、ウィッチでも回復魔法が使えます」

 「奥が深い…」

 「あるイベントをクリアするのが条件なので、ショウタはまだ先の話かな」


 俺は敵を挑発し、サンセットの魔法攻撃範囲まで連れてくる(これを釣りと言うらしい) そしてサンセットが攻撃されないように、ひたすら殴る殴る殴る時々挑発。

 サンセットは魔法攻撃、回復、強化、敵の弱体、休んでMP回復とフル回転。

 あっと言う間にレベル12になった。


 「そろそろ、アイテムも溜まったし最後にあれ討伐しましょう」

 指先には、あのオークがうろついている。

 「ショウタこれを受け取って下さい。」

 トレード画面に”鉄の剣+3”が表示される。

 「え?でも」

 「貰って下さい、戦士はレベル50なのでもう使わないんです。それに木の剣ではオークに勝てないですよ」

 ちょっと悩んだが、ありがたくいただく事にした。家宝として飾っておかねば。


 「わかりました、ありがたくいただきます。では、最後にオーク退治いきましょう!」

 「おー♪、あ、ショウタ1匹だけですよ、近くに別のオークがいたら攻撃やめてね、全員来ちゃうから」

 「了解!」


 俺はオークの背後からそっと近づき周りを見渡した。

 よし、近くに別のオークはいそうにない… 行くか!

 「いきます!」

 「はーい♪」

 俺はオークを挑発した、激怒し棍棒を振り回すオーク、俺は急いでサンセットの所まで帰り鉄の剣で攻撃を加えた。

 オークの一撃は重くかなり体力を削られるが、サンセットの魔法で回復する。

 「あれ?ちょっと強めのオークだったかな…」

 バトル中にチャットをとばすサンセット、俺にはそんな余裕がない!


 オークの攻撃がサンセットに向いた。

 ヤバイ!!

 とは思っても、俺には挑発と攻撃を繰り返すしか方法がない。

 バシュッ!!

 会心の一撃が当り、なんとかオークの注意が俺に戻る、サンセットのHPはかなり減っている。

 

 「リミットいきまーす!」

 サンセットが何かの呪文を発動した。

 魔法使いの杖が光だし、何かパワーアップした感じになる。

 サンセットの杖から、電撃系や氷系、水系の魔法が次々飛び出しオークに突き刺さる。

 再びオークの注意がサンセットにむかったが、その連続攻撃でオークは倒れた。


 「危なかったー(汗)まさかリミット技を使わなきゃいけなくなるなんて、危ない目にあわせてゴメンなさい…」

 「倒せてよかった、でも凄い技ですね」

 「≪連続魔法≫だったかな?ショウタも使えるよ、戦士は1分間攻撃力が3倍になる技だけどね♪」

 「使い方教えて下さい」

 「いいよ、でも一度使うと暫く使えない技だから、緊急時のみね♪」


 俺はリミット技を教わった。

 オークの落としたオークの牙もゲットした、何に使うかは分からないが…


 「町に帰りましょうか♪」

 「はい」

 町に帰り、一番人混みにあふれていた場所にいく。 

 「さて、本日最後のお勉強です、ちゃっちゃちゃー♪オークション」

 「ぷッ、もしかしてドラえもん?」

 サンセットもこんな事言うんだ、なんか親近感もわいて来た♪


 「コホン、ここにコウモリの翼とかさきほどバトルで集めたアイテム出品して買ってもらいます」

 「コウモリの翼買う人いるの?」

 「薬品の材料ですね、ここで安く仕入れて、コウモリいない地域で高く売ります」

 「商人ですか!」

 「です(笑)ゲーム自体にはそんなジョブ無いのに、仕事として成立してます、他にはスキル次第だけど、料理人や漁師もありますね」

 「なんかスゴいんですね、ネットゲームって」

 「ネトゲって言います、基本は暗黒界のゲートの謎を解く事、魔王的な敵を倒す事ですが…、けっこうみんな気ままにやってますね」

 「何やっても自由なんですね」

 「はい♪」

 そっか、余った時間で気楽にやれるって事でいいのかな。


 「さて、話をもどしますが、売る時は値段の付け方が重要です、何故だかわかりますか?」

 「先生、急に授業になってしまって戸惑ってます(汗)」

 「あはは(笑)」


 「うーん、安いと買って貰えるけどゴールドが増えない。高いとそもそも買って貰えない、って事ですか?」

 「正解です、よくできました♪」

 「よし!」


 「売れた場合、ゴールドは自宅のポストに届きますから、帰って見てくださいね」

 「あ、あれは宿屋じゃなくて自宅だったのか…」

 「宿屋はあるんですが飾りですね、泊まって寝たら急に朝なんて事したら、他の冒険者がびっくりするので」

 「そっか、全員が同じ時間を共有してるんだった…」

 過去のRPG知識は捨て去ろう…


 「最後は買う方、鉄の剣を見てみましょう」

 「鉄の剣だから武器のコーナーだな、え?200ゴールド?」

 「そう、武器屋で買うより遥かに安いんです、中古でも切れ味は同じですよ」

 「そうなんだ~」

 「鎧とか魔法もここで買いましょう、たまに強化されてる品物もあります、値段が高いですけど…」

 「あ、この鉄の剣+3みたいな感じですか?」

 「そうです♪」


 「さて、本日の授業はこれでおしまいです」

 「ありがとう、すごく勉強になった」

 「うん、また何かあったら呼んでね、でも今日はもうかなり眠いです。」

 時計を見たら朝の4時になっていた。

 「うん、ありがとう!おやすみ」

 「おやすみなさいーむにゃむにゃ」


 サンセットがログアウトして行った。


 ふわぁ、俺もそろそろ寝よう…

 けど、想像以上におもしろいぞこれは。


 ショウタがログアウトする、と木陰がひかり、誰かがログインしてくる。

 「ショウタもう帰っちゃったかな?さすがに4時にはいないか…」



■ 異次元バトル


 ここは暗黒界の最深部、目前には暗黒神が不気味なオーラを放っている。

 その姿は黒いエルフ。

 対する冒険者は何十人いたのだろうか、既に前衛は壊滅的な打撃を受けプーリストの回復魔法も間に合わない、あちこちで消滅時の光がみえる。


 くッ、なんて強さだ!


 自分のパーティもサンセット以外は倒れており、サンセットも何かの呪文を受けたのか、体がイバラに拘束されている。

 俺の純白の鎧も暗黒神の呪いをうけ、ところどころ黒く変色し、聖天使の加護の光も消えかかっている。

 全滅は目の前だった…


 ショウタ…


 私が! サンセットがリミットスキル≪聖天使の息吹≫を発動した!

 荘厳な鐘の音が響き、消滅していないすべての冒険者が光に包まれ回復していく。

 サンセットはイバラの拘束は解けたが回復はしていない、意識を失い倒れこむ。


 小癪なエルフがッ!!死ねぇぇ!!


 暗黒神より放たれた怒りの黒炎が槍と化してサンセットに向かう!


 ショウタ、オキ…


 サンセットォォ!!


 リミットスキル≪絶対防御≫を発動し、サンセットに向かう黒炎の槍を食い止める。


 神に対し、完璧な防御など存在しない!


 パリーンッ!!

 自分の周りのバリアが、あたかもガラスを砕いた様に飛び散った。

 暗黒神の槍が俺の胸に深々と突き刺さる!!


 「起きろーーーー!!」

 「ぐはッ!!」


 ユキカのエルボーが眠っていた俺の腹に突き刺さる!


 「いつまで寝てんの!」

 「いってー、何すんだよ!!」

 「起きないからでしょ!」

 「ん?」

 やっと目が覚めいろいろ思い出してきた。

 「あぁ、悪い…昨日の続きをするんだったな」

 「そうだよ、なんか夜中にバージョンアップ終わったんだって、メッセージ見れなくてゴメン」

 そうだった、ゲームしながらライン送ったからユキカはその時間がバージョンアップ完了だと思ってるのか。

 「今、何時だ?」

 「お昼前、11時過ぎ」

 「うわ、寝ちゃったなぁ、親父達は?」

 「なんか、私と入れ替わりに出て行っちゃった…、ショウタの事よろしくって…家のカギも渡された」

 「もはや、家族だな」

 「え?」

 「泊まる準備してきた?」

 ユキカの顔が一気に赤くなる。

 「バカ!はやく朝御飯食べてきて!!」


 11時過ぎかぁ… 昨日はかなり遊びすぎたなぁ、ユキカにはなんてごまかそう…、ま、ゲームのレベルなんて分からないだろうし大丈夫かな。急いで飯食べよう…


 1階の食卓につく、朝御飯はちゃんと用意されていた。

 朝御飯のとなりにメモ書きがある。


 ショウタへ

 今日はお父さんと買い物に行ってきます。

 夜遅くまで帰らないから、ユキカちゃんと仲良くね♪

 母さんより


 う”…バカ野郎!、こんな事書かれたらへんに意識するだろうが!!

 手紙を無視し、朝御飯をかきこむ。


 今日はゲーム、今日はゲーム、何度も繰り返し、部屋に向かう。

 ユキカは俺のベットに転がりスマホを見ていた。

 「やっと来た、はやく始めょ~よ」

 ユキカさん、理性が飛びそうになるのでベットからそんな甘えた声出さないで下さい。


 「ん?なに?」

 「何でもない」

 急いでPSXの電源をいれる、ユキカも俺のとなりにちょこんと座った。

 「昨日、ちょっと動かして見たからオープニングとかないけど」

 「問題ないよ、アキちゃんいるかな~♪」

 あ、そうだった、宿毛アキちゃんね、忘れてた…

 「じゃ適当にぶらぶらするかな、そろそろ起動するぞ」


 ログアウトした場所、王城前広場からスタートする。

 「えええ!これゲームなの?」

 「あはは、俺と同じ反応だな」

 ユキカは画面を食い入るように見ている。

 「最近のゲームってほんとにスゴいんだね~、ねぇ動かして」

 「はいはい」


 俺は昨日迷って見つけた名所を案内する。

 「あ、あのエルフさんセンスいい」

 「かなぁ…」

 「う、アキちゃんに顔そっくりじゃない?声かけて」

 「無理です…」

 「このコビット、アキちゃんって名前だ!」

 「ネトゲで本名なのるアホは俺だけで十分です…」

 一通り城内の行ける範囲は案内した。

 「わかってたけど、アキちゃん見つけるって無理かな…、外はどうなってるの?想い出の湖とかあるって言ってたけど」

 「湖あるよ」

 へぇ~、宿毛アキもあの湖好きなんだ、サンセットと重なるなぁ

 

 外ではコウモリとバトルや、湖の近く(オークに襲われない場所)まで案内した。

 サンセットに教えてもらった事も自慢げに教えた、もちろんサンセットの名前は出さないが…


 町へもどり、最後に案内したい場所へ行った。

 「そしてやっばりここ、王城前広場の噴水。さっきの湖もなかなかだったけど、あっちはモンスターがうようよしてたからここが一番かな」

 「ショウタ、なんかいろいろ詳しいね」

 ユキカがちょっとくっつきながら横目で見上げてきた。え?なんか感ずいた?女のカン?恐ろしい…

 「え?ああ、昨日いろいろと試したからね、朝方までやっちゃって、ふわぁ寝不足」


 「まぁ、ここはほんといい景色だね、う~ん、噴水だけは叶崎公園に似てるかな?」

 「あ、たしかに…あの噴水、叶崎公園じゃ違和感ありありだったけど、そうか本来こう言う場所の噴水なのか」

 「ふふ、設計ミスかな?」

 「設計ミスだね。」


 叶崎公園での出来事を2人で思い出す、告白してOKをもらった場所だ。

 宿毛アキちゃんを探すって本来の目的はどっかにとんでるが、こ、これは…なんかいい雰囲気になってきたぞ…

 今、家には2人しかいない…


 少しの沈黙…目が合う、なんかキスしてもいい流れじゃないか?

 ヤバい、一気に心拍数が上がってきた、いいよね、これいいよね!!


 ピコッ

 突然、チャットメッセージが飛び込んできた!


 〉ショウタ、おはよー♪


 がッ!

 そうだ、当然だよ、そりゃ声かけるよ、知り合いだもん。

 自分が固まり白くなっている状況が見える、もちろん口は四角だ。

 しかし、なんてタイミングなんだろう、一瞬前までのいい雰囲気は音をたてて崩壊、吹雪の山中に放り出された気分だ。

 今になって、サンセットの事を話をしてなかった事の後悔の念が押し寄せてくる…


 サンセットは昨日のウィッチの姿で駆け寄ってきた。

 まだだ、まだ単に女性キャラが挨拶しただけだ、大丈夫…きっと大丈夫…

 恐る恐るユキカを見る。


 「ショウタ…誰かしらこの魔女っ子は…」

 ゴゴゴッ!

 怒気ってオーラは実在する!今まさにユキカが発してるのはそれだ!

 ダメだ、既に何かを察知している、ヤバイ…返答を間違えたら確実に死ぬ!!

 「えっと…昨日知り合いになったサンセットさんです」


 〉もしも~し、お留守ですか~?


 「ほら、呼んでるよ」

 ユキカの声とは思えない重低音が響く…

 こ、怖いです恐いんですユキカさん…


 ゲーム内ではこんな感じだろう、笑顔で話しかけるサンセット、完全に固まる俺、俺の背中に隠れてサンセットからは見えない位置にユキカ(怒)

 何だろうこの浮気現場を目撃されたような感覚は…逃げ出したい…走って逃げ出したい…

 

 男って、なぜ浮気するのだろう…いやそもそもこれは浮気なのか?

 ≫ゲームだから問題なしだよ~♪

 俺の精神世界の天使たちが話しかける。

 ≫そうだ、これはゲームなんだから何も問題ない!あえて言おう俺は浮気していないと!!

 ≫おめでとう、おめでとう、おめでとう

 ≫みんな、ありがとう♪


 って違ーーうッ!!!

 まったくどんな混乱だ、一瞬天国が見えたぞ。


 「ほら、」

 現実は続く、ユキカが返事しろと催促してきた。

 普通に接しよう、普通にゲームの事として。


 〉あ、おはよう。

 〉戻ってきたきた♪昨日はお疲れ様でした♪


 「何なのこの音符の嵐は!」

 「嵐ってほど使ってな…」

 ゴゴゴゴッ!

 「な、何でもないです…」


 〉お疲れ様でした。

 〉今日もレベル上げ行く?装備整ったら、次の高原フィールドも大丈夫だと思うの♪


 行きたいです、行きたいんですでも無理なんです!

 神様、サッカー好きの女子とワールドカップの話をするのは浮気ですか?

 ネトゲの神様、ゲーム内で女性キャラと話すのは浮気なんですか?教えて下さい、ちがうと言って下さい…


 〉ゴメン。今日は用事が…

 〉そっか、残念。じゃあまた今度ね♪

 〉う、うん

 後ろ姿が少し淋しそうだが、こちらはそれどころではない。

 「今度?今度って何?」

 ゴゴゴゴゴッ


 〉あ、そうだ! 

 サンセットが振り返り、笑顔で爆弾を投下した。

 〉昨夜の事は2人だけのひ・み・つだよ♪


 「ショウタァァ!!!」

 首を絞められ投げ飛ばされる!!

 また天使たちが現れ、俺をどこか遠くの世界に連れて行こうとする。


 カーン!

 どこかで試合開始のゴングがなったみたいだ…、キーボードごしのバトルが…


 〉黙って聞いてればあんた誰!

 〉え?

 〉あんたは誰かと聞いてるの!!

 〉えっと…ショウタさん?

 〉ちがうわよ!

 〉違う?…貴方こそ誰ですか?

 〉ショウタの彼女よ!!

 〉ああ、リアル彼女さんですか。

 〉そうよ!あんたは誰!!

 〉昨日から、ショウタの彼女になりましたサンセットです。

 〉な!

 〉こっちの世界の話ですが、以後よろしく。

 な!な!な!

 ユキカの怒りが止まらない、サンセットも突然の状況にもかかわらず、一歩も引かずに言い返している。

 まさか、キレてるんじゃ?


 〉そんな事認められるか!!

 〉貴方が認めなくて結構です、ショウタと私の問題です。

 〉ショウタがそんな事OKするはずがない!

 〉私は昨晩ショウタさんとこの噴水の前で恋人登録をしました。

 〉はぁ?

 〉あなたたち見たいに校舎裏ではなく、この噴水の前で。

 〉バカにしないで!こっちも叶崎公園の噴水の前よ!それに、このゲームに恋人登録とか言う機能はない!!

 〉ありますよ、フレンド登録って機能ですが

 〉フレを恋人ってどうかしてる!

 〉普通はそうでしょうね、でも私のフレンドはショウタだけ。今までも、これからも

 〉他のフレを切っただけでしょ!

 〉いえ、文字通り初めての登録てす。

 〉認めない!

 〉リアルのショウタさんはどうぞ貴方の自由にして下さい。でも、こちらのショウタさんは私の彼氏です!


 「何なのこの女は!!」


 バトルが激しくなってる…とりあえず、ユキカをなだめないと…

 「ユキカ、昨日のその人とゲームしてた事を言ってなかったのは謝る、でもこれゲームだよ、相手は男か女か何歳かも分からな」

 「女だよ…しかもたぶん同い年くらいの」

 何故わかる…


 「わかった、このゲームはもうしないから」

 〉ショウタにゲームを止めるように言ったらどうですか?


 「そしたらもう会えないだろ」

 〉そしたらもう会えない…


 「ハモるなバカ!!」


 〉ゲームのショウタも渡さない!

 〉リアルのショウタを奪いますよ!


 「ユキカ、らしくないぞ」

 最終手段、ユキカを後ろから抱きしめる。呼吸が少しとまった感じがあった。

 「ユキカが俺の彼女、ユキカだけが俺の彼女、わかる?」

 「…うん」

 少し落ち着いてきてるかな、怒った事はあっても爆発した事は今までなかったから、止め方が分からなかったんだろう、サンセットも同様かな?お姉さんって言ってたんで少し違うか…


 しばらくそのままで、落ち着くのを待った。

 「ゴメンなさい、ショウタの言う通りだね、これはゲームだもん。なんか怒りすぎちゃった…」

 

 カタカタカタ…

 〉ゴメン、ゲームなのに私が悪かった。

 〉あ、ううん、大丈夫。


 「今日は帰るね、ゲームはゲームだから楽しんで」

 「送るよ、ちょっと待って」

 サンセットには後で謝ろう、とりあえずログアウト。


 ユキカの自宅は歩いて5分ほどの距離、何となく無言になる。


 「私って…浮気を見つけると、あんな風になるんだね、なんか貴重な経験だった」

 「浮気って言われると困るんだけど…」

 「そうだね、デートじゃなくゲームだもんね、相手の中身はおじさんで怒った女子をからかってただけ…かもしれないしね」

 「あれでおじさんだったら、ある意味凄いけどね…」


 「それで、二人だけの秘密とやらはなんだったんでしょうか?」

 ギクッ!

 「あ、あれは言い方が悪い!エルフの子が近くにいる時に超レアらしいイベントが発生して巻き込まれたって事だけ、俺には何が何だか分からなかった…」

 「ふーん、恋人登録は?」

 「それも俺は機能を知らない…」

 そう言えば、ユキカはそんな機能ないとか言ってたような…


 「そっか、勘違いだらけで、なんだかかなり私が悪い気がしてきた…」

 「まぁ、とりあえず、帰ったらエルフの子には謝っとく、それからゲームは返すでいいか?」

 「うーん…」

 「ん?」

 「落ち着いたらもう一度、私が謝るから、ゲームはまだ返さなくてもいいよ」 



 俺はユキカを家まで送り急ぎ帰ってきた、先ずは、サンセット探して謝らないと…

 再度ログインし、あちこち動き回って探す、町中も、広場も、オークションの人混みも、無理して湖まで来たが見つからない。

 あんな事があったんだから、今日はもうログアウトしているのかもしれない。


 ログインしてたとしても、他のどこかに旅立った後なら見つかる訳がない。王城周辺しか行けない初心者が高レベルの冒険者を探す事ははっきり言って無理だろう。


 *****************************

 「その前に、恋人登録ピコッ」

 「え??」

 「クスッ、ホントはフレンド登録です。」

 *****************************


 サンセットが言ってたフレンド登録が、なんの事かわからなかったが、ちゃんと聞いてたら離れててもメールとか出来たんだろうなきっと、でも、そうすると恋人登録したとかでユキカともめるのか…それも困るなぁ。

 これは、思ってた以上に大変かも…

 どっちにしろ今は自分がレベルアップして探しに行くしかない、ゲーム名が「サンセットクエスト」に変わってしまった。


 さて、どうする?

 サンセットとのパーティバトルでわかったが、やっばり回復魔法を使える人とパーティするのが一番成長が早い。とは言え誰かをパーティに誘うなんてやった事がない。

 その前にこんな初心者な身なりじゃ誰もパーティに誘ってくれないんでは?

 まず装備を買うか。

 自宅に帰りポストを確認、コウモリの翼やウサギの皮などオークションに出したものは全て売れていた。

 3,580ゴールド、なかなか売れたなサンセットに感謝。


 オークションで装備できる皮系防具を一式落札する、買い手が少ないのか価格が暴落していたので、ついでに弓矢と両手斧も購入した。

 なかなか、戦士らしくなったではないか。


 後はゲームキャラから出るクエストをやりながら仲間集め…いや仲間に入れてもらう感じかな。

 

 うーん仲間か… 友達なんてリアルじゃ声をかけてお互い得意分野サッカーなんかの話を面白おかしくしてれば出来るのに、ここじゃどうすれぱいいんだろう?


 〉ギルメン募集中でーす!!

 〉北の大洞窟行きませんか~

 〉プーリスト、レベル20、セカンドありでーす


 なんか募集のチャットばっかりだ、発言者は…あいつらだな。

 階段上の広場に目を向ける

 うわ、ひくくらいの上級者装備、初心者の俺はあの人達には必要ない。


 誰か俺を仲間に…

 あっちこっちで日常会話もしてそうだが、周りに聞こえないひそひそ話って事か?サンセットも自分だけにって言ってたなぁ…相手がいる時はいいんだがひとりだと孤独感ハンパない。


 俺を会話の入れて下さい…うわ、残念な人みたいで言えない。


 学校の休み時間の状況がうかぶ…

 みんな仲間数人でひそひそ話、聞こえるのは部活勧誘の大声のみ、話の内容が分からないから会話に入れない、みんなが自分の悪口を言ってる気がする、学校内で完全に孤立…


 いかん、変な想像してしまった。

 とにかく情報収集しかない、いろんなメッセージ覚えて、後でネットか友達に聞いて確認しよう。


 〉ギルドメンバー募集してまーす。

 あ、ギルメンってギルドメンバーの略なのかな、メモメモ…ギルドって何だろう?メンバー募集だから、やっぱなんかしらのバトルパーティぽいけど…


 〉ギルド「スノークリスタル」メンバー募集してます!初心者大歓迎♪

 なるほど、初心者もできるバトルパーティもあるのか、戦いに慣れたら参加してみよう。

 それからそれから?メモメモ…


 「キミ!キミッ!」

 キミ…っと、なんかの魔法の略かな?

 ん?直接話してる?

 見上げると階段上の少女がこっちを見ている。

 エル…フ?ちょっと人間ぽい雰囲気、耳もさほど長くないし黒髪。装備は軽装。


 「え?俺?」

 「そう、初心者っぽいキミ!」

 「あ、えっと、なんですか?」

 「キミ!私のギルドに入りなさい」

 「え?」

 「ギルドカードをトレードするからセットするのよ」


 うわ、なんか自己チューっぽい人にからまれた… 逃げるか…

 「ゴメン、今、人探しで忙しいのでそれじゃ」

 「ち、ちょっと待ってー!!」

 「いえ、待ちませーん!」

 俺は全力で走って逃げた、駅前で何かを売り付けられそうになった事を思い出す。

 うん、あのタイプはとても危険な気がする、面倒を全て押し付けてくるタイプ、逃げて正解。


 ゲームキャラには積極的に話しかける、なんせゲームキャラは何度話しても残念な人を見る目はしないからだ。

 「俺の親友がオークのヤツにやられてしまって…」

 ふむふむ、つまりオークを倒してオークの牙を持ってこいって事だな。

 あ、サンセットとレベル上げした時にたしかゲットしたぞそのアイテム。

 オークの牙をトレードする。

 「ありがとう!お礼にこれを!!」

 冒険者の盾をもらった。


 なるほど、こうやってお金やアイテムを増やすのか。

 盾も装備、全身皮の鎧に包まれ盾もあり、どんどんショウタの要素がなくなってきている。

 よくよく考えたら、サンセットがいたとして、装備が変わってたら分かるのか?

 うーん、戦士のレベルも50とか言ってた気がする、全身鎧に包まれてたら…(鎧サンセット想像中…)

 わ、わからん(汗)きっと何か知らない機能があるに違いない。


 「ちょっと!なんで逃げちゃうの?」

 あ…さっきの自己チュー娘…

 「えっと、こんにちは」

 「こんにちは、で?なんで逃げちゃうの?」

 「いや、ちょっとそう言うの慣れてなくて…」

 「まぁいいわ、私のギルドに入りなさい」

 相変わらすの命令口調…

 「ごめんなさい。」

 「えー、そんなー、なんで?最近じゃツンデレキャラで行ったら百発百中って聞いたのに」

 キャラ作りだったのか、あの自己チュー発言は。

 「それは誰情報?てかツンの要素しかなかったよね!」

 「それはキミが話聞かず逃げるからでしょ」

 たしかにその通りだが…

 

 「正直、俺は昨日はじめたばっかりのど素人でネットゲームもはじめて、とてもバトルで役にたつとは思えない。それに…」

 「それに?」

 「それに人探しはホントでその人が見つかったら、たぶんゲームをやめるから…」

 「そうなんだ…」

 「せっかく誘ってくれたのにゴメン」

 思ってたよりいい人そうだったが仕方ない、地道に探そう。


 サンセットはゲームの世界じゃ彼女って言ってたんだから簡単にいなくならないだろうし、今思い出したが左手の紋章、これがあるのはまだ数名のはず。

 「わかった、キミの人探しに協力すればいいのね」

 「え?」

 「私はギルドマスターのネージュです」

 「え?」

 「ギルド≪スノークリスタル≫へようこそ!」

 「ええッ!?」


 *************************

 「しっかし、マスターも強引ですね」

 俺はスノークリスタルのメンバーとなった。いろいろ言いたい事はあるが、結局のところ根負けしてしまったのだ。

 「当たり前でしょ、多少強引じゃないと、うちみたいな弱小ギルドはメンバー入らないんだから、入っても数日で出ていってしまうんだけど…」

 「そうなんだ…」

 この世界はこの世界で大変なんだなぁ、昔のゲームみたいに自分についてきて命令は必ず実行する仲間って無いんだね、お気の毒に…


 「廃人クラスを数名要してる大手ギルドなんか、全イベントのクリアが約束されているんだから、そりゃ人気でしょ!」

 「廃人…?」

 「でもね、苦労もせず努力もせず悩みもせず探しもせず、ただくっついて行ったらクリアって…何が面白いんだ!?キミもそう思うよね!!」


 ツンデレキャラが説教オヤジに変身してしまってるし…、なかなかキャラが安定しない人だなぁ、どっちかって言うと中身はおっさんかな?

 「…マスターまさか酔っぱらってます?」

 「私は未成年だよ!」

 「じゃ、なおさらお酒なんか飲んじゃダメじゃないですか。」

 「飲んでない(怒)!!!」


 〉あのぉ


 「いや、飲んでますって(笑)」

 「飲んでない!!!」


 〉あのぉ…

 〉何よ、今この初心者を説教するとこなんだから!

 ははは、やっぱ説教するんだ…


 〉えっと…初心者大歓迎…の件なんですが…、お忙しいようなので終わるまでお待ちしています…

 ミーヤ族(猫族)、♂はたてがみのあるライオンに近く、♀は猫耳が特徴の可愛い猫娘だ。

 この子は猫で言えばシャム猫?、可愛い顔に猫耳、スタイルがよくどことなく気品がある。


 〉え?うちに入ってくれるの?

 〉はい…まだ何も分からない初心者ですがいいでしょうか…?

 〉OK、問題なし。私はギルドマスターのネージュよろしく♪

 〉リッカです、よろしくお願いいたします。

 〉あ、こっちはショウタ、同じく今日仲間になった初心者。

 〉ショウタです、マスターに呪いをかけられ無理やり悪の組織に引きずり込まれた、悲しき戦士です。

 〉あんたねー…

 〉(笑)なんか楽しそうですね。


 リッカが仲間になった、どことなくおしとやかでお姉さんな雰囲気。

 男子高校生、優しいお姉さん(巨乳)そして、中年サラリーマン。背後関係は確定したな。


 「それでマスター、ギルドって実際何すればいいんですか?」

 「ネージュさん、私もそれ知りたいです。」

 「うちには、特に何するってものはないよ、雑談したり、パーティ組んでレベル上げしたり、情報交換したりいろいろ。あ、たまにギルド対抗バトルあるけど私たちじゃまだ無理かな」

 「その程度なんだ」

 「よかった、何か特に時間制限あると困ってしまうとこだったので、休日くらいしか遊べませんから」

 たしかに、毎晩9時から12時は狩りね♪とか言われても対応できないしな、楽なギルドで自分的にもよかった。


 「これで3名!やっとギルドらしくなって来たじゃないか!」

 「へ?」

 「ここの3名のみなんですか?」

 「いやぁ、かくかくしかじか、紆余曲折ありまして…」

 「マスター…かくかくしかじかをチャットで使われてもわかりません!」

 「いいじゃないですか、少人数の方がちょっと楽しそうですし」

 「お!リッカちゃん良いこと言うね♪」

 「ちょっと頭痛が、帰っていいですか?」

 「さっそく、ネージュさんの呪いが発動したんですね、ショウタさん早く謝った方がいいですよ(笑)」

 「マスターすいませんでした…」

 「うむ、分かればよろしい」

 「ってちがーう!!」

 「あはは」

 「wwww」  

 

 なんか、いい仲間に出会えたっぽい、そのうちサンセットの件も相談してみよう。


 ひょこひょこ…じぃーッ


 「ん?」

 俺の隣に愛くるしい小人が立ち止まりこちらを観察している。

 魔法使い用の杖(高級)を持っている。


 「コビット族でしょうか?」

 「ですね、これもギルド加入希望者か!モテ期きたーー!!」

 マスター、俺は無理やりですのでモテ期ではないかと…


 〉コビットさん、何かご用意?

 〉んー、戦士さん、あなたのメインジョブはレベルいくつです?

 〉俺?メインは戦士で、レベル12です、メインしかありませんが…

 〉え?初心者?

 〉はい…

 〉えっと、左手の光はなんでしょう?


 みんなが左手に注目する、水の紋章の光だ。やっぱ上級者は分かるんだな、でもこれは知らない振りをしておこう。


 〉なんでしょうと言われても、こんなキャラだとしか…皆には無いんですか?

 〉無いですね、でも心当たりはあります。

 〉え?なになに?興味あるー!

 マスターが、乗り出してきたがコビットがかわす。


 〉戦士さん、僕のギルドに入りませんか?

 〉へ?

 〉え?

 〉ちょっと待てーい!!

 マスターが怒りをあらわに俺とコビットの間に割り込んできた。


 〉せっかく仲間になった私のギルメンにナニ言っちゃってくれてんの!!

 〉いや、ギルドなんて複数掛け持ちしても問題ありませんし…

 〉そんな強引な勧誘があるか!

 おいおいマスター、あんたがそれを言うか?


 〉うちで研究させてもらえば、もしかしたらこのゲームのエンディングに関する現象かどうか調査できるんですよ!

 おいおい、こっちはモルモット扱いですか、マッドドクターって呼んででやる!これならマスターの方がまだましだな。


 〉ちょっと待って!俺はこのギルドの人間です。他のギルドに行くつもりはありません。

 〉ショウタ♪よく言った!お礼にあとでキスしてあげる♪

 中年サラリーマンにキスされるイメージが飛び出してきた!

 〉それは丁重にお断りします。


 〉戦士さんもう少し考えて下さい。これから様々なイベントがあり武器や防具、上級ジョブだって獲得するにはかなりの苦労があります。うちのギルドだったら…

 〉それは貰い物です、自分の物じゃありません。

 マスターの受け売りみたいだが、そう答えてしまった。サンセット探しに関してはあっちのギルドが良いのだろうが。

 〉俺は自分と、この仲間の力でイベントも光の謎も解いていきます。

 〉ショウタ♪やっぱキスさせて♪

 マスターが抱きついてきた、中年サラリーマンが…

 

 〉仕方ありません、私がそちらのギルドに入ります。私はブリザードかなりの戦力になります。ギルドカードをもらえますか?

 〉べー!!あんたにはあげない。

 〉な!

 〉自分のギルドに帰った帰った!



■ 再会


 ふわぁ~

 「ショウタ眠いの?」

 夜が終われば朝になる、日曜が終われば月曜日、わかっていたが本日はとても眠い…体もダルい…

 

 「あの後、いろいろあってね…」

 「なんか、ゴメンね」

 「そう言うんじゃないんだ、なんと言うか面倒に巻き込まれたと言うか、簡単にやめられなくなったと言うか…」

 「あの子は?」

 俺は首を横に降った。

 「それが俺が行ける範囲では、見当たらない、ゲームしてないのかも?」

 「そう…」

 

 一通り昨日の事は説明する、ツンデレもどき(中年サラリーマンとは言ってない)のギルドに入った事、仲間が3人+1人になりレベル上げしてる事。

 

 「なんて言うんだろ、頼まれると断れないんだよね」

 「おはようございま~す」

 「あ、レナおはよう♪」

 「おはよ。」

 ふわぁ~

 「あれ?レナも眠いの?」

 「はい~、昨日慣れない事をやったものでちょっと寝不足です」

 「俺も…、俺はユキカの言ったゲームだけど、これが座ってカチカチするだけでどんだけ疲れんだって感じ、慣れない事はやるもんじゃないなぁ」

 「ですね~、でも頼まれると頑張っちゃうんですよね~」

 「だな…お互い損な性格に生まれたって諦めよう…」

 「はい…」

 「なんなの2人して、さぁ今日も一日頑張ろうー♪」

 

 俺達は、毎日ログインし集まった、まず俺とリッカのレベルを上げないと話にならないので、リテーラ高原まで繰り出した。 

 リッカも休日のみと言ったわりには毎晩顔をだす、きっと時間に余裕のあるOLのお姉さんだろう。

 戦士の俺。

 魔法騎士のネージュ

 プーリストのリッカ

 

 この辺の敵なら問題ない布陣だ。

 ブリザードはレベル上げについてくる、マスターがガン無視してるがまったく気にしていない様子で、敵や狩り場をいろいろ教えてくれる。

 時には、ヘルプチャットか飛んできたら、助けに行っている。

 ま、暇をもて余した上級者の遊びってとこだろう。


 そうやってまた週末になった。


 学校の帰り道、あの日以来ゲームばかりでユキカをかまってやれなかったので週末デートに誘ってみた。

 「先週はゲームだったから、今週は何処か遊びに行くか?」

 「あ、ゴメン、今週はお母さんと約束があって行けない」

 「そっか、なんかここんとこゲームゲームだったから、ユキカに何にもしてあげてない気がするなぁ」

 「そんな事ないよ、毎日楽しいし」

 「それならいいんだけど…ちょっと距離を感じない?」

 「感じないよ~、私はいつもそばにいますよ」

 なんか、意味深な言い方だなぁ…まぁユキカが気にしてないなら良いけど。


 「あ、でも勉強はちゃんとしないとダメだからね」

 「母親か!」

 「あはは」

 「でも、このままでは、また夏休みあたり教えてもらう事になりそう…」

 「それは、まかしといて」

 ユキカの笑顔が眩しい。


 「ところで、FK7はいろんなとこ行けるようになったの?」

 「もう少しで、次のオアシスの町らしい」

 「そうなんだ」

 「せめてツンデレマスターが、もう一人仲間に加えれは楽になるんだけどなぁ…」

 「仲間がいないの?」

 「いや、スゴいのがいるんだが、気に入らないの連発でガン無視ときた」

 「ふーん、あの子は?」

 「会えない、ログインしてないのかも、連絡もこない。」


 「あんなに彼女彼女言っといて!」


 「ん?」

 「え?ううん、何でもない。でも、ネットゲームって大変ね、時間合わせてみんな集まるんでしょ、自由時間がないじゃん」

 ま、たしかに一般的にはそう見えるか…でも

 「そうだな、でも毎日部活やってた人間にとっちゃ同じだけどね」

 「そっか、それならいい。無理にゲームやらせて迷惑だったかなとか考えちゃって…」

 そっか、ユキカなりにいろいろ考えてくれてるんだ。


 「ユキカには悪いが、俺はけっこうはまってる、どうだユキカもやらないか、ゲーム内で結婚とかも出来るらしいぞ」

 「結婚!?」

 「あるんだって、次のバージョンアップで、ほんと変なゲームだよな」

 「ほんとね、でも私がゲームしたらまず、あの子と泥沼の三角関係って事になるけどいいの?」

 「嫌な言い方しないでくれ…」


 休日は結局ゲームをする事になった、マスターがオアシスの町バジルに行くときかないからだ。

 「マスター、そろそろ許して仲間に入れてあげましょう、もう一週間ですよ」

 「ネージュさん、私からもお願いします」

 リッカも気になって仕方ない様だ。

 「むすッ!、わかったわよリッカちゃんまで言わないで」

 むすッ!ってふて腐れてる表現かな、マスター可愛いぞ、中年サラリーマンだけど。

 

 〉あんた、仲間に入れてやるから感謝しなさい。

 〉お、やっと僕の出番が来たのか、諦めず待ったかいがあったなぁ

 〉言っとくけど、私がマスターだからね!

 〉もちろんですマスター、微力ながら誠心誠意協力させていただきます。

 〉バカにして、ショウタとリッカに感謝しなさい。それからさっさと着替えてくる!

 〉了解です!

 ブリザードは、テレポートで王都の自宅まで帰った、レベルの合うジョブに着替えるためだ。

 「さて、嫌なヤツが消えた事だし、オアシスに出発するか♪」

 「あんたは鬼ですか!」

 「低いレベルでくるんですよね、迎えに行かないと…」

 「大丈夫だよ先行っても」


 マスターをなだめ高原の入り口で待つ。

 「おまたせー」

 ブリザードはすぐ帰ってきた、傍らに小さなドラゴンを連れて。

 「それって、ドラゴンナイト?」

 「そそ、だって僕、ほとんどのジョブをカンストしてるし、レベル低いのは新しいジョブしか無いから」

 ブリザードは相変わらずニコニコしている。

 「サブキャラでもよかったんだけど、今この近くにいないんだよね」

 上級者はサブキャラと言うもう一人のキャラを持ってるらしい。一つのジョブを育てるのも苦労してるのに、すごいなぁ…

 「この廃人め」

 「やだなぁ僕は成績優秀な学生さんだよ♪」

 「ブリザードさんは学生さんなんですか?」

 「リッカちゃん、嘘に決まってるから信じない」

 「そうだよ、ネトゲでリアルを想像しちゃダメだよ(笑)」

 「うだうだしない!日が落ちる前にオアシスの町に行くよ!」


 高原を抜けると、一面砂漠地帯だった。

 「うわ~凄いね~」

 「ホント暑い、暑く感じるぞ!」

 初めての砂漠に俺とリッカは興奮していた。


 「とりあえず、砂漠横断!敵にからまれたらその場でバトルOK?」

 

 「あれ?ワームって音に反応するんだっけ?僕、絡まれちゃったかも…」

 とてとて先に歩いてたブリザードが慌てて帰ってきた。

 「ごめーん、この辺久し振りなんで間違えちゃった(汗)」

 「よーし、総員戦闘配置につけー!目標サンドワーム!!」

 「おK」「はい」「OK」

 前衛3名と小ドラゴンが敵に襲いかかる、ブリザードはセカンドにウィザードをつけてるらしく、合間に魔法攻撃や弱体攻撃も唱えていた。

 

 「うん、なかなかいい感じ♪」

 強めのサンドワーム相手に完璧な勝利、マスターも機嫌上々だった。

 

 砂嵐の中、道沿いに移動する。

 何度か敵にからまれたが全て撃滅した、近くで狩りをしているパーティがあった事もあり、比較的楽にオアシスの町バジルに到着した。

 賑やかな町、バザーをやってるテントがあちこちに見える。

 

 「さてどうしようか?」

 「僕的には観光は一人の時にできるので、セカンドジョブのアイテムをレベル上げしながら取るってのをおすすめします」

 「ショウタとリッカちゃんは?」

 「お任せします」

 「同じく」

 

 「じゃ、狩りに出発だぁ!」


**********************

 「オアシスって言っても湖くらい大きいんですね~」

 リッカが感動しながら水平線を見ている。

 他の狩りパーティを避けてたので、町からちょっと遠くなってしまったが砂浜にあるちょっとした岩影で狩りをする事となった。

 「まずは水辺の怪魚で行ってみようか!」

 マスターが開始の合図をだす。

 「行ってきま!」

 釣りは俺の役割だ、浜辺の怪魚を矢で射て、狩り場まで連れてくる、弓矢もかなり上達した。

 

 がんがん魚を狩りまくる、ブリザードが仲間なってからは、狩りが安定しており、危険で逃げる事はなくなった。


 「あ、あそこにクイーンコブラがいますね、次はあれ行きましょう」

 「OK!ショウタ今度は砂漠側にいるヘビ!」

 「了解」


 きっと、このコブラもなんかのイベントのアイテム落とすんだろう、自然な感じで必要なアイテムが揃うように配慮している。

 さすが上級者、なにかとたよりになる。しかし、謎解きなどのイベントは極力話さない様にしてるみたいだが、マッドドクター素晴らしい、俺を解剖しようとしなければ…

 

 かなりの時間狩りをやった。レベルも上がり楽しい。月明かりが湖面に反射して美しい。

 もうすぐ朝日が昇るかな?そしたらさらに綺麗になるだろうな。

 

 狩りすぎたのか、敵がいなくなってしまった。出現まで様子見かな。

 

 「獲物、出待ち」

 「了解、しばしトイレ休憩」 

 

 みんなでHP、MPを回復する。

 順番にトイレ休憩、リアルと混在する感じが笑える。

 自分の休憩が終わり、回りを探索する。

 ふと、水辺に座る人影に視線が固定される。

 デジャブってやつか、サンセットの姿が重なる。

 日の出前の一番暗い時間、月明かりだけが、その人物を浮き上がらせる。

 

 「え?人魚?」

 

 ギルドのメンバーが視線を向ける

 

 「昨年のバージョンアップで追加された4つ目の王国アクアラング群島のマーメイドですね、陸に上がるには≪マーメイドプリンセスの涙≫ってレアアイテムが必要なんで、こんな砂漠の真ん中にいるなんて珍しい、オアシスに神殿でも沈んでるのかな?」

 さすがブリザード、博識ですね。

 みんな近くで見たがって立ち上がった。


 マーメイドがこちらに気づく、この感じもサンセットと似ている。


 と、その時!

 

 〉ゴーズ!!

 〉ごーZ!

 〉にげ!!

 〉やばい!!

 

 悲鳴にも似たチャットの嵐が吹き荒れた!!

 「??」

 「逃げらりよ!!」

 「町まで!とにかくはしるれ!」

 

 もうチャット文字はむちゃくちゃだが、緊急事態ってのは解った、とにかく逃げなきゃ!まわりのパーティも一目散に逃げ出している。

 振り向いて走り出した俺の左前方オアシスの水面にそいつは浮いていた。

 禍々しい黒い炎を纏った恐ろしい姿

 目と思われる空間は暗黒の穴そのもの、今まで味わった事のない恐怖。

 何か照準のような黒い線が、前を走る仲間に当たっている。

 

 「やばい!!リッカがからまれた!」

 「ええ!?」

 「とにかく走って!」

 先に走る仲間に向かって暗黒の怪物は動き出した!圧倒的な力の差を感じる。攻撃を食らえば多分即死だろう。

 

 全滅…俺たちのパーティが…

 

 俺は立ち止まり、暗黒の怪物の背中に矢を射ていた。効果はまったくなかったが、動きが止まりゆっくりとその巨体をこちらに向ける、黒い線も俺に当たっている。

 

 「ショウターッ!!」

 「ショウタさん!」

 「バカ死ぬ気か!!」

 口と思われる場所が大きく開き、次の瞬間、俺めがけて黒い炎がはしった!

 

 これは…死んだ…

 

 目の前に魚影が跳ねた、黒い炎はマーメイドを直撃した、防御の魔法か何かが砕け散る!!

 「!!」

 マーメイドのが三ツ又の矛をかまえ暗黒の怪物の前に立ちはだかる。


 暗黒の怪物から血の色の魔法陣が表れる、と同時にマーメイドと俺を包む様に水滴で作った魔法陣が表れる。

 

 ギャォグィー!!

 奇怪な叫び声とともに呪いの文字そのものがマーメイドと俺を襲う!

 海面が渦をまき上昇、マーメイドと俺を完全に包み、呪いの魔法を食い止める。

 俺も一撃食らわそうと攻撃態勢入った。

 〉危ないショウタ動かないで!

 え?

 

 マーメイドは重ねて防御魔法を唱えた。

 

 騒ぎを聞いた上級者達が続々オアシスの町から飛び出してきたが、距離があり間に合いそうにない。

 

 「ゴーズは暗黒神の黒炎そのもの、だから通常攻撃はまったく効かないの、マーメイドの防御魔力がキレたら万事休す…」

 マスターは唇を噛み締めている…

 「そんな…」

 〉はやく!はやくショウタを助けて下さい!

 リッカが上級者に叫ぶ!

 

 「ダメだ、あいつらの武器だって歯が立たない、そもそも退治できるやつじゃないんだ」

 「じゃどうすればいいんですか!」

 「もうすぐなんだ…朝になれば」

 ブリザードが東の空を見て呟いた。

 

 渦の勢いが薄れる、呪いの文字の一撃一撃が渦の勢いを削いでいる、もしかしたらマーメイドのHPも削ってるのかもしれない。

 

 バシッ!

 特大な呪い文字の攻撃でとうとう渦が弾け飛んだ。

 

 〉ショウタ…ごめん…

 魔力を使い果たし水面に倒れ込むマーメイド。

 

 「ショウター!」

 「まずい!間に合わなかった!」

 「ショウタさん!!」

 

 ******************************

 静かだ、時間が止まっているのか?

 いや、音が無くなって、色も無くなっている…

 体が動かない…、防御魔法も持ちそうにない…

 くそ!マーメイドを!俺を守ってくれてるこの子を!守らなくてどうするんだー!!

 

 汝、我が力を欲するか…

 

 否!自らの力で守る!

 

 愚かな…だが面白き思考…悪くない

 

 ******************************

 

 ブオーンッ!!

 左手の紋章が光り、水の聖霊王が自身に重なる。

 〉え?ショウタ?

 

 俺は暗黒の魔物とマーメイドの間に割り込み、そして一気に突っ込んだ!

 

 うおぉぉぉぉー!!

 マーメイドを狙った攻撃魔法は俺の体に触れるなり消滅している。

 

 バスターソードが光の粒子に包まれ、剣その物を変化させた、聖霊王の剣とでも言えばいいのだろうか。

 

 いける!

 一気に魔物との距離を詰める、攻撃魔法の束が俺を直撃しているが、まったくHPは減っていない。


 触れられる程の距離まで詰めより、聖霊王の剣を振り上げ、降り下ろした!

 剣が発した閃光は、暗黒の怪物を貫き、明けてきた東の地平線に消えていく。


 ギャォグィグォー!!

 断末魔と同時に、暗黒の怪物の姿は薄れ、そこに朝日が差し込んでくる。

 

 全員、固まっている。当然だゲームの前の本人が固まっているのだから

 な…に…?誰かが呟く

 

 「え?何がおきたの?」

 マスターがはなし、時間が動き出す。

 「ショウタさん、勝っちゃった…」

 「な…」


 上級者達が引き返すのが見える、朝日がのぼったからゴーズは消えたと話ながら…

 

 なんだ?今のは?

 茫然とする俺にマーメイドが話かけてくる。

 〉ショウタ、ありがとう。今度は助けられちゃったね。

 〉え? 貴方は?

 〉あ…

 

 「ショウタ!!無事でよかった」

 マスターが飛びついてきた。

 「ショウタさん」

 リッカも抱きついてくる。

 「ショウタ、さっきのは一体なんだ!!教えろ!」

 ブリザードもくっついてくる。

 

 いやぁ、このパーティに愛されてるって実感できるなぁ、マスターはおっさんだけど。

 

 〉ショウタ(怒)

 マーメイドがちょっと怒った表情になる。

 〉え?

 〉ショウタ、お知り合い?

 〉いえ、マーメイドを見たのは今日が初めてなんですが…

 でも、ショウタと呼ぶのは、ギルドメンバー以外では、サンセットのみ。

 

 「そんな事はどうでもいい!僕の目には、君があのゴーズを斬り倒した様に見えた。あり得ない、物理攻撃が効かないゴーズをバスターソードごときで切り捨てたなんて!そもそもなぜ立っている?あれだけの魔法をくらって!」

 「うっさいわね、このバトルオタク、今はショウタが生きてる事を喜びなさい!」

 〉ショウタさーん!

 〉リッカはいつまでくっついてんの!

 〉ネージュさんだって!

 

 なんだか、困った状態になったなぁ


 〉ショウタ、ちょっと会えない間にずいぶんと可愛いお友達が増えたのね。

 〉あ、あのぉ…?

 

 すぐに、俺だけにチャットが飛んできた。


 「ショウタ、一週間ぶりですね。サンセットです」

 「!」

 いきなりの再会に心の準備が出来ていない、え?エルフじゃないの?ど言う事?


 「これサブキャラなんです、驚きましたか?」

 「お、驚いた…」

 そう言えばブリザードもそんな事言っていた、ほんとに上級者は2人とか使うんだ、マーメイドのレベルも高そうだし。サンセット凄いなぁ


 「私もです、こんな偶然あるんですね♪」

 「ホントだね。でも、さっき水辺に座ってた雰囲気が、どことなくエルフのサンセットとイメージが重なってた」

 「そうなんですか(笑)、わたしも最初は、え?ってなりました、ショウタが近くに立ってた時は」

 相変わらずこの、文字連動表情システムはすごいな、(笑)で反応してるのか、笑顔が眩しい。マーメイドのサンセットも可愛いなぁ…ってこれは浮気になるのか?

 

 「その後は半分死んでたけど…」

 「今度はオークじゃなくゴーズでしたから、あんな超レアな凶悪モンスター、ホントは全部無視して逃げなきゃです」

 「ゴメン、危険な目にあわせてしまって…」

 「いつもなら逃げてますけど、何故だか勝手に体がうごいたんです、そう言う意味ではショウタのせいですね、無茶ばっかりして…」

 「ゴメン…」

 この状況は、よくできたお姉さんに叱られる弟だな


 「でも、最後は守ってくれましたよね、仲間も私も、まったく勝てる相手じゃなかったのに…とても嬉しくて、ますます好きになりました(笑)」

 「えっと…サンセットとは気付いてなかったけど…」

 「ですね、でもいいんです。私の好きな人はそう言う人です。」

 サンセットにそう言われるとマジ照れする、それに好きとかさらっと言われるとほんとヤバい…


 「あれは聖霊王の技ですか?」

 「わからない、マーメイドを救うため夢中だったから、あ、でもそんな事よりサンセット会えてよかった、ずいぶん探したんだ」

 「ごめんなさい、仕事が忙しくなかなか時間が取れませんでした」

 やっぱ仕事してるお姉さんかぁ、いやいや喜んでる場合ではない、謝らなければ!


 「こっちこそゴメン!あんな事になって、本人も反省してた」

 「なかなか強気な方ですね、ショウタは彼女さんの尻に敷かれてるんじゃないですか?(笑)」

 正しいんだが、少しユキカをフォローしとくか。

 「あはは、違う違う、普段は学年トップの優等生、大人しくて素直な子なんだ、信じられないかもしれないけど…」

 サンセットとの会話はなぜか楽しい、ゲームをやめる件はひとまず置いておこう。


 〉ちょっとショウタ、なに二人だけでチャットしてるの!

 〉僕はショウタに聞きたい事がある!邪魔しないでくれ。

 〉あんたはまったく!

 〉こんにちは、私は同じギルメンのリッカです。

 〉こんにちは。

 〉あっちで、もめてるのはネージュさんとブリザードさんです。

 〉こんにちは、みなさん同じような名前なんですね。

 同じ?なんの事だろ?


 〉私はサンセット、ショウタの彼女です。

 あ、そうだった…サンセットはこんな子だった…


 〉えーーーッ!!

 〉彼女?

 〉なんですか、ショウタさん??

 〉ショック!ショウタに彼女がいたなんて…

 〉私もショックです、ショウタさん

 〉リア充だったのか君は!

 なに?リア充死ね的な感じですか?


 〉いや、サンセットはゲームでの話を言ってるんであって、彼女は…

 あれ?彼女はいるんだから、彼女はいると、あれ?


 「ショウタ、みなさんあんな事言ってますが、実際リアル彼女さんはどなたですか?」

 サンセットが耳元でささやいた。

 「え?え?」

 「ですから、ショウタのリアル彼女さんは、そちらの3名の中の誰でしょう?」

 「いるの?…まさか…いないよ…ってかなんでわかる?」

 「女のカンです(笑)」


 〉コホンッ、たしかに私はゲームの中での彼女です。

 〉でも、ショウタは誰にもわたしませんよ(笑)

 サンセットが笑顔で答える、ユキカがここにいるって言ったばかりなのに!

 また修羅場が…勘弁して下さい。


 〉なにぃ!!ショウタはお前なんかにやらない!

 おいおいおっさん…

 〉そうです!ショウタさんは私のものです。

 お姉さんまで♪リッカの場合ちょっと嬉しい♪

 〉リッカ!今さらっと“私のもの”って言ったでしょ!

 〉ごめんなさい、間違いです、私達の間違いです!

 〉くだらん、欲しいならリアルのショウタもゲームのショウタも細切れにしてくれてやる。僕は先程の状況を解析したいだけだ!

 ドクター、解剖はやめて下さい。


 ふと、サンセットが視線をオアシスに移す、そこには数名のマーメイド(男の魚人はなんて言うんだろう?)が集まっていた。


 〉あ、なんかメンバーそろったっぽいんで、私そろそろ行くね、またねショウタ(チュッ♪)

 サンセットはさっと飛び込み水面に消えた、マーメイドはかなりのスピードで泳げるようだ


 「あの魚人め!次会ったら“ゴーズ女”と呼んでやる!」

 「私もそう呼んでやります」

 「ショウタ、さっきの現象だが…」

 「今日は町に帰って解散!!なんかいろいろ疲れた!」

 「了解」

 「はい」

 「現象を…」


 ****************************


 とある、女の子の部屋、ベットにはコビット族のぬいぐるみがある。

 パソコンでゲームをやりながら、スマホで電話をかける。


 「もしもし、マネージャーですか?アキです」

 「社長の言ってた上京する話、とりあえず条件付きでOKです」

 「それで高校なんですが、例の芸能高校じゃなく一般の高校に行かせて下さい」

 「そうですね、柏島学園か叶崎高校あたりで」

 「あ、そうそう、1年か2年の学年トップが女性かどうかも、」

 「そうです、名前に“雪”がつくと思うんですが…」

 「よろしくお願いします」



■ お姉さんは好きですか?


 なんか、どうしたものか…

 一旦はみんなでログアウトしたものの、4時って遊びに行くには遅い中途半端な時間だな…


 そうだ、サンセットの事ユキカにラインしとかなきゃ、もうあんなバトルはこりごりだから


 〉さっき偶然あの子に会ったんで、この前の事あやまっといた

 すぐ既読になった。

 〉そうなんだ…

 〉なんか、仕事が忙しくてログイン出来なかったんだって

 〉お仕事?

 〉そう言ってた。ユキカの言った同い年くらいはハズレかな

 〉かな?

 〉とにかく、あまり気にしてないみたい。だけど相変わらずの話し方だから、今度はマスター達とバトルしそうだった(汗)

 〉マスター許す、殺ってしまえ!

 〉おい!

 〉冗談だよ♪

 サンセットはギルメンの中にユキカがいると言ってたが、リッカか?そんな風に見ると案外マスターかもしれない。

 今度キスしてもいい。って言ったらどんな反応するだろう…

 〉んじゃ、とりあえず報告まで。

 〉うん、ありがとう。


 さてと、暇だしちょっとだけログインしてみるか?

 オアシスの町バジルはオアシス沿いに東西に広がっていて、ちょっと高い岩山が城壁の様に町を囲っている。

 ゲームキャラに話しまくっていろいろクエストを確認した。アイテムが必要なクエストは大体クリアしてる、さすがブリザード。

 西から東へクエストを探しまくった。


 〉ショウタさ~ん

 リッカが駆け寄ってくる、リッカはあのまま続けてたのかな?

 「お疲れ、あれから続けてたの?」

 「ううん、いったん落ちて、ちょっと前に再開しました」

 「俺もちょっと休憩、遊びに行くには遅いし、中途半端な時間なんだよね」

 「そうですね♪」

 リッカも暇なのかな?ま、休日の昼間からネトゲやってる時点で同じか。


 「ショウタさん、改めて先ほどはありがとうございました。」

 「あそっか、リッカが絡まれたんだっけさっきの怪物…」

 「泣きそうでした。」

 「あはは」

 「助けて頂いて、また泣きそうでした。」

 「泣きすぎだよ(笑)」

 リッカが抱きついて来た時を思い出す

 現実なら…(妄想の中)お姉さん(巨乳)に抱きつかれる…これはヤバイ、サンセットと違って男子高校生的にかなりヤバイ!


 「ショウタさん?」

 「あ、ゴメンなんだっけ?」

 「変なショウタさん」

 いかん、落ち着け、目の前は猫娘だお姉さん(巨乳)ではない!


 「そうだ、ショウタさんクエストってやってます?」

 「ここの?やってるよ、かなりクリアした」

 「実は、謎な場所見つけたんです、行きませんか?」

 「謎な場所?なになに?」

 「ふふふ、来てのお楽しみ♪」


 俺たちは、町の東の外れにある小さな宿屋についた、外れにあるため岩山にくっついてる他はなんのへんてつもない普通の宿屋だ。

 リッカに続いて宿屋に入る、待合室も小さいが…少し怪し雰囲気になった。

 店員の顔が見えない受付…俺はドラマとかでしか見たことがないが“ラブホ”な作りじゃないか?

 つかつかと中に入るリッカ、中はかなり広い、岩山をくりぬいてるんだろう。

 左右に部屋の扉が並ぶ、薄明かり、怪しい色彩、既に俺にはラブホにしか見えなくなっていた…


 「えっと、リッカさん…ここは?」

 「怪しくないですかそこ」

 「いろんな意味で危ないと思いますが…」

 「え?どんな意味ですか?」

 「えっと…怪しいホテルだなって…いや、何でもないです」

 「あ…」

 リッカもちょっと気付いた様だ、ヤバイ!ホテルって言ったのが悪かったか


 「え、え、あの、そんなつもりじゃ…」

 なんか、顔真っ赤になってるんだろうな、ウブなお姉さん♪最高です!

 「ゴメン…もしかして俺、怪しいの意味間違えてる?」

 「怪しいのそこの壁なんですが…」

 「壁?」

 突き当たりの薄暗い壁に不気味な肖像画が飾られている。通路があるが、左右に部屋が無いのもおかしい…


 「たしかに…ここまではラブホみたいなのに、急にお化け屋敷になってる」

 「ラブホって言っちゃってますよ…」

 「あ!ゴメンそんなつもりじゃ…」

 「ショウタさんのエッチ」

 は、恥ずかしい…穴があったら入りたい…

 「ちょっと見てきます…」

 壁を確認、特に何もない…イベントが発生しそうにもない、とりあえずリッカに確認したい事があったので、ラブホ側に戻る。


 「何もないね…」

 「そうなんですか?」

 「何でここが謎な場所と思ったの?」

 「それが、さっき来た時は…」

 俺たちの横を冒険者が走りすぎる、壁の方からだった…

 「え?」

 「あ!これ!」

 呆然と壁を見る、壁から出てきた様にしか見えない、何かある!

 「なるほど、謎だ」

 もう一度肖像画のある壁を確認、今度はリッカと一緒に確認した。特にスイッチとかもない、忍者屋敷の様な回転する壁を期待してたが違った。

 「なんだろ?すごく罠にはまってる気がする…」

 「罠?」

 「ここに肖像画があるから、きっと何かあるって所が罠…だとすると…」

 俺は肖像画を背にして通路を見渡す、見てる限り何も無さそう…

 「ふふふ♪ショウタさん、名探偵みたいですよ♪」

 今度は通路を移動して何かないか探す、木目模様の通路が怪しい、木目になにかボタン的な物が…っと!

 あれ?壁がない?

 まさにトリックアート、そこに入口があるのに、壁の模様と薄暗い光のせいで周りと同化している…

 壁の穴から入りすぐ左に曲がる。

 「え?ショウタさん?」

 そうか、リッカから見れば俺は急に消えたのか。

 「ショウタさん!嫌です、こんな所に一人にしないで下さい!!」

 お化け屋敷な感じだな、種明かしするか。

 「リッカ」

 「!!!」

 出た所はリッカの背中側だった、たぶんゲームの向こうは「きゃー!」って叫んでるだろう。

 「もう、脅かさないで下さい(怒)」

 怒った表情も可愛い。

 「リッカ、こっちこっち」

 俺は入口に入った、リッカからは消えた様にしか見えないだろう。

 リッカも恐る恐る入って来た。

 「すごい、こんな風になってるんですね♪」

 「こう言うのも面白いね」

 「みんな見つけられてるんでしょうか?」

 「この先に何があるかだけど、みんな攻略本とかであっさり見つけてるんじゃない?」

 「それは残念な話ですね、私はこれだけで推理小説の謎解きをしたようで、とても楽しいです♪」

 「同感」


 隠し通路の先には上り階段があり、どうやら外に出る様だ。

 岩山の上の方に少し飛び出た箇所があり、内側も少しえぐれている。壁際に魔女の家としか表現できない小さな小屋がある。

 「なんかワクワクしてきました♪」

 「俺も♪お!ここからだと町が一望できるんだ」

 俺は岩山の先まで行き遠くを眺めた。

 「ちょっと怖いかな…」

 リッカは真ん中辺りで立ち止まる。

 「リッカは高所恐怖症?」

 「ゲームだとはわかってるんですが…」

 「じゃ、俺にくっついて見たらいい、絶景だから見ないと損だよ」

 リッカが恐る恐る近づいて来た、俺にぴったりとくっつく。

 「わぁ、ホントに綺麗♪オアシスもキラキラして最高♪」

 リッカが喜んでくれてるのがわかる。

 「なんか、二人で旅行してる気分だなぁ」

 「え?そんな…」

 あ、ヤバイ発言だったか今のは…二人でなんて言わなくてよかったか…


 「ゴメン、変なこと言っちゃった」

 「いえ、二人で旅行してる気分です、ですので記念に…あ、ショウタさん小屋の方を向いてくれますか?」

 俺は小屋の方を向いた、リッカくっついたまま振り替える。


 「で?」

 「あ、ゴメンなさい。町の風景をバックにスクリーンショットを撮りたいです、ショウタさん笑ってもらえませせんか?(笑)」

 「あ、そう言う事か(笑)」

 二人が笑顔になる。カシャッって感じでスクリーンショット撮ってるのかな、ほんと女性はこんな事好きだよね。

 「いい写真取れた?」

 「はい♪宝物にします」


 「じゃ、そろそろ怪しいあの魔女の家に行こうか」

 「行きましょう♪」


 小屋に入った、中央には大釜があり何かの薬品がグツグツいっている、まぎれもなく魔女の家そのものだった。

 「魔女さんの家ですね」

 「イメージ通りの内装だね…」


 〉おや珍しい、こんな婆の家に何ようかい?

 奥の部屋から、魔法使いの老婆があらわれた、画面に選択肢がでる。

 〉お婆さんはこんな所で何をしてるんですか?

 〉ほっほっほ、魔法の研究じゃよ

 〉魔法?

 〉そうじゃ、お主は戦士じゃな。回復魔法が使えたらと思ったことはないか?

 〉あります。

 〉それを可能にする魔法じゃよ


 お!セカンドジョブのイベントだったか。

 〉せっかくここまで来たんじゃ、教えてやらん事もないが、ちと材料が足りなんだ…


 オアシスにすむ怪魚の金色の鱗

 バジル砂漠のクイーンコブラの毒牙

 ピラミッド内のミイラの錫杖


 〉この3つを持ってくれば、そなたに第2の力を授けよう…


 「これって、セカンドジョブのイベントだね」

 「あ、ネージュさん達が使ってるヤツですか、もう一つのジョブの魔法とか使えるって」

 「鱗と牙はもってるな」

 「残りは、ピラミッドのミイラでしたっけ?」

 「…ピラミッドって何処だろ?」

 「ショウタさん、二人で探しに行きませんか?」


**********************


 俺とリッカは、とりあえず高原と反対方向なの街道沿いに進んだ、危なくなったら町に走って逃げる予定だったが、レベルが上がっている事もあり、ワームやコブラ、サソリなど、オアシス周辺の敵は問題なかった。

 俺が戦士でリッカがプーリスト、バランスがいいのも関係してるだろう。


 「うわ~凄い~、この先の砂嵐リアル過ぎる~」

 街道から少し離れた場所に砂嵐が見える。

 「凄いな、いったん入ったら周りが見えなくて迷うかもしれない…」

 「でも、怪しいですよね♪」

 確かに怪しい…何かを隠してる様にも見える。

 「リッカは好奇心旺盛だね」

 「ショウタさんがいますから♪信頼してます」

 「よし、行くか!」

 「はい♪」


 砂嵐の中地図を見ながら砂漠を西に進む、敵も他の冒険者もほとんど見えない。

 「リッカ大丈夫?」

 「大丈夫です」

 「後ろだと、先に行くかもしれないから横にいて」

 「はい」

 かなり歩いたが同じ風景が続く、地図を見ても移動していない。敵もいないこれは迷ってるな…と言うより同じ場所をぐるぐるしてるのか…


 「これは迷いの森ってやつか」

 「迷いの森?」

 「入ったら方向が分からなくなる森」

 「森なら目印つけられますが、こんな砂漠じゃ少しだけ見える太陽しか目印ないですね」

 「太陽?」

 あれ?太陽がない…俺達は西に太陽に向かってる進んでるはずなのに?

 立ち止まって周りを見渡す、太陽は後ろ側にあった。

 また、一瞬砂嵐が激しくなる、太陽は右側に移動していた。

 「ショウタさん?」

 「リッカ!でかした!お礼にキスしてあげよう♪」

 「ええ!?」

 マスターみたいな事を言ってしまったが、謎は理解した。


 「大丈夫、謎は解けた」

 俺は激しい砂嵐のたぴに太陽の位置を確認し西へ進んだ。

 やがて、砂嵐はおさまり目の前に巨大なピラミッドが出現した。


 「お!到着」

 「着きました♪」

 とりあえずピラミッドの周りを確認した、敵は砂漠と変わらない。

 入口も確認、この中のミイラの持ってるアイテムだな。

 「入口付近でミイラを狩ろう、最悪走って外に逃げるって感じで」

 「はい♪」


 ピラミッドの中は迷路の様になっている、入口近くの小部屋を拠点にした。

 しばらく敵が出現しないか確認、大丈夫の様だ。

 「じゃちょっと行ってくる」

 「行ってらっしゃい♪」

 なんか照れるな、なんて思いながらミイラを探す、通路で最初の一匹を確認

 「リッカ行くぞ」

 「はい」

 弓矢で引き付け、小部屋まで連れていき叩く!さすがにちょっと強かったが2人でなんとかなりそうだ。

 「お?いきなりミイラの錫杖ゲット」

 「ラッキーですね♪」

 「よし、この調子で残り1個!」


 続けて20体ほど倒したが錫杖は出なかった、リッカのMPを回復するためしばし休憩。

 「うーん、けっこうレアアイテムかもしれないね」

 「ですね、マスター達とレベル上げてしながらの方がいいんでしょうか?」

 「もうちょっとやってダメならそうしよう」

 「はい」


 〉逃げて下さい!!


 突然チャットが割り込んだ来た、緊急事態、ゴーズの時の様な緊張が走る。

 「リッカは隠れてて」

 「はい!」

 リッカは小部屋の壁際に移動、それを確認してそっと外を覗いたその時、逃げる冒険者とミイラの群れが小部屋を通りすぎ、出口付近に走り去る。

 ミイラの中には黄金マスクをかぶった強そうな奴も混じっている。

 やられたのか、外へ逃げたのか、ミイラの群は出口近くで止まった。


 ヤバイ、出口は塞がれた…どうする…


 「ショウタさん…」

 リッカもミイラの群れを見たのだろう心配そうな声を出す。

 ミイラがもといた場所に戻ってくる!こっちの方に!


 「リッカ、動かないで!」

 俺はリッカを壁に押し付ける形で壁際に隠れた。

 見えない音もない状態なら、小部屋を通り過ぎてくれるかもしれない…、リッカも理解したのかじっとしている。


 ミイラ達がのそのそと移動する音が聞こえる、自分とそんな訳ないがリッカの心臓の音も聞こえる…

 時間が遅く感じる…緊張で体が硬直してるのがわかる…

 リッカが心配そうに見上げている…

 大丈夫って伝えたいが、チャットも音と判断されたらまずいし、なんとかこのまま通り過ぎてくれ…


 大勢の足音はなくなったが、まだ1体近くをうろついている音がする…

 1体なら倒すか…いや待て、あの黄金マスクだったらかなりヤバイ…


 ぬうッと、ミイラが小部屋に入って来た、あの黄金マスクだ!

 まだ気付いていない、音に反応するモンスターであってくれ!

 黄金マスクは動かない…こちらは動けない…


 しばらく小部屋止まっていたが、黄金マスクは何事も無かったかの様に出ていった。


 助かった…


 カタッ…


 リッカが少し動いてしまった、安堵でコントローラーを触ってしまったんだろう!

 黄金マスクが飛び込んできて、魔法をリッカにぶつけた!


 「逃げるぞリッカ!」

 「うごけません!」

 「!」

 よりにもよって移動が出来なくなる“バインド”って魔法だったか!

 絶望的な状況、それでも俺はリッカに攻撃が向かないように黄金マスクに攻撃した。

 敵の重い攻撃!俺のHPがかなり削れる、リッカは回復魔法を唱え続ける。

 いつまでもつか、最低でもバインドの魔法が解けるまで持ちこたえないと…黄金マスクのHPを確認!あれ?残り30%くらいまで減っている。

 さっきの冒険者とバトルしてたのはこいつだったか!絶望から一転、勝機を見つけた!


 「一気にいくぞ!」


 俺はリミット技≪ファイナルブレイク≫を発動した、この技は1分間攻撃力が3倍になる。

 リッカもリミット技≪回復の泉≫を発動、この技は1分間味方の体力を回復し続ける。


 俺は攻撃力が高い両手斧に持ち変え叩き続ける!リッカは唯一の攻撃魔法ライトニングボウを放ちまくる!

 俺達の全力を黄金マスクにぶつけた!ぶつけきった!!


 まもなく1分と言う所で、黄金マスクは倒れた…

 「やったー!」

 「やりました♪」

 俺は大きくガッツポーズしていた。


 「あははは!なんか笑ってしまう」

 「私もです(笑)」

 「ラスボスに勝った気分!」

 「です!私にもエンドロールが見えます♪」

 二人とも興奮していた、ゲームでこんなに興奮するのは始めてだ。


 「でも、何も言ってないのによくついて来てくれたね、回復の泉とライトニングなければ全滅だった」

 「なんかショウタさんの声が聞こえました、シンクロ率100%ですね♪」

 「案外、ご近所さんだったりして」

 「そうかも(笑)」


 ホントにいい経験だ、これぞネトゲの真髄ってやつかな?負けてないから言える事か。

 「お、お宝は黄金マスクに錫杖だ!」

 「やったー♪」

 「よし、帰るか」

 「はい♪」


 俺達は迷う事なく砂嵐を東に進み、バジルに到着した。

 「セカンドジョブのイベントクリアして、今日はおしまいにしよう」

 「行きましょう♪」

 

 魔女の家で3つのアイテムをトレードする。

 〉おお、ほんとにアイテムを揃える者がおったとは!

 〉よし、そなたに第2の力を授けよう

 魔女の魔法が体を包む。

 〉成功じゃ、ジョブチェンジの鏡の前で祈れば、第2の力が授かろう。


 「よし、また一歩前進だ」

 「ネージュさん達驚きますね♪」

 「いや、仲間外れにしたと怒るかもしれないぞ」

 「ふふふ」

 俺達は町に降りた。


 「んじゃ、また今度」

 「ショウタさん、ありがとうございました」

 「ん?」

 「今日は何度も自分を犠牲にして助けてくれました、私のドジが悪いのに怒りもしないで…、こんな事あったら…ゲームなのに恋しちゃいますよね」

 「そんなもの…かな?」


 「私ってほんと勇気が無いし、タイミングも悪いしダメダメで、ゲームでも好きになった人に近づいたと思ったら、彼女がいるって…」


 「えっと、リッカ?」

 これって告白だろうか?…あかん頭が痛くなってきた…ネトゲ内ってもしかして恋愛話で一杯なのか?


 「ショウタさん、私頑張りますから」

 「うん…」

 「頑張って泥棒猫になります!あの人魚の人からショウタを奪います!」

 「まった、なんか方向性が間違ってる!」

 「私、もう後悔なんてしません。好きな人を親友に取られて笑ってるなんて無理です、ゲームならリッカならそれができます!」

 もう、なんて言ってるのか分からない、ちょいちょいリアルの話が飛び出してるみたいだし…


 ≫あ、マーメイド!

 他の冒険者が見物に走る、イベントが終わったのか、マーメイドのパーティが町中の浜辺に姿を表した。

 サンセットの姿も見える…

 このタイミングでか、まさか修羅場ってやつ…


 リッカもサンセットを確認する。

 マーメイド達が何かの液体を体にかける、尾ひれが足に変化した。ブリザードが言っていたマーメイドの涙だったかな?の効果だろう。


 「あの人魚の方ですね!」

 「ちょっとリッカ!」

 「ショウタさん、闘ってもいいですか?」


 サンセットが俺を見つけて走ってくる、脚がはえているので、容姿は人間と変わらない。

 〉ショウタお待たせ♪

 〉お疲れさま。

 〉ショウタさんは待ってません、私と話してたんです。

 〉さっきの猫さんですね、たしかリッカさん

 〉そうです。

 〉貴方がリアル彼女さんですか?

 〉え?

 リッカはユキカ?って言ってるのか?

 さっきのリッカの発言を見たら、100%違うかな…


 〉サンセット、それはたぶん違うと思う。

 〉そうなんですか?

 〉リアル彼女って、ショウタさんとゲームではなく付き合ってるってる方と言う意味ですよね…

 リッカもあまりに方向性が違う話に戸惑ってる様だ


 〉そうです、言ってしまえば私達の敵ですね。

 〉ちょっとサンセット

 〉リッカさん、もしリアルのショウタに会ってしまって、少し話が出来たとしたら、好きになると思いますか?

 〉…たぶん、なると思います。

 〉どんな容姿かも、何歳かも分からないんですよ。

 〉それでも、なると思います。

 〉私もです♪

 サンセットか笑う。


 〉リッカさん、実は私、ショウタのリアル彼女さんと話した事があります。

 〉え?

 〉ほとんど喧嘩みたいな事になっちゃいましたが、ショウタが好きな事はひしひし伝わってきました。残念で悲しいですが、今の私達ではたぶん彼女に勝てません…片思いで終了です。

 〉サンセットさん…

 〉私達がリアルに現れても、ショウタはためらいなく彼女を選ぶと思います。そうですよねショウタ…


 ユキカが少し泣きそうな目でこっちを見つめてる…そんな顔が見えてしまった。

 〉はい。


 〉サンセットさん、なんか悲しいだけです。

 〉いいですかリッカさん、恋愛は相手に彼女が出来たから終わるんじゃなく、あきらめたから終わるんですよ。

 〉あ…

 〉私はあきらめません、リッカさんはどうします?私的にはライバルが減る方が嬉しいのだけど。

 〉あきらめません、私もあきらめません!

 〉うん、じゃあ、どちらかが彼女になるまでは、親友と言う事でいい?

 〉はい。

 〉じゃあショウタ、リッカちゃんと作戦会議があるのでまたね♪

 〉じゃ、ショウタさん行ってきます♪


 町中に一人取り残される俺


 なんか、えらいことになった…



■ 学生の本分は勉強です。


 俺は普通通りにゲームをやっていたが、ギルドのみんなはなかなか集まらない、バジルの町でクエストをやりつつ、たまに他のパーティによばれたりしていた。


 しかし、ここに来て深刻な危機に直面している、夏休み前のあの時期に突入したからだ。


 「マスター、ご相談があります」

 今日ログインしたのは、マスターと俺の2人だけだった。

 「あらたまってどうしたの?期末テストが近いから暫くログイン出来ないって事なら了解だよ」

 「え?」

 「ちなみにリッカちゃんも期末テスト休み」

 「リッカって学生なの?」

 「本人はそう言ってるね、ショウタは高校生ってバレバレだけど♪」

 「そうなんだ…いろいろ休む言い訳考えてたのに、ムダだったか…」

 「あはは(笑)」

 「?」

 「そう言うところでバレちゃうの、高校生って事が(笑)」

 「あ!」

 「気を付けなよ、ショウタはモテるんだから。ストーカーされちゃうぞ」

 「気をつけます…」

 「じゃあ、夏休みに会いましょう♪」

 「たまには、気分転換にログインしますね」

 「はい♪」

 「マスターって、意外にいい人ですね」

 「意外には余分だよ」

 「じゃあ、期末テスト頑張ります!」

 「はい、いい点取ったらご褒美にキスしてあげますね♪」

 「口ですか?ほっぺにですか?」

 俺は興味半分に聞いてみた。

 「えーーッ!?どうしちゃったのショウタ?」

 「あはは、約束しましたよ!ちなみに俺、かなり優等生ですからね」

 「約束…」

 「それじゃ楽しみにしてます」


 そう言ってログアウトした。

 マスターがユキカなら問題なし、ユキカじゃなくても知らない人だから問題なし。


 俺はPSXに封印の札を貼った。

 期末テストがダメなら、親がゲーム禁止にするだろう、文句を言われないためにもキッチリ結果を出さないと!

 とりあえず苦手な英語から行くか…

 

 ****************************


 ピポパポーピポパポー

 スマホが鳴ってる。 いかん、うとうとして机で寝ちゃったか…

 「はい」

 「あ、ショウタ?ユキカです。暇だから遊びに行っていい?」

 「ん?どこ行くって?」

 「ショウタん家」

 「ああ、いいよ、勉強教えてくれるなら」


 ピンポーン♪

 「あ、ちょっと待って誰か来た」

 階段をかけ降りる、おふくろ達はまた外出かな?

 「はい」

 ガチャ

 「やっほ~♪」

 そこにはユキカが立っていた。

 「おいおい」

 「だって、ピンポン鳴らしても返事がないんだもん」

 そんなに爆睡してたのか俺は…

 「ま、上がって、と言うか勝手に入ればいいじゃん、カギもってんだから」

 「カギはちゃんとかえしました!」

 「そうなの?たぶんあれはユキカのカギだと思うぞ」

 「そ、そんなのまだ頂けないよぉ」


 とりあえず俺の部屋に入れ飲み物を用意する、ユキカは勉強道具一式持って来ていた。


 「俺が勉強してるって知ってた?」

 「ううん、勉強してなきゃ無理矢理やらせるつもりだった♪」

 「信用ありませんなぁー」

 そう言って封印の札を貼ったゲーム機を指差した。

 「信用してますよ♪」

 笑顔が可愛い、期待に応えなくちゃ!


 ピポパポーピポパポー

 ユキカのスマホに電話がかかった。

 「もしもし、アカリどうしたの?…うん…うん…そんなこと無いけど…」


 相手は大月らしい。


 「もう…」

 「ん?どうした?」

 「ショウタと二人で勉強する予定だったのに、変更していい?」

 急用でも出来たのかな、でも毎回ユキカ頼みってのもあれだし、今回は一人で頑張るか。

 「いいよ気にするな、勉強は一人で大丈夫!」

 「じゃなくて、勉強会をレナの家でする事になったの、アカリとレナがショウタばっかに勉強教えてズルいとか言い出しちゃって…」

 「アカリはともかく、レナに教える事あるの?」

 レナは学年2位の成績、つまりユキカの次に秀才。

 「私もそう言ったんだけど…」

 「ま、いいじゃん友達は大事だよ、俺の事は気にするな」

 「じゃなくて、ショウタも来るの!」

 「へ?…なんで?」


 《叶崎公園で待ち合わせ》


 「やっほー、ユキカ、下川口ー!」

 「オッス」

 「アカリ遅い!」

 「ゴメンゴメン、ちょっと勉強道具忘れちゃって…」

 「お前…勉強する気無いだろ」

 「あはは…」

 「じゃ行くよ」


 公園から三原の家まで10分くらいかかる、大月は完全にユキカ頼みのモードに入っている。中学時代の俺みたいだ…


 この辺じゃ珍しい豪邸の前で2人の脚が止まった。

 「え?ここが三原の家?」

 「下川口、知らなかったの?」

 「女子の自宅なんて知るかよ、男だって何人しか知らなんだから」

 「レナはお嬢様だよ」

 「そうそう、家では毎日ドレスとか着てるし、専属のシェフが料理作ってんだよ、コンビニなんて行かないんだから」

 「へ~すごいな」

 「アカリさん、嘘は言わないで」

 後ろから、レナが突然現れた。

 「!」

 「お!」

 「レ、レナ、おじゃましま~す」

 「まったく、私は私服だし、ご飯自分で作るし、コンビニだって行きます!」

 レナが手にしたコンビニ袋を出した、お菓子がたくさん入ってる。

 「下川口君、お嬢様ってのも嘘だからね!」

 「わ、わかった、今日はおじゃまします」

 「いらっしゃい♪」


 レナについて部屋に入る、けっこう広い4人でも余裕だな…それに、綺麗に片付いてて女の子女の子してないので、入りやすい。

 「下川口君、あんまり見られると恥ずかしいんだけど…」

 「あ、ゴメン!」

 「ユキカが怒るぞ~」

 「アカリ!!」


 部屋の中央に大きめのテーブルが用意されていて、そこに座る、真ん中にお菓子とか飲み物がおかれ勉強の準備が整った。

 こほんッ

 「えー、ここには中間試験で学年ツートップのユキカとレナ、地理に詳しくクラス5位の下川口がいる!完璧ではないか我軍は!!」

 なんか、どっかで聞いた事があるセリフを大月がいった。

 「あのなぁ、俺がここにいる理由はそれか!この勉強会は大月のためか!」

 「勿論だよ、この2人に試験勉強必要だと思う?」

 「私は毎日ちゃんと試験勉強してるよ」

 「地理はちょっと苦手だから、下川口君にお願いしたいな~」

 「まぁまぁ、素敵な親友と、かわいい彼女の親友を助けなさい♪」

 「まったく…」

 「クスクス」

 「はーい♪」


 ともかく、勉強ははかどった。

 みんなそれぞれ得手不得手があり、サポートしあった結果だ。

 「よし!ちょっと休憩にしよう!」

 「いいんじゃね、大月の期末テストが危険レベルだと言う事が、よくわかったから」

 「だね~」

 「ですね~」

 「兄さん、姉さん、うちを見捨てんといてー!」

 あははは♪


 しかし、なんかマスター達とレベル上げしてる気分だな。

 ユキカ達がゲームキャラに変身する、敵は数学キング!

 数学キングの攻撃にダウンするアカリ、レナが公式魔法でアカリを回復、ユキカが分解魔法を使う、トドメは俺の!


 「ん?何ショウタ?」

 「なに、ニヤニヤしてんだよ~」

 「あ、いや…」

 「変な下川口君」


 「いや、なんかこれゲームやってるみたいだなって…」

 「ゲーム?ちょっと前にユキカさんが言ってたやつですか?」

 「そうそう、なんかメンバー集めて戦うんだけど、みんなそれぞれ良いとこ悪いとこがあって助け合うんだ」

 「ショウタ、けっこうハマってるんだよね~」

 「そうなんですか~」

 「FK7だよね、私もアニキのノートパソコン使ってちょいちょい遊んでる、かなり映像綺麗だし面白いよ、第2の自分って感じ」

 「ゲームなら立場逆転だな、大月リーダーに付いて行きます!」

 「え!ゲームの中なのにアカリさんだってわかるんですか?」

 「ぜんぜん分からん、どこの誰かも」


 「まぁ、まずサーバーが同じってのが最低条件だね、ほらアキちゃんがバラしちゃったあれ、それから名前とか」

 「名前?」

 「私はアニキのだから変な名前だけど…、自分で付けるならキャロラインかな」

 「何それ~私ならアキちゃんにするけど」

 「私は好きなアニメのキャラクターでしょうか」

 「レナはマニアックなアニメ好きだよね~」

 「下川口君は?」

 「下川口は、なんか自分の名前つけそうだけど」

 「ショウタでやってるんですか?」

 ギクッ、バレてるじゃん。


 「俺はサッカー関係…の名前にした」

 ユキカ…言わないよね…恥ずかしいからやめてね。

 俺の目線に気づいたユキカが“わかってるよ”と目でサインを送ってきた。

 「私はなんて名前にしたか知ってるけどね」

 「あ~あ、学校の勉強もゲームにならないかなぁ、そしたら学年トップは私のものなのに…」

 アカリが悔しそうに話すが、俺はそうは思わない。

 「いや、ゲームになってもユキカや三原がトップだと思うぞ」

 「え?なんで?」

 「ゲームに限らず、勉強がスポーツになってもトップだと思う」

 「ん?どう言う事?」

 「ショウタ、私ゲームとスポーツは…」

 「下川口君、私もちょっと苦手です」

 みんな、それは違うと言いたいらしい。たしかにユキカや三原はゲームなイメージがない、スポーツもダメかな。でも学校での勉強のやり方をすると…

 

 「んじゃ、数学のゴールは大学受験あたりにしたとして、ゲームのゴールは?」

 「クリアとかエンディング?」

 「そう、小学校から始まって大学入試でゲームをクリアする事、じゃ小学1年生は何をする?」

 「えっと…」

 「RPGなら、雑魚の倒し方かな?」

 「そう、テストもそから出題になる、そうなるとゲームが得意とかあまり関係ないし、面倒でつまらない事をコツコツできる子が成績がいい、スーパーマルオなんかだったら、敵の踏み方とか、穴の飛び越え方とか繰り返し練習だしね」

 「うわー、そう言うの苦手かも…」

 「アカリさんは、小学校の漢字ドリルとかほとんどやって無かったけどね」

 「昔からなんだぁ」

 「大月なんかは、スーパーマルオ得意だとか言って練習せず宿題せず、最初はそれでも出来たけど、月日がたってみんながステージ6とかをクリアしてるのにクリア出来ない、先生はステージ7の対応を教えてるけど、6をクリア出来ないのにできる訳がない、どんどん皆に置いてかれて、ゲーム出来ない子のレッテルを貼られて…」

 「やめてーーーーッ!!」

 「下川口君、怖いです」

 「ゲ、ゲームの話をしてたんだよね…」

 「さらに言えば、1時間目はRPG、2時間目はシューティング、3時間目はシミュレーション、4時間目は格闘ゲームって事だよ、それぞれ試験あるからね」

 「うぅ…」

 「毎日コツコツやる事は大事なんですね」

 「勉強の方が好きになりそう…、歴史とか数学のパズル的なもの…」

 「そして、おふくろに言われるんだ『勉強ばかりしてないで、宿題のゲームやりなさい!』ってね」

 「ぷッ!」

 「あはは!」

 「くすくす♪」

 

 「ま、一つ言える事は、勉強もゲームもみんなでやれば面白いって事だな」

 「うん」

 「そうだね♪」

 「地道に頑張ります…」

 大月はちょっと落ち込んでしまったみたいだが、俺も乗り越えた道だ、スポーツやって根性あるから大丈夫だろう。

 案外、試験後には忘れてまた同じことを繰り返すかも知れないが…


 「さて、休憩おしまい、マンツーマンでアカリの特訓だ!最初は私が英語をレベルアップさせます!次はレナが数学、ショウタが地理で、現代文の順番で行っくよ~」

 「えーーー!!」

 「その為にみんな呼んだんでしょ!」

 「が、頑張ります…」

 大月、ファイトだ♪


 「んじゃ三原、俺に数学教えて」

 「え?あ、はい♪」



 ≪期末テスト1日目≫

 よし!数学は予想範囲の問題ばかりだこれはいける!

 一学期の期末テストと言う事もあるんだろうが、かなりの好感触、ネトゲ封印して勉強したかいがある。

 

 ≪期末テスト2日目≫

 今日は俺の得意分野のみ、問題なし。

 

 ≪期末テスト最終日≫

 苦手の英語、お!ヤマがドンピシャじゃないか!ま、半分以上はユキカとレナに予想してもらった感じだけど。

 さすがツートップ頼りになる!


 ≪期末テスト終了≫

 

 ふぅ終わった~

 

 「ショウタどうだった?」

 ユキカが笑顔で振り向いた、自分の結果より俺とアカリに教えたとこが問題に出たと言う好感触の予感からだろう。

 

 「バッチリ!」

 俺も笑った、レナも隣で微笑んでる3人は問題なしだな。さて問題の大月は…3人の視線が大月にむかう。

 「ぶい!」

 満面の笑みとVサイン、これは相当自信がある様だ、試験勉強はじめる前の壊滅的な状況を考えると奇跡に近いが、ともかく、このクエストはクリアした。


 自宅に帰った俺はPSXの封印の札を破り堂々とネトゲを再開した、何となくだが≪ネトゲやりたい病≫を患っているのかもしれない、ちょっとオタク傾向かな。


 なんか、久しぶりの故郷って感じだなぁ~、現在はオアシスの町だが、これが王都ならなおさらそう感じたかもしれない。

 「ショウタさ~ん」

 「お、リッカ久し振り」

 リッカが駆け寄って来る。

 「お久し振りです、ゴメンなさい暫くログインしていませんでした」

 「実は俺も久しぶりなんだ、期末テストの関係で」

 「え?ショウタさんもですか?」

 「リッカも期末テストだったの?」

 リーダーが言ってたがここは知らないふりをしておこう。


 「はい、でもショウタさんも学生さんなんですね、私てっきり年上の方かと思ってました」

 「実は俺も、リッカは年上かと…話し方はキレイだし優しいし」

 リッカはお姉さん(巨乳)なイメージがピッタリだ。


 「ショウタさん忘れたんですか、私とサンセットさんは、彼女の座を奪うため結束したんですよ、優しいなんて言ってるともっと頑張りますよ♪」

 「あ、そんな事もあったね…ははは」

 そうだった、試験前でサンセットとリッカが同盟を組んだんだった…

 「そうですよ♪さてどんな手を使って好きにさせましょうか(笑)」


 「楽しそうだな君達」

 「あ、リーダーおひさ」

 「ネージュさん、お久し振りです」

 「その様子だと期末テストはよかったみたいだね」

 「はい♪」

 「問題なし、友達のおかげって所もあるけど」

 さすがにリッカの前ではキスの話は止めておこう…


 「あとは、ブリザードさんですね」

 「あいつも、同じ時期にいなくなった、私も一人なんでそんなにログインしてなかったけど…」

 「ブリザードさんも学生でしょうか?」

 「可能性大だけど、そう言うの完璧に隠すからね、どうだか?」

 「数日ログインなければ、テスト結果が悪かったんだと諦める事に…あれ?」


 ひょこひょこ…

 ブリザードらしきコビットが、小ドラゴンと一緒に目の前を通り過ぎる。


 「ブリザード?」

 〉おーい!ブリっちなに無視してんの?

 〉ブリザードさん、お久し振りです。

 マスターとリッカが声をかける、久しぶりにギルドメンバー勢揃いだ。


 〉えーっと…こんにちは

 ブリザードが返事を返してきたが、あれ?なんかちがう…、キャラは同じなのになんだろこの違和感…

 〉誰?

 〉え?何キモいんだけど?

 〉ブリザードさんですよね?


 なんか、みんなそう感じた様だった。


 〉あれー、挨拶一行だけで見抜かれるなんて、この子のキャラ設定どうなってるの(笑)


 〉で?誰なの?

 リーダーが追及する、他人のキャラを使ってるとなると、問題になる。

 〉えっと、この子を使ってる人の妹です、ちゃんと許可はもらってますよ。

 〉妹さん?

 〉そうです、暇な時よく借りてたんだけど、いつもならレベルが凄く上で敵なんかいない位だったのに…

 そうか、俺達のレベルに合わせる為にドラコンナイトにジョブチェンジしたんだっけ。


 〉こんなレベルが低いジョブなんて敵に絡まれて逃げるだけ、全然楽しくない!

 たしかに、砂漠で一人はキツいかも…

 〉フムフム、キミはまだこのゲームの楽しさを知らない様だね。

 〉マスター?

 〉楽しさですか?

 〉この2人をネトゲの虜にした、このギルドマスター“ネージュ”様が、キミに本当の楽しさを教えてあげましょう。

 マスターその自信の源はなんですか?俺達以外は誰もいない弱小ギルドですよねここは…


 〉ホントに?なんか楽しそう♪

 〉よし!じゃあキミ、ブリザードではなく自分のキャラを作りなさい。

 〉あ、それなら前に作って、エルフィランデルの自宅にいるよ、でもレベル1なんだけど。

 〉問題なし、さぁみんな!王都へ帰るよ。

 〉え?

 〉はい♪

 〉よろしくね♪


 俺達はブリザード(妹)とパーティを組み王都まで走って帰った。

 ブリザード(妹)はあまりバトル経験はなかったが、小ドラコンの攻撃もあり問題なく砂漠を横断、高原などはレベル的に絡まれないため、すぐに王都にたどり着いた。


 〉ちなみに妹っちは、ジョブは何?

 〉ウィッチです。

 〉了解、ログインして噴水前にきてね。

 〉はいです!

 ブリザードがログアウトした。


 〉さてと、私達もレベル1に着替えましょうか。

 〉リッカは次何したい?

 〉できればシーフがいいです、今は泥棒猫な気分なんで♪

 リッカが俺の方を向いてウィンクする

 おいおい…リッカなんかふっきれたのか積極的になってきたな…

 〉回復がいないか…

 〉あ、私セカンドジョブにプーリストつけますよ。

 〉え?リッカってセカンド使えるの?

 〉はい♪

 〉いつの間に…

 リーダーの疑いの視線がリッカに向く、やはり二人だけでピラミッドへ行った話は、内緒にしておこう…

 〉俺は?

 〉あ、ショウタは武鬪家はまだレベル1だよね。

 〉武闘家ね、了解!

 自宅に帰り、ジョブチェンジの鑑の前に立つ、鑑の問いかけに答え、武鬪家にジョブチェンジする。

 セカンドジョブの追加も出来る、戦士をつけた。

 なんか、新鮮でわくわくするなぁ♪


 俺とリッカが先に噴水に到着した。初期装備に武器なし、後でなんか買わねば…

 〉お待たせ♪

 リーダーが合流した、何か鎌的な物を持ってる、レベルアップしたら黒々しい装備をするのだろう。

 〉リーダー、死神にジョブチェンジしたんですか?

 〉死神じゃなく、ブラックナイトってジョブです!

 〉ネージュさん、実は上級者だったんですね。

 〉まぁね、新しいジョブ以外はゲットしてるよ♪

 〉それじゃこれ貸してあげる。

 リーダーが、武鬪家とシーフの武器を貸してくれた。


 〉お待たせー!

 コビット族のお姫様のような可愛い小人が駆け寄ってくる。

 〉妹っち?可愛いーー!!

 〉妹さん、とても可愛らしい♪

 〉キャロラインです、キャロと呼んで下さい♪

 〉かわいいー♪ 

 〉キャロ♪ かわいいー♪、もうブリっちはいらない♪

 キャロライン?どっかで聞いた事があった様な気が…、ま、女子会の中には入りたくないから、落ち着くのを待とう。

 リーダーがキャロにギルドカードをわたしている、ブリザードを外すなんてしなきゃいいけど…

 キャロラインはサンセットと同じ魔女っ子の帽子に着替えた、ブリザードのプレゼントらしい、またしてもかわいいーの嵐が吹き荒れる。


 4人で狩に出かけた、なんか新しいジョブでのパーティは新鮮だ、手当たり次第に敵を狩っていく、王都近くではまったく問題ない。

 釣りの俺以外はチャットで遊んでる。


 「キャロちゃん、なんか装備いいね、お兄さんからのプレゼント?」

 「プレゼントって言うか、単に自分のお下がりをくれただけかな」

 「いいね~♪」

 「ウィッチなら、レベル70までの装備と魔法の書が自宅にあるよ」

 「すごい!」

 「もしかして、ブリっちってシスコン?」

 「ないない(笑)現実では何もくれないんだよ」

 「いいなぁ、お兄さん憧れるなぁ」

 「いやいや、リアルはそんな良いもんじゃないって」

 「そう言えば、お兄さん最近いないらしいですが、どうしたんですか?」

 「リッカ、リアルの事聞いちゃダメだよ♪」

 マスター、あなたも結構リアルの事聞いてますけど…

 

 「暫くはログイン出来ないかな…、いろいろ事情があって…」

 「了解、ブリザードの事は忘れよう、盟友よ安らかに…」

 おいおい、死んでないし…


 一気にレベル10くらい上げて、一旦装備を変更する。

 「なんか、話しながらのバトルって楽しいね♪」

 「お!キャロちゃんわかってきたね~」

 「私もまだ素人ですけど、なんか女子会してるみたいで楽しいです」

 「何となくゲームって、レベル上げて敵のボスをやっつけるイメージだったから、ちょっとメンドクサイなぁって思ってたけど、これは違うんですね」

 「普通のゲームじゃ、会話ないからね、でも性格があうあわないは話してみないとわからないし」

 「私達、気が合うみたいですね♪」

 「うん!」

 「ですね~」

 完全に打ち解けている、勉強会の様子に似てるなぁ、リアルが女子ならだけど。


 レベルが上がり、装備の変更をしなければならない為、今日はパーティ解散となった。

 「ありがとう、とっても楽しかった♪」

 「うむうむ、また声をかけてくれたまえ」

 「キャロさん、またね♪」

 「また、よろしくです」

 「また」

 

 俺は借りた武器をリーダーに返し今日は解散となった。

 一人になりオークションで武鬪家の武器“鉄の爪”を落札する、装備は戦士の時の皮装備でもよさそうだ。

 ま、これからはこの2つのジョブで行こう。



■ 夏休みはプールでしょ


 柏島サンシャインビーチ

 ここは、ウォータースライダー、流れるプール、波のプールなどなど大小15個の施設の集まったいわゆるプールリゾートである。

 通常この時期は平日でも、かなりの人数が押し寄せ、どのプールも芋洗い状態になるのだが、本日は芸能人のトークイベントがあり、特別なチケットがないと入れない。

 しかも、その芸能人のせいだと思うが若い女子の比率がかなり高い!まさにパラダイス!

 んで、俺がなぜこの水着天国にいるかと言うと…



 あーつい…


 朝の8時、部屋の窓を全開にしてるが、暑さが押し寄せてくる。

 期末テストの成績が良かったので、親からネトゲに関する文句はいっさい出なかったが、勉強時間以外はエアコンの規制はつけられてしまった。

 暑さに耐えながら、ゲームの砂漠で狩りしてたらホントに脱水症状で倒れてしまいそうなので、本日はゲームをせず、扇風機と冷たいコーラを友に夏の暑苦しさを満喫していた。


 ≫暇でしょ、プール行かない?

 大月からのラインが送られてきた。


 ≫たしかに暇だが、暑さで動けないほどダメージを受けている

 ≫行こうよ、期末テストのお礼もしたいし、ユキカとレナも来るから

 ≫お礼はいいよ、ほとんどユキカとレナだから

 ≫ユキカとレナのお礼は終わったよ、あと下川口だけなんだから

 ≫おまえは…2学期のテストも勉強会する気じゃないよな?


 図星か?返信が遅いぞ


 ≫そ、そんな事より、私達の水着が見れるんだよ!最高のお礼もじゃん、レナなんか巨乳だよ!巨乳!

 たしかにレナの胸は制服の上からでもわかるくらい育っている、目が向くとユキカに殺されそうだが…


 ≫頼むからユキカの前でそれ言わないでくれ…

 ≫行こうよぉ、巨乳言わないから

 ≫わかったわかった行く

 ≫じゃ10時に駅前集合!



 「ショウタ、お待たせー」

 水着の3人がロッカールームから出てきた、3人ともビキニで目のやり場にこまる。

 ユキカは小柄だがスタイルよい

 レナはとにかく巨乳で肌が白い

 アカリは部活やってる事もあり健康的

 3人それぞれいい、俺の周りってこんな美女だらけだったのか!


 「下川口、ほらご褒美じゃ!」

 そう言って、アカリが三原の胸をボヨンボヨンさせる。

 「!」

 キャー!

 三原は胸を隠しうずくまる、顔は真っ赤だ、おい大月、それはしないと約束しただろ!

 「アカリ!、ショウタ見るなーッ!」

 目をつぶって慌てて後ろ向きになるが、何も見えないからよけいに胸の揺れが頭から離れない。

 落ち着け、落ち着け俺!


 「下川口のお礼はこれが一番かと思ったんだが…」

 「自分のでやってよぉ…」

 三原の恥ずかしさをこらえた声が聞こえる。

 「だって私のだと、ユキカとサイズ同じくらいだから見なれてるでしょ」

 大月の奴、今さらっととんでもない事を言ったぞ。


 「見せてない!」

 ユキカが反論する、しなくていいのに…

 「ほほぉ、見せてないんだー」

 「!」

 後ろ向きだが、顔を真っ赤にしてるユキカが想像できる。

 「これはまさか、下川口を奪うチャンスがまだあるって事か?レナ、さぁ巨乳を使って誘惑するんだ!」

 「ええーッ?」

 「アーカーリーッ!」

 ユキカさん、怒気のオーラが背中に刺さってるんですが…


 「と、とにかく流れるプールにでも行こうぜ、ここは暑い!」

 「そ、そうだね下川口そうしよう!レナもほら」

 そそくさと退散するアカリ達


 「もう、アカリったら」

 「お、俺達も行こう」

 「ショウタってモテるんだね、ゲームでも彼女作って…」

 え?何これ?やきもち?


 「今のはからかってるだけだろ、それにゲームの話を言われても…」

 ちょっとの沈黙… き、気まずい…


 「見たい?」

 「え?」

 「私の胸…」

 え?、今、ユキカなんて言った?胸を見たいかって言ったのか? まずいドキドキしてきた…

 「それはまぁ…男なんで…」

 「そっか…」

 ユキカが目の前まで近づきビキニの左胸に指をかける。


 ちらッ


 一瞬ビキニを浮かせ戻した。

 記憶が飛びそうな破壊力、マンガであれば致死量の鼻血が出ているだろう!


 「ショウタ行くよ!」

 流れるプールに走るユキカ、大月達に追いつき、プールに突き飛ばしている。


 今日、サイコーです!!



 流れるプールの後はウォータースライダー4種類、それから波のプール。

 なんだろ、このふわふわした感じは地に足がついていないってこれの事か…


 波のプールはカップル率が高く女子3人は自然と俺にくっついてくる…

 波は最初はおだやかだが次第に高波になり1メーター位の大波になって押し寄せる、みんなキャーキャー叫んで波を楽しんでるが、背の低いユキカは終始俺に抱きついている。大月も三原も予想外の波に驚き背中に抱きついてくる。

 三原の胸はやはり柔らかいしスゴい、ユキカや大月もこんなに大胆にくっつかれると…倒れそう…

 プールに来てまだ2時間ちょっと…これは体が持たない…俺、今日無事に帰れるだろうか…


 ≫…さんトークイベントに参加の方は1時30分までに、イベントコーナーまで集まって下さい。

 波がおさまり、今日のイベントの放送が聞こえてきた、いわゆるJ系アイドルが来てるのかな?、女子が多いのもそのせいか。


 「しまった!はやくご飯食べて並ばなきゃ!」

 ユキカが抱きついたまま言った。

 「適当に焼きそばとかでいい?」

 「いいよ~」

 「OK」

 ユキカ以外はちょっと離れてくれた。


 「ん?みんなでイベント行くの?」

 「そうだよ、ユキカへのお礼」

 「お礼?」

 「とにかく、食べよう!」


 焼きそばを買い、イベントコーナー近くで食べる、既に10人以上ならんでいる、一気に頬張るユキカ。

 へー、そんなに好きなアイドルが来てるんだぁ


 「食べたし、さぁ行こう!」

 「はいはい」

 「下川口君はどうするの?」

 正直なところ、並んでまで男のアイドルとかは見たくない…、ユキカが誰のファンかは興味があるが。

 「俺はいいよ、なんかプール空きそうだし泳いでる」

 「そう…」

 「行ってらっしゃい、後で合流な」

 「じゃ、3時に終わるから、波のプール横で待ってて!」

 「ほーい、じゃゴミももらっとく」

 「ありがとう」

 「さぁ、みんな行くよ♪」


 とりあえず木陰で昼寝でもしよう、なんだか疲れてしまった。

 しかし、思い出しても今日はいろいろ刺激が強すぎる、

 沢山の水着女子

 3人のビキニ

 三原のボヨンボヨン

 ユキカのちらッ

 ユキカの抱きつき

 大月の密着

 三原の胸の感触


 男子高校生には耐えられませーん!!

 ふう、寝よ…


 って寝れるか!うぉぉーーッ!!


 俺は、少し空いてきたウォータースライダーを片っ端から滑り降りた。

 とにかく、なんでもいいから発散しないと理性が保てない。


 30分は滑っただろうか、少し理性が回復してきた。

 よし、手荷物置いてある木陰で昼寝しよう…

 俺は波のプールの横にある芝生に向かった、休憩時間なのか波はなく親子連れが何人か泳いでるのみだった。


 ふと、プールサイドに目が向き固定される、そこにはとても綺麗な女性が座っていた、横顔に少し見覚えがある、誰かは思い出せないが。

 でもその記憶を消すくらいの印象、波打ち際に座る姿、ゲームの出合いが思いだされる。

 サンセット…みたいだな…


 女性がこちらに気づく…

 ちょっとドキッとした、この展開はゲームだと魔物が現れるって感じか、リアルは変なお兄さんとバトル!

 なーんて変な事考えたらちょっと笑ってしまった。


 女性がまじまじとこちらを見ている。

 笑ったのが悪かった?それとも、やっぱ知り合いだったか?思い出せそうで思い出せない…

 距離が縮まる、俺は芝生に向かってるだけ!と繰り返しながら。


 女性がが立ち上がった、少し茶色がかったロングヘアー、俺よりちょっと低いくらいの伸長、スタイル抜群、超美人、嬉しそうな笑顔、そして…涙…?


 え?


 瞬間、美人は俺に抱きついていた…


 え?


 完全に固まる俺…


 「お兄ちゃん…」

 目が合う、涙目に吸い込まれそう、それにお兄ちゃんって、思考回路がショートしている!!


 「アキーィ!時間だよ!何処にいるのー!!」

 誰かを呼んでる声が聞こえる。


 「…ゴメンなさい…」


 そう言って、美人は呼び声のする方に走って行った…


 誰だったんだろう…涙目が頭から離れない。

 いったい今日は何の日だ、あーもういろいろぐちゃぐちゃありすぎて訳がわからん!


 俺は自動販売機でコーラをかった、何でもいいからスッキリしたかった。

 コーラの一気飲みを試み失敗。

 その時初めて目にする、いやずっと見てたかもしれない、今日のイベントのポスター…


 【宿毛アキ、トークイベント!】


 笑顔の宿毛アキが、ポスターに写っている、さっきの美人、宿毛アキだったのか…何度かユキカに雑誌見せられたからだな、見覚えがあるのはそのせいだ!

 でもなんで?、なんで宿毛アキは俺に抱きつく?

 しかも、お兄ちゃんって言ったぞ、お兄ちゃんに似てんのか?

 まてまて、そもそもアニキに抱きつく妹がいるか?

 いたとしても俺は似てるだけだぞ、お兄ちゃんではないぞ。


 わからん…、朝起きて、なんだ全部夢だったのか(笑)の方が理解できる。


 イベント会場が騒がしくなり声援が聞こえる、宿毛アキが登場したんだろう。

 内容は聞こえないがいきなり盛り上がってる。

 こっちは、もうだめだ、やっぱ寝る。


 俺はさっきの木陰の芝生にタオルを敷いて寝る事にした、今度はすっと眠れそうだ…。



 「…ョウタ?」

 「起きませんね…」

 「よし、みんなで襲っちゃおう」

 俺の横で膝をついて覗き込んでたユキカとレナをアカリが押したおす。

 「あッ」

 「キャッ」

 俺の体のいたる所に3人の胸がくっつく。

 「!!」

 「あ、ごめんショウタ」

 「どうだ下川口、いい目覚めだろう」

 起きた…、どうやら部屋のベットじゃなさそうだ…つまり、あれは現実か…


 「あぁ、いい目覚めかな…」

 「あ、あれー、ここは怒るとこなんだけど…」

 「ショウタ?」

 「下川口君?」

 なんか、心配そうにされてる…

 「いや、ちょっと…なんと言うか説明しづらい事がおこって…」

 「なになに?他の女子にナンパされたとか?」

 「え?」

 「え?」

 顔が近い…視線が痛い…


 「ちょっと近いんだけど、なんと言うか…その…抱きつかれた…」

 「な!」

 「ええ!」

 「マジ!?」

 ユキカが立ち上がる!

 「何処にいる、その馬鹿女は!」

 「ちょっと待て、誰かと勘違いしてただけだと思うから怒るなユキカ」

 「怒るなって言われても…」ムスッ

 「で?どの子なんだよ、名前とか聞いた?」

 大月は面白がって周りを見渡している、三原はユキカと同じく怒ってる?

 「名前は聞いてない、でも知ってる」

 「なにそれ?知り合いって事?」

 「それが…」


 サングラスをかけ洋服を着た女性が猛ダッシュでかけてくる。

 「ちょっと!待って、待ってーー!」

 連れらしい、女性の声が聞こえる。

 サングラスの女性はプールサイドで誰かを探している、たぶん俺だろう…

 俺は立ち上がって、女性を見た、向こうも気付いたようだ。

 「あの子?」

 「たぶん」


 その女性、宿毛アキがこっちに走ってくる、ユキカ達の表情が驚きにかわる。

 宿毛アキが、目の前に来て謝った。

 「さっきはホントにゴメンなさい」

 そう言って、頭を下げる。


 「いや、大丈夫。びっくりしたけど」

 「知り合いにスゴく似てて…その、ホントにゴメンなさい」

 「大丈夫、大丈夫。ほら、マネージャーさんが怒ってますよ」

 俺はスーツ姿の女性を指差した、宿毛アキは振り返り、もう一度俺を見た。

 「あ、あの、えっと、あ!名前!名前を教えて下さい!」

 名前くらいならユキカ怒らないよな…

 チラッっとユキカを見る、まだ驚いて硬直している。

 「下川口ショウタです」

 「しもかわぐち…しょうた…さん…」

 宿毛アキが顔をあげる。

 「ショウタ…さん?」

 「はい…」

 笑顔が弾ける。

 「ショウタさん、また会えると嬉しいです」

 そう言って、マネージャーの方に走って帰った、気付いたファンに手をふる。


 「今のアキちゃんだよね…」

 「たぶんそうかな」

 「アキちゃん目の前にいましたね…」

 「いたね」

 「近くで見ても、めっちゃ可愛いな…」

 「そうだね」


 3人の顔が集中する。

 「なんで?ちゃんと説明して!」

 「なぜ??ちゃんと説明して下さい!」

 「ナンパ?しちゃったの?」

 同時に話すな、大月は黙れ!!


 ************************


 あの後も電車の中まで宿毛アキとの関係を尋問されたが…わからないものは答えられるはずがない…、そんな状態、しかも少し昼寝したので夜眠れる訳がなく俺はネトゲを始めた、夜風が気持ちいい。


 時間も遅いってのもあるが、ギルドのみんなは誰もいないようなので、フィーシア湖で釣りをする事にした、戦士にジョブチェンジすれば、この辺りのモンスターは一撃なので問題ないだろう。


 釣りっていいなぁ…

 

 小学生の頃、親父に連れてってもらった事はある、何匹か釣れて嬉しかったが、釣れなくなると飽きて近くの岩場で遊んでたっけ、こんなむちゃくちゃな日はボーッと釣りしてるのは悪くない、釣れなくても…


 〉となり、いいですか?

 〉どうぞ。


 釣り客が増えた、と言うより精霊待ちの人達かな?夕暮れまでまだかなりじかんがあるのに…それまでみんなで釣りかな?ま、現実と違って釣り客増えたら魚が減るって事無さそうなんでいいか。

 今日は川魚がけっこう連れるな、これが以外にいい値段で売れるんで好きだ…


 夕方になってきた…

 湖面が揺れるので、釣りはちょっと休憩にするか。

 あの日の夕日、湖面が赤く染まり…


 今日は普通の夕日だな、綺麗だけど。


 夕日が沈んだ、精霊待ちの人達が帰って行く、ダメだったのかな?イベントの発生条件て結局なんだったんだろ?


 ふと、後ろに視線を向ける…斜め後ろに座ってる人がいる、静かなんでまったく気がつかなかったけど…


 「え?サンセット?」

 あの、エルフのサンセットが座っていた。


 「こんばんは」

 「びっくりした、いるなら声をかけてくれればいいのに」

 「なんか考え事してるみたいだったから、後ろで邪魔しないようにしてました」

 「いつから?」

 「となり、いいですか?って言ったときから…」

 「ずいぶん前じゃん!」

 「問題なしです♪」

 なんだろ、ホントにいい子なんだよなサンセットって…


 「こんな深夜にどうしたんですか?」

 「うーん、今日はいろいろありすぎて、なんか眠れない状態なんだ」

 「そうなんですか、何があったかすごく気になりますが、話してくれるまで待つことにします」

 「ありがと、サンセットはこんな深夜にどうしたの?」

 あ、もしかしていつもこんな時間にゲームやってるのかな、上級者は違うなぁ…

 「私は今日とてもいい事があって、眠れません♪」

 「いい事?」

 「はい、いい事です」

 「そっかー、いい事かぁ」

 俺のもいい事だな、あんな美人に抱きつかれたんだから、他にもいろいろいい事があったし

 「よし!俺もいい事があった!」

 「え?」

 「って考える事にした!」

 「はい♪」

 なんか、いろいろ考えても答えが出ないんだったら考えない。答えが無い問題もある。

 「サンセットって、なんか元気をくれるよね」

 「そうですか?私はショウタに元気をもらってます」

 「俺、なんかしたっけ?」

 「ううん、違うんです。最近疲れがたまっちゃって、今日の仕事もちょっと…な感じだったんですが…」

 なんか、リアルの話を普通にしてくれる様になっちゃったな、


 「ん?」

 「もしかしたら近くでショウタが見てるかも?って思ったらパワー全開になって、仕事は大成功でした♪」

 「俺にそんな千里眼的な魔法の力はないよ」

 仕事が成功したのが、眠れないほどのいい事なのかな?どっちかと言うと、あの知り合いに会えたって方がしっくりくるけど…

 「魔法ってみんな使ってるんですよ」

 「魔法?」

 「逢いたいって魔法をかけると、偶然って結果が返って来ます、よくある話です♪」

 やっぱり、知り合いに会えたのかな?それとも俺に?

 「そっか、もしかしたら俺、偶然サンセットに会ってるかもしれないね」

 「ですね♪」

 「あ、そうしたら目の前であいつとのバトルを見るって事か…」

 「リッカさんも加わってスゴい事になりますね(笑)」

 「笑えません!」

 「あはは♪」


 ユキカが俺の彼女、サンセットはゲームとしてのフレンド…、ユキカはゲームにいない(サンセットはいると言ってるけど)単純な事を複雑にしてるのは俺の方か…

 「今度の日曜は二人で花火大会に行きましょう♪」

 「え?花火大会?どこの?」

 「やったー、ショウタはリアルの花火大会に一緒に行ってくれるんですか?」

 「え?え?」

 「ネトゲにも花火大会あるんですよ」

 「そうなの?」

 「あ、でもリアルの花火大会でもいいですよ♪オフ会が花火大会なんてね」


 花火大会をサンセット本人と…、いかんだろ完全に浮気だろそれは…

 それにオフ会って?ON、OFFのオフ?休む会って事かな?

 「ありがとうショウタ、なんだか眠れそうです」

 「うん、おやすみ」

 「じゃ、花火大会で♪」

 日曜に花火大会か…

 

 あ!叶崎花火大会、今週の日曜だった!


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